ID:2BcYWkhw0氏:こなたの旅(ページ1)

これは つかさの旅の終わり ひよりの旅の続編です。


 レストランかえでが引越ししてから十年が過ぎた。
つかさ、かがみ……いのりさん、まつりさん……そしてひよりとゆーちゃん
お稲荷さんとの一件は四姉妹と結ばれることで終わった……

 終わった……本当に終わったの。
私にはいまひとつ釈然としないものを感じていた。何かは分からないけど、このままでは終わらないようなそんな気がして成らなかった。
私自身もこの件に絡んだせいなのかもしれない。確かにあの頃はワクワクしていた。面白かった。楽しかった。
ゲームの様な感覚が現実に起こった

……もしかしたらそんな思いが再び起こるのを心の奥底で望んでいただけなのかもしれない。


あやの「おはよう」
こなた「おはよ~」
あやのが私をじっと見ている。
こなた「顔に何か付いてる?」
あやの「うんん、最近ノリが悪いな……なんてね」
こなた「いやいや、いたって普通だよ……でもね~」
あやの「でもね?」
首を傾げて言い返してきた。
こなた「最近刺激がなくて、張り合いがなくなってきた」
あやのは目を上に向けて少し考えた。
あやの「そうかな、かえで店長が結婚してからお客様も増えたし、忙しくなってきたし……新メニューも続々と……」
こなた「うんん、仕事じゃなくてね……なんか物足りないと言うのか……なんだろうね……分からない」
あやの「なんだろうねって言われても本人が分からないのに私が分かるわけないじゃない?」
こなた「ふふ、そうだった、もうこの話は止めよう、着替えてくるね」
私は更衣室に向かおうとした。
あやの「ちょっと待って、最近ひーちゃんのお店行っていないでしょ、すぐ隣なんだしたまに覗きにでもいってみたら、ひーちゃん淋しがっていたよ」
あやのは最近になってコーヒーや紅茶の淹れ方をつかさの店にレクチャーしに行っている。
仕事が忙しくなってから、いや、そんなのは理由にならないか、演奏会が終わってからつかさには会っていない。
こなた「そうなんだ、今日、仕事が終わったら行ってみるよ」
『ガチャッ!』
更衣室からかえでさんが出てきた。
かえで「おはよう、今日も気合入れていくわよ!!」
こなた「そんな毎日気合入れていたら身が持たないよ~」
かえでさんは私を睨みつけた。
かえで「こなたは最近マンネリ化しているわよ、明日までに新しい企画を考えてくるように」
こなた「学生じゃあるまいし、宿題はお断りしますよ~」
私はそのまま更衣室に向かった。
かえで「相変わらずね……こなたは……」
あやのはクスクスと笑っていた。

更衣室で着替えながら考えた。
店長は結婚してからテンションが上がりまくっている。振られる身にもなって欲しいよ、まったく……
新しい企画か……
ホール長としてじゃなくてたまには料理の企画もしてみたいな……そうだ、つかさに相談してみるか。
今日は早番、仕事は夕方には終わる……


 仕事が終わり店の外に出ると直ぐ隣につかさの店はある。実家に戻ってからはつかさと同居はしていない。つかさに会うのは久しぶりだな。
夕方になるとスィーツを買い求めてくる客で賑わってくる。私が入っても大丈夫かな。
窓から店内の様子を見る。席は空いているようだ。私はつかさの店の扉を開けた。
ひろし「いらしゃいま………なんだ、お前か……」
私の顔を見るなり態度が変わった。ひろしは私を毛嫌いしているようだ。あの時、キスを邪魔したのをよほど根に持っているのだろうか。
こなた「今日はお客としてきたのに……その態度はないよ?」
ひろし「……いらっしゃいませ、奥にどうぞ」
感情がはいっていない。棒読みだ。
つかさ「こら、ダメじゃない、知り合いでもお客さんだよ……ごめんね」
私に気付いたつかさが厨房から出てきた。
こなた「うんん、別に構わないよ……」
つかさ「今度はちゃんと言って聞かせるから」
つかさはひろしを睨みつけた。するとひろしは肩をつぼめて私を席に案内した。
へぇ~つかさの方が強いのか……まぁそれだけ仲がいいって事なのかな。
つかさ「今日の分がもう少しで全部できるかちょっと待っていてね、そうすれば時間空くから」
つかさは忙しそうに厨房に戻って行った。

ひろし「どうぞ……」
注文もしていないのにコーヒーとケーキを持って来た。
こなた「頼んでいないよ?」
ひより「店長……つかさから、食べて待ってろってさ」
こなた「ありがとう」
ひろしはカウンターへ無愛想に戻って行った。
コーヒーを一口……この味は……スィーツに合う様に少し濃い目……それにコーヒーの温度……熱くもなく、温くもなく……丁度良い。
あやのの淹れるコーヒーと同じだった。なるほどね……スィーツは売れるけど喫茶店としては客が少ないのを気にしてあやのの技術を取り入れたのか……
ジャンルが違う店だからってこっちもうかうかして居られないか……
それにコーヒーを淹れたのはひろしか……

 ケーキを食べ終わる頃だったつかさが私の席に来た。私服に着替えている。仕事が終わったのか。
つかさ「おまたせ~」
こなた「仕事はいいの?」
つかさ「うん、もう明日の仕込みも終わったし、あとはスタッフにお任せだよ」
こなた「そう……」
ひろしがつかさにコーヒーとケーキを持って来た。でもケーキはこの店では売られていないものだった。
つかさ「ふふ、試作品なんだけど、食べてみる?」
私は返事をしていないけどつかさはフォークでケーキを半分にして私の食べ終わった皿にケーキを乗せた。
こなた「繁盛してるのに、研究熱心だね……」
つかさ「かえでさんの助言だよ、研究を怠るなって」
こなた「それはそれは……」
気のない受け答えをしてしまった。そして、徐にケーキを口に入れた。
こなた「……美味しい……マンゴーがアクセントになってる」
つかさ「ありがとう……それよりこなちゃん」
急につかさの顔が険しくなった。私は身構えた。急にどうしたの言うのか。
つかさ「なんで最近来てくれないの、かえでさん、あやちゃん、ゆきちゃん、お姉ちゃん達、ひよりちゃんやゆたかちゃんまでよく来てくれるに……」
別に特段の理由はない……敢えて言えば……
私は人差し指を立ててつかさの目の前に出した。
こなた・ひろし「だって、ゴールデンタイムのアニメに間に合わないじゃん……」
私の真後ろで全く同じタイミングだった。ひろしはニヤリと笑うとまたカウンターの方に行ってしまった。
つかさ「あははは、こなちゃん、相変わらずだね……でもね、さっきのはお稲荷さんの力を使わなくても……」
こなた「どうせ私は単純ですよ~」
少しすねた表情をみせるとつかさは大笑いをした。
こなた「どうもひろしと居ると調子狂うな~ 人間になってもお稲荷さんの力は無くならないのか……」
つかさ「うんん、徐々にだけどど力は弱くなっていくって……」
つかさの顔が悲しそうになった。
こなた「ご、ごめん、人間になったのはつかさが望んだわけじゃなかった……」
つかさ「うんん、これで良かったと思う……」
お稲荷さんの話しをするのはこのくらいにしておこうか。どのみちかがみと会っても同じような話しになる。
「こんにちは~」
話題を変えようとした時だった。店のドアから女の子が入ってきてつかさの所に近寄った。
女の子「お母さん、一緒に帰ろう」
すこし遅れて店のドアからみきさんが入ってきた。私と目が合うとみきさんは会釈をした。わたしも座ったまま会釈をした。
女の子はつかさの子供。小学2年生になった。名前はまなみ……
つかさ「今日は私の友達と会っているからおばあちゃんと先に帰って……」
まなみ「あ、泉のお姉ちゃんだ、こんどまたゲームを一緒にしようね」
こなた「あ、うん、容赦しないからね」
つかさの子供は私をお姉ちゃんと呼んでくれる、それに引き換えかがみの子供は……おばさんだもんな……
みきさんはひろしと話している。
こなた「何か約束でもしていたかな、何なら私は帰ってもいいけど……」
つかさ「うんん、別に気にしないで、そんなんじゃないから」
みき「まなみ……帰るよ」
まなみ「は~い それじゃお母さん、泉のお姉ちゃんバイバイ……」
まなみちゃんは私達に手を振るとみきさんと一緒に店を出て行った。
こなた「早いもんだ、もう小学生だよ……」
つかさ「そうだね……」
つかさは店のドアをじっと見ていた。
こなた「まなみって名前はやっぱり真奈美からとったの?」
つかさは黙って頷いた。
つかさ「今、私がこうしているのはみんなまなちゃんのおかげだから……」
こなた「それは私も同じ……直接会っていないけどね」
つかさ「私以外には誰も会っていない、かえでさんでさえ……」
つかさの目が潤み始めた。
 たった数日の出来事だった。その数日がつかさの人生まで変えてしまった。それに影響されてつかさに関わる人物の人生までて変わった。
私の知らない所でひよりとゆたかまで……

つかさは立ち上がりピアノの前に座りあの曲を弾き始めた。亡き王女のためのパヴァーヌ
喫茶店に居る客は動作を止めてつかさの演奏するピアノに耳を傾けた。あの時の演奏会よりも上手くなっている。
弾ける曲はこの曲だけだって言っていた。ピアノが勿体無いと思ったけど定期的にみなみがこの店に来てピアノを演奏する。
この店はレストランかえでとは少し違った方向に向かっているのかもしれない。
演奏が終わると客が一斉に拍手をした。つかさは少し顔を赤くして照れながらお辞儀をした。そして席に戻った。

こなた「曲はよく分からないけど上手くなったのは分かるよ」
つかさ「ありがとう……ところで新作のケーキなんだけど」
こなた「直ぐにでもメニューに加えたら、私的には合格だね」
つかさは立ち上がって喜んだ。
つかさ「早速明日から加えるよ……」
私も立ち上がった。
こなた「それじゃ私は帰るよ」
つかさ「え、もう帰っちゃうの、もう少しゆっくりしていいのに」
こなた「いやいや、仕事が終わったなら早く帰ってまなみちゃんと一緒に居た方がいいよ、私は独り身だから自由だけど、つかさは違うでしょ」
なんて柄にもない事を言ってみたりする。何時に無く淋しそうなつかさだった。
こなた「職場もすぐ隣だし……今度から早番の時は何時も来るから」
私は身支度をした。
つかさ「こなちゃん……」
こなた「ん?」
つかさ「うんん、なんでもない……またね……」
なんだろう、つかさは何かを言いかけたような気がしたけど。途中で話しをやめるなんてつかさらしくないな。
こなた「またね」
その内容を聞いても良かった。聞くべきだった。そう思ったのは家に帰ってからだった。職場が近いから。いつでも会えるから。そんな思いがあったのかもしれない。
でも、実際は会おうとしなければ会えない。今日だって私が会おうと思わなければ会えなかった。
一期一会ってそう言うことなのかな?
おっと、私らしくもない事を考えてしまった。今度会ったら聞いてみよう。
『それじゃ一期一会じゃないだろ』
ふふ、かがみそう言うだろうな。そういえばかがみにも最近会っていない。仕事が忙しいとか言っていたな……そうか。
なるほどね、つかさが淋しがっていたのは私だけじゃない。かがみとも会っていないからか。
仕事に家庭に子育てか……それは忙しいな。
子育ては私にはないからその分余裕がある。だから……
「ふぁ~」
欠伸が出た。
こんな事考えていてもしょうがないや寝よう……


