ID:2BcYWkhw0氏:こなたの旅(ページ2)


 車を走らせて数時間。もう目的地に着こうとしている。
結局ゆたかとひよりに会ったけどあの記者の対策はこれといって出なかったな~
こなた「ふぅ~」
思わず溜め息。
それにしても、あの町へ行くのは引っ越してから初めてかもしれない。つかさはあの神社に思い出がある。かえでさんは生まれ育った故郷。この二人は何度も行っている。
私は仕事であの町に引っ越して住んだだけ。特に思い入れもなければ親しい人が居るわけでもない。遠いし田舎だし……こんな事を言えばかえでさんが怒ってしまう。
そんな私がその町に行こうとしているなんて。
私の思い出と言えばお稲荷さんの出来事くらいか。
ふと車の時計を見た。約束の時間よりかなり前に到着しそうだった。そんなに飛ばして運転はしていないのに。
最近になって高速道路が整備されて近くにインターチェンジが出来た。それを計算に入れていなかったせいかもしれない。
みゆきさんが言っていたっけな。仕事関係以外で家を訪問する時は約束の時間より少し遅れて訪ねるのがエチケットだって。
まぁ、向こうもいろいろ準備があるだろうし。どうしたものかな……
こうなるのだったらもう少し遅く出ても良かった。そうすればゆたかからお弁当を受け取らなくても……あ、そうだったお弁当まだ食べてないや。
折角作ってくれたのだから食べないと悪いな……どこで食べよう。車の中で食べちゃおうか……
それだと時間が余りすぎちゃう。食べて一休みすると眠ってしまって今度は遅れ過ぎてしまうかもしれない。
あれこれ考えて……車を止めた所はあの神社の入り口の前だった。

あの時と変わっていない。それもそうだ。それが条件で町に譲渡したのだったのだから。変わったといえばお参り用に駐車スペースが確保された所くかいかな。
その駐車スペースに停めて車から降りた。
こなた「う~ん」
背伸びをして座って固まっていた身体を伸ばした。
ここまで来たからには……
神社の入り口を見上げた。
やっぱり頂上で食べないと意味ないかな……つかさもあの時同じように思って登ったに違いない。
『わっ!!!』
こなた「ひぃ!!」
突然後ろから声を掛けられた。私は跳びあがって驚いた。振り向くとフルフェイスのヘルメットを被った人が立っていた。
「驚いちゃった?」
この声は……その人はヘルメットを取った。ヘルメットから長い髪がふわっと零れ出た。彼女はその髪を手でさっと梳かした。
神崎あやめ……
あやめ「どうしたの、こんな所で」
こなた「そ、そっちこそなんでこんな所に……」
まだ驚いて心臓がドキドキしている。
あやめ「私? 私は買い物の帰り、それにしてもバイクで近づいたのに全く気付かなかったから……どうしたの物思いに耽っちゃって……」
こなた「べ、別に何でもない……」
神崎さんは私をじっと見た。
あやめ「その手に持っているのは……お弁当?」
こなた「そうだけど」
神崎さんは私の見ていた神社の入り口を見た。
あやめ「……あぁ、なるほど、神社の頂上でお弁当を食べようとしていたのか……そうそう、この神社の頂上はねとっても景色が良いからね……」
神崎さんはバイクを私が停めた車の横に置いた。
あやめ「案内するよ、絶景のポイントがあるから」
彼女は微笑んで神社の入り口に歩き出した。
こなた「え、い、良いよ、私は一人で……」
あやめ「いいから、いいから」
私の腕を掴むと神社の入り口まで引っ張った。
こなた「分かった、案内してもらうからその手を放して……」
手を放した。
あやめ「そうこなくっちゃ……ちょっと頂上までは体力要るから覚悟して」
神崎さんは神社の入り口に入り階段を登り始めた。
まぁいいか。どうせ私も登るつもりだったし。私は彼女の後を追った。
 でも何だろう。さっきの彼女の笑顔……
取材に来た時や店に客として来た時だってあんな爽やかな笑顔は見た事ない。
どうもさっきから彼女のペースに押され気味。よーし、私がただのオタクじゃい所をみせてやる。一回大きく深呼吸した。
「3、2、1……」
こなた「ゴー!!」
全速力で階段を駆け登った。あっと言う間に神崎さんを追い抜いた。追ってくる気配はない。でも私はペースを落とさず頂上まで登った。

こなた「はぁ、はぁ、はぁ……」
さすがに息が切れた。両膝に手を掛けて休んだ。そして階段を見下ろした。はるか小さく彼女が登ってくるのが見える。彼女がどんな反応をするか楽しみだ。
彼女は数分遅れて頂上に着いた。彼女も少し息を切らせていた。
あやめ「……凄い……まるで陸上選手みたい」
私を見上げて驚きの表情を見せた……あれ?
思った反応とは違った態度を取った。負け惜しみの一つでも言うのかと思った。そうしたら私も透かさずドヤ顔で返してやったのに。拍子抜けだな。
彼女は呼吸を整えると階段から少し歩いて私を手招きした。
あやめ「お弁当を食べるなら此処が良い」
私は彼女の指差す切り株に腰を落とした。そしてお弁当と広げた。
ゆたかの作ったお弁当か……高校時代以来か。盛り付けが上手くなっている。あれだけ全力で走って振ったのに具が崩れていない。それに彩りも鮮やかだ。
一口食べた……味付けはあの時とあまり変わっていない。懐かしい味だった……
あ、そういえば神崎さんは何処だ……
神崎さんは階段から景色を見下ろしていた。もしかしてそこが絶景なのか。別に教えてくれるもなにも頂上に着けば誰でも見れらる景色じゃないか……
もしかして私が食べ終わるのを待っているのかな……しょうがないな……私だけ食べているのも気が引けるし……
私は食べるのを止めて神崎さんの立っている所に向かった。
こなた「もしかして、これが絶景?」
神崎さんは遠い目をして眺めている。私の声が聞こえていないみたい。それならそれでいいや、残りのお弁当を食べちゃおう。
あやめ「泉さん、貴女はこの町に住んでいる時、この神社を登った事はあるの?」
戻ろうとしたその時だった。私は立ち止まった。
こなた「あるけど……」
あやめ「町内の住民ですら滅多に来ないこの神社なのに、あの店長さんに付き合わされたのかしら?」
そうじゃない、そうじゃないけど……なんて言えば……
神崎さんは景色を見ながら話した。
あやめ「ふふ、話したくないなら、無理には聞かない」
引いた……ますますこの人がどんな人なのか分からなくなった。これも取材の一環なのか?
あやめ「私の住んでいる家、そしてこの神社、十年前の計画で取り壊される計画だった」
こなた「家が、壊される?」
あやめ「そう、この神社の一帯が都市計画になったのは貴女も知っているでしょ、私の家の廻りもその区画だったの」
さらに話しは続いた。
あやめ「確かにワールドホテルからの補償金額は家と土地を足しても余りあるものだった……私達家族は反対した、そうしたら向こう側から交渉しようと持ちかけてきてね、
    交渉は順調に進んで私達の区画を計画から外すと決まり掛けた時だった、あの事件が起きたのは……」
こなた「事件って、ワールドホテル会長の逮捕?」
神崎さんは頷いた。
あやめ「その後の交渉についたのは貿易会社、今までの交渉を無視して彼等は区画を変更しないで私達に退去を迫った、しかも保証金は半分にされてね……
    でも私達にはそれを覆す手段も力も無かった、私はまだ駆け出しの記者にすぎなかった……」
そんな過去があったのか。しかし重い話しだ。私はこう言う話は苦手だな。
あやめ「それが一変した、匿名の誰かが計画区画を全て買い上げて無償で寄贈した、匿名でそんな事をしても得にはならない、会社や組織ではないのは直ぐに分かる、
ワールド会社から私達家族に示された保証金から換算して土地買収に数十億、それを上回る金額……私の計算では数百億のお金が動いたと思う、
でも個人でそんな金額を動かせる人物は限られる、一体誰がそんな事をしたのか……政治家か資産家か……分からない」
誰かって……私の事じゃないか……まさか本人を目の前にそんな話しをしているなんて彼女は判って言っているのか……ま、まさか、あれは全部ネットでやった事、
足跡は残らないようにしたし分かるはずはない。
あやめ「それが私の追い続ける真実」
こなた「そ、それで私を呼び出してどうしろって……私はしがないレストランのウエートレスですよ」
神崎さんは振り返り私の方を向いた。そして手に持っているお弁当を見ると手掴みで卵焼きをつまみ自分の口に入れた。
あやめ「もぐもぐ……それは私の家で話す」
こなた「あっ!! そ、それは……」
それは私の一番好きな卵焼き、楽しみに取っておいたのに……
あやめ「お弁当を食べるときは一人で食べるとつまらないでしょ、そう言ってたじゃない?」
こなた「そ、それは……」
神崎さんはにっこり微笑んだ。
あやめ「ふふ、貴女の無事を祈り込めて作っている、美味しかった」
そう言うと神崎さんはハンカチを取り出した。
あやめ「私は幼少からこの神社で遊んでいてね、この階段を速く下りる方法があって……」
神崎さんは階段の手摺にハンカチを巻くとそこに腰を下ろし両足を上げた。体と足でバランスを取りながら滑ってく、みるみる速度が増していく。
あやめ「下で待ってから~」
あっと言う間に小さくなってしまった。

登りのお返しか。それなら私だって……急いでお弁当を片付けて……ゆたかの作った卵焼きを食べるなんて信じられない……何が無事を祈ってだよ……あ、あれ?
神崎さんはなんでこのお弁当を私が作っていないのを知っていたのだろう……
私の無事を祈ってって……確かにゆたかならそうしたかもしれない。
こんな事が出来るのは……お稲荷さん……
 ん~、結論を急ぎすぎたかな。彼女はかえでさんに策士と言わしめた人だ。お稲荷さんっぽく感じただけかもしれない。
地球に残ったのは四人だけ……もし彼女がお稲荷さんならひろしが気付くはず。
それにけいこさんやめぐみさんの失踪ならその真相を知っているはずだ。こんな回りくどいことをする必要はない。そう考えるとやっぱり神崎あやめは人間だ。
それじゃ彼女はこの神社を寄付した人を探してどうするつもりなのかな。
お礼をするつもり……
それだけなら私達は秘密にしている必要はない。彼女がつかさに会おうが会うまうが関係なくなる。そして私もこんなに悩まなくてもよくなる……
こなた「ふぅ~」
溜め息をついた。そんな単純じゃないよね……
気付くともう神崎さんの姿は見えない。もう下りてしまったのか。
あの記者はこの神社を寄付した本人に何を話すつもりなのか。少しそれも興味があるな。
ポケットからハンカチを出した。そして神崎さんと同じように手摺に巻きつけてその上に腰を下ろした。バランスを取りながら滑る……
こなた「うわ~」
落ちそうになった。だめだ。これは直ぐに出来ようなものじゃない。くやしいけど歩いて下りよう。

 神社の入り口に戻ると彼女はバイクに跨り私を待っていた。親指を立てて向かう方向を指している。私を案内してくれるのか。
私は車に乗りエンジンをかけた。彼女はゆっくりとすすみ始めた。そして私は彼女の後を付いていった。

 神社で5分もかからない所に彼女の家があった。なるほどこれなら駅も近いから電車でも苦にはならない。あの時電車か車って聞いたのはそのためだったのか。
あやめ「適当な場所に停めていいから」
彼女はバイクを降りた。私も彼女の言うように適当な場所に車を停めて降りた。
あやめ「家に入って待っていて、バイクを置いてから向かうから」
こなた「うん……」
彼女は家の裏の方にバイクを引いて入って行った。家に入るって家の鍵なんか持っていないのに……
玄関の前で待っているかな。
『ガチャ』
扉が開いた。
「あら、あやめの友達ね」
女性が中から出てきた。見た目の歳から判断すると神崎さんのお母さんかな。
こなた「こ、こんにちは……」
「あやめの母、正子と申します……」
正子さんは深々と頭を下げた。やっぱり思った通りだ。
こなた「あ、泉こなたと言います……」
私も思わず釣られて頭を下げた。
正子「どうぞ中へ」
こなた「お邪魔します……」
中に入り靴を脱いだときだった。
正子「あやめはまたオートバイにに乗って……幾つだと思っているのかしら」
心配そうに玄関を見ている。
こなた「買い物って言っていましたけど……」
正子「もうとっくに結婚して子供の一人や二人居てもいい頃なのに、仕事やオートバイばっかりで、事故でも起こされたら……」
正子さんの姿が早退したつかさを心配していたみきさんの姿と被って見えた。お母さんか……
正子さんは居間に私を通した。
正子「そこで待っていてね」
こなた「はい」
間もなく神崎さんが帰ってきた。
正子さんは玄関に向かった。
あやめ「ただいま、泉さんが来てるでしょ?」
正子「あやめ、オートバイは危ないって何度も言っているでしょ」
あやめ「別に良いじゃない、私の勝手でしょ」
正子「勝手って……あやめ」
あやめ「お客さんが来てるでしょ、みっともないから止めて、それに大事な話があるから部屋には来ないで」
玄関から怒鳴り合いの大声が私の耳に入ってくる。
どたどたと足音が近づいてきた。
あやめ「ごめんお待たせ、私の部屋で話しましょ」
こなた「う、うん」
あやめさんの後を付いて部屋に向かった。

 私が部屋に入ると神崎さんは扉を閉めた。
あやめ「ふぅ、まったく、煩くてしょうがない」
うんざりしたような表情だった。
こなた「帰ってくるなり親子喧嘩なんて……」
あやめ「恥かしい所を見られた、でも、悪いのは向こうの方だから」
こなた「うんん、正子さんは神崎さんを心配して」
あやめ「何が心配だ、知った風に、貴女も親子喧嘩くらいしてるでしょ、分からないの」
少し興奮気味だった。私は普段通りの口調で答えた。
こなた「お母さんは生まれて直ぐに亡くなった……喧嘩どころか話しすらした事ない」
あやめ「え……ご、ごめんなさい……」
驚いた。すぐに謝ってくるとは思わなかった。この人、見栄は張らないタイプなのか。かがみとは違うな。
こなた「別に気にしていないから、それより話しを聞きたいな、明日は仕事だから手短に」
あやめ「えっ、あっ、そ、そうだった」
神崎さんは私を椅子に座らすと立ったまま話し始めた。
あやめ「二人の失踪事件、未だに二人の消息は分かっていない、私も個人的に調べた限りでは拘置所から消えてからの足取りは全く分からない、まさに蒸発の文字通り
    気体にになって消えたとしか思えないほど見事に証拠がない、ここからは私の推測なんだけど、これはそうとう大きな組織が絡んでいる」
あらら、話が大きくなってしまっている。でも記者らしい推測かもしれない。
あやめ「これを見て」
本棚からA4サイズの数枚の紙を私に渡した。そこには表があり数字が書き込まれている。私にはさっぱり分からない。
こなた「何これ?」
あやめ「貿易会社で過去十年に取得した特許の数……もう一方はワールドホテルの会長が取得した十年分の特許数……
    どう、数がほぼ同じでしょ」
こなた「うん……」
あやめ「ワールドホテルの従業員は殆ど解雇されているのにも関わらずこの高水準を維持できるのは不自然、私はね二人は貿易会社に誘拐されたと思っている、
    あのくらい大きな組織なら証拠を残さずに拉致することくらい簡単に出来ると思う」
私は書類を彼女に返した。
こなた「大胆な推理だね、でも……飛躍しすぎだよ……」
あやめ「そうかしら、あの会社は最近あまり良くない噂があってね、闇の商売……兵器の開発や売買に関与していると言う、それが明るみにできれば二人を救出できる
    私は二人を救い出したい、貴女もそう思うでしょ?」
まるで映画の世界のような話だ。
こなた「……それで、私にどうしろって言うの」
あやめ「貿易会社に潜入取材をする、それを手伝って欲しい」
こなた「ほぇ?」
何を言い出すと思えば私にスパイをしろってか。しかし彼女目は真剣そのものだった。
こなた「ちょ、ちょっと待って、いきなり潜入だななて、神崎さんはあの神社を取り戻した人を探しているんじゃないの?」
あやめ「そう、だからあの二人がそれをしたと思う、あの会社が簡単に一度取得した土地を手放すとは思えない、何か交渉したに違いない」
こなた「わ、私はスパイなんか出来ないよ」
あやめ「安心して、取材は全て私がする、貴女はサポートしてくれるだけで良いから」
私の手を握って来た。目がマジになっている。
この人本気だ、本気で私を巻き込もうとしている。ダメだよそんな事をしても意味ないよ……
こなた「実はね、あの神社を買収したのは私だから……」
あやめ「ん、なに?」
あっ、しまった。彼女の迫力に押されてつい言ってしまった。神崎さんは私をじっと観察するような目つきで見ている。
どうしよう。もうおしまいだ。バレてしまった


