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「暇を持て余した神々の遊び」(2015/02/14 (土) 18:03:49) の最新版変更点
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*暇を持て余した神々の遊び ◆yZJRtWQFk.
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『聞こえるか? エンリケだ。これから第二回定時放送を始める』
二度目の定時放送を、早苗達はF-2の市街地にある民家の中で迎えた。
『皆が戻ってくるまで建物の中に身を隠そう』。その提案をしたのは海東だ。
なるべくここから離れるなという権兵衛の指示に反する事になるが、今ここには足に怪我を負った子供もいる。
この少年(名をムラクモというらしい)の応急処置はひとまず済んだが、まだ暫くは安静にさせてやらねばならない。
その為にも、仲間達が戻ってくるまでは少しでも安全な場所で彼を休ませた方がいい。そんな至極真っ当な意見だった。
早苗も今はとりあえず少年の安全を確保したい気持ちでいた為、彼の提案にすぐさま賛成した。
そうして三人は近くの適当な民家の寝室を借り、暫しの休息を取る事にしたのだった。
『―――次の放送はこの俺が担当する。それまで精々生きててくれ』
ベネットと名乗る男の声を最後に放送は途切れた。
「……終わり、ですか。どうやら皆様方はご無事のようですね」
見張りの為に窓際に立っていた海東は、ニコッといつもの笑みを浮かべながら言った。
早苗達が今ここで帰りを待つ者達の名前は、幸い発表された死亡者リストの中には含まれていなかった。
「…………聖さん……」
しかし海東の予想に反して、早苗から喜びの声が上がる事はなかった。
ベッドの横に置いた小さな椅子に座り、どこか哀しげに顔を伏せたままの早苗。
放送が始まるまでは騒々しい程元気に場を和ませていたというのに、今では一変して表情を曇らせている。
「早苗さん、もしやお知り合いだったのですか?」
「……私の友人でした」
「そうでしたか……申し訳御座いません、このような事をお聞きして」
「いえ、海東さんは悪くないですよ」
自分のよく知る誰かが、『死亡者』として名前を呼ばれる。
その度に早苗の心はチクチクと痛み続けていたのだが、今回の放送で受けたダメージは今まで以上に大きかったようだ。
趣味を通じて交流を深めた仲間を失ったショックは、単なる顔見知りを亡くした時とは比べ物にならない。
「お気持ちはお察しいたします。私も仮面ライダーですから、時には戦いの中で仲間を失う事もありました」
海東はゆっくりと早苗の元に歩み寄ると、彼女の白く細い肩にポンと手を置いた。
その手は大きく温かく、傷ついた心の痛みがほんの少し和らいだような気がした。
「しかし、落ち込んでいてはいけません。ご友人の為にも、今は生きてここから脱出する事に専念すべきです。
貴女にはきっとやるべき事があります。涙を流すのは全てが終わってからでも遅くありませんよ」
「…………そう……ですよね」
早苗は一息だけ深呼吸すると、自らの両頬をぱしぱし叩いて渇を入れた。
わかっている、この仮面ライダーの言う通りだ。今はまだ悲しみに暮れている場合ではない。
死んでしまった人達を弔うのは、無事に幻想郷に帰ってからだ。
決意を固めた早苗は、椅子からすっくと立ち上がる。
「海東さん、顔に似合わずすごくいい事おっしゃいますね! おかげで元気が出てきました!」
「顔……? いえ、お役に立てて光栄です。やはりそうして元気に笑ってる方が貴女らしい」
「みんなで力を合わせて、必ずここから脱出しましょう!!」
なんて頼り甲斐のある人なのだろう。やはりこんな風に他人を思いやれる人でないと正義の味方にはなれないのだ。
そんな事を思いながら、早苗は感謝と尊敬の気持ちを込めて深々とお辞儀をする。
そして頭を上げて天使のような笑顔を見せると、部屋の窓際まで駆けていった。
窓から差し込む昼間の日差しの中で、そっと目を伏せ、天に向かって祈りを捧げ始める。
―――聖さん。そして星さんも。
―――皆さんの事、皆さんと協力してコスプレした時の事、私は一生忘れません。
―――ですから、今はどうか待っていて下さい。
―――幻想郷に帰ったら、聖さんがお好きだった魔法少女リラメル☆鈴木のコスをお供えします!