そして数日後の事だった。遅番で出勤してきた私に突然の知らせが耳に入った。
こなた「え……雑誌の取材を受けるの?」
あやのの言葉に驚いた。あやのは頷くだけだった。
こなた「かえで店長が承知したの、どう言う気の変わり様だ」
あやの「私も今朝聞いたばかりだから……」
あやのは私の驚いた表情を見ると戸惑いはじめた。
こなた「取材を受けると客が増えて対応しきれなくなる、料理の質が落ちるから受けないって言っていたのに、最近は口コミで評判は上々のはずだよ、取材なんて要らないよ」
あやの「店長が取材を受けない理由ってそうだったの?」
こなた「うんん、直接聞いた訳じゃない、以前つかさから聞いた」
あやの「何か心境の変化でもあったんじゃないのかな、真相を知りたければ直接聞くしかないね……今事務室に居るから」
こなた「そうする」
私は事務室に向かった。
『コンコン』
ノックをして部屋に入った。
こなた「失礼します」
かえでさんは机に向かって何かの書類に目を通していた。私に気付いていないのか私の方を向かなかった。構わず話しかけた。
こなた「雑誌の取材を受けたって聞きましたけど、本当ですか?」
かえでさんは書類を見ながら答えた。
かえで「あやのから聞いたのか、その通り、来週の土曜日に決まった」
こなた「なぜです、取材拒否はポリシーじゃなかったの?」
かえでさんは書類を机に置いて私の方を向いた。
かえで「こなたは取材拒否については今まで何も言わなかったわね」
こなた「それはそうでしょ、記事を見てお客さんがいっぱい押し寄せたら忙しくてアニメやゲームが出来なくなる……」
かえで「ふふふ、こなたらしい、それで何も言わなかったのか、ふふふ」
しばらく笑った後、立ち上がって私に近づいた。
かえで「取材を受けると言っただけで記事を掲載するかどうかまでは許可していない、記者にはそう言ってあるわよ、それに、断りきれなかった……それだけよ」
こなた「断りきれなかった?」
かえで「確か来週の土曜、こなたは休暇だったわね、取材に参加しても良いわよ、それで、この話しはここまで」
かえでさんはそのまま更衣室に向かった。わたしも更衣室に向かった。
かえでさんが着替えを始めるのを見計らってから話しかけた。
こなた「かえでさん」
かえで「もう取材の話しは終わったはずよ」
少し怒り気味のかえでさん。まだ一度も聞いていなかった。この機会に聞こう。
こなた「いいえ、その話でなくて……」
かえで「なによ、急に改まって……」
私の表情を見てかえでさんは着替えるのを止めた。
こなた「つかさの洋菓子店を出している……かえでさんの夢はパテシエになる事って聞いたけど、独立して洋菓子店を出すのはかえでさんの方じゃなかったのかなって思って……」
かえでさんは一息深呼吸をすると着替えを始めながら話した。
かえで「そうよ、その通り、十年前、この町に引っ越す時にそう思った」
こなた「でも、そうなっていないよ?」
かえでさんは苦笑いをした。
かえで「私はつかさにこの店を全て譲るつもりだった……だけどつかさはそれを断った……それどころか独立したいと言いだした」
つかさに店を譲るつもりって……つかさってそこまで信頼されていたのか。今頃になって驚いてしまった。更にかえでさんの話しは続く。
かえで「つかさは思っていた以上に頑固ね、結局私が折れたわよ……それでつかさは洋菓子店を開いた、それも私の店の隣に……私の店もスィーツを出していると言うのに、
    これは私に対する挑戦よ……」
かえでさんは少し興奮気味だった。
こなた「ふふ、かえでさん、つかさにそんな意図はないよ、つかさはただ私達と一緒に居たいから……」
かえで「だから余計に頭に来るのよ、こっちは本気になっているのに、向こうはその気すらない……新作のケーキを出しているのにつかさの店の方が流行ってる」
なんだ、かえでさんはつかさに嫉妬している。こんなかえでさんを見たのは初めてだ。
こなた「まぁ、スィーツに関していえばつかさに勝てないでしょうね」
かえで「な、なにぃ!!」
かえでさんは私に襲い掛かるような勢いで近づいた。
こなた「だってみゆきさんでも未に作れないお稲荷さんの秘薬を料理の技術だけで作ったのだからね、誰でも出来るとは思わない」
かえでさんは立ち止まった。
こなた「それにつかさはかえでさんを今でも師匠として慕っている、この前会った時も、かえでさんの言い付けを守っていたよ、これもなかなか出来ることじゃないよね」
かえでさんは立ち止まった。
かえで「……そうね……」
かえでさんはまた着替えを始めた。そして私も着替えた。
かえで「こなた、あんたも変わったわね」
こなた「へ?」
かえで「十年前ならそんな話しなんかしなかった、仕事以外の事もしなかったわよね……今になってはこなたを目当てにくる客もいる、あやのをスカウトしたのも
    正解だった、コーヒーや紅茶のレベルが数段上がったわ……」
こなた「いやいや、そんなに褒めても何もでませんよ……」
かえで「……そうやってすぐ調子にのる所は変わらんな」
こなた「ははは……」
着替え終わったかえでさんが立っていた。料理長にしてレストランかえでの店長……コックの制服が映えてカッコいい……
かえで「さて、今日も頑張るわよ」
こなた「ほ~い」
かえで「その気が抜ける返事は止めなさい」
かえでさんは更衣室を出て行った。

 かえでさんはつかさに嫉妬していた。いや、ライバルだと思っている。これは逆に言うとつかさを対等の立場と認めているって事。
まさかあのつかさがね~
かがみもそれを幼い頃から知っていたからこそ学生時代は優等生でいなければならなかった……今になってそれが分かった……

 それにしても何故急にかえでさんは取材を受け入れたのだろう。つかさに対抗して……いや、そんな感じではなかった。あやのの言うように心境の変化なのだろうか。
結婚すると考え方も変わるって聞くけど……考えてもしょうがないか。
まぁいいや、さてと仕事、仕事っと……

 今日は私が最終退出者となった。いつものようにチェックシートに記入していた。
こなた「ガスの元栓OK、戸締りOK……っと」
最後に従業員用出入り口の扉を閉めて……
『ガチャ!!』
鍵の閉まる音、そしてノブを回して開かないのを確認。
これでやっと帰れる。
外は人通りも少なく夜も更けている。今日はちょっと遅かったな。
自分の車が停めてある駐車場に向かった。

 自分の車のドアを開けようとした時だった。
こなた「ん?」
駐車場に停めてある向かい側の車の陰から何かが出てくるのが見えた。街灯と街灯の間で暗くて見えない。小さい……犬?
いや野良犬は最近見ていない。狸かな……私は車の陰に隠れて小さな物を目で追った。
小さい物は駐車場の出口に動いたそして街灯の光が小さい物を照らし出す……
あれは……狐……そう狐だ間違いない。こんな町に狐……狸なら何度も見た事はある。だけど狐なんて……ま、まさかお稲荷さん……
狐は辺りをきょろきょろ見回して警戒している様にみえる。私は車に乗るのを止めてゆっくり音を立てないように移動した。

 お稲荷さんは柊四姉妹の夫になった四人を除いて全て故郷の星に帰った。そしてその残った者も全て人間になったはず。
つまり狐になれるお稲荷さんはこの地球には居ない。それじゃあそこに居る狐は何者。野生の狐が迷い込んだのか。いや。
引越しする前の町ならそれは在り得た。だけど此処はまがりなりにも都市郊外……だよね?
狐はゆっくり駐車場を出た。私もゆっくりその後を追った。狐は私の来た道を戻っていく……どこに行くつもりだろう。そして暫く付いて行くと狐は立ち止まった。
私は透かさず電信柱の陰に隠れた。狐は振り向いて私の隠れている電子柱の方を向いた。しまった、バレてしまったか?
狐は私の隠れている電信柱をじっと見ている。どうしよう。このまま駐車場に戻るか。
まてよ、もしあの狐が野生なら私が出て行けば逃げる。もしお稲荷さんなら何か別の反応をするかもしれない。私は電信柱の陰から出た。
こなた「や、やぁ」
狐は私と目が合うと後ろを向いて走り出した。
こなた「待って、お、お稲荷さんなんでしょ?」
狐は一瞬立ち止まったかと思うと直ぐに駆け出し暗闇に消えて行った。
この反応は……私の声に答えようとして止まったとも思えるし、声に驚いて止まったとも思える……微妙だ。暗くてよく見えなかったけどただの野犬なのかもしれないな……
こんな所で時間を食ってしまった。早く駐車場に戻るか……あれ、此処は……

 気付くと私はつかさの店『洋菓子店つかさ』の目の前に立っていた……これって
偶然なのかそれとも……地球に残った五人目のお稲荷さん……
久しぶりに昔の興奮が蘇ってきた。

『こなたの旅』



つかさ「こなちゃん?」
突然、後ろからつかさの声、私は振り向いた。
こなた「つ、つかさ」
つかさ「どうしたの、そんな驚いた顔をして」
不思議そうに私の顔を見ている。
こなた「い、いや、さっきそこに……」
私はお稲荷さんが居た所を指差した。つかさは私の指の先を見た。
つかさ「そこに……何があるの?」
つかさは私の前に出て見回した。
こなた「きつね、狐だよ……」
つかさ「きつね?」
私は頷いた。
つかさ「……ふふ、こなちゃんったら、それは野良犬だよ」
つかさはクスリと笑う。
こなた「い、いや、野良犬じゃない、あの姿は間違えなく……」
つかさ「この町の自治会通信見なかったの、最近この町を徘徊している野良犬がいるからゴミ箱の管理をちゃんとしなさいって」
こなた「自治会……」
そういえば、かえでさんが朝礼でそんな事を言っていたっけ。野良犬対策でゴミ箱に鍵を付けたのを思い出した。
つかさ「それよりこんな遅い時間になにをしていたの?」
こなた「私……私は遅番で最終退出者だったから、つかさこそなんでこんな時間に?」
つかさ「私も最終退出者で、最後のゴミ捨てを終えて帰るところ」
お互い帰るところだったのか。
こなた「つかさの車も私と同じ駐車場だったよね」
つかさ「うん」
こなた「それじゃ一緒に帰ろうか」
つかさ「うん」
私達は駐車場にむかった。

 歩きながらつかさが話しかけてきた。
つかさ「ねぇ、こなちゃん、夕方あやちゃんが来てねいろいろ話したのだけど……」
つかさは少し溜めてから再び話した。話し難い内容なのかな。
つかさ「取材を受けるって聞いたのだけど本当なの?」
こなた「本当だよ、あやのが嘘をつくわけないじゃん」
つかさ「……本当なんだ」
つかさは俯いている。そして歩くペースが遅くなった。不服なのだろうか。
こなた「意外だったかな、むしろ遅すぎかもしれない、それにもう取材をしなくても充分知れ渡っているしねその辺りを考慮したんじゃないの?」
つかさ「そんなんじゃなくて……」
こなた「何が言いたいの?」
ハッキリしないつかさの態度にイラついて少し声を強くした。つかさは立ち止まってしまった。
つかさ「かえでさん……私を誘ってくれなかった」
こなた「はぁ?」
つかさ「お店のレイアウトの時、イベントが会った時、新メニューの発表……みんな呼んでくれたのに」
そうか取材に誘ってくれなかったのを気にしていたのか。あやのもそんな事を気にもしていなかったから話してしまったのかな。もちろん私だって。
こなた「別にハブられたわけじゃないと思うけど」
つかさ「こなちゃんもあやちゃんと同じ事を言って……」
ふと出勤した時のかえでさんとのやりとりを思い出した。
こなた「そういえばかえでさんつかさの事を頭にくるって怒ってた」
つかさ「えっ!?」
つかさは今にも泣き出しそうな顔になった。
こなた「つかさには敵わない、それなのに隣に店を構えるなんて私に対する挑戦ね……ってね」
つかさ「わ、私はそんなつもりで……」
こなた「そう、つかさにそのつもりがなくても結果的にかえでさんにはそうなってる……つかさは自分の力を過小評価しすぎてからね」
つかさ「私は……何もしていないよ」
こなた「いいや、凄いことをしたよ、かがみを救った、かえでさんも救った、お稲荷さんも救った……そして人類も救った」
つかさは黙ってしまった。
こなた「大袈裟だと思ってるでしょ、少なくともあのままだったらたかしってお稲荷さんが暴走してとんでもない事になっていた、日本が消し飛んでいたかも」
つかさ「そ、そうかな……」
こなた「もうつかさ自身が自分で考えて行動しても良いと思う、誘われなかったから自分から聞けばいいじゃん」
私は歩き始めた。つかさもゆっくり付いてきた。
つかさ「で、でも、私はまなちゃんを救えなかった……」
これか、これがつかさに自信を失わせているのは。真奈美……これはどうする事もできない。お稲荷さんの話しをしたのがまずかったか。
こなた「それともう一つ……私もつかさに救われたその一人、あの時誘ってくれなかったらニート街道マッシグラだったよ」
つかさは立ち止まり私をじっと見つめた。私も立ち止まった。
こなた「さぁさぁ、もうそんな顔しないで、家に帰れば可愛い娘と愛する夫が居るんでしょ、早く帰ってあげないと」
つかさ「そうだね、早く帰らないと……ふふ、ありがとう、こなちゃん」
つかさは微笑むと早歩きで私を追い越して駐車場に向かった。やれやれ、この辺りはまったく変わっていないな~
つかさ「こなちゃん、早く~」
こなた「ほいほい」
私も足早につかさを追った。駐車場で別れるとそれぞれの車に乗りそれぞれの家路に向かった。

 つかさは未だ真奈美を救えなかった事を後悔している。あれはどうする事もできなかった。誰もがあの場面に遭遇しても結果は同じだった。皆がそう言っている。
私もそう思っている。そもそもつかさでなかったら真奈美に殺されていたかもしれない。あの時あの場面でつかさでなければ今はなかった……
信号が赤になって車を止める。ふと我に返った。
私ったら何を考えている。もうこんな話は昔から何度もしてきたじゃないか。もう考える余地なんかない。でも何故考えている。
何故って……そう、つかさは即答で否定した。私が狐を見たと言って直ぐに違うって言った。これは昔のつかさなら在りえなかった。
『え、本当、きっとお稲荷さんだよ』って言うと思った。私自身それを期待していたのかもしれない。でも実際は違った。リアルとバーチャルを行ったり来たりして遊んでいる私と
結婚、子育て、店の経営とリアルを生きているつかさの違いなのか。それともつかさは何かを隠しているのか……
こなた「ふ、ふふふ……」
信号が青になり車を進めた。
笑っちゃうね、それこそつかさらしくないや。つかさが隠し事なんて。それにもしあの時見付けたのがお稲荷さんなら……
そう、四人の元お稲荷さんがとっくに気付いている。私が見間違えた。なんだかもやもやしていたのが晴れた。さて……帰って寝よう……