 神崎さんは黙って私を見ている。もう何を言ってもダメだろう。素直になるしかない。
あやめ「貴女が、神社を買収した?」
こなた「う、うん……」
私はもう頷くしかなかった。
あやめ「数百億のお金を動かし、貿易会社から土地を買ったって……」
こなた「う、うん……」
あやめ「プッ!!  ぎゃはははは、ふははははは~」
腹を抱えて笑い出した。私は呆然と彼女を見ていた。
あやめ「はははは、いくら手伝いが嫌でももっと上手な嘘を付きなよ、はは~」
彼女の笑いは数分間続いた。なんかこんなに笑われるとちょっと腹立たしい。私はちょっと頬を膨らませてそっぽを向いた。
あやめ「……貴女は大富豪や政治家の娘じゃないよね、見たところ普通の女性、貴女のどこにそんな金額を動かせる力があるの、そんな方法があるなら私が聞きたいくらい、
    もし、万が一、貴女がしたというなら魔法を使ったとしか考えられない……」
そう、私はその魔法を使った。お稲荷さんの知識を使った。優秀な記者でさえ私がそんな事をしたなんて見抜けない。
こなた「は、はは、そうだよね……ははは」
笑って誤魔化すしかなかった。
あまりにも現実離れしているからバレないで済んだ。これはラッキーだった。それと同時に激しい自己嫌悪を感じた。
私はつかさに怒鳴って怒った。内緒の意味を知っているのかって。意味を知らないは私の方だった。
ただ迫力に圧倒されただけで秘密を話してしまうなんて。秘密を守るのってこんなに難しいとは思わなかった。つかさに対して本当にすまないと思った。
あやめ「嫌なのは分かるけど、話は最後まで聞いて欲しい」
神崎さんが真剣な顔になった。今は反省している時じゃない。ここは話しを聞こう。
こなた「うん、此処まで来たのだし……」
神崎さんも腰を下ろし話し始めた。
あやめ「旧ワールドホテル本社改め、貿易会社日本総本店、そこにあるレストランに臨時求人があるの、そこに一ヶ月間働いてもらう、
    そこで、資料室から資料をいくつか写す、もちろんそれは私がする、貴女はその資料室の場所を探してもらいたい、私は少し有名になり過ぎて自由に行き来できない」
こなた「臨時って、それでも私はレストランかえでを辞めないといけないって事じゃん」
あやめ「まぁ、そうなる」
こなた「ちょ……簡単に言ってもらっちゃ困るよ、私は雇われの身、勝手にそんな事できないよ、それにホテルのレストランなんて……私……一回も働いた事ない、
    それに何で私なの?」
神崎さんはニヤリと笑った。
あやめ「初めての取材の時のあの発言は素晴らしかった、それに一ヶ月間、貴女を見てきたけど接客態度は賞賛に値する、一流のホテルでも充分通用する、問題ない、
    私はね柊けいこにスカウトされたレストランを全て見た、その中で貴女が一番適任だと判断した」
この人の言っている事は本当なのかな。私をおだててその気にさせる話術なのかもしれない。しかしそんな考えをする暇もく更に彼女は話し続けた。
あやめ「あの店長は……そうね、私が直接交渉しよう、取材が終わったらちゃんと復職できるようにする、それなら文句はないでしょ?」
こなた「……文句はないけど、そんな交渉できるの?」
あやめ「確かに難しい、だけどするしかない」
神崎さんも必死ってわけか。
こなた「で、そのレストランってどんな店なの?」
あやめ「コスプレ喫茶」
こなた「……こ、コスプレ……?」
あやめ「別に如何わしい店じゃない、貴女の経歴に傷がつくような事はないから、見た目は十代だから絶対に採用される」
成る程、コミケに参加しているだけあって私がその手の経験者だって見抜いたのか……適任か……
そういえば今の店じゃコスプレなんてできない。クリスマスの時サンタっぽい格好をするくらいだった。
あやめ「どう、興味でてきた?」
こなた「え、え~、ま、まぁ少し」
神崎さんの口車に乗るのも良いかな?
あやめ「よし、交渉成立!!」
私の手を握って握手をした。
こなた「ちょ、ちょっと、まだ早いよ」
あやめ「そうかな、さっきの貴女の顔、その気になった顔だった」
くっ、いちいち人の心を読む人だ……
こなた「やってみるよ……かえでさんの許可が出ないとどっちにしろダメだよ」
あやめ「そうこなくっちゃ!!、交渉は任せて」
自信ありげな口調だった。そして神崎さんは立ち上がった。
あやめ「それじゃ、私の手料理をご馳走してあげる、もちろん貴女の店よりは劣るけどね」
こなた「別にそんなことまでしなくたって……」
神崎さんは上着を脱ぎ始めた。どうやら着替えるようだ。確かにバイク用の服じゃ料理はし難い。
あやめ「取材の成功を願って祈りを込めて作る、いつもやっている事だし」
こなた「それじゃ、言葉に甘えようかな……」
神崎さんの動きが止まった。
こなた「どうしたの?」
あやめ「どうしたのって、これから着替えるから……」
顔が赤くなっている。まかか。
こなた「着替えるって、私女だよ、店じゃみんな更衣室でこうやって話しながら着替えている、同性だし恥かしくなんかないよ?」
あやめ「……いいからちょっと居間で待っていてくれるかな」
あらら、この人すごく恥かしがりやだな。だとしたらかがみ以上だ。まぁそこまで言われていたら出ないわけにはいかないか。
こなた「それじゃ出ますよ」
部屋を出て居間に向かった。

 居間に入ると正子さんが居た。私に気付くと席を立った。
こなた「神崎さんが此処で待って欲しいと言われまして……」
正子「そうですか、どうぞ座ってください」
こなた「はい……」
席に座った。なんか緊張するな。正子さんはそのまま台所の方に向かった。
正子「お茶を入れましょうね」
こなた「あ、ありがとうございます……」
正子「……部屋から聞こえましたよ、あの子があんなに笑うなんて……暫く聞いていなかった、あやめの笑い声」
お茶を入れながら話す正子さんだった。居間と台所は仕切りがないので様子が見える。
こなた「そんなに毎回喧嘩しているの?」
正子「ふふ、喧嘩も久しぶり、滅多に喧嘩なんかしない、よほど貴女が来るのが嬉しかったようね、子供の頃からそうだった、あやめは親しい友達がくると
   気持ちが高ぶるみたい」
こなた「そうなんですか~」
あんな喧嘩を毎回やっていたら大変だ。少し安心した。でも、神崎さんの話しをしている正子さんのあの顔はなんだろう。微笑んでいるようにも見えるし。安らかにも見える。
喧嘩していた時と違う。お母さん……か。
正子「どうぞ」
お茶を私の目の前に置いた。
こなた「あ、どうも……」
正子さんは私の目の前に座り私をじっと見つめた。ちょっと恥かしかった。
正子「ふふ、可愛らしいわね、こんな年下の友達なんて珍しい」
こなた「可愛らしいって、私、神崎さんと同じ歳です」
正子「え、あ、そうだったの、ごめんなさいね、あまりに……その、若く見えるものですから」
驚いて私を見ている。普通ならあまり良い気はしないのだけど。でも、何故か正子さんの言葉が自然に受け入れられる。
こなた「いいですよ、背も低いし、子供体形ですし、童顔ですし」
正子「本当にごめんなさい」
頭を深く下げてしまった。あ、少ししつこかったかな。
こなた「あ、あ、そそれより、あやめさんってどんな人なんですか、実は会ってからそんなに経っていなくて」
正子「あやめ……見たままの子ですよ、正義感が強いのか、あんな職業に就くなんて、何度か危険な目にも遭っているみたいで」
正子さんの顔が曇った。
こなた「……それは心配ですよね……」
正子「まさか、泉さんにも何か強要していないかしら」
私を心配そうに見ている。何だろうそんな目で見られるとこっちが心配になってしまう。
あやめ「おまたせ……母さん、泉さん、な、何を話していたの」
正子「さて、何かしらね」
私を見てにっこり微笑んだ。
こなた「さて」
これは正子さんに合わせよう。それしか思い浮かばなかった。
あやめ「まったく、二人して……話している内容は想像がついたよ」
呆れ顔で台所に向かう神崎さん。正子さんが立ち上がり台所に向かおうとした。
あやめ「私一人でするからいいよ、泉さんの相手をしていて」
正子さんは席に戻った。
正子「そういえばこの町は初めてではないって聞きましたけど」
こなた「はい、以前この近くに住んでいました、レストランかえでって知っています?」
正子「……あ、ああ、ありましたね、温泉宿と一緒だった」
こなた「はい、そうです、そこのホール長を務めてます」
正子「一度は行こうとしていたのですが……」
……
……
 神崎さんのお母さんか……
お母さんが生きていたらこの位の歳になっていたかもしれない。容姿も多分性格も違うのに何故かとても親近感が湧く。もちろん今までも他人の母親を見てきている。
つかさやかがみの母親みきさん。みゆきさんの母親ゆかりさん。みなみの母親ほのかさん……
その中でもみきさんが一番会う機会が多いかもしれない。それでもこんな感じになった事なんかなかった。
もしかして正子さんはお母さんに似ている所があるのかもしれない。そんな気がしてきた。幼い頃の僅かな記憶がそうさせているのかも……
 こうしているうちに神崎さんの料理が出来た。

あやめ「そろそろご感想を聞きたいな……」
こなた「え、あ、ああ、美味しいよ、うん、凄くおいしい」
神崎さんの料理が出来上がってもう殆ど食べ終わった頃だった。
あやめ「もっとプロらしい意見が欲しいね、それじゃだれでも言える感想」
こなた「プロって言ったって私は直接料理を作って出したりしないから……」
神崎さんはじっと私を見ている。もっと意見を聞きたそうにしている。
こなた「う~と、盛り付けが綺麗で心が籠もっている感じがよく出ていると思う……こんな感じでいい?」
あやめ「盛り付けね……まさかそっちの感想が出るとは思わなかった」
神崎さんは立ち上がった。
あやめ「それじゃそろそろ行きましょうか」
こなた「え、行くって何処に?」
あやめ「もちろん貴女のお店に決まってるでしょ、店長さんと交渉しないといけないし」
こなた「今から?」
あやめ「早くしないと向こうのレストランが募集を締め切るかもしれない、決まったら即実行」
正子「もう少し休んでからでも、ご飯を食べたばかりで」
こなた「今から行っても店の閉店時間を過ぎちゃうね……」
神崎さんは時計を見ながら考え込んだ。
あやめ「店長さんの自宅に行く手もあるけど……それだと流石に失礼かもね……それじゃ日が変わった頃此処を出ましょうか、そうすれば開店前に着くでしょ」
こなた「うんん、それだと忙しいからお昼を越えた頃が良いかも、私も遅番だし丁度いい」
あやめ「分かった、そうしましょう、それじゃそれまで休憩」
正子「またオートバイで……」
正子さんが心配そうな顔で神崎さんを見た。
あやめ「……それじゃ泉さんの車で同行する……」
こなた「うん、それで良いよ」
私は頷いた。

 車で移動中彼女とは何も話さないつもりでいた。あまり話すとお稲荷さんの話しをしてしまいそうだったから。だけど向こうの方から話しかけてきた。
あやめ「泉さんは母の肩を持つってばかりいる」
こなた「別にそんなつもりはなかったけど……不服?」
あやめ「不服って訳じゃないけど……本当はバイクで行きたかったのに」
こなた「そうやって喧嘩したり話したり出来るのだからいいじゃん、私は羨ましいよ」
成る程ね、意識したつもりはなかったけど神崎さんにはとう思ってしまうのか。
こなた「それよりさ、潜入取材だけど、神崎さん単独じゃできないの?」
あやめ「言わなかった、私は有名になりすぎたって……取材がバレたら意味ないでしょ」
こなた「コスプレだって神崎さんの体形なら問題ないよ、バイクを運転している時に来ていたぴっちりの服さ、ボン、キュッ、ボンってなかなかグラマーだった」
あやめ「いやらしい……表現がエロオヤジだ……」
目を細めて私を見た。
こなた「そうかな」
あやめ「同性とは思えない、どうやったらそんな表現が出来るんだ?」
こなた「う~ん、ギャルゲーとかしてるし、そのせいかな~」
あやめ「ギャルゲーって、あれは男性向けじゃないの、どうやったらそんなゲームをする気になるのか分からない」
こなた「そんな風には感じない……でも、まぁ男性視点かもしれないけどね……お父さんの影響かな」
あやめ「お父さん……」
急に神崎さんが黙ってしまった。これで少しは運転に集中できるかな……
あやめ「泉さんのお父さんって仕事は何かしているの?」
こなた「一応作家やってるけど……」
あやめ「作家……凄いじゃない」
こなた「凄いって、別に人気作家じゃないし……ね」
あやめ「同じ物書きとして尊敬する……今度会わせてよ」
こなた「あまり会わない方がいいと思うけど……」
あやめ「どうして?」
こなた「私と同じ趣味だよ、さっきエロオヤジとか言ってたじゃん」
あやめ「娘にそんな影響を与える父なんてそんなに居ない……それにね、私の父は生まれて直ぐに亡くなってしまったから父親がどんなものなのか知らない」
やっぱり、そんな気がしていた。家でも神崎さんのお父さんの話が一度も出なかったからおかしいと思っていた。
こなた「……なんか切なくなった」
あやめ「別に悲観することじゃない、お互い片親だったって分かった事だし、泉さんとならこれからうまくやっていけそうな気がする」
こなた「これからって、もう潜入取材なんてこれっきりだから……」
あやめ「そうかな、レストランの店員にしておくには惜しいと思うけど?」
こなた「まだかえでさんの承認ももらえていないし、承認がもらえたとしても採用してもらえるかどうかだって……」
あやめ「私に任せなさい……でもね、私達の取材の内容は他言無用だからそれは最初に言っておく」
こなた「う、うん……」
 こんな会話が延々と続いた。