……友の為に純真な祈りを捧げる少女の背後で、海東はニヤリと笑みを浮かべる。
正義の味方にはとても出来ぬ、邪悪めいた笑みを。
「早苗さん、私は少しの間ここを離れます」
祈りを終えた早苗が椅子に座り直そうとすると、海東は唐突に話を切り出した。
「もこみちが倒れたようですし、そろそろ皆様方が戻ってくるかもしれません。ですから彼らと別れた場所に行ってみようかと思いまして」
「あ、じゃあ私も!」
早苗はいそいそと出発の準備を始めようとするが、海東は手で遮りそれを制止する。
「……私一人で十分です。暫くしたら戻りますので、貴女はここで彼の傍についていてあげて下さい」
そう言って海東はベッドの方向へ目配せした。
ベッドに座るムラクモは、権兵衛の考察メモを無言で読み耽っている。
眉間に皺を寄せて真剣に文書に目を通すその姿からは、この年頃の少年にしては妙に厳かな雰囲気が漂っていた。
確かに怪我した少年を一人残していくわけにはいかない。無暗に連れ回すのも傷に障るだろう。
「わかりました。でも、くれぐれもお気をつけて下さいね」
「ええ。叫べば声の届く距離ですから、何かありましたらすぐにお呼び下さい。よろしくお願いいたします」
海東は斜め45度の一礼をすると、自分のデイパックを背負って部屋から出て行った。
(海東さん……)
早苗は思った。きっと海東は自分達を気遣って自ら危険な役を買って出てくれたのだと。
それは正義の味方である仮面ライダーとして当然の責務かもしれないが、それでも感謝せずにはいられない。
自分も彼に頼ってばかりではいけない、任された務めを果たさなくては。
早苗がムラクモの方に目を向けると、いつの間にか彼もメモを読むのをやめて早苗をじっと見つめていた。
「心配は御無用ですよ、ムラクモくん。いざとなったら私が守ってあげますから!」
エッヘンと力強く胸を張りながら語りかけてくる早苗に、ムラクモは無表情のままこくりと頷いた。
「……ねえ、早苗さん」
「なんです?」
「早苗さんには……どんなものが支給されたの?」
仲間の支給品の確認。バトルロワイアルの参加者なら当然やる事だ。
早苗は微塵も警戒する事なく、椅子の足元に置かれたデイパックを引き寄せる。
そしてごそごそと中身を物色すると、一枚のカードを取り出した。
「じゃじゃーん、まずはこれ『幸運の運び手エポナ』! どんな攻撃もガードしてくれるディフェンスに定評のあるカードです!」
「玩具みたい」
「見た目で判断しないで下さい、私の命の恩人なんですから! 一度使うと二時間使えないからエポナゲーには出来ないですけどね」
「……前に使ったのは何時間前?」
これを使用したのは、あのケンシロウを名乗るヘルメット男に襲われた時。
まだ黎明の頃の出来事だから、既に半日は経過しているはずだ。
その事を伝えると、ムラクモはフム……と相槌を打ってカードを手に取りしげしげと眺め始めた。
それは子供が好奇心で玩具を眺めているというより、駒を手に入れ計略を巡らす軍師の目に近かった。
「……返すよ。これの他には?」
「二つ目は電磁サイリウムですね。よくお祭りで売ってる光る棒、わかりますか? あれに電気が流れて武器になるんです!」
「電気か。他には?」
如何にも子供が好きそうなものなのに、思っていたより反応が薄かった。
早苗はちょっぴり拍子抜けする。
「三つ目は、AT-4です! AT-4っていうのは、」
「携行対戦車無反動砲のこと? 使い捨て式の」
「あ、知ってるんですか。一発しか撃てないですが強そうですよね! バックブラストがあるので撃つ時は注意ですけど」
説明書にも書かれているが、AT-4発射時は反動相殺のバックブラストにより後方90°60mの範囲内は危険区域だ。
注意しなければ後方にいる味方や自らをも火傷の危険に晒す事になる。無論、屋内からの発射など出来るはずもない。
「CS型じゃないんだ」
「シーエス?」
「知らないのか。AT-4CS、市街地戦用にバックブラストを抑えたAT-4の改良型だ。
従来型は燃焼ガスで反動を相殺するが、CS型は代わりに塩水を噴射する事で閉所でも安全な無反動射撃を実現している」
ムラクモが権兵衛ばりにすらすらと垂れ流した薀蓄を、早苗はぽかんと口を開けたまま聞き入っていた。
それは彼の知識に感心したのではなく、今までの無口さとのギャップに呆気に取られただけだったのだが。
「ムラクモくん、詳しいですね。まるで本物の軍人さんみたいです」
「……。軍事兵器はよく調べてるんだ。単なる趣味だよ」
「いーえ、わかります、わかりますよ!! 兵器は男のロマンですよね!」
何故か少々ばつが悪そうに顔を逸らすムラクモに対し、目をキラキラと輝かせながらグッと親指を立てる早苗。
別に男ではないが巨大ロボが好きな早苗には、男の子が兵器に憧れる気持ちがよく理解できた。
それに、早苗は彼の思いがけない一面を知れた事を内心嬉しく思っていた。
