らき☆すたSSスレまとめ@ ウィキ
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らき☆すたSSスレまとめ@ ウィキ
ja
2024-02-25T21:38:48+09:00
1708864728
-
ID:YedjPMk0氏:あのころ
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わたしのしってることはなしても
だれもほめてくれないんだ
みんなへんなかおしてだまっちゃうんだ
みんなのしりたいことってわたしはしらないんだ
わたしのしってることのなかにはなかったんだ
でもだいじょうぶだよ
おとうさんはほめてくれたから
かがみは見ていた古いノートを机の上に置いた。そして、その表紙をじっと眺める。
どこにでもあるような自由帳。かがみも小学生のころ、同じようなノートを使った覚えがある。
しかし、このノートはかがみのものではない。こなたの家に遊びに言った際に発見し、つい持って帰ってきてしまったものだ。
色々な落書きに紛れて書いてあった、詩のようなもの。それがかがみには気になって仕方がなかった。
今と対して変わらない酷い癖字。しかし、ノートを取る時のような、自分が読めればいいというような荒さが無い。
丁寧さが見て取れるのだ。まるで、他人に見せるのが前提のように。
だからかがみにも難なく読めた。そして、気になった。
これを書いたこなたは、どんな心境だったのだろうか?これは一体誰に見せたくて書いたものなのだろうか?
「…ちゃんと、返さないとね」
考えても答えは浮かばず、かがみはノートを丁寧に鞄の中に詰め込んだ。
きっとこなたは怒るだろうから、なにか奢ってあげないと。そんな事を思いながら。
- あのころ -
「おはよ、こなた」
「こなちゃん、おはよー」
翌日の朝。待ち合わせの場所にいるこなたを見つけたかがみは、つかさと共に挨拶をしながら、鞄から昨日のノートを取り出した。
「ごめんね、こなた。これ、ちょっと持って帰っちゃって…」
差し出されたノートを受け取ったこなたは、少し首をかしげた後、何かを思い出したかのように目を見開いた。
「これ…どこで…?」
そして、少し震える声でかがみにそう聞いた。
「昨日遊びに行ったときに、こなたの部屋で…その、勝手に持って帰って、ごめん…」
「…無くしたと思ってたのに…」
かがみの謝罪が耳に届かないかのように、ノートを見ながら呟くこなた。その顔が、急にかがみの方に向いた。
「これ、中見たの?」
「…ごめん」
こなたに訊かれ、かがみは謝りながら頷いた。
「そっか…見たんだ…あの、その中にさ…その…」
「…あれは、こなたが書いたの?」
「…うん…忘れて…ってのは無理か…」
こなたはノートを鞄にしまいながら、バス停に向かって歩き出した。
かがみも黙ってその後に続く。
つかさだけが何が何やら分からず、こなたとかがみを交互に見ながら二人の後を付いていった。
結局こなたは学校につくまで一言も喋らなかった。
怒られると予想していたかがみは、拍子抜けしたようなもの悲しいような、複雑な気分だった。
休み時間に様子を見に行くと、こなたは机に座って頬杖をついてボーっとしていた。側には、心配そうな顔をしたつかさとみゆきが黙って立っていた。
かがみは教室に入ることが躊躇われ、そのまま自分の教室へと帰った。
昼休み。かがみはいつも通りに隣のクラスに行こうか迷ったが、こなたの事が気になり弁当を持ってこなたのクラスへと向かった。
しかし、そこにいたのはつかさとみゆきだけだった。
「こなたは?」
かがみがそう聞くと、つかさとみゆきは顔を見合わせた。
「それが…お昼休みになると同時に、どこかへ出て行ってしまわれて…」
「こなちゃん、朝から元気なさそうだったし、探しに行こうかって今ゆきちゃんと話してて…」
二人の言葉を聞いたかがみは、一つ頷くと、
「探してくる。二人はそのままご飯食べてて」
とだけ言って、弁当を持ったまま教室を出た。
原因は、恐らくあのノート。だったら、勝手にそのノートを持ち出して覗き見した自分に責任があるはずだ。かがみはそう考え、こなたのいそうな場所を端から当たってみることにした。
昼休みも半ばを過ぎたころ、かがみは屋上でこなたを見つけた。
屋上にはそれなりに人がいたが、こなたはその誰とも遠い場所に座ってチョココロネをかじっていた。
「やっと見つけた」
そう言いながら、かがみはこなたの横に腰を下ろした。
「…かがみ、なんでここに?」
「なんでって、あんたを探したからよ」
「…なんでわざわざ」
「んー…寂しがり屋のうさちゃんだからかしら」
「それ、自分で言っちゃダメだよ」
そう言って、こなたは少し笑った。
「寂しいなら、たまにはみさきち達と食べてあげればいいのに」
「ごもっともでございますな」
おどけた風に言いながら、かがみは自分の膝の上に弁当を広げた。
「でも、もう時間無いからここで食べるわよ」
「まあ、いいけどね」
しばらくの間、二人は無言で自分の昼飯を食べていた。
「…ねえ、かがみ」
少しして、チョココロネを食べ終えたこなたが、かがみに声をかけた。
「ん、なに?」
「わたしを探したのは、あのノートのこと?」
「…うん」
かがみは誤魔化さずに頷いた。
「もしかして、責任感じちゃったとか?」
「相変わらず、変なところは鋭いわね…」
あっさりと本心を言い当てられたかがみは、感心したようにそう言った。
「そっか…でも、そんな大袈裟な話じゃないんだよ」
「でも、こなた朝から様子がおかしかったし…あのノートが原因みたいだし、勝手に持ち出したのわたしだし…」
「んー…だからそんな大袈裟なものじゃ…あのノートもなくしたと思って諦めてたから、今朝見せられるまで持ってかれてたの分からなかったし…朝からボーっとしてたのは、ちょっと昔のこと思い出してただけだから…」
「昔のこと…?」
「うん…あー…じゃあさ、責任感じてるんだったら聞いてくれる?わたしの、昔のこと。つまんない話」
「え?」
かがみは驚いた。こなたがこんな風に自分のことを語ろうとするなんて、初めてのことだったから。
「…うん」
それはとても大切なことだと感じ、かがみは少し居住まいを正して頷いた。
「そんな固くならなくていいよ…きつい話じゃないからさ」
「じゃ、予想以上にきつかったら、耳ふさいで逃げ出すわよ」
「オーケー」
意識することなく叩いた軽口に、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
「小学生の頃ね、友達がいなかったんだ…あっと、勘違いしないでね。イジメられてたとか、クラスで孤立してたとかじゃないんだ。ただ、ちゃんと話せる人がいなかったっていうか…クラスの子と話が合わなかったていうか…」
そこでこなたは少し考え、二度ほど頷いてから言葉を続けた。
「小学生の時ってさ、大体みんなアニメとか特撮とか漫画とか好きだったじゃない?男の子は戦隊物とかロボットアニメとか、女の子だったら魔法少女物とかさ…かがみもそういったの、あったでしょ?」
「う、うん…」
「わたしはさ、お父さんのおかげでそういうの触れる機会が多かったんだ。だから、男の子の話も女の子の話も全部分かってた。相手の話を聞く分には、なんの問題も無かった…」
こなたは溜息を一つついた。
「でも、わたしが話すとダメだった。かがみも知ってる通り、お父さんかなりディープなオタクだからさ。そこから得たわたしの知識もかなりディープになっちゃってね。それをそのままクラスで話してね…誰も、ついてこれなかったんだ」
かがみは納得していた。その手の知識がそれなりに増えたかがみでさえ、ついて行けないことがあるこなたの会話。それを小学生が聞かされたら、それは引いてしまうだろう。
「それでもさ、わたしは話を聞いてもらおうとして、これはみんな知ってるんだって勘違いして、もっと知らないこと話さなきゃって知識を仕入れて、もっと引かれて、悪循環だって気付かずに続けて…最後には、わたし喋らなくなってた。黙ってて言われた。話、分からなくてつまらないって」
話しているこなたの顔は穏やかだった。懐かしそうに頷いたりもしていた。
「人の話聞くの、嫌じゃなかったからさ。それだけで我慢しとこうって。今思ったら、子供っぽくない考えかたしてた。話聞いてるだけなら、わたしもみんなも嫌な思いしないなって…その頃になると、わたしも気付いてた。わたしの話しに、みんなが知りたいことなんて無かったんだって」
かがみは、自分の弁当に手をつけるのも忘れてこなたの話を聞いていた。時折、笑顔すら見せるこなたの表情のおかげか、きつくも無いし悲しくも無かった。ただ、なんとなくやりきれない気持ちが少しだけあった。
「中学の時にさ、話の分かる友達が出来てさ、凄く嬉しかった。話を聞いてくれたし、理解もしてくれた。その子でも理解できないこともあったけど、分かるように努力してくれた。ちゃんと話が出来るって、友達と話が出来るってこんなに嬉しかったんだって、初めて知ったんだ」
「あ、あの…こなた」
かがみは疑問に思うことがあり、こなたの話に口を挟んでしまった。
「ん、なに?」
「その頃ってさ、あんたのお父さんとは話しをしてなかったの?」
あの父親なら、こなたとも普通に話が出来たはずだ。それでも、こなたは会話に飢えていたのだろうか、と。
「してたよ、普通に。でも、やっぱり違うんだ。お父さんと友達だと…あー、お父さんが悪いとかダメだとか、そう言う事じゃないんだけどね…家でお父さんと話すのと、学校とかで友達と話すのって全然違う嬉しさがあったんだよ。それを知っちゃったから、わたし我慢が出来なかった」
「…何を?」
「かがみ達と知り合った時にね、わたしは最初オタクだってばらすつもり無かったんだ」
「え…」
かがみにはそれは意外だった。常にオープンなオタク。かがみはこなたを事をそうだと、ずっと思っていた。恐らく、つかさやみゆきも。
「でもね、上っ面合わせた会話だと、ちっとも嬉しくなかった。もっと自分を出してみたくなった。わたしの知ってること、全部話したくなった。だから、そうした。かがみ達がオタクじゃないって分かってたから、また小学生の時みたいに引かれるんじゃないかって、すごく怖かったけど…」
こなたはかがみの方を見た。そこには、心底嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。
「でも、それで良かったって今は思うよ。みんなわたしの話聞いてくれるから。かがみは眉間にしわ寄せてること多いし、つかさやみゆきさんは困った顔してることあるから、理解して貰ってるとは思えないけど、それでも聞いてくれる。ちゃんと聞こうとしてくれてる。それだけで、嬉しいんだ…」
「そう、だったんだ…」
「あ、つかさやみゆきさんにはこれ内緒だよ。かがみは流してくれそうだけど、あの二人は変に気を遣いそうだからさ」
「それはなんだ。わたしが冷酷な人間だって事か?」
「違うよー。これでもかがみの事、信頼してるんだよ?」
「じゃ、つかさやみゆきは信頼してない、と」
「違うー。もう、意地悪だなー」
「冗談よ」
そう付け加えながら、かがみは少し笑ってしまった。
「…ねえ、かがみ」
「なに?」
「今日、ずっとあのノートのこと考えてた。アレを書いたわたしは、何を思ってたんだろうって」
「答えはでた?」
「…うん。もしかしたら、あの頃のわたしは、褒められたかったんじゃないかって。凄いねって言われたかったんじゃないかって、そう思ったよ…今はもう、そんな事ないと思うけど…って、かがみ?」
かがみの手が、こなたの頭の上に乗っていた。そして、優しく撫で始める。
「ちょ、なに、かがみ…くすぐったい…ってか恥ずかしいよ」
「…凄いね、こなたは」
かがみの呟きにこなたは驚き、そして目を細めた。
「恥ずかしいよ…かがみ…」
その目に、ほんの少しだけ涙が浮かんでいた。
- 終 -
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- うおぅ…心が澄んだよ… -- 名無しさん (2024-02-25 21:38:48)
- 良かった。 &br()こなかがの事、もっと好きになった。 &br()良い作品をありがと。 -- 名無しさん (2009-10-25 21:52:11)
- かがみ優しいなあ -- 名無しさん (2009-08-27 14:15:18)
- とても良かったです -- CHESS D7 (2009-08-27 10:31:32)
2024-02-25T21:38:48+09:00
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ID:5UE4CHc0氏 :肝試し (ページ2)
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淡い光がまぶた越しに感じた。私は目覚めた。満月が私の目に映った。私は木の根元に寝ていた。月が真上にあるのか。私はどのくらい
寝ていたのかな。上半身だけ身を起こした。
つかさ「こなちゃん、大丈夫?」
声のする方を向いた。つかさが座って心配そうに私を見ていた。つかさが居てくれたのか。
こなた「私……助かったの」
つかさ「これなーんだ」
満面の笑みでつかさは私に小さな木箱を見せた。夢で見た女性が持っていた木箱に似ている。
こなた「見つかったんだね……」
つかさ「私が見つけたんだよ、漆塗りの箱の中に入ってた、だから箱が腐らなかったってゆきちゃんが言ってた」
こなた「そうなんだ……」
急につかさは私に抱きついた。
つかさ「……この箱の中に御守りを入れて祈った、皆で祈った……こなちゃんが倒れて、お姉ちゃんはこなちゃんに行って、ゆきちゃんは呆然として
動かなかった、でも私は探した……探したんだよ……私だけで探したんだよ」
こなた「ありがとう……つかさの気持ちは分ったから放して、ちょっと苦しいよ」
つかさは離れた。私の胸元が少し濡れていた。つかさも泣いてくれたのか。私は立ち上がった。
つかさ「もう立って大丈夫なの?」
こなた「なんかすっきりしちゃったよ」
背伸びをした。そして何気に腕を見てみた。痣は消えていた。
こなた「痣が消えてる、祟りか呪いか分らないけど」
つかさ「祟りでも、呪いでもないよ、二人はただ会いたかっただけ、何百年も逢えなかった恋人がやっと逢えたんだよ、それを私達が手伝った
……最後に会ったのもこんな満月の夜だったんだね」
つかさは箱を胸元に当てて目を閉じながらそう言った。
つかさ「この箱と御守り、奉納庫に戻しておくね」
こなた「それがいいかもね、ところでかがみとみゆきさんは何処へ?」
つかさ「使った道具を戻しに行ったよ、もうすぐ戻ってくるかも」
程なくして二人は戻ってきた。二人は立っている私にすぐ気が付いた。かがみは立ち止まったがすぐにみゆきさんが後ろから押して私の前に立たせた。
かがみは私と目を合わせようとはしなかった。
かがみ「さあ、満月は頭上にあるわよ、私に何が言いたかった事、言ってみなさい」
予想していた通りの言い方だ。だけどそんな言い方をするとこっちも素直にはなれない。
こなた「かがみ、そんな態度だと、彼氏に嫌われちゃうよ」
かがみ「初恋は実らない……もう終わったわよ……」
つかさ「お姉ちゃん、恋してたんだ……知らなかった、教えて欲しいな、どうなったの?」
乙女モードになったつかさがかがみ言い寄った。かがみも我に返ったようだ。
かがみ「わー、今のは関係ない、こなた、なんでそんな事言うんだ!!……つかさも余計な詮索はしない!!」
かがみは広場の方に逃げるように歩き出した。つかさはそれを追った。みゆきさんはそれを見て笑った。
みゆき「かがみさんは月夜の独特の雰囲気に流されてしまいましたね」
私もかがみとつかさを見ながら笑った。ふとみゆきさんと話したくなった。
こなた「かがみと肝試し……負けたの私の方だったね」
みゆき「どうしてですか?」
こなた「つかさから聞いたでしょ、私が学校を休んだ理由……死ぬのが怖かった、だけどかがみはそんな事しなかったし、冗談だって言って笑ってたよ、
一方私は、怖くてただ震えてただけだったし、つかさに命乞いまでしたんだよ、どうみても私の方が弱虫だよ」
みゆきさんは少し間を空けてからから答えた。
みゆき「……死そのものより死の予感の方が恐怖すると聞いたことがあります、人柱に選ばれた女性、満月になるまで間の心情は私では計り知れません、
人は必ず死にます、しかし何時死ぬかは分らない……だから生きていけるのかもしれません」
こなた「それ、今の私なら分るよ」
みゆき「かがみさんも同じですよ、かがみさんも私達に助けを求めていた……肝試しで見た夢を話しましたね、それは助けて欲しいと言っているのと同じです」
こなた「そうかな……」
そんなものだったのかな。かがみも助けて欲しかったのか。
みゆき「……そういえば私はまだ肝試しの判定をしていませんでしたね」
みゆきさんは少し間を空けた。
みゆき「肝試しの判定は引き分けと言いたい所ですが……主催者も同じく怖がってしまってはどうしようもありません、泉さんの負けですね」
にっこりと私に微笑みかけた。
こなた「なんだ、やっぱり負けか……」
私は苦笑いをした。
かがみとつかさは相変わらず鬼ごっこをしている。みゆきさんはかがみを見ながら言った。
みゆき「かがみさんに何を言おうとしてたのですか」
こなた「喧嘩の事を謝ろうとしてね、それに私の事を見直したなんて言うから、私は命乞いをしたからそんなことないよって言おうとしたんだけどね」
みゆき「……もう肝試しは終わりました、喧嘩も終わっていますね、ここにかがみさんが居るのがなによりの証拠」
こなた「みゆきさんが居なかったら御守りも、箱も見つからなかった、ありがとう……」
みゆき「いいえ、どういたしまして」
かがみが私達の所に戻ってきた。
かがみ「こなた、何てこと言ってくれるのよ、つかさがしつこくてしょうがない」
みゆき「私も是非聞きたいですね、かがみさんの恋の話……」
かがみ「ちょ……なんでそうなるのよ」
つかさ「ゆきちゃんもそう言ってるよ、もう話してよ、お姉ちゃん」
三人で話す、話さないで会話が弾んでいる。なんだかんだ言ってかがみも満更でもなさそうだ。私は会話から外れて足元に生えている野花を摘んだ。
かがみがそれに気付いた。
かがみ「何してるのよ、らしくないことして」
こなた「見ての通り花摘みだよ、あの二人の霊に供えようと思ってね」
それを聞いたみゆきさんとつかさは私と同じように花摘みを始めた。かがみは一人立ったままだった。
かがみ「あの霊はこなたを殺そうとしたのよ、私だって……よくそんな気になれるわね」
こなた「あの霊は私を殺そうとはしなかったような気がして」
かがみ「そんな事はない、現にこなたは倒れたじゃないの」
こなた「つかさが箱を見つける前にすでに月は見えていたよ、もうとっくにタイムオーバーだった、私を殺すつもりならもう死んでるよ、それに、ゆーちゃんの
クラスの子も肝試しをしたけど、その子は交通事故に遭った、でもそれは防げた事故だった」
かがみ「ゆたかちゃんのクラス?、初めて聞いたわねそんな話」
こなた「そんな話したら、もっと怖くなるでしょ」
かがみ「……それは否定しない、だけど何故幽霊はそこまでして私達を怖がらせた」
何故と聞かれて直ぐには答えられなかった。花を摘みながらつかさが答えた。
つかさ「二人は逢いたかった、それだけの理由があれば充分だよ、私が幽霊だったらそうするかも……それに私が箱を見つけたときはもう月は完全に出てたよ」
みゆき「幽霊の目的は泉さんやかがみさんの死ではなかったのは確かですね、御守りと箱を一緒にして欲しかった、そして二人の境遇を理解して欲しかった」
突っ立っていたかがみは自然に腰を落とし、花を摘んでいた。
かがみ「月下では白い花が映えるわね」
かがみは白い野菊を中心に摘んでいたようだ。確かに白い花は月の明かりを反射してより白さを際立たせていた。
つかさ「このくらいあれば大丈夫かな、皆、お花をかして」
私達はつかさに花を渡した。つかさは自分のリボンを外すと花を纏めて結んで花束を作った。即席にしては上出来だ。色々な花が混ざっている。
皆それぞれのセンスの違いか。
つかさ「どこに供えようかな?」
かがみ「この辺り、昼間は人通りがあるわね」
みゆき「あそこはどうでしょうか」
みゆきさんが指差す所を見ると、ここから少し離れたところに小高い丘があった。
かがみ「あの丘ならこの辺りも見下ろせていいかもね、行きましょ」
丘に着いて私達は辺りを見回した。学校、校庭、広場。全てが見えた。公園のようだが滑り台やブランコはなくベンチが数個置いてあるだけだった。
かがみ「こんな所があったなんて今まで気が付かなかったわ」
みゆき「運動部はこの辺りまで走っているようですが、私もここに来たのは初めてですね」
こなた「運動系の部活やってなければこんな所まで来ないよね……つかさ、花を」
つかさは花束を私に渡した。私は一番広場が見える場所に花束を置いた。暫く私達は目を閉じて黙祷をした。
突然私のポケットから携帯の着信音が聞こえた。
かがみ「こなた、こうゆう時はマナーモードにしておきなさいよ」
と言っていたかがみからも着信音がする。かがみは慌てて音を切った。
つかさ「もうこんな時間だよ、多分お父さんだと思うよ」
私は腕時計を見た。もう0時を過ぎていた。もうこんな時間か。
こなた「か弱き乙女が四人もこんな時間まで外にいれば心配もするね」
つかさ「お父さんにメール入れておくよ」
かがみ「みゆきはいいの?」
みゆき「私はもうこうなると思っていましたので予め話してあります」
こなた「流石だね」
かがみ「もう電車もないから帰れないわよ、朝までここで過ごすしかない、そこにベンチがあるから休みましょ、丁度人数分あるから」
みゆきさんとつかさはベンチに座ると直ぐに眠った。地面を掘って疲れたのだろう。かがみも転寝状態だ。しかし私は眠ることができなかった。
倒れてたせいかもしれない。それとも満月の光のせいか。月の光がこれほど明るく感じたことは無かった。夢に見た月夜と同じだ。月は西に傾いている。
みゆきさんが言っていた。死の予感は怖いって。確かに怖かった。この日に死ぬなんて言われたら……人柱になった女の子もそうだった。
昔、あの広場で夢で見た出来事が起きた。ゲームでも漫画でもない。昔の事とはいっても人を生き埋めにして祈るなんて馬鹿げてる。
人柱伝説はここだけじゃない、日本全国にあるってみゆきさんが言ってた。興味本位でやった肝試しだったけど。こんな伝説を知っていればやらなかったかも。
かがみ「眠れないのか」
後ろから私に声をかけてきた。
こなた「そう言うかがみだって、いきなり起きてきてどうしたの」
かがみは私の横に並んだ。そして私と同じように広場を見た。
かがみ「意外と月の光は眩しいのね、どうも寝付かれなくてね」
こなた「ふふ、私と同じだ」
しばらくの間、私達はぼんやりと夜景を見ていた。遠くでは街の明かりが月の光に負けじと灯っている。今更ながら陸桜学園もけっこう街から外れているなと思った。
かがみ「今度から満月を見る度に、こなたとの肝試しを思い出すことになりそうね、可笑しいわね、肝試しは新月にやったのにね」
こなた「夢の事を言っているの?」
かがみ「そうよ、多分こなたが見た夢と同じ、ただ違うのは私が満月の日に死ぬと言われた事ね、正直怖かったわよ、学校を休もうとしたぐらいにね、
月がどんどん満月に近づいていくのを見ると涙が出てきた」
こなた「それで私達に夢の事を話したんだね、みゆきさんの言う通りだ」
かがみ「そうね、みゆきには敵わない、まさか御守りがうちの神社にあったなんて……そして箱の在り処もみゆきが当てたわね」
俯いて肩を落としている。気弱なかがみを見るのも初めてかもしれない。
こなた「そういえばまだ言ってなかったね、満月になったら言うって」
かがみ「……もういいわよ、どうせ喧嘩の事でしょ、つかさやみゆきにバレちゃったし、思い出したくもないから」
失恋か、私も聞きたいけど、それはもう少し経ってからからでいいかな。
こなた「私が倒れた時、泣いてくれたよね、私の頬に数滴涙がかかったのを感じたよ」
かがみ「私が、こなたの為に、まさか、気が動転して勘違いしてたんじゃないの、喧嘩してふて腐れて御守り探しをしなかった人に涙なんか流さないわよ」
月明かりでも分かるほど顔を赤くして否定してる。相変わらず素直じゃないな。今回はそのまま受け入れるか。そういえば、つかさやみゆきさんに言った言葉、
まだかがみには言ってなかった。
こなた「……でも、私の時は探してくれた、ありがとう」
かがみ「ばか」
かがみらしい返事だ。でもかがみの気持ちは分かった。死の予感をお互いに体験したから。
空が薄く明るくなってきた。日の出が近い。満月はもう目立たなくなってしまった。その満月も西に沈もうとしていた。
こなた「もうすぐ日の出だね、もう月が霞んじゃってるよ」
かがみ「月は夜でないとその美しさは出ないわね……まさかまた日の光を見る事ができるなんて、良かったわね」
こなた「うん」
かがみがあくびをした。
かがみ「今頃眠くなってきた」
こなた「授業中居眠りしないようにね」
かがみ「こなたじゃあるまいし、今の言葉そのまま返すわよ」
こなた「相変わらず手厳しいね」
かがみ「さてと、つかさとみゆきを起こして学校に戻りましょ、学校の方が休めるわよ、裏門に行けば入れてくれるはず」
月夜では綺麗に見えた花束。まだ日が完全に出ていないのにくっきりと見える。野性の花だけあってやっぱりお花屋さんで売っているものより色褪せている。
少し残念な気持ちになった。
あれから三日後だった。広場の工事中に白骨死体が発見された。柱に括り付けられた状態だったと言う。それは江戸時代、人柱で生き埋めにされた
女性であることが分かった。工事は一時中止となった。その代わりに旧校舎の解体工事が繰り上げて行われることになった。
旧校舎が解体された後、そこは公園になる計画らしい。そんな中、つかさが急に旧校舎の音楽室を見てみたいと言い出した。一人では行けないから皆呼ばれた。
こなた「なんでいきなり行きたくなったのさ」
つかさ「明日から解体工事始まっちゃうから……」
こなた「まさかつかさも肝試しモドキをって?」
つかさ「……ちがうよ、ただ、ただね、人柱にされた女の子が見つかったから……もう一度祈ってあげようかなって」
こなた「それなら一人で行けるじゃん、無人の建物とは言え昼間だし、明るいし……」
っと言ってもつかさはかがみの側から少しも離れようとはしなかった。しかし音楽室に近づくと日が差し込まないのでうっすらと暗くなった。つかさの顔色が
青ざめていくのが分る。体もすこし震えている。すると奥から音が聞こえた。小さい音。音楽室から聞こえる。ピアノの音だ。つかさはその場で止まってしまった。
かがみ「どうしたのよ、行くって言い出した人が立ち止まっちゃったら先にすすまないじゃない」
つかさ「だって……ピアノ……なってる……よ」
こなた「幽霊は江戸時代の人だよ、ピアノなんか弾ける訳無いじゃん」
みゆき「……この曲は……」
みゆきさんまで立ち止まった。私とかがみはため息をついた。
こなた「それじゃ私とかがみで音楽室見てくるからそこに居てて……」
私とかがみで音楽室の入り口の前に立った。はっきりとピアノの音が聞こえる。静かな曲だ。私は扉に手をかけた。かがみも扉に手をかける。お互いに頷いた。
こなた・かがみ「せーの」
二人で思いっきりドアを開けた……。ピアノの演奏は止まった。私達はピアノの前に駆け込んだ……。
こなた「みなみ……ちゃん」
ピアノの前に座っていたのはみなみちゃんだった。私達を見て驚いていた。
かがみ「ご、ごめん、驚かすつもりはなかったんだ、こなたのやつがいきなり慎重になるもんだからね……」
こなた「いや、かがみが急にへっぴり腰になったもんだから……」
慌てて言い訳をした。そんな私達を見てみなみちゃんは笑い出した。音楽室の雰囲気に気が付いたのかつかさとみゆきさんも音楽室にやってきた。
つかさ「みなみちゃん、どうしてこんな所に……怖くないの?」
みゆき「みなみさんでしたか……」
かがみ「何故こんな所でピアノなんか……正式な音楽室があるじゃないの」
するとみなみちゃんはすこし寂しい顔をした。
みなみ「明日から、もうここでピアノが弾けなくなるから……」
みゆき「みなみさん、今日が初めてではないのですね、ここでピアノを弾くのは」
みなみ「はい……入学してからすぐにここで……誰もいないからいい練習場……でした、幽霊騒ぎが起きてからは誰も来なくなりました」
かがみ「放課後、夕方、早朝、音楽室で幽霊を見たとう噂……旧校舎の幽霊騒ぎは三年生なってから……」
私達四人は顔を見合わせた。
こなた「幽霊騒動の犯人は……」
つかさ「みなみちゃんだった?」
みなみちゃんはキョトンとした顔でこちらを見ていた。幽霊とかオカルトとかは平気、と言うよりは感心すらないみたい。
いくら私でも四六時中は居られない。状況が分っていない様だ。私は今までの経緯を話してあげた。
みなみ「そんな事が……私のクラスでも、クラスメイトが……」
こなた「ゆーちゃんから聞いたよ、大変だったね」
みなみ「もう明日退院するから……」
つかさ「それは良かったね……あれ?、この花、どうしたの?」
つかさはピアノの楽譜を置く所に一輪の花を見つけた。その花はその辺に生えている野菊だ。もうしおれかかっていた。水の入った小瓶に入っていた。
きっとみなみちゃんが入れてくれたのだろう。
みなみ「ピアノの上に置いてありました、これと一緒に」
みなみちゃんはリボンを持っていた。
つかさ「これ、満月の時花束にした私のリボンだよ、なんでこんな所に……」
みゆき「やはりそうでしたか……」
かがみ「やはりって、何か分ったの?」
みゆきさんは何かもやもやが晴れたようにすっきりしていた。
みゆき「みなみさんの弾いていた曲は『月光』でした」
かがみ「月光って、ベートーベンの?、曲は知ってるけど、さっきの曲は聴いていなかったから分らなかったわ」
みゆき「そうです、みなみさんはここで何度も月光を弾いていました、確かに幽霊騒動の正体はみなみさんだったかもしれません、しかし、人柱になった女性の
幽霊を呼んだのもみなみさんかもしれません」
かがみ「……確かにあの曲は月夜を連想させるわね……」
みゆき「そして、幽霊は思い出した、月夜で誓った愛を……そこに肝試しに来たかがみさん、かがみさんはその時恋をしていました、そんなかがみさんに
想いを伝えたかったのかもしれません、しかし思うように伝わらないので……今度は泉さんに」
つかさ「……この花は幽霊さんの答えだね、喜んでいるんだね、そうだよね」
みゆき「おそらく……」
私は音楽室の中央にある椅子に座った。
こなた「聴いてみたいな、その幽霊を呼んだみなみちゃんの月光」
みなみちゃんは顔を赤くした。
みなみ「……まだ一楽章しか弾けない……それに人前で弾いたことも……」
かがみ「私も聴いてみたい」
かがみも私の隣に座った。みゆきさんも座った。
つかさ「私も聴いてみたいな、どんな曲なのかな」
つかさはみなみちゃんのすぐ近くに座った。四人の目がみなみちゃんに集中した。
躊躇っていたけど覚悟をきめたのか目を閉じしばらく瞑想をしてから弾きはじめた。
静かに曲は始まった。聴いたことがある曲だ。同じようなリズムの繰り返しのように聞こえる。月夜……そう月夜だ。この静けさは満月の夜。
草原にそよ風が吹いている。草花がゆっくりとなびいている。月の光が淡く照らし出す。そんな感じの曲だ。そうか……それで幽霊は恋人との再会を選んだ……。
人柱として生き埋めにされた怨みだけだったら、私も、かがみも、ゆーちゃんのクラスメイトも、死んでいたかもしれない。
みなみちゃんの演奏が幽霊の心を癒したんだ。私は演奏をもっと聴きたくなった。
彼女の想いは通じた。人柱の彼女自身も発見された。きっと記念碑が建つ。そしてこの旧校舎は取り壊される。 この曲が終わった時、この物語も終わる。
永い夜が終わる。私達は祈るようにその曲を聴いた。
終。
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- 最高。ありがとう。 -- 名無しさん (2024-01-15 23:23:55)
2024-01-15T23:23:55+09:00
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お姉ちゃんの教室に入った。普通なら入り口で誰かに呼んでもらう。そんな事なんかしていられない。直接お姉ちゃんに言いたかった。
お姉ちゃんは日下部さんと峰岸さんと一緒だった。私はお姉ちゃんの目の前に立った。