何度か休憩を挟み私達はレストランかえでの駐車場に着いた。そしてレストランに入った。
こなた「こんちは~」
あやの「こんにち……え、ど、どうしたの?」
私の後ろに居る神崎さんを見て驚いたようだ。
こなた「ちょっとね、いろいろ訳があって、かえでさん居るかな」
あやの「事務室に居るけど……一体どう言う事なの……」
こなた「とりあえず店長のところへ」
あやのは私と神崎さんを事務室に案内した。さすがのかえでさんも神崎さんの姿を見ると驚きを隠せなかった。神崎さんは私の前に出て話しだした。そして話しをし出した。
かえで「こなたを一ヶ月間貸してくれだと」
あやめ「そう、是非とも協力していただいたい」
あやの「私は反対です、取材の内容も話さないで、そんなの承知できると思っているの」
かえでさん、あやの顔が一瞬のうちに曇った。
あやめ「機密事項なので内容は話せません、ですが泉さんの力がどうしても必要なのです、一ヶ月以上の期間は無いと思って頂いて結構です」
かえで「私の店の店員を引き抜くなんて、こなたも随分高く見られたわね」
かえでさんは私を見た。
かえで「それで、こなたはどうなの、あんたはその取材とやらに行く気はあるの?」
こなた「私は……」
かえでさんは手を前に差し出して私の話しを止めた。
かえで「話さなくて良いわ、行く気がないなら神崎さんをここまで連れて来る訳ない」
今度は神崎さんの方を見た。
かえで「一ヶ月と言えど大事なスタッフが抜ける、私の店のダメージは免れない、それはどう補償してくれるの」
あやめ「取材の成功、不成功に関わらず対価として500万円補償します、それと一ヶ月分の泉さんの給料も私が支払います」
ちょ、ちょっと、そんな大金を平気で言ってくるなんて……
かえで「一ヶ月で500万とは大きく出たわね……まだあるわよ、どんな取材か知らないけど、こなたを危険に曝すことは許さないわよ」
あやめ「この件に関して責任は全て私が持ちます……それと私からも一言、一ヶ月後は元の役職で復職が私の条件です」
かえで「う~ん」
かえでさんは腕を組んで考え込んだ。
あやの「店長、私は反対です、泉ちゃ……泉さんが抜けたらお客様の対応をだれがするの」
今度は目を閉じて考え込んだ。そして……目を開けた。
かえで「良いでしょう、許可します、こなた、行くからにはちゃんと成功させなさい」
あやめ「ありがとうございます、それではこれを……」
鞄から封筒をかえでさんに渡した。その封筒は分厚くなっている。かえでさんはそれを受け取った。
かえで「これは?」
あやめ「さっき言った500万です、受け取ってください」
かえで「最初から用意していたのか……ふふ」
神崎さんは私を見た。
あやめ「さて、これで交渉成立、準備して、私は貴女の車で待っているから」
こなた「え、もう?」
あやめ「早くしないと間に合わないかもしれない、出来るだけ急いで」
神崎さんは事務所を出て行った。
あやのがかえでさんに詰め寄った。
あやの「どうして承知なんか、私は反対です」
かえでさんは封筒を金庫に仕舞うと立ち上がった。
かえで「そうね、実は私も心配、だけどこなたには私の店以外の世界を見て欲しい」
あやの「泉ちゃんの仕事は誰が引き継ぐの……」
かえで「あやのに頼むしかないわね、私も出来るだけ手伝う、一ヶ月の辛抱よ……さて、午後からの準備をするわよ」
かえでさんは事務室を出て行った。

 あやのはじっと私を見ている。
こなた「どうしたの?」
あやの「私……泉ちゃんのように出来る自信がない……」
こなた「簡単だよ、あやのだって前の店でホールの仕事してたじゃん」
あやの「そうだけど……」
自信なさげな声だった。
こなた「そうだ、こっち来て」
私は更衣室に向かった。
あやの「更衣室なんか連れてきてどうしたの」
更衣室の自分のロッカーからメモ帳を取り出してあやのに渡した。
あやの「なにこれ?」
こなた「私のマル秘お客様帳だよ」
あやのはメモ帳を受け取って開いた。
あやの「これは……」
こなた「お客さんはいろいろ居るからね、今まで来たお客さんの中で特に注意する人を書いておいたメモ帳、付箋が付いているのが特に注意する人、
    クレーマーに近い人、その次は店の味に文句を言ってきた人、その次が料理を褒めてくれた人、もちろん名前を聞くことなんか出来ないから
    お客さんの特徴を書いておいた、対応方法も書いておいたよ、料理に文句つけてきた人はね油の量を減らすように注文するといいよ……」
あやのはまじまじとメモ帳を見ていた。
あやの「こ、こんなのを作っていたの……」
こなた「私ってバカだから記憶力ないでしょ、だからこうやっておかないとね……取材中は要らないから持っていて良いよ」
あやの「……今までかえで店長が泉ちゃんを手放さなかった理由が分かったような気がする……」
こなた「……そうかな?」
あやのは手帳を見ながら話した。
あやの「長髪の黒い髪の女性、歳は私と同じくらい、なにかとしつこく付きまとう…………これってあの神崎さんじゃ?」
こなた「そうだよ」
あやの「ちゃんとチェックしてある、ありがとう、取材頑張って……」
あやのは笑った。さてとこっちもいろいろ忙しくなりそうだ。
こなた「あ、そうだ、準備しないと……」
私物を整理した。



 私が私物を整理して店を出ようとした時だった。
かえで「あやのにアドバイスした様ね」
かえでさんが出口に居た。私を待っていたのだろうか。
こなた「アドバイスなのかなあれは……」
かえで「あやのは接客を全部こなたに任せてしまったからね、これで少しは気合をいれてくれると思う」
こなた「任せたのかな、私は結構面白かったかな」
かえで「トラブルを楽しんでいる……そういう所、ひよりに似ている、あんた気を付けなさい、余計なところまで首を突っ込むと怪我をするわよ」
こなた「ん~今度はそんな簡単じゃなさそうだから余計な事をする余裕ないかも……」
かえで「そう願うわ……神崎あやめか……こなたを使うなんて、さっき貰った補償金は使わないつもりだから安心しなさい」
こなた「そうだよね、多すぎだよ、まさか本当に渡すとは思わなかった」
かえで「こなた、あんたは自分を知らなさ過ぎだ、それはつかさに似ている」
こなた「へ?」
かえでさんは溜め息をついた。
かえで「ふぅ、私も私なりに神崎さんの事をいろいろ調べたわ、かがみさんに聞いたり、彼女の記事を読んだりしたね……思っていたほど分らず屋でもなさそうね、
    道理を弁えている、私達の秘密を話しても大丈夫なような気がする」
こなた「……げんき玉作戦をちょっと話してしまったけど……信じてくれなかった……」
かえでさんは目を大きくして驚いた。
かえで「話した……そんな話しをしたって事は、今しようとしている事ってそれに関係しているのか?」
それは言えない……私は黙って俯いた。
かえで「……口止めされているみたいね、それ以上聞くのは止めるわ……彼女が信じないのは彼女の常識や固定観念が邪魔しているからかもしれない、こなたに大金を動かせる
    力は常識じゃ考えられない、多分お稲荷さんの話しをしても同じ、彼女は作り話と考える、それならそれで私達には好都合よ、無理に秘密にする必要はない」
こなた「……そう言われると少し気が楽になった」
かえで「さぁ、神埼さんが待っているわよ、一ヶ月間、私達の事は忘れなさい」
こなた「う、うん」
私は店を出た。

 駐車場に行く途中つかさの店の横を通る。なんでもなければ挨拶をしに店に入る。だけど……それは出来ない。今つかさに会ったら神崎さんの取材の事を話してしまいそうだから。
秘密、内緒……か、
つかさ「こなちゃん?」
こなた「ひぃ~」
跳びあがって驚いた。
こなた「つ、つかさ、驚かさないで……ふぅ」
つかさ「え、普通に声を掛けただけど?」
不思議そうに首を傾げていた。
こなた「あ、そ、そうなの、で、でもね、後ろから急に声を掛けると驚くでしょ」
つかさ「ふふ、そうかも、ゴメンね」
まなみ「こんにちは~」
直ぐ後ろにまなみちゃんが居た。
こなた「今日はまなみちゃんと、何かあったっけ?」
つかさ「うん、近々ピアノの発表会があってね、まなみは上がり性だから私の店のピアノで克服しようってみなみちゃんが……」
こなた「ふ~ん、店のお客さんに聞かせてなるべく実際に近い状態で練習するって訳か」
私がまなみちゃんを見るとつかさの陰に隠れてしまう。あらら、普段はそんな子じゃないのに……この辺りはつかさの娘って感じがする。。
こなた「って、事はみなみも来るのかな?」
つかさ「うんそうだよ、こなちゃん、寄って行かない……あ、何か用事がありそう?」
私の姿を見てそう思ったのか。それもそのはず。私はスーツを着ているから。私は頷いた。
つかさ「それじゃ悪いね、まなみ、行こう、こなちゃんまたね」
つかさはまなみちゃんの手を引いた。私がまなみちゃんに手を振ると恥かしそうに小さく手を振った。
この件がなければ私はつかさの店に行っていたな……

 駐車場に着くと神崎さんが首を長くして待っていた。
あやめ「おそい!!……キー貸してくれるかな、私が運転するから」
こなた「私だって急ぐなら急ぐなりの運転できるけど……」
あやめ「泉さんには車で書いてもらいたい書類があるから、移動中に書いて」
こなた「書類?」
あやめ「履歴書、レストランかえでに就職する前の履歴を書いて欲しい」
神崎さんに車のキーを渡した。そして私は助手席に座った。。
あやめ「それじゃ行くよ」
神崎さんはゆっくりと車を走らせた。制限速度を守った模範的な運転だった。実はこれが結局一番早く着く、わかっているなこの人……
履歴書を書いている時だった。運転しながら話しかけてきた。
あやめ「駐車場に来る前、子連れの女性と話していたでしょ、随分親しそうだったけど誰なの?」
つかさと話していたのを見られていた。さすがにそつがない。
こなた「柊つかさ、高校時代からの親友」
なんの躊躇もなく答えた。かえでさんのアドバイスもあったかもしれない。それ以前につかさは私の友達だから……
あやめ「柊……つかさ……つかさ、貴女の店の隣にある洋菓子店の名前は確か……」
こなた「うん、洋菓子店つかさ、彼女が店主だよ」
あやめ「そ、そうだったの、私はてっきり店主は男性だとばかり思っていた、店の名と不一致でおかしいとは思っていたけど……」
こなた「彼はつかさの旦那でひろし」
神崎さんは暫く考え込んだ。
あやめ「最初あの店に行ったらやけに他人行儀だった、そんなに親しい仲なのに……不自然」
やっぱりこう来たか。いちいち勘が鋭いな。
こなた「そうそう、ひろしはその前まで私に無愛想だった、つかさがそれを注意したから、例え親しいくてもお客さんだよってね」
あやめ「ふふ、そ言う事なの、羨ましい、高校時代からの友人が近くに居て、店も競合していていいライバルじゃないの?」
こなた「まぁね、ちなみに副店長も高校時代の友達だよ」
あやめ「そうなの……」
何の疑いを抱いていない。自然な会話になった。実際に言っている事は本当だからかもしれない。かがみに嘘はつくなって言われたけどその通りだな。
 暫く履歴書を書いていて疑問が出てきた。
こなた「レストランかえでの私の履歴以外は何故空白なの、私の出身大学、生年月日、住所くらいなら調べられるんじゃないの?」
あやめ「私が他人のプライベートを調べる時はその人が大罪を犯したかその疑いがある人だけ、貴女はそんな疑いはない、自分のプライベートを覗かれるのは気持ち良いものじゃない、
    貴女もそう思うでしょ?」
こなた「う、うん、そうだね……履歴書全部書いたよ……」
あやめ「ありがとう、封筒に入れておいて……もう少しで着く、これから店の面接試験を受けてもらう、もちろん普段通りの泉さんで良い、結果は即日解るから、それとね……」
神崎さんは面接の中尉時点を話した。短期採用とは言えかえでさんの店以外で働くのはアルバイトの時以来になる。もちろん受かればの話しだけど。
 神崎さんは私を調べていないのに意外だと思った。この人は何でも徹底的に調べる人かと思ったけどプライベートに関しては慎重だった。
そういえば私がギャルゲーをしているのも否定していなかった。なんだかんだ言って私が彼女の言う事を聞いているのはそんな態度があったからかもしれない。
すると彼女はゆたかと私が従姉妹関係あるのを知らないのかもしれない。私を目当てに店に来た訳じゃないのか。
私の様な人を探していたのか。余計この記者が分からななった。
……でも悪い人じゃないってのは分かった。

 あれから一週間が経った。私は喫茶店のホール長をしている。
コスプレ喫茶と言っても店員がコスプレをしているだけで内容は普通の喫茶店だった。コスプレの内容は店員の趣味で自由に決めて良い。ただし、露出度の高いものは厳禁だ。
スタッフは私より若いのが殆ど。私は普段と同じようにしているつもりだったけどあっと言う間にホール長になってしまった。私自身も驚いてしまったほどだ。
正直言って面接試験で落とされると思っていたのに……
店で働くのは別にたいした事じゃなかった。それより難しいのがこのビルにあると言う貿易会社の資料室を探すこと。
このビルで働く人は全てIDカードを渡されて入退場を厳しくチェックされている。無闇に動き回れない。
幸いな事に私は材料の入庫管理も任されていたのでビルの倉庫までの通路なら何の制限もなく移動する事ができた。それでも各部屋の扉は部屋番号しか書いていないので
どんな部屋なのかは全く分からない。私が調べただけでも20の部屋があった。
私は自宅から通勤した。だってわざわざ一ヶ月のために引っ越したくなかったから。
神崎さんは近くビルの近くのホテルに泊まり私の報告を待っている。
仕事が終わると神崎さんの泊まっているホテルで待ち合わせをしている。報告のために。
彼女の部屋で作戦会議だ。
あやめ「番号だけの部屋が20……」
こなた「うん、扉の造りはみんな同じだし、中は覗けないし、もう調べようがないかな……」
あやめ「何言っているの、まだ一週間しか経っていないのに音を上げるのはまだ早い、それにこの期間でこれだけ調べられたのは評価に値する」
こなた「そうかな、部屋を数えただけなんだけど……」
神崎さんは腕を組んで考え込んだ。私は考えてもしょうがないのでテレビのスイッチを入れてテレビを見た。丁度夕方のアニメをやっていた。あ、懐かしいのをやっている。
暫くすると神崎さんはリモコンでテレビを消した。
こなた「あっ、いまいいところだったに~」
あやめ「泉さん、部屋に出入りする人物の特徴とか分からない?」
私の言う事なんてまったく聞いていない。目を輝かせている。何か思いついたのかな。
こなた「特徴って?」
あやめ「例えば貴女みたいに作業服を着ているとか、スーツ姿だったとか」
こなた「……スーツ姿の人なら何箇所が出入りしているのを見かけたけど……」
『バン!!』
両手で机を叩くと身を乗り出して私に近づいた。
あやめ「それ、それ、それだ……凄いじゃない、もう絞り込めたじゃない」
こなた「へ、意味が分からない、教えて?」
あやめ「泉さんの用な従業員の控え室なら作業服や制服を着た人が出入りする、資料室ならホワイトカラーが多く出入りする、そう思わない?」
こなた「え、でもずっとその扉で張っていた訳じゃないし……それに作業服を着た人だって資料室に入るじゃん、掃除とか……メンテナンスとか……」
神崎さんは微笑んだ。
あやめ「そうそう、そうやって注意深く考えながら観察して、例えば防犯カメラの数が多い所とかね」
こなた「そんな事出来ないよ」
あやめ「その調子で今後ともお願いって事、わずかか一週間でここまで進展するとは思わなかった」
こなた「明日は休みだけど……」
あやめ「そうだった……明日は何も出来ない……」
神崎さんは立ち上がった。
こなた「どうするの?」
あやめ「明日はビルの周りを調べる……その前に下準備をする」
この人は休むことを知らないのかな。
こなた「そんな事しても何も分からないよ、それより違うことをしたら?」
あやめ「違うこと、違うことって何?」
こなた「例えば家に帰るとか、もう一週間帰っていないでしょ」
あやめ「一週間くらい帰らないなんてザラ、珍しくもない」
こなた「それなら尚更帰らなきゃ」
あやめ「だから、どうして」
なんだ分からないのかな。洞察力と観察力が凄いと思ったのに。こう言うのはさっぱりだな。
こなた「神崎さんのお母さん、正子さんが心配してる」
あやめ「な、何を言い出すと思えば……子供じゃあるまいし、そんなんでいちいち帰って……」
私はちょっと悲しい顔をして見せた。
あやめ「……分かった、分かったからそんな顔をしないで」
こなた「そうそう、そうこなくちゃ」
あやめ「そのセリフは……ふふ、やられた……」
私達は笑った。
あやめ「泉さんはどうするの」
こなた「私はちょっと用があるから」
あやめ「そう、それなら明後日、同じ時間にここで会いましょう」
こなた「うん」
 明日はみゆきさんと会う約束をしている。本当は神崎さんと一緒に正子さんに会いたかったけど……