 そして数日後……
その取材の日が来た、私は休暇だったけどこれと言って用事もなかったので参加することにした。時間は午後1時、場所はレストランかえでの応接間。予約のお客様も
時折使う部屋だ。初めての取材……と言っていたが。取材という言葉だけで言えば初めてではなかった。
ひよりとゆたかが一度だけこのレストランの取材をしている。その時私とかがみも参加している。でもこれは店の紹介の取材じゃない。漫画を描くための取材だった。
商業用ではなくあくまで個人出版で出す。つまりコミケで少数出版する程度の作品の取材だ。これはかえでさんも快く受けてくれた。
でも今回は雑誌の記者が直々に出向く取材。一言一言が雑誌の記事に成りかねない。そしてその記事がどう評価されるかも未知数。スタッフ一同も緊張と不安で一杯だ。
もちろんかえでさんも例外ではない。取材を受けるのはかえでさん。そして副店長のあやの。見学でホール長の私。
こなた「スーツ姿のかえでさんも良いね……」
かえで「10年前のスーツだけど……なんとか着れたわ」
こなた「10年前……そんな昔?」
かえで「そうよ、あれは確かワールドホテルに呼ばれた時に……」
こなた「あぁ、あの時に着てたんだ……」
私は時計を見た。
あやの「まだ時間にはなっていないけど、どうしたの?」
こなた「い、いやね、つかさは来ないのかなって……」
かえでさんの顔が険しくなった。
かえで「あやの、彼女には言わないでって言ったのに」
あやの「ごめなさい、つい弾みで……」
こなた「え、何々」
あやのが珍しく謝っている。かえでさんは溜め息をつくと私の方を向いた。
かえで「昨日つかさから取材に参加したいって連絡が来た」
お、つかさが私の言うように自分から行動した。
こなた「つかさから聞いてくるなんて、よっぽど参加したかったんだね、早くしないと始まっちゃうよ」
かえで「いや、断った、来る必要はない」
こなた「断ったって、この店を出た時間の方がながいかもしれないけど、ちょっとそれは酷くない?」
かえでさんの表情がさらに険しくなった。
かえで「こなた、これは遊びじゃないのよ、内輪で和気藹々なんていかない、来られても迷惑なだけ」
こなた「う……う」
何時に無く厳しい態度だった。私がミスや間違いをしてもそこまで厳しくした事ないのに。その気迫に圧倒されて何も言えなかった。それだけこの取材に力を入れているって事なのか?
かえで「あやの、こなた、取材の応答は全て私がするからそのつもりで」
こなた・あやの「は、はい」
私とあやのは顔を見合わせた。あやのも私と同じ気持ちだだろう。かえでさんの緊張感が私達にも伝わってきた。

「店長、お客様がお見えです」
店内のインターホンから連絡が来た。時間ピッタリ午後1時だった。
かえで「応接間に通して」
私達は定位置に着いた。暫くするとドアがノックされた。
かえで「どうぞ」
ドアが開いた。
「失礼します」
部屋に入ってきたのは女性だった。女性記者なのだろうか。歳は二十歳代後半位か……髪は長く下ろしている。
彼女は鞄から名刺入れを取り出した。
「私、〇〇雑誌編集部の神埼あやめともうします」
神崎さんはかえでさんに名刺を渡した。かえでさんも神崎さんに名刺を渡した。
かえで「レストランかえで店長、田中かえでです」
そうそう、かえでさんは結婚したから名前が変わったのだった。二人は名刺交換すると席に着いた。そしてあやのの淹れたコーヒーを私が二人に持っていった。
こなた「どうぞ」
私は二人の前にコーヒーを置いた。
あやめ「お構いなく」
私は一礼して低位置に戻った。神崎さんは私達の方を見ている。
かえで「二人は私の店のスタッフです、副店長の日下部あやの、コーヒーを持って来たのがホール長の泉こなた」
私とあやのは神崎さんにお辞儀をした。神崎さんも私達に礼をした。
なんだろう。この人、どこかで見た事あるような……初めて会った感じがしない。何故だろう。
あやめ「取材は初めてと聞いています、どうぞ気を楽にして下さい」
かえで「そ、そう出来れば良いのですが……」
わぁ、かえでさんガチガチに緊張している。神崎さんがそう言うのも分かる。
かえで「それでは早速取材に入らせてもらいます、連絡した様に私はある事件の真相を調べるために取材をしてきました」
え、え、え、お店の取材じゃないの……どうして……私は自分の耳を疑った。あやのも少し驚いている。
かえで「はい、それは聞いています、ですが私達の店と何の関係があるのでしょうか、さっぱり検討がつきません、それに十年前の事件だけでは分かりません」
神崎さんは鞄から何か取り出し机の中央に置いた。あれは……ボイスレコーダー……
あやめ「十年前で分かると思ったのだけど……正確に言うと十一年前の9月〇日、旧ワールドホテル会長、柊けいこ、同秘書、木村めぐみ連続失踪事件……これだけ言えば分かるかしら」
かえで「それは知っています……」
あやめ「それは良かった、ワールドホテル会長の巨額脱税事件の取調べのため拘置所に拘留されていた二人が同じ日、同じ時間に何の痕跡も残さずに失踪した」
かえで「……当時大々的に報道されてましたね、未だに二人は見つからない様ですね」
神崎さんは鞄からファイルを数冊取り出すと広げて見せた。そこには彼女が取材したメモや写真、新聞や雑誌の記事の切り貼りがあった。かなり調べている。
あやめ「巨額脱税とは言え、有罪になったとしても抗わなければ大した刑にはならなかったはず、拘置所脱走という大きなリスクを冒してまで何故二人は失踪したのか、
    特に柊けいこはかなりの高齢、今生きていたとしたら90歳は超えている……見つからないのが不思議……そう思いませんか?」
かえで「……前置きはその位で、何が言いたいのですか?」
神崎さんはニヤリと笑った。
あやめ「私は二人が失踪前後に交流した人を取材して彼女達の足取りを追っているのです、確かこの店はホテルの店として出店契約を結んだ筈です」
この雰囲気、ボイスレコーダーを置く所、誰かに似ていると思ったけど、昔のひよりに似ているような気がする。容姿や話し方ではなく雰囲気が……そんな気がした。
かえで「確かに出店契約をしましたが白紙にしたはずです……彼女とはそれに関する事意外は話していませんが」
あやめ「そうでしょうか、レストランかえで……何故か日本全国数箇所で何度か会合をしていますね、逮捕前には本社で、この当時何店か同じ契約をしている記録があるのですが、
    貴女の店は圧倒的に会合回数が多い……何か特別な契約でも結ぶつもりだったのでは?」
あの会合はつかさ達とお稲荷さんとの会合だ。そんな記録が残っていたなんて……突然な出来事でめぐみさんは情報を消しきれなかったのかもしれない。
会合内容までは知られていない、知られていたら大変な事になっていた。
かえで「……移転前の店の土地が買収されてしまい、それについて協議していただけです」
あやめ「その土地とは名前もない神社じゃないですか、その神社は現在町の私有財産になっていますね」
この人……なんだろう。鋭い……
かえで「……そうです」
あやめ「大企業が小さな店に対してこれほど優遇するなんて、よっぽど何かがなければしない……どんな魔法をつかったのです?」
この人……神社の事まで調べている……かえでさんが応答は全て自分でするって言ってた意味がやっと分かった。下手な事は言えない……
かえで「魔法……ふふ、そんな物使っていません、店の料理が全てです……あやの、こなた、彼女にコース料理を」
こなた・あやの「は、はい……」
私達は応接室を出て厨房に移動した。そしてコース料理をオーダした。

あやの「私、お店の紹介の取材だと思っていた……」
あやのが少し震えている。
こなた「まるで取り調べみたいだった……さすがかえでさんしっかり受け答えしていたね」
あやの「ひいちゃんが来ていたら大変な事に成っていたかも」
そうか、かえでさんがつかさを来させなかったのはこの為か、つかさならお稲荷さんの話しをしてしまうかもしれない。
こなた「つかさもそうかもしれないけど私だったらおどおどして何も話せない」
あやの「そうだね……」
それにしても神埼あやめとか言う人。なんであの事件を調べているのだろうか。二人が消えた理由を知らない人にとってはミステリーなのは分かる。
でも、誰かが傷付いた訳じゃないし、亡くなった訳でもない。強いて言えばワールドホテルが買収された事くらい。それでワールドホテルの従業員が解雇されたとかって話しも
聞いていない。わかんないな~
かがみの法律事務所に何人か訪問したって話は聞いたけど、この店にまで取材に来た人はあの人が初めてだ。
あやの「泉ちゃん、料理が出来たから持って行って、私は紅茶を淹れて持っていくから」
考えても始まらないか。今はかえでさんに任すしかない。
こなた「OK、持って行く」
私は神崎さんとかえでさんの料理を持って応接室に戻った。

こなた「どうぞ……」
神崎さんの目の前に料理を置いた。すると神崎さんは机に置いてあったボイスレコーダーを鞄に入れ、その替わりにスマホを取り出して目の前の料理を撮り始めた。
あやめ「ふ~ん、私に料理の評価をさせようって魂胆ね、ワールドホテル会長に見込まれた味ってのを見せてもらいましょう」
神崎さんはスマホを机に置くとフォークとナイフを取った。
こなた「今日はロースとビーフの特製ソースです……」
神崎さんは料理を口に入れた。
あやめ「……なるほどね……」
そう言うと黙々と食事をし始めた。
かえで「あの事件に関しては先ほど話した事以外は知りません、それにこの店は食事を楽しむ所、料理の話題にして頂ければ幸いです」
あやめさんは食事を止めかえでさんをじっと見た。
あやめ「貴女、本当に取材を受けるの初めてなの……十年も前の話し、記憶だって曖昧になるし、緊張だってするでしょうに」
かえで「初めてです、それに、私達の料理を公に認めてくれた人ですから、忘れられる訳ないじゃないですか」
かえでさんは微笑んだ。
あやめ「それは、元会長、柊けいこの事を言っているの?」
かえでさんは頷いた。
あやめ「彼女は罪を犯した人ですよ、しかも逃げ出してしまった卑怯者」
かえで「全てにおいて完璧な人など居ませんよ……」
あやめ「……あの会長を悪く言わないなんて、貿易会社の取材と随分食い違う……これは収穫かもしれない……」
神崎さんは食事を再び撮り始めた。そしてかえでさんも食事をした。
かえで「質問されてばかりだから今度は私からの質問、失踪事件を何故調べているのですか?」
あやめ「何故……何故って……」
神崎さんは暫く考えている様子だった。
あやめ「貴女達が料理を作るように私は記事を書くのが仕事、そして真実を追い続けるのが宿命」
かえで「真実……」
かえでさんはポツリと復唱してそのまま用意した料理を口にした。
そして暫く時間が経つとあやのが入ってきて紅茶を二人の前に置いた。
あやめ「今日は挨拶程度って所かしら……なかなか興味をそそる店、料理も気に入ったし……また来ます」
かえで「それはありがとうございます、お客様として来てくださる分には一向に差し支えございません……しかし、先ほどの様な質問をされても我々としては何も申し上げられません」
かえでさんの言う事を聞いているのかいないのか、神崎さんは帰り支度をし始めた。
あやめ「最後に一つ、田中さんは料理を持って来いと言っただけのに何故二人分の料理を持って来たの」
かえでさんとあやのは私の方を見た。それに合わせる様にあやめさんも私を見た。そう、料理を二つ頼んだのは私。
私はかえでさんと目を合わせて発言の許可を取った。かえでさんは頷いた。
こなた「私の判断で二人分持って来ました。理由は……話し合うのに一方だけ食事をしていると何かと話し難いかなと思いまして、お昼、お弁当を食べて一人何も食べていない人が
    居るとそれが気になってお喋りができませんから……」
あやめ「ホール長としての判断と言う事ね……素晴らしい、柊けいこがこの店を気に入った理由が解った様な気がします」
神崎さんは支度を終えると立ち上がると財布を取り出した。
かえで「今回の御代は結構です……」
あやめ「それではお言葉に甘えまして」
かえで「私も最後に、ボイスレコーダーのスイッチが入ったままになっていましたのでお伝えしておきます」
あやめさんはボイスレコーダーの入っている鞄を押さえて少し動揺した表情を見せた。
あやめ「そ、それでは……」
部屋を出ようとしたので私は扉を開けた。神崎さんは逃げるように部屋を出て行った。