かがみ「ほら、やっぱり来た、こなたを使って言い包めようなんて、なんて卑怯なの、今度はみゆきを使うつもり」
お姉ちゃんの言葉とは思えなかった。
つかさ「お姉ちゃん、それ、本気で言ってるの、こなちゃんは自分で行くって言ったんだよ、ゆきちゃんも心配してるよ」
かがみ「……な、なんでみゆきが心配しなきゃいけないのよ、関係ないでしょ」
つかさ「関係ないこなちゃんを巻き込んだのはお姉ちゃんの方だよ、何で昨日から怒っているの、分らないよ」
お姉ちゃんは立ち上がった。
お姉ちゃんは時々怒る。怒るけど、何故怒ったかは直ぐに分った。だから今まで喧嘩にならなかったのかもしれない。
今のお姉ちゃんの気持ちが分らない、理解できない。
かがみ「分らないなら分らないでいい、もう私に話しかけないで」
日下部さんと峰岸さんも立ち上がった。
みさお「お、おい、柊、もうそのくらいに……」
あやの「妹ちゃんも、放課後ゆっくり話そう……」
お姉ちゃんは私を睨み付けると教室を出て行ってしまった。
つかさ「お姉ちゃん、どうして……」
みさお「それにしても、柊と、柊の妹が喧嘩なんて、初めて見たよ」
あやの「そうね……仲がいい場面しか思い浮かばない」
つかさ「ごめんなさい……」
みさお「別に柊の妹が謝る必要なんかない、柊のやつ最近おかしかったし、いい薬だ」
つかさ「おかしかった……いつから?」
みさお「あやの、2週間くらい前だったよな?」
あやの「そうね……」
それは、私がアルバイトを始めた時と同じだった。
みさお「なんだ、柊の妹、心当たりあるのか?」
私の表情を見て日下部さんは言った。
つかさ「……お蕎麦屋さんでアルバイトする事になった時と同じ……」
みさお・あやの「お蕎麦屋さん!?」
うわ、こなちゃんとゆきちゃんと同じ反応をした。私がお蕎麦屋さんでアルバイトするのがそんなに驚くことなのかな。
つかさ「そんなに珍しい?」
みさお「珍しいと言えば、珍しいけど……なんでお蕎麦屋さんなんかに」
つかさ「そのお蕎麦屋さんの店主のお爺さんがね……」
私は夢中になってお蕎麦屋さんのお話を二人にしていた。
みさお「お、眼鏡ちゃんがお呼びみたいだ」
教室の外の方を見てみるとゆきちゃんが心配そうに私を見ていた。時計を見るともうお昼休みが終わろうとしていた。
つかさ「あ、私ったら、夢中になっちゃって」
あやの「うんん、面白いお話だった、今度そのお蕎麦屋さんに行ってみたい」
みさお「そうだな、そういえばこんなに柊の妹と話した事なかったよな……何でだろう」
そういえばそうだった。お姉ちゃんのお友達だから遠慮していたのかな。分らない。
つかさ「それじゃ、戻るね……お姉ちゃんの事は」
みさお「任せなさい、後で言っておくから、途中から逃げるなって、やっぱりちゃんと話さないと」
つかさ「ありがとう」
私はお姉ちゃんの教室を出た。自分の教室に戻りながらゆきちゃんとお話をした。
みゆき「戻ってこなかったので、様子を見に来たのですが、大丈夫でしたか」
つかさ「お姉ちゃん、途中で席を外しちゃって……あまり話せなかった」
みゆき「そうですか、委員会でかがみさんは話しの途中で席を外した事は無かったのですが……つかささんに話せない、話したくないものがあるのでは?」
つかさ「それって何だろう」
みゆき「私にも分りません……」
自分の教室に着くとこなちゃんが駆け寄ってきた。
こなた「かがみは、どうだった?」
つかさ「お姉ちゃん、私がこなちゃんを使わせたと思ってる、私は否定したけど、余計に怒っちゃった……」
こなた「つかさがそんな事なんかしないくらいかがみなら分りそうな気がするけど、どうしちゃったの、もうかがみが分らないよ」
こなちゃんは悔しいような、悲しいような顔だった。
みゆき「放課後はお蕎麦屋さんに行くのですか?」
つかさ「そのつもりだけど」
ゆきちゃんはちょっと言い難かったのか、少し間が開いた。
みゆき「一度休んでみてはいかがですか、それでかがみさんとじっくり話されては?」
やっと蕎麦打ちを教えてもらえるまでいったのに、これで休んだりしたら……
つかさ「ちょっとそれは出来ない、あと一ヶ月くらいは休みたくない……」
こなた「そうだよ、みゆきさんの言う通りだよ、かがみがあのままでいいの」
あのままのお姉ちゃん……
『キンーンコンカーン』
昼休みの終わりを告げるチャイムが校舎に響いた。先生が廊下を渡って私達のクラスに近づいてきた。
クラスの皆は一斉に自分の席に戻った。
話すなら放課後しかない。家だと部屋に入られちゃうと、話す機会がなくなってしまう。お蕎麦屋さんには携帯で今日は休むって言えばなんとかなるかも。
こなちゃんじゃないけど、このままお姉ちゃんと絶交にまでになったら。うんん、少なくともこなちゃんとお姉ちゃんの絶交はなんとかしないといけない。
放課後、休みの電話をかけようとした時だった。ゆきちゃんが教室に入ってきた。
みゆき「すみません、かがみさんはもう既に帰ってしまったそうです……」
携帯を操作する動作が止まった。こなちゃんも驚いていた。
みゆき「本当にすみません、もっと早くかがみさんに伝えていればこのような事にならなかったのですかが……」
お姉ちゃんは私達が放課後会おうとしているのを知っていたのかな。どっちにしても学校に居ないのなら家に帰ってから私自身でお姉ちゃんと話さないと。
つかさ「もういいよ、ありがとう、やっぱり、私がなんとかしないとダメだよね、アルバイトから帰ったらお姉ちゃんと話すよ」
こなた「アルバイトって、お蕎麦屋さんに行くつもりなの?」
つかさ「うん、もう後は時間の問題だから、アルバイトが終わってからでも……」
こなた「つかさ、かがみとアルバイト、どっちが大事なの」
こなちゃんの態度が急に変わった。怒っているのが分る。
つかさ「どっちって、比べられないよ、」
こなた「かがみが、自分のお姉さんが変わって何とも思わないの、私なんか絶交だって言われた、」
言葉に詰まった。どうして良いか分らない。そんな私を見てこなちゃんは痺れを切らせた。
こなた「これからかがみの所に行く、話してくるから、つかさはアルバイトでも何でも行ってかがみに嫌われちゃえばいい!!」
つかさ「こ、こなちゃん……」
こなちゃんは全速力で教室を飛び出して行った。
みゆき「泉さんはかがみさんに絶交と言われてよほどショックだったに違いありません」
つかさ「どうしよう……」
みゆき「泉さんはかがみさんと会うはずです、これから行っても邪魔になるだけしょう、つかささんはアルバイトに行ってその後からでも良いのではないでしょうか」
つかさ「ゆきちゃんは?」
みゆき「私は……今のかがみさんに何も出来ません、明日、学級委員会があるのでその時に話そうと思っていました……泉さんから言わせれば遅すぎるのかもしれません……」
ゆきちゃんはうな垂れてしまった。妹の私が何も出来ないのに、友人でも他人のゆきちゃん達に何かを期待するのは間違っているのかもしれない。
つかさ「とりあえず帰ったらお姉ちゃんと話してみる、また明日ね」
みゆき「また、明日……」
『かがみとアルバイトどっちが大事』
こなちゃんの言葉が頭から離れない。お姉ちゃんは私を避けている。こなちゃんも私を嫌いになってきているみたい……こなちゃんとお姉ちゃんも……ゆきちゃんは。ゆきちゃんまでも。
やだ。そんなのいやだ。なんで。私がアルバイトしただけでこんなになっちゃうの。こなちゃんだってアルバイトをしているのに。……分らないよ。
誰も教えてくれない。やっぱり私はまだアルバイトなんかしてはいけなかった。そんな気さえしてきた。
気付くと、いつの間にかお蕎麦屋さんの前に立っていた。お品書きは相変わらず傾いて立て掛けられていた。いつものように真っ直ぐに立て掛けなおす……
今日、最後のアルバイトにしようかな。お爺さん、せっかく蕎麦打ちを教えてくれるって言ってくれたのに。まだ一ヶ月も働いていないのに……でも、もうこれ以上続けられない。
扉を開けた。
つかさ「こんにちは」
老人「遅いぞ、さっさと着替えろ」
威勢のいい声。この声を聞くのも今日が最後かもしれない。
着替え終わり、厨房に入ると今日使う蕎麦の実は全て粉にしてあった。そしてボールに蕎麦粉が入っていた。
老人「二週間も粉挽きやっていたからもう良いだろう、最初にこの蕎麦粉を固めてみなさい、方法は……」
つかさ「方法は見ていて分りました、やってみます」
お爺さんは黙るとボールを私に渡した。
お爺さんの蕎麦打ちを何度も見て何となく分る。蕎麦掻きの時と同じ。それに小麦を使った料理なら何度か作ったことがあるし、上手くできた。その要領で作れば良い。
手を軽く水に濡らして……水を少しずつボールに入れて捏ねていけばいい。私だってこのくらい出来る。蕎麦粉は水を含んで徐々に固まっていく……
……
……
……
あれ……おかしいな。蕎麦粉が全く固まらない。力が足りないのかな。力を込めて蕎麦粉を押し付けた。まるで乾いた砂のようにすぐに崩れてしまった。
水が足りないのか。そうだよ。
ボールに入れる水の量を少し増やした。今度は固まってきた。やっぱり。よ~し。一気に練り上げるぞ。固まった蕎麦粉を掴むとボロボロとまた崩れ始めた。
つかさ「そんな~」
思わず声が出た。お爺さんがじっと見ている。出来るって言ったからには早く固めないと……
何度やっても蕎麦粉は固まらなかった。気ばかりが焦っていく。固めたはずなのに粉は直ぐに離れてしまう。分らない。どうして。
何度も、何度も、粉を抑えても固まらない。バラバラと離れてしまう。まるで今の私とお姉ちゃんみたい。時間ばかりが過ぎていく。
……
……
ボールの中でウサギの糞くらいの塊が出来るだけだった。私は機械みたいに蕎麦粉を捏ね続けた……固まらない。言う事を聞いてくれない。額から汗が出てきた。
蕎麦掻きは見ただけで出来たのに。水の量がまだ足りないのかな。思い切って水をボールに入れた……水が粉から溢れてきてしまった。
そして泥水のようになってしまった……失敗だ。
つかさ「どうして……固まらないの……」
……なぜか目から涙が出てきた。
老人「蕎麦に嫌われたな……」
ぽつりと言うとお爺さんは、私の使っていたボールを取り泥水のようになった蕎麦粉を捨てた。
つかさ「なぜ、なぜなの」
お爺さんのやっていた通りにした。水だって最初はお爺さんと同じ量を入れた。蕎麦粉の一粒、一粒が繋がろうとしなかった。
老人「蕎麦粉に、小麦粉の扱いをしてどうする……蕎麦粉は蕎麦粉だ、蕎麦は小麦みたいに繋がり易くはない……もう分っていると思ったがな」
お爺さんはボールを洗い始めた。
私って何も分ってない。もう、ここに居ても意味はないよね……
つかさ「短い間でしたけど、お世話になりました」
お爺さんにお辞儀をした。
お爺さんは封筒をカウンターに置いた。
老人「二週間分の給料だ」
そんな物受け取れない。私は更衣室に入ろうとした。
老人「涙がでたのならもう分っている筈なのに、残念だ、また何時でも来なさい……お品書きをいつも直してくれてありがとう」
家に着くとお母さんが玄関に立っていた。
みき「おかえり、さっき泉さんが来ていたけど帰ったわよ、会わなかった?」
私は首を横に振った。
みき「そう……夕食でも食べて行きなさいって言ったのだけど……どうしたの、元気ないけど、気分でも悪い?」
つかさ「うんん、なんでもない……なんでもないよ」
みき「それなら良いけど……かがみと泉さんも同じようだった、喧嘩でもしているわけじゃないでしょうね」
つかさ「だから、なんでもないって!!」
私は自分の部屋に駆け込んだ。鞄を放り投げて。そのままベッドに倒れこんだ。
もうお姉ちゃんもこなちゃんも皆別れてしまう。あの蕎麦粉みたいに何度捏ねてもやってもくっつかない。何をやってもだめ……私達と同じ。
これから三年生になって。みんな別々のクラスになって……皆バラバラになって……淋しい卒業式……
そんなの嫌……
すぐ隣の部屋にいるお姉ちゃんにすら何も出来ないなんて。アルバイトなんかしなければよかった。
遠くから子供達のはしゃぐ声が聞こえる。もう外は夕方か……学校からの帰り道かな。ときより笑い声も聞こえる。
そういえば小学校の頃だっけ、風邪をひいて休んだ時、こんな音が聞こえてきて外に出で遊びたいな、なんて思ったりした。そんな時、お姉ちゃんが来てくれて……
涙がまた出てきた。
いままで仲良く出来たのは私達が子供だったから……損得を考えたりしなくて済んだから……仲良く出来た。
もう私達は高校生……もう取り戻せない物があるから涙が出てくる。
取り戻せない……あれ……
蕎麦粉を固めているとき何で私は泣いたのかな。初めてだから失敗するのは当たり前。違う……初めてじゃない。私は一度蕎麦粉を固めている。蕎麦掻き……
そうだよ。私は蕎麦掻きを作ってお爺さんにあげた。あの時は……お湯を使った。粘りが出るまで箸で掻き回した……。
あの時、直ぐに固まると思ったから、なかなか固まらないからどんどん水を入れちゃって……水を入れるのが早かった……小麦粉じゃない。お爺さんはそう言っていた。
固まるまで待てば良かった。分った。分ったよ。お爺さんの言っている意味が。今ならきっと蕎麦粉を固められる。
私はベッドから起き上がっていた。もう一度やってみたい。そう思った。
でも……私はもうアルバイトを辞めてしまった。うんん、もう一度、もう一度お爺さんに言えば……
私は立ち上がり、涙を拭った。お蕎麦屋さんに行こう。
私は家を飛び出した。
駅を降りて学校へ行くバス停とは反対側へ向かって……そこにお蕎麦屋さんはあった。扉が開いてお爺さんが出てきた。のれんとお品書きを仕舞おうとしている。
もう店じまいをしている。まだ閉店には時間があるのに。
つかさ「お爺さん待って!!!」
私は走りながら叫んだ。お爺さんは私に気付いた。
老人「そんなに急いで、忘れ物でもしたのか、更衣室はまだ何も手をつけていないから見てくるといい」
つかさ「違う、違うの、分ったの!!」
老人「分った、何が?」
お爺さんは目を細めて考え込んだ。
つかさ「蕎麦粉の固め方が分ったよ、もっと時間をかけて水を入れる時間を遅らせればいいんでしょ?」
老人「何だ、そんな事を言いにわざわざ来たのか……」
そうだった。嬉しくてつい……
つかさ「お爺さん、もう一度雇っていただけませんか?」
私は深々と頭を下げた。すると、お爺さんはのれんを外しだした。
老人「つかさが帰ってから団体のお客さんが来てね、今日の分の蕎麦は無くなったから、店じまいする、つかさがダメにした粉は給料から引いておくぞ……それでいいなら明日来なさい」
つかさ「やったーありがとう!!」
私は思わずお爺さんに抱きついた。
老人「ば、ばかやろう、作業の邪魔だ、放せ!!」
つかさ「ご、ごめんなさい」
私は離れた。
つかさ「あ、あの、ちょっといいですか、明日なんだけど、もしかしたら私の友達と、姉を連れてきたのですけど……いいですか、来られるかどうか分らないけど」
老人「友達だろうと家族だろうと、客は客だ、好きにするがいい」
つかさ「ありがとう、それじゃ明日、放課後来ます」
老人「待ちなさい」
私は立ち止まった。
老人「蕎麦粉を固める時泣いていたが、固まらなかっただけが原因ではあるまい……」
つかさ「うん、あの蕎麦粉みたいに私のお姉ちゃんと友達がバラバラになろうとしていたの、だから……」
老人「そうか……来てくれるといいな、この店に」
つかさ「やれるだけのことをするだけ……」
老人「いい顔だ、失敗を懼れない自身に満ちている顔だ」
私はお爺さんに一礼すると。駅に向かって歩き出した。
つかさ「ただいま~♪」
玄関を勢いよく開けた。
みき「つかさ、何処に行っていたの……着替えもしないで」
お母さんが居間から出てきた。少し起こり気味だった。
つかさ「うん、ちょっとアルバイトの所まで」
みき「携帯かけても出ないから夕食はすませちゃったわよ、つかさの分は台所に置いてあるから食べなさい」
つかさ「ありがとう、後でだべるよ」
最初にする事はお姉ちゃんに会うこと。お姉ちゃんの部屋に向かうために階段を上がろうとした。
まつり「つかさ、いやに張り切っているけどどうしたのさ?」
つかさ「これからお姉ちゃんの所に行くところ」
まつり「お、またこの前みたいに、言い合いの喧嘩になりゃなきゃいいけど……」
言い合いの喧嘩。私もお姉ちゃんの言葉に反応して反発していた。だから固まらない。
つかさ「もうそれはないと思うよ、もう喧嘩なんて嫌だから」
まつり「そうだ、その調子」
まつりお姉ちゃんの励ましでまた勇気が湧いてきた。まつりお姉ちゃんは自分の部屋に行った。そして私は、お姉ちゃんの部屋の前にいる。
これからどうなるかな。また喧嘩になって、本当に絶交になるかもしれない。でも、このまま放っておいても絶交になっちゃう。それならやれる事をするだけ。
少なくとも私はお姉ちゃんと絶交はしたくないから。一回深呼吸をして心を落ち着かせた。
『コンコン』
つかさ「お姉ちゃん、入るよ」
ドアをノックしてドアをゆっくり開けた。お姉ちゃんは机に向かっていた。後ろを向いているので何をしているのかは分らない。読書か勉強と言ったところかな。
部屋に入ってもお姉ちゃんは机に向かったままだった。さて、何て言おう。もうそれは決めていた。
つかさ「こなちゃんが来たって、お母さんが言ってた……お姉ちゃん、こなちゃんと絶交するの?」
お姉ちゃんは本を机に置き、座ったまま私の方を向いた。相変わらず私を睨んでいた。
かがみ「つかさが悪い、こなたの顔なんて二度と見たくない……」
私が悪い。お姉ちゃんはそう思っていた。昨日の私なら否定していた。でも、水は入れちゃいけない。
つかさ「恋人が出来た振りしてアルバイトしていた、だからお姉ちゃんは怒っていた……ごめんなさい」
私は頭を下げた。するとお姉ちゃんはいきなり立ち上がった。
かがみ「何を今更……謝って済むと思っているの、出て行きなさい」
私は水を入れて蕎麦粉を固める事は出来ない。だけど。お湯を入れて固めることは出来る。
つかさ「お姉ちゃん、私がこの部屋を出て行ったら……もう二度と会わない、お喋りもしない、学校も別々に行く……それでもいいの、あと一年もあるのに、それでもいいの、
高校を卒業したら、もう、今まで通りにならないよ、それは、こなちゃんやゆきちゃんだって同じ」
かがみ「そんなのは知っているわよ、バカじゃないの」
お姉ちゃんはそっぽを向いてしまった。お姉ちゃんの声がすこし上がっている。
つかさ「そうだよね、私ってバカだから、もうどうして良いか分らないよ、だから、明日、私の働いているお蕎麦屋さんに来て、それから絶交でも遅くないと思うけど」
かがみ「蕎麦屋に行ってどうするのよ」
つかさ「お蕎麦屋さんに行ってする事なんて一つしかないと思うけど……」
お姉ちゃんは黙ってしまった。
つかさ「はい、それじゃ決まり、明日の放課後、私の乗るバスから二本遅れで来て、待っているからね」
私は部屋を出ようとした。
かがみ「こなたに……私はこなたに、絶交って言ってしまった、もう後戻りはできない」
すがりつくような目つきだった。
つかさ「こなちゃんも絶交って言ったの?」
お姉ちゃんは首を横に振った。それなら大丈夫。
つかさ「私ね、こなちゃん、ゆきちゃんも誘おうと思ってる……日下部さんや峰岸さんも、こなちゃんだってきっと来てくれると思うよ、その時に謝っちゃえばいいよ」
お姉ちゃんは顔を隠すように俯いてしまった。
かがみ「……話しはそれだけ、もう出て行ってくれない、読書の邪魔だわ」
椅子を回転させて私に背を向けた。ここでもう少し粘りたい所だけど、しつこ過ぎても逆効果、ここは一旦引こう。まだ明日があるから。
つかさ「私、まだ晩御飯食べていないから出るね、おやすみなさい」
お姉ちゃんの後ろを向く時の表情が少し変わったような気がした。お湯を入れた効果が出てきたのかもしれない。
食事を終え、お風呂に入ってあとは寝るばかり。自分の部屋の目覚まし時計をいつもより30分早く鳴るようにセットした。きっとお姉ちゃんは私よりも早く登校すると思ったから。
ベッドに入って寝るまでの間、何度か部屋の入り口の扉に人の気配を感じた。多分お姉ちゃん、私の部屋に入りたいのかも。入りたければ入ればいいのに。
そんな事を思いつつ、心地よい眠気が……そのまま眠ってしまった。
自然に目が覚めた。心地よい、よく眠れたみたい。目覚まし時計より早く目覚めるなんて、小学校の遠足の時以来かもしれない。 目覚まし時計のアラームを止めて部屋の外に出た。
ドアを開けると、丁度お姉ちゃんもドアを開けて出てきた。自然と目と目が合った。
つかさ「おはよー」
にっこり微笑んで挨拶をした。
かがみ「おは……寝癖が凄いぞ……」
私が頭を押さえると。そのまま階段を降りて洗面所に行ってしまった。その後はお姉ちゃんと競争、朝食を食べて、着替えて、髪を整えて……リボンを付けて……
遅刻をする訳でもないのに大忙しだった。やっぱり手際が良いお姉ちゃんの方が先に支度が終わった。
私の支度を待たないで。そのまま家を出てしまった。少し遅れて私も家を飛び出した
つかさ「いってきまーす」
走ってお姉ちゃんを追いかけた。お姉ちゃんの後ろ姿が見えた。
つかさ「待って~」
呼びかけるも早足で駅に向かうだけだった。追いつくとお姉ちゃんの横に並び同じ速度で歩いた。
つかさ「なんだか、こうやって一緒に登校するのが何年ぶりにも感じるよね」
かがみ「何言ってるの、一人で登校したのは昨日だけじゃない、大袈裟なのよ」
つかさ「あ、やっと話してくれた」
お姉ちゃんは口をギュっと結ぶと歩く速度を上げた。
つかさ「昨夜、私の部屋の前に居なかった、お蕎麦屋さんに来てくれる返事だったの?」
かがみ「トイレに行っていたのよ!!」
その後は学校に着くまで何の会話もなかった。
校舎に着くとお姉ちゃんと別れた。私は教室には行かずに校庭に向かった。まだ早いせいか生徒は殆どいない。この時間に居るのは部活をしている生徒くらい。
きっと日下部さんが居るはず
みさお「柊の妹じゃないか」
後ろから声がした。私は声のする方に振り向いた。もう部活が終わったのか、制服の姿の日下部さんが立っていた。
みさお「部活をやっていなのに早いな、誰かを探しているのか?」
つかさ「おはよー、日下部さんを探していた」
みさお「おはよう、なんだ、私か、それで私に何の用?」
つかさ「昨日、お蕎麦屋さんでアルバイトしているって言ったよね、今日の放課後、峰岸さんと一緒にどうかなって」
みさお「蕎麦か……放課後は部活もないし、たまには良いかな、あやのも誘ってみるよ……って柊は?」
私は首を横に振った。
みさお「なんだ、まだ喧嘩していたのか……」
つかさ「何度か誘ったのだけど、返事してくれなくて」
みさお「分った、柊も一緒に誘ってみるよ」
つかさ「あまりしつこく誘わないでね」
日下部さんは笑った。
みさお「柊の性格は分っているつもりだから、大丈夫、無理はしない、あいつは無理するとすぐに怒るからな、さらっと言うよ」
つかさ「ありがとう」
みさお「蕎麦か……楽しみだな」
つかさ「場所はバス乗り場から駅を通り越す古い建屋があるからすぐわかるよ、念のために携帯電話の番号教えるから」
みさお「サンキュー、ついでにあやの番号を教えてあげる、あっ、他人の番号を勝手に教えるのはまずいな、メアドも教えて、後で送る」
携帯番号をお互いに教えあった。中学生からの知り合いなのに。今になって……そう、蕎麦粉のようにくっつき難かった。時間がかかっても仲良くなれる。
私のしようとしているのが例え失敗したとしても諦めない。
教室に入った。一番乗り……と思ったら二人既に居た。こなちゃんとゆきちゃん。
こなちゃんは昨日お姉ちゃんに絶交って言われたから登校するのか少し心配だった。来てくれて良かった……
と思ったのは束の間だった。こなちゃんは病人のような顔色で自分の席に座っていた。それを心配そうにゆきちゃんが見ていた。
みゆき「先ほどかがみさんが通るのを見かけました、私が行ってきます」
ゆきちゃんの顔に少し怒りの表情が見えた。怒っているゆきちゃんを見るのは初めて……なんて感心していられない。怒りをぶつければ怒りでしか返って来ない。
私がお姉ちゃんの教室に行こうとしたら、そう言って止めたゆきちゃんなのに……怒るとそんな事すら忘れてしまう。
つかさ「おはよー」
少し飛び込むように教室に入った。ゆきちゃんは私の所に駆け寄ってきた。
みゆき「……つかささん、泉さんを見てください、酷すぎます、かがみさんの言動とは思いたくありません、つかささんもそうは思いませんか、これから抗議に行くところです」
朝の挨拶を忘れて声を荒げてしまっている。普段のゆきちゃんからは想像もできない。私は首を横に振った。
みゆき「何故です、つかささんも理不尽な扱いを受けたではありませんか」
つかさ「落ち着いて、お姉ちゃんがああ成ったのは、きっと私のせい、だから、私に任せて欲しい、今は何もしないで」
みゆき「しかしながら……」
つかさ「ゆきちゃん、こなちゃんも聞いて、今日の放課後、私がアルバイトをしているお蕎麦屋さんに来て欲しいの、お姉ちゃんも誘ったけど、来てくれるかどうかは分らない、
でもね、日下部さんは来てくれるって言ってくれた、多分峰岸さんも来てくれる」
こなた「……つかさ、そこで何をするの、もうかがみは何を言ってもだめだよ」
弱弱しい声だった。
つかさ「皆を固める」
固めるためには皆を同じ場所に集めないといけない。
みゆき「かためる、固めるとはどうゆう事ですか」
つかさ「それを知りたいなら、お蕎麦屋さんに来て……お願い」
私は祈るように両手を組んでお願いした。
こなた「勿体ぶるなんてつかさらしくないや……かがみが来るなら行くよ、そこで私からお別れを言うから……」
みゆき「私には分りませんが何か考えがあるようですね、つかささんがそこまで言うのであれば……」
つかさ「ありがとう」
こなちゃんがあんな事言うなんて、自信がなくなってきた。もしかしたら私は皆を集めてお別れ会をしようとしているのかも……私のしようとしているのはただの幻想なのかな。
あの時の蕎麦粉のように固まらないかも……うんん、迷ったらダメ。
お昼休み、日下部さんからメールが来た。峰岸さんも来てくれる。あとは……お姉ちゃん。
お姉ちゃんの態度は、はっきりしていないってメールには書いてあった。
放課後、私は真っ直ぐお蕎麦屋さんに向かった。お品書きは真っ直ぐ立て掛けられていた。店の扉を開けた。
つかさ「こんにちは」
老人「おう、来たか、それで今日は来るのか?」
つかさ「うん……一番来て欲しい人が分らない」
老人「そうか、とりあえず何人分だ?」
つかさ「うんん、お蕎麦はいいの」
老人「おいおい、蕎麦屋で蕎麦を出さなくてどうする」
つかさ「お椀5個と、お箸、蕎麦粉、それとだし汁、それを準備できますか?」
お爺さんは私をじっと見た。
老人「……蕎麦掻きか」
つかさ「うん、私が作りたいから、お蕎麦はまだ作れないから」
老人「一人で5人分か、辛いぞ」
つかさ「一人ずつ作る」
老人「着替えな、用意しておく……」
そろそろ約束の時間。お姉ちゃんも来てくれますように……
『ガラガラ』
店の扉が開いた。
つかさ「いらっしゃいませ!!」
みさお「お、やっぱりここだ、おーい、あやの、こっち、こっち!」
最初に来たのは日下部さんと峰岸さんだった。二人が店に入ると私はカウンターに案内した。
みさお「その服、似合ってる、けっこうはまってるかも」
あやの「粋で、かっこいいよ」
つかさ「ありがとう」
私はお茶を二人の前に置いた。日下部さんが少し暗い顔になった。
みさお「柊は……すまん、図書室で用事があるって、わざわざこんな時に用事を作らなくてもいいのに、柊は変わったな」
来ない……覚悟はしていたけど、来ないって分ると悲しみが込み上げてきた。でも折角来てくれたお客さんにそんな顔を見せられない。二人に精一杯の笑顔を見せた。
つかさ「来ないのは仕方がないよ、こなちゃん達も来るかどうか分らないから、始めるね」
みさお「始めるって……なんだ?」
そうだった。誘っただけで何も話していなかった。
つかさ「たった二週間じゃ、お蕎麦は作れないからごめんね、でもね、蕎麦掻きならなんとか出来るようになったから、みんなに食べてもらおうと思って」
みさお・あやの「そばがき?」
老人「最近の子は食べないし、作らないみたいだな……つかさの作る蕎麦掻きはうまいぞ」
つかさ「そ、そんなにおだてないで、調子が狂っちゃうから」
お爺さんは笑いながら厨房の奥に引っ込んだ。
つかさ「え、えっと、蕎麦粉をお湯で練って固めたものをだし汁で食べる料理だよ」
みさお「ふ~ん」
興味津津で私を見る二人。ちょっと恥かしいけど……作ろう。二人の為に……
私はお椀に蕎麦粉を入れ、お湯を少しずつ入れながら箸で掻き回した。
中学生から知っているとは言え、殆ど話した事のない二人。いつもお姉ちゃんと遊んだり、勉強したりしていた。そんな姿を見かけるくらいだった。
そんな二人が私を見ている。お姉ちゃんでも、こなちゃんでも、ゆきちゃんでもない。他人に近かった二人。お姉ちゃんの友達でなかったから、
一生会うこともなかった。そんな想いを込めながら作った。
つかさ「どうぞ」
二つのお椀を二人に出した。蕎麦掻きが珍しいのか、暫くお椀を見ていた。そして。箸を持つと蕎麦掻きを挟んで口の中に入れた。
みさお「お、これ、うまい、うまいよ」
あやの「……お蕎麦ってこうゆうものなのね……」
つかさ「ありがとう」
その後は、二人は黙々と蕎麦掻きを食べていた。
『ガラガラ』
店の扉が開いた。そこに立っていたのはゆきちゃんだった。
みゆき「ごめんください」
つかさ「いらっしゃいませ!」
ゆきちゃんは店に入ろうとせずに入り口に立ち尽くしていた。
つかさ「どうしたの、入って」
それでもゆきちゃんは入ろうとしなかった。ゆきちゃん一人だけみたい……そうか、こなちゃん、来なかった……お姉ちゃんが来るのが条件だった。
みゆき「すみません、私……私は……」
今にも泣きそうな顔だった。
つかさ「もういいよ、ゆきちゃん、お姉ちゃんとこなちゃんを誘ってくれたんだね、入って、蕎麦掻きを作ってあげるから」
みさお「柊の妹もそう言ってるし、入ったらどうだい、眼鏡ちゃん、美味しいぞ……蕎麦掻」
あやの「折角来たのだし、食べて帰ったらどう?」
みゆき「え、あ、はい」
ゆきちゃんはゆっくり店の中に入った。そして峰岸さんの隣に座った。
つかさ「それじゃ作るね……」
お椀の蕎麦粉を掻き回した。腕が重くなってきた。一人分作るのに沢山掻き回さないといけない。それに掻き回していくと粘りが出てきてどんどん重くなっていく。
お爺さんの言った「辛い」の意味が分った。
みゆき「蕎麦掻き……ですか、蕎麦を麺にして食べるようになったのはかなり最近になってからと聞いています、小麦のようにグルテンが無いので繋げるのが難しいのです」
ゆきちゃん……なんでも知っている。勉強も親身になって教えてくれるし、教え方はお姉ちゃんより上手かもしれない。学級委員長もしている。
だけどそれを自慢しない。いつも控えめ。お姉ちゃんと知り合いじゃなかったから、近寄り難くて声もかけられなかったかも。
そんな想いを込めながら掻き回した。
みゆき「……辛そうですね、無理もありませんグルテンが殆ど無いので蕎麦粉はすぐにバラバラになってしまいます、そこにお湯を入れて蕎麦粉を繋ぎ……はっ!!」
ゆきちゃんは突然立ち上がった。日下部さん達は驚いた。
みゆき「つなぎ難い、バラバラになった蕎麦粉を繋げる……もしかして、つかささん、私達を蕎麦粉に例えているのですか?」
つかさ「あたり……私ってこんな事しか出来ないから……分って貰えるかな……私、お湯になれたらなって」
ゆきちゃんは席に座った。
みゆき「もう既にお湯になっています……今朝、私を止めなければ私は怒りに任せてかがみさんを責めて喧嘩をしていました……」
つかさ「本当に、嬉しいな、ゆきちゃんに褒められるなんて」
みゆき「実際に作った事がなければ思いつかない発想です……嗚呼……もっと早く分っていれば、引きずってでも二人を連れてきていました」
つかさ「どうぞ……」
悔しがるゆきちゃんの前に蕎麦掻きを置いた。
みさお「すげえな、蕎麦粉でそんな発想できるなんて、柊の陰に隠れて目立たないと思っていたけど、柊の妹、見直した!」
ゆきちゃんは蕎麦掻きをじっと見た。
みゆき「いただきます……」
私が思い描いた幻想。初めて他の人に理解できてもらった。幻想じゃなかった。今、私のしようとしている事が正しかったのを実感した。
あやの「高良さん……でしたね、はじめまして」
みゆき「こちらこそ、かがみさんのお友達とは存知していました、何か切欠がなければなかなか話せないものですね」
日下部さんと峰岸さんがゆきちゃんとお話をし始めた。
この場にお姉ちゃんとこなちゃんが居てくれれば……
扉を見た。
何だろう……人影かな。扉に人影が何度も横切っている。もしかして、お姉ちゃん?