 次の日、私はみゆきさんの家を訪ねた。みゆきさんは結婚しても実家から出ていない。つかさと同じように婿養子みたい。と言っても近藤と姓を変えている。
何でも研究所が近いからと言う理由で家を出ていない。夫婦二人で研究に没頭している。もちろんその研究はつかさが作った万能薬の再現。
みゆきさんと会うのはつかさの演奏会以来。何年ぶりにかな~
久しぶりに電話をしたらすぐにOKを出してくれた。
みゆき「本当にひさしぶりですね、泉さんお変わり無いようですね」
こなた「みゆきさんこそ、全然変わっていないジャン」
私はみゆきさんのお腹をじっと見た。
みゆき「あ、あの、何か?」
こなた「赤ちゃんは未だなの?」
みゆきさんは首を横に振った。
こなた「研究も良いけど、たまには愛し合わないと……折角結婚したのに……」
みゆき「そうですね……でも、今までの苦労がそろそろ実が結びそうです」
こなた「もしかして、薬?」
みゆき「はい」
みゆきさんはにっこり微笑んだ。
こなた「凄い、いつ発表するの?」
みゆき「まだその段階ではないですけど……臨床試験とかいたしませんと……」
こなた「そうなんだ、ややこしいね」
みゆき「致し方ありません、それが現実です」
こなた「しかしつかさも罪だよ、作り方くらいメモっておけば良かったのにね」
みゆき「いいえ、つかささんはヒントを沢山頂きました……それにこれはお稲荷さんの知識、私達にとっては遥か未来の技術です、それを横取りするのですから……」
こなた「堅い事は言わない、言わない」
みゆきさんは笑いながら立ち上がった。
みゆき「所で、先日頼まれた件なのですが……」
こなた「どう、思い出せそう?」
私はみゆきさんに旧ワールドホテル本社ビルで資料室がありそうな場所がないかどうか前以て聞いていた。みゆきさんは以前あのビルに入ったことがある。
もちろんつかさやかえでさんもも入っている。つかさに聞くのも良いだろう。でもつかさは地図を読めるようにはなったけど一度や二度で場所を覚えられるまでには至っていない。
それにそんな質問をしたらつかさに取材の話しをしてしまいそうで恐かった。もちろんみゆきさんにも言ってしまうかもしれない。
只、みゆきさんは他の誰よりも口が堅い。それでみゆきさんを選んだ。
なんか私って二重スパイをしているみたい……お稲荷さんの秘密、げんき玉作戦、そして神崎さんの取材の秘密か、つかさと同じように旅をしたいなんて思っていたけど
これじゃ冒険だな……

みゆき「……旧ワールドホテルの会長室くらいしか覚えていません……すみません」
会長室か、今はどんな部屋になっているのかな。もしかしたら……
こなた「うんん、謝らなくてもいいよ、10年以上前の事を思い出せなんてのが無茶だった……その会長室って何階なの?」
みゆき「……ごめんなさい……」
そうだよね。階数を覚えていたらもっと細かい所まで覚えているよね。
こなた「無理言っちゃったね、もういいや、折角久しぶりに会ったのだかからもっと楽しい話題にしよう」
みゆきさんは目を閉じて両手で頭を押さえて考えていた。
みゆき「ちょっと待って下さい……35……確か35階だったような気がします」
35階……働いている店のすぐ上、それによく通る階だ。これは調べてみる価値がありそう。
こなた「流石みゆきさん、ありがとう」
みゆきさんは私を不思議そうな顔をして見ていた。
みゆき「いったい何があったのですか、何故今になって旧ワールド本社ビルを調べているのですか?」
そう言われるとそうだ。どうやって言い訳するかな……考えているのになにも出てこない……これは予想できた事なのに、まったく……つくづくバカだな私って……
こなた「え、えっと、まぁ、なんて言うのか……ひよりが新しいネタをだね……」
ますますドツボにはまっていく……
みゆき「神崎あやめ記者と何か関係あるのですか?」
こなた「うぐ!!」
な、なぜ知っている。私は目を見開いて驚いた。
みゆき「……かがみさんから伺っています、取材に来られた様ですね」
かがみが教えたのか。
こなた「ご、ごめん……詳細は話せない……」
みゆき「話せない深い事情があるのですか……私に何か手伝いができれば良いのですが……」
こなた「あ、もう充分に役に立ったよ、うんうん、ありがとう……なんかお邪魔しちゃったからもう帰るね……」
私は帰りの支度をし始めた。
みゆき「待って下さい……」
帰り支度を止めた。
みゆき「今まで黙っていましたけど……そろそろ話しても良い頃だと思います」
急に厳しい顔つきになったみゆきさん。こんな表情を見るのは初めてだ。
こなた「急に改まってどうしたの?」
みゆき「旧ワールドホテル……今は貿易会社のビルになっています……数年前から私は独自に調べていました……どうも腑に落ちない点がありまして……」
こなた「腑に落ちない点?」
みゆきさんは立ち上がると本棚からファイルを取り出しA4サイズの紙を取り出し私に渡した。
そこには表が書いてある。これってどこかで見た事あるような……この数字は……数字自体は覚えていなけどなんとなく分かった。
こなた「貿易会社における過去十年間の特許取得数……」
みゆき「タイトルを書いて居ないのに……分かるのですか?」
こなた「あ……なんだろうね、今日はとっても勘がいいみたい……ははは」
まさか本当にその表だったとは。みゆきさんも神崎さんと同じように貿易会社を調べていたのか。何で?……
みゆき「その通りです……おかしいとは思いませんか、ワールドホテルと同じペースで特許を出し続けられるなんて……」
神崎さんと同じ所を調べている。みゆきさんは何故おかしいと思うのかな……さっぱりだ。
こなた「私に聞かれても……どこが変なの?」
みゆき「ワールドホテルはけいこさんがお稲荷さんの知識を小出しにして特許を得ていました……それと同じ事を貿易会社がしています」
こなた「貿易会社がお稲荷さんの知識を小出しに……って、え?」
みゆきさんは頷いた。
みゆき「貿易会社にお稲荷さんが居るとは思いませんか?」
こなた「ちょ、ちょっと待って、お稲荷さんは四人しか地球に居ないよ、まさか、あの四人があの会社に秘密を教えてるって言いたいの?」
みゆきさんは首を振った。
みゆき「いいえ、それは無いでしょう」
こなた「それじゃ五人目のお稲荷さんが居るって言いたいの、それはないよ、あの時私はめぐみさんに確認した、三人地球に残るって……パソコンにそう登録した
    最後に一人、ひろしが戻ってきて四人……残りの十六人はみんな故郷の星に帰った」
みゆき「……あの時の総数が間違えていたとしたらしたら、地球に二十一人のお稲荷さんが居たとしたら」
こなた「間違え?」
みゆきさんは頷いた。
みゆき「お稲荷さんは十数年前まで総数二十一人でした、つかささんが一人旅をする前までは……」
こなた「何が言いたいの、分からないよ、もったいぶらないで教えて」
みゆきさんはゆっくり口を開いた。
みゆき「真奈美さんです、真奈美さんが生きているのではないか、私はそう思っています、何らかの理由で彼女は貿易会社に囚われているのではないかと」
囚われている……神埼さんも同じ事を言っていた。
こなた「みゆきさん、推理が飛躍しすぎだよ、死んだ人を出したらだめだよ……」
みゆき「私もそう思います、でも本当に彼女は亡くなったのでしょうか、つかさんをはじめ誰一人彼女の遺体を見ていません、それにつかささんの財布に大切に仕舞ってあるあの
    葉っぱ……今でも術が施され衰えていません……私はそれをずっと頭の中で引っ掛かっていました」
こなた「で、でもね、ひろしはその真奈美さんの実の弟だよ、いくらなんでも生きていればその存在に気付くと思うけど……それにまなぶさんはつい最近までお稲荷さんだった、
    その力は現役そのもの、生きていれば分かりそうだけど……」
みゆき「そうですね……私もその矛盾がどうしても克服出来ません……私の心の中に生きていて欲しいと言う願望が抱いた空想にすぎないのかもしれません」
項垂れてしまった。
こなた「今の話しはつかさに絶対に言っちゃだめだよ、つかさは今でも真奈美が死んだのは自分のせいだと責めているから……
    話していい加減な期待をさせたらつかさが可愛そうだよ……結局死んでいるのが分かったら今度こそ再起不能になっちゃうかもしれない」
みゆき「は、はい……そうですね、確かにつかささんには酷な話しです……」
みゆきさんがまさか神崎さんと同じように貿易会社を調べていたなんて。それでほぼ同じような推理をしている。
貿易会社の特許の内容なんて私には難しすぎて分からない。でも、みゆきさんがお稲荷さんの知識と考えたのであれば……もしかしたら……真奈美じゃないとしても本当に
五人目のお稲荷さんが居るって事なのかな……私の見たあの狐に似た野良犬……これって偶然?
だとしたら何故ひろし達は気付かない。五人目のお稲荷さんが勘違いだとしたら、
お稲荷さんじゃないとしたら貿易会社に知識を提供している人って誰?
みゆき「どうか致しましたか?」
こなた「え、あ、ああ、なんでもない……」
私の足りない頭じゃ何も分からない……
みゆき「その件についてはもう少し深く調べてみます」
こなた「え、う、うん……」
私達はいったい何を調べようとしているのだろうか?



 みゆきさんは死んだはずの真奈美と言い、神崎さんはもう地球に居ないけいこさんとめぐみさんだと言う。
貿易会社に知識を教えているのは一体誰なのだろう。二人の結論は違うもののお稲荷さんで共通している。神崎さんにいたってはお稲荷さんの存在を知らないのに。
二人が同じ結果を出したって事は……
五人目のお稲荷さん……もしかしたら本当に居るのかもしれない。
私もあの野良犬を見た時そう思った。まぁ、みゆきさんと神崎さんと比べれば説得力に欠けるかもしれないけど……現につかさに笑われちゃったし……それはさて置き……
ひろし達が何故気付かないのも置いておいて、取り敢えず五人目のお稲荷さんは居るのではないかと私は結論した。
神崎さんの取材は私にとっても重要になった。あの貿易会社は秘密がある、どうも胡散臭い。
取材をなんとしてでも成功させたいと思ったのであった。

 次の日、仕事を終えると神崎さんの泊まっているホテルに向かった。早速みゆきさんの思い出した会長室の話しをする。
あやめ「三十五階……」
私は頷いた。
あやめ「旧ワールドホテルの会長室が35階ってどうやって調べたの、ワールドホテルの時の見取り図はいくら探しても手に入らなかった」
どうやって……そう聞かれると言い難いな。
こなた「実際に中で働いていると分かることもあるんだよ」
神崎さんはじっと私を見る……この人に適当な返事をすると突っ込まれそうで恐い。かがみのツッコミと違ってカミソリみたいに尖っている。
あやめ「……昨日単独で調べたでしょ?」
そら来た、まったくその通りだから困ってしまう。
こなた「……う、うん……」
神崎さんの表情が険しくなった。やばい。
あやめ「私を母に会わせて置いて自分は一人で取材ですか……それを出し抜くって言うの」
こなた「別にそんなつもりは……」
あやめ「それに単独で行動して何かあったら私はあの店長に怒られてしまう、今度からは軽率な行動は止めて」
みゆきさんに会うのは別に危険な行動じゃないけど……でも、神崎さんから見ればそう見えてしまうのか……
こなた「分かった……ごめんなさい……」
神崎さんは一回溜め息を付いた。そしてニヤリと笑った。
あやめ「ふふ、凄い、凄いじゃない、私が何年も探している場所をたった一週間で探し当てるなんて、やっぱり私の目に狂いはなかった、よくやった泉さん」
こなた「え、でも、会長室が資料室になっている証拠はまだ何も……」
あやめ「いや、会長室が資料室になっている所までは私も突き止めていてね……そこまで見抜くなんて、取材の素質あるじゃない」
こなた「ぐ、偶然だよ……そう、全くの偶然……」
偶然にしては出来すぎている。この後の展開が恐い。
あやめ「さて、これからが本当の取材、私が部屋に潜入する機会を探して欲しい」
こなた「潜入してどうするの、もしかして何かを盗んだりするとか……」
あやめ「その言い方、人聞きが悪いよ」
神崎さんは鞄からUSBメモリーを取り出した。
あやめ「これでデータをコピーする」
こなた「それって、違法なんじゃないの?」
あやめ「取材の為なら少々の危険は覚悟の上、だから私がする」
この人……目的の為なら手段を選ばないタイプだ。ある意味ゆたかに似ている。それより神崎さんが心配だ。
こなた「……資料室のパソコンを使うのか……多分サーバーと直結しているからデータをコピーするのは簡単かもしれない、だけどね、あの手の施設は大抵履歴が残るように
    成っているから後でコピーしたのがバレちゃうよ」
神崎さんは私を不思議そうに見た。
あやめ「泉さん……ITに詳しいみたいね、見たところ理系じゃ無さそうなのに……どこでそんな知識を?」
う、しまった。やばい。
こなた「わ、私ってゲームが好きだから、それでね……」
あやめ「そう言えばそんな事言ってたっけ、実は私もゲームは好きでね……こういった知識は持っているから心配しないで、履歴を残さないで作業するくらいの事は出来る」
心配するのはそれだけじゃないけど……これ以上話すとやばそうだから止めておこう。
こなた「それなら良いけど……」
あやめ「それより、35階に行けそう?」
こなた「ん~、今は無理っぽい、一般人は入れないしね、何かイベントとかあればそれに紛れて入れるかもしれないけど」
神崎さんは壁に貼ってあるカレンダーを見た。
あやめ「あと四週間でそんなイベントがあるかしら……」
こなた「分からないけど、あれだけ大きなビルなら一つや二つはありそう」
あやめ「それじゃ私もそれを探す、泉さんはビルの中で探して」
こなた「うん」
今日の打ち合わせは終り、私は帰り支度をした。
あやめ「ところで泉さんはギャルゲーの他にどんなゲームをするの?」
こなた「RPG、シューティング、格闘、オンライン……何でも……かな」
あやめ「……オンラインはやったことがない、あれは無駄に時間を使うでしょ?」
こなた「あれを無駄とか思ってちゃったらプレイ出来ないよ」
あやめ「ふふ、そうね……ゲームの他には何か趣味はあるの?」
あれ、何で私の個人的な事を聞いているのだろう。
こなた「……漫画も見るかな……」
あやめ「まさか、少年誌とか?」
こなた「……少年誌、少女マンガ、同人……何でも、ちなみにアニメもよく観る」
あやめ「……同じような好みだ、ギャルゲーを除いてね……」
それはそうだろうね、コミケに参加するくらいならそんな気はしていた。
でも……ひとつ聞きたい事があった。今後の神崎さんの行動にも関わる重要な事。
こなた「それはそうと……今回の取材が成功したら雑誌に載せる?」
あやめ「そんなの聞くまでもない、それが私の仕事」
そうだよね、でも、その言葉はあまり聞きたくなかった。
こなた「神崎さんが記者じゃなかったから、良い友達になれたかも……」
あやめ「え、それはどういう意味?」
神崎さんは目を丸くして驚いた。どう言う意味か……それは言えない。言えばこの取材はその場で終わってしまう。
こなた「それじゃ、帰るね、また」
あやめ「え、ええ、また明日……」