神崎さんが部屋を出ると私は扉を閉めた。
かえで「ふぅ~」
かえでさんは深く深呼吸をした。
あやの「取材、お疲れ様でした、でも、取材って店の取材じゃなかったのですね……十年前の事件の取材だなんて」
かえで「そうよ、だから断れなかった、あの手の連中は断れば断る程付きまとうからね」
あやの「最後にボイスレコーダーのスイッチが入っていたって言われましたけど、それがどうかしたのですか?」
かえで「ちょっとけん制しただけよ、こなたが料理を持って来たとき彼女はボイスレコーダーを仕舞った、もう取材は終わった様な素振りを見せて私達を油断させたのよ、
    でも電源は入ったままだから録音はされている、私達の本音を聞き出そうとしたのね」
違う。神崎さんはひよりと似ていない。ひよりはそんな卑怯な手を使わない。
あやの「それも取材のテクニックってものなの?」
かえで「さぁね、私も取材を受けたのは初めてだから何とも言えない、でも彼女はまたやってくるわ、そてとかがみさんも心配ね」
こなた「かがみがが、どうして?」
突然かがみの話が出てきて私は驚いた。
かえで「彼女は柊けいこと木村めぐみと接触していた人物を調べている、こんな店まで調べているのだから、かがみさんの所の法律事務所もターゲットされていているに違いない、
    何せ二人の担当弁護を引き受けたのだから」
こなた「そうかな、でも、あの人の言っている事に間違えがあるよ、失踪した二人の罪状は脱税だけなんて言っていたけど、実際はいろいろな容疑が付いてきてとんでもない事に
    なった、だから、二人を宇宙船で逃がすって決まったじゃん」
かえで「わざと間違えて私達の出方を見ているのかもしれない、どちらにしても侮れないのは確かよ」
こなた「それじゃかがみに今度聞いておく」
かえで「いや、直接私が彼女と話すわ、今後の対策もあるし」
かえでさんは立ち上がった。
かえで「二人ともありがとう、居てくれたおかげで何とか冷静に対処できたと思う、あやのは持ち場に戻っても良いわよ、こなたも良く来てくれた、今日は出勤扱いで良いわ」
こなた・あやの「はい」
私とあやのは部屋を出ようとした。
かえで「こなたは残って、少し話があります」
こなた「え?」
あやのは部屋を出て行った。

こなた「あの、話って何ですか?」
かえでさんは心配そうな顔で私を見た。
かえで「こなたは神崎あやめをどう思う?」
改まった言い方。何故私にそんな事を聞くのだろう。
こなた「初めて会ったばかりで直接話していないから何とも……」
かえで「いや、第一印象でも構わない」
こなた「第一印象……強いて言えばひよりに似ていたような気がするけど、でもそれは私の間違え、ひよりと全然違う」
かえでさんは目を閉じた。
かえで「私もそう思った、性格は別にして感性は似ていると思う、そしてひよりは自分でお稲荷さんの存在に気付いた、これがどう言う意味かわかる?」
こなた「ん~、神崎って人もお稲荷さんに気付いているって言いたいの?」
かえで「いや、そうは思わない、だけど私達と接触していけば何れ気付く、そんな気がする」
こなた「どうかな、でも、そんなにお稲荷さんの秘密を知られるのがまずい事なの?」
かえで「まずいかどうかは彼女が真実をどう捉えるかによるわね、彼女の本心がつかめないわ、それで、彼女の本心が分かるまで彼女からつかさを遠ざけて欲しい」
こなた「遠ざけるって……すぐ隣の店で働いているんですけど……」
かえで「そうね、それが気がかり、あやのやスタッフにも協力してもらうわ、幸いなこ事につかさも取材拒否しているからつかさが私の店の出身とは知られていない、
    そう容易く彼女も調べられないはずよ」
こなた「それで、かえでさんはつかさに取材に来るなって言ったの?」
かえでさんは私から目を逸らした。
かえで「そうよ、ついカっとなって怒鳴ってしまった……理由を話せないから余計にイライラしちゃって」
こなた「あらら、つかさは末っ子で頭ごなしに怒られるのに慣れていないから今頃落ち込んじゃってるよ……」
かえで「だからフォロー頼むわ、こなたから私は怒っている訳じゃないって言ってくれるかな」
こなた「え、私が、かえでさんがすれば良いじゃん」
かえで「取材の内容を知らせずに収める方法を知らないのよ、こなたは学生時代からの親友でしょ、何とか出来るって」
こなた「私だってそれは同じだよ、そんな無茶振り……」
かえで「これは業務命令、くれぐれもつかさに取材の内容は話さないように、以上」
うぁ~やっちゃったよかえでさん、最近無茶振りが多い。これも結婚をしたせいなのかな。
こなた「はいはい、分かりましたよ、失敗しても怒らないで下さいよ」
私は扉に歩いて行った。
かえで「待ちなさい!!」
強い口調だった。私の受け答えが気に入らなかったのかな。私は振り返った。
かえで「さっきまでの話はあやのにも話す、だけど、これから話すのはあやのにも話さない、こなた、つかさよりも気を付けないといけないのは貴女よ」
こなた「私?」
あやのにも話さないってどう言う事なのかな。
かえで「「げんきだま作戦」……忘れたわけではないでしょ」
こなた「げんきだま……」
あれはめぐみさんの技術を応用してお金を集めた作戦だ。なぜそんな事を今頃になって。
かえで「あれは社会システムの盲点を突いた反則行為よ、言わばテロみたいなもの、それも私達では知りえない高度な技術を用いてしまっている、そうよ、お稲荷さんの技術でね」
こなた「反則かもしれないけどそうしなかったらあの神社は守れなかった、かえでさんもつかさも喜んだでしょ、かがみだって何も言わなかったし」
かえで「私が恐れているのはお稲荷さんの存在の知られることじゃない、お稲荷さんの知識と技術の存在が知られるのがまずいのよ、それが世間にしられればどうなるか、
    こなたになら分かるわよね」
それは柊けいこ会長を見れば分かる。私は頷いた。
こなた「それを欲しい人は沢山いるよね……良い人も、悪い人も」
かえで「せっかく残ってくれた四人の幸せが目茶目茶になるわよ、それだけは避けたい」
こなた「げんきだま作戦は十年前に停止しちゃってるからもう誰も分からない、心配ないよ、それに私は意外と口は堅いから」
私はウインクをして親指を立てた。
かえで「私はこなたにげんきだま作戦をさせるべきじゃなかったかもしれない」
珍しく落ち込むかえでさん。
こなた「まるで私が犯罪者みたいな言い方、システムの脆弱を突くのはゲーマーとしての基本だから、集めたお金も私的には使ってないし、私は間違った事をしたとは思ってないから」
かえで「そう……それなら良いわ、ごめんなさい、十年も昔の話しを蒸し返して……」
あんな弱気なかえでさんを見るのは初めてだ。神崎あやめ。彼女がかえでさんを追い詰めたってことなのか。
……相当の食わせ者だ。
こなた「さてと、私はつかさの店に寄ってから帰りますよ」
かえで「あ、あぁ、よろしく、私も仕事に戻らないと……お疲れ様」
こなた「お疲れ様~」

げんきだま作戦か。なんか久しぶりだな。十年前の光景が鮮明に思い出される。
おっと。感傷に浸っているばあじゃない。つかさの店に行かないと。
「泉さん」
突然後ろから聞き覚えるある声……ついさっき聞いたばかりの声だ。
私はゆっくり後ろを向いた。そこには神崎あやめが立っていた。



あやめ「やっぱり」
私が出てくるのを知っているような言い方だった。
あやめ「非番だったんでしょ、だから出てくるのを待ってた」
何故、何故私が今日休みだって知っていた。私は細めで彼女を見た。
あやめ「警戒しちゃって、もうボイスレコーダーのスイッチは切ってあるから安心して」
鞄を軽く叩きながらにっこり微笑む神崎さん。さっきまでの緊迫感とはまるで違う……とても穏やかな笑顔だった。
こなた「何で私が休みだったって……」
あやめ「知っていたか聞きたいんでしょ?」
私の聞きたい事を先に言われた。
あやめ「店を出るとき厨房を覗いてね、壁にシフト表が貼ってあるのを見たら今日は泉さんお休みのマークが付いていた、明日は遅番だった」
あの短い間でそんな所まで見ているなんて。かえでさんが言っていたのは間違えじゃなさそうだ。私じゃ手に負えない。
こなた「すみません、取材は店長にして下さい……」
私は歩き出して彼女を振り切ろうとした。神崎さんは素早く廻り込んで私の目の前に立ちはだかった。私は立ち止まった。
あやめ「まぁまぁ、そう堅い事言わないで、貴女には個人的な話があるの、取材とは関係ない」
こなた「個人的な話し?」
神崎さんは頷いた。取材とは関係ないって言っても信用できない。
こなた「これから用事があるので……」
あやめ「時間は取らせない、30分……いや15分でいいから」
これが取材って言うやつのか。ひよりやゆたかのは全く違う。ねっとりとからみつくようなしつこさ。このままだと家まで付いてきそうな勢いだ。
こなた「10分ならいいよ」
付きまとわれるならさっさと済ましちゃった方がいい。それともこれも彼女の手の内なのかな。でも、神崎さんが何を考えているのか分かるかもしれない。
あやめ「そうこなくっちゃ、それじゃ……」
神崎さんはつかさの店を見ながら話した。
あやめ「あの店で話しましょうか、また戻るのも何だしね、さっきスマホで調べたけど洋菓子店つかさだって、かなり評判はよさそう……ってすぐ隣の店だから泉さんは知ってるか」
こなた「たった10分なのに店に入るの」
あやめ「喫茶店でしょ、10分くらいなら丁度良いじゃない?」
それはまずい。つかさと会わすわけにはいかない。店に戻ってもらうか。
いや待て、ここで変に拒否すればつかさの店が怪しまれるかも。かえでさんに怒鳴られて落ち込んだつかさは家に帰っているかもしれない。
私の知っているつかさならそうするはず。でも結婚やお稲荷さんの件で成長したつかさだったら店に居るかもしれない。どうしよう……今それを確認することは出来ない。
あやめ「どうしたの、時間がないんじゃないの?」
やばい、考えている暇はない。こうなったらつかさの店に行くしかない。お願い、私の知っているつかさで居て……
私は心の中で祈った。そして神崎さんの後に付いて行った。

ひろし「いらっしゃいませ……」
店に入るとひろしが出迎えた。ひよりは神崎さんのすぐ後ろに私が居るのに気が付いた。まずい。彼が私に話しかければ店の関係が神崎さんに分かってしまうかもしれない。
ひろし「こちらへどうぞ」
しかしひろしは私達を普通の客としてテーブルに案内した。こんな事は初めての事だった。ひろしは私達にメニューを渡した。
あやめ「……このケーキとコーヒーを」
神崎さんはこの前つかさが考えた新メニューのケーキを指差した。この人は何の躊躇もなく初めて来た店で新メニューを頼むのか。私ならオーソドックスな物から攻めるけどね。
こなた「私はアイスコーヒーで……」
ひろし「少々お待ち下さい」
ひろしはそのまま厨房の方に向かって行った。助かった。これで私がこの店と関係があるのを知られなくて済んだ。つかさも来ない。いつもなら厨房から飛び出してくるのに。
これは私の思った通り落ち込んで帰ってしまったに違いない。そのおかげで何とかこの急場を凌げた。でもつかさはそれだけ落ち込んでしまっているって事。私に何とかできるかな~

ひろしがオーダしたケーキを持って来た。
あれこれ考え込んでいた。気付くと神崎さんは何も話しをしないで私を観察するようにじっと見ていた。今はこっちの方に集中しないと。
こなた「あ、あの~何か私の顔に付いてます?」
あやめ「ふふ、貴女って歳は幾つなの?」
こなた「な、なんて失礼な!!」
あやめ「失礼なのは分かってる、見た目は高校生くらいかしら、でもお店で身に着けていた制服の着こなし方が少し古さを感じた、三十歳くらい?」
こなた「そんな話しをしにわざわざ私を呼び止めたの」
でもだいたい合っている。この人鋭いな。
あやめ「ごめんなさい、あの店で働いて随分永いように見えたけど、どうなの?」
こなた「その通りだけど……」
あやめ「この業界って人の出入りが激しいって聞いたけど、それでも貴女はあの店で働き続けている、多分廻りのスタッフや副店長さんの……」
こなた「日下部でしょ?」
あやめ「そうそう、日下部さんだった……永く勤められるなんて、店長の田中かえでさんの人柄がこれで分かった」
神崎さんは話しを止めるとコーヒーを飲んで間を空けた。
あやめ「ワールドホテルを潰した貿易会社、憎いとは思わない?」
突然何を言い出すと思ったら。
こなた「憎いも何もないかな、もう十年も昔の事だし……」
あやめ「その十年前、貴女の働く店以外にも同じような契約をした店がいくつもあった、その契約が無効になったせいで閉店しまった所もあるのに?」
こなた「私には関係ないかな」
神崎さんは少しがっかりしたような素振りを見せた。
あやめ「そう、残念、貴女だったら協力してくれると思ったのだけど……」
こなた「え、協力?」
『ピピー』
神崎さんの鞄から音がした。彼女は慌てて鞄をあけて中からスマホを取り出し画面を見た。
あやめ「バカ、まだ早いって言ったのに」
突然帰り支度を始めた。
こなた「どうしたの?」
あやめ「特種を他社に取られそうなの、悪いけど今日は終わりね」
神崎さんは鞄からメモ帳を取り出すと最後の頁を破りペンで何かを書き出した。
あやめ「これ、私のスマホと自宅の電話番号だから、何かあったら連絡して」
テーブルの上に紙を置くと小走りに店のレジの前に移動した。
あやめ「二人分の清算お願い」
ひろしがレジで清算をした。
あやめ「ケーキ、コーヒーとも凄く美味しかった」
ひろし「ありがとうございます」
清算が終わると神崎さんは走って店を出て行った。