私は扉に向かい、扉を開けた。
こなた「つ、つかさ……」
つかさ「こなちゃん、来てくれて嬉しい、入って……」
こなちゃんを招きいれようと店の外に一歩踏み出した。壁の陰にお姉ちゃんが立っていた。
つかさ「お姉ちゃん、お姉ちゃんも来てくれた……良かった、待っていたよ、入って」
こなちゃんは店の中に入った。だけど、お姉ちゃんは入ろうとしなかった。
こなた「絶交するならつかさの前で……そうかがみに言ったら、ここに来る事になった……」
私はお姉ちゃんの手を掴んで引っ張った。
つかさ「席に座っているだけでいいから、ね?」
お姉ちゃんの足が動いた。
私はお姉ちゃんとこなちゃんを隣の席に座らせた。
本当は私とお姉ちゃんの喧嘩だったのに……いつの間にかお姉ちゃんとこなちゃんも絶交の危機に曝されている。
お姉ちゃんとこなちゃんは俯いて座って何も話そうとしない。
みゆき「泉さん、かがみさん、つかささんは、蕎麦の……」
つかさ「ゆきちゃん」
私はゆきちゃんに首を横に振った。言葉では分ってくれない。そう思ったから皆をここに呼んだ。
こなた「かがみ、つかさと私に言いたい事があるんでしょ、早く話してよ」
まるで挑発するかのような口調だった。その声にお爺さんは様子を見に来るくらいだった。
つかさ「こなちゃん、お姉ちゃん、ここに来たから、まずは、私の作る蕎麦掻きを食べて、何か言いたいのならそれからにして」
私は二人を見据えて落ち着かせるように話した。
かがみ・こなた「蕎麦掻き……」
お椀に蕎麦粉を入れて……お湯をいれて……箸で掻き回す……四回目の蕎麦掻き、腕が痛い。だけど休めない。
こなちゃん……目的が何にしてもお姉ちゃんを連れてきてくれた。それが何より嬉しい。
私と友達になって直ぐにお姉ちゃんとも友達になった。最近になっては私よりお姉ちゃんの方と会う機会が多いかもしれない。
でもそれを寂しいと思ったことはなかった。ゆきちゃんとは違った面白いお話をいろいろ聞かせてくれる。漫画も貸してくれる。
私と似たような所もあるし、気の合う一番の友達……そんな想いを込めながら……
二人は呆然と私がお椀を掻き回している姿に見入っていた。
こなた「なんでそんな必死になって掻き回さなきゃいけないの?」
つかさ「蕎麦粉はとっても頑固なの、こうしないと固まってくれないからだよ、蕎麦打ちを教えてもらったけど少しも固まってくれなかった」
みゆき「どこか、誰かに似ているとは思いませんか」
ゆきちゃんが合いの手を入れてくれた。私から言う言葉はもうない。掻き回すお椀に全てを集中した。
固まった蕎麦掻きにだし汁を入れて……
つかさ「どうぞ」
こなちゃんの目の前に蕎麦掻きを置いた。でも、こなちゃんは食べようとはしなかった。
つかさ「冷めないうちに食べてね」
腕が鉛のように重い。だけど。最後にもう一人分作らないと。
つかさ「それじゃお姉ちゃんの分」
お椀を持ち上げた。手の力が抜けて落としてしまった。蕎麦粉が床に散らばった。
つかさ「ごめんなさい……私ってダメだね」
苦笑いをした。お爺さんが直ぐに代わりの蕎麦粉の入ったお椀を持ってきてくれた。
老人「片付けておくから、続けなさい」
つかさ「うん、ありがとう」
お椀をお爺さんから受け取った。一回深呼吸した。お湯を少し入れて……掻き回して……
つかさ「お姉ちゃん、私と双子のお姉ちゃん、私が物心ついた頃から一緒に居た、いつも一緒だった、ご飯を食べるのも、遊ぶのも、お昼寝するのも……
それから高校まで同じ学校……一番身近だった人……分っていると思っていた、怒っている時だって何で怒っているのか分った、悲しんでいるときも、笑っているときも、
でも、そう思っていただけ、本当は一番分らなかった、分った気になっていた、だから喧嘩しちゃった」
私はお本当のお姉ちゃんを知らなかった。今までのお姉ちゃんは私が思い描いた幻想、蕎麦粉を小麦粉と同じと思ったのと同じ……
つかさ「どうぞ」
お姉ちゃんの目の前に蕎麦掻きを置いた……でもお姉ちゃんも食べようとはしなかった。
つかさ「どうしたの、二人とも、食べて」
こなた「う、うん」
こなちゃんはお椀を持ってチラっとお姉ちゃんを見た。
こなた「かがみ?」
こなちゃんはお姉ちゃんを見たままになっていた。私もお姉ちゃんを見た。お姉ちゃんはお椀を見ながら涙を流していた。
そして……
かがみ「……う、う、わー!!」
号泣。お姉ちゃんはお椀を見ながら大声で泣き出した。これは……固まらない蕎麦粉を見て泣いた私と重なった。お姉ちゃんも私の事が分らなくなっていた。
そうだったんだね。お互い様だね。お姉ちゃん。
『ガラガラ』
お客さんが入ってきた。
老人「すまないね、今日は貸し切りだ、明日、また来てくれ」
お爺さんは店の外に出るとのれんとお品書きを仕舞った。
泣くといいよ、涙が涸れるまで……
泣き終わったら仲直りしようね。
卒業式の日、私はもう一度、周一さん店に皆を呼んだ。周一(しゅういち)さん?
お蕎麦屋さんのお爺さんの名前、あの日、教えてくれた。
アルバイトの最終日、皆に私の打った蕎麦を振舞った。
蕎麦打ちは何とか一通り出来るようになった。でも、周一さんに言わせればまだまだ合格点はつけられないって。
これから私は専門学校生、もうお蕎麦屋さんで働くことが出来なくなった。アルバイトも卒業。いつかお爺さんに、周一さんに合格って言ってもらうために、蕎麦打ちの道具を買った。
お姉ちゃん達は大学生。もう同じ学校に行く事もない。皆別々の道を歩み始めた。でも、寂しくはない。
一度固まった蕎麦粉はもう二度と離れることはないから。
終
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- 祝!らき☆すた連載再開! &br()ここもまたにぎわうといいですね -- 名無しさん (2022-09-02 19:49:42)
- またもや来てしまいました。 &br()今日でらき☆すた13年周年という事をツイッターで知りました。 &br()今でも多くの人に愛されているようで何よりです。 &br()二期や続編もそうですがここもまた新作が出るといいですね。 &br() -- 名無しさん (2020-04-08 21:54:12)
- 事件の影響で寂しくなってまた来てしまいました &br()変わらず面白くて少し元気になりました -- 名無しさん (2019-07-29 16:59:39)
- こちらこそ返信ありがとうございます。 &br()またしても作者さんがコメントしてくださるとは思いませんでした。 &br()アニメ化から10年以上経っているのに人が来る時点ですごいと思いますけどね。 &br()ご存知かもしれませんがkairakun○zaというサイトの方もちょいちょい人来てますし。 &br()アニメ二期がくればまた新作が出たりして盛り上がるとは思うのですが。 -- 二つ下の者です (2018-05-14 02:31:13)
- ありがとうございます。 &br()読んでくれるとは思いませんでした。 &br()最近はこのサイトに来る人も少なくなってきたので &br()大変うれしいです。 &br() &br() &br() -- 作者 (2018-05-10 20:26:45)
- 二つ下のコメの者です &br()亀返信になってしまいましたがどれも素晴らしい作品でした &br()特に「つかさのネタノート」がお気に入りです &br()どうもありがとうございました -- 名無しさん (2018-05-06 05:07:28)
- 名作確定 &br()GJ! -- 名無しさん (2017-05-27 14:10:51)
- どうもありがとうございます &br()拝見させていただきます -- 名無しさん (2016-03-05 04:22:57)
- 作者別作品で№1が私の作品なのでよかったらどうぞ &br() -- 作者 (2015-10-15 02:08:53)
- なるほど、ありがとうございます &br()まさか作者さんがコメントして下さるとは・・・ &br()出来れば見て見たかったですが仕方ないですね &br()また何か書いて頂けたら嬉しいのですが -- 名無しさん (2015-10-14 01:33:28)
- 「何故かがみがあそこまで怒っていたのかがよくわからない」 &br()それゆえつかさの苦悩を表現したかった。 &br()コンクール期間内に書かなくてはならなかったのでそこまでの表現を書ききれなかった。 &br()それに、作った当時にしてもかがみの激怒の本当の理由を自分自身設定していなかったのは確かです。 &br()貴重な意見ありがとうございました。 &br()今からでも後日談として書こうと思えば作れますが後付臭くなりますので止めときます。 &br()仲直りする直前のかがみが泣いたシーンでいろいろ考察するのも &br()面白いかもしれません。 -- 作者 (2015-09-23 00:26:05)
- 面白かったです! &br()そばがき作ってみようかな &br()ただ何故かがみがあそこまで怒っていたのかがよくわからない・・・ -- 名無しさん (2015-09-22 06:00:14)
- 面白かった! &br()蕎麦がき食いたい! -- 祝! 『宮河家の空腹』地上波アニメ化決定! (2013-09-04 20:53:55)
- すごい良い話だった &br()書いた人,ありがとう -- 名無しさん (2012-04-06 02:14:18)
2022-09-02T19:49:42+09:00
1662115782
-
ID:OfqTD7A0氏:怨霊サイト・獄
https://w.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1532.html
今日は久し振りに何処にも行かずネトゲ三昧な一日だった。夏休みももう中盤。まだ宿題は終わってないけど、まぁ、なんとかなるし、そこは気にしない。
気付けば時間は深夜1時。流石に少し眠くなって来たので、パソコンを終了してベッドに寝転ぶ。
だけどまだ寝ない。携帯を開き、寝る前に軽くネットサーフィンをするのが最近の日課になっているからだ。
よく行くサイトにレスをしたりしていると、画面上に気になる広告があった。
怨霊サイト。
何だろう。見た事ない広告だ。というか広告なのだろうか? まぁ今の時期じゃ、調度良いタイトルだと思うけど。
ま、たいしたサイトじゃないだろう。スルースルー。
やがてサイトを見終わり、さて寝るか、と携帯を閉じようとした時。またあの広告を見つけてしまった。
必死なサイトだなぁ。とか思いつつも興味が湧いてきたりしていた。寝る前に恐怖体験するのも夏らしくて良いかな~なんてね。
入るか入らないか暫く迷っていたが、結局は入る事にした。怖い物見たさってやつだよ。
いざ入ってみると、やはりというか、それっぽい雰囲気漂うサイトだった。真っ黒い背景に、赤い字で『霊の遊び場』と書かれている。
だけど何かおかしい。
普通、広告サイトというのはその名の通り、商品の販売や携帯アプリ等の、お金を払う系のサイトだ。私もそれを期待してどんな怖い物があるのか、と一通り見て終わるつもりだった。
しかし、これはどう見ても、一般の個人のサイトなのである。
個人サイトって広告の位置で宣伝出来たっけ? 有名サイトって訳でもなさそうだし……。
ま、いっか。
とりあえず、ここがどんなサイトか知るために『はじめに』という項目をクリックした。
間もなく表示されたページには、このサイトの説明文が書かれていた。内容を要約するとこうだ。
ここは管理人が趣味で作った恐怖CGを公開する個人サイトであり、各CGには仕掛けがあり、それを解くと『鍵』を入手できる。
全ての鍵を集め『扉』を開き『脱出』できるという内容。
どこから脱出するんだか。それと最後に注意事項として、心臓が悪い方は閲覧禁止~みたいな事が書かれていた。
うん。やっぱりここ、個人サイトじゃん。確信したね。
まぁ、それはどーでもいっか。頑張って広告できる地位を獲得したんだろう。
とりあえず、遊んでみることにしますか。
『ギャラリー』の項目をクリックする。日記もあったが今はスルーしておいた。開いたページに、項目は三つしかなかった。少ない……。が、ちょっと遊ぶつもりの私には調度良い数かな。
項目は上から『腕と鍵』・『砂時計』・『呼び鈴』となっていた。先ずは『腕と鍵』だ。
『腕と鍵』のページに入ると、気味の悪い白い腕と鍵が表示された。腕の手は開いている状態だ。
仕掛けがあるって事なんだけど、鍵見えてるじゃん。練習部屋なのかな?
鍵にカーソルを合わせると、カーソルが指に変わったのでクリックしてみた。すると鍵はカーソルにくっついた。
鍵で扉を開けるらしいから、この状態で戻れば良いのかな? なんか簡単すぎるよ。ちょっと拍子抜けしちゃ――。
ん? ん?
よく見るとCGに異変が起きていた。白い腕が鍵を持ってるカーソルに向かって伸びて来ていたのだ。
きもっ! 仕掛けってこれの事か。
私は腕に捕まらないよう、カーソルを動かし逃げようとしたが、時既に遅し。もう今にも捕まりそうな距離だった。
え、これどうなるの? どうなるの? と、ホラーサイトなので半ば緊張していると。
手がカーソルを掴み取り画面がクラッシュした。赤いフラッシュの効果が発動し、携帯のバイブが機能した。
驚いて携帯を離してしまった。画面を見ると、トップページに戻されていた。
はは、なかなかやってくれるじゃん……。少しちびっちゃったよ。くそぅ。
でも内容はよく分かった。このままでは悔しいのでクリアしてやろうと闘志を燃やした時、一通のメールが届いた。
こんな時間に誰だろう? と、別ウィンドウを開きメールを確認する。
すると、そのメールは知らないアドレスから送られて来たものだと分かった。本当に誰だよ……。
メールを開いてみる。
時刻 2009/08/12 水 01:22
差出人 ******
件名 道
―――――――――――
大丈夫。
もうスぐあなたのところに着く
ノ
で、心配しないデください。
―――――END―――――
一瞬、ゾッとしたが、直ぐに閃いた。
恐らくこのサイトに入ったときに、何かしらの形で私のメルアドが登録されてしまったんだろう。そしてCGの仕掛けに失敗すると、怖いメールが届くようになっているんだ。中々作り込まれているが、勝手にメルアド登録っていけないんじゃないかな。後でメルアド変えなきゃならないよ……。
画面をサイトに戻す。『腕と鍵』のページを開き、今度は難無くクリアした。
これで鍵は一つ目。ギャラリーの項目は三つだから、鍵は全部で三つなのかな? ということで、二つ目のCG『砂時計』を見ることにした。
その時。部屋の明かりが消えた。
停電? じゃないよね……。
試しにテレビを点けてみる。映った。やっぱり停電じゃない。電球が切れたのだろうか。
テレビを消して視線を携帯に戻す。ま、これが終わったら寝るし、電球変えるのは明日でいっか。
そう結論付けて、私は『砂時計』をクリックした。
画面には、大きな砂時計が一つあるだけだった。
背景は、病院の廊下みたいな絵で、薄暗く不気味だ。
さて、こんどは何をすれば良いのかな? 砂時計にカーソルを合わせても、クリックの印である指に変わらないし……。
砂時計の砂が、ちびちび落ちていく。ここでの砂時計の役割は、恐らく制限時間だろう。この砂が落ち切る前に、何かアクションをしないと失敗になり、メールが来る。何回失敗して良いのか知らないけど、私としてはもう失敗したくない。なんかこう、ゲーマー魂に火が着いたっていうかね? 負けたくないのだよ。私は。
画面に集中する。何も無い病院の廊下。蛍光灯の調子が悪い事を演出してるのか、度々画面が黒くフラッシュしていた。
そこで気付いた。
画面がフラッシュする度に、何か白くて細長い物が近づいて来ていたのだ。
カーソルをその白い物に合わせると、指に変わった。
クリック出来る証! だけど、本当にこれなのかな? と、思っていると、また画面がフラッシュ。白い物は更に近づいて来ていた。そして、それは物じゃなくて“者”だという事が分かった。
全身、白ずくめの女の幽霊。
気持ち悪い。明らかにダメっぽいんだけど、他にクリック出来るところ無いしなぁ……。
一か八かでクリックしてみた。
その瞬間。気味の悪い女の顔が画面全体を占め、先程の『腕と鍵』と同じフラッシュとバイブの演出が発動した。
女の顔に驚いた私は、携帯を勢いよく閉じてしまう。
CGとはいえ、恐すぎるよ。グロ画像と言っても過言ではないね。うん。
一呼吸置いて携帯を開くと、またバイブが鳴った。あぁ、あのメールか。ってことは、やっぱり失敗かぁ~。
一応、メールフォルダを開いて確認する。
時刻 2009/08/12 水 01:27
差出人 ******
件名 家ノ前
―――――――――――
あナ た
の 屋
部 ハ
ど で か
コ ス ?
ド デ す
こ か?
―――――END―――――
……え?
一瞬、何が書いてあるのか分からなかった。その内容をよく見る。
あなたの――。
あなたの部屋はどこですか?
バラバラになってる文字を繋げると、こうなる。ありきたりなネタだけど、深夜にやられるとちょっと怖いね。あなたの部屋は~なんて、廊下にでも居るのか――。
がたん。
小さいが、廊下から物音が聞こえた。まさか、ね。そんなはずないよ。
しかし、気になるので息を潜めて様子を伺う。
……。
…………。
微かに聞き取れたのは、足音の様なものだった。その音は、今も続いている。
まさか……そんなはずないよ。ゆーちゃんがトイレで起きたんだよ。それしか考えられないよ。階段を降りる音はしてないし、お父さんじゃない。うん、やっぱり、ゆーちゃんだ。
すす……すす……。
足音は未だに廊下から聞こえてくる。
ふと、窓に目が行った。何も見えない暗闇は今の私にとって、非常に不気味だった。なのでカーテンを閉めようと手を伸ばす。すると……。
窓の外側に、白い手の平が張り付いていた。
その手の平は、どんどん数を増やしていく。まるで手の平スタンプを押しているみたいに、ぺたん、ぺたん、と。
叫びそうになり、声を押し殺す。
もし、今、声を出してしまったら、廊下に居る奴に気付かれてしまうからだ。
もう私は、廊下に居るのがゆーちゃんだという甘い考えを捨てていた。
テレビ等でよく見る心霊現象に、私は取り込まれてしまったんだ。
なんだよ、なんだよこれ。このサイトは何なんだよ!
心中で叫びながら思い出す。このサイトの『はじめに』に書かれていた事を。
鍵を集めて脱出する。
脱出というのは、この心霊現象から脱出って事……だよね? もう、そうとしか考えられない状況だし。
今、私が持っている鍵は一つだ。
再び視線を携帯に戻す。そしてトップページにある『扉』というページを開いてみた。
そこには大きな鉄の扉があった。扉の左側には鍵穴が三つある。その内の一つをクリックしてみると、鍵穴は消えた。
後二つ。残りのCGをクリアしなければならない。
これは私の勘だけど、後一回ミスったらゲームオーバー。廊下の奴がこの部屋に入って来るんだ。もう失敗は許されない。
私は怯えながらも、ゲームに集中した。集中と言っても、答えは分からない。どうすれば良いんだ……。女をクリックしたらアウト。かと言って、他にクリック出来るところは無い。こうして考えている間にも、砂時計の砂は落ちていく。
まずいよ、制限時間がどんどん失くなっていくよ! このままじゃ私は……!
そこで異変に気付いた。砂時計の砂が減っていく一方で、砂の中に何かが隠れているのだ。これは……。
鍵だ!
なるほど。この砂時計は制限時間と思わせる罠だったんだ。時間が迫る事で早く何かしなければ、と思い、唯一クリックする事が出来る女をクリックする。そして失敗……って感じかな?
とにかく、これで砂時計はクリアだ。
私は鍵を手にして扉ページを開き、二つ目の鍵穴を塞いだ。
これで後一つ。絶対に脱出してやる!
そして、最後のCGである『呼び鈴』をクリックした。画面に表示されたのは壁にくっついている呼び鈴だけだった。今度は何をすれば良いんだ?
手抜きな感じのCGで、またもや難解しそうだ~と絶望しながら、とりあえずカーソルを動かしてみる。
結果。クリック出来る箇所は呼び鈴のボタン、一つだけだと言う事が分かった。
いくらクリック出来る箇所が一つでも、ここでボタンを押したら『砂時計』の二の舞だ。ここは慎重に行こう。
しかし、いくら待っても画面に変化は訪れなかった。フラッシュも無ければ、お化けも出てこない。一体、どうすれば……。何かヒントは無いの――。
そうだ、思い出した! トップページには『日記』があるんじゃないか! あそこならヒント位、書いてありそうだ。
希望が少し出て来た。ページを一旦トップに戻し、日記をクリック。日記は僅か数個しか記事がなく、去年の夏から更新されていなかった。
去年? 何でこんな過疎ってるサイトが広告に……いや今はそんな事を考えている場合じゃないか。私はその中の『新作、呼び鈴』という記事を見る事にした。
そして私は目をむいた。
そこには攻略情報なんて無い。あるのは、ここを訪れたであろう人達の悲鳴染みたコメントだけだった。
ふざけんな!
助けて!
死にたくない
背筋が凍り付く。他の記事も見てみるが、どれも似たようなコメントしか無かった。
冗談でしょ……。これ、皆、失敗して……。
死んだっていうの?
口が渇く。全身に鳥肌が立つ。寒い。布団をかけても寒い。
嘘だ……嫌だよ! まだ死にたくない。死にたくない死にたく……。
そうだ。電源、携帯の電源を切っちゃえば良いんだ! なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだろう。あはははは。消えちゃえ消えちゃえ、消えて消えて消えて消えて消えて消えてよ! 何で消えないんだよ! くそ、くそっ!
ならこのまま放置だ。要はこれ以上、進めなきゃ良いんでしょ? 朝まで放置してやる。そこでずっと彷徨ってなよ! あはははは!
早く朝になれ朝になれ朝になれ朝になれ朝に……! なんだよこれ。なんで時計が止まってるんだよ! 携帯も!
嫌だよ……誰か助けてよ……。意味分かんないよ! あぁぁあぁああぁぁっ!
――やるしかないの? クリアするしかないの? でも失敗したら死んじゃうかも知れないんだよ? そんなのって無いよ! やりたくない……もうやりたくない。
でもやらないと、ここから出られない。
……。
……やってやるよ。やれば良いんでしょ? うぅ、なんでこんなサイト開いちゃったのかなぁ……。
絶対脱出してやる。お前等の思い通りになんてなるもんか!
目を閉じ、深呼吸して心を落ち着かせる。大丈夫。これがゲームなら必ずクリア出来る様に作られている筈さ。だって、ただ殺したいだけなら脱出する為の鍵なんて作る必要ないしね。落ち着け私。
目を開ける。
携帯の画面は、いつの間にか『呼び鈴』のページを映していた。
逃がさないって事? どうせ逃げられやしないのに……。
さて、どうするか。この『呼び鈴』はクリック出来るところが一つしかない。待っていても、何も反応は無い。なら考えられることは一つしかない。クリックした後に何かがあるんだ。
問題はその“何か”をどうやってクリアするかだ。何が出て来て、何をすれば良いか。時間制限もあるかもしれない。一瞬かもしれない……。
失敗はもう許されない。押して進むか、押さずにこの異空間に留まるか……選択肢は決まっている。一か八かの最初で最後の賭けだ。
私は異を決して、唯一クリックが出来る呼び鈴を押す。
押したその瞬間、鉄格子が降りてきた。
えっ? どうすれば良い――。
考える間もなく、赤いフラッシュ、クラッシュと共にバイブが作動し、トップページに戻された。
え……? 失敗、なの?
そんな……そんな、卑怯だ! 抗い様が無いじゃないか! 来るの? 来るな! どうしよう。嫌だ死にたくない!
逃げ場も無く、布団を被って隠れる事しか出来ない。身動きもせず、見つからないように隠れる。
……。
…………。
おかしいな。何も起きない? もしかしてまだ大丈夫なのかな? もう数分は経ったと思うんだけど……。
携帯を見るとメールが来ていた。まだゲームオーバーじゃないのかな?
確認しなきゃ分からない。部屋に誰か居る気配も無いし、まだセーフ?
不安と恐怖に怯えつつも、私はメールを見る事にした。
時刻 2009/08/12 水 01:42
差出人 ******
件名 アナタ
―――――――――――
ひ ヒ火 比ひヒヒヒ
見つけた
―――――END―――――
――え?