 神崎さんじゃなくて私が資料室のパソコンを操作すれば難なくデータは手に入るだろう。だけど、そんな事をすれば私がITを使って巨額のお金を動かせるのが
彼女に分かってしまう。そうなったら、彼女は私をどう見るのだろう。この事を世間に公表しちゃうのかな。
そうなったら、私はどうなるのかな。逮捕されてしまうのかな……私のした事って正しかったのかな……
ふとゆたかが私にひよりの記憶を消した話しを思い出した。
机の奥に仕舞ったUSBメモリー……あの時以来触っていない。めぐみさんから貰ったものだ。
その気になれば公共機関データを改ざんしたりまったくでっち上げも作れたりする。ひろしに柊の姓を役所のデータに入れたのも私。
億万長者になれるし、誰かを陥れる事だってできる。その気になればだけど……
お稲荷さんの力か……ゾッとする。私達が安易に扱える代物じゃない。今頃になってその力の大きさに気付いてしまった。
ゆたかが眠れない日があるって言っていたけど。今、まさに私はその状態になっていた。

こなた「ふぁ~」
スタッフ「泉さんが仕事中に欠伸なんて……初めてみました、徹夜でもなされたのですか?」
こなた「え、ま、まぁね……最近眠れなくって……」
スタッフ「心配事でも?」
こなた「うんん、そんなんじゃないよ」
二週間目を超えると周りのスタッフも私に慣れてくる。私も慣れてくる。
日常会話も頻繁にするようになった。
さすがに資料室に潜入するのは難しい。大きなイベントを探しているが私が働いている間にはどうやら無さそう。作戦の立て直しが必要なのかもしれない。
丁度お昼ぐらいだろうか。数名のスタッフがコソコソしているのに気付いた。私がそこに近づいた。
こなた「どったの?」
スタッフ2「あの、あれを」
彼女が指差す方を向いた。店の入り口に一人佇んでいる。
長髪の髪を下ろしサングラスをかけている……
スタッフ3「怪しい……警備員……うんん、警察を呼ぼうかしら」
確かに怪しい。怪しいけど……あれは……かがみ、かがみじゃないか。
なんでこんな所に来ている。しかも一人で。挙動不審そのものじゃないか……辺りをきょろきょきょと見回している。
なんだあれは、あれで変装しているつもりなのか……やれやれ。
こなた「警察呼ぶのはまだ早い、私が対応するから……」
スタッフ達を別の仕事をさせておいて店の入り口に向かった。
こなた「よこそ……どうしましたか?」
かがみ「え、あ……」
私を見て硬直してしまった。私だと気付いていないみたいだ。コスプレをしているとは言え顔の方はほとんどいじっていないのに。相当テンパってるな……
こなた「ご来店ならどうぞ……」
私はドアを広く開けた。
かがみ「あ、ありがとう」
私はかがみを席に案内した。
こなた「ご注文が決まりましたら……」
かがみ「あ、アイスコーヒーを……」
あらら、ここのシステムを全然分かっていない。
こなた「……すぐに注文したらダメだよ、か・が・み」
かがみ「え?」
かがみは見上げて私の顔をじっと見た。
かがみ「こなた?」
かがみはサングラスを外した。
こなた「ふふ、それで変装したつもりなの、まったく……日本人がサングラスなんかしたら目立つに決まってるジャン?」
かがみ「う、うるさい……こなたこそなんでこんな所にいるのよ……」
小声で話すかがみ。やっぱりお忍びだったか。私も小声で話した。
こなた「話せば長くなるし、話せない……」
かがみ「……それなら放っておいてちょうだい……」
ここで長話をしているのも不自然だな。
こなた「はい、アイスコーヒーですね……」
かがみ「あ、待って……」
席を去ろうとするとまた小声で私を呼び止めた。私は立ち止まった。
かがみ「今日の夕方……空いている?」
こなた「うん……1時間くらいなら」
かがみ「昔あやのが働いていた喫茶店で待っているから……」
そういえばあやのもこのビルで働いていたっけ……すっかり忘れていた。
私は頷いて厨房に向かった。
ビルの内情ならみゆきさんじゃなくてあやのに聞いた方がよかったかな……ってか最初からあやのに潜入させれば良かったのでは……
否。
今更代われないよ。あやのは途中から入ってきた。それにお稲荷さんが関係しているし、やっぱり私がしないといけない。
それに神崎さんは指定をしたのは私なのだから私達から人員の変更なんて出来るわけがない。

 仕事が終わりあやのの働いていたいたと言う喫茶店に向かった。
店に入るとかがみの居場所は直ぐに分かった。サングラスは外してあるけど服装は変えられないか。黒尽くめのスーツにネクタイ。どうみてもマトリ〇クスだ。
こなた「クスッ!!、お待たせ」
かがみの目の前で思わず吹いて笑った。
かがみ「な、なによ」
不機嫌な顔のかがみ。私は席に座った。
こなた「それって変装、仮装、それとも趣味なの?」
かがみ「……変装よ、完璧だと思ったのに……あのビルだと私は知られ過ぎているから……あまり派手な格好は出来ない」
充分派手だけどね……そんな時は普通私服の普段着でいいのに。
こなた「その知られすぎている所にわざわざ出向くって事は何かの調査なの、かがみって探偵もしてるんだ?」
かがみは首を横に振った。
かがみ「そんな事なんてしていない、みゆきに頼まれたのよ……調べて欲しいってね……」
こなた「みゆきさんの個人依頼か……」
かがみ「こなたこそなんであの店に居たのよ、見たところ従業員みたいだけど、かえでさんのレストランはどうした、さては大失敗をして解雇されたか」
そうかかがみはまだ知らないのか。てかこれは秘密作戦だ。でも解雇されたってのはちょっとね……
こなた「……ちょっと一ヶ月間くらい研修でね……」
かがみは私をじっと細目で見た。
かがみ「研修ね……それにしてははまっていた……まさか神埼あやめと関係あるんじゃないでしょうね!?」
ぐ、鋭いな……かがみもいい加減な返答は出来ない。
こなた「ないない、全くないよ、うんうん、研修、研修」
かがみは更に目を細めて疑いの眼(まなこ)で睨んだ。
かがみ「そうやって必死に否定するのが怪しい」
こなた「そ、そんな事よりもさ、久しぶりに逢ったんだし、もっと楽しい話しをいしうよ、この前会ったのはつかさの演奏会だったよね」
かがみ「え、もうそんなに経ったかしら……」
こう言う時は話題を変える。それしかない。
こなた「経ったよ、お互い会う機会が減ったよね」
急にかがみの表情が悲しくなってしまった。
かがみ「そうね、こなた、みゆき、あやの……みさお……ひより……ゆたかちゃん……そして……つかさ……」
こなた「え、つかさって、お互いの家はそんな遠くもないのに会ってないの?」
かがみ「結婚してから急にね……何故かしらね、それまでは目覚めてから寝るまで気付くといつも隣に居たのに……今じゃ理由がないと会いにいけない……
    それは両親や姉さん達も同じよ……まるで他人になってしまったみたい……今じゃつかさはこなたの方が会う機会は多いわよね」
こなた「そんなに考え込む事じゃないよ、お互い家庭を持てばそうなるのは当たり前じゃん、私だって引っ越していた時はお父さんと会えなかったし」
かがみ「こなたは単純で羨ましいわ……」
単純ね、でも、複雑の方が優れているとは限らない。
こなた「それじゃ単純になればいい、妹に会いに行くのに理由なんかいらない、ゆい姉さんだって今でも週に一回は遊びにくるよ、そんなに会う理由があるとは思えないけどね……」
かがみ「成実さん……そうなの……」
こなた「会わない日が長引くとそれだけ会い難くなるから、会いたいなら会いに行けばいいだけ」
かがみは狐に摘まれた様な顔をして私を見た。
かがみ「フッ……こなたにしては良い事言うわね……その通りかもしれない」
こなた「「しては」は余計だよ!」
かがみが笑った。そういえばこんな笑顔を見るのも久しぶりかもしれない。学生時代の記憶が蘇ってきた。
それからの私達は学生時代の話題に花が咲いた。

 気付くとかがみに会ってから1時間が過ぎようとしていた。楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまうもの。神崎さんに報告する時間が近づいてきた。
こなた「ごめん、もうそろそろ時間……」
かがみ「本当だ、時間が経つのは早いわね……もう少し残れないの」
こなた「うん……」
かがみ「なによ、誰かと会う約束でも……あぁ、もしかして彼氏?」
こなた「いや、そんなんじゃない……」
かがみ「別に無理に否定なんかしなくても、恥かしがる歳でもないでしょうに……こなた、あんた結婚するきあるの?」
こなた「ん~~~分かんない」
かがみは溜め息をついた。
かがみ「ふぅ、あんたねぇ、もう少し自分の将来の事を……」
話すのを止めて暫く私をみてから微笑んだ。
かがみ「まぁ、それで良いのかも知れない、こなたらしくて良いわ、私も夫と……ひとしと出会っていなかったら……そう思うとこなたを責められない、こればっかりは
    縁だからどうしようもないわ」
こなた「そう言ってくれると私も気が楽だよ……かがみは稲荷さんの旦那だもんね、凄い縁だよ、つかさがくれた縁だよね」
私は帰り支度をした。それをかがみはじっと見ていた。
かがみ「こなた……もう少し時間いい?」
こなた「なあに?」
私は支度をしながら話した。
かがみ「みゆきの話しは聞いたと思うけど、あんたはどう思う?」
私は帰り支度を止めた。
こなた「話しって、真奈美が生きているかもしれないって?」
かがみは頷いた。
かがみ「みゆきに見せてもらったデータを見て驚愕した、パターンがワールドホテル時代と全く同じなのよ、もう既にある物を順番に出しているとしか思えないほどよ、
    これはどう考えてもお稲荷さんじゃないと出来ない、私もそれはみゆきと一致した……だけど、真奈美さんが生きているとなると……分からないわ」
こなた「データについてはさっぱりだから答えられないけど、真奈美に関していえばもしかしたら……なんて思う事もできそうだよね……他にお稲荷さんが残っていなければだけどね、
    かがみの旦那さんには話したの?」
かがみ「話したけど……データを見ただけでは何とも言えないって……」
こなた「……だからかがみは調べているの?」
かがみは頷いた。
かがみ「そうよ、もし、万が一、真奈美さんだったら助けなければならないでしょ、うんん、例え別のお稲荷さんだったとしてもね、そうじゃないとけいこさん達が
    地球を去った意味がなくなるじゃない」
こなた「そうかもしれない、だけど今は何も分からないよ……」
……私達は同じ目的で貿易会社を調べている訳か……
かがみ「そうね、もう少し調べないといけない、でも、私ではこれ以上調べられないわ」
かがみは暗く沈んだ表情をした。
こなた「35階の資料室にその答えがありそうなんだけど……なかなかセキュリティが厳しくてね、あのビルで大きなイベントとかないかな?」
かがみは目を大きく広げて驚いた。
かがみ「あんた、一体何をしようとしているの……35階ってこなたが働いていた店のすぐ上じゃない……」
こなた「それで、イベントは在りそうなの?」
秘密だから言えない。分かって欲しい……かがみ……私は目で訴えた。
かがみ「……話せないのは訳ありのようね……良いわ、調べてあげる、その代わり、後でちゃんと話してもらうわよ」
こなた「ありがとう……」
かがみ「分かっても分からなくても毎日今と同じ時間でこの店で待っているわよ、それで良い?」
こなた「うん、それでいい、最後に変装するなら普段着でね」
かがみ「分かってるわよ、いちいち五月蝿い!!」
私は伝票と鞄を持った。
こなた「ふふ、今日は私の奢りだよ、それじゃ明日ね」
私は足早に店を出た。時間に遅れると神崎さんに怪しまれる。

 神崎さんを35階に入る方法……かがみやみゆきさんの知恵を借りても難しい、それよりも資料室にどうやって入るのか。こっちの方が10倍くらい難しい。
資料室の場所は直ぐに分かった。防犯カメラが3つもその部屋の扉に向けられている。それに特別なカードか何かがないと鍵を開けられないようだ。
こなた「大企業の秘密を知ろうなんて、やっぱり無理がありすぎ、私もこれ以上調べたらバレそう……今朝警備員に呼び取れられたから怪しい怪しまれているかも」
あやめ「もう少し……もう少しなの、35階にさえ行ければ……」
こなた「35階に入れても資料室にどうやって……?」
神崎さんは鞄からカードを取り出した。そして不敵な微笑を浮かべる。
あやめ「ふふ……資料室のカードキー……」
こなた「え?」
あやめ「このカードキーがあれば資料室のドアを開けてしかもセキュリティを解除できる、しかも防犯カメラも停止する」
こなた「そんな物を何時の間に?」
あやめ「もう数年前から手に入れてある、あとは潜入するだけ、場所もある程度までは分かっていた、あとは潜入方法を探していた……
    入るチャンスは一回きり、このキーを使えば泉さんがこの前言った通り履歴が残る、だから二回目はない……泉さんが怪しまれているならもう
    無理はしなくていい、これ以上調べる必要はないから、あとは私が何とかする、残りの日数はそのままあの店で働くのもよし、レストランかえでに戻るのもいい、好きにして」
あの店と資料室が近かったのは偶然じゃなかったのか。この人は数年前から資料室の場所を調べていた。何故、この人はここまでして調べようとしているのかな。
囚われている人を助けるためだけでこんなに時間とお金を掛けるなんて。プロの記者だから……それだけなのかな……
うんん、それはどうでもいい。私も知りたい。囚われているのがお稲荷さんかどうか。そしてその人が真奈美なのかどうか。やっぱりここで止めるなんて出来ない。
こなた「ここまで私を使っておいてそれはないよ、最後までやらせて」
あやめ「……でも危険な事はさせない約束だから」
こなた「それは神崎さんとかえで店長の約束でしょ、私は安全じゃないと嫌だなんて一言も言ってないよ、それにそのカードキーがあるならもう35階を調べる必要はないよね、
    部屋に入れるチャンスだけ探せば危険はないよ」
神崎さんは考え込んだ。
あやめ「……そうね、確かにそれだけ探すなら危険はない、当初の約束通りの期間は続ける」
こなた「うん、それでいい」