 神埼あやめ、全く分からない。けいこさんやめぐみさんを卑怯者呼ばわりしたのに今度は貿易会社を憎くないのかって……彼女の目的は何だろう……
テーブルの上に置かれた紙を財布の中に仕舞った。
ひろし「見かけない顔だった、おまえの友達なのか」
気が付くとひろしが私の直ぐ近くに来ていた。
こなた「うんにゃ、私も今日会ったばかり、雑誌の記者だよ」
ひろし「慌しいやつだったな……友達にしてはおかしいとは思った、そうか、つかさの言う通り、本当に取材をしたのか」
こなた「それよりこんな所で油売ってて良いの、他のお客さんの対応をしなくて……」
辺りを見回すと客は誰一人居なかった。
ひろし「おまえ達が最後のお客様だ、つかさが突然帰るって言い出して、今日はもう終わりにするつもりだ」
こなた「つかさが……帰った……」
ひろし「ああ、あの落ち込み様は初めて見た、おまえの店の店長に一言言いたくて早く閉めることにしたのさ」
少し怒り気味だった。そうりゃそうだよ。つかさを落ち込ませた張本人なのだから。
でも、ひろしには話しておいた方がいいかもしれない。でもそれは私が話すよりかえでさんに話してもらおう。一言言いたいのなら丁度言い。
こなた「話があるなら私も行くけど」
ひろし「そうしてくれると在り難い、どうもあの店長は苦手だ」
こなた「ふ~ん、ひろしにも苦手があるんだ」
ひろし「おまえが一番苦手だ……泉こなた、つかさと親友なのが不思議なくらいだ」
こなた「そりゃどうも……」
こりゃ重症かな。でも嫌われるよりはましかな。もっとも好かれてもこまるからこの位で丁度良いくらいかもね。

 ひろしは早々に店を閉めると私と共にレストランに向かった。
かえでさんはひろしを見ると今までの経緯を話した。
ひろし「けいことめぐみの失踪事件を調べている……だと?」
珍しくひろしは驚いた。
かえで「そうよ、この事件で私の店を取材に来たのは彼女が初めて、かなりのやり手であるのは間違いないわ、だから彼女をつかさに合わせなかった」
こなた「店を出たら私を待ち伏せしてた、つかさの店に行こうって言った時は冷や汗ものだったよ」
かえでさんは私を睨みつけた。
かえで「こなた、別の店に行くとか機転が利かなかったの、もしつかさが居たらどうするのよ!」
こなた「つかさは家に帰ったと思ったから……懸けだったけど……でも思った通りつかさは帰った、後のフォローが大変だけどね」
かえでさんはそれ以上何も言わなかった。
こなた「それにしてもひろしは私を普通の客として扱ってくれた、だから神崎さんはつかさの店とこの店の関係に気付いていない、そっちの方が凄いよ」
ひろし「おまえが妙に緊張して入ってきたからな、すぐにもう一人の客のせいだと解った」
こなた「それもお稲荷さんの力なのかな、それじゃ神崎さんがどんな人なのかも解ったの?」
ひろし「人間になる前なら解ったかもしれないが、どうやらおまえほど単純じゃない」
こなた「……一言多いよ……素直に解らないって言えば良いのに……」
かえでさんはクスリと笑った。ひろしは私からかえでさんに顔を向けた。
ひろし「しかしつかさも軽く見られたものだな……」
かえで「私の対処に不服かしら」
ひろし「あの記者が只者ではないのは分かる、だがそれだけでつかさを除け者にするのはどうかしている、つかさは我々をここまで導いてくれた、それだけじゃない、
    人類も救った、それはおまえが一番知っている筈じゃないのか」
かえで「流石つかさの夫ね良く解ってるじゃない、でもそれは彼女の……神崎さんの意図がわかるまでの間よ、別に永遠に秘密にするつもりはない」
ひろし「それが分からん、説明しろ」
かえでさんは一回溜め息をついてから話し始めた。
かえで「神崎さんは策士よ、話術も巧みだわ、そんな人が話したらたちまちつかさは秘密を話してしまうわよ」
ひろし「話したって構わないじゃないか、どうせ誰も信じない、それに話せさせない用に僕がなんとかする」
かえで「それはどうかしらね、万が一それが真実だと分かった場合一番困るのは貴方達の方よ、それに話させないなんて出来るかしら」
ひろし「出来るさ」
かえで「それじゃあの記者を貴方の義理の兄、すすむさんに合わせてみようかしら」
ひろしは何も言わずかえでさんを見たままになった。
かえで「彼はいのりさんの簡単な誘導尋問に引っ掛かって自分の正体をバラした、そればかりかひよりにかがみさんの病気を話してしまった、さぞかしネタバレするでしょうね」
ひろし「そ、それは親しい人だからそうなった、見ず知らずの人に話す筈はない……」
かえでさんは人差し指をひろしに向けた。
かえで「それよ、それなのよ、つかさは誰とでも親しくなってしまう、だから心の内を直ぐに話すのよ、すすむさんと同じじゃない、だからまだ神崎さん会わす訳にはいかない」
ひろしはガックリと肩を落とした。
ひろし「そ、そうだな……僕も協力しよう……」
かえでさんはホッと胸を撫で下ろした。私は親指を立ててウインクをして『グッジョブ』のポーズを取った。かえでさんは苦笑いをした。
こなた「それじゃ私はつかさをフォローしに行ってくるから」
ひろし「ちょっと待ってくれ、僕も一緒に行こう、店の用事がまだ全て終わっていない少し待っていてくれ」
こなた「OK、待っているよ」
ひろしは店を出て行った。

窓越しからひろしがつかさの店に入って行くのを確認した。
こなた「策士ねぇ~かえでさんも充分策士だと思うけど……すすむさんを引き合いに出すなんて……」
私はボソっと話した。
かえで「策士はあんたの方でしょ、ひろしの説得を私にさせるなんて……」
こなた「まっ、何とかなったから良いじゃん……後はつかさの機嫌がもどればとりあえず落ち着くね」
かえで「すまないわね、お願いするわ」
こなた「もう乗り掛かった船だし、それで、なぜつかさと話さないの」
覚悟を決めたように話すかえでさん。
かえで「私の言う事を聞かなかった、だから怒鳴ってしまった……初めてだった、今の私に彼女にかける言葉はない」
その台詞かがみもこの前言っていた様な気がする。
こなた「基本的にはつかさはつかさだよ、それは年齢とか状況は関係ないと思うけど、現につかさは私の思った通りに落ち込んで帰っちゃった」
かえで「学生の頃と同じって言いたいの……私は初めて会った頃のつかさが懐かしい……でも、そう言い切れるならやっぱりこなたに任せるわ」
つかさの店からひろしが出てきた。
こなた「さてと、それじゃ行って来ます」
かえで「待って……」
こなた「ん?」
私は立ち止まった。
かえで「お稲荷さんの話しはもう無かった事にしたい、他人に知られてはいけない、それだけは分かって欲しい」
こなた「大袈裟だな~この十年間だれも知られてないから平気だよ、これからもずっと、私達がお稲荷さんを受け入れられるようになるまで、そうだったね?」
もっとも受け入れられるようになるまで私達は生きていそうにないけどね。
かえで「そうよ……行ってらっしゃい」
私は店を出た。

 店を出て駐車場に入った時だった。
ひろし「ちょっと待て、僕達が揃って家に帰るのは不自然じゃないのか?」
こなた「ん、何が不自然なの……あぁ、私がひろしと仲良くつかさの前に現れたらそりゃ不自然だね、大丈夫、私、はそんな気は全くないし、つかさは鈍いから分からないよ」
ひろしは呆れ顔になった。
ひろし「バカかおまえは、閉店時間前なのに僕が居たらまずいだろって事だ、つかさには話していないからな」
こなた「……そうだね、それでどうしよう?」
しかしバカは余計だよ、バカは……冗談が通じないな、この辺りはつかさと同じだな。
ひろし「適当に時間をつぶしているからおまえは先に家に行ってつかさの相手をしてくれ」
こなた「あいよ」
私は車に乗り込もうとした。
ひろし「つかさが心配だ、くれぐれも頼む……」
私に「頼む」って言うなんて。
私は軽く返事をすると車に乗り柊家に向かった。

 車を近くの駐車場に停め、柊家の玄関の前に立ち呼び鈴を押そうとした時だった。玄関の扉が開いた。
みき「あら、泉さん?」
こなた「こんにちは……つかさはいますか?」
みきさんが出てきた。そしてすぐにただおさんも出てきた。
みき「つかさなら帰ってきて……」
みきさんとただおさんはとても困った顔をしていた。
みき「帰ってくるなり自分の部屋に入ったまま出て来なくて、もしかしてひろしさんと喧嘩でもしたのかしら……」
みきさんとただおさんは顔を見合わせていた。
こなた「つかさに会えますか?」
みき「どうぞ入って、私達はこれから買い物に出かけてしまうからおもてなしはできないけど……」
こなた「いいえ、お構いなく……」
私は家の中に入ろうとした。
みき「泉さん、つかさをよろしくお願いします……」
こなた「え、あ、はい」
みきさんはつかさの部屋の方を見ながらそう行った。そしてただおさんと駅の方に歩いて行った。
みきさんはつかさを心配している。幾つになってもつかさはみきさんにとって子供なのか……母と子か……羨ましいな……
って、私はこんな気持ちになるために来た訳じゃない。こんな歳になって……
家に入り二階のつかさの部屋に向かった。姉たち三人は全てこの家を出て行った。つかさだけがこの家に残っている。高校時代からつかさの部屋の位置は変わっていない。
かさの部屋の扉が人の入れる位の隙間があって半開きのままになっていた。廊下からつかさの部屋を見た。
カーテンを閉めて薄暗いままの部屋につかさが椅子に座っている。片手に何かを持ってそれをじっと見つめていた。よく見るとそれは木の葉っぱだった。
葉っぱの付け根を摘んで人差し指と親指をゆっくり動かしながら葉っぱをくるくる回転させてそれをじっと見ていた。なんで葉っぱなんか持っているのかな……
それに葉っぱを見つめるつかさの目ががこれまで見た事ないような悲しげな表情をしている。
つかさは私に気付いていない。私は一歩つかさの部屋に入り半開きの扉をノックした。
つかさ「はぅ!!」
音に驚いたつかさは慌てて葉っぱを財布に仕舞い私の方を向いた。
つかさ「こ、こなちゃん!?」
こなた「驚いちゃったかな、私に気付いていなかったみたいだから」
私は窓まで移動してカーテンを開けた。午後の日差しが入ってきてつかさに当たった。つかさは眩しそうに目を細めた。明るくなって気付いた。つかさの目が少し赤い。泣いていたのか。
つかさ「あ、い、いらっしゃい……気付かなかった、お母さんなんで教えてくれなかったのかな……」
こなた「おじさんもおばさんも買い物に出かけたよ、私と入れ替わりにね」
つかさ「そ、そうなんだ……こなちゃん、仕事はどうしたの?」
こなた「今日はおやすみ、つかさの方こそどうしたのさ、お店をほったらかしにして帰っちゃうなんて」
つかさ「う、うん……」
つかさは言葉を詰まらせて項垂れた。
まぁその理由は知っている。だけどつかさは落ち込んでいるからいきなり本題にはいると話し難いな。
こなた「さっき持ってた葉っぱは、何?」
つかさはゆっくり首を上げて私を見た。
つかさ「見てたんだ……こなちゃんはあれが葉っぱに見えたの?」
こなた「見えたも何も葉っぱ以外にには見えないよ」
つかさ「それなら前に一度見た事があるよ……覚えていない?」
こなた「一度見ているって……」
つかさ「最初見た時は一万円札に見えた……だけど一日経つと……」
……思い出した。それはお稲荷さんの真奈美がした悪戯の葉っぱだ。
こなた「まだ持っていたんだ……」
つかさ「まなちゃんの形見だから……婚約者のたかしさんが言ってくれた、これは私が持っていろって……辛いとき、悲しいとき、これを見ているとまなちゃんの事を思い出すの」
こなた「知らなかった……」
つかさと同居していた時もそうだったのかな。全く知らなかった。同居していたと言っても食事以外はそれぞれ自分の部屋で過ごしていたから細かい所までは分からない。
つかさ「こなちゃんは取材に参加したの?」
つかさの方から話しを持ってくるとは思わなかった。
こなた「うん、そりゃ店のスタッフだし、ホール長だから」
つかさ「そうだよね、うん、分かってる、私なんかもうレストランかえでのメンバーじゃない、関係者じゃない……だから怒られた……」
こなた「そ、そうだよ、分かってるジャン、それが分かっているならもう大丈夫だよ」
本当は違うけどね。
つかさ「こなちゃんはかえでさんが何故取材拒否してるか知ってるの?」
こなた「もちろん、店が混雑してお客様へのサービスが低下するのを防ぐため……」
つかさは私をじっと見ている。何か言いたげにしている。
つかさ「かえでさんね、ずっと昔取材を受けたことがあって……」
私は驚いた。かえでさんが取材を受けた事があるのに驚いた訳じゃない。神崎あやめがかえでさんに取材を受けるのが初めてなのかって聞いていた事に驚いた。
彼女はかえでさんの嘘を見破っていたのか。受け答えが慣れていたから。仕草からなのか。事前に調べていたのか……どちらにせよ彼女の洞察力は侮れない。
つかさは私の表情を見てからまた話し出した。
つかさ「知らなかったの?……辻さんが亡くなって、その一番の親友であるかえでさんに自殺した原因があるのではってしつこく嗅ぎ回れたの、辻さんの死を悼んでいる余裕もなかった
    って言ってた、かえでさんの心の中に土足で入ってくるような嫌らしさがあったって、だから記者を嫌いになったって……」
こなた「知らなかった……」
そっちの方が理由としては強かったのかもしれない。
つかさ「そんなかえでさんが何故急に取材を受けるなんて……私、分からないよ、こなちゃんなら何か聞いているでしょ」
理由は只一つ、つかさの側ににその記者を行かせない為、つかさを守る為。それは言えない。
こなた「え、えっと」
潤んだ目で訴えている。教えてくれって。だけどなんて言えば良いんだ。
こなた「昔の取材の話し、私は知らなかった、もしかしてかえでさんに内緒って言われていなかった?」
つかさ「えっ、うん、言われていたけど……」
こなた「つかさ、内緒って意味知ってる?」
つかさはおろおろし始めた。
つかさ「知ってる……よ」
こなた「それじゃどうして私に話したの」
つかさ「え、だって、こなちゃんは友達だし……」
理由になっていない。私の中の何かがプッっと切れた。
こなた「結婚もして子供もいるんだからもう少しその辺分かろうよ、それだからかえでさんに怒鳴られちゃうんだよ!!」
しまった。そう思った時には遅かった。私はつかさの目の前でかえでさんと同じように怒鳴っていた。
つかさ「ぐす……えぐっ、」
つかさの目から大粒の涙が出てきた。まずい。これじゃフォローどころか追い討ちを掛けてしまった。
こなた「ご、ごめん、これは……」
もう何を言ってもダメだった。つかさは机に顔を押し付けて泣きじゃくってしまった。なんてこった……思いの外つかさのダメージは大きかった。私は何も出来ないまま
泣きじゃくるつかさの前で立ち尽くしてしまった。
「つかさ、帰ったぞ」
後ろから声がした。この声はひろしだ。まだ帰ってくるには少し早いような気がする。不思議に思いつつ私は振り返った。
ひろし「やっぱりこうなっていたか……」
私にだけ聞こえるような小さな声だった。私は何も言えなかった。
ひろし「つかさ」
優しくつかさを呼んだ。
つかさはゆっくり立ち上がるとひろしに向かって跳びあがって抱きついた。そしてさらに激しく泣いた。
ひろし「僕は今のままのつかさで良いから……そんなつかさが好きだから」
ひろしはそっと両手をそえてつかさを支えた。
こなた「わ、私……」
ひろし「何も言うな、こうなったのも僕のせいだ……僕が先にくるべきだった……」
返す言葉がなかった。
ひろし「悪いが今日はそっとしといてくれないか」
こなた「う、うん……」
私はゆっくり部屋を出てそのまま家を出た。