携帯の画面から視線をずらすと、目の前には……。
白い女が立っていた。
――8月12日。早朝。こなたが意識不明の重体で発見された。
その日、こなたは部屋で倒れていたらしい。ベッドから落ちたらしく、床に俯せになっていたそうだ。
窓は全開で、部屋の入口付近の壁には僅かな凹みがあった。その下には壊れた携帯が落ちていた。
恐らく、携帯で何かがあって叩き付けたんだと思う。
だけど、業者に来てもらい、携帯のネット履歴を見ても怪しげなサイトは無く、着信やメールにもそれらしい物は見当たらなかった。
一体、こなたに何があったのだろうか……。
不可解な謎を残して事件は終わった。
そして事件発生から暫くして、こなたは目覚めた。
しかし、それは以前のこなたでは無かった。
言葉も発しず、歩こうともしない。何を言っても上の空。それはまるで人形だった。生きてはいるが、自分では何もする事が出来ず、されるがまま。魂を抜き取られたかの様に存在するその抜け殻は、もはや人間ではなかった。
その日に、何が起こったのか分からない。でも、これだけははっきりと言える。
私はこなたをこんなにした奴を絶対に許さない。
あれから3日後の現在、信じられない事が起きた。
夜、私が勉強をしていると携帯が鳴った。そして、携帯のサブディスプレイを見て目をむいた。
その液晶に映し出されていた文字は“こなた”の3文字。私は直ぐさま携帯を開き、メールを確認した。
時刻 2009/08/15 土 21:42
差出人 こなた
件名 335555
―――――――――――
寂シ
が アナタ
ってル
も
み い
た だカラ
い
来テほし
http://******.com
―――――END―――――
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- めっちゃよくできてて感動した &br()ホラーもの結構いいと思うんだけど少ないなー &br() -- 名無しさん (2022-08-12 19:41:59)
- 怖いよ… &br()何だよコレ -- 名無しさん (2013-01-06 20:05:11)
- ↓つかさ、つきさ・・・次は「つくさ」かい?w -- 名無しさん (2010-01-24 11:36:46)
- こなちゃん ありがとう(^^) &br()私もすぐそっちに行くから -- 柊つきさ (2010-01-20 09:57:18)
- 私が開いたページ名だよつかさ…… -- 泉こなた (2010-01-19 20:33:36)
- え?なんてゲームですか? -- 柊つかさ (2010-01-19 02:51:24)
- それが元ネタですからね -- 作者 (2010-01-18 07:09:51)
- モバゲーに同じゲームあったの思い出した -- 名無しさん (2010-01-17 07:58:11)
- http://******.com &br()は違うよ。 &br()本当はhttp://www.vio6to23.com/jpgman/gui/gui.html -- 名無しさん (2010-01-03 23:41:54)
- 赤い部屋のらき☆すた版だね。怖すぎる… -- 名無しさん (2009-12-16 23:15:12)
- ↓ん?終わってますよ^^ -- 名無しさん (2009-12-16 22:33:36)
- も 終ワ シヨ &br() う リニ ウ &br()コン ノ ら たジ イ! &br() ナ き☆す ャナ &br() -- 名無しさん (2009-12-15 19:19:56)
- 「赤い部屋」を思い出すな。 &br()あれやって最後に本当に広告が出てきた時はマジで怖かったな -- 名無しさん (2009-11-27 23:31:02)
- あると思います(キリッ -- 名無しさん (2009-11-26 23:17:51)
- 本当にこう言うサイト &br()在るのかな -- 柊つかさ (2009-11-26 04:14:05)
- ↓あんまり意味不明だと荒らしだと思われるからその辺にしとけ。 -- 名無しさん (2009-11-25 23:08:53)
- 仁柳原也天原也亜太 -- とうか (2009-11-21 18:13:21)
- ↓よう。一晩すっぽかされた気分はどうだい?w -- 名無しさん (2009-11-20 19:24:41)
- 早く来て。お願い。早く。 -- まりな (2009-11-19 20:28:32)
- 最近、おしゃべりしてないの。だから来て・・・。 (くる場所)墓地・・来てね。まってるから。ず〜とず〜と。 -- まりな (2009-11-19 20:27:00)
- あはは。ごめんなさいちょっとやって見ただけ。 -- やかはらやまたか (2009-11-17 17:18:25)
- ↓なにこれこわい -- 名無しさん (2009-11-17 12:32:58)
- そ デキルの う な あ た を わ た 死 ま だ 死 た の ね と あ で い く ね -- りよばびそあのいれ もうすこ死でいくね (2009-11-17 07:12:50)
- もちろんそれは知ってますよー。このSSはバッドエンドですから最後まで行けなかったって事で読んでください。 -- 作者 (2009-11-16 23:17:53)
- 「霊の遊び場」私もしってます?最後のゲームはベルを押すのではなく日記の一番下に鍵ありますよ?もし良かったらやって見て下さい? -- 412です(とうか) (2009-11-15 16:56:32)
2022-08-12T19:41:59+09:00
1660300919
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ID:2BcYWkhw0氏:こなたの旅(ページ7)
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31
今日は休日。かがみと約束した日。珍しく出かける準備をを終えて迎えにくるのをまつばかり。
私にかがみに旦那さんの話をする事が出来たっていったいなにが切欠なのだろうか。
私に会わせたい人。かがみのあの言い方だと私の知っている人。
やっぱり筆頭に上がるのがつかさかな……
現につかさは告白を誰の力を借りずにしている。
でも改めて会ったとして私が変わるはずない。変わるならとっくに変わっている。
つかさは職場で毎日のように会っているし……今更っ感じだよね……
かがみはつかさと会わせて私にどうしろって言うのだろうか。
分らない。
考えれば考えるほど分らなくなる。
それともひよりとかゆたかだとしたら……
ひよりやゆたかがいのりさんやまつりさんとどんなやり取りをしたのか少し興味はあるけど私の場合と
状況が違うと思うし参考になるかな……
結局今日までこんな事ばっかり考えて過ごしてしまった……
『ピンポーン』
呼び鈴の音。時計を見ると約束の時間ピッタリ。かがみに違いない。
私は玄関に向かって扉を開けた。
かがみ「オッス、こなた!!」
そこには私服姿のかがみが立っていた。私服か。そういえば最近見てなかったな、かがみの私服姿。
かがみはジロジロ私を見回した。
かがみ「出かける準備はできていそうね、行きましょ」
かがみは玄関の前に停めてある車に乗り込んだ。かがみは車できたのか。私は玄関を出てかがみの車の助手席に乗った。
かがみは私がシートベルトを付けるのを確認すると車を走らせた。
かがみ「この前は何勝したかしら……」
こなた「ほえ?」
少し考えたけどこの前、ゲーセンに行った時の話しをしているに違いない。
こなた「64戦32勝32敗……」
かがみ「どうよ、以前の私と違うでしょ?」
こなた「確かに違うけど……バージョンが上がっていたし操作性が以前のと違っていて……」
かがみ「おいおい言い訳かよ、こなたらしくない、私が強くなったって認めなさいよ」
そう言えばあれからゲーセンでかがみと格ゲーで弊店まで対戦していたっけな……
こなた「かがみが強くなったって言うより私が弱くなった……最近ゲームしてなかったし……」
かがみ「そう言うのを負け惜しみって言うのよ……」
確かにその通りかもしれない……
こなた「それより誰に会わすの、何処に行くつもりなの、内緒にするもんだからそればっかり考えて寝不足気味、もう教えてもらってもいいよね」
かがみ「寝不足って……そこまで考え込むなよ、まぁその気持ちも分らなくもないけど、ここまで来たら会うまで待ちなさい」
最後まで内緒か。
こなた「まさかつかさって落ちじゃない、言っておくけどつかさとは毎日会っているし昨日だって……」
かがみ「さぁどうかしら、でも改めて会うと違った見方も出来るわよ」
その言い方だとやっぱりつかさか……
なんだか考えて損した気分だ。つかさに会うのになんでこんな回りくどい事をしなきゃいけないのか理解に苦しむ。
車の外を見ると見慣れた風景……
車は止まった。
そこはレストランかえでの駐車場だった。
かがみ「着いたわよ」
こなた「着いたって……レストランかえでだよ」
かがみは車から降りた。これじゃ話が出来ないので私も車から降りた。
私が降りるのを確認するとかがみは車のキーをロックした。
こなた「ちょっと、折角の休みなのにわざわざ何で……」
かがみ「行くわよ」
かがみは私の話しを聞かず歩き出した。
こなた「やっぱりつかさなのか……もういいや、私帰る……」
かがみは立ち止まった。
かがみ「ここまで来て帰る訳?」
こなた「ここまでって……いつも居る場所だよ、それにつかさになら毎日のように会ってる」
かがみ「それがどうかしたか」
こなた「どうしたもこうしたもないよ、誰かと思って夜も眠れなかったのに……」
かがみは溜め息をついた。
かがみ「ふぅ……だから名前を言わなかったの、こうなるのは分っていた」
こなた「つかさは凄いのは分かるけど私はつかさの真似なんか出来ない」
かがみ「だからこうして……」
なんだから頭に血が上ってきた。
こなた「もういいや……」
私は帰り道に体を向けた。
かがみ「こなた」
呼び止めるかがみ。だけどもう聞く耳はもてない。私は走り出した。
かがみ「こなた、待ちなさい!!」
何時になく大きな声だった。それでいてキンキン高い声ではなくむしろ低く唸った様な重い声だった。
その威圧感のせいか思わず立ち止まってしまった。
かがみ「帰るのはいいけどその後、あんた、ちゃんと彼に言えるの?」
何も言えなかった。それを見兼ねたのかかがみは話し始めた。
かがみ「何も変わっていない、きっと結果は同じよ、その時には永遠の別れしかない……確かに会わせたい人と会っても変わらないかもしれない
でもね、両想いでも添い遂げられない話は珍しくも無いのよ、まして片想いなら尚更、会ってみる価値はあると思う、
別に気に入らなければその場で帰ってもいい、途中で止めてもいい、退屈だったら寝ても構わない」
こなた「ダメで元々って事?……」
かがみ「ぶっちゃけて言えばその通り、だけど全くの勝算が無い訳じゃないのよ、私は彼に告白できたのだから」
こなた「えっ」
私は車から降りてはじめてかがみの顔を見た。
かがみは私と目が合うとにっこり微笑んだ。
かがみ「ふふ、やっとその気になったからしら……」
こなた「告白って……何時?」
かがみ「あの時、ゲーセンから帰った時よ……私は始めて彼に、ひとしに私の気持ちを伝えた……」
かがみが……告白した?
かがみ「どう、会ってみたくなったでしょ?」
かがみは私に近づき鼻を指で突いた。私は思わず鼻を押さえた。
こなた「でも……つかさに会っても……」
かがみ「誰がつかさだって言った?」
こなた「……つかさじゃないの?」
かがみ「此処で四の五の言っても始まらない、行きましょ、彼が待っているから」
こなた「……彼……彼って、男性なの?」
かがみ「さぁね、でもあんたも以前会った事がある人」
以前会った事がある男性……全く検討が付かない。誰だろう……
それを聞こうとした時、かがみは歩き出し駐車場から出ようとしていた。
かがみがもったいぶるから……行かないといけなくなっちゃじゃないか。
私はかがみの後を追った。
かがみに追いつこうとした時だった。かがみはレストランかえでの入り口を素通りした。
こなた「かがみ、通り過ぎちゃったよ……」
私が呼び止めてもかがみは歩き続けた。
こなた「いったい何処へ連れて行く気なの?」
かがみ「すぐそこよ……もう見えてきたわよ」
こなた「え、そこって……」
かがみの見る方を見るとそこはつかさの洋菓子店……かがみはその玄関前で立ち止まった。
かがみ「着いたわよ」
こなた「着いたって……今は休業中……」
かがみはドアに手をかけて扉を開けた。
こなた「う、そ……何で?」
かがみ「入るわよ」
こなた「え、あ、うん……」
店の中に入ると奥に人の気配がした。つかさかな……
かがみ「オッス!!」
つかさ「あ、お姉ちゃん、こなちゃん、待ってたよ」
かがみ「悪いわね、準備させちゃって」
つかさ「うんん、それよりこなちゃん、来てくれたんだね」
つかさは笑顔で私の方を向いた。
こなた「う、うん……それより店は……レストランは大丈夫なの?」
つかさ「店の鍵をあけたのとちょっと掃除しただけだから問題ないよ」
つかさは鍵をかがみに渡した。
かがみ「終わったら返すわよ」
つかさ「うん、後はお願い」
つかさは私の方を見た。
つかさ「こなちゃん、がんばって!!」
そう言うと小走りにレストランの方に戻って行った。
つかさは私が何故此処に来たのか知っているのだろうか……
もしかしたらかがみから聞いたのかもしれない。私からは一切話していないのだから。
かがみは自分の腕時計を見た。
かがみ「ちょっと早かったかな……」
そう言うとキッチンに向かい薬缶に水を入れて火にかけた。
かがみ「お茶を入れるから手伝って」
こなた「う、うん……」
私もキッチンに入った。
お茶の準備が終わった頃だった。玄関に人の気配を感じた。
かがみ「あ、来たわね」
かがみが玄関に向かった。
みなみ「こんにちは」
こなた「み、みなみ……??」
かがみ「時間どおりね、今日はよろしくお願いするわ」
みなみ「はい……」
いったいどう言う事なのか理解できない。
かがみとみなみは打ち合わせしたかの様な会話をしている。みなみは私がいるのに気がついた。
私と目が合うと会釈をした。
かがみ「あれ、一緒じゃなかったの?」
みなみ「あ、いけない……」
みなみは慌てて玄関を開けた。玄関から入ってきた小さな陰……
ま、まなみちゃん?
まなみちゃんがコソコソと小さい体を余計に小さくさせて入ってきた。
かがみ「まなみちゃん、今日はありがとう」
まなみちゃんは顔を赤らめて黙って頷いた。
こなた「何……何なの……分らないよ?」
かがみ「まなみちゃん、準備お願いね」
まなみ「はい……」
小さな声で返事をするとピアノ方に向かって歩いた。
こなた「ちょっと、かがみいったい何をするつもりなの、教えてよ……」
みなみ「かがみ先輩……まだ何も教えていなかったのですか?」
かがみ「そうよ、話したら絶対に来ないからな」
こなた「……な、何で?」
かがみ「今日はまなみちゃんのピアノの演奏を聴いてもらう……」
こなた「ええ??」
いったい何を言い出すかと思ったら演奏会って……
こなた「……誰かに会わせてくれるんじゃなかったの?」
かがみ「会わすわよ、みなみ……」
かがみはみなみの方を向いて頷いた。みなみも頷いて返した。
みなみ「これからラフマニノフ前奏曲作品23-4の演奏会を行います」
こなた「演奏会……話が違う……」
かがみ「こうしないと来ないからな、よもや帰るなんて言わないわよね」
かがみは演奏の準備をしているまなみちゃんの方を向いてから私を見て睨んだ。
私もまなみちゃんを見た。ピアノの前に座り静かに目を瞑って精神統一をしていた。
これで帰ったらまなみちゃんは……
こなた「……かがみのいじわる……」
かがみ「そうそう、それでよし、でも約束は守っているわよ、セルゲイ・ラフマニノフにこなたを会わせる」
こなた「らふま……のふ……って知らないよ……そんな人」
みなみ「以前ここでまなみちゃんが演奏した曲……覚えていません?」
以前ここで……
考えた、以前此処で……そういば何か演奏していたっけ。
確か……凄く忙しそうな曲だった……
こなた「もしかしてあかずきんちゃんと狼の曲、練習曲とか言ってた?」
みなみは頷いた。
かがみ「覚えているじゃない、でも今回はその曲の事は忘れて」
こなた「……忘れてって……私に音楽、クラッシックなんか聞かせたって何も起きないよ……」
かがみ「そう構えるな、素直に聴けばいいだけよ」
こなた「素直にって……難しいよ」
かがみ「そう私だってクラッシックはそんなに聴く方じゃない、でもねまなみちゃんの演奏を聴いて変わった、それを
こなたにも体験して欲しい」
こなた「そんな事言われても……」
みなみ「誰かがこんな事を言っていました、人が生まれて最初にする遊びは何かと……それは、絵を描く、踊る、歌う……
でも周りの影響で次第に描かなくなり、踊らなくなって、歌わなくなる」
かがみ「つまり音楽は人間の根源にある感情表現なのよ、これはお稲荷さんには無いもの、それを使わない手はないわよ、
こなたにだって分る」
こなた「そうかな……」
「こんにちは……」
玄関の方から声がした。
かがみ「どうぞ、待っていたわよ」
あの声は……声のする方を向いた。かえでさん……
かえで「久しぶりね……全く、一度も見舞いに来なかったのはあんただけだったわ」
こなた「え、あ、お久しぶりっス……」
かがみ「こなたはそんな奴よ」
かえで「知ってる!!」
こなた「い、いや、本当はお見舞いに行くつもりで……でもね」
かえで「もういい、あんたの言い訳は長くてたまらないわ」
かがみ「そう、その通り!!」
かがみとかえでさんが大笑いした。
むぅ、まったくもって何も言えない。
かがみ「もうお身体はいいのですか?」
かえで「つかさの薬のおかげで母子とも健康そのものよ」
かがみ「それは良かった」
かえでさんはピアノの近くの席に座った。
かえで「まなみちゃん、今日はよろしくね」
まなみちゃんは小さく頷いた。
確かにまなみちゃんの手前ここで帰るのはまずいな。何とか寝ないで済めば良いけど……
覚悟を決めてはかえでさんの隣に座った……
そういえばかえでさんはどうして此処に来たのだろう。まなみちゃんの演奏会を聞きに来た。
ただそれだけなのかな。
かえでさんは多趣味だから音楽鑑賞くらいはしているだろうし、何かの楽器を演奏していても不思議じゃない。
かえで「何かしら?」
私と目が合った。
『いったい何で来たの?』
普段ならそう聞いていた。だけど何故か声が出なかった。
こなた「い、いえ……何でも」
かえで「ふふ、あんたらしくないわね、はっきり言いなさいよ」
私は黙って俯いた。かえでさんはクスリと笑うとピアノの方を向いた。
かえで「まなみちゃん、何時でもいいわよ」
まなみ「はい」
まなみちゃんはゆっくりと両手を鍵盤に向けた。
ラフマニノフ前奏曲作品23-4、みなみはそう言っていた。
曲は静かにゆっくりと始まった。
この前聴いた曲とは全く違っている。ゆっくりとそして美しいメロディ……
曲は同じフレーズを繰り返しながら次第に音が力強くなっていく……まるで内に秘めた想いを何度も確かめながら膨らませていくような感じ……
そしてより力強くなりピアノ全体が震えるほど部屋全体が反響した、
そのままサビを聴かせて盛り上がると思った……でも違った。
短いフレーズが何度も続く。高音で終わってまた同じフレーズの繰り返し……
何だろう……これ……
続きが聴きたいのに繰り返す……もどかしい……先があるのに弾けないみたいじゃないか。
……まるであの時の私と同じ……
何度も言おうとしたけど言えなかったあの時の私……
そして曲はそのまま静かに終わってしまった……
かえでさんは立ちあがっって大きな拍手をした。
かえで「素晴らしかった」
まなみちゃんは席を立つと私達に向かってお辞儀をした。
かえで「まなみちゃんの気持ちを素直に表したわね」
そう言うと私の方を向いた。
かえで「こなた、この後私の事務室に来なさい」
こなた「えっ?」
かえで「仕事の話じゃないから安心しなさい」
そしてかえでさんは店を出た。
かがみ「ありがとうまなみちゃん」
まなみちゃんはかがみのそばに寄った。そしてかがみは私に店の鍵を手渡した。
かがみ「後の戸締りよろしく!」
こなた「よろしくって……」
かがみ「あんたが何を感じたのか知らないけど私はこの曲で勇気を貰ったのよ……クラッシックなんか聴く機会なんて殆ど無いのに……
まなみちゃんがピアノを始めたのはつかさの影響よね、そのつかさはけいこさんの影響をうけた……音楽を知らないはずのお稲荷さんが
私達をラフマニノフに会わせてくれたのよ、何か感慨深いとは思わない?」
こなた「……」
私は何も分らない……
かがみはそんな私を見て微笑んだ。
かがみ「……それじゃ帰ろうか……まなみちゃん、」
まなみ「うん」
二人は店を出て行った。
かがみは私達二人のためだけにまなみちゃんを呼んだのだろうか?
あれこれ考えているうちに店に居るのはみなみと私の二人だけになってしまった。
みなみはゆっくりピアノの椅子に座った。
みなみ「まなみちゃんの演奏で何を感じましたか?」
みなみはピアノを背にして私を見ている。立とうとしない私を促しているかな。
こなた「……何ていうのかもどかしかった……ためらっているみたい……もしかしてあの曲のタイトルってためらい?」
みなみは首を横に振った。
みなみ「あの曲にタイトルはありません作品23の4番……」
こなた「番号だけって、この前の練習曲にはあかずきんちゃんとかタイトルついてたじゃん?」
みなみ「彼、ラフマニノフは曲に表題をつけるのを嫌がりました、自分の作った曲を聴いてどう感じるのかは聴き手に任せたいと言う考だそうです、
表題を付けるとそれに執着してしまい聴き手の自由な感性を妨げる……あの練習曲のタイトルは別の人が付けたそうです、
ですから泉さんがためらいと感じたのならそれはためらいです、例え迷い、別れ、別な物に感じても間違えではないです」
こなた「だからかがみは何も言わないで私をここに呼んだ?」
みなみ「そうですね……」
みなみはピアノの方に向きを変えて微笑んだ。
みなみ「でも……泉さんが「ためらい」と言ったのは嬉しかった、まなみちゃんはおそらくそれを意識して弾いたと思う」
こなた「それってどう言う事?」
みなみ「……来週、まなみちゃんの編入試験があって、それに向かって幾つか曲を選んでいましたけど…さんtね」
こなた「編入って、もしかしてスカウトされたから?」
みなみは頷いた。
こなた「試験があるんだ、そのまますんなりっていかないの?」
みなみ「教授は頑張ってくれました、でもまなみちゃんは大きなコンクールや試験を受けていないので学校側から試験を合格しないと許可出来ないって……」
こなた「実績か……それでまなみちゃんは編入する気になったんだね」
みなみは首を横に振った。
みなみ「まだまなみちゃんから正式に受けるとは聞いていない……」
こなた「それはそうだよ、慣れた学校を離れるのはね、そこには友達だって居るだろうし別れるのは……」
その時気付いた。まなみちゃんはためらっている。その想いをさっきの曲に込めていた……
分る、分るよ。まなみちゃん。
小学3年で別の学校。新しい学校でうまくやっていけるのか。そもそも試験で合格するのか。期待と不安……想像するのには容易すぎる。
それを分らせたのはあの曲……
みなみ「それでこの演奏会で泉さん達が何かを感じたのなら、この曲を試験で演奏するようにまなみちゃんに言おうと、そう私は決めた……
それが私の出来る最後の仕事……」
悲しそうにピアノを見つめるみなみ……
こなた「きっと合格すると思うよ、少なくとも私はあの演奏に感動したから」
みなみ「そうですか……それをまなみちゃんが聞いたらきっと試験を受ける気になってくれるかもしれない……」
みなみはピアノの鍵盤にそっと手を添えている。
こなた「もう一回あの曲聴きたいな……」
みなみ「え?」
こなた「弾けるんでしょ?」
みなみ「でも……まなみちゃんほど上手くは……」
こなた「それでも聴きたい……」
みなみは深く座りなおした。そして弾き始めた。
そして分った。みなみもまたためらっていたんだなって……
ラフマニノフの調べは部屋いっぱいに静かに、美しく響き渡った。
今は何も考えずただその調べに酔いしれた。
32、
演奏が終わるとみなみは溜め息をついた。
みなみ「ふぅ~」
こなた「すごく良かったよ」
みやみ「ありがとう……」
私の言葉を受けてみなみの表情は嬉しいようには見えなかった。
こなた「やっぱり躊躇ってるんだ?」
みなみ「はい……」
こなた「まなみちゃんの事で?」
みなみ「編入が決まれば私の手を離れてしまう」
こなた「別に良いんじゃないの、まなみちゃん学校の授業がつまらないとか言っていたし」
みなみは更に顔が曇った。
みなみ「それは私も聞いていた、だけど……授業と生活ではまた違うもの」
授業と生活……
こなた「それって学校の友達……かな?」
みなみ「小学生の行動範囲は狭いもの、学校が違えばそれは別れを意味する……」
こなた「別れ……」
まなみちゃんの演奏といいみなみの演奏といい……同じ想いなのか……
こなた「そういえば私は転校した事なかったかな、別れといえば小中高大の卒業くらい……それにこうして卒業後も皆と会えるし……泣いちゃうほどの別れなんて」
みなみ「それは私も同じ……彼女の気持ちや想いを考えると……」
こなた「それがさっきの演奏に込められているとしたら……」
暫く私達は何も話さなかった。話せなかった。
黙っていてもどうにもならないので店の片付けをし始めた。みなみはピアノの前に座ったまま話し出した。
みなみ「私は酷い事をしてしまったかもしれない、あの曲を試験の課題に選んでしまうなんて……」
私は片づけをしながら話した。
こなた「みなみが選んだの?」
みなみ「彼女と練習中に急用ができて暫く席を空けた、そして戻ってくる部屋からピアノの音が……教えてもいないあの曲が聞こえた、
そのピアノの音色に私の心を貫いた……」
こなた「まなみちゃんがためらえばためらう程あの曲が映えるって訳ね……凄いじゃん、自分の感情を音楽で表現できるなんて、受かったも同然だよ」
みなみ「でもこれがまなみちゃんの為になるのか、まなみちゃんの本心はどうなのか……」
こなた「……そんなのは受かってから決めれば良いじゃん、編入が決まってからや~めたでも良いんでしょ?」
みなみ「え?」
みなみは頭を上げて私の方を向いた。
こなた「ダメなの?」
作業を止めてみなみの方を向いた。
みなみ「……教授や学校関係者のご尽力を無にしてしまう……大変非礼で……」
こなた「それで良いジャン、どうせ子供だし、大人が謝ればいい事だし、その位でまなみちゃんの実力が下がるわけない、うんうん」
私は片づけをまた続けた。
みなみはゆっくり席を立つと私の横に来て洗った食器を拭き始めた。
みなみ「手伝います……」
こなた「どうも~」
暫くするとみなみはクスクスと笑い始めた。
こなた「どったの?」
みなみ「い、いえ……別に」
こなた「別にって……思い出し笑いなんてやらしい~」
みなみ「その様なものでは……」
こなた「それじゃ何で隠すの?」
ちょっとからかった感じで質問してみた。みなみは真面目な顔に戻った。
みなみ「さっきの泉先輩の話……」
こなた「私の話?」
みなみ「ええ……あんな助言が出来るのに……」
こなた「助言が出来るのに、何?」
みなみは言うのを少し躊躇ったのか少し間が空いた。
みなみ「あんな助言が出来るなら此処に来なくても……告白できたのでは?」
こなた「ほ、ほぇ、ど、どこでそんな話しを?」
みなみ「え、えっと、それは……」
言い難いのか、もう誰かは考えなくても判る。
こなた「かがみ、かがみだな!!」
みなみは黙って頷いた。
こなた「……まったく、かがみはつかさより性質(タチ)が悪い……」
みなみ「……素晴らしいと思います、そして、成功をいのっています……」
こなた「あ、ありがとう……」
こう言われるとそう言うしかないじゃないか……
そしてほぼ片づけが終わった頃。
こなた「捗ったね、手伝いありがとう」
みなみ「いいえ……」
私は店を出る支度をしようとした。しかしみなみはキッチンから出ようとはしなかった。
私は立ち止まりみなみの方を向いた。
みなみ「ゆたかからは止めたれていたけど……話さないといけない……」
こなた「え、どうしたの、急に改まって……」
みなみの顔がさっきよりも引き締まっている。
こなた「な、なにかな……」
みなみ「ひよりは……」
ひより……この名前が今出るとは思わなかった。
みなみ「ひよりは泉先輩が窮地におちいっているのは自分のせいだと責めている……」
こなた「責めているって……なんかやらかしたっけ……」
そういえばあの件以来、貿易会社潜入してから一度も会っていない。
みなみ「泉先輩に無責任な推理を話してしまって、それが泉先輩を傷つけてしまった」
無責任な推理って……
まさかメモリー板を運ぶときにひよりが言っていた。
こなた「まさか、神崎さんの正体は真奈美さんじゃないとか言ってたやつ?」
みなみ「はい……」
私は笑った。
こなた「はは、なに言っているの、そんなの関係ない、ひよりが言わなくても私は……」
みなみ「そう私もひよりに言った……だけどひよりはそうは思っていない」
ひよりが一度も私に会わないのは仕事や結婚だけの理由ではなかったか……ひよりらしくもない。
こなた「分った、この件が片付いたら話すよ」
みなみ「片付いたら?」
こなた「そうそう、今会ってもどうにもならないしね、結果はどうであれまず私が決めないと先に進まないよね」
みなみ「……やっぱり話してよかった……」
こなた「まなみちゃんの演奏のおかげかも」
確かにあの曲を聴いてからなにかが変わったような気がする。
みなみはキッチンから離れ店を出る準備をした。
みなみ「家まで送りますけど……」
こなた「いや、かえでさんに呼ばれているしね」
みなみ「帰りの足は?」
こなた「そういえば早番だったけな、つかさにでも送ってもらうからご心配なく、ところでかえでさんは何でこの演奏会に参加したの?」
みなみ「すみません……それは聞いていません」
なるほど、本人に直接きかないと。
こなた「今日はありがと」
みなみ「私はこのまま帰ります」
こなた「おつかれさん」
みなみは店を出た。この店に入って来た時の表情とはちがって足取りが軽やかになっているように見えた。
さてと、私も店を出るかな。
全ての戸締りをして店を出た。
みなみは言った。そう、その通り、私はとっくに告白をしている筈だった。
何故出来なかった。
かがみの言うような恥ずかしさが全く無かったと言えばそうでもない。それに彼の反応が怖かったのも事実かもしれない。
だけど……それだけで言えなかったのか……
あれ?