 残り一週間。
お店は休日。特に用がなければつかさの店にでも遊びに行くのだが、半月以上も店に出ないでいきなり訪ねたら理由を聞かれるに決まっている。
それにかえでさんが終わるまで来るなって言っていたっけ。
でも……休日とは言えソワソワして何も手につかない。漫画を読んでもすぐに飽きるし、ゲームをする気にもなれなかった。
かと言って取材の続きなんて出来るわけない。もうこのまま一週間が過ぎてしまうのだろうか。
『コンコン!』
ドアのノックする音。
こなた「ほーい?」
そうじろう「かがみさんがお見えだが……」
かがみが私に……わざわざ家に来るなんて。なんの用だろう。アポも取らないなんて珍しいな。
こなた「部屋に通してくれるかな」
そうじろう「分かった」
暫くするとまたノックの音が聞こえた。
こなた「開いてるよ」
勢い良くドアが開いた。
かがみ「おっス、こなた!」
なんだ、珍しくテンションが高い。
こなた「連絡くらいしてよ、もし出かけていたらどうするの」
かがみ「どうせ出かける気もないくせに」
高校時代のノリそのままだな……かがみは私の座っている椅子の前に座った。
かがみ「どうなの、こなた、進展はあったの?」
こなた「そんな事話せる訳ないじゃん……まったく、何しに来たの、冷やかしなら帰ってよ……」
かがみ「そうね、機密事項だったわね、それなら尚更ぞんざいな態度はできない」
こなた「え?」
私が少し驚いた顔をすると不敵な笑みを浮かべ鞄から何かを出した。
かがみ「あんたの働いている店の同じ階に本屋さんがあるでしょ、そこでサイン会があるのよ」
こなた「サイン会……そんなの聞いてない、誰のサイン会なの、よっぽどマイナーなんだろうね……」
かがみ「……貞子麻衣子って言っても分からない?」
こなた「さだこまいこ……それって、ゆたかとひよりのペンネームじゃ……も、もしかして……」
かがみ「ふふ、灯台下暗しってこの事ね……招待状が私に届いてね……会場を見てビックリした、あんたも招待状着てない?」
しまった。郵便物はノーチェックだ。机の横に積まれた郵便物をひっくり返して調べるとかがみの持っている物と同じ郵便が出てきた。
こなた「テヘッ!!」
舌を出しててへぺろをした。かがみは呆れた様に溜め息をつく。
かがみ「ふぅ……やっぱりこんな事だろうと思った、電話で教えても渡せないから来たのよ」
かがみは招待状を私に差し出した。
こなた「え、何?」
かがみ「何、じゃないわよ、使いなさいよ、どうせ裏で神崎あやめが居るのは分かってるから、こなた一人であの店に雇ってもらえるとは思えない、履歴書とかどうやって書いた?」
こなた「ぐっ!」
何も反論出来なかった。
かがみ「私も貿易会社に興味がある、きっと何か大きな陰謀があるに違いない、それにお稲荷さん……真奈美さんが絡んでいるとしたら見過ごせない、何か証拠を掴めば
    ひとしも動いてくれる、きっとすすむさんやまなぶさん……ひろしもね」
私は招待状を受け取った。
用を終えるとかがみは忙しそうに帰って行った。きっと仕事に子育てに忙しいのだろう……

 かがみが帰ると部屋はし~んと静まり帰った。
招待状をじっと見た。神崎さんはゆたかを取材している。コミケで漫画を買うくらいなのに本屋さんでサイン会をするなんてすぐに調べられそうな気がするのに何故知らない?。
いや、ゆたかの事だから神崎さんに招待状を送ったかもしれない。郵便の消印は丁度二週間前になっている。神崎さんの家にも同じくらいの日に届いているに違いない。
神崎さんは家に帰っていない。だから知らないのかも。
すると神崎さんは正子さんに会っていない……嘘をついていたのか。どうして……。
こっちの方も問い質さないといけない。



あやめ「サイン会……?」
私は大きく頷いた。神崎さんは何も言わず目を大きく見開いたまま招待状を見ていた。
こなた「開催日は私の雇用期限日と同じ、しかもその日は休日で事実上もうあの店とは縁が切れるから私も自由に動けるよ、35階の資料室まで案内してあげる」
『ヒュ~♪』
神崎さんは口笛を吹いた。
あやめ「やるじゃない、私が見込んだ通りの仕事じゃない、非の打ち所がない、よくやってくれた」
こなた「……まだ終わっていないよ、それを言うなら全部終わってからにして……」
神崎さんは微笑んだ。
あやめ「ポーカーフェイスのその冷静さも良い、レストランのホールをさせるには勿体無いくらい」
これほど褒められるなんて。言われているこっちが恥かしくなるくらいだ。
さて、今度は私から言わせて貰うかかな。私はゆたかに聞いて裏をとった。やっぱりゆたかは招待状を神崎さんに送っていた。
こなた「貞子麻衣子ってそれほどマイナーな漫画家じゃないよ……なんで神崎あやめともあろう人が見落とすなんて……」
神崎さんの微笑が止まった。
あやめ「……まさかそんなイベントがあるとは思わなかったから……」
こなた「ところでこの三週間で三日の休暇があったけど、神崎さんちゃんと家に帰ってたの?」
あやめ「そ、それは……」
その先は何も言わない。この人って自分が責められると弱くなるタイプなのかな。言い訳が出来ないなんて……
こなた「私は言ったよね、帰ってねって……」
あやめ「あ、貴女には関係ない事でしょ、私が帰ろうが帰るまいが」
こなた「関係ないけど……私が何故帰って言ったか、その意味は分かったつもりでいたけど……どうして上京しないであんな遠くに住んでるの、
    お母さんを一人残せないからじゃないの、この取材ってお母さんをすっぽかしても良い程大事なの?」
神崎さんの体が震えはじめた。
あやめ「……さっきから母さん母さんって、いつから私の母は泉さんの母になった、一回しか会っていないくせに」
声を荒げて怒り始めた。
こなた「なんで嘘を付いたの、帰っていないならあの時そう言えば良かったのに……」
あやめ「はぁ、貴女からそんな台詞が出るとは思わなかった、嘘はそっちが先だったでしょ」
こなた「会ってから一度も嘘なんか付いていないもん」
あやめ「あんな大法螺吹いておいてよく言えたものね、それに何を根拠に私が帰っていないなんて言うの」
私も頭に血が上ってきた。
こなた「この招待状は神崎さんにも届いているはずだよ、二週間前、私が帰れって言った日だよ、帰っていれば気付いてた、私なんて必要なかった」
あやめ「……え、な、何故私に送られているなんて分かるの」
私は立ち上がった。
こなた「記者なんだから調べれば……もう知らない、あとは神崎さんで勝手にやって……さようなら……」
部屋を飛び出すように出た。

 あと少しだった。あと少しで一緒に資料室に潜入できたのに。
なぜあんなに怒ったのだろう。自分でも分からなかった。
私があの神社を寄付した本人だと気付いてくれなかったから。違う。気付いていないのは私にとっては好都合だよ。
神崎さんにお母さんがいるから羨ましかったから。違う。彼女も父親を早くから亡くしているから状況は似たようなもの。
帰ったなんて言わなければ私だってあんなに怒らなかった。
そういえば神崎さんも怒っていた。何故だろう……
もうそんなのどうでもいい。どうせあと三日でサイン会。
あの店も二日働けば契約が切れる。その後、彼女は勝手に潜入取材をする。
彼女の言うように潜入取材の手伝いを果たした。

そうじろう「こなた、明日のサイン会は行くのか?」
最後の仕事を終え帰るとお父さんが私を待ちわびるかのように話しかけてきた。
こなた「サイン会?」
そうじろう「もう忘れたのか、ゆーちゃんが送ってくれた招待状だよ、まさかまだ見てないなんてないよな?」
かがみが教えてくれなかったらそうだったかもしれない。
こなた「う、うん、お父さんも貰ったんだ……招待状……」
そうじろう「ああ、二人の活躍を陰ながら見守ってきた、完成記念のサイン会となれば出席しないわけにはいかないだろう」
こなた「……でも、かがみは出席しないし、つかさやみゆきさんも行けるかどうか分からないよ」
そうじろう「そうだな、皆家庭を持って仕事もあるだろう、それはあの二人も承知していると思う、でも、それはそれ、こなたはどうなんだ?」
行く気はない。ゆたかやひよりには悪いけど行けない。明日行けば神崎さんと会うかもしれない。
それに、あれ以降彼女から連絡がない。私が途中で出て行ったからきっと私に愛想を尽かしたに違いない。
嘘つきで途中で約束、契約を放り投げたと思っている。うんん、実際にそうだったかもしれない。
こなた「……明日は行かない……」
そうじろう「顔色が悪いぞ、気分でも良くないのか?」
こなた「うんん、大丈夫、何でもない……」
そうじろう「そういえば最近帰りも遅かったな、ゆっくり休んでいなさい、私はゆいと行ってくる」
結い姉さんも行くのか……実の姉だし当たり前と言えば当たり前か。私が招待されているくらいなのだから。
こなた「ゆたかとひよりに謝っておいて……」
そうじろう「うむ」

 神崎さんはちゃんと35階に行けるのだろうか。私の案内がないと警備員に見つかっちゃうかもしれない。
それとも私が行ったら怒って追い返されるかな。それならそれで割り切られるから気が楽になる。
それにしても……
帰った帰らないであれほど言い合いになるなんて。つかさやかがみがみきさんと親しげにしている時だって羨ましいとは思ったけど二人にその事で言い争いなった事なんてなかったのに。
神崎親子……何だろう。何かが引っ掛かる……特に母親の正子さん。子供と同居しているのに何故あんなに淋しそうにしていたのだろう……
突然部屋の扉が開いた。
ゆい「やふ~」
少し小さな声で入ってきた。お父さんに私が調子悪いと言われたのかもしれない。
こなた「いらっしゃい……」
ゆい「おやおや、寝ていなくていいのかな?」
少し心配そうな顔だった。
こなた「……なかなか眠れなくって……」
ゆい姉さんは手を私の額に触れた。
ゆい「う~ん、熱がある訳でもなさそうだね……」
手を額に……ゆい姉さんにが私にそんな事をしたのは初めてかもしれない。
そうかゆい姉さんも子供が出来たからそんな動作が出てくるのかもしれない。
ゆい「もしかして恋の病なのかな」
こなた「……ちょっと、からかわないでよ!」
ちょっと怒ってみた。
ゆい「ふふ、まぁ、何にしても普段のこなたじゃないね、もしかして明日の事で悩んでる?」
こなた「まぁ……そんなところ、ゆたかやひよりとは全く関係ないけどね……」
ゆい姉さんも行く。となれば神崎さんは潜入取材で不法侵入……ゆい姉さんには見つかって欲しくない……
ゆい「どったの?」
私の表情に不思議そうに首を傾げるゆい姉さん。
こなた「うんん……なんでもない」
神崎さんを心配しているというのだろうか。まさか
どうして、もうどうなっても関係ないでしょ。だから……明日は行かないって決めたはずじゃなかったの。
ゆい「おっと、調子が悪いのにこんなに長居したらダメだよね、それじゃおやすみ……」
普段と違う私なのか。そのまま静かに部屋を出て行ってしまった。そして私は眠れぬ夜を過ごすのだった。

 貿易会社本社ビル34階。開店前の書店。私は大幅に遅れて会場に入った。
会場には招待状で招かれた人達で賑わっていた。思ったより多くの人が居た。出版社の関係者やスポンサーや記者らしき人も見受けられる。
この中に神崎さんも居るのだろうか。この賑わいでは探すのは一苦労しそう。
こんな会に私なんかが呼ばれて良かったのだろうか。場違いなような気がした。会場の雰囲気に圧倒されて何から手をつけていいのか分からない。
「お姉ちゃん?」
後ろからゆたかの声がした。私は声のする方を向いた。ゆたかは私を見て驚いた顔をしていた。
こなた「いや~大盛況だね、思ったよりゆたかの作品は人気あるんだね……見直したよ」
今度は心配そうな顔になるゆたかだった。
ゆたか「おじさんが調子悪いって言っていたけど……大丈夫なの?」
こなた「大丈夫だよ、一日寝たらすっかりしたから、それよりお父さん達は?」
ゆたか「ゆいお姉ちゃんと一緒に帰ったけど」
帰ったのか。何故かほっとしたような気がした。
こなた「それでひよりはどうしているの?」
ゆたかは会場の奥の方に顔を向けた。奥にひよりの姿が見えた。数人の女性と楽しげに会話をしている。あれは見た事ある顔だな……そうか陸桜の漫研部の面々だ。
成る程ね。ちょっと話してみようと思ったけど邪魔になるだけかな。
こなた「かがみは来られないよ、つかさは来てる?」
ゆたかは首を横に振った。
ゆたか「うんん、来られないって……あやのさんやかえでさんも……」
あらら、この調子だとみゆきさんやみさきちも期待できそうにないかも。
こなた「私はレストランかえでと陸桜の先輩代表になっちゃったかな」
ゆかた「……」
何も言い返さないゆたか。まずいなせっかくのサイン会なのに。
こなた「え、えっと、もう一人いたじゃない、みなみも呼んだでしょ?
ゆたか「うん、さっきまで居た」
こなた「それは良かった」
ゆたか「うんん、大半が来られないのは分かっていたから、それでもお姉ちゃん達が来てくれて嬉しい」
こなた「ところでもうサインはしなくていいの?」
ゆたか「うん、大方は終わったから小休止、だけど本番はこれからだし」
そう、本屋さんの開店と同時に一般のサイン会になる。私は時計を見た。開店10分前……そろそろ時間か。
本屋さんを出ようとした時、男性がゆたかに近づいた。二人は目を合わすと親しげに本屋さんの奥に向かって行った。そうか彼がゆたかの彼氏か……
確か編集担当とかって言っていたっけ。
おっと、見ている時間なんかない。
さて、これで私の知人は全て私から遠ざかった。チャンス……

 本屋さんを出るとこの階は静まり返っている。それもそのはずまだどの店も開店していない。
私は自分の働いていた店の前で立ち止まった。ここは35階へ続く階段に一番近い。もし神崎さんが来るならここを通るはず。
時計を見た。開店5分前……
一般客がビルの下で行列になっている。ひよりとゆたかはこれほどまでに人気がある漫画家になったのだと思い知らされる。
でもこれがチャンスなのだ。警備員はこの行列を整理するために本屋さんに集中するから上の階は無人状態になる。でもそれは開店から3分くらいの間だけ。
喫茶店で働いた時に得た情報だ。でもこれは神崎さんに言っていない。はたして彼女はこの時間を分かってくれるだろうか。
あの時喧嘩をしなければ打ち合わせをしてここで待ち合わせが出来たのに。電話や携帯でも教える事が出来た。でもしなかった……バカだな……私って……
私はこの潜入取材を成功させる気があるのかな……
時間が刻々と過ぎていく……彼女は来ない。もう先に上に行ったのか。それとも諦めて来なかったのか。
もう少しだったのに。もう少しで真奈美の謎が解けたかもしれないのに。
「い、泉さん……」
突然後ろから神崎さんの声がした。私は声の方を向いた。そこに神崎さんが立っていた。目立たないリクルートスーツに眼鏡をかけている。多分伊達眼鏡だろう。
それに加えてポニーテールにしている。
声を聞かなければ一目では彼女だと気が付かない。かがみもこのくらいの変装をして欲しいものだ。
神崎さんは私を見て驚いていた。来るとは思わなかったのだろう。
あやめ「……まさか来てくれるなんて、でも、何故、何故私に招待状が来ていたのを知っていたの、それにこの渡された招待状は小林かがみ宛、
    小林かがみと言えば小林法律事務所の腕利き弁護士じゃない、何故貴女がそれを持っているの……小林かがみとなんの関係があるの……」
私は時計を見た。開店3分前。今はその話しをしている暇はない。
こなた「こっちだよ……」
私は歩いて階段に向かった。数歩歩き出すと彼女もその後を付いてきた。