 自信があった。これまでも高校時代からつかさを笑わせたり励ましたりを何度もしてきた。最後はいつも笑顔に戻っていた。でも……
蓋を開けてみればこの大失態。なんであんな事に……
つかさがひろしに抱きついた時にひろしが言った言葉……そのままのつかさが良い……その通りだ。
知らないうちに私も涙が出ていた。ひろしの取った態度に胸が熱くなった……これが愛ってやつなのか……
「泣いているの?」
はっと声のする方を見た。まなみちゃんが玄関の前に立っていた。ランドセルを背負っている。下校してきたのか。まなみちゃんはハンカチを私の前に差し出していた。
まなみ「どうしたの、お母さんと喧嘩したの?」
心配そうに私を見ている。
こなた「うんん、ちがうよ、大丈夫だよ」
私は自分のハンカチで涙を拭うと微笑んで見せた。
なまみ「お母さんまだお店だよ……」
まなみちゃんは玄関の扉を開けようとした。
こなた「ちょっと待って」
まなみ「な~に?」
まなみちゃんは開けるのを止めて私を見た。そういえばひろしはそっとしておいてと言っていた。もしかしたら……今まなみちゃんを家に入れるのはまずいかもしれない。
こなた「お母さんとお父さんは家で大事な仕事をしているから……邪魔しないように私の家でゲームでもしよう、ね?」
まなみ「うんいいよ……お父さんとお母さん……居るの?」
なんとか止めないと……子供の扱いは難しいな……
こなた「う、うん、」
まなみ「それじゃ、ランドセル置いてくるね」
あらら……止める間もなくドアを開けて入ってしまった……っと思ったら10秒もしないで開けて戻ってきた。ランドセルは背負ったままだった。すこし顔が青くなっている。
まなみ「……お母さんが変な声出してるの…」
まなみちゃんの声が震えていた。……やっぱり。
こなた「だ、大丈夫、問題ない……」
まだ本当の事を言うのは早過ぎる。
まなみ「……病気じゃないの?」
こなた「違うよ、お父さんと愛し合ってるから」
まなみ「ふ~ん」
まなみちゃんはじっと玄関を見たまま首を傾げていた。
こなた「それじゃ一緒に駐車場まで行こう」
まなみ「うん」
何とか誤魔化せたかな……

 家に帰ると自分の部屋でまなみちゃんとゲームをして遊んだ。
しかしまなみちゃんはつかさと違ってゲームの上達が早い。コツをすぐ掴んでしまう。格闘ゲームとかだと気を抜くと一気に畳み込まれるほどだった。
こなた「ふぅ……喉が渇いたね、ちょっと飲み物とって来るよ」
まなみ「うん」
台所に行くとお父さんが入ってきた。
そうじろう「まなみちゃんだったね……つかささんのお子さんだろう?」
こなた「そうだよ」
そうじろう「いいのか勝手に連れてきて……」
こなた「確かに黙って連れてきたけど、ちゃんとつかさにメール送っておいたし、大丈夫だよ」
そうじろう「いったい何があった、夫婦喧嘩でもしたのか?」
お父さんにはお稲荷さんの話しは一切していない。お父さんにとって二人は極普通の夫婦だろう。
こなた「違うよ、その逆だよ」
お父さんは笑った。
そうじろう「そうか……それでこなたは何時孫をみせてくれる?」
こなた「……何時だろうね、その前に相手を見つけないとね……」
そうじろう「居ないのか、職場にも男性の一人や二人居るだろう?」
こなた「職場結婚する気はないよ……」
お父さんはそれ以上何も言わなかった。
こなた「それじゃ部屋に戻るよ」
そうじろう「うむ……」
嫁には絶対にやらないなんて言っていたのに。いざとなると今度は孫の顔がみたいだなんて、どっちが本心なのか分からん。

こなた「ジュース持って来たよ、ついでにお菓子も」
まなみ「ありがとう……」
こなた「そういえばまだ宿題やってなかったね」
まなみ「……もう終わっちゃった……」
こなた「えっ!?」
終わったって、さっき台所に行ってお父さんと話して10分も経っていないのに。テーブルにノートが置いてあったのに気付いた。
私はそのノートを手にとって見てみた……全部終わっている……
こなた「す、凄いね……」
まなみ「学校のお勉強はつまんない……お父さんの方がいろいろ教えてくれる……」
まなみちゃんはジュースをおいしそうに飲み始めた。
こなた「それじゃ、何が一番楽しい?」
なまみちゃんはジュースを飲むのを止めて暫く考え込んだ。
まなみ「ん~と、佐藤先生が教えてくれるピアノかな~」
佐藤さんは旧姓岩崎みなみの事。まさかひよりとゆたかよりも先に結婚するとは思わなかった。
こなた「ピアノのお稽古してるんだ、今度私も聴いてみたいな」
まなみ「え~はずかしいよ」
まなみちゃんがピアノを習っているのは初めて聞いた。ゲームの上達の早さから推察するにつかさよりは上手な様な気がする。
まなみ「こなたお姉ちゃんもいろいろ教えてくれるから好き……」
こなた「そ、そりゃどうも……」
おべっかもするなんて、つかさとは随分ちがうな……これはお稲荷さんの血が入っているからなのかな。お稲荷さんの力も使えるとか。まさか……
まなみ「どうしたの?」
こなた「うんん、なんでもない、ゲームの続きやろうか」
まなみ「うん」
私達は夕方までゲームで遊んだ。

日が完全に落ちた頃だった。
そうじろう「おーいこなた、つかささんがお見えだぞ」
まなみちゃんを迎えにきたか。私は玄関に向かうとつかさが立っていた。あの時の様な暗く落ち込んだ雰囲気は一切ない。私の知っているつかさそのものだった。
こなた「さっきはゴメン……」
つかさ「うんんこっちこそ、泣いちゃったりして、もう取材の事は聞かないから」
こなた「それなら良いけど……」
まなみ「お母さん、お父さんとあいしあっていたんだよね?」
つかさ「えっ!?」
つかさは目を大きく見開いてまなみちゃんを見た。あらら、笑顔であっさり言う……あからさますぎ……子供は恐れをしらないな。
こなた「まなみちゃんランドセル取ってこないと」
まなみ「あ、忘れちゃった」
まなみちゃんは慌てて私の部屋の方に走っていった。
こなた「ノートと筆箱もちゃんと仕舞いなさいよ」
まなみ「はーい」
私は溜め息をついた。
つかさ「こ、こなちゃん、どう言うこと?」
つかさは動揺している。
こなた「慰めてもらうのは良いけど、もう少し時間を考えないとね、私が家を出てからすぐにまなみちゃんが帰ってきたんだよ……始まっちゃうとなかなか途中で止められないよね……
    だから適当に誤魔化して私の家に連れてきたって訳、まなみちゃんは意味を知らないで言っているだけだと思うから、でもね、子供は見ていない様で見てるから気をつけないと」
つかさは顔を真っ赤にして俯いた。
こなた「ふふ、何照れてるの、夫婦なんだから気にしない、気にしない」
つかさ「うん……ありがとう」
こなた「ありがとうはつかさの旦那に言って……私の出来る事はこんなことくらいだから」
まなみちゃんがランドセルを背負って走ってきた。
こなた「これから食事の用意をするけど、どう?」
つかさ「うんん、家で皆が待ってるから」
こなた「今度かがみの家族も連れて遊びにきなよ」
つかさ「うん、そうする……それじゃ帰ろうか」
まなみ「うん、バイバイ」
まなみちゃんは手を振った。私もそれに答えて手を振った。そして二人は家を出て行った。

 つかさが元に戻って良かった。
さてと……いつまでもこんな状態が続くと何かとやり難い。多分何度も取材に来るに違いない。
あの記者を追い出すことは出来ないかな。
それにはあの神崎あやめの目的を知らないとならない。なんでレストランかえでを取材にきたのか。
普通に考えればこの店はけいこさんとめぐみさんの失踪事件とあまりにもかけ離れているのに。私達が何を知っていると思っているのか。
それになぜ私に個人的な話しがあるとか言って近づいてきたのか。
わたしの秘密があるように向こうも何かを隠しているに違いない。それを突き止めてやる。
『グ~~』
腹の虫が鳴いた。
まぁ、ご飯を食べてからにしようっと。