無口で無愛想で自分をあまり曝け出そうとしないこの少年の心にほんの少しだけ近づけたような気がしたから。
彼がどこかばつが悪そうにしているのは、ミリタリーオタクである事を隠すつもりだったからだろうと解釈した。
「わかってくれて助かるよ。AT-4、せっかくだから触らせてくれないかな。重さを知りたいから」
「今は持ってないですよ」
「何?」
「武器が足りなくて困ってた海東さんにあげちゃったんです。電磁サイリウムと一緒に」
その事実を知ると、ムラクモは途端にガッカリした様子を見せた。
海東が帰ってきたら頼めばいいだけのはずなのに。彼の落胆の理由がわからず、早苗は首を傾げる。
「それってつまり、今は何にも武器を持ってないの?」
「持ってないですけど。あー、もしかして不安なんですか?」
今この場にいるのは少女と子供の二人だけ。海東は不在で、その上武器すらない。
こんな状況ならば不安を覚えるのも仕方がないと早苗は納得した。
まだ会ったばかりで会話も碌に出来ていなかった彼は、早苗が何者であるかを知らないのだから。
「ご心配には及びません。武器がなくとも、私には奇跡を起こす”神”の力がありますから!」
その言葉に、ムラクモはぴくりと反応する。
「…………”神”?」
フッフッフ、と早苗は何やら意味ありげに笑ってみせる。
そしておもむろに椅子から立ち上がると、腰に手を当て堂々と胸を張った。
「この私をただの巫女だとお思いだったんですか? 一緒にされては困ります!
私は一子相伝の秘術で奇跡を起こし、人間でありながら信仰を受けるようになった―――」
そこで一呼吸溜めて勿体ぶりながら、早苗は得意満面にカミングアウトする。
「人でもあり、神でもある―――”現人神”の末裔なのです!!」
―――沈黙。
ドヤ顔を決めている早苗。何故か言葉を失っているムラクモ。
彼は真っ赤な血色の目を見開き、早苗の頭から爪先までじろじろと凝視している。
正直彼がここまで驚くとは思っていなかった為、早苗はちょっぴり良い気分だった。
「…………げ、現人神」
「あらひとがみです」
「本気で言ってるの?」
「私はいつだって本気ですよ! やっぱり信じてませんね?」
とはいえ、疑われるのは早苗にとっても予想の範疇だ。
幻想郷ならいざ知らず、外の世界でいきなり神様宣言されて信用する人間などいない。
寧ろ頭が可哀想な子だと思われても仕方ない。それが外の世界の常識だからだ。
「ならば私が起こす奇跡の力で信じさせてあげましょう! ムラクモくん、そこにある水を手に持っていただけますか!」
早苗はビシッとベッドの宮棚の方を指差す。そこには飲みかけのペットボトルの水が置かれている。
彼は何度も訝しげな眼を早苗に向けながらも、その水を手に取った。
「その水から目を離さないで下さいね。行きます!」
早苗は目を瞑り、右手で五芒星形の印を切りながらボソボソと呪文らしきものを唱える――その時不思議な事が起こった。
ペットボトルは動かしていないのに、ボトルの中の水だけが突然ひとりでに揺れだしたのだ。
そして無色透明だった水が、見る見るうちにオレンジ色に色づいていくではないか。
「水をオレンジジュースに変化させてみました。これぞ現人神の力、これぞ八坂の奇跡です!」
ドヤァ……と得意げに胸を張る。だが彼女の予想に反してムラクモの反応はいまいちだ。
「それだけ?」
「いえいえ、これは簡単な営業用奇跡ですから! 本気になればもっと大それた事も出来ますよ」
実際それは早苗が里の子供達を相手によく使っていた手品レベルの奇跡だった。
呪文詠唱が一言で済むお手軽なもので、それでいて子供ならとても喜んでくれるのだ。
年相応でない彼に合わせて別の奇跡をチョイスすべきだったかとちょっとだけ後悔する早苗。
そんな彼女を前に、ムラクモはフッと鼻で笑う。
「なら、他にどんな事が出来るの。…………”現人神”さま?」
ひたすら抑揚がなく、感情の篭っていない声。
だが元々彼の台詞は起伏が乏しい方で、早苗は別段気にする事はなかった。
「雨風を喚ぶのが主ですね、快晴の日に大雨を降らせたり出来ますよ。あとは海を割ったり、客星を輝かせたり」
「蘇られる?」
「え?」
「死んだ後に何度でも蘇られるとしたら、それは”奇跡”と言っていいよね?」
唐突にそんな事を言われて唖然としない訳がない。
早苗は大きな目をぱちくりとさせるが、またすぐに笑顔を取り戻した。
「ステキですねそれ、中二感がたまりませんっ! そんな秘術があれば良かったのに」
「ないの?」
「ないですよ、守矢の秘術には。『東風谷は滅びぬ、何度でも蘇るさ!』とか言ってみたいですけどねー」
そんな先代にホイホイ甦られたら一子相伝の意味がない。
尤も幻想郷には人間が死後に復活した例も、人間が数百年単位で転生している例もある事にはある。
ただ前者はほぼ人間をやめているようなものだし、後者は色々と面倒な制約があって早苗はあまり憧れなかったのだが。