そもそも私は誰かに告白なんかした事あったっけな……
……
なんて考えているうちにレストランかえでに着いてしまった。
つかさ「いらっしゃい……あれ、こなちゃん」
店に入るとつかさがホールをしていた。つかさが接客をしていたなんて……
こなた「はいこれ」
私はつかさの店の鍵を渡した。つかさは鍵を受け取った。
こなた「帰りに私を家まで送ってくれないかな……」
つかさ「うん」
こなた「どうも……ところでかえでさんは?」
つかさ「事務所にいるよ」
私はそのまま事務所に向かった。
つかさ「こなちゃん」
こなた「ん?」
立ち止まって振り向いた。
つかさ「えっと……」
客「すみません~」
つかさ「あっ……あとでね」
つかさは慌しくお客さんの所へと向かった。
この状況じゃ話すのは無理だよ。
さとて、こっちも呼ばれているし行こう。
こなた「はいりますよ~」
事務室のドアを開けた。
かえでさんは事務机に座ってなにやら作業をしていた。後ろを向いているので詳しくは見えなかった。
完全に部屋に入りドアを閉めるとかえでさんは座ったまま椅子を回転させて私の方を向いた。
そして私をじっと見た。
かえで「全く、よりによってこなた、あんたまでお稲荷さんなのか、つかさといい……」
そんな話をしているって事は、経緯をつかさかかがみから聞いたに違いない。
更にかえでさんは私をじっと見る。
かえで「こなたの勤務態度から見て、老若男女のお客様の受け答え、男性スタッフに対する反応、どれも分け隔てなくこなしている、
それに学生時代も男子生徒と普通に会話していたってつかさが言っていた、当時のつかさはそんなこなたを羨ましがっていたそうだ……
とても告白できないような人には見えないが……」
そう……私もそう思っていた。
こなた「好きとか嫌いとかそんな感情がなければ誰とでも話せるよ」
かえで「ほぅ、好きでも嫌いでもなければね……」
そう思っていたから直ぐに言えると思っていた。だけどいざ言おうとすると声が出なかった……
こなた「……実際、好きな人の前では全く話していなかったし……声もかけられなかった」
かえで「それは学生時代の話か、初恋?」
こなた「う、うん……」
中学生時代を思い出した。確かに好きだった記憶がある。けど結局何一つ話せなかった……
かえで「まぁ、それは理解出来ない訳じゃないけどね……」
かえでさんは立ち上がった。
かえで「それより、何故彼なの、何故好きになった、少なくともこなた、うんんあんただけじゃない、私達を翻弄して、
こなたを2回も潜入取材させえて、挙句の果てには命の危険にさえ遭った、憎む事はあっても好きになるなんて……」
こなた「……それは神崎さんじゃなくてあやめさんがやった事だから」
かえで「あやめさんって……神崎が化けていただけじゃない……」
こなた「彼女が生きていたらきっと同じ結果になっていたと思うよ……」
かえで「成るほどね……分ったわ」
かえでさんは腕組みをして頷いた。
こなた「成るほどって?」
かえで「あんたが告白出来ない理由が分ったわ、あやめ、神崎あやめのせいだ」
こなた「あやめさん……?」
かえで「あんたはあやめさんと争うのが嫌なんでしょ?」
こなた「争うって?」
かえで「恋敵って言ったら分る?」
こなた「え、あ、何でそれを……」
かえで「かがみさんから聞いたわよ」
……またかがみか……もう私のプライベートは無いのも同じだ……
かえで「折角出逢って友達になったと思ったらもうとっくに亡くなっていて、しかも恋のライバルになってしまった
それがこなたを躊躇わせている……違う?」
こなた「違うって言われても……分んないよ」
かえで「自分自身で自覚していないだけよ……質問を変える、やめさんが生きていたとしたら何もしないで諦められたか?」
あやめさんが生きていたら……考えた事もなかった。
こなた「生きていたら……とてもじゃないけど彼女と争って勝てる気がしない、無理ゲーだよ……」
かえで「無理ゲーね……もし神崎さんが化けたあやめさんが本物と変わらないとして……私の目からはこなたは良い線行ってるわよ、悲観するな」
こなた「慰めてくれなくても……やり手の記者とレストラン店員じゃ……」
かえで「慰めているつもりはないわよ、私は私なりに客観的に言っているつもりだけど」
こなた「でも……」
『バン!!』
かえでさんは私の背中を叩いた。
こなた「ぐへ、い、痛いよ……」
背中を擦ろうとしたけど両手が背中に届かない。
かえで「焦れったいわね、こなた、あんたはあやめさんには無いものを持っているじゃない」
こなた「……私が何を持っているって……?」
かえで「こなたは生きている、それは何より強い武器じゃない」
こなた「生きている……」
かえでさんは大きく頷いた。
かえで「亡くなった人には思い出しかない、思い出でしか逢う事ができない、でもあんたはこれから思い出をつくれる」
こなた「思い出……」
お父さんと正子さんはそれで……
私は何か後ろめたさみたいなものが無かったのか、それが気になっていた。
それはそのまま私とあやめさんにもって……そう思っていた。
だけどお父さんと正子さんはそうじゃない。かえでさんの言葉と同じだったとしたら……
かえで「心の奥に仕舞っておくって方法もあるけど……それはこなたらしくない、告白しちゃいなさいよ、その後は……そうね、
自棄酒、自棄食いの付き合いくらいはしてあげるわ、もちろんこなたのおごりでね」
こなた「……失敗前提で話すのかな……」
かえで「ふふ、その方が気は楽じゃない?」
かえでさんは笑った。
確かにそう考えると少し気が楽になったような……
かえで「どうだ、ゲームより面白いでしょ?」
こなた「ちょ、これはゲームじゃないよ」
かえで「ほぅほぅ、こなたからそんな言葉が出るとは思わなかったわ」
こなた「私だってゲームと現実の区別くらいはできる」
かえで「それでよし、私からはもう何も言う事はない、後は好きになさい」
かえでさんは席に座ると回転させて事務仕事に戻った。
こなた「……そういえば、聞きたい事が……」
かえで「なに?」
こなた「なんでまなみちゃんの演奏を聴きにきたの?」
かえでさんの作業が止まった。
かえで「……これは……仕事の話になる、こなたは休日でしょ、仕事の話は嫌でしょ?」
こなた「確かに嫌だけど、ここはもう仕事場だし、こんな所に呼んでおいてそれはないよ」
かえで「……そうね、確かに……そう」
言いたくないのか、かえでさんもまた何かに躊躇っていたっているって事なのかな。
こなた「話せないなら無理には……」
かえで「ごめんなさい……近いうちに話す」
かえでさんが謝るなんてめずらしい。これ以上聞いてもしょうがないか。
こなた「それじゃつかさの仕事が終わるまで更衣室で待ってます」
私が事務室を出ようとした。
かえで「待ちなさい」
こなた「はい?」
かえで「まなみちゃんの演奏……どうだった?」
こなた「どうだったって……とっても良かった」
かえで「今時小学生でも難曲をスラスラ演奏するのは珍しくも無い、だけど彼女は、かえでちゃんが他とちがうのは
叙情的な表現まで出来ている……あの曲を彼女なりに理解して更に感情も込めるなんてプロのピアニストでも難しいわよ」
こなた「きっと先生が、みなみの教え方が上手かったんだよ」
かえで「そうね先生の指導がよかったかもしれない……だけどこなた、あんた演奏が終わってから何もしないでボーとしていたじゃない?」
こなた「ボーとしていた?」
かえでさんは椅子を回転させて私の方を向いた。
かえで「演奏が終わって感動したなら拍手をするのが礼儀でしょ……」
こなた「あ、それは……あまりにもまなみちゃんの演奏が凄くて……」
かえで「まなみちゃんこなたを見ながら悲しそうにしていたわよ」
しまった……確かに私は拍手をしていなかった。
こなた「ど、どうしよう」
かえで「……どうしようって私に聞くな……つかさと帰るならやる事があるでしょ?」
こなた「まなみちゃんに会いに行く」
かえで「それで良い、同じ想いがあるならお互いに通じるものがあるかもね」
こなた「サンキュ、かえでさん」
かえで「いいえ……行ってきなさい」
確かにかえでさんの言うとおりだ。あやめさんはもう5年も前に亡くなっている。
それに私は私、あやめさんの代わりじゃない……
時間的にどのくらいだっただろうか。スマホのゲームで暇つぶしをしていたせいかかもしれない。
つかさの勤務時間が終わり私はつかさの車の前に居た。
つかさ「おまたせ~」
つかさは車のキーを取り出した。
こなた「つかさ……ちょっといいかな、私の家に送る前にまなみちゃんに会いたいんだけど……」
つかさ「別にいいけど……どうして?」
こなた「い、いや……なんて言うのか、拍手を忘れちゃってね」
つかさ「拍手を……忘れた?」
つかさは首を傾げた。
こなた「かえでさんが感動したら拍手しなきゃだめって言うから、会ってちゃんと拍手しないとね」
つかさ「そうなんだ~」
つかさは車のドアを開けようとしたけど止めて私の方を向いた。
つかS「まなみ……編入したらどうなるかな……」
珍しくつかさが凄く悩んだ顔をしている。
こなた「……まだ試験に合格していないんでしょ、まぁ素人の私が凄いって思えるくらいだから合格はするとは思うけどね」
つかさ「まなみも悩んでいるみたいで……私、どうしようかなって……」
こなた「母親が困っちゃ子供はもっと困っちゃうんじゃないの?」
つかさ「そうだけど……」
こなた「ひろしはどう言っているの?」
つかさ「まなみの好きなようにすれば良いって……」
まぁそれはそうだなその通り。
つかさ「だけどまだ小学生なのにそんな事決められるのかなって、私が小学生の頃なんて……」
こなた「私がその頃はゲームばっかりしてたかな……」
そう考えるとまなみちゃんに決めさすのは酷かもしれない。
こなた「こうしててもどういようもないじゃん、行こうよ、会って話してみればいいと思うよ」
つかさ「う、うんそうだね」
つかさは車のドアを開けた。
つかさの車は動き出した。
もうつかさの運転には慣れてしまった。ゆい姉さんの運転だと思えばどうって事はない。
……
見慣れた町並み……通り過ぎる景色。
何度も何日も……何年もこうしてきたけど……
そういえば私はつかさに一度も聞いていなかった事があった。
つかさも自分からは話そうとしない。だから聞かなかった。
違う、聞けなかった……聞く事ができなかった。だけど今なら……
こなた「つかさ……ひろしに告白したよね……どうやって告白したの……」
文章にしたらたった一行で済むような事なのに……
つかさ「え、え……こ、告白……」
急にどもってしまった。顔も少し赤くなっているみたいだった。
こなた「……今更照れる事なの、もう済んだ事なのに?」
つかさ「そんなの言ったって、恥ずかしいよ……」
こなた「そんなに恥ずかしくてよく告白できたね?」
つかさ「え、だって……」
そう、私はその理由が聞きたい。私はつかさをじっと見てつかさの答えを待った。
つかさ「だって、好きだから……」
こなた「好きだから?」
つかさ「うん!!」
こなた「それだけ?」
つかさ「えっ、他に何か必要なの?」
驚いた顔のつかさ。
逆に質問されてしまった。他に何が必要なのか……
私が何も言えないのを心配したのか私よりも先につかさが放し始めた。
つかさ「すっごく恥ずかしかった、だけどそれより私の想いを伝えたかったから……
こなちゃん、神崎さんが好きなんだよね?」
こなた「え、あっ……う、うん……」
つかさ「それで神崎さんはかんざきあやめさんがすきだったんだよね?」
こなた「……う、うん……」
つかさ「私……こなちゃんだったとしてもやっぱり神崎さんに言うと思う……」
こなた「私から言えばつかさは勇者そののだよ……真似できそうにないよ」
つかさ「だったら勇者になっちゃえば?」
こなた「……はは、つかさは単純でいいよ」
……こんな話、今までした事がなかった。
もっと早くしていればもうちょっと勇気が上がったかもしれない。
確かにあの音楽を聴いていなかったらこんな話すら出来なかった。
つかさ「私、ひろしさんと一緒になるなんて考えてもなかった、こなちゃんに助けられたしね……」
でも告白をしなかったらつかさはひろしと一緒にはなれなかった。
こなた「ふふ……そうか、なるほど……」
つかさ「こなちゃん?」
こなた「こんどはつかさが私を助けてくれるかもね」
つかさ「え、もしかして告白する気になったの?」
こなた「……出来るかどうかは分らないけど……やってみる」
つかさ「すごい、すごい、がんばってね」
さて、そうとなったらまなみちゃんの件を片付けないと。
そんな私の思いを知ってか知らずかつかさはアクセルを強く踏んだ。
つかさ「ただいま~」
つかさの家に着いた。まずはつかさが家の中に入った。しばらくするとつかさが玄関から出てきて私を家に入れた。
こなた「おじゃましま……ってかがみ?」
玄関の中に入るとかがみが立っていた。
かがみ「来たわね、来たってことはまなみちゃんに会いに来た、ちがう?」
こなた「その通りだけど……まなみちゃんは?」
かがみは階段の方を向いた。
かがみ「私がここに住んでいた時の部屋にいるわよ、夕食を過ぎても出てこないのよ……」
つかさ「こなちゃん……」
かがみ「こなた……」
心配そうに私を見るつかさ。少し怒っている様にも見えるかがみ。
こなた「分ってる、つかさ……かがみ」
思っていたより深刻なようだ。私は階段を上がった。かがみの部屋改めまなみちゃんの部屋の前に立った。
『コンコン』
ノックをしたけど反応がない。構わずゆっくりと扉を開けた。
こなた「こなただよ……入っていいかな?」
机に座っているまなみちゃん。ゆっくりこっちを見ると黙って頷いた。
私は一歩部屋に入って扉をゆっくり閉めた。
まなみちゃんの表情が沈んでいる。この重い雰囲気……
さて、どうしたものかな……
考えても何も出てきやしない。
ここは思った通り、感じた事を言うしかないか。
こなた「さっきやった演奏会……今更なんだけど……ごめんね拍手できなくて……」
まなみは私を見た。
まなみ「……演奏、ダメだった……から」
やばい、やっぱりそう思われている。
こなた「うんん、違う、本当に拍手出来なかった、あまりに凄い演奏だったから……出来なかった……」
まなみちゃんは疑いの眼で私を見ている。どうしよう……
こんな時は……言い訳になるかもしれないけどやるしかない。
私はまなみちゃんに近づいた。
こなた「隣……座っていいかな?」
まなみ「う、うん……」
私は隣に座った。こんな状況じゃなければゲームでもしている所
……まてよ、ゲームか
こなた「編入試験受けるんだってね?」
まなみ「う、うん……」
こなた「今の学校から離れるのは嫌なの?」
まなみちゃんは何も言わなかった。
こなた「まなみちゃん、ピアノはすきなの?」
まなみちゃんはなんで今更そんな事を聞くのみたいな驚いた顔をした。
こなた「演奏会とかとっても緊張しているし、つかさとかから無理矢理習わされたとかはないの?」
まなみちゃんは激しく首を横に振った。
なるほどね……
それならもう私からは何も言う必要はない。
こなた「実はね、今ゲームをしていてね……そのラスボスが強いのなんのって」
まなみ「げーむ、なんのゲーム?」
こなた「オリジナルロールプレイング」
まなみ「お姉ちゃんでも倒せないの?」
こなた「何も出来なくて逃げて帰ったくらいだからね……」
何も出来なかった。そのラスボスの名はためらい。
まなみ「すごく強いんだね……」
こなた「そう、強い、今まで戦ってきたラスボスのどれより強い……だけどね、
さっきのまなみちゃんの曲を聴いたらね……勇気が出てきて中ボスを2体もやっつけたよ」
そう、かえでさんとつかさに聞けない質問をする事ができた。
まなみ「ほ、本当?」
まなみちゃんが少し笑った。
こなた「うんうん、本当、あともう少しなんだよね……あともう少しでラスボスを倒せそう、
もう一度あの曲を聴いたら倒せそうだよ」
まなみちゃんは立ち上がった。
まなみ「それじゃ聴かせてあげる……えっと、えっと……良いよって言ったらピアノの部屋に来て」
こなた「うん、よろしく」
まなみちゃんは小走りに部屋を出て行った。
少し時間を置いて部屋を出た。
かがみ「やるじゃない、見直したわよ、こなたの今の状況をゲームに例えるなんて、
それならまなみちゃんでも理解できる」
階段を上り切った所につかさとかがみが居た。
こなた「え、聞いてたの……趣味悪いよ……」
かがみ「素直に喜びなさいよ、私がこなたを褒めるなんて滅多にない事」
こなた「そうだね……ねぇ、かがみ」
かがみ「何よ」
こなた「この前言ってた作戦……考えてくれてるかな?」
かがみ「……なによ急に……それは考えているわよ」
こなた「それじゃ私に聞かせて、その作戦」
かがみ「こなた……あんた、裁判は当分終わらない、まだ時間はあるけどいいのか?」
こなた「まなみちゃんとの話しを聞いていたなら分るでしょ、もう少しなんだ、だから
気が変わらない今のうちに白黒はっきりさせたいから……」
かがみ「そう、それなら……」
まなみ「良いよ~来て」
奥の方からまなみちゃんの声がする。
こなた「その前に勇気をもろらってこないとね……」
かがみ「そうね……いってきな」
つかさ「ピアノの部屋はまつりお姉ちゃんが使っていた部屋だから」
こなた「ありがとう」
さて、行こう、私の最大作戦の始まりだ。
33
私は神社の入り口で待っていた。
そう、すべてが始まった神社。つかさが狐にお弁当と取られた神社。真奈美さんがつかさを守った神社。かえでさんの親友が眠る神社。
かがみが呪いと闘った神社。あやめさんを散骨して弔った場所。
そしてつかさがひろしに告白をした場所……
いろいろな事があった神社。
ここ意外に告白する場所を思いつかなかった。
『ピッ!!』
スマホの停止ボタンを押してイヤホンを耳から外した。店で買ったラフマニノフ前奏曲23の4番……
これで何回目かな……
そしてそのついでに時間を確認した。
まだ約束の時間まで30分以上ある。
まだ音楽を聴いている時間があるけど……ああ、もうスマホの電池が残り少ない。
やれやれ……ちょっと聴きすぎたかな。
今までこんなに早く待ち合わせ時間に来た事なんかなかったのに……
イヤホンをポケットの中に仕舞った。
何度聴いてもまなみちゃんの演奏はプロの演奏と比べても引けを取らない。
そういえばまなみちゃんの演奏を聴いてからもう一ヶ月も経ってしまった……
こなた「ぶらぼー!!」
私は心から拍手をした。まなみちゃんは照れくさそうにして私にちいさくお辞儀した。
こなた「やっぱり凄いや……みなみ先生のより良いよ……い、いや、これは本人には言わないでね……」
なまみちゃんは笑った。
まなみ「ふふ、どうしようっかな~」
こなた「え、マジ?」
まなみ「うっそだよ~」
こなた「む、むぅ……」
まなみ「どうだった、勇気出た?」
まなみちゃんは私に近づき顔を覗き込むように見た。
まなみ「私もボス倒すところみたいな~」
こなた「あ、それは出来ないよ」
まなみ「え~何で~?」
どう言おうか悩んだ。下手な事を言えば余計ややこしくなる。それは分っていた。子供に誤魔化しは通用しない。
こなた「ん~なんて言ったらいいのか……ラスボスは目に見えないから、私以外の人には見えないんだよ……だからまなみちゃんが一緒に来ても見えない」
まなみちゃんはしばらく私の顔を見ていた。
解ってくれただろうか……。
まなみ「見えない敵……あっ!! それならもっと勇気が必要だね」
何かを思いついた様に喜びながらピアノの前に座った。
片手を鍵盤に乗せると低い音から高い音へと手を滑らすように奏でた。そして最後の鍵盤で動きを止めた。
まなみ「こなたお姉ちゃんに勇気が出る曲……思いついたから……」
こなた「思いついた?」
まなみちゃんは何も返事をせず両手を鍵盤に乗せた。
まなみちゃんはピアノを演奏し始めた。
聴いたことがない曲……
思いついた曲、まなみちゃんはそう言った。つまりまなみちゃんが即興で曲を作ったことになる。
もちろん私はそんなに音楽を聴いている訳じゃない。
今聴いている曲がオリジナルなのかどうかなんてわかるはずもなかった。
だけど……
ロールプレイングゲームでフィールドを歩いている時の様な……
行進曲みたいな……堂々としていて、それでいてわくわくするような……これから何があっても大丈夫って安心感。
標題を付けるなら『勇気』って感じ。まさしく応援歌。
そんな曲だった。
もうこの曲がオリジナルかどうかなんてどうでもよかった。それよりもまなみちゃんが私のためにピアノを弾いている。
小刻みに鍵盤をたたく小さな手、一所懸命に弾いている。それだが熱く私に語りかけてくる。
そして曲は堂々と終わった。
こなた「……すごい……凄いよ、まなみちゃん!!」
私は思わず立ち上がった。まなみちゃんは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
こなた「ありがとう、もう大丈夫」
まなみ「がんばってね……」
そう言うとピアノに置いてあったノートを手にした。
こなた「なに?」
まなみ「さっき演奏した曲を書いておかないと……忘れちゃうから……」
ノートの中身を見ると五線譜におたまじゃくしを書いていた。
これでまなみちゃんが弾いていた曲はオリジナルなんだなって判った。
まるで文章を書くみたいにスラスラと……
まなみちゃんにとっては文章を書くみたいなものかもしれない。
こなた「それじゃ私は行くよ……かがみが待っているから」
まなみ「かがみおばさん、まだ居たの?」
こなた「うん、今回は私の参謀になってもらう……」
まなみちゃんは立ち上がった。
こなた「いいよ、そのまま続けて、その曲、忘れないように、ちゃんと書いて、そして、全てが終わったらもう一回聴かせて」
まなみ「う、うん……」
まなみちゃんは座るとノートを手に取った。そして私は部屋を出た。
かがみ「いい顔になったわね、勇気を貰ったな」
部屋を出るとつかさとかがみが居た。
こなた「まぁね……お互いかもしれないけどね。」
かがみ「もう私なんか必要じゃないんじゃないのか?」
私は首を横に振った。
こなた「うんん、この前そう思っていたら全く何も出来なかった……だからお願い」
かがみは少し驚いた顔をした。
かがみ「……てっきりもう大丈夫って言うのかと思った……いいわ、それならやりがいがあるってもの」
こなた「行こう」
私は玄関に向かって歩き出した。
かがみ「その前に一つ言っておく」
こなた「ん?」
かがみ「私は恋愛経験がそんなにある方じゃない、いや、むしろこなたに近い方かもしれない、
見当違いや方向違いもあるかもしれない、それでもいいか?」
こなた「……他に誰に頼む、つかさ?」
つかさは目を真ん丸くして激しく首を横に振っていた。
こなた「私に近いなら、どうすれば良いのかわかるよね?」
かがみ「……それならもう何も言わない……あとはやるだけね……」
こなた「うん」
私達はお互いに頷き合った。
そしてかがみはいやな笑い方をした。
かがみ「まぁ、結果は目に見えている……心配するな、自棄食い、自棄酒くらいならつきあってやるから、もちろんこなたの奢りで」
つかさ「お、お姉ちゃん、そんな事言って……」
デジャブ……成るほどね、今まで気付かなかったけどつかさがかえでさんをあんなに慕っているのかかが解った。
そう思った一瞬だった。
こなた「そう思えば気が楽になる……でしょ?」
かがみ「え、あ……」
かがみの言おうとしていたのを先に言った。
かがみはキョトンとして私を見た。
こなた「さぁ行こう、一世一代の大作戦のはじまりだ」
この後かがみは私を車で家まで送ってくれた。
そこでかがみは作戦を説明してくれるかと思った。だけどそれは違った。
その前に二人の人物と会ってほしいと言われた。
本当は作戦なんか無くて時間稼ぎしているだけじゃないのか。
そう思ったけど。今はそうは思っていない。
ゲームで例えればラスボスに戦いに挑む前に遣り残したサブイベントをクリアして
強い武器や防具を手に入れるようなもの……。
その二人の内の一人、ひより……
演奏会から一週間後。私はひよりに会いに行った。
ひよりは潜入作戦が終わってから一回も会っていなかった。
いつもなら新しいネタを見せにどんなに忙しくとも週に一度くらいは顔を見せていた。
私の方から出向くのは滅多にない。
仕事場と兼ねているせいかひより達の家ではゆっくりと出来ないのもあったのかもしれない。
家に着くと漫画のスッタッフに案内させてひよりの部屋に向かった。
ゆたかは丁度出かけていなかった。私にとってはそっちの方がよかった。
部屋に入るとひよりは何をするわけでもなく机にすわってモニターを眺めていた。
何か絵をかいていた途中なのかボーとしている。それに私が居るのに気付いていない。
こなた「おっふぉん!!」
何度か咳払いしても気付く様子はない。よ~し、そらなら……
こなた「それは何、新しい作品のキャラクター?」
ひよりはゆっくりと私の方を向いた。
ひより「いず……み…先輩……泉先輩!!! い、何時から此処に???」
こなた「何時からって……さっきから此処にいるよ」
ひよりは辺りを見回した。
こなた「スタッフの人に案内された、その人も出かけるって言っていたから今居るのは私達だけかな」
ひより「そ、っそっすか……」
ひよりはその場で俯いてしまった。まったくもってひよりらしくない。
こなた「それより新しいキャラクター見せてよ、最近遊びに来ないと思ったら何か企んでるな」
私はひよりを押しのけてモニターの前に立ってマウスを操作した。
こなた「可愛いね……二人並んでいるね……友人って設定なの?」
ひより「いや……双子の姉妹っス……」
こなた「双子ね~全然似ていないじゃん、まるでかがみとつかさみたい……かがみとつかさ……もしかして?」
ひよりは頷いた。
ひより「もしかしてじゃなくその二人がモデルっス」
こなた「へぇ~今度も私達がモデルって訳ね……」
ひより「前回は一部をちょっと貰っただけ……今回は私達とお稲荷さんの出来事をそのまま物語りに……」
こなた「そのままって……」
ひよりは私が言おうとしているのにに割り込んで話し始めた。
ひより「この話しをまともにノンフィクションだなんて誰一人思わない……当事者以外は……」
こなた「そりゃそうだけど……ゆたかはそれを承知してるの?」
ひよりは小さく頷いた。ゆたかも承知ってことはこの二人は本気だって事だな。
ひより「泉先輩は反対っスか……一人でも反対者が居たら止めようと……」
私は……どうなんだ?
こなた「……でも、かがみやかえでさん辺りが反対するんじゃないかな、それと元お稲荷さんとか?」
ひより「かがみ先輩、かえでさんは裁判が終わるのを条件で承認してくれた……元お稲荷さん達もメモリー板を処分するなら問題ないって……」
こなた「そ、そんなところまで進んでいたんだ……いやだな~いつもならそう言う話は真っ先に私にしてたでしょ?」
ひより「え、ええ、そうでした……」
この時、ひよりの煮え切らない返事が引っかかった。その理由に心当たりが何個かあったけど教えてくれそうに無い雰囲気だった。
こなた「私がお稲荷さんと色々関わっているから?」
だから私は鎌をかけてみた。
ひより「……」
ひよりが口を閉じた。図星なのか。それなら……
こなた「もしかして潜入作戦の移動中、ひよりが私に話した事を気にしているの?」
ひよりは私の目を見たが何も話さない。
こなた「神崎あやめの正体が真奈美さんって話……違ってはいたけどお稲荷さんだったのは正解、それに随分前に私だって……」
ひより「違う」
こなた「違う?」
みなみが言っていたのと様子が違う。あの時の話しを気にしていたんじゃないのか。他にひよりが落ち込む理由が思い浮かばない。
こなた「違うって……他に何があるの?」
ひより「先輩は神崎さんを……その、何ていうのか……好意に思っていると言うのか……」
こなた「神崎さんね、うん、好きだよ、かがみからもう聞いているとおもったけど?」
ひよりはびっくりして飛び跳ねた。
こなた「なにをそんなに驚くの?」
ひより「え、い、いや、先輩から直接その様な返事が来るとは……」
こなた「返事?」
その時初めて気付いた。他人に誰かが好きなんて言ったのは。
無意識に近かった。何のためらいも無かった。
こなた「ふふ、まなみちゃんの勇気が少し効いて来たかな……」
でもそれは本当の勇気ではないって事はひよりと別れてから直ぐにわかった。本人に言わなければそれはただの会話にすぎない。
それでも私にとっては大きな飛躍だった。
ひより「好き……ですか……私はそれすら気付かなかった……」
こなた「ん、何のこと?」
ひよりはそれ以上言おうとはしなかった。
こなた「いやいや、神社の娘にお稲荷さんのカップル、どうあがいても勝てない」
ふざけ半分の私にひよりは珍しく私を睨んだ。
ひより「先輩は何を知ってるっスか?!!」
こなた「……あ……ご、ごめん、もう終わった事だから、もう済んだ事だと思って……
まだ引きずっていたなんて……婚約したからてっきり……」
そして珍しく感情的になるひよりに謝るしかなかった。
ひより「婚約……なぜ知ってるんです?」
こなた「え、ゆたかから聞いたけど……あっ!!」
しまった。もしかしてこれは言ってはいけなかったのか。いや、それならゆたかは内緒にして言うはず……
ひよりは少し顔を赤らめた。
ひより「別に秘密にするつもりはありません、何れバレますから」
私はホッと胸を撫で下ろした。そんな私をひよりはじっと見つめた。
ひより「……今の先輩を見ていると、昔の自分を思い出してしまって……」
こなた「昔のひより? それって」
ひよりは頷くと昔の失恋の話しをしだした。
お稲荷さん、まなぶさんとの恋、その中でゆたかとすすむさんとの恋も語られた。
もちろんこの話の大筋はかがみから聞いている。
だけど本人から聞いたのは初めてだった。
初めてのデート。かがみを助けようとした事……
私達が以前にいろいろな事件に巻き込まれていた頃、
同じようにひより達にもいろいろな事件があった。それもお稲荷さん絡みの事件……
かがみが詳しく話さなかったのは私が興味を示さなかったからもあるかもしれないけど。
かがみなりのひよりとゆたかへの配慮があったのかもしれない。
確かに失恋話は本人が語るべきもの……なのかもしれない。この時そう思った。
詳しくは「ひよりの旅」を参照
なんてね……
話が終わっても暫く私は何も言う事はできなった。
ひより「……ふふ、おかしいでしょ、鈍感すぎでしたよね……チャンスはいくらでもあったのに……」
こなた「そうかな、結果とか時期はどうであれ……ひよりは彼に告白したんでしょ」
ひより「でも……」
こなた「でももへちまもない、それは紛れも無い事実、凄いよ、ひよりもゆたかも、勇者って言ってもいい」
ひより「そ、そうでしょうか?」
私は椅子に腰掛けた。
こなた「花言葉って知ってる?」
ひより「花言葉って……いきなりなんです?」
こなた「花に言葉を込めて人に贈る……」
ひより「……そんなの知っています……」
こなた「そう知っている、だけど何でわざわざそんなまどろっこしい事するのかなって思った事ない、
そんな事するなら直接言っちゃえば簡単じゃない?」
ひより「……そう言えばそうですけど……」
こなた「真意を相手に伝えるってのは誰にとっても大変、だから花に言葉を付けて贈るんだよ、
これは古今東西老若男女関係ない……」
ひより「そう言われると……」
こなた「ふふ、かがみがそう説明したのをそのまま言っただけだけどね」
ひより「かがみさんとそんな話を……」
こなた「彼と……神崎さんと会う前にひよりに会えなんて言うから……」
ひより「神崎さんと会う……まさか」
こなた「そう、そのまさか、さてさてさ~て、どうなるかな……まぁ、ひよりがとっておきの話を
聞かせてくれたから、また少し勇気が湧いたかな……」
この時かがみが私をひよりに会わせた理由が分かった。
ひよりは少しの間黙っていたけど溜まった物を吐き出すように話し出した。
ひより「神崎さんの何処が好きなんです?」
直球できた。なら直球で返すのが礼儀。だけど、そう言われると直ぐに思いつかない。
こなた「ん~何処だろうね……」
ひより「彼は泉先輩を騙して、命の危険に陥れたのに、憎くはならなかった?」
こなた「そのセリフ何度も聞いた……確かにその話だけなら嫌いにもなるけどね」
それだけじゃないから好きになった。
ひより「それじゃそれは何でデス?」
気付くとひよりはネタ帳を片手に私の前に立っていた。
私はひよりを指差してこう言った。
こなた「ふふ、それそれ、そうでなきゃひよりじゃない」
ひよりは自分自身の身体を見回して手に持っているネタ帳とペンに気付いた。
ひよりは慌ててネタ帳とペンを背に隠した。
ひより「こ、これは……いや、何ていうのか……習性といいますか……」
私は笑った。
こなた「別に隠さなくていいよ、今度の作品のネタにするつもりなんでしょ」
ひよりが私に会わなかったのはこれがしたかったから。それが分った。
ひより「え、ま、まぁ……」
ひよりは苦笑いをした。
こなた「私をネタにするならもう少し待って、もうすぐ結果がでるからそうしたら……」
ひより「きっといい結果になるっス、そう信じています」
私は立ち上がった。
こなた「ありがと、それまでお預けだね、それからデッサンとかネタは最初に私に報告すること、いいね!!」
ひより「は、はい」
それから私達はひよりの彼氏の話になった。
結婚話をもちかけたのは彼の方だったそうだ。
職場結婚といっていいのかもしれない。
ひよりが彼の話しをしている姿をみていると、
リア充爆発しろ!!