 開店1分前。
こなた「あの角を右に曲がればすぐ資料室だよ、監視カメラに気をつけてね」
あやめ「ここから先は私がする、ありがとう」
神崎さんは私の手をとってにっこりと微笑んだ。眼鏡を取ると曲がり角を見た。彼女の顔が一変して厳しくなった。そして角に向かって歩き出した。
曲がり角を曲がると彼女は見えなくなった。さて。私は戻るかな。

 何だろう。この胸騒ぎ……
階段を下りている途中だった。何か嫌な予感がする。
神崎さんはちゃんと資料を集められるのか……
パソコンの操作は大丈夫なのか……
警備員は本当に居ないのか……
監視カメラは本当に止まるのか……
私は立ち止まった。そして上の階を見上げた。
彼女なら問題なく出来るさ、それに彼女自ら自分だけでするって言った。私がしゃしゃり出て手伝ったら今度こそ怒られそう。
下の階を見て下りようとした。
………
だめだ。やっぱり気になってこれ以上下りられない。かがみが自分の招待状を渡してまでして協力してくれた。本当は来たかったに違いない。
それに別れ際のあの笑顔。喧嘩をした相手にあんな表情なんか出来ない。
もし、警備員に捕まればあの貿易会社の事だ。どんな仕打ちがまっているか分からない。警察沙汰になるならまだましかもしれない。
そんな事になれば神崎さんのお母さん、正子さんが……
放っておけない。怒られても構わない。私の予感が外れていればそれで良い。

私は走って階段を駆け上った。そして神崎さんと別れた場所を過ぎ曲がり角を曲がった。扉は開けられたままになっていて静かだった。カードキーが正常に働いたみたい。
私はそのまま資料室に入った。神崎さんがパソコンの画面で何かを操作している。後ろを向いているのでどんな事をしているのか分からない。
入ってすぐに神崎さんは私に気付いたのか後ろを向いて私を見た。神崎さんの顔色が真っ青になっていた。
あやめ「ど、どうしよう」
かなり動揺している。
こなた「どうしたの?」
私は神崎さんの側に駆け寄ってパソコンの画面を見た。
「warning」
画面に大きくそう書かれていた。そして画面が赤く変色している。これは……
咄嗟にポケットからUSBメモリーを取り出しパソコンに挿した。「warning」画面がそのままの状態で止まった。
神崎さんは私を見た。
あやめ「な、何をしたの?」
こなた「パソコンの動作を一時的に止めた」
このUSBメモリーはめぐみさんがくれたもの。めぐみさんの作ったハッキングプログラムが入っている。私はそのままキーボードを打ち始めた。
あやめ「操作なんかして大丈夫なの?」
こなた「パソコンを完全にハッキングして外部から一度遮断して隔離するよ、そうじゃないと多分警備会社に連絡が行っちゃうかもしれないからね」
使う気はなかった。だけどあの状況では使うしかなかった。
私の悪い予感が当たっていた。それにUSBメモリーを持ってきておいてよかった。
10年ぶりに使うめぐみさんのプログラム。でも体が操作をまだ覚えていた。
こなた「完全にこのパソコンは私の手中に入ったよ……それで、どのフォルダーをコピーするの?」
あやめ「え、あ、えっと……」
神崎さんに言われる通りのフォルダーをUSBメモリーにコピーした。
 私は時計を見た。開店時間を1分過ぎていた。あと2分か……
こなた「このビルの管理サーバーにアクセスしてと……やっぱり防犯カメラはこのサーバーに一回記録される仕組みなっているね……
さっきのワーニングでカメラが起動したかもしれないから念のため今から3分前の画像データを消去するから、
    それからこれから3分間電源を切ってこのビルを停電にして、その隙にここから逃げよう」
あやめ「そのパソコンはどうなるの、ハッキングなんかしたらバレてしまう」
こなた「大丈夫、このUSBメモリーを抜けば履歴もなにも残らない」
あやめ「あ、貴女……プロのハッカーなの……いや、プロでもそんな事は出来ない……泉さん、貴女は何者なの……」
残り1分……
こなた「時間がないよ、行こう!!」
携帯電話を取り出し明りを付けた。そしてUSBメモリーを抜いた。部屋の照明が切れて停電になった。しかしパソコンの電源は入ったまま再起動になった。
やっぱりUPS機能が付いていた。
私は立ち上がり照明を部屋の出口に向けた。
こなた「行こう」
あやめ「あ、待って」
神崎さんは鞄からハンカチを取るとキーボードを拭きはじめた。指紋を消しているのか。まだ起動中だから問題ない。私は照明を神崎さんの手元に向けた。
拭き終わると神崎さんは私の後に付いた。
こなた「非常口から出て下に降りよう、走るよ」
あやめ「うん」
携帯の照明を頼りに非常口を出て下の階34階に下りた。

こなた「神崎さんはそのまま非常階段で下まで下りて、私はこのままサイン会に紛れて出るから」
神崎さんはじっと私を見ている。
あやめ「神社の寄贈は匿名で、しかもネット経由だったって聞いていた……泉さん……まさか、もしかして本当に……」
さすがにあそこまでネタバレしたら分かってしまうか。
こなた「……だから言ったじゃん、嘘はついてないって……」
あやめ「泉さん……私……」
こなた「時間がないよ、データは明日神崎さんに家で渡すから、それで良いでしょ」
あやめ「う、うん……明日の夕方で…」
神崎さんは何を言おうとしたのかな……それは明日分かるか……

私達は別れた。神崎さんはそのまま非常階段で下りて行った。私は34階の非常口からビルに入った。
私がビルに入ると同時にビルの照明がついた。間に合った。
辺りは停電のせいでざわついていた。さてとこの隙に帰ろう。
「泉さん、泉さんじゃない!!」
後ろから突然私を呼び止める声。聞き覚えがある。私は後ろを振り向いた。そこにはコスプレ喫茶の店長が立っていた。
店長「泉さん、事務所まで来て欲しい」
え、なんで。もう喫茶店の契約期間は終わったし給料ももらったから私になんか用はないはず。
ま、まさか。35階に行ったのがバレたのか。
下手に断ると余計に怪しまれそうだ。私は店長の言う通りにするしかなかった。


こなた「今日は休業日のはずだけど……どうして?」
事務所に通された私は早速質問もぶつけた。
店長は鞄から色紙を出した。
こなた「サ、サイン会?」
店長「そうよ、特別招待された人も居たみたいだけど、私は漏れちゃってね、一番に並んだった訳、サインをもらったと同時にあの停電でしょ、嫌になるわ、泉さんは
   非常階段を使ったみたいだけど、他にも何人か非常階段から出た人が居たからそれで正解だったかもね」
こなた「え、え、そ、そうでしょ、そう思ったんですよ、はははは」
これは笑って誤魔化すしかない。どうやら35階の行ったのはバレていないようだ。張り詰めた緊張が一気に解けた。
店長「泉さんもサイン会が目当てだったんじゃないの、その状況じゃサインもらえなかったでしょ?」
こなた「え、ええ、そうですね」
店長はしばらく考え込んだ。
店長「お店に飾る分と自分の部屋にと思って二つ書いてもらったけど……自分の部屋は今度の機会かな、泉さんにあげるわ」
こなた「ど、どうも」
サインは家に帰ればいくつも持っている……と言っても断れる状況じゃない。そのまま色紙を貰った。
こなた「と、ところで、私を呼んだのは何の用ですか?」
店長の顔が真剣になった。
店長「昨日、私は留守で貴女に会えなかったから話せなかったけど、この店を辞めてどうするの、レストランかえでに戻るのかしら」
こなた「そのつもりですけど……それが何か?」
店長「……どう、このままこの店で働く気はない、貴女とならうまくやっていけそう、近々二号店を出す予定なの、その立ち上げを手伝ってもらいたい、
   それで、ゆくゆくはそこの店長を任せてもいいと思ってる」
こなた「え……?」
これってもしかして、誘われている?
こなた「無理ですよ、店長なんて……」
店長「貴女の仕事ぶりは見させてもらった、レストランで随分鍛えられたみたいね、見事だった、私は見ていないけど黒ずくめの恐いお姉さんにも眉一つ変えないで冷静に
   対処したって聞いたわよ」
黒ずくめの恐いお姉さん……かがみの事を言っているのか。かがみのバカ……
こなた「あれは……恰好だけで恐くもなんでもないです、ただのお客さんだったので……」
知り合いだなんて恥かしくて言えない。
店長「無用なトラブルを回避するのも必要な事……話しを戻すわよ、レストランの時の倍の給料でどう?」
倍って……普通に働いていただけなのに。気に入られてしまったようだ。でも私の答えはもう決まっている。
こなた「約束は一ヶ月なので……」
店長は溜め息を付いた。
店長「ふぅ~たった一ヶ月だけ私の店に来させるなんて、貴女の店長は私に見せびらかしたかったのかしらね……でも、即答したのなら私も諦めがついたわ、時間を取らせたわね、
   一ヶ月間ありがとう、向こうでも頑張って」
こなた「は、はい……」
店長と堅い握手をした。

 かえでさん以外の人に認められたって事か。悪い気がしなかった。いや、むしろ嬉しいくらい。神崎さんにげんき玉作戦を知られていなければもっと嬉しかったかもしれない。
彼女は記者、だから私の正体が分かれば記事に書くかもしれない。そうなれば……私、警察に捕まっちゃうのかな……どうしよう。
何も思い浮かばない。データと引き換えに記事を書かないように交渉するのも手かもしれない。だけど……そんな事できるかな。自信がない。

このまま家に帰っても良かった。だけどいつの間にか私はレストランかえでの目の前に立っていた。一ヶ月ぶりだ。
従業員用の出入り口から入って事務室へ向かった。そして扉を開けた。
かえで「こなた、こなたじゃない、今日までが契約日じゃなかったの、タイミング悪かったわねあやのは休みよ」
数年会っていないかの様な喜びようだった。
こなた「そうだったけど、今日は休業日だったから……」
かえで「そうだったの……ん?」
かえでさんは私の顔をみて首を傾げた。
こなた「あの、二日くらい休暇をくれませんか……」
かえで「二日……それは別に構わないけど、二日と言わず一週間くらい休んだら、慣れない仕事で疲れたでしょ?」
神崎さんの家にデータを持って行かないといけない。でも休みはそんなに要らない。
こなた「いいえ、二日でいいです……それじゃ……」
私は部屋を出ようとした。
かえで「ちょっと待ちなさい、どうしたのよ、元気ないわね……」
こなた「いつもと同じだと思うけど?」
かえで「ふ~ん、さては向こうの店長から残って欲しいなんて言われたとか?」
こなた「え?」
かえでさんは微笑んだ。
かえで「図星みたいね、それは私も予想してた……」
こなた「予想してたって?」
かえで「そう言う事よ……」
こなた「そう言う事って?」
かえでさんは立ち上がった。
かえで「もうそろろろ店長になってもいい頃だと思っていた……」
こなた「へ、わ、私が、嘘でしょ?」
かえでさんは自分のお腹を片手で触った。
かえで「私は生まれ故郷に帰ろうと思ってね……赤ちゃんも出来たことだし」
こなた「ちょ、いきなり何をいっているの、分からないよ……」
かえで「やっぱりこの町は私には賑やか過ぎるわ、生まれ故郷でゆったりするのが性に合っていると思って、生まれ来る子供の為にも……」
こなた「今更そんな事言って、子供が出来たって……つかさだって子供が居るのに店長してるじゃん」
かえで「私はつかさほど強くない、こなたが嫌ならあやのを店長にすれば良い、彼女もその力はある、いっその事つかさを誘ってみたらどう、きっと戻って来てくれるわよ」
こなた「レストランかえでだから店長はかえでさんじゃないとダメだよ……帰るって……どうして……いきなりそんな事言われても……」
かえでさんは私をじっと見ていた。
かえで「いつも無表情で何も動じないと思っていたけど……あんたの今にも泣き出しそうな顔初めて見たわ……バカね、あんたがそんなんでどうするの、
    あやのやつかさにどうやって言えばいいの……」
かえでさんも悲しい表情になった。これって、どうやって取り繕うか……こうゆうのは苦手だよ……どうしよう。
こなた「私……げんき玉作戦の事……バレちゃった……」
何をやっているのかな、このタイミングでこんな事を言うなんて……でも他に何か別の言葉が思い浮かばなかった。
かえで「神崎あやめに?」
こなた「うん……私はもう此処に居られないかも……」
かえでさんは笑った。
かえで「どうして」
こなた「私の事を記事にされたら……」
かえで「そんな事をするような人ならその辺にいる普通の記者と変わらない最低だわ、それにそんな記者ならこなたを取材の協力なんか行かせない……」
こなた「で、でも……」
私は不安そうな表情を見せた。かえでさんの笑みが止まった。
かえで「そうね、私の見込み違いもあるかも……そうだったら私にはどうする事もできない、かがみさんに相談すると良いわ、今つかさの店に居るわよ、こなたが向こうに行ってから
頻繁に来るようになったわ」
頻繁にって。まさかこの前私の言ったのをそのまま実行しているなんて事はないよね。
こなた「そうする……」
私は振り返って部屋を出ようとした。
かえで「さっきの話しは皆には言わないで、私から皆に言いたいから……」
こなた「うん……でもね、皆はきっと私以上に悲しむよ、特につかさはね……」
かえで「……」
かえでさんは何も言い返してこなかった。
かえでさんは初めに私に言って反応を見たかったのか。無表情って……いきなり帰るって言えばいくら私だってあんな反応するに決まっている。
笑って「帰ればいいじゃん」なんて言うとでも思ったのかな……勝手すぎるよ……
私はそのまま何も言わず事務室を出た。そして更衣室にに入り用を済ませてからレストランを出た。

 レストランを出るとつかさの店からピアノの音が微かに聞こえる。つかさが弾いているのか。いや、いつも弾いている曲じゃない。そうか、みなみの定期演奏会だ。
みなみも来ているみたいだ。
 店の扉を開けた途端迫力のあるピアノの音が飛び込んで来た。真っ先にピアノを見た。ピアノを弾いているのはつかさでもみなみでもなかった。まなみちゃんだった。
聞いたことがない曲だ。でも凄いのは分かる。コントローラのボタンを連打しているみたい、うんん、まるで右手と左手が競争しているように鍵盤を縦横無尽に駆け回っている。
店の奥に行くのを忘れて聴き入っていた。
「ラフマニノフ習曲集音の絵、作品39第6番:イ短調……」
小声で私の耳元に囁く。振り向くとみなみだった。
こなた「すごいね……」
私も小声で囁いた。曲は3分もかからないで終わった。
「パチパチパチ」
来店のお客さんから拍手喝采の嵐だった。まなみちゃんは立ち上がり一礼すると厨房の方に小走りに走って行った。つかさの所に行ったのかな。
こなた「さっきの凄いの、ら、らふま……の練習曲?」
みなみ「うん……あれは私も弾けない難曲……」
こなた「弾けないって、それじゃどうやって教えたの?」
みなみ「教えていない、楽譜を見て弾いた」
こなた「楽譜を、見ただけで?」
みなみは頷いた。
みなみ「楽譜見ただけで演奏なら私は驚かない……まなみちゃんはそれだけじゃない、あの曲のサブタイトルは赤頭巾ちゃんと狼……タイトルも彼女はしらないはずなのに、曲の
    イメージを完全に理解して演奏している」
赤頭巾ちゃんと狼の追いかけっこ……確かにそんな感じの曲だった。
こなた「それって凄いの?」
みなみは頷いた。
みなみ「店の客を見て、ケーキやスィーツを食べに来た人達の殆どの食事を止めて演奏を聴いていた」
確かにその通りだ。客と言う客は皆聴き入っていたようだ。曲が終わった今は皆普通にお茶やコーヒーを飲みながら食べている。
みなみ「私のレベルを超えてしまった、もう彼女を教えられない、もしかしたらショパンコンクールやチャイコフスキーコンクールで上位が狙えるかも」
こなた「ん~~」
有名な作曲家の名前が付いているコンクールなのだからさぞかし由緒あるコンクールだと思うけど……
こなた「そんな大袈裟なのが必要なの?」
みなみ「分からない、まなみちゃんに聞かないと」
こなた「聞かないと言ってもさ、まなみちゃんはまだ小学生だよ」
みなみ「確かにそうだけど……今度の演奏会でスカウトが放っておかないと思う」
こなた「まぁ、ピアノで食べていけるくらいの実力はありそうなのは分かった、でもそれは演奏会が終わってから心配しようよ」
みなみは笑った。
みなみ「そうだった、気が早過ぎかもしれない……それでは失礼します」
みなみは厨房の方に向かって行った。きっとつかさやまなみちゃんの所に行ったに違いない。
ピアノも勉強もちょっと桁外れな子だな……まなみちゃん……