それを聞いて、ムラクモは再び鼻で笑った。
「死ねば終わりか。……それで良い」
「え?」
小首を傾ける早苗にはわからぬように。
ムラクモは、自らの体内に仕込まれた”ソレ”のスイッチを入れ。
出力を、一気に最大まで引き上げた――――――――――――――
「――――早苗さん、いらっしゃいますか!? 一大事です!」
窓の外から突如飛び込む鬼気迫った声。
「わっ!? な、何事ですか海東さんっ!」
突然の事に面食らいながら振り返る早苗の後ろで、ムラクモは即座にソレのスイッチを切った。
海東は開けていた窓から部屋に侵入し、慌てた様子で彼女に近づいてくる。
「実は、権兵衛さん達と別れた場所に、こんな物が……」
そう言って、ピラッと一枚の紙切れを差し出す。何かの紙の端を小さく破ったもののようだ。
その紙切れにはクッソ汚い字でこう書かれていた。
◇
先に光写真館へ向かいます
このメッセージに気づいたら追ってきて下さい
事情は後でご説明します
権兵衛
◇
「汚い字ですね」
「汚い字、ですか。犬らしい」
これが犬の妖怪である権兵衛が書いたものだとすれば、このミミズののたくったような字も納得できる。
まさか彼らが自分達を置いて先に行ってしまうなんて。
やはり誰か一人でもあの場所で待っているべきだったのかもしれない。
果たしてどんな事情があったのだろうか。説明を省く程に時間に追われていたのだろうか。
それに、シャロやリュウセイに代筆を頼まなかった理由はなんだろうか。
もしや――。理由を考えれば考える程に、早苗の背中に嫌な汗が流れた。
「こっ、こうしてはいられません、早く追いましょう! ムラクモくん、歩けそうですか!?」
「いいよ、心配しないで」
早苗は出してあった食料や水を急いでかき集めてデイパックの中に放り込む。
ムラクモはいつの間にやら先に荷造りを終えていた。
「とはいえ、ムラクモくんにあまり無理をさせるとまた足の傷が開いてしまいます。
……早苗さん、こんな事を女性にお願いするのも申し訳ないですが、彼を背負っていただけませんか?」
「私がですか?」
「本来なら私の役目でしょうが、いざという時に貴女様方を守る為にも両手は空けておきたいのです」
「なるほど、でしたらお任せ下さい!」
早苗は快く引き受け、ベッドに座るムラクモに背を向けて身を屈めた。
しかし女性の背を借りるのはプライドが許さないのだろうか、ムラクモ本人は少々遠慮気味だ。
「見栄なんて張らなくていいですよ、怪我人なんですから。それに、私は空を飛べますからね!」
早苗は半ば無理やりムラクモを背に担ぐと、ふわりとその身を宙に浮かせた。
提案した海東自身もこれは想定外だったらしく、ほう……と思わず嘆息した。
ムラクモは彼女の背でほんの少しだけ目を見張ったが、奇跡に慣れ始めていたのかさほど驚く事はなかった。
「すごいですね。私の世界には空を飛べる人間なんていませんでした」
「幻想郷では常識に囚われてはいけないのです。さあ、早く権兵衛さんを追いましょう!!」
★ ★ ★
―――駄目だ、まだ笑うな……こらえるんだ、し、しかし……。
あまりに上手く事が運び、俺は笑いを押し殺すのに必死だった。
権兵衛は光写真館になど向かっていない。それどころかまだあの場所に戻ってきてすらいないはずだ。
この書置きは手駒達を動かす為についさっき俺が偽造したものだ。
いくら思慮の浅い女子供が相手とはいえ、権兵衛との約束を無下にすれば俺は反感を食らい信用を落としてしまう。
だったら餌で釣ればいい。ここにいない権兵衛に俺の手駒を誘き寄せる、まさに餌を演じてもらったんだよ。
俺はまんまと騙された早苗達を連れ、民家の外に出る。
「では参りましょう。あまり上空を飛ぶと目立ちますから、出来るだけ低空飛行でお願いいたします」
「わかりました!」
それにしても、空を飛べる人間か。ただの少女かと思ってたが、存外利用価値がありそうだ。
時々意味不明な事を喚くのが難点だが、少し優しい言葉をかけたり励ましただけですぐ従順になって実に扱いやすい。
しかも既にこの俺に厚い信頼を寄せている。この早苗はもう俺の意のままだ。
次はムラクモの使い道でも考えようか。今の所は人質くらいにしか使えそうにないが。
……全く、子守役というのもつらいな。まあ、大樹も昔は手がかかったものだが……。
―――その時、北東の方角から眩い閃光が放たれた。
★ ★ ★
眩しい光とほぼ同時に爆音が辺りに響き渡って、私と海東さんは同時にその方向へ顔を向けた。
「な、何でしょうか?」
「爆弾……でしょうね。気にせず参りましょう」
海東さんはそれだけ言って急ぎ足で南東へと進み始めた。
……なんでしょう。とても嫌な予感がします。
方角からして無関係でしょうけど、もし権兵衛さん達があんなのに巻き込まれる事があったら……。
海東さんも同じ思いで私を急かしてるんでしょうか。……急がなきゃ!