言葉にこそ出さなかったけどなんて思ったりもしてみた。
だけどお稲荷さんとの出来事がなければひよりも彼に巡り逢えたかどうか分らない。
それはゆたかも同じなのかもしれない。
そして私も……
ひより「ところでまだ返事を聞いていませんが……」
こなた「ほぇ?」
ひより「神崎さんを好きなった理由っス」
こなた「理由……」
私は直ぐに答えた。
こなた「皆は私達を騙したなんていっているけどそうじゃない、彼は神崎あやめ成り切ろうとした、うんん、
神埼あやめに本人になったんだ、だから騙していない、それに皆は私を危険な目に遭わせたなんて言ってけど
彼は私を助けてくれた、守ってくれた」
ひよりは私をじっと見ていた。
こなた「な、なに……??」
そしてひよりはクスっと笑った。
ひより「……これは相当のお熱のようですね……聞いているこっちが恥ずかしくなるくらい」
ひよりはおもむろにネタ帳を取り出しページを開いて書き出した。
ひより「……先輩は神崎さんに大層ご執心っと……」
顔が熱くなってきた。恥ずかしさが込み上げてきた。
こなた「り、理由を話せって言ったから話したのに……」
ひよりはネタ帳を閉じた。
ひより「さっきの話、彼が聞いたら喜ぶと思いますよ」
こなた「話すって……ちょっと無理っぽ」
ひよりは笑った。
ひより「ふふ、告白するよりよっぽど楽じゃないかと?」
こなた「え~無理だよ……」
ひより「でもさっきちゃんと言ったじゃないっスか、好きな理由」
そう確かに言えた。でもそれはひよりが自分自身の体験を話してくれたから。
だからその勢いで言えたにすぎない。
そう、勢い。勢いが大事。
その時はそう思わなかったけど、今ならはっきり分る。
ひより「でも羨ましいっス、かがみ先輩が作戦に加わって……」
こなた「いや、ひよりだってかがみが絡んでいたでしょ」
ひよりは首を横に振った。
ひより「肝心要の所で絡んでいません……私が気付くのが遅すぎたから……」
こなた「ひよりが早く気づいてその恋敵が自分の姉だって分ったらどうだろう、ちゃんと作戦立てられたかな、
いくらかがみでもそこまで冷徹じゃない、作戦にも隙ができるかも」
ひより「流石先輩……かがみ先輩を知り尽くしています……」
こなた「……いや、今回の私だって……どうなる事やら……」
ひより「え、まだ作戦を聞いていないっスか?」
私は頷いた。
こなた「全貌はまだね……この後みゆきさんに会わないといけないし……」
ひより「え……ど、どうして?」
こなた「かがみの作戦の一環らしい……」
ひより「……そうですか……」
こなた「さてさてさ~て、ひよりも大丈夫そうだしそろそろお暇しようかな」
ひより「あの……私と会って何か変わりました?」
こなた「変わった様な、変わらない様な……」
ひより「……そうっスか……」
私は帰り支度をした。
ひより「ところでさっきからさてさてさ~てって何です?」
こなた「あれ、知らないの、薄い本では腐要素たっぷりの漫画なのに」
ひより「……漫画、いや、最近の漫画は忙しくてなかなか見られません」
こなた「まぁ、暇なときにでも見てみるんだね」
ひより「……何か懐かしいっスね……覚えていますか10年前」
こなた「かがみのコミケ事件でしょ」
ひよりは頷いた。
ひより「確かつかさ先輩の一人旅をした頃でした、それが始まりです」
こなた「いや、始まりはあやめさんからかもしれない、あやめさんと真奈美さんが逢ったから今のつかさが居る
私はそう思っている」
ひより「そうだとしたら……先輩はその集大成っスね」
こなた「私が?」
ひより「はい、ですからその想いを是非神崎さんに伝えてください」
その言葉を最後にひよりと別れた。
それはそうとひよりはもう腐らなくなったのかな……
集大成。事実上地球上最後のお稲荷さんとの片想い……か。ひよりも私にプレッシャーをかけてくれたな。
こうしている間にも約束の時間は刻一刻と近づいてきている。
この胸の高鳴り……かがみの作戦を携えてきているのになんだろうこの不安な気持ちは……
落ち着け……
そうだ。
もう一人、みゆきさんと会ったんだ。
かがみはみゆきさんとひよりの順番はどっちでも良いって言っていた。
でも結局ひよりが先に会う事になってしまった。
みゆきさんには正直いってあまり会いたくなかった。今まで会わなかったのは私の意志があったかもしれない。
みゆきさんが職を失ったのも。研究が駄目になってしまったのも一部は私が原因だから……
そう思うと会うことなんてできない。
いったいどんな顔をして会えばいいのか。それさえも戸惑ってしまう。
それを知っていてみゆきさんに会わせるかがみの気持ちがわからなかった。
それでも作戦には必須だって言われたら行かざるを得ない。
確か一週間まえだったかな。
いつも見慣れたみゆきさんの家の玄関。
これほどインターホンのボタンが重く感じた事はなかった。
ボタンを押すと本人が出てきた。家族の誰かが出てくると思っていたから驚いた。
いきなりだったので挨拶もろくに出来ずにまごまごした。
そんな私を見ると。
みゆき「泉さん、こんにちは、どうぞ」
いつもの笑顔で私を迎えてくれた。
こなた「え、あ、え~と、こ、こんにちは……」
まるで初めて会った時みたいな受け答えだった。
居間に通されるとみゆきさんはお茶を準備しに台所に向かった。
他に人は居なかった。みゆきさんだけ、それはひよりの時と同じ。
今気付いたけどかがみがもう私が会いに来るって連絡してあった。そう違いない。
私がアポを取らないで行くのを知っていて……
まったく余計な事を……なんてね。事前に人払いが済んでいれば込み入った話もできる。
その時の私はそんな事を思っている余裕もなかった。
みゆき「どうぞ」
こなた「どうも」
みゆきさんは私の前にお茶を置いた。私はお茶を一口飲むと辺りを見回した。
みゆき「どうかしましたか?」
こなた「……い、いや、なんて言うのか、誰もいないのかなって、いつもならゆかりさんとか……」
みゆき「母は外出中です」
そういえば旦那さんはどうしたのだろう。まさかあの件で関係が悪化して別れてしまったなんて……
その時そう思った。
こなた「そ、そう……あの……」
みゆき「はい?」
聞けるわけがないよね、そんな事。でもそれが事実だったら。
こなた「ごめん……」
みゆき「どうしたのですか、急に謝るなんて……?」
こなた「なんて言ったら……巻き込んじゃって……」
みゆきさんは不思議そうに首を傾げた。
言いたくなかったけど……
こなた「作戦で使った融資したお金はあの事件で株は暴落したから1円も戻ってこない、
貿易会社に融資したせいで研究成果も評価されず……挙句の果ては解雇……だなんて……
一番の貧乏くじ引いちゃったよね」
みゆきさんは静かに話した。
みゆき「私が失った物は代わりがありますが泉さんの失ったものは代替がありません、気にしないで下さい」
こなた「私が……失ったもの、そんなのあったかな?」
みゆきさんはあまり言いたくなかったのか少し間が空いた。
みゆき「……神崎あやめさん…さん、違いますか?」
こなた「あやめさんは……確かにそうかもしれないけど……私の場合、あやめさんはとっくに亡くなってたし、
神崎さんが代役をしていたから諦めもつく、だけどみゆきさんは……今回の件で旦那さんの仲だって悪くなっちゃったでしょ??」
みゆきさんは静かに立ち上がった。
みゆき「彼は……私達以外でお稲荷さんを理解してくれた数少ない一人……です」
こなた「え?」
みゆき「彼がいなければ研究すら出来なかった……」
そういえば……お稲荷さんの秘薬はつかさの料理の技術でも出来る。それに材料にとかげの尻尾もあったような気がする。
2年間の熟成とかもあったっけ。普通考えたらそんな物をまともに研究するって言ったら冗談かなんかと笑われるくらいのレベル。
お稲荷さんの秘薬だってしらなければ私だって何かのジョークだって笑っちゃう。
それでもみゆきさんは研究をつづける事ができた。それはこの研究を本当に理解できる人が居たって事……
こなた「さすがみゆきさんだね、トカゲの尻尾とかふざけているとしか思えない」
みゆき「トカゲの尻尾は手に入れるのがかなり大変でしたので鶏の軟骨で代用できるのではないと思いまして」
こなた「まさか、それが出来るならお稲荷さんがとっくにやっていると思うけど……」
みゆきさんは微笑んだ。
みゆき「実はこの前の臨床試験で使用したのがそれです」
こなた「え、って事は?」
みゆき「トカゲの尻尾の場合と同じ効果でした」
こなた「回復した井上さんを見ればそれは分る……すごい」
私が褒めるのを気にも留めずみゆきさんは話し続けた。
みゆき「薬を作る際、恐らく鶏の軟骨が正解だったのかもしれません、これは私の憶測ですが
つかささんに素直に薬の製法をただ教えるのが気に入らなかったのかもしれません、だからわざと手に入れ難い
材料を言ったのではないかと……教えた本人に聞けないのできませんので確かめられませんが……」
こなた「まぁ……つかさがトカゲを捕まえるのを想像するとそれは納得できるかもね……
みゆきさんはつかさとそんな話しをしたの?」
みゆき「いいえ、つかささんのあの当時の出来事に対して水を差すような話はしない方が……トカゲの尻尾でも
効果は同じなのですから……」
こなた「相変わらずだね、みゆきさんは、それならもう2年の熟成は要らないとか?」
みゆきさんは更に話しを続けた。
みゆき「いいえ、それだけは省けませんでした、酵母によるアミノ酸合成で……」
こなた「いや……そこは言われても解らないから……」
みゆきさんは私にも解る言葉で言い直した。
みゆき「つかささんが残してくれた秘薬の中に酵母ありまして、それが最終的に秘薬を合成します、どこにでも居るわけでもない
特殊な酵母です、遺伝子から見て地球由来のものではないかと推察します、おそらくたかしさん、もしくは真奈美さんが
この日本で発見したのではないかと」
こなた「凄いね……そこまで調べつくしているなんて、しかもこのメモリー板を使わなくて……」
私はメモリー板をポケットから出した。
みゆきさんは私の持っているメモリー板をじっと見た。
みゆき「そのメモリー板にはお稲荷さんの故郷の星、途中で立ち寄った星々の知識や技術はあってもこの地球
の知識は無いと思います、お稲荷さんの秘薬は今の人類の技術では合成できません、そして、この酵母は地球で生まれた
……とすれば、そのメモリー板をいくら調べても薬は出来なかったと思います」
こなた「研究員か……みゆきさん、天職って言っていいよね、かがみにしろつかさにしろ……それに引き換え私って……」
みゆきさんは首を傾げた。
みゆき「そうでしょうか?」
解っている。みゆきさんは私に気を使っている。
こなた「私は成りたくてこの仕事をしたわけじゃないし……」
みゆき「天職……ですか、神から授かりし職業……」
みゆきさんは笑った
みゆき「泉さん、天職を英語で訳すとなんでしょうか?」
こなた「え……な、何で……いきなりクイズ?」
みゆき「何て言いますか?」
みゆきさんは更に念を押した。
こなた「うんん、知らない……」
みゆき「calling……」
こなた「コーリング……?」
みゆきさんは頷いた。
みゆき「呼ばれた……神に呼ばれし職業……しかし神の声を聞けるのは預言者のみです、
そこでもう少し簡単に考えます、泉さん、今の仕事をする切欠は?」
こなた「切欠は……つかさに誘われたから……って?」
みゆきさんは再び笑った。
みゆき「はい、呼ばれましたね、泉さんの今の職業は天職です」
こなた「い、いや、つかさは神様じゃないし……」
みゆき「呼ばれたのであればそれは泉さんにとって天職と言っていいのではありませんか、
英語圏と東洋の職業に対する考え方の違いかもしれません、でもこの件に関して言えば
英語の方がより現実的ではないしょうか……」
こなた「……そうしたとしたら、つかさはかえでさんに誘われた、私はあやのを誘った、かがみはだんなさんのひとしさんに
誘われて弁護士に……」
みゆき「そうですね、そして私も……」
そう、その時わたしがあやめさんに対するコンプレックスみたいなものがスーと消えたような気がした。
こなた「なんか勇気が湧いてきた」
これは全てに当てはまる訳は無い。たまたま私にうまくはまっただけの話し。言ってみれば方便みたいなもの。
私はそう理解した。だけど……なんか嬉しかった。
かがみが聖人君子と言わしめた人だけのことはあるね。
みゆき「さて、いよいよですね……」
こなた「……いよいよって……まさかかがみから聞いたの?」
みゆきさんはにっこり微笑んだ。
そうあからさまにされると照れてしまう。
こなた「本当はさっさと済ませればいいんだけどね、思うようにいかないよ……」
みゆき「躊躇うのはそれだけ泉さんが本気だと言う事です」
こなた「……そうかな、本気なのかな……」
みゆき「二度に渡る潜入……それもかなり危険で犯罪にもなりうる事でした、それを引き受けるなんて
よっぽどの信頼と正義感がなければできません」
こなた「信頼はともかく……正義感ね~確かに危険な作戦だったけど正義感なんてこれっぽっちもなかった、それを言うなら
いのりさん夫婦やみゆきさんの方がよっぽど正義感あったんじゃないかな」
みゆき「それではなぜあんな危険な事を……?」
こなた「……何でかな……つかさの影響があったかもしれない、でもそれだけじゃない……それだね……
やっぱりゲーム感覚、そうそう、ゲームなんだよ……うんうん、それで決まり」
みゆき「ふふ、泉さんらしいですね」
言ってみればそれは好奇心。それだけだったかもしれない。
こなた「それはそうとこれからみゆきさんはどうするの?」
みゆき「どうするとは?」
みゆきさんは不思議そうな顔をした。
こなた「このまま秘薬を秘薬のままにしちゃうの?」
みゆきさんの顔が曇った。
みゆき「受け入れられなかった……結果は出ても認められなかった……ただそれだけが残念です……」
こなた「ふふ、諦めるのはまだ早いよ、あんな万能薬をこのまま捨てちゃうのは勿体無い、それは私でも分かる、
百年、うんん、千年経ってもできるかどうか分らない代物だよ」
みゆき「し、しかしもうあれは認可されない、世には出せません」
みゆきさんはこうゆう考え方はしない。
こなた「そう、薬としては認められない、だけど私が知っている限りあの薬の材料はみんなただの食材、トカゲの尻尾が
鶏の軟骨に交換できるのならそれはただの食べ物、料理だよ、なんだかんだ言って最初にそれを作ったのはつかさだからね……
まして発酵させるのなら味噌とか醤油と同じだよ」
みゆき「はい?」
みゆきさんはキョトンとしていた。
こなた「分らないかな、薬が駄目なら食べ物で出しちゃえばいいんだよ、発酵健康食品ってね」
みゆき「発酵……食品?」
さらにキョトンとするみゆきさん。
こなた「病気を治すのは薬だけじゃないって事、目的が達成できるならなんでもいいじゃん?」
みゆき「し、しかし……」
こなた「しかしもへちまもないよ、みゆきさんは病人を助けたいたいんでしょ、それでいいじゃん、
いざって時は私も使わせてもらいたいしね、それとも何か問題があるの、法律とか?」
みゆきさんは首を横に振った。
こなた「それなら問題ナシ」
みゆきさんの顔が悲しそうになった。
みゆき「なぜ……なぜです」
こなた「え?」
みゆき「……泉さんはどうしてそんな考えができるのですか……」
こなた「へ、なに、急に……そんな事を言われても?」
みゆき「神社の奪還、お稲荷さんの救助船の誘導……そして今回も……私には到底思い浮かびません」
こなた「いや……今回の件はともかく救助船の誘導はつかさがヒントをくれたから……」
みゆき「ヒント?」
こなた「通信ができなくてもう諦めかけた時、つかさは懐中電灯を空に向けて呼ぼうとしたんだよ……それがヒントになった」
みゆき「そんな話はつかささんはしていませんでした……」
こなた「つかさは自分が切欠になったんて気付いていないから」
みゆき「そうでしたか……ふふ、やっぱり敵いませんね……」
こなた「敵わない?」
みゆきさんは今まで見たことの無い苦笑いをした。
みゆき「けいこさんの企画に参加した時でした……つかささんの行動、態度、姿勢……どれを取っても非の打ち所がありませんでした
私は只の傍観者でしかなかった、ですから私はせめて……せめて秘薬を再現させたいと思ったのですが、
結局それも再現したにすぎませんでした……」
こなた「みゆきさんに「なぜ」なんて聞かれたのはじめてかもね、いつもは私がそうしていたのに、それにつかさにライバル心をもって
いたのも意外だったかも……」
みゆき「え?」
こなた「だからみゆきさんに凄い親近感が湧いてきた、今頃になってね、もっと早く言ってくれればよかったのに、
実は本当の事言うとお稲荷さんに関して言えば私の行動は全てつかさのせいだから、
「つかさのくせに」そう思っていたけどいざやろうとするとつかさの様に
うまく行かない、嫌になっちゃうよね……そう、つかさは本当に勇者だよ、勇者は自分が勇者だって自覚していないからね、
本当にピンチになった時、その勇気が試される……つかさはその試練に全て勇気とやさしさだけで立ち向かった……知恵や力なんて
……その勇気のほんの少しでもあれば私はこんな所に居ないのに……」
みゆき「い、泉さん……」
こなた「いや、これは過大評価じゃないから、むしろそれを一番実感しているのはかがみじゃないかな?」
みゆき「そうかもしれませんね……」
こなた「ってこと」
私は立ち上がった。
みゆき「も、もうお帰りですか?」
こなた「みゆきさんの意外な一面が観られてすごく参考になった、ありがとう」
みゆき「ま、待って下さい、本当にそれだけで大丈夫なのですか?」
こなた「かえでさん、まなみちゃん、つかさ、ひよりからも勇気をもらったしね……
いいや、みんなからいろいろ貰った
それにかがみの作戦もあるしなんとかなるでしょ」
みゆき「あ、あの……躊躇うのは神崎さん……神崎あやめさんが原因ですか?」
私の動きが止まった。
みゆき「すみません……こんな切羽詰まった時に……」
あやめさんが一つの原因なのは分っている。
こなた「あやめさんか……神崎さんはあやめさんが好きだった……それは本人から聞いたから真実だよ、
だけどあやめさんがどうだったかは分らない、今となっては確かめようがないしそれを知ったところで
どうなるわけでもないから……」
みゆき「神崎さんはそれを知っていると思います」
こなた「……そうだよね、お稲荷さんだし、あやめさんの心を見るくらい造作もないよね……
てか彼はあやめさん本人に成っていたくらいだから」
みゆき「もちろん泉さんの真意も……」
こなた「え?」
それは盲点だった。
みゆき「きっと既にご存知だと思います」
なんだか身体が熱くなってきた。顔が赤くなっているのが自分でも分った。
こなた「そ、そうだった……もうとっくだった……ははは、今更だよね……
つまりもう知られているから告白は簡単だって言いたいんだね」
みゆきさんは首を横に振った。
みゆき「どうですか、神崎さんを目の前にして言えますか?」
こなた「え~と…………」
例えそれを知られていたとしても言うのはやっぱり……
みゆき「先ほどの表情を見れば分ります、どんな状況であれ告白はそれなりに大変です
普段感情を表に出さない泉さんが赤くなってしまったのですから」
こなた「むぅ……それじゃ何が言いたいの?」
みゆき「泉さんの告白はつまり神崎あやめさんの真意を確かめる事でもあるのです」
こなた「あやめさんの真意って……私に関係ない……」
みゆき「そうでしょうか、神崎あやめさんに何の感情もありませんか、友情とかは?」
こなた「感情って……私は彼女の死体を利用したし、もう彼女はとっくの昔に亡くなっていたから
もうどうでもいいじゃん……」
みゆき「いいえ、亡くなっていません、彼女はまだ生きています、神崎さんの記憶の中で、
神崎さんがお稲荷さんで居る限り彼女は行き続けている、泉さんが告白すれば
神崎さんの中の神崎あやめさんにも伝わります、そして……脳内で二人の
会話が始まります、そして……」
こなた「そして?」
みゆき「そして結論が出るでしょう……いえ、もう結果は出ているかもしれません、
かがみさんがどんな作戦を立てているのかは存じませんが告白する心構えとして贈りたいと思います」
こなた「あ、ありがとう……」
みゆき「いいえ、礼を言うのはこちらの方です……諦めかけていた秘薬……もう一度……挑戦してみます」
こなた「あ、あれは半分冗談のつもりだったけど……」
みゆき「冗談……冗談なのですね……泉さん、やはり敵いませんね……」
みゆきさんは大笑いした。
今まで見てきたみゆきさんの笑いの中で一番の大笑いだった。
そして目から涙が出てきて、いつの間にか泣いていた。
どんな対応していいか分らなかった。なにもしないでただ
みゆきさんを見ていた。
やっぱり研究室を追われて研究成果まで反故にされたのはさすがのみゆきさんもかなりのショックだったのかな。
そんなみゆきさんに私が「冗談」なんて言ったから……
ちょっと酷すぎた……かな
っと言っても後悔先に立たずか……
こなた「ご、ごめん……」
みゆき「……到底私には泉さんのその発想には至りません、冗談……遊び心が私にはありません……」
こなた「ん……そうだよね」
私はスマホにイヤホンを付けてみゆきさんに渡した。
みゆき「これは?」
こなた「いいから、付けてみて」
みゆきさんは耳にイヤホンを取り付けた。
スマホの再生ボタンを押した。
みゆきさんはその再生された音楽を聴いていた。
そして再生が終わるとみゆきさんはイヤホンを外した。
みゆき「この曲は……誰の作曲ですか?」
こなた「みゆきさんでも曲名が分らないのか……これは本物だ」
みゆきさんは首を傾げた。
こなた「作曲、演奏とも柊まなみ、まなみちゃんだよ」
みゆき「え……?」
こなた「私のために作曲してくれた、それをかがみが録音してくれたのてね、みゆきさんが聴いた曲がそれだよ」
みゆき「泉さんのために……ですか」
こなた「ピアノの演奏が凄いのは分っていたけど、まさか作曲までできるとは思わなかった、ねぇ、作曲できるって
凄いと思わない、ピアノの演奏が出来る人はクラスに一人はいるよね、でもさ、作曲ともなると
学年に一人いるかどうかだと思うんだけどどうかな?」
みゆき「……もっと少ないかもしれません……オリジナルともなるとそうは居ないと思います」
こなた「みゆきさんは作曲できる?」
みゆき「いいえ……」
こなた「そうそう、私なんか作曲どころかおたまじゃくしさえ読めない」
みゆき「それは泉さんは音楽に……」
こなた「そうそう、幼少時に音楽に触れる機会がなかった、そもそも楽器に興味がなかった、才能もなかったかもしれない
だけど、まなみちゃんの演奏を聴くといいな~なんて思ったりもする……憧れだよね……そう、憧れ……
でもまなみちゃんになれないし、つかさに成れる訳でもない……じれったいし、もどかしいよね、
で、思ったんだけど……ヴァイオリンの音にあこがれてピアノでどんなに頑張ってもヴァイオリンの音は出せない、
逆もまた然り、だけどその憧れがその楽器の音色をより美しく奏でさせる……それでいいじゃん、まぁ私は
ヴァイオリンでもピアノの音色もないから差し詰め打楽器って所かな……」
みゆき「……打楽器は人類が一番初めに作った楽器……リズムを刻み時には音に破壊的な効果をもたらします、
管楽器、弦楽器とてもそのような効果は期待できませんね……」
こなた「い、いや、これは例え話で」
みゆきさんは首を横に振った。
みゆき「たとえ話ではありません……それぞれの特色を活かして一つの大きなシンホニーを……私も参加したいです」
こなた「うんにゃ、もうとっくに参加しているよ」
みゆき「そうでしょうか……私は何も」
こなた「なにせみゆきさんはお稲荷さんを理解している数少ない一人だからね」
みゆきさんが一番理解している。私はそう思った。
みゆきさんは真剣な顔になり私の前に立った。
みゆき「それならば私も手伝わせてください」
こなた「な、何、何なの?」
こなた「それならば、私を神崎さんに見立てて告白の練習をしましょう……」
こなた「え?」
……
……
時間だけが過ぎていく。
みゆき「どうしたのですか、私の前で言えなければ本人の前にすら立てませんね」
こなた「ちょ、ちょっと待った、そんなのしなくても、子供じゃあるまいし、それにかがみだってそんな練習は一度も……」
みゆき「かがみさんは自分の出来ない事を他人に強要しません、優しすぎるのです、でもそれでは成功しません」
こなた「わ、私は本番に強いからそ、んなの、は……」
みゆきさんの目がいつになく怖く睨みつけてきた。
これは言うまで帰してもらえない。そう思った。
……
………
…………
言えなかった。冗談でも言えなかった。
みゆきさんの言うとおり。みゆきさんの前で言えなければ本人の前でなんて言えるわけない。
そんなのは分っている。解っているけど……言えなかった。
これじゃこの前と全く同じ。何も変わっていない。
まさかこんな事って……
有り得ない。
だけどこれは現実だ。夢じゃなかった。
こなた「は、はは、はははは……」
みゆき「い、泉さん?」
笑うしかないこれは笑うしかなかった。
こなた「こりゃ傑作だね、笑っちゃうよね~」
私は帰り支度を始めた。
みゆき「泉さん、ですから私の前で……」
こなた「いいから、もう」
みゆき「いいから……とは?」
こなた「お邪魔しちゃったね、もう帰るから」
私は部屋を出ようとした。そうしたらみゆきさんは立ち上がって素早く私の前に回り込んでドアの前に立ちはだかった。
みゆき「まだ終わっていません、このままでは本番で失敗します」
こなた「本番はもうないから……」
みゆき「無とはどう言う意味です?」
こなた「言ったままの意味だよ……もう終わり、これじゃ何をしても無駄だよ」
みゆき「……どうしてです、まだ諦めるのは早すぎます、何かの落ち度があるのでしたらかがみさんともう一度作戦を練り直す時間くらいは……」
こなた「もう何をしても同じだよ」
みゆき「いいえ、違います」
こなた「……同じだよ、もう帰るからそこを退いてくれるかな……」
みゆき「これまで協力してくれた方々の想いが……分っているのですか、つかささん、かがみさん、まなみさん、田村さん……
……それに、此処に来たは泉さん自身の意思ではなかったのですか」
いつになく真剣なみゆきさんだった。
こなた「うんん、かがみが行けって言うから来ただけだから……」
私はみゆきさんの向こうにあるドアのノブに手を伸ばした。
みゆきさんは私のその腕を掴んだ。
みゆき「終わりとは、そのまま神崎さんを故郷の星に帰していいと言うのですか」
私はノブの方に向けて少し力を加えた。みゆきさんの腕はは押し返す力が加わった。
みゆき「本当にそれで良いのですか、私の目を見て言って下さい」
みゆきさんの手が更に強く握る。
みゆきさんに言われなくてもそんなのは解っている。分っているけど、身体が言う事を聞かない。
私は更に力を入れてドアを握ろうとした。
みゆき「このまま帰っても何も変わりません……」
変わらない。そう何も変わらない。私は腕の力を抜いた。それに気付いたみゆきさんは腕を放した。
こなた「そう、そうだよ、何も変わっていない……可笑しい、可笑しいよね……」
みゆき「い、泉さん?」
こなた「実はね……以前にも告白しようとしたんだよ……全くその時と同じ……うんん、言い出そうしただけ
その時の方がよかったかもしれない……まったく変わっていない」
私は顔を上げてみゆきさんの目を見た。
こなた「全く変わっていない、つかさにまなみちゃんにかがみ、ひよりにみゆきさんまで勇気を貰ったのに……
これじゃ何をしたって同じだよ……つかさの様な勇気があれば私は今此処に居ないよ……
まなみちゃんの様にピアノが弾けたら想いを全て音楽にできるのに……何もできない私は直接話すしかないから、
どうしようもないよ……言えないものは言えない、弱虫って言われてもしょうがないよ、言えない、
言いたくても言えない……言えない」
みゆき「例えそこで諦めたとして、何れ来る別れの時、泉さんはどうするのですか、会わずにそのままお別れするのですか
その時も何もしないつもりですか」
そう、そうだった。かがみもそんな事を言っていたし今回の作戦もそれが肝になっている。
そんな事は分ってた。いずれにせよ別れの時が来る。
つかさは別れの時に会えなかった。だけどそれが結果的に再会の切欠になった。
でもつかさは必死になっていた。
私だって必死だよ。つかさ以上にやっているつもり……つもりじゃ駄目なのかな……
私の場合会えない訳じゃない。会わない……会わないのか。
こなた「考えれば考えるほど言えなくなるよ……神崎さんが好きなんて……」
みゆきさんは一歩横に移動してドアを開けた。
みゆき「……確かに聞きました、本番はその調子で行けば大丈夫です」
こなた「え?」
みゆき「しっかり聞こえました、告白」
こなた「い、いやあれは独り言みたいなものでみゆきさんに言ったわけでも神崎さんに言った訳でも……」
みゆきさんは笑った。
みゆき「どちらでも良いではありませんか、泉さん自身の口から出たのは間違えないのですから」
こなた「みゆきさん……」
みゆき「ファイトです」
みゆきさんは小さくガッツポーズを取った。
みゆき「私に出来るのはこのくらいですが」
こなた「うんん、なんかすっごく勇気が湧いた様なきがした、ありがとう」
みゆき「いいえ、勇気をくれたのは泉さん、貴女ですよ……お互い頑張りましょう」
そしてみゆきさんと別れた。
今思えばあれは誘導だったかもしれない。だけどそれで私はこうして此処に居る。神崎さんと待ち合わせまで漕ぎ着けた。
もうそろそろ時間かな。
『ピピ』
頭の中で神崎さんの気配を感じた。メモリー板の機能が働いたみたいだ。もう彼はすぐ近くにいる。
もう後戻りは出来ない。
もうやるしかないんだ。
34
彼が、神崎さんが近づいてくるのが分る。どうしよう……
どうしようじゃない。かがみの作戦通りやるしかない。そう心の中で何度も言う。
そうじゃないか。普段は普通に話せているじゃないか。そうの様にすればいいだけの話。
よ~し。
神崎「待たせたかな……まさか先に来ているとは思わなかった」
こなた「あっ!!」
神崎「ん?」
不思議そうに私を見ながら首を傾げる神崎さん。私の奇声がよっぽど珍しかったのか。
そんな事を考えている暇は無かった、もう作戦は始まっている。
……もう……いやいや、まだまだ……
とにかく落ち着け、そして動作はゆっくり、慎重に。
私は徐にポケットに手に入れてメモリー板を取り出し彼に差し出した。
神崎さんはさらに首を傾げる。
こなた「はい」
神崎「どう言う意味なのか?」
こなた「もう返すよ……」
神崎さんはとても驚いた顔をした。
神崎「返す……何故だ、まだ裁判は終わっていないのに?」
こなた「裁判はどうあがいても有罪は確定しているからね、もう終わったのと同じだから」
私は一歩進んで更に彼に近づいた。
だけど神崎さんはメモリー板を受け取ろうとしない。
神崎「……裁判はいいとして、君にもそれは必要ではないのか?」
こなた「もう私の仕事は終わっちゃったしね、もうこれ以上これを持っていても意味ないし」
神崎「……貿易会社が読み取ったメモリー板の情報を全て消したと言うのか?」
私は頷いた。
こなた「敵もいろいろ工夫していて骨は折ったけどね、これでお稲荷さんの情報は少なくとも彼らのサーバには一切残っていないよ」
神崎「ばかな……君には基本的な使用方法しか教えていない」
私は人差し指を立てて舌を鳴らした。
こなた「チッチッチ……私にはもう一つの秘密兵器があるのだよ」
もう一つ、そうUSBメモリーを取り出しメモリー板の上に重ねて置いた。
神崎「それは……」
こなた「めぐみさんがくれたUSBメモリー、これでこの地球上ある全てのPCは私の手の中にあるのと同じ、それにね
メモリー板の使い方もこのUSBメモリーが翻訳してくれてね、仕事が捗ること捗ること」
神崎「……それがあったのか……メモリー情報は確かにそれで翻訳できるな……」
私は更に一歩彼に近づいて渡そうとしたけど彼は受け取ろうとはしなかった。
神崎「本当に良いのか、私がこれを使ってあの殺し屋に復讐するとしたらどうする、それを使えば刑務所だろうが軍隊の施設だろうが
容易に侵入できるぞ」
こなた「うんん、メモリー板が無くったって復讐する気ならとっくにやっていたでしょ?」
神崎「言い切るじゃないか、メモリー板を持った途端に気が変わるかもしれないぞ、それに今まで何もしなかったのは
君の持っているメモリー板で私の居場所を特定されてしまうのを恐れていたからかもしれない」
こなた「そんな事言ったら私がメモリー板を渡さないよ、それにね、そう言うのは渡されてから言うもんだよ」
神崎さんは苦笑いをした。
神崎「私を試すのか、メモリー板のおかげなのか知恵がついたな……それとも誰かの入れ知恵なのか」
こなた「そんなのどっちでもいいじゃん」
確かにこのメモリー板のおかげで神崎さんと同等な話が出来るしついてもいける。
だけどこれはメモリー板でも誰かの……ましてはかがみの入れ知恵でもない。
つかさとお稲荷さんとのやり取りをずっと観ていれば出来ることだよ。
私はさらに近づいてメモリー板を彼の間の前にかざした。
神崎さんはじっと私の手にあるメモリー板を見ている。
神崎「確かにそれは私にとってどっちでもいい……それより本当にそれでいいのか、それを私に返せば二度と
その力を使うことは出来ない、知識も技術もすぐに忘れてしまうのだぞ、その気になれば株価の操作だって可能、
貿易会社の様に技術を売れば富も思うがまま、それにかつて君がこの神社を買い取った様にね……惜しくないのか?」
こなた「ふふふ、今度は私を試すの……確かに惜しいと言われれば惜しいけど……やっぱりこれは私達が持つには
危なすぎるよ……数学で1+1が2になるって理解できて始めて計算が出来るようになるよね……
あとは掛け算、割り算、関数とか微分や積分だってその延長だよ、
メモリー板の中身が分るようになって分っちゃった、私達ってその計算すらまだ理解出来ていないレベル
だって……だから宝の持ち腐れになる」
神崎「確かに今の人間にはその積み重ねがなるかもしれない……それでも何人救えるか分らないぞ」
こなた「うん、同時に何人不幸にするか分らない」
神崎「……冷静な判断だな」
こなた「こう言うのはよくゲームやアニメで題材になるからね」
神崎「そこでそれが出てくるか……」
神崎さんは笑った。そして、さらに話しを続けた。
神崎「今まで永い間、人間と関わってきた、君が知っている様に私達はどんなに頑張っても一ヶ月の内数日は
狐の姿になって生活するしかない、それで何度信頼していた人に裏切りられたか……
一番弱くなっているところを狙われる、技術や知識を教えてもそれでいつも裏切りられ、争いが始まり、
破壊の限りを尽くし、そして……
元に戻ってしまう、それの繰り返し、何度命を狙われ、何度生死の境を行き来したことか……」
少し間を置いて神崎さんは更に話しを続ける。
神崎「それでも助けられたのも人間だった、傷ついた私を何度救われたか、中には裏切ったはずの人物に
助けられた事もあった……いったいどっちが人間の本性なのだ?」
何万年も生きていればいろいろな事があったのは分るけど。
私にはその問いの答えを持っていない。だけど……
こなた「何も知らない友人が一人旅で理不尽にも生贄にされそうになったよ、挙句の果てに逆恨みでもう一人の
友人にも呪われちゃってね……何度か殺されそうになった……」
神崎「…それは……」
私は少し間を置いて更に話した。
こなた「でもね、その友人を殺そうとした人自分の命を引き換えにに友人は助けられた、
更に私達と一緒になって私達を呪おうとした人達と仲直りしようとしてくれた人もいたっけな……
お稲荷さん……一体どっちが本性なの?」
神崎「……その話しをするのか」
こなた「このメモリー板の知識だってお稲荷さんに出来たのだからきっと私達だって同じ事が出来るようになる」
神崎「私達と同じと言いたいのか……」
こなた「うん」
神崎「いや、地球での私達の行為は生きる為に止むを得ず行ってきた事だろうに」
こなた「それじゃ多分私達も同じだよ、このメモリー板の中にある歴史って殆ど戦争だよね、地球と同じじゃん?」
私を見て急に笑い出した。
神崎「メモリー板の歴史も解読したのか、ふふ、なるほど、君はもうそれを使いこなしてしまった……そう言う事か……だから見つからなかった訳だ」
こなた「ん?」
なんの事を言っているのかな?