つかさはまなみちゃんの事をちゃんと分かっているのかな。何を思って何を考えているのか……ん?
ふと店の奥を見るとかがみが座っているのが目に入った。
そうそう。今はそんな事を考えている暇はなかった。かがみの所に向かおうとした時、丁度かがみと目が合った。かがみは自分の座っている向かい側の席を指差した。
私はその席に座った。
こなた「やふ~」
かがみ「こなた、さっきのまなみちゃんの演奏聴いた?」
こなた「うん、ラフマノフノフの練習曲」
かがみ「それを言うならラフマニノフでしょ」
こなた「知ってるの?」
かがみ「作曲者は有名じゃない、でもあの曲は初めて聴いたわ、あれは練習曲なのか、凄い緊張感があったわね、子供の演奏じゃなかった」
かがみは暫く考え込んだまま黙ってしまった。
こなた「どうしたの?」
かがみ「以前こなたが言ってたじゃない、まなみちゃんはお稲荷さんの力を受け継いだんじゃないかって、なんか私もそんな気がしてきたわ
……柊家にあそまでの音楽の才能のある人なんか居ない」
こなた「そうでしょ」
私は何度も頷いた。
かがみ「でもね……お稲荷さんの故郷では音楽を楽しむ文化がないのよ……」
こなた「そうなの? でもつかさがいつも演奏している曲はけいこさんが好きだった曲じゃないの?」
かがみ「それはけいこさんが地球に来てからの話しだから……」
自然とお稲荷さんの話しになる。それもそうだよ、かがみの旦那はお稲荷さんなのだから。
こなた「そのお稲荷さんの故郷って何処にあるの?」
かがみ「ひとしから聞いたけどこの天の川銀河だそうよ、私達地球のあるのオリオン腕から銀河の中心を挟んで向こう側の腕の中、丁度反対側らしい、でもね、
その中心は星やガスが密集しているから地球からは観測できない……ちょっと残念ね……」
こなた「ふ~ん」
かがみ「ふ~んって、ちゃんと分かってるの?」
こなた「何となく……」
まるでSFみたいなだな、でもこれって現実なのだよね……それなのに違和感ないな……傍から私達の会話を聞くと
SF映画の会話をしていると思われそうだ……そういやかがみはSFなんかのラノベとかよく読んでいたっけな。だからかな。
ゲームや漫画で宇宙人なんかはよくあるシチュエーションだからね……私もすんなり受け入れられる。
でも……それが普通の人なら。神崎さんならどうだろう。
宇宙人と聞いただけでSFやオカルト扱いされるのが落ちだよ。かがみやかえでさん達が理解してくれているのはラッキーだったのかもしれない。
それとも私達が宇宙人を理解できるレベルになってきているって事なのかな……違うのかな。分からなくなって来ちゃった。
こなた「はぁ~」
かがみ「なによ、溜め息をするなんて、らしくないわね」
こなた「いろいろ考える事ができてね……」
かがみ「……こなたがそんな台詞を言うようになるなんて、時間が経つのが早いわね」
むむ、私を子供扱いしている。昔なら言い返してやるのだが。今はそんな気はない。
こなた「かがみ、もし……もしも、げんき玉作戦が世間にバレちゃったら……私ってどんな罪になるの?」
かがみ「はぁ、なにをいきなり……」
呆れた顔で私を見るがすぐに私が何故そんな質問をしたのか分かったようだ。表情が驚きの顔に変わった。
かがみ「まさかあんた、神崎あやめに知られてしまった……の?」
私は黙って頷いた。
かがみ「いったいどうして、分かってしまった?」
潜入取材は内緒だった。どうやって説明するかな。
こなた「……神崎さんを助けるために……パソコンをハッキングしていろいろ操作したから……」
これが私の精一杯の表現だった。
かがみ「ハッキング……やっぱり、潜入取材をしたな」
こなた「う、うんん、そんなんじゃなくて……」
やばい、もうバレちゃってる。でも、かがみには嘘はつけないか。オロオロして何もできない。そんな私を尻目にかがみはクスリと微笑んだ。
かがみ「安心しなさい、十中八九神崎は記事になんかしない」
こなた「な、なんで、彼女はあの神社を寄付した人を探していたから……もうだめだよ、おしまいだよ……」
更にかがみは笑った。
かがみ「ふふ、いつものこなたらしくないわよ、彼女は潜入取材をした、それはそれでかなりの罪になるわ、こなたを記事にすれば彼女にもその疑いが掛かる
    リスクを背負う事になるわよ、それに、協力してくれた人を売るような卑怯な事をするような人とは思えない」
会ってもいない神崎さんをそこまで自信ありげに話すなんて。かがみはそうとう彼女を調べたみたい。
かがみ「それにネット犯罪は立証が難しいからこなたが捕まるとは思えない……万が一捕まったとしても、この私が全力で弁護してあげる」
こなた「……なぜ私をそこまで……」
かがみ「めぐみさんの知識、技術……それをこなたは受け継いだ、それを使ってつかさを救ってくれた……自分の危険を顧みずにね……それが理由、なによそれだけじゃ不満なの?」
こなた「かがみ……」
かがみ「法律は人を裁くものではなく守るもの、私はそう信じている」
何でだろう、何かよく分からないけど目から涙が出てきた。
かがみ「まだ泣くのは早いわよ、神崎あやめの本当の目的を知るまではね……」
まるでつかさに言い聞かせるかのような言い方に私は我に返った。
こなた「そう言えば招待状なんだけど、あれがかがみ宛てだったのを神崎さんは気付いてしまったよ……」
かがみ「……いいのよ、むしろ気付いて欲しかった、これで私が一枚噛んでいるのが分かったはず」
こなた「え?」
かがみ「こなたばっかりに無茶はさせないわよ、お稲荷さんの事は私達の事でもあるのだから」
それを聞いて何か大きな錘が取れたような気がした。
神崎さんは他人には話すなと言った。だけど……確かにお稲荷さんはかがみ達にとっては家族と同じ。いや、家族なのだから。私は二重スパイって言われても構わない。
私は財布からSDカードを取り出しかがみに渡した。
かがみ「これは?」
こなた「貿易会社の資料室のパソコンからコピーしたデータだよ」
そう、USBメモリーからコピーした。私のノートパソコンを使うためにかえでさんの店に先に寄った。
かがみ「……データを分析するならこなたの方がいいと思うけど……」
こなた「データはコンピュータ関係じゃなさそう、アルファベットの羅列で訳が解らなかった、知っている単語が一つもなかったから英語じゃなさそう」
かがみ「そう……それじゃ預かっておくわ、みゆきにも見せるわ、丁度これから会う約束をしているから」
こなた「あっ、二つだけ注意して、このデータを開く時は必ず通信出来ないようにして、LANケーブルを抜くこと…」
かがみ「ワイヤレス通信も切っておくわ」
こなた「うん、そうして……それから一度使ったパソコンはもう仕事や私用で使わないでね」
かがみ「専用パソコンを用意すればいいのか、分かった」
急いでデータをコピーしただけだから何が仕込まれているか分からない。
かがみはSDカードを財布に仕舞った。

まなみ「あ、かがみ叔母さんとこなたお姉ちゃんだ」
かがみとの話が一段落した時だった。厨房から出てきたまなみちゃんが私達に気付いた。まなみちゃんは嬉しそうに私達に近づいてきた。それからみなみも少し遅れて出てきた。
こなた「やふ~、まなみちゃん、さっきの演奏凄かったね」
まなみ「え、聴いちゃったの?」
こなた「うん、聴いちゃった」
かがみ「私も聴いた、今度の演奏会楽しみにしているわよ」
急に顔が赤くなって何も言わなくなってしまった。さっきまであんなに堂々と演奏していたのに。知り合いが居ると緊張するタイプなのかな。
つかさ「こなちゃん!!」
まなみちゃんを呼ぶつもりだったのだろうか。コック姿のつかさが厨房から出てきた。私の顔を見るなりまるで何年も会っていないような勢いで飛んできた。
つかさ「どうして一ヶ月も来なかったの?」
神崎さんの話しはまだつかさに話さない方がいいかもしれない。もし話すならかがみやかえでさんがとっくに話している筈だ。
こなた「ちょっと研修に行っていて……なかなか帰る機会がなくって」
かがみ「こなた曰く……会いたい時に会うのが心情だそうだ、理由なんて要らないってね、つまり一ヶ月間会いたくなかったって事だろ、薄情ななつだな」
こなた「ちょ、か、かがみ、それは……」
あの時言ったのをそんな言い方されたら……いや、そうか。かがみは私のした事ををつかさに隠す為に……かがみに合すか。
こなた「だからこうして来たんじゃないの、会いたくなかったら来るわけないじゃん、それよりかがみさ、少し太くなったんじゃない?」
かがみの眉がピクリと動いた。
こなた「かがみはつかさの所に来過ぎじゃないの、ケーキとか食べまくっていない?」
かがみ「洋菓子店でお菓子を食べないで何をするのよ」
こなた「あらら、開き直っちゃったよ」
かがみの座っているテーブルに置いてあるお土産用の箱を私は見逃さなかった。
こなた「1、2、3、4……あれ、数が多くない?」
かがみ「みゆきのお土産と家族の分よ……」
こなた「本当に? 全部かがみのじゃないの?」
かがみ「う、うるさいわね、どっちでも良いでしょ」
私とかがみのやり取りを見てまなみちゃんが笑い始めた。そして、少し怒り気味だったつかさも笑った。
みなみ「懐かしい雰囲気……思い出しますね、あの頃の時代を……」
私とかがみは顔を見合わせた。まったくそう言う意識はなかった。私はただかがみに合わせただけだった。
それが高校時代によくやっていたのと同じような調子になってしまうなんて。
つかさ「はは、そうだね、なんか懐かしいね……お姉ちゃんとこなちゃん、もうそんな事しないと思ってた、またあの頃に戻りたいね……」
さっきまでグズっていたつかさが笑っている……
かがみ「つかさ、こなたに何か言いたいんじゃなかったっけ?」
つかさは上を向いて暫く考えた。
つかさ「ん~~無事に帰って来たし、もういいや……こちゃん、今度からちゃんと連絡して」
こなた「う、うん……」
かがみは私にウインクをした。なるほど。つかさを誤魔化したのか……確かに私だけだと誤魔化し切れなかったかもしれない。
たった一ヶ月来なかっただけでつかさはあの様になってしまう。かえでさんはつかさに何て言うのだろう……
みなみ「それじゃまなみちゃん、続きは私の家で練習しよう」
まなみ「うん……」
つかさ「みなみちゃん、お願いしますね……」
みなみとまなみちゃんは店を出ようとしている。そうだ。試してみるか。
こなた「まなみちゃん、さっきの練習曲もう一度聴きたいな……」
まなみちゃんを呼び止めた。個室で練習しても上がり症は治らない。まなみちゃんは立ち止まって振り向いた。表情を見る限りさっきの時のような覇気はなかった。
こなた「まなみちゃん、私とゲームしていた時を思い出して……」
まなみ「ゲーム?」
こなた「そうだよ、私が居てもちゃんと操作していたじゃん、ピアノもそれと同じだよ……」
まなみちゃんはピアノをじっと見つめた。
まなみ「やってみる……」
まなみちゃんはゆっくりピアノに向かってそっと席についた。大きく深呼吸をすると両手を鍵盤に置いてゆっくり目を閉じた。
私達も店の客も皆まなみちゃんに注目している。緊迫した沈黙が暫く続いた……
まなみちゃんは目を閉じたまま突然ピアノを弾き始めた。
最初に聴いた時よりも激しく、そして繊細だった……我を忘れて無我夢中って感じだな。
さて……どうもクラッシックは私の性に合わない。神崎さんの約束もあるし店を出るか。私が席を立っても皆はそれに気付かない。まなみちゃんの演奏に釘付けになっている。
邪魔にならないようにそっと店を出た。

 店を出てもピアノの音が漏れている。さっきの練習曲は終わったのに。そのまま別の曲を弾いているようだ。通り掛りの人も数人足を止めてピアノの音に耳を傾け居る。
確かにみなみの言う通りかもしれない。音楽で人の足を止めるなんて並の腕じゃ無理だ……
ピアノの音を背にして駐車場に向かった。
「ゲームとピアノを結びつけるなんて、やるじゃない」
駐車場に着き車のドアを開けようとした時だった。後ろから声を掛けられた。私は振り向いた。
こなた「かがみ……いいの、まなみちゃんの演奏を聴かなくて」
かがみ「つかさとみなみが居るから良いでしょ、私もどっちかって言うとクラッシックは苦手でね……」
こなた「そうなんだ……」
私は車のドアを開けた。
かがみ「神崎あやめにさっきのデータを渡しに行くのか?」
私は頷いた。
かがみ「彼女と私達、どちらが先に分析できるか競争になるかもね……」
競争か……かがみと神崎さんが会ったらどうなるかな……そういえばかえでさんとかがみが最初に会ったらいきなり喧嘩したっけ。でもあの時のかがみは呪われていて普通じゃなかった。
神崎さんもかがみの事を知っている感じだった。記者と弁護士だと立場によっては対立しちゃうかもしれない……
つかさと神崎さんはどうだろう。つかさの天然が炸裂したらどんな反応するのか少し興味がある……
いや、こんな事を考えるはまだ早いか。
こなた「私……これからどうすれば良いかな?」
かがみ「無責任な事は言えないわね、だから敢えて言う、私にも分からない」
こなた「ちょ……」
かがみ「だからこなたの思うようにしなさい、その結果がどうなっても誰も文句は言わないわよ、うんん、言わせはしない」
かがみが初めて私に全てを任せてくれた……
こなた「ふふ、まなみちゃんじゃないけど、少し自信が出てきた」
かがみ「それそれ、そうでないとこなたじゃない」
私は車に乗り込んだ。
こなた「それじゃちょこっと行ってくる」
かがみ「さっさと片付けて来なさい」
私は車を出した。

データを渡せば神崎さんの手伝いは全て終わる
……終わるのかな
何かもっと大きな何かが待っているような気がする。その何かが分からない。もしかしたら神崎さんはそれを知ろうとしているのかもしれない。
それは何だろう。私もそれを知りたい。
私は神崎さんに会いに行く。その何かを知るために。


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