私は空を飛んで海東さんについていく。
さっきは何とも思わなかったけど、いつもよりちょっと疲れやすいような?
「早苗さんは、本当に現人神なんだね」
ふとムラクモくんが耳元で私に語りかけてくる。
「信じてくださいましたか? ではこうして出会ったのも何かの縁、あなたも守矢神社に一信仰を!」
「何それ、宗教臭い」
「宗教ですよ! 神の力は信仰の力です。信仰を得れば神は強くなりますし、逆に信仰を失えば力を失うんです」
背後からクスクスと微かな笑い声が聞こえる。おぶっているから表情は見られない。
「じゃあ……僕も信仰を得れば、神になれるかな」
「あははは、ムラクモくんも現人神になるんですか? そしたら私と仲間ですね!
でも信仰を集めるのも大変なんですよ、メイド服着たり体操服着たり……」
……最初は内気で口数の少ない子かと思ってましたが、意外と冗談も言える子なんですね。
なんだか楽しくお話してたら不思議と疲れも取れてきた気がします。
神奈子さま、諏訪子さま。私は守矢の巫女として、きっとこの子を守ってみせます!
★ ★ ★
……済度し難き愚か者め。
現人神だと? こんな常識知らずの小娘が?
なんたる戯れ言か。先祖が積み上げた伝統と血筋の上に胡坐をかいているだけではないか。
己が使命を忘れ、俗世にまみれてのうのうと生きる神など滅びてしまえ。
海東の居ぬうちに早苗の支給品を確認し、使えるものがあれば奪い去る画策だったが……。
まさか先に手を打たれていたとはな。あの拍子に割り込んできたのも恐らく彼奴の策略であろう。
あと少し時間があれば、電光機関でこの神人くずれに天誅を加えられたというに。
……まあ良い。まだ殺せんのなら、暫くは足として利用するまで。
それにこの小娘の奇跡の力があれば、オリーブオイルも楽に手に入るかもしれん。
東風谷早苗、精々信仰を集めるがいい。
だが何れ解らせてやろう。お前の先に待つ未来は破滅しかないのだと。
全人類の信仰を手に入れるのは、この私なのだよ。
【F-2 市街地/一日目・日中】
【海東純一@仮面ライダーディケイド】
[状態]:( ^U^)申し訳ございません、このような健康体で。
[装備]:グレイブバックル@仮面ライダーディケイド、電磁サイリウム@COBRA THE IDOLM@STER
[道具]:基本支給品、電光戦車@エヌアイン完全世界、外部AI@MUGEN、AT-4@魔法少女まどか☆マギカ、権兵衛の書置き(偽)
[思考・状況]
基本:優勝して、元の世界を支配する。
1:光写真館に向かう。
2:表向きは対主催として振る舞い、集団の中に潜む。
3:早苗とムラクモと行動を共にする。
4:ノーリスクで殺人が可能な武器が欲しい。
5:グレイブバックルの制限を何とかしたい。
6:ディケイドにも制限が?
7:AIを搭載した電光戦車は切り札。
8:光写真館に少し興味。
※「ディエンドの世界」編終了後からの参戦
※鬼柳とさやかを死んだと思っています。
※大変胡散臭い表情をしていますが、本人はそれに気付いていません。
※グレイブバックルは一度使うと2時間使用不可になります。
※電磁サイリウム@COBRA THE IDOLM@STER、AT-4@魔法少女まどか☆マギカを早苗から譲り受けました
※早苗のことは別の世界の仮面ライダー住民だと思っています。
※権兵衛の書置きを偽造する為、支給品のどれかの説明書の端を破り取ったようです。
【東風谷早苗@守矢一家コスプレ劇場】
[状態]軽傷、霊力消費(小)
[装備]無し
[道具]基本支給品
VGカード『幸運の運び手エポナ』@カードファイト!!ヴァンガード、権兵衛の考察メモ
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:権兵衛を追って光写真館に向かう。
2:ムラクモを守りたい。
3:海東さんはさすが仮面ライダーだ!