神崎「確かに彼女の言ったとおりになったな」
こなた「へ?」
今度は私が首を傾げた。
神崎さんは黙って考えているみたいだった。
こなた「話したくない事なの、それより受け取ってくれないと腕が疲れちゃうんだけど」
神崎「そ、そうだな……」
神崎さんは腕を伸ばしてメモリー板をUSBメモリーを受け取ろうとした。
さけどさっきの話が気になってきた。
私はメモリ板とUSBメモリーをポケットに戻した。
神崎「え?」
こなた「さっきの話の続きを聞きたい……誰の言う通りになったって?」
神崎「……そうだな言いかけてそれはないか……」
神崎さんは振り返って私に背を見せた。そして神社の下を見下ろした。
神崎「ワールドホテル社長と秘書の突然の消失……そしてこの神社の買い取りと寄付をした謎の人物……
レストランかえでが一番怪しいと彼女は言っていた」
こなた「その彼女って……もしかして?」
神崎「そう、神崎あやめだ」
あやめさんは最初から私達の店を疑っていた。でも、そうだとしたら。
こなた「それじゃなんで今になって私達の所に来たの、もっと、もっと早く来てもおかしくないじゃん」
少なくともあやめさんが亡くなる前には会えたはず。
神崎「私にもそう言っていた、彼女の読みを信じていればこうはならなかったかもしれない……死ぬ必要もなかったかもしれない」
こなた「それじゃどうして!!」
思わず声が裏返った。
神崎「……私が反対した」
こなた「反対したって……私達は、特につかさはワールドホテルと深く関わっていたよ、少し調べればそのくらいは直ぐに……」
神崎さんは首を横に振った。
神崎「いいや、調べてもそれは分らなかった、ワールドホテルの情報は殆どあの社長と秘書が持っていたらしいからな……」
私を見る神崎さん。
神崎「その情報を消したのも君か?」
こなた「まさか、私はほとんど何もしていないよ、多分消したのは秘書の……」
神崎さんは手を私の目の前に出して止めた。
神崎「もういい……情報を消すのは私達のしてきた事を考えれば当然の事……そう、君たちはお稲荷さん仲間と協力して
母星と交信をし、そして故郷に帰した……何千年、何万年経っても出来なかったことを君たちはやってしまった」
こなた「うんん、つかさが90%以上やったこと、そんな事よりあやめさんがよく神崎さんの反対に納得できたのか……
あの強引な性格じゃぜったいに折れないよね?」
神崎「強引? そうだな、仕事はいつもそうだった、しかし私の言う事にはあまり反論はしなかった」
反論しなかった……?
こなた「仕事って、貿易会社の秘密を探す仕事をしてたでしょ……それに仲間を探していたって……
彼女のライフワークみたいなもんじゃなかったの?」
神崎さんは黙っていた。話そうとしないから私から言った。
こなた「ずけずけ店に入ってきたりしたしたり、私を潜入操作のメンバーにしたり……そんなの考えられないよ」
それでも神崎さんの言う事に従ったってことは……
神崎「反論はしなかったが彼女従ってはいない」
こなた「え、言っている意味が分らない……」
神崎「彼女は私と仕事をした後から自分の仕事をしていた、私に気付かれないように」
そんなまどろっこしい事を何で?
私が話しださないのを確認したのか神崎さんは話しだした。
神崎「彼女は私と大学や企業を調べている合間を見ては君達の店を調べていた、店の経歴、店長、
従業員、店の移転に至るまでね、もちろんその中に君の名前もあった、泉こなた……」
そこまで調べていたなんて……
神崎さんは一呼吸すると再び話しだした。
神崎「私との仕事と自分の仕事の両立……その負担は心身共にかなりのものとなる」
こなた「負担……」
神崎「そしてその結果があの事故だ……」
私はなんていって良いのか分らなかった。
神崎「ふふ、あいつを、あやめを死に追いやったのは私だ」
こなた「あやめさん、調べていたんだったらちゃんと言えばよかったのに……なんで……」
神崎「……さあな……」
さあなって、神崎さんはあやめさんの記憶の全てを知っているんじゃないの?
だから……それは無いよ。絶対無い。神崎さんは絶対にその理由を知っている。知ってきゃおかしいよ。
神崎「今までの私はその償いの為にこうしてきた……それももう終わる……」
でも聞けない……その理由が怖くて聞けない。
こなた「償いって、約束じゃなかったの?」
神崎「ふふ、そう言わなかったら君は協力してくれまい?」
こなた「え……?」
神崎「貿易会社に潜入した時警備員に襲われた……本当は君を助けるつもりは無かった」
こなた「な、なにを突然……」
神崎「君が囮になれば私達は逃げられた……それだけの話だ」
こなた「それじゃなんで私を助けたの?」
神崎「神崎あやめがそれを許さなかっただけの話だ……あやめに感謝するんだな」
違う。直ぐにそう思った。
あの時、囮になって皆を逃がしてそれで自分も助かる可能性があるとしたら狐になれる神崎さんしか居ない。
こなた「……そうだね……」
それでもこう答えるしかなかった。
神崎「さて、もういいだろう」
神崎さんは手を伸ばしてきた。
メモリー板……これを渡してしまったら……もう……
こなた「ちょっ…ちょっと待って……な、何も今更母星に帰らなくたって……もう4万年もここ(地球)に居たんだし……」
神崎さんの手が止まった。
神崎「この私に留まれと言うのか?」
こなた「う、うん……」
私は力なく答えた。
神崎さんは私の手に持っているメモリー板を見ながら話した。
神崎「それを機能停止させるにはかなりの危険、それに費用が必要になる……それとも人類がそれを使うに値するまで守り続ける覚悟があるのか、
10年、100年、1000年……君達の子々孫々……少なくとも全人類が一つに纏まるまではこれは渡せないだろう」
こなた「何もそこまで待たなくても……」
神崎「ほぅ?」
その理由を聞きたそうな目をしている。
こなた「この状況は小さい頃から擬似的に体験しているから……もっと早く分ってくれるかなって……」
神崎「小さい頃?、擬似的?……ん……具体的になんだ?」
私は小さな声で答えた。
こなた「ドラ○もん……」
嗤われる
そう思った……だけど私と思ったのと違った反応をした。
神崎「未来から来たロボットが主人公に秘密の道具を貸す漫画か……」
こなた「し、知ってるの?」
神崎「知ってるも何も、彼女が話してくれてね……」
彼女……あやめさんか……
神崎「主人公が大失敗をして終わるのが殆どだってな……確かにあの漫画は今の状況に当てはまる内容だな……
あの教訓が活かせれば君も私もこうして苦しむこともないのだがな……ヨーロッパでも魔法使いの弟子と言う話が……」
なんだろう神崎さんのあの表情。昔を懐かしむように……そんな風に見える。
そういえば漫画やアニメのネタの話しをしても神崎さんは嫌がらなかった。それどころか
積極的に話していたよ。
そうか……分っちゃった……
あやめさんは神崎さんの事を……
分るのが遅すぎたかな……
神崎「泉さん!?」
神崎さんの声にハットした。
こなた「あ、は、はい?」
神崎「なんだ聞いていなかったのか?」
こなた「え、えっと聞いてますよ、魔法使いの弟子……うんうん随分古いアニメだよね」
神崎「その話はしていなかったが?」
こなた「え、あ……」
神崎さんは笑った。そして私は苦笑いをした。
神崎さんは私の手に持っているメモリー板を見ている。
確かにもうこれを持っている理由はないよね。
え、
これで、終わり?
うそ……まだなのに……こっちの要件はまだ終わっていない。
でも、もう終わり?
どうしよう。
何もできなかった。
これじゃこの前とおなじじゃない。
神崎「確かにこの地球は母星よりも遥かに永く滞在している、もう第二の故郷と言ってもいいくらいだ、
そして……最後に君に会えて良かったよ」
こなた「あ、そうだね、こっちも……」
そんな私の思いも束の間、話はどんどん進んでいく。
私はメモリー板とUSBメモリーを神崎さんに手渡した。
何故……言えない……
私って……
神崎さんはメモリー板とUSBメモリーを大事そうにポケットに仕舞った。
こなた「あれ、使わないの、仲間を呼ばないの?」
そんな事を言いたいんじゃないのに……
神崎「もう私が手にしたのなら改めてその操作をする必要はない」
こなた「そうだったね……」
神崎「それでは、さようなら」
こなた「さよう・なら……」
あっけない。これが最後の別れなの……
神崎さんは私に背を向けると神社の階段を折り始めた。
私はその姿をずっと見ていただけだった。
彼の姿がぼやけて見える。
これって涙なのかな。
ごめん……かがみ……折角の作戦だったのに……大敗だったよ……
つづく
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- 続き見たかったゾ... -- 名無しさん (2021-12-03 22:13:26)
- 随分経ってしまいましがどうもこの続きは書けそうもありません。 &br()ちょっと時間がた空きすぎたのかもしれません。書いていた頃の &br()気持ちになれなくなってしまいしました。どうもすみません。 &br() &br() &br() -- 名無しさん (2021-08-29 04:11:28)
- 続きが読みたい人はいるかな? &br()個人的には惰性で作った気がしてあまり自信がない。 &br()8割くらいは出来ているけど…… &br()何か書き込んでくれればモチベーションが上がるかも &br()よろしくお願いいたします。 -- 作者 (2018-05-31 19:59:50)
2021-12-03T22:13:26+09:00
1638537206
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雑談板/コメントログ
https://w.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/79.html
- いやー正直どれも読むのきっついわーorz 作品への愛はあるのかな・・・・ -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-11 02:15:53}
- 質を求めるなら別の場所に行ったほうがいいと思う -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-11 04:25:36}
- 見事に欝展開だなあ・・・・ 糖分補給はエロパロの方がいいな -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-13 00:25:57}
- まぁ百合展開だとエロ絡む事多いしな -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-13 01:33:38}
- なんでここまで死にネタばっかなん? -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-14 06:04:03}
- 最初のスレタイが「余命つかさ」だったからね…。とはいえ、もう少しお笑い系とか増えてもいいと思うんだけど…。 -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-14 10:02:26}
- まあ死ネタってのも普段ののほほんから考えるとかけ離れていて面白いけど、もうちょっとお笑い系あってもいいよねw -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-14 11:59:12}
- 死にネタはお手軽なんだよ。お笑いはセンスないやつがやっても全然笑えないけど死にネタはある程度は賛同もらえるし -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-14 20:51:26}
- まあ、確かにそうだな。死ねたとかシリアスネタの方が比較的書きやすいもんだしね。 -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-14 20:55:04}
- 死に話連続で読むと堪えるので増えたらジャンル別にしてほしいとかここで言ってみる -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-14 21:55:04}
- 死にネタが苦手ならコンクール作品オススメ -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-16 00:17:34}
- なら、自分で書けといいたい -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-17 19:14:47}
- コンクール投票。圧倒的過ぎてワロタ、優勝は彼の作品で決まりかねぇ -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-18 11:19:29}
- 自分的にはイマイチな訳だが。俺が変わり者なのだろうか? -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-18 15:21:37}
- 人によって観点が違うだけでしょ -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-18 16:11:38}
- ここにももっと糖分欲しいなぁ。なんかつかさ欝ばっかり…かがこなもっとこないかなぁ -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-20 23:54:23}
- カップリング物が読みたいならエロパロにいってろよ -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-22 16:23:26}
- 「泉こなたは目を覚ました」ってスレの保管はされていないんでしょうか…? -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-24 17:16:08}
- ふたりぼっち(・∀・)<イイヨ~ -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-24 18:26:59}
- 「泉こなたは目を覚ました」は素晴らしかったな、内容がちょっとアレだが、文章力が素晴らしかった -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-24 18:56:58}
- ここのSSは絶対おれを泣かそうとしている&br()&br()&br()&br()みんな簡単に死なせすぎだぉ・・・(;ω;)ウッウッ -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-25 07:14:29}
- ここは泣き系が強いからな、元々初代のスレタイが感動系だったんだ。 -- (名無しさん) &size(80%){2007-06-25 20:47:35}
- 7RldI4zQ0氏の奴読んでサザエさんのあのネタ出るとは思わなくてふいたw -- ( ) &size(80%){2007-06-26 03:42:01}
- ここには鬱モノしかないのか。期待して来てみたけどまだ発展途上だったみたいだな(=ω=.) -- (名無しさん) &size(80%){2007-07-06 23:39:36}
- なんか面白い作品は途中で終わるんだよな・・・ -- (名無しさん) &size(80%){2007-07-14 19:08:27}
- VIPのも落ちたままだと思ったら、アニキャラ板のSSスレまで落ちていた・・・・ちゃんと機能してるのはエロパロ板だけか? -- (名無しさん) &size(80%){2007-07-17 11:33:49}
- こなキョン がどこにおかれてるのかわからん。消された? -- (名無しさん) &size(80%){2007-07-18 22:40:08}
- 黒井先生妄想ネタウケたwww -- (名無しさん) &size(80%){2007-07-21 22:36:33}
- 「あたたかな世界」…あったかいなぁ(';ω;)ウッ -- (名無しさん) &size(80%){2007-07-22 21:03:21}
- ここもハルヒなみに盛り上がって欲しいな -- (名無しさん) &size(80%){2007-07-25 13:23:20}
- ズキン――――――――― -- (名無しさん) &size(80%){2007-07-28 17:36:55}
- クスクス――――――――― -- (名無しさん) &size(80%){2007-07-28 17:37:31}
- お母さんーーーー泉こなたはーーー幸せですーーー -- (名無しさん) &size(80%){2007-07-28 17:38:01}
- wwwww -- (名無しさん) &size(80%){2007-07-28 18:15:04}
- なんだ。この意味不明な書き込みは。いつのまに荒らしがきたんだよ -- (名無しさん) &size(80%){2007-07-29 00:08:18}
- しばらく来ない内に作品増えてるw -- (名無しさん) &size(80%){2007-07-29 13:20:13}
- せめてタイトルの横にメインキャラの名前くらい書いてくれるとありがたい -- (名無しさん) &size(80%){2007-08-02 23:34:33}
- 確かにそうですね、暇があったらやっておきます、誰かやってくれれば助かるけど -- (名無しさん) &size(80%){2007-08-02 23:40:53}
- ああ、鬱だー死のう。 -- (ameri) &size(80%){2007-08-08 20:52:12}
- ameriさん、俺の誕生日になんつーことを・・・ -- (名無しさん) &size(80%){2007-08-17 23:34:20}
- ID:khgtLPXFO氏:タイトル不明 この作品は良いと思う -- (名無しさん) &size(80%){2007-08-17 23:37:26}
- 初なんだがオヌヌメを教えてくれまいか -- (名無しさん) &size(80%){2007-08-19 18:56:33}
- 感動系は一通りオヌヌメ&br()コンクール作品もイイヨ -- (名無しさん) &size(80%){2007-08-19 19:04:55}
- やっぱり、コンクール大賞とかは秀逸ぞろいだな -- (名無しさん) &size(80%){2007-08-23 02:06:44}
- 安定した男キャラがでてきたら楽なんだが・・・ -- (名無しさん) &size(80%){2007-08-28 22:46:15}
- 「stare」がおもしろい -- (´・ω・`) &size(80%){2007-10-04 20:07:13}
- そろそろつかさ残機0じゃねw -- (名無しさん) &size(80%){2007-10-21 11:31:56}
- 黒井先生妄想ネタってどこにあるの? -- (名無しさん) &size(80%){2007-11-27 23:52:13}
- ↑ 検索機能使うと良いかもね -- (名無しさん) &size(80%){2007-11-28 00:10:50}
- 検索フォームもっと目立つところに設置しましょうか? -- (名無しさん) &size(80%){2007-11-28 00:22:22}
- お願いします -- (名無しさん) &size(80%){2007-11-28 01:25:29}
- あけましておめでとう!いつもひっそりと楽しんでます(^o^)今年もよろしく! -- (名無しさん) &size(80%){2008-01-01 10:21:48}
- こなたの恋愛系でなんかおすすめありますか? -- (名無しさん) &size(80%){2008-01-16 05:53:56}
- ここってクロスオーバー物はありかな? -- (名無しさん) &size(80%){2008-01-30 21:39:20}
- 確か、以前に何かとのクロスオーバー作品ありましたから、ありなんじゃないかと。ただ、ハルヒとのクロスオーバーは別場所にスレとまとめがありますね。 -- (名無しさん) &size(80%){2008-01-31 05:34:42}
- 欝っていいなー。 スッキリ。もう定番ネタはうんざり。 -- (名無しさん) &size(80%){2008-05-25 14:07:47}
- でも「死ね!」 -- (名無しさん) &size(80%){2008-06-08 14:17:14}
- あっはっは見ろ人がゴミのようだ!はっはっはっは -- (ムスカ) &size(80%){2008-08-05 00:49:25}
- フヒヒ~ こなたマジ テラ萌えス~ -- (名無しさん) &size(80%){2009-09-16 23:25:20}
- 誰か面白い殺人ネタ書いてくれないかなぁ~ -- (名無しさん) &size(80%){2010-12-07 23:17:51}
- [[ID:ZHyyjTo0氏:激突!こなた争奪戦2011]] 今年の話になっちゃったぞオイw -- (名無しさん) &size(80%){2011-01-01 03:18:07}
- いつみても反吐の出るブスキモい生ごみブサイク野郎だなおい(゜Д゜)コイツを愛しているド屑共はこの世に何人いるのか 俺はこんなブスの塊を愛すること何で断じてねえよ 汚なたは女らしさもない声も下品で容姿も見た目もブサイクwwwwwww特目障りなのがブサキモいバカ面で見るだけで鉄拳でぶっ飛ばしたくなる ようつべでコイツのMMDときたらウゼエ極まりないわ こんなブスゴミが好かれてるなんて世も末だな もしおれがこのブスキモを愛するんなら明日地球が崩壊するかもなwwwらき豚のクソブスヒロイン汚なたとかいつみてもマジ反吐が出るキモさだわ 自分がブスだし自覚できない雌豚のうえヘラヘラバカ面晒して声も容姿も目障り極まりねえし行動もマジムカつく ホンッッットコイツみたいに不幸も知らねえ野郎を見ると憎しみが湧きあがるんだよ俺は(°д°)こんなキモブスを愛するやつはキチガイを通り越してどうかしてるな( ´_ゝ`)俺は永遠にこんなクソブスを嫌忌し続けるだけさ -- (クソブス死ね) &size(80%){2016-09-03 22:42:05}
- あああああああああ -- (名無しさん) &size(80%){2021-02-25 13:34:10}
- スレ落ちてた -- (名無しさん) &size(80%){2021-04-07 06:10:47}
- スレ復活するのかな? -- (名無しさん) &size(80%){2021-04-08 08:47:23}
- スレ落ちしてからずいぶん経つね、状況知っている方いますか?調べてもわかりません -- (名無しさん) &size(80%){2021-04-12 07:04:27}
- スレ復活してくれー -- (名無しさん) &size(80%){2021-04-12 20:07:47}
- 普通にサバ落ちたんじゃね? -- (名無しさん) &size(80%){2021-04-12 21:10:14}
- スレ復活してた -- (名無しさん) &size(80%){2021-04-13 18:35:04}
2021-04-13T18:35:04+09:00
1618306504
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ID:N9wzUkE0氏:うたたねの間に
https://w.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1520.html
「ジャーん!見てこれ」
いつもの昼休み、鞄から何かを出してこなたさんが言いました。
「何よ、これ?」
「スーパーボール」
「いや、見りゃわかるわよ…」
こなたさんが机の上に転がしたのは、6個のスーパーボール。
なかには星のマークが彩られています。
「実はこれ、最近話題のガチャポンでね。全7種類をコンプリートすると願い事が叶うって言われてるんだよね」
「どこのドラ○ンボールの話だ、それは」
「へ~なんか素敵だね」
「いや、つかさ、真に受けちゃダメだから」
「でも本当に願いが叶ったらいいですよね」
「みゆきまで…大体こういうのは全部そろえさせようとする企業の戦略でしょうが」
「は~、かがみってホント夢がないね。ま、それはいいんだけど、なかなか7つめが出なくってねー。ネットでも激レアっていう噂だよ」
「でも願い事かぁ、かなえてもらうなら何がいいだろう」
つかささんの言葉に私も思わず考え込んでしまいした。
もし願い事がかなうなら…
その日、私は家に帰って鞄の中を覗き込みました。
そこには泉さんの言っていた7個のボール…
あの話を聞いた後、途中で寄ったあるお店の軒先にあった例のガチャポンを気がついたらまわしていました。
そして泉さんが激レアと言っていたにも関わらず、なぜか7回で全種類引き当ててしまったのでした。
「願い…」
そう呟いた時、一枚の写真が目に入りました。
修学旅行での4人の写真。私が一番気に入っている写真でした。
「そういえばもうすぐ卒業なんですね」
高校の3年間に特に大きな不満はありませんでした。
勉強も委員会の仕事もうまくいって充実していたし、最高の友達もできた…
でも
もしやり直せるのなら、やり直してみたいところがあるのも事実でした。
日常生活の中での大小様々な失敗、行事での経験不足ゆえのミス…
そしてなにより…
1年生の文化祭の準備よりも早く…
泉さん、つかささん、かがみさんともう少し早く仲良くなれていたら…
私たちの人間関係は今と違ったものになったでしょうか?
泉さんとつかささんの出会いの話や、1年生の1学期の出来事の話を聞くときのちょっとしたさみしさを感じずに済んだでしょうか?
そう考えると私の胸は自然と高鳴りました。
そして、目の前の7個のボールに願いました。
高校生活をやり直してみたい、と…
「ん、朝…ですか?」
鳥の鳴き声で目が覚めました。
気がついたらいつの間にかベッドで寝ていたようです。
「みゆきー、そろそろ起きないと入学式に遅刻するわよ~」
「はい。今起きました」
寝ぼけていたのでしょうか。
返事をしてしばらくしてから異変に気付きました。
「入学式?」
確かにお母さんはそう言いました。
よくよく部屋の中をみると昨日とはだいぶ違っています。
鞄を手元に引き寄せてみると、3年間使って良い感じに味が出てきていたはずの鞄は真新しくなっていて、中身は新品の1年生の教科書とノート、筆記具でした。
「今日は、入学式ですか?」
居間に下りて、お母さんに恐る恐る聞いてみました。
「そうよみゆき、寝ぼけてるの?」
にわかには信じがたいその言葉を私がどう飲み込もうか考えている間に、お母さんは畳みかけるように言いました。
「今日からみゆきの高校生活が始まるのね。いいわね~、私も高校生に戻りたいわ」
通学途中、私はなんとか頭の中を整理しました。
カレンダー、時計、新聞、そしてテレビのニュースでも日付を確認した以上、お母さんのいたずらではありえない。
私は約2年と半年の時を遡って陵桜学園に入学した最初の日まで戻ってきたということです。
つまり、
私が(私の頭の中での)昨日、泉さんに言っていたあのボールにかけた願いがかなったということなのでしょう。
とても信じられる話ではありませんが、それ以上にこの不可解な現象を説明できる説もありませんでした。
それに、これは確かに私が願った通りの状況でした。
初めのうちから泉さんたちと仲良くなれれば、もっともっと親密になれるかもしれない。
そう思うと、期待で胸が膨らみました。
「つかささん、よろしかったら一緒に帰りませんか?」
入学式と最初のホームルームが終わったあと、まずはじめにつかささんと仲良くなろうと私は話しかけました。
「ふぇ?」
つかささんは怪訝そうな顔をしました。
その顔を見て私は自分の失態に気付きました。
「も、申し訳ありません!いきなり名前でお呼びするのは失礼でしたね」
「ううん、いいよ。え、えっと、た、高良…さん?だっけ?」
そう、私にとってはとても自然な慣れたことであっても、つかささんにとってみれば初めてなわけです。
つまり私たちが3年間かけて築いてきた関係を再び築かなければならない。
その時、何か私の心にとても恐ろしい影のようなものがさした気がしました。
結局、その日の会話は、つかささんから初対面の相手という緊張感と遠慮が感じられ、あたりさわりのないお話しかできませんでした。
いつもしていたような楽しいお話ができるようになるまでにはどれくらいかかるのでしょうか。
次の日の昼休み、私はつかささんと泉さんと一緒にお昼御飯を食べようと考えていました。
「つかささん、お昼をご一緒しませんか?」
「うん!いいよ」
つかささんは昨日よりもだいぶ打ち解けてくれたようで少しホッとしました。
「もうお一方、お誘いしたい人がいるのですがよろしいですか?」
「うん、もちろん。誰?」
私は泉さんの机に足を進めました。
目の前いる泉さんは、私のよく知っている泉さんと見た目はほとんど変わりませんでした。
でも、この泉さんには私の記憶がありません。
それを考えると、話しかけるのにとても勇気が必要でした。
「泉さん。よかったらお昼をご一緒しませんか?」
泉さんは驚いて顔をあげました。
なぜ自分が話しかけられたのかわからない、とその表情は語っていました。
「え、え~っと。高良さん?だったっけ?ごめん、私他の人と食べることになってるから」
「あ、そうですか。申し訳ございません」
「ううん、むしろこっちがごめんね。また誘ってね」
そういうと泉さんは他のクラスメイトの机へと向かっていきました。
断られると思っていなかった私は、呆然としていました。
つかささんが後ろから声をかけました。
「残念だったね。高良さん、あの子と仲良くなりたかったの?」
その後も私は何度も泉さんと仲良くなろうと試みました。
泉さんは私が初日に誘ったときに一緒だったクラスメイトと一緒にいることが多く、話しかけるチャンスが見つかりませんでした。
そのあと、学級委員のつながりでかがみさんとも仲良くなり、私はかがみさん、つかささんと3人で行動することが多くなりました。
ですが、一向に泉さんとはただのクラスメイトという関係のままでした。
ようやく泉さんと話すチャンスに恵まれたのは結局文化祭の準備期間でした。
私の担当の仕事が終わったので、つかささんと泉さんの担当分を手伝うことになったのです。
「高良さんありがとう、ホント助かったよ。こういうと失礼だけど、高良さんって意外と話しやすいよね」
「うん、高良さんは優しいし、すごく頼りになるんだよ!」
「私たちのグループのイメージでは高根の花だったからなぁ~、どうしても話しかけづらかったんだよ」
思い出すと『前回』の私がつかささんと泉さんと仲良くなり始めたのはちょうどこの時期からでした。
そう、このあとつかささんが喫茶店に行こうと提案して泉さんが私も誘ってくれたのでした。
今回は私の方から誘おうと思いました。
ようやく『今回』も泉さんと仲良くなるきっかけができたと思いました。
「ちょうど作業もきりのいいところですし、このあと一緒にお茶でもいかがでしょうか」
私の提案に申し訳なさそうに泉さんは首を振りました。
「ごめんね、今日は先約があってさ、また誘ってね」
そういって泉さんは仲のいいクラスメイトの方に歩いて行きました。
「残念だったね、高良さん…」
つかささんの言葉に生返事を返しながら私は全く別のことを考えていました。
このとき私は以前から感じていた懸念がはっきりとした形をもって実現していることを悟りました。
つかささんは入学式の日の帰り道に泉さんに外国人に絡まれているのを助けてもらって以来仲良くなったと言っていました。
『今回』は、その日、つかささんは私と2人帰りました。
つまり意図せず私が泉さんとつかささんの仲良くなるきっかけをなくしてしまった、ということになります。
バタフライ効果という言葉があります。
ある場所の蝶の羽ばたきが、遠く離れた場所での天候に影響を与えるという内容で、要するに、ほんの少しの行動の違いが最終的に大きな差を生みだすという説です。
私は、つかささんと泉さんの出会いの機会をなくしてしまったせいで、生まれるはずだった4人の人間関係を知らないうちに失くしてしまっていたのです。
自分がしたことの重大さに気づき、そして恐ろしくなりました。
もう泉さんは私たちとは別の人間関係を作作り上げている。
もう以前のような4人の関係を作ることはできない。
私はなぜかそんな確信を持っていました。
それでも私は現在の生活にもそれなりに満足していました。
つかささん、かがみさんとは3人でとても楽しい時間を過ごしていましたし、文化祭の準備も自分が体験した1年の文化祭の失敗を生かして、よりスムーズに進行していました。
文化祭は大きなトラブルもなく無事におわりました。
片付けもひと段落して、一人教室に荷物を取りに行くと、同じく荷物を取りに来た泉さんに会いました。
「あ、高良さん、お疲れー」
「泉さん、お疲れ様です」
「高良さん、今回ホントにすごかったよね?なんか手慣れてるって感じだったよ」
みなさんにとっては高校初めての文化祭でも、私にとってはもう3回体験したことなので、うまくできるのは当たり前のことでした。
そういえば、『前回』の1年生の文化祭は全員が全員経験不足で、とても成功とは言えないものでした。
「今回の文化祭はみんなの思い出になるね」
「思い出…」
「だって、最初の文化祭でこんなに成功したんだよ!きっと一生の思い出になるよ」
私は泉さんの言葉で、以前教室で4人で話したときのことを思い出していました。
「そういえば、もうすぐ文化祭だねー」
「そういえばそうね。今年は何をやるのかしら?」
「まだ決まってないよね~」
「今年は成功するといいですね」
「そだねー、最後の文化祭だもんね」
「確かにね~、そう言えば1年のときはあんま成功とはいえなかったよね…」
「そうね。私のクラスもトラブル続出だったわね。でも、思い返すといい思い出よ」
「そうですね。失敗の思い出も時が経つといいものですね」
あのときの私にとっては失敗の思い出もみなさんと共有する貴重な経験の一つでした。
文化祭だけじゃない。
修学旅行で、4人でいろんなところに回ったこと
運動会で泉さんは抜群の運動能力を発揮し、つかささんと、かがみさんは失敗して泉さんにからかわれながらもとても楽しそうだったこと
お祭りに出かけて、かがみさんが金魚を捕まえてうれしそうだったこと、つかささんにブルーハワイの由来を教えていただいたこと
夏に海に出かけて行って海の家で楽しく食事をしたこと
他にも、他にも…思い出はとめどなくあふれてきました。
そんなありふれた、それでいて唯一の私たち4人の素晴らしい思い出は、永遠に失われたのです。
私一人の中にその思い出を持っていても全く意味がないのです。
4人で共有しているからこそ、意味のある思い出だったのです。
そしてそういった思い出の上に私たちの関係は成り立っていたのだと今更ながらに気付かされました。
「ちょ、ちょっと、高良さん?」
気がついたら私は涙を流していました。
「すみません。でもようやく大事なものに気付いたんです」
「ごめん、私変なこと言った」
「いえ、そうじゃありません」
「どうしたの?私でよかったら話聞くよ」
「ありがとうございます。でも…もう手遅れなんです」
「手遅れなんてないよ」
瞬間、泉さんが満面の笑みを浮かべました。
「みゆきさんがそれに気づいてくれたなら、もっともっと私たち仲良くなれるよ」
泉さん?