ご飯を食べて落ち着いた私は自分のパソコンに電源を入れた。神崎あやめ。まずは基本情報を知らないと話しにならない。
『神崎あやめ』と入力しした……
一発でヒットした。この人は業界では有名な人らしい。
〇〇雑誌の記者。〇〇年四月に入社……新卒なのか……ってことは私と同じ歳じゃないか。
出身大学はは〇〇県の〇〇大学……ん。この県って、まさか。
財布の中に仕舞ったメモ帳の切れ端を取り出した。彼女の携帯番号と自宅の電話番号が書かれている。この自宅の電話番号の市外局番……
レストランかえでがここに引っ越す前の町と同じ市外局番。この記者はあの町で生まれ育った……のかな。
でもこの記者はあんな遠くから雑誌社まで通っているのかな。いや、そんな筈はない。考えられるのは自宅勤務を許されているって事。だとしたら大した待遇だ。
どんな記事を書いているのかな。更に調べようとした時だった。
『ピピピ~』
携帯電話の着信音が鳴った。かがみからだ。直接電話してくるなんて珍しい。でもどんな内容なのかだいたい解った。
こなた「ハローかがみん」
かがみ『おっす、こなた、相変わらず間の抜けた声ね……』
第一声がこれかよ。
こなた「……そんな事を言う為に電話してきたの……」
かがみ『ごめん、そんな用じゃないわよ、ちょっと遅いから明日にしようかと思ったけど、こなたなら起きていると思って……かえでさんから聞いたわよ』
こなた「神崎あやめ……」
かがみ『そうよ、厄介な記者に目を付けられたわね』
かがみは彼女を知っているのか。
こなた「その記者を知ってるの?」
かがみ『いや、直接は会っていない』
こなた「あれ、取材を受けた事ないの……彼女はけいこさんとめぐみさんの失踪事件を調べている、だとしたら真っ先にかがみの所に行くんじゃないの?」
かがみ『私もかえでさんから聞くまで彼女がそんなのを調べているなんて知らなかった』
こなた「なんで私の店に取材に来たのかな……」
かがみ『私もさっぱり分からん、だけど、十年前、私達は散々取調べを受けたし、数多くの記者からも取材を受けた……それで何も出なかったから彼女も取材対象から外したのかも
    しれないわね、そうとしか考えられない』
こなた「どうしたらいいかな?」
かがみは暫く黙っていた。
かがみ『私にも分からないわ、下手な事をすれば勘繰られるし、私が出て行けば余計怪しまれるわよ』
こなた「そうだよね~」
かがみ『昔私も少し彼女を調べたた事があってね、彼女は刑事事件を中心活動している記者ね、彼女の記事を切欠に解決した事件は多数、それに多くの冤罪事件も手掛けている、
    一目置いた人物ではあるわね、弱きを助け、強きを挫く……そんな感じよ』
かがみのおかげでこれ以上調べなくても彼女の仕事ぶりは分かった。
こなた「それじゃ私なんかじゃ太刀打ちできないよ、かえでさんですらやっとだったのに……」
かがみ『私が言える事は只一つ、嘘はつかない事、それだけよ』
こなた「でも、もし、彼女がお稲荷さんの事に触れてきたらどうするの……」
かがみ『そ、それは……多分平気よ、そこまで分かるはずない』
声に自信がない。
こなた「私も少し調べたんだけど……彼女の出身が店を引っ越す前の町みたいだよ……卒業大学が同じ県だったからね、あの町ならお稲荷さんの伝説とか聞いているかもしれないし、  ちょっと心配……」
かがみ『お、同じ町……』
かがみも私も何も言わず沈黙が続いた。
かがみ『と、取り敢えず今は様子を見るしかないわ』
流石のかがみも打つ手なしか……
こなた「まだ一回しか会っていないのに大変だよ……」
かがみ『くれぐれもつかさをよろしくね、つかさを彼女に会わせたらとんでもない事になるわ』
かがみも同じ事を思っている……
こなた「かがみも同じなんだね」
かがみ『何よその言い草、あんたも同じだって聞いたわよ、これは皆の総意じゃなかったの、お稲荷さんの知識と技術の隠蔽、それこそあの記者にとっては格好のネタよ、
    私達が何故隠しているなんかお構い無しに決まってる』
こなた「う、うん……そうだけど」
かがみ『そうだけど?』
強い口調で言い返してきた。今の私にかがみの意見に反対するほどの正当性をもった反論は出来ない。
でもそのつかさがお稲荷さんの心を開いたのも事実。悲しげに葉っぱを見つめるつかさの顔が頭の中に浮かんだ。どうすればいいのかな……何も出てこない。
こなた「い、いや、かがみの言う通りだよ」
かがみ『頼むわよ……それじゃまた今度会いましょう』
こなた「ちょっと待って」
かがみ『何よ、他に何かあるの?』
つかさの話しになってちょっと思い出したことがあった。
こなた「かがみの子供って成績優秀なのかなって……」
かがみ『なにを急に……』
こなた「確か一番上の子が小4だったよね?」
かがみ『そうだけど……何故そんな事を聞くのよ』
こなた「いやね、まなみちゃんが頭よくってね、もしかしたらお稲荷さんの血が混ざってるんじゃないかなって……」
かがみ『私の子供達は普通よ……まつり姉さんは生まれたばかりで分からない、いのり姉さんはまだ子供は居ない……私の夫を含む皆は人間になった、お稲荷さんの遺伝を捨てた、
   その能力や知能は遺伝しないわよ……もっともつかさは小学校低学年の時は私よりも成績良かったからまなみちゃんの成績が良いのもつかさの遺伝じゃない』
こなた「ふ~ん、それでかがみは焦って一所懸命に勉強したんだね、なるほど」
かがみ『納得する所が違うぞ!!』
お、久々のかがみの突っ込みを聞けた。そうでないとね。
こなた「ふふ、それじゃまたね」
かがみ『おやすみ……』
電話を切った。
こなた「ふぅ~」
溜め息を一回。
そして時間を見る。寝るにはまだ少し早い……たまにはネトゲでもするかな……

 それから一ヶ月が経った。
彼女は週に2回から3回必ずお昼を食べにこのレストランを訪れていた。私達に何かインタビューする訳でもない。ただのお客として来ている。
つかさの店にもたまに行っているみたいだ。それはひろしが対応しているので特に問題があるわけではなかった。
でも問題はこの店。お客として来ているから無理に来るなとは言えない。それどころか友達なのか、同僚なのか分からないけど数人必ず連れてくるのだ。
その中には俳優やテレビでお馴染みの人なんかも混じっていた。
それでも店を出ると神崎さん一人だけ残り観察するような目つきで暫くレストランを見てから帰る。そんな日々が続いた。
あやの「また来てる……でも、あの隣に居る人……俳優の〇〇さんじゃないかな……サイン貰っちゃおうかな……」
厨房の陰からあやのが様子を伺っていた。
こなた「止めておきなよ、何を言い出すが分かったもんじゃないよ」
あやの「……こんなのが一ヶ月……何時まで続くの?」
こなた「分からない……」
あやの「ちょっと行ってくる……」
厨房を出ようとするあやのの腕を掴んで止めた。
こなた「だからダメだって……」
あやの「もう我慢できない……放して」
かえで「止めなさい、まったく見苦しいわよ」
私達の間にかえでさんが割って入ってきた。私は手を放し、あやのは冷静さを取り戻した。
あやの「あの記者……どうにかならないの、見えないプレッシャーがかかって仕事になりません……あれから全く進展がないじゃない」
かえでさんは何も言わず首を横に振った。何もするなとの指示だろう。
でもハッキリ言ってあやの言っているのは私の代弁でもあった。正直いってウザイの一言だ。
かえで「かがみさんが言っていた、彼女の取材は必ず話し手の方から真実を話すってね、そう言う事だったのか、彼女はああやって精神的に追い詰めて白状させるのよ、
    最初の取材で普通じゃ口を割らないと判断したに違いない、厄介だわ……何か迷惑を掛けている訳じゃないから追い返せない」
あやの「誰かが音を上げるのを待っている……」
待っている……私は財布に入っているメモ帳の切れ端を思い出した。まさか彼女は私の連絡を待っているんじゃ……
そうか……ホール長の私が接客をしているから客として来ている……彼女の目的は私なのかもしれない……
神崎さんが手を上げて呼んだ。
かえで「呼んでいるわよ、こなた」
こなた「あいよ……」
私は彼女の座っている席に近づいた。冷静に、冷静にっと。
こなた「はい、何でしょうか?」
あやめ「今日のおすすめランチは何?」
こなた「豚肉のしょうが焼きです……」
隣に座っている俳優さんと耳打ちで暫く何かを話した。
あやめ「それじゃそれを2つ」
こなた「はい……」
わたしが去ろうとした時だった。
あやめ「そろそろ分かってもいい頃じゃない?」
私は立ち止まり神崎さんの方を向いた。
こなた「メモ帳の事ですか?」
あやめ「察しが良いじゃない、どう?」
やっぱり……でも私一人でなんとか出来るだろうか。私の返事を待って神崎さんがじっと私を見ている。他のお客さんが私の方を見て手を上げた。ここで留まっている時間はない。
こなた「今晩、自宅に電話します……」
しまった。なんて事を言ってしまったのだ……
あやめ「待ってる……ほら、お客様が呼んでいる」
私は考える間もなくお客様の方に向かった。こんな所で交渉をしてくるなんて……これも彼女の作戦なのか……まずい。どんどん彼女のペースに乗ってしまいそうだ……
こなた「お昼のおすすめ2つに、ワイン2つ……」
あやの「どうしたの、顔色がよくない……」
こなた「な、なんでもないよ……」
私と神崎さんのやりとりを見ていなかったのかな。かえでさんも別の仕事をしていた。これも神崎さんの狙いなのか……
また別のお客様が手を上げた。
こなた「はい、只今伺います……」
今日はやけに忙しい……考える暇がないまま時間は過ぎていった。

家に帰って自分の部屋で考えていた。
結局誰にも言わずに仕事が終わってしまった。このまま彼女と連絡して良いのであろうか。これからかえでさんに電話をして……いや、だめだ。
きっと電話するなって言われるに決まっている。でももし、電話をしなかったらどうなる。また新たな手を使って揺さぶりをかけてくるに違いない。
電話をするかなさそうだな。こうなった自棄だ。私は受話器を取ってメモの電話番号を押した。
あやめ『こんばんは、泉さんね、待っていた』
こなた「こんばんは……私に用事って何ですか……あの事件は何も知りません……」
あやめ『まぁ、まぁ、結論を急ぎなさるな、厨房のシフト表は見えない所に移したでしょ、なかなかやるじゃない、これで貴女の予定が分からなくなった』
こなた「ネタバレするから……誰でも注意されれば気をつけますよ……」
あやめ『ふふ、そうね、でも貴女達、私が来ると緊張している、何を恐れているの?』
やっぱり私から何かを聞き出そうとしている。
こなた「べつに……神崎さんがいろいろ有名なお客さんを連れてくるから……」
あやめ『あれは貴女の店が出す料理が美味しいから誘ったまで……さてと、もう腹の探りあいは止めましょう、私の家に来ない?』
こなた「家に……なんで私が……店長や副店長の方が……」
あやめ『いいえ、貴女でいい、泉こなたさん、それとも私の家が遠くて嫌かしら』
なんで私なんだろう。
こなた「そんな事は、そこは店が元にあった場所だから、でもなんで私なの?」
あやめ『それも来てくれれば話します、来てくれればもう貴女の店に頻繁に行く事はない』
交換条件ってやつか。これって交渉なのか……でも主導権は向こうが持っている。
こなた「約束は守ってもらうよ……」
あやめ『そうこなくっちゃ……で、何時にする?』
私は壁に掛けられているカレンダーを見た。来週の金曜がこの前の取材の振替休暇になっている、その次の日も休み……ならば
こなた「次の土曜日はどう?」
あやめ『分かった、電車でくる、車でくる?』
こなた「車で……」
あやめ『食事はアルコール抜きにしておくから』
こなた「……それはどうも」
あやめ『住所は〇〇町〇丁目〇番地だから』
こなた「分かった……」
あやめ『それじゃ楽しみにしているから』
電話を切った。何が楽しみなもんか……半ば強制的なくせに……
でも、わざわざ二連休の最後にしたのは訳がある。彼女の家に行く前に行きたい所があった。それはひよりの所だ。彼女はひよりと似たところがある。かえでさんもそう言っていた。
毒には毒を……何か対策が立てられるかもしれない。さて、そうと決まったらひよりに連絡だ。

ひより「とんでもない記者ですねそれは……」
こなた「かがみに言わせれば弱気を助け強きを挫く……だってさ、私に言わせればただの弱いものいじめだよ……」
土曜日、私はひよりの家に居る。家と言ってもマンションでゆたかと同居していて漫画の事務所も兼ねている。普段ならアシスタントも居て作業をしているはずだが今日は
仕事が休みでひよりとゆたかしか居なかった。かえって好都合だった。私は事の経緯を二人に話した。
ひより「それで、毒には毒をって……先輩そりゃないっスよ……」
こなた「まぁ、まぁ、そう言わずに助けてよ」
両手を前に出してひよりを落ち着かせた。
ひより「先輩が助けてなんて言うのですからよっぽどですね……」
ひよりは両手を組んで考え込んだ。
こなた「それで、神崎あやめをどう思う?」
ひより「う~ん、直接会った訳じゃないからなんとも言えないっス、それに私に似ているって……私……鋭い感性なんかもっていませんし……頭の回転も遅いし……
    かえでさんや先輩を翻弄させるような話術もありません」
こなた「またまた謙遜しちゃって、現にひよりはコンやすすむさんの正体を見抜いたじゃん?」
ひよりは暫く溜めてから話した。
ひより「それはつかさ先輩の話しを聞いたからっス……真奈美さんの話を聞かなければただの賢い犬で終わっていました」
つかさの話しを聞いて……ここでもつかさか。
こなた「でも、つかさの話しからコンやすすむさんを結び付けるなんて誰でもできることじゃないよ、でも多分あの記者なら出来ると思う」
私とひよりは腕を組んで考え込んだ。
その時ゆたかがお茶とお茶菓子を持って席に着いた。
ゆたか「神崎あやめ……私、以前に会ったことがある……」
こなた・ひより「えっ!?、い、いつ!!?」
私達はゆたかに詰め寄った。
ゆたか「は、半年くらい前かな……漫画の取材って言って、インタビューをね……」
こなた「漫画の取材って、ジャンルが全然ちがうのに……」
ひより「ど、どうしてゆたかだけ……」
ゆたか「……ご、ごめんなさい、ストーリ担当の私に取材を申し込まれたから、それに半年前のひよりは取材を受ける状態じゃなかったでしょ、4日連続の徹夜……」
ひより「……」
ひよりは黙って頷いた。顔色が少し青くなった。よっぽど過酷な仕事をしていたのだろう。
こなた「どんな取材だったの?」
ゆたか「う、うん……この作品についてなんだけど……」
ゆたかが見せたのは……私とかがみ、ひより、ゆたか共同で作った物語……つかさをモデルした漫画じゃないか。でもその漫画はひよりの出版社でボツになって、
自費出版にしてコミケで20冊しか出さなかった。人間と宇宙人の愛をテーマにしたんだっけな……でも内容はかがみの提案で実際とは大きく変えたのは覚えている。
こなた「い、いや、あの記者がコミケに参加しているなんて……」
ひより「そ、それで?」
ゆたか「う、うん……この物語の中で宇宙の過酷さがすごくリアルに描かれているって言われて……どうやってそこに至ったかを聞かれてね……」
ひより「宇宙の過酷さって……あれはすすむさんから聞いたやつかな」
ゆたかは頷いた。
こなた「何を聞いたって?」
ひより「宇宙戦争をするほど宇宙は優しくないって、それに地球の資源を狙うなら他の小さな惑星から発掘した方が良いって……」
こなた「なんでそれがリアルなの……」
ゆたか「どんなに進んでも地球の環境を完全に再現するのは難しいって、それは地球外文明も同じ、私達と同じ遺伝子で構成されている生命は宇宙空間では生きていけないから
    宇宙戦争なんかしたら共倒れだよ」
そいう物なのかな……確かに今まで見てきた漫画とは違うけど……憎ければ殴りたいのが心情ってもの、宇宙ってそれすら許されない所なのかな……
ひより「それで記者にはなんて答えたの?」
ゆたか「地球の大切さを表現したって言ったら……なんか妙に納得してくれた……」
ひより「流石ゆたか」
こなた「で、私が作ったギャグの所は何か言ってた?」
ひより「わ、私の画風はどうだった」
ゆたかは首を横に振った。ひよりは残念そうに指を鳴らしていた。
私は何を期待していたの。この記者の評価なんか私にとってはたいした意味はないのに。
ゆたか「何も言ってなかった、でも、複数の人員が関与しているって見抜いてた……でもね、雑誌社から掲載をボツにされちゃって……だから私、何も言わなかった」
ひより「そうなのか……わざわざ掲載ボツを知らせてくるなんて律儀だな」
こなた「それでね、明日の件なんだけど、どう振舞えばいいのかな」