4:北東から見えたあの光は……?
5:守矢の巫女として信仰を集める。
6:博麗神社は後で改めて訪れたい。
7:\ /
8:● ● この会場では常識に囚われてはいけないのですね!
9:" ▽ "
※権兵衛が光写真館に向かったものと思っています。
※海東を正義の仮面ライダーだと信じて疑っていません。
※ムラクモはただのミリオタの少年だと思ってます。
※奇跡が制限されているかどうかは不明ですが、とりあえず簡単な奇跡は起こせるようです。
【ムラクモ@アカツキ電光戦記】
[状態]:貧血、疲労(中)、ダメージ(中)、右足に刺し傷(処置済)、身体が十二歳程になっています
[装備]: 六〇式電光被服@アカツキ電光戦記、十六夜咲夜のスカート
[道具]:基本支給品、マッド博士の整形マシーン、ポラロイドカメラ、オレンジジュース(元は支給品の水)
[思考・状況]
基本:主催も含めて皆殺し。
1:早苗はいつか絶対に殺す。
2:海東を警戒。
3:無力な少年を装い2人と行動を共にして隙を見て支給品を奪い殺す。
4:怪我の回復にも専念する。
5:早苗を利用すればオリーブオイルを入手できるかもしれない。
6:もこみちざまあwwwwwwwwwwwww
※海東が自分の思惑を見抜いていると思っています
※権兵衛の考察メモを読みました。
※早苗が現人神である事、奇跡を起こす程度の能力の一部を知りました。
※E-3で権兵衛が使った地球破壊爆弾の爆発に気づきました。
|sm142:[[私気になります!]]|[[時系列順>第一回放送までの本編SS]]|sm145:[[三人寄ればなんとやら……]]|
|sm143:[[D.K. ディケイドは世界を紡ぐのか? 最終鬼畜ホモディーノ]]|[[投下順>101~150]]|sm145:[[三人寄ればなんとやら……]]|
|sm124:[[必ず無事で……]]|海東純一|sm:[[]]|
|sm124:[[必ず無事で……]]|東風谷早苗|sm:[[]]|
|sm124:[[必ず無事で……]]|ムラクモ|sm:[[]]|
*暇を持て余した神々の遊び ◆yZJRtWQFk.
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『聞こえるか? エンリケだ。これから第二回定時放送を始める』
二度目の定時放送を、早苗達はF-2の市街地にある民家の中で迎えた。
『皆が戻ってくるまで建物の中に身を隠そう』。その提案をしたのは海東だ。
なるべくここから離れるなという権兵衛の指示に反する事になるが、今ここには足に怪我を負った子供もいる。
この少年(名をムラクモというらしい)の応急処置はひとまず済んだが、まだ暫くは安静にさせてやらねばならない。
その為にも、仲間達が戻ってくるまでは少しでも安全な場所で彼を休ませた方がいい。そんな至極真っ当な意見だった。
早苗も今はとりあえず少年の安全を確保したい気持ちでいた為、彼の提案にすぐさま賛成した。
そうして三人は近くの適当な民家の寝室を借り、暫しの休息を取る事にしたのだった。
『―――次の放送はこの俺が担当する。それまで精々生きててくれ』
ベネットと名乗る男の声を最後に放送は途切れた。
「……終わり、ですか。どうやら皆様方はご無事のようですね」
見張りの為に窓際に立っていた海東は、ニコッといつもの笑みを浮かべながら言った。
早苗達が今ここで帰りを待つ者達の名前は、幸い発表された死亡者リストの中には含まれていなかった。
「…………聖さん……」
しかし海東の予想に反して、早苗から喜びの声が上がる事はなかった。
ベッドの横に置いた小さな椅子に座り、どこか哀しげに顔を伏せたままの早苗。
放送が始まるまでは騒々しい程元気に場を和ませていたというのに、今では一変して表情を曇らせている。
「早苗さん、もしやお知り合いだったのですか?」
「……私の友人でした」
「そうでしたか……申し訳御座いません、このような事をお聞きして」
「いえ、海東さんは悪くないですよ」
自分のよく知る誰かが、『死亡者』として名前を呼ばれる。
その度に早苗の心はチクチクと痛み続けていたのだが、今回の放送で受けたダメージは今まで以上に大きかったようだ。
趣味を通じて交流を深めた仲間を失ったショックは、単なる顔見知りを亡くした時とは比べ物にならない。