私が泉さんの異変を感じると同時に、とてもまぶしい光を感じました。
例えるなら、立ちくらみに似たような…でも不快感はなく、とても優しい光のように感じました。
足の力が抜け、倒れる!と思った瞬間、私の意識はなくなりました。
「みゆき、こんなところで寝てたら風邪ひくわよ」
気がつくと私は机に突っ伏して寝ていたようでした。
「お、お母さん。ここは、私の部屋ですか?」
「あらあら、珍しい、寝ぼけてるの?」
「私、ずいぶん長くねていましたか?」
「みゆきが部屋に戻ってから30分くらいしか経ってないわよ」
机の上のデジタル時計を確認すると、私が噂のスーパーボールに願いごとをした日でした。
7個のスーパーボールはいつの間にかどこかになくなっていました。
夢…だったのでしょうか。
それにしてはあまりにもリアルで、長い夢でした。
「長い夢を見ていました。長くて、とても悲しい夢だった気がします」
「そうなの?でもみゆき今とてもすっきりした顔をしているわよ」
次の日、夢の内容はほとんど思い出せなくなっていました。
思い出せるのは、夢の中で、とても長い時間を過ごしたこと。
そして、悲しかったけれどとても大事なことを気づかせてくれたこと。
次の日、私はいつもより晴れ晴れとした気持ちで学校に向かいました。
学校に着くと、すでに泉さんの机の周りに、かがみさんとつかささんが集まっています.
束の間の夢が私に教えてくれたこと。
過去は変えることはできない。
できたとしても、今存在しているような素敵な関係は築けない。
なぜなら私たちの関係の土台には一緒に経験してきた山ほどの思い出があるのだから。
私はもう一度考えました。
もし願い事がかなうなら…
そして願いました。
これから先…ずっと、ずっと
「おはようー、みゆきさん」
「おはよ~、ゆきちゃん」
「おはよう、みゆき」
私を笑顔で迎えてくれるこの友人たちと
「おはようございます。みなさん」
もっともっと仲良く最高の関係を作り出せますように…と。
終
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- とても深い話ですね。作品への愛を感じます。 -- 名無しさん (2019-07-29 03:56:47)
- ( ;∀;)イイハナシダナ- -- 名無しさん (2017-05-17 13:06:03)
- 深い話ですね!面白かったです! -- チャムチロ (2014-03-30 21:39:45)
- とても心の温まる良いお話でした。 過去の過ちを悔やむよりも、 &br()今を大切に過ごそう、というみゆきの考えにグッと惹かれるものが &br()ありました。 -- Tsar Bomba (2009-09-16 22:17:37)
- みゆきさん運良すぎ!?! とてもいい話でした。こなた、かがみ、つかさ、みゆき、の四人は やっぱり原作のような関係で最高の思い出を築いている、そう再確認できました。GJ -- CHESS D7 (2009-09-16 22:05:50)
2019-07-29T03:56:47+09:00
1564340207
-
感動系統
https://w.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/271.html
<p><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/455.html" title="作品感想ページ(感動系統) (12m)">作品感想ページ(感動系統)</a></p>
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" width="856"><tbody><tr><th><span style="font-weight:400;">タイトル</span></th>
<th><span style="font-weight:400;">主要人物</span></th>
<th><span style="font-weight:400;">補足</span></th>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/70.html" title="ID:vtqLC2YnO="><font color="#333333">ID:vtqLC2YnO=ID:DaIr8zezO氏:タイトル不明</font></a></td>
<td>こなた、かがみ、つかさ、かなた</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/71.html" title="ID:yUMsJMXRO氏:泉こなたの憂鬱 (2s)"><font color="#333333">ID:yUMsJMXRO氏:泉こなたの憂鬱</font></a></td>
<td>かがみ、こなた、つかさ、みゆき</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/75.html" title="ID:w6yrVqDEO氏:タイトル不明 (1s)"><font color="#333333">ID:w6yrVqDEO氏:タイトル不明</font></a></td>
<td>つかさ、男</td>
<td>死亡系?</td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/186.html" title="ID:nYDsqt2T0氏:黒井先生妄想ネタ (1s)"><font color="#333333">ID:nYDsqt2T0氏:黒井先生妄想ネタ</font></a></td>
<td>男、ななこ、こなた</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/102.html" title="ID:8aQt3JyZ0氏:タイトル不明2 (2s)"><font color="#333333">ID:8aQt3JyZ0氏:タイトル不明2</font></a></td>
<td>かがみ、つかさ、こなた</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/210.html" title="ID:RMCgIkVt0氏:AOK団 (1s)"><font color="#333333">ID:RMCgIkVt0氏:AOK団</font></a></td>
<td>かがみ、こなた</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/344.html" title="ID:/FCrF4+ZO氏:Slump Beat (1s)"><font color="#333333">ID:/FCrF4+ZO氏:Slump
Beat</font></a></td>
<td>そうじろう、こなた</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/356.html" title="ID:y5jj+/FS0氏:泉家の休日 (1s)"><font color="#333333">ID:y5jj+/FS0氏:泉家の休日</font></a></td>
<td>そうじろう、こなた、ゆたか</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/419.html" title="ID:Xcdno/tF0:忘れ物~ふれんず テイクふぁ~すと~"><font color="#333333">ID:Xcdno/tF0:忘れ物~ふれんず テイクふぁ~すと~</font></a></td>
<td>つかさ、かがみ、こなた</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/420.html" title="ID:GcmNgHob0氏:かがみの長い一日 (43m)"><font color="#333333">ID:GcmNgHob0氏:かがみの長い一日</font></a></td>
<td>かがみ、こなた</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/175.html" title="ID:PR3Bu7Li0氏:白らっきー☆ちゃんねる (1s)"><font color="#333333">ID:PR3Bu7Li0氏:白らっきー☆ちゃんねる</font></a></td>
<td>白石、あきら</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/322.html" title="ID:pzz12Qt90氏:日下部みさおの事情 (3m)"><font color="#333333">ID:pzz12Qt90氏:日下部みさおの事情</font></a></td>
<td>みさお、あやの、パティ</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/473.html"><font color="#333333">ID:AW3gkC4O0氏:あきらとクッキー</font></a></td>
<td>あきら、つかさ</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/491.html" title="ID:WZvZBIkK0氏:初恋~みさおの場合 (4h)"><font color="#333333">ID:WZvZBIkK0氏:初恋~みさおの場合</font></a></td>
<td>みさお、あやの、かがみ、こなた</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/511.html" title="ID:nR74Vo2U0氏:ランニング (42m)"><font color="#333333">ID:nR74Vo2U0氏:ランニング</font></a></td>
<td>みさお、陸上部の先輩(男)</td>
<td>↑の続編</td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/536.html" title="ID:Vil2YYGb0氏:ぼーいふれんど (5m)"><font color="#333333">ID:Vil2YYGb0氏:ぼーいふれんど</font></a></td>
<td>みさお、陸上部の後輩</td>
<td>↑の続編</td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/338.html" title="ID:CATH0djK0氏:らき☆すたのもう一つの最終回 (26d)"><font color="#333333">ID:CATH0djK0氏:らき☆すたのもう一つの最終回</font></a></td>
<td>かがみ、こなた</td>
<td>他者による続き</td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/585.html" title="ID:M2aXj7+f0氏:いつも側に… (1h)"><font color="#333333">ID:M2aXj7+f0氏:いつも側に…</font></a></td>
<td>かがみ、こなた</td>
<td> </td>
</tr><tr><td>
<p><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/635.html" title="二月の雪化粧 (1m)"><font color="#333333">二月の雪化粧</font></a></p>
</td>
<td>みさお</td>
<td>前半は若干の鬱展開</td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/642.html" title="ID:KRByt0Yp0氏:雨のあと (24m)"><font color="#333333">ID:KRByt0Yp0氏:雨のあと</font></a></td>
<td>みなみ、ゆたか</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/661.html" title="ID:utno0KXZ0氏:同い年のお姉ちゃん (1m)"><font color="#333333">ID:utno0KXZ0氏:同い年のお姉ちゃん</font></a></td>
<td>つかさ、かがみ</td>
<td>姉妹愛</td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/662.html" title="ID:cSTcoXnyO氏:RAKI NOTE (2m)"><font color="#333333">ID:cSTcoXnyO氏:RAKI
NOTE</font></a></td>
<td>こなた</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/671.html" title="ID:YINgNHNz0氏:雪降る今日は… (30s)"><font color="#333333">ID:YINgNHNz0氏:雪降る今日は…</font></a></td>
<td>こなた、かがみ、みさお、つかさ</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/804.html" title="彼方より、此方のしあわせを願うあなたへ (36s)"><font color="#333333">彼方より、此方のしあわせを願うあなたへ</font></a></td>
<td>こなた、かなた、そうじろう</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/709.html" title="ID:GO6OJPMo氏:雪色の輝きの中に (1m)"><font color="#333333">ID:GO6OJPMo氏:雪色の輝きの中に</font></a></td>
<td>こなた、ゆたか、その他</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/714.html" title="ID:fCQCsIY0氏:Goodbye with our BEST SMILE (31s)"><font color="#333333">ID:fCQCsIY0氏:Goodbye with our BEST SMILE</font></a></td>
<td>こなた、かがみ、他</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/771.html" title="ID:G2cdPTco氏:そこにいた彼方 (1s)"><font color="#333333">ID:G2cdPTco氏:そこにいた彼方</font></a></td>
<td>こなた、かなた</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/819.html" title="ID:Hl75ewKe0氏:うそつきの一日 (11h)"><font color="#333333">ID:Hl75ewKe0氏:うそつきの一日</font></a></td>
<td>こなた、かがみ</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/844.html" title="ID:kW4exIDO氏:さようなら Best Friends (28m)"><font color="#333333">ID:kW4exIDO氏:さようなら Best Friends</font></a></td>
<td> こなた、かがみ、かなた</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/935.html" title="ID:Ny/B1sAO氏:田村ひよりの溜息 (3s)"><font color="#333333">ID:Ny/B1sAO氏:田村ひよりの溜息</font></a></td>
<td>ひより</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/741.html" title="ID:lQYV2Mg0氏:時をかける青い髪の少女 (2m)"><font color="#333333">ID:lQYV2Mg0氏:時をかける青い髪の少女</font></a></td>
<td>こなた、かがみ、つかさ</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1056.html" title="ID:9vDkzADO氏:家族の一員 (6s)"><font color="#333333">ID:9vDkzADO氏:家族の一員</font></a></td>
<td>こなた、柊姉妹、そうじろう</td>
<td>パラレル</td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1080.html" title="ID:XojNX4o0氏:A memory blackout (5s)"><font color="#333333">ID:XojNX4o0氏:A
memory blackout</font></a></td>
<td>かがみ、つかさ</td>
<td>記憶喪失</td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1356.html" title="命の輪 (32s)"><font color="#333333">命の輪</font></a></td>
<td>こなた達四人、こなたの旦那他</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1271.html" title="ID:sKmTinso氏:聖夜の奇跡 (3s)"><font color="#333333">ID:sKmTinso氏:聖夜の奇跡</font></a></td>
<td>こなた達四人</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1295.html" title="ID:.ABGjLco氏:クリスマス・プレゼント (41s)"><font color="#333333">ID:.ABGjLco氏:クリスマス・プレゼント</font></a></td>
<td>こなた達四人、泉夫妻</td>
<td>↑の続編</td>
</tr><tr><td><a href="../../luckystar-ss/pages/1302.html" title="ID:qwqf32.0氏:雨宿り (6m)"><font color="#333333">ID:qwqf32.0氏:雨宿り</font></a></td>
<td>かがみ、そうじろう</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="../../luckystar-ss/pages/1324.html" title="ID:V3ksVRc0氏:残影 (20s)"><font color="#333333">ID:V3ksVRc0氏:残影</font></a></td>
<td>こなた達四人、そうじろう</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1374.html"><font color="#333333">ID:oH6wpqQ0氏:カモメの飛んだ空</font></a></td>
<td>みゆき、みなみ親子他</td>
<td>オリジナルキャラクターとして娘も登場</td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1381.html"><font color="#333333">ID:bz0WGlY0氏:道草</font></a></td>
<td>かがみ、つかさ他</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1633.html" title="ID:ly1Xbwo0氏:道草 つかさの忘れ物 (2s)"><font color="#333333">ID:ly1Xbwo0氏:道草 つかさの忘れ物</font></a></td>
<td>こなた、つかさ他</td>
<td>↑の続編</td>
</tr><tr><td><a href="../../luckystar-ss/pages/1413.html" title="ID:nd1fPHA0氏:祈り (1h)"><font color="#333333">ID:nd1fPHA0氏:祈り</font></a></td>
<td>みゆき、つかさ他</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1494.html"><font color="#333333">ID:P8o2Apc0氏:妹離れ</font></a></td>
<td>かがみ、つかさ他</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1498.html"><font color="#333333">ID:AuHZhxI0氏:夏</font></a></td>
<td>みゆき他</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1515.html"><font color="#333333">ID:A8kEFiM0氏:この花をあなたに</font></a></td>
<td>そうじろう、こなた、ゆたか</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1555.html"><font color="#333333">ID:YhhBapTN氏:選択</font></a></td>
<td>かがみ、つかさ他</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1593.html"><font color="#333333">ID:hgTk2rc0氏:つかさのネタノート</font></a></td>
<td>ひより 他</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1591.html"><font color="#333333">ID:FlLeMTo0氏:卒業</font></a></td>
<td>つかさ 他</td>
<td>オリジナルキャラクター登場</td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1638.html"><font color="#333333">ID:sSqYstI0氏:約束</font></a></td>
<td>かがみ 他</td>
<td>オリジナルキャラクター登場</td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1639.html" title="ID:ugiLDNI0氏:その日娘は (14m)"><font color="#333333">ID:ugiLDNI0氏:その日娘は</font></a></td>
<td>そうじろう、こなた他</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1640.html" title="ID:IsnPOI.0 氏:大人になる (8m)"><font color="#333333">ID:IsnPOI.0
氏:大人になる</font></a></td>
<td>かがみ、つかさ他</td>
<td> </td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1667.html" title="ID:FIRHoZs0氏:赤蜻蛉(ページ1) (3m)"><font color="#333333">ID:FIRHoZs0氏:赤蜻蛉</font></a></td>
<td>こなた、かがみ、そうじろう他</td>
<td> </td>
</tr><tr><td>
<div>
<p><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1672.html"><font color="#333333">ID:99QIxS2o氏:お祭りの、そのあとは</font></a></p>
</div>
</td>
<td>かがみ、つかさ他</td>
<td>お題『かがみとつかさ』『子供の頃』で作成</td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1784.html"><font color="#333333">つかさの旅</font></a></td>
<td>つかさ他</td>
<td>オリキャラあり (恋愛要素あり)</td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1696.html" title="ID:j+FU2ysS0氏:時を廻って(ページ1) (23s)"><font color="#333333">ID:j+FU2ysS0氏:時を廻って</font></a></td>
<td>こなた、つかさ、かがみ、かなた他</td>
<td>お題『時計』で作成</td>
</tr><tr><td>
<div><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1723.html" title="ID:lcVe7V3T0氏:いのり姉さん (2s)"><font color="#333333">ID:lcVe7V3T0氏:いのり姉さん</font></a></div>
</td>
<td>かがみ、つかさ、いのり他</td>
<td>お題『ポリエステル』 オリキャラ登場</td>
</tr><tr><td><a href="//www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1750.html" title="ID:2LkPp8nI0氏:私とこなた(ページ1) (2s)"><font color="#333333">ID:2LkPp8nI0氏:私とこなた</font></a></td>
<td>みさお、こなた他</td>
<td> </td>
</tr><tr><td>
<h2 style="margin:0px;padding:0px;font-size:24.3443px;color:rgb(102,102,102);font-family:Arial, Verdana, Helvetica, sans-serif;">
<span style="font-size:14px;"><span class="pagename"><a href="https://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1802.html" style="color:rgb(73,127,177);" title="IDtkcstJKX0氏:母の夢の戻り道 (4s)">IDtkcstJKX0氏:母の夢の戻り道</a></span></span></h2>
</td>
<td>こなた他</td>
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</tr></tbody></table>
2018-12-08T16:17:18+09:00
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IDtkcstJKX0氏:母の夢の戻り道
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―――背はわたしに似ず、性格はそう君に似ませんように。
わたしを抱いたひとが、そんなことを言う。
そこには、とてもやさしい、親愛のこもった微笑の表情が浮かんでいた。
「――……?」
ベッドのうえで息を漏らす。
わたしをのぞき込んでいた女性の顔から、白い天井へと、いつ、視界が変わったのか。
もう一度、目を閉じてみても。夢に、立ち戻るなんてことはなく。
白だか青だか緑だか、なんともいえない色の粒子がまざる、暗い世界が広がるだけ。
母親の夢をみていたのか、と。自分を振り返った。
夢に出てきたのは、わたしに似ているひと。
おかあさん、やっぱり若いひとだなあ。おとうさんには、苦労させられたんだなあ。
と、ニヤニヤするいっぽうで、珍しいなとも思った。
さっきまでみていた、夢の内容。それを、目を開けたあとでも、鮮明に覚えている。
「……まあ、あれだよね。あの父(おや)にしてこの娘あり」
夢の内容を反芻して。自分と父を、省みてみる。
わたしの将来を想い、しあわせそうに微笑むおかあさん。
だけれど、現実に、おとうさんが施した情操教育の結果。できあがったわたしはこんなんで……。
よくよく考えてみると、おかあさんへの良心が、痛まないでも、ないような。しないような……?
苦笑いとともに、ふう。と息をついた。
……線香あげておこうか。
ベッドから足を降ろしながら、わたしはひとりごちた。
リビングにて朝食。
おかあさんは、どんな娘が欲しかったんだろう。そんなことを、考えてみる。
はむはむとトーストをかじる対面のゆーちゃんに目を移しつつ。
もしも、わたしがゆーちゃんのようであったなら。そんな、ifがあったなら。
病弱は、わたしにとっては萌え要素だけれど。現実に、母の立場から見た病弱の子、なんてのは。
そんなふうに茶化していいものではないだろうと察することは容易いもので。
だから、おかあさんの理想にしっくりくる娘像が、なかなか、できあがらない。
それはゆーちゃんであっても。
――――わたしで、あっても。
「……うん、家系かな」
ひとことで言い表せる、性格・外見のことだけではなく、おかあさんと一緒に、大過なく日々を送れそうな娘像。
彼女が望んだ、娘像は。残念ながら、泉家の血縁からできあがる可能性は低いようだ。
ゆーちゃんが、わたしの視線に気づく。なんでもない、と食の進みを再開する。
テレビの天気予報が、今日は雨だと告げていた。
窓から見える空は、いまは、快晴のかたちをしているのに。
「人格改造セミナーに行こうと思うんだけど、どう思う?」
かがみとつかさと合流した通学の道中。そんな言葉を放り投げる。
「なんだそれ」
「いきなりどうしたの? 昨日そんなテレビやってたっけ?」
それぞれに、ふたりが言葉を返してくる。
「わたしもそろそろ丸くならなきゃなって、突然思ったんだ」
「不良を止めようとするヤンキーか」
「いやさ、今日の朝、ふいに胸に衝動がね?」
肩をすくめてみるわたしに、またばかばかしいことを、と。
今日もかがみは、ジト目かわいい。
「でも、ほんとに簡単に変われたら、いいよね」
険しい視線を向けるかがみに対して。つかさの、和やかな表情。
そのなにげないひとことが、胸をついた。
すくなくとも今日のわたしは、つかさのことばをそう受け取るきぶん。
むう、とうなって。わたしはそれに、すぐには言葉を返さない。
変わりたい。それはつまり、現在の自分を否定してるってことで。
いつもより、すこし口数が少なくて。
でも、黙り込む気まずさがあるというほどでもない、穏やかな登校の途。
快晴の空の地平に、ぶ厚い雲が見える。
雨の予兆が、なんだか、いちいち、気に障る。
今日の自分は、どこか集中力散漫で。
ちょっと、神経質になってるかもしれないと、感じた。
たまたま見た、おかあさんの夢が。意外と長く、わたしの心を占め続ける。
―――なんだか、今日はそんな日。
みっつ、授業を終えて。みっつめの、休み時間。
昼休みまで、あとひとつ。朝と比べて、空が暗くなっている。
朝にはずっと向こうにあった雲が、いつしかこちらにやってきて。
わたしたちの上で、空を鎖じている。
「こんな天気の日はテンション下がるねえ」
休み時間の雑談。みゆきさんに話しを振る。そうしたら、
「……そうですね。でも」
「でも?」
「でも、今日はとくに、元気がないみたいですね?」
みゆきさんはわたしをみつめて、そう問いかけた。
口もとには、微笑みの色が浮かんでいる。
わたしを深刻に心配しているというのではなく、たまにはこんな気分になる日もあるよねと、共感を示す色。
きっとかがみだったら、いつものアンタの脳天気はどうしたんだと意外に思うのだろうに。
みゆきさんは、わたしのそんなテンションの上下を、当然のように受け止めてくれて。
「そう? そんなことは――あるかな」
だからわたしも、当然のようにうなずいてしまった。
元気がないことを肯定したわたしに、彼女は言う。
「その理由を、教えてください」
え、と思って、みゆきさんをまじまじとみる。
理由を聞いてもいいですか? と、彼女らしい、謙虚な会話に繋がると思っていた。
きっと、わたしが同じ立場でも、そうやってワンクッション置くと思う。
そうではなくて、教えてほしいと断定する返事が来るとは、思っていなかった。
他人の心に、そうやって強く踏み込んでくる彼女が、ちょっと意外で。
声をつぐんでしまったわたしに、みゆきさんは、まっすぐ視線を向ける。
――――そこには、とてもやさしい、親愛のこもった微笑の表情が浮かんでいた。
「みゆきさんになりたいから」
口走ったその言葉が彼女に浸透するまでに、少しの間が空く。
口走ったその言葉が、わたしに、浸透するまでに、少しの間が空く。
わたしの顔面に、赤い熱が昇って。
背中に、イヤな冷たい汗が浮かぶ。
「い、いやいや、そのね」
こんなわけのわからないことを口走るわたしの精神状態を大げさにとられたくなくて。
そもそもなんでこんなことを言い出したのかも自分では不可解で。
だから、びっくりしたように目を見開いて、そんな疑問の表情を浮かべたあなたに、わたしが言えることはわたしの中にはなくて。
授業のチャイムが鳴った。瞬間で、沈静されるよう。みゆきさんだけに固定された視界が広がるよう。
「あー……」
大きく、息をついて、わたしはみゆきさんからきびすを返した。「あとで、話すかも」。
そう言い置いて、彼女のそばから去る。ああ、ゴングに、救われたな。
昼休みにはつかさたちが来るから。ふたりで真剣に話し合うなんてことは出来なくて。
というかべつにシリアスな空気なんてものは、いつもあるわけがなくて。
たまたま気持ちがアガっていかないだけの日常のひとつが、私のローテンションなどおかまいなしに過ぎていく。
ヘンなことを口走ったことも。たかが休み時間の談笑の中のひとつまみにもならないできごとでしか、なくなっていく。
そう、思うようにしながら。
玄関に立つ。グラウンドを雨が叩く放課後。
運動部のひとたちが、廊下や空き教室でそれぞれなにかのトレーニングをはじめようとするざわめきが、いつもより放課後の校舎を満たしている。
けれど、うるさいはずのそれは、雨の雰囲気のせいか、それほどおおきなかたまりだとも思えなくて。
生徒たちのにぎやかさは、背中越しに遠く。私は立ちほうけている。
傘を持っていない、ということはなかった。鞄に入れっぱなしなだけの折りたたみ傘。
それでも、雨が降る外に足を踏み出すのが、なんでか、おっくうで。
いっしょに帰るはずのつかさとかがみには、なんとなく嘘をついた。先生に呼ばれているから、雨宿りがてらわざと遅れて帰ると。
身体の弱いゆーちゃんの身内として、学校側から簡単な確認事項があるんだってさー。なんて。
「泉さん」
私をみつけたみゆきさんが、笑いかける。待ち合わせの約束なんて、していないけれど。
みゆきさんも、きっと、嘘をついた。別のクラスの委員のひとたちと、ちょっと集まって話すことが今日、あるんです。なんて。
ああ、帰りたくないのは。
もうすこしだけ、あなたとふたりで居たかったからか。
特に部活や委員の用事が無くったって。放課後にだらだらおしゃべりを続けるグループなんて珍しくもない。
だからてくてくと、ふたりで話せるてきとーな場処を探して歩いたって、べつにうしろめたくもなんともなくて。
校舎の隅っこ。壁を背に腰をおろす。階段の踊り場のひとつにたむろして、ふたりきり。
「なんで今日、わたしに元気がないのかは、わからないんだ」
ええ。と隣で頷いてくれる声。
ただ、話を聞いてくれようとする、やさしい声。
「死んだお母さんの夢を見たんだけどね」
わたしが放つには、なかなかシリアスなパワーワード。
ちょっとだけ、隣の彼女はびっくりしただろうか。
「でも、そもそもお母さんを恋しいだなんて言う気持ちを抱いたことはないんだよね」
物心つく前からお父さんしかいなかったわけだし。
「――それでも母親の夢というやつは、そんなわたしすらも浮かなくさせる何かがあるんだろーねー」
そんなふうに呆れて。天井を仰いで、笑ってみると。
みゆきさんはわたしに視線を向けて。
「――それはお母さんを想う、泉さんのやさしさですね」
「ええ……? そういうリアクションなの?」
微笑みかけてくるみゆきさんの視線が面映ゆい。
というかなにがどうなってそんな感想に行き着いたのか。
「家族を失う、だなんていうことに、軽々しく言及できないですけれど」
「いやいやわたしだって失ってない失ってない」
深刻に考えてくれるなと、ぱたぱたと手を振って。
そんなふうに考えて欲しくなかったから、話したくなかったのに。
それでもどうして、わたしはみゆきさんに話を聞いてもらいたかったんだろう?
「……じゃあ、聞いても、いいですか?」
「う、うん、なんでもどうぞ」
すこしだけ、もじもじとわくわくが入り交じったように。おそるおそると。わたしの内面を知りたがることを、申し訳なさそうに。
そんな表情すらもかわいいこのひとはホントなんなんだろうと、頭の片隅でぼんやり思いながら返事をする。
「――その夢は、どんな夢だったんですか?」
「どんなって」
どんなのって、言われても。
「おかあさんが、赤ちゃんのわたしを抱っこしてて、なんか、話しかけてる感じの夢。
しあわせに笑ってる感じの、いい夢だった、と思う」
「やっぱり、やさしい夢じゃないですか」
手を合わせて、うれしそうに。
ああ、だからそういうリアクション……。
けれどそう思うのは、みゆきさんの方こそが、やさしいひとだからでしかないと思うよ?
そう、わたしなんかとはちがう、やさしくてやわらかくてまっすぐで。
――背はわたしに似ず、性格はそう君に似ないことが――
ああ。
だから、わたしは。
「みゆきさんに、なってみたいなあ」
思わず口走ったのではなく、自分の意思で、つぶやく。
彼女も今度はおどろかないで、ゆっくり、そして深刻すぎずに受け止めてくれるのがわかって、とてもあたたかい気持ちになる。
「――おかあさんの理想は、きっとみゆきさんのようなひとだっただろうから」
おかあさんの理想は、きっとみゆきさんのようなひとだったんじゃないかって。教室に着いた朝から、ずっと考えてた。
べつに、自分のことを嫌いになったとか、こんなふうに育ってしまって、母親に申し訳ないと思っているとか、そういうことじゃない。
ただ、みゆきさんが、おかあさんの娘だったなら。そんな想像が、今日はずっとぽわぽわわいておさまらないだけの話しで。
なんだか今日は、そんな不安定な気分だったんだと、わたしは自嘲する。
そんなわたしに向かって、みゆきさんは。
「わたしは、泉さんになりたいって、いつも思っているのに」
ふしぎな気持ちですね。なんて、彼女は続ける。
「なんでまた、わたしなんか」
「泉さんだって、なんでまた、わたしなんか、ですよ?」
困ったように、首をかしげて。
「わたしも、泉さんに、なりたいです」
けれど彼女は、そう、断言するから始末が悪い。
「明るくて、やさしくて、主体的に行動する意志の強さがあって」
「待って待って待ってほめるのやめて」
恥ずかしいし割と見当違いな過大評価だし。
「だって。泉さんが私になりたいというのは、わたしをうらやんでいるのではなくて、おかあさんを想うやさしさから来ているだけですけれど」
だけ、という言い方は失礼だったでしょうか、と前置きしながらも。そっと自分の胸に手を置いて、瞑目しながら。
「わたしが泉さんになりたい、と思うのは、わたしが泉さんをうらやんで、尊敬しているからです」
顔を上げて、その視線と言葉は、わたしの心の真ん中を、まっすぐに打ち抜いて。
「そんなふうに尊敬される泉さんに育ったことを、お母様が喜ばないはずがないと、わたしは思います」
だなんて。わたしが尊敬するみゆきさんは微笑みかけるものだから。
こみ上げてくる何かに、涙腺を刺激してくる何かに、耐え切れそうになかったから。
おかあさんに甘えるように、みゆきさんの袖をぎゅっとつかんで彼女を引きよせておでこをあずけて。
ちょっとだけ、彼女にわたしの顔を見られないようにしたんだ。
わたしの髪を撫でるてのひらは、夢のなかのおかあさんのように、とってもあたたかった。
「……いやはやお恥ずかしいところを」
「いえいえ、ぜんぜん」
そんなことを言いあいながら、雨上がりの虹のしたを歩く。
べちょべちょした地面なんかどうでもいいくらいに、青空は華やいでいるようにみえて。
それだけ、おかあさんの夢でダウンしていた精神が立ち直って、視界が広がっているのだろう。
晴れた空のしたを、ふたりで歩く。
胸のうちも、すっかり晴れたような気分。帰ったら、何か、家事をしたくなる。
「家族の話をしたせいか、帰ったら、何か、家事をしたくなってきました」
おんなじことを考えていた彼女の言葉に、苦笑が浮かぶ。
「みゆきさんはもうお母さんより料理上手いんだっけ」
「まあ……上手というか、わたしが担当しているというか」
自分の母に向かってヘタと言い切らないあたりの育ちの良さが微笑ましい。
「お母さんも見た目はみゆきさんとそっくりなのに、中身ぜんぜんちがうよねえ」
「はい、――泉さんのところと、同じですね」
母の話をきっかけに、すこしだけ、わたしたちの距離が変わった放課後のひととき。
中身は、ちがうけれど。あなたの姿と父親の性格はしっかり受け継いで、ちゃんと育っているよ。
笑いかける彼女に、わたしも笑う。
――そうだね、おんなじだねえ――
あなたになりたいわたしとわたしになりたいあなたと。
すでにおなじふたりで、母の夢の戻り道を歩いた、ある雨の日のこと。
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