何も対策が出ないまま1時間が経過した。
ひより「彼女の最終的な目的ってなんですかね」
こなた「さぁね、それが分かれば苦労しないよ、私達が何かを隠してるってのはもう気付いているみたいだから厄介なんだよ」
ひより「全てを話したの時、彼女はどうするかですよね、普通に考えれば世間一般に公表するでしょうね、でも、頭が切れるならその後どうなるかって解る様な気がするけどな~
    つかさ先輩、みゆき先輩がそれで失敗して大半のお稲荷さんが帰る破目になってしまったのだから、説得して私達の仲間に引き入れるってできないかな?」
こなた「そうなれば良いけど、そうじゃなかったらもう取り返しがつかない……」
ゆたか「一つだけ方法があるよ……」
いままで黙っていたゆたかが急に割って入った。
こなた「それはどんな方法?」
ゆたか「神崎さんがもし、私達の制止を振り切って秘密を公表するのであれば、彼女の記憶を消してしまえば良いよ」
背筋が凍りついた。可愛い顔をしてそんな恐ろしい事を平然と言えるなんて……いや、もう既にゆたかはひよりの記憶を奪っている……
ひより「ゆ、ゆたか……」
ゆたか「確証はないけど人間成ったすすむさんはまだその術は使えると思うの、あくまで私達の意思に背くなら、選択肢の一つじゃない?」
こなた「そ、そうだけど……ちょっと、そこまでは……」
ゆたか「お姉ちゃん、言っておくけど私達の知っている秘密は大国の国家機密に匹敵する物だよ、かがみさんの病気を治せるし、その気になれば大量破壊兵器だって……
    もう一人の記者の意思とか私達の気持ちなんか超えているの、今は誰にも知られちゃいけない、お稲荷さんの本音はきっと私達の記憶だって消したいくらい……だよ」
目を潤ませて訴えるように話すゆたかだった。今の状況を一番理解しているのはもしかしたらゆたかなのかもしれない。
ひより「もういいよ、ゆたか……」
ゆたか「ご、ごめんなさい……ちょっと頭冷やしてくるね」
ゆたかは自分の部屋に入っていった。
ひより「先輩、実は私もゆたかと同じように記憶を消してしまえばって思っていたっス、だけど……これはあくまで最後の手段……先に言われてしまいました」
苦笑いをしている。
こなた「いいよ、ゆたかを庇うのは」
ひより「あれ、ばれちゃいましたか……」
手を頭に当てていた。
こなた「記憶を奪われた本人だもんね、ゆーちゃんって呼んでいた頃がなつかしいな……」
私はゆたかが入った部屋を見ながら話した。
ひより「すすむさんは絶対に記憶を奪わないって知っていて言っていると思うので、本心じゃないと思います……」
こなた「だと良いんだけどね……だけど、神崎さんの今後の行動によっては本当に考えないといけないかもしれない」
ひよりは一回大きく深呼吸をした。
ひより「ちょっと重い話になりましたね、ゆたかが戻ってくるまで小休止にしませんか」
こなた「いいね、そうしようか」
私達はゆたかの用意したお茶と菓子に手をつけた。

こなた「もしつかさが一人旅に出ていなかったらどうなっていたかな……少なくともかえでさんには出会っていないから私は未だにニートだったかもしれない」
ひより「……なんですか急に?」
ふと思った事を言ったのでひよりはお菓子を食べているのを止めて聞き返した。
こなた「つかさが一人旅に出る切欠になったのは多分私とつかさの言い合いだよ、私が出来っこないって言って、つかさがムキになって……絶対に行くなんて言ってね、
    まさか本当に行くとは思わなかった、」
ひより「へぇ~そんな事があったっスか……」
こなた「お稲荷さん……そう言われるの本人達は嫌がっていたね、宇宙人でいいのかな、彼らとも会っていないからかがみはこの世に居なかったかもしれない」
ひより「……そう言えばそうかもしれませんね、つかさ先輩との言い合いが私達の運命を変えた……っスか……」
ひよりは腕を組んで目を閉じた。
こなた「どうしたの、そんな意味深な事言ったかな?」
ひより「今思ったけど、ゆたかはつかさ先輩が一人旅に行く前に既にすすむさんに会っていましたよね、つかさ先輩が一人旅に行かなくてもお稲荷さんと何らかの関係は出来たかも
    しれませんよ?」
こなた「ゆたかはつかさと違って秘密は守る方だからね、どうなっていたか……」
ひより「あっ、そうでした……」
こなた「ゆたかは一人で抱え込むタイプだからね、ゆたかの暴走をつかさが止めたようなものかもしれない、あっ、止めたのはひよりか」
ひより「いいえ、つかさ先輩ですよ……いつでもつかさ先輩は私の前にいましたから……」
こんな台詞、高校時代のつかさなら絶対に言われなかっただろうな。
でも、私が怒って怒鳴りつけた時のあのつかさは紛れも無く高校時代のつかさそのものだった。だから今もこうやって友達で居られるのかもしれない。
ひより「どうしたんです、急に微笑んだりして……」
わたしの顔を覗き込んで首をかしげいた。
こなた「ちょっと昔を思い出してね、そういえばさ高校時代ゲーセンで何度も私に挑戦してきた後輩がいたけど……確かひよりの先輩だったよね?」
ひより「えっと……漫研の部長こーちゃん先輩のことっスか?」
こなた「今どうしてる?」
ひより「え、えっと~どうしてるかな~」
ひよりは天を仰いでいる。
こなた「卒業してから交流ないの?」
ひより「えっ、ま、まぁ、部活動では私、漫画家なんてならないよって言ってたもんで……なんて言うのか、会い難いというか……あはは、はははは」
こなた「……そりゃそうだ……」
ひよりはごそごそと机の裏から本を出した。
ひより「それより、先輩見てください、今度のコミケで出す予定の作品ッス」
こなた「なんで隠してなんか……あぁ、さては例のやつ?」
ひよりは目を輝かせて頷いた。
ひより「時間を見つけては書いていました、先輩のご希望に添えるように書きました」
私は頁を捲った。
こなた「……いいね……たまにはこういった物も描かないとね」
ひより「そうでしょ、自作ながら良くできたと……あ、あ、あ、」
こなた「だめだよひより、興奮してあえぎ声だしちゃ……」
ひよりの目線を追うとそこにはゆたかが仁王立ちで立っていた。ゆたかは透かさず私から本を取った。
ゆたか「お姉ちゃん、ひより、まだ懲りていないみたいだね……こいうの描くと出版社から仕事もらえなくなるでしょ……」
ひより「だ、だから内緒で……」
ゆたかの目が鋭くひよりを睨んだ。
ゆたか「これは没収するから……お姉ちゃんも、今度ここに来るときは持ち物検査するかね……」
私とひよりの暴走を止めるのはゆたかだった。

 明日、神崎さんの家に行くのにここからの方が近いので二人の勧めで泊まる事になった。
女性三人で話す事と言えば一つしかないだろう。
ひより「さすがレストランかえでのホール長っスね、味付けが違います」
せっかくなので夕ご飯は私が作った。
こなた「まぁ、泊めてもらうのにこのくらいしないとね、それに私が作るのは賄いくらいだよ、腕はあやの方が遥かに上だから」
ゆたか「それでも美味しいよね」
ゆたか「うん」
こなた「ところでお二人さん、つかさの演奏会の時に言ってた告白とらやらはもう済んだのかい、ご報告はまだ聞いていないよ」
二人の動作が止まった。
あらら、聞かなかった方が良かったかな……あの時やけに自信ありげだったけど……まぁここは私が気を紛らわせてあげるか。
そう思った時、ひよりがにやりと笑ってゆたかの方を見た。
ゆたか「そういえば一昨日もお泊りだったよね~」
ゆたか「えっ、あ、あれは実家に帰って……」
顔を赤くして首を激しく横に振った。
ひより「あれれ、昨日はみなみの家に遊びに行ったって言ってなかたっけ……」
ゆたか「ひ、ひよりこそ帰りの時間が遅くなる日が随分多くなったよね」
ひより「あ、あれはネタを考えていてね……公園で考え込んで……」
ゆたか「ふ~ん、ネタはお風呂に入って考えるって言わなかったっけ」
ひよりも顔を赤くしながら話している。なんだ。うまくいっているみたい。心配して損した。
こなた「はいはい、そこまで、それで式はいつになるのかな……」
ひより「……それは……」
こなた「二人は忙しいからね、かえでさんみたいに籍だけ入れるって方法もあるからさ」
二人は黙って俯いている。少しからかってやるか。
こなた「おやおや、恥かしがる歳じゃないでしょ……」
二人は黙ったままだった。かがみだったらもう少し面白い反応するのだけど……
ゆたか「お、お姉ちゃんは誰か好きな人居ないの……」
ゆたたが反撃に出たか。
こなた「残念でした、私の恋人はゲームの中なのだよ、私に死角はないよ」
ひより「先輩の初恋はいつごろでしたか」
こなた「え、は、初恋……」
ひより「あ、聞きたいなお姉ちゃんの初恋の話し、まだ一度も聞いてない」
こなた「さてと、明日は日が昇る前に出ないいけないから早く寝ないと」
私は席を立った。
ゆたか「あ、ずるい、お姉ちゃんが振ったはなしだよ、逃げないで」
まさかそんな話しになってしまうとは思わなかった。そんな話し……恥かしくて話せない。私はそのまま寝室に入って寝た。

 未だ日が昇る前の薄暗い早朝、携帯のタイマーで私は目覚めた。身支度をして居間に入るとゆたかが居た。
こなた「起きてたの?」
ゆたか「うん、眠れなくて……」
こなた「私が寝てからひよりとエッチな話しでもしてたとか、」
ゆたか「うんん……」
私のジョークに何も反応をしなかった。ゆたかは机に置いてある本を見ている。あれは没収された本だ。
こなた「その本は……」
ゆたか「……私のした事に比べればこんなのは軽いジョークだよ」
こなた「なんの話しを?」
ゆたかの言っている事がさっぱり解らない。
ゆたか「私はひよりの目の前で記憶を奪うなんて言ってしまった……懲りていないのは私の方だった」
こなた「昨夜の事を言っているの……本人はあまり気にしていないみたいだけど、変わったところも見当たらないし」
ゆたか「うんん、取材でボイスレコーダーを使わなくなったでしょ、あれは私のせい、必要以上の記憶が消えてしまったから」
こなた「そうかな……」
ゆたか「そうだよ、私には解るの、だから今でもこうして眠れない時が……どうしてあんな事をしたって……なんでまた同じ事をさせようとするのかって……」
こなた「……難しい事は分からない……よ」
ゆたか「そうだったね、これは私の問題だった、ごめんなさい」
こなた「でもひよりはゆたかを赦した、ゆたかが部屋に頭を冷やしに行った時もゆたかを庇っていたからね、それは私にも分かる」
ゆたか「ひより……」
ゆたかは机に置いてあった本をひよりが隠していた場所に戻した。
こなた「良いの?」
ゆたか「うん」
その時のゆたかの笑顔は印象に残った。
こなた「さてと、そろそろ行かないと」
ゆたか「あ、そうだ、眠れないからお弁当作っておいたよ、休憩の時に食べて」
こなた「ありがとう」
お弁当を受け取った。
ゆたか「確か、お姉ちゃんのお店が引っ越す前の町だよね……」
私はは頷いた。
ゆたか「これも何かの運命なのかな……」
こなた「つかさは一人旅に出る時、かがみからお弁当を受け取った……」
ゆたか「あっ……同じ……」
こなた「ははは、偶然だよ……それじゃ行って来ます」
ゆたか「行ってらっしゃい」
私は神崎めぐみの自宅へと向かった。


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