「お気持ちはお察しいたします。私も仮面ライダーですから、時には戦いの中で仲間を失う事もありました」
海東はゆっくりと早苗の元に歩み寄ると、彼女の白く細い肩にポンと手を置いた。
その手は大きく温かく、傷ついた心の痛みがほんの少し和らいだような気がした。
「しかし、落ち込んでいてはいけません。ご友人の為にも、今は生きてここから脱出する事に専念すべきです。
貴女にはきっとやるべき事があります。涙を流すのは全てが終わってからでも遅くありませんよ」
「…………そう……ですよね」
早苗は一息だけ深呼吸すると、自らの両頬をぱしぱし叩いて渇を入れた。
わかっている、この仮面ライダーの言う通りだ。今はまだ悲しみに暮れている場合ではない。
死んでしまった人達を弔うのは、無事に幻想郷に帰ってからだ。
決意を固めた早苗は、椅子からすっくと立ち上がる。
「海東さん、顔に似合わずすごくいい事おっしゃいますね! おかげで元気が出てきました!」
「顔……? いえ、お役に立てて光栄です。やはりそうして元気に笑ってる方が貴女らしい」
「みんなで力を合わせて、必ずここから脱出しましょう!!」
なんて頼り甲斐のある人なのだろう。やはりこんな風に他人を思いやれる人でないと正義の味方にはなれないのだ。
そんな事を思いながら、早苗は感謝と尊敬の気持ちを込めて深々とお辞儀をする。
そして頭を上げて天使のような笑顔を見せると、部屋の窓際まで駆けていった。
窓から差し込む昼間の日差しの中で、そっと目を伏せ、天に向かって祈りを捧げ始める。
―――聖さん。そして星さんも。
―――皆さんの事、皆さんと協力してコスプレした時の事、私は一生忘れません。
―――ですから、今はどうか待っていて下さい。
―――幻想郷に帰ったら、聖さんがお好きだった魔法少女リラメル☆鈴木のコスをお供えします!
……友の為に純真な祈りを捧げる少女の背後で、海東はニヤリと笑みを浮かべる。
正義の味方にはとても出来ぬ、邪悪めいた笑みを。
「早苗さん、私は少しの間ここを離れます」
祈りを終えた早苗が椅子に座り直そうとすると、海東は唐突に話を切り出した。
「もこみちが倒れたようですし、そろそろ皆様方が戻ってくるかもしれません。ですから彼らと別れた場所に行ってみようかと思いまして」
「あ、じゃあ私も!」
早苗はいそいそと出発の準備を始めようとするが、海東は手で遮りそれを制止する。
「……私一人で十分です。暫くしたら戻りますので、貴女はここで彼の傍についていてあげて下さい」
そう言って海東はベッドの方向へ目配せした。
ベッドに座るムラクモは、権兵衛の考察メモを無言で読み耽っている。
眉間に皺を寄せて真剣に文書に目を通すその姿からは、この年頃の少年にしては妙に厳かな雰囲気が漂っていた。
確かに怪我した少年を一人残していくわけにはいかない。無暗に連れ回すのも傷に障るだろう。
「わかりました。でも、くれぐれもお気をつけて下さいね」
「ええ。叫べば声の届く距離ですから、何かありましたらすぐにお呼び下さい。よろしくお願いいたします」
海東は斜め45度の一礼をすると、自分のデイパックを背負って部屋から出て行った。
(海東さん……)
早苗は思った。きっと海東は自分達を気遣って自ら危険な役を買って出てくれたのだと。
それは正義の味方である仮面ライダーとして当然の責務かもしれないが、それでも感謝せずにはいられない。
自分も彼に頼ってばかりではいけない、任された務めを果たさなくては。
早苗がムラクモの方に目を向けると、いつの間にか彼もメモを読むのをやめて早苗をじっと見つめていた。
「心配は御無用ですよ、ムラクモくん。いざとなったら私が守ってあげますから!」
エッヘンと力強く胸を張りながら語りかけてくる早苗に、ムラクモは無表情のままこくりと頷いた。
「……ねえ、早苗さん」
「なんです?」
「早苗さんには……どんなものが支給されたの?」
仲間の支給品の確認。バトルロワイアルの参加者なら当然やる事だ。
早苗は微塵も警戒する事なく、椅子の足元に置かれたデイパックを引き寄せる。
そしてごそごそと中身を物色すると、一枚のカードを取り出した。
「じゃじゃーん、まずはこれ『幸運の運び手エポナ』! どんな攻撃もガードしてくれるディフェンスに定評のあるカードです!」
「玩具みたい」
「見た目で判断しないで下さい、私の命の恩人なんですから! 一度使うと二時間使えないからエポナゲーには出来ないですけどね」
「……前に使ったのは何時間前?」
これを使用したのは、あのケンシロウを名乗るヘルメット男に襲われた時。
まだ黎明の頃の出来事だから、既に半日は経過しているはずだ。
その事を伝えると、ムラクモはフム……と相槌を打ってカードを手に取りしげしげと眺め始めた。
それは子供が好奇心で玩具を眺めているというより、駒を手に入れ計略を巡らす軍師の目に近かった。
「……返すよ。これの他には?」
「二つ目は電磁サイリウムですね。よくお祭りで売ってる光る棒、わかりますか? あれに電気が流れて武器になるんです!」
「電気か。他には?」
如何にも子供が好きそうなものなのに、思っていたより反応が薄かった。
早苗はちょっぴり拍子抜けする。
「三つ目は、AT-4です! AT-4っていうのは、」
「携行対戦車無反動砲のこと? 使い捨て式の」
「あ、知ってるんですか。一発しか撃てないですが強そうですよね! バックブラストがあるので撃つ時は注意ですけど」
説明書にも書かれているが、AT-4発射時は反動相殺のバックブラストにより後方90°60mの範囲内は危険区域だ。
注意しなければ後方にいる味方や自らをも火傷の危険に晒す事になる。無論、屋内からの発射など出来るはずもない。
「CS型じゃないんだ」
「シーエス?」
「知らないのか。AT-4CS、市街地戦用にバックブラストを抑えたAT-4の改良型だ。
従来型は燃焼ガスで反動を相殺するが、CS型は代わりに塩水を噴射する事で閉所でも安全な無反動射撃を実現している」
ムラクモが権兵衛ばりにすらすらと垂れ流した薀蓄を、早苗はぽかんと口を開けたまま聞き入っていた。
それは彼の知識に感心したのではなく、今までの無口さとのギャップに呆気に取られただけだったのだが。
「ムラクモくん、詳しいですね。まるで本物の軍人さんみたいです」
「……。軍事兵器はよく調べてるんだ。単なる趣味だよ」
「いーえ、わかります、わかりますよ!! 兵器は男のロマンですよね!」
何故か少々ばつが悪そうに顔を逸らすムラクモに対し、目をキラキラと輝かせながらグッと親指を立てる早苗。
別に男ではないが巨大ロボが好きな早苗には、男の子が兵器に憧れる気持ちがよく理解できた。
それに、早苗は彼の思いがけない一面を知れた事を内心嬉しく思っていた。
無口で無愛想で自分をあまり曝け出そうとしないこの少年の心にほんの少しだけ近づけたような気がしたから。
彼がどこかばつが悪そうにしているのは、ミリタリーオタクである事を隠すつもりだったからだろうと解釈した。
「わかってくれて助かるよ。AT-4、せっかくだから触らせてくれないかな。重さを知りたいから」
「今は持ってないですよ」
「何?」
「武器が足りなくて困ってた海東さんにあげちゃったんです。電磁サイリウムと一緒に」
その事実を知ると、ムラクモは途端にガッカリした様子を見せた。
海東が帰ってきたら頼めばいいだけのはずなのに。彼の落胆の理由がわからず、早苗は首を傾げる。
「それってつまり、今は何にも武器を持ってないの?」
「持ってないですけど。あー、もしかして不安なんですか?」
今この場にいるのは少女と子供の二人だけ。海東は不在で、その上武器すらない。
こんな状況ならば不安を覚えるのも仕方がないと早苗は納得した。
まだ会ったばかりで会話も碌に出来ていなかった彼は、早苗が何者であるかを知らないのだから。
「ご心配には及びません。武器がなくとも、私には奇跡を起こす”神”の力がありますから!」
その言葉に、ムラクモはぴくりと反応する。
「…………”神”?」
フッフッフ、と早苗は何やら意味ありげに笑ってみせる。
そしておもむろに椅子から立ち上がると、腰に手を当て堂々と胸を張った。
「この私をただの巫女だとお思いだったんですか? 一緒にされては困ります!
私は一子相伝の秘術で奇跡を起こし、人間でありながら信仰を受けるようになった―――」
そこで一呼吸溜めて勿体ぶりながら、早苗は得意満面にカミングアウトする。
「人でもあり、神でもある―――”現人神”の末裔なのです!!」
―――沈黙。
ドヤ顔を決めている早苗。何故か言葉を失っているムラクモ。
彼は真っ赤な血色の目を見開き、早苗の頭から爪先までじろじろと凝視している。
正直彼がここまで驚くとは思っていなかった為、早苗はちょっぴり良い気分だった。
「…………げ、現人神」
「あらひとがみです」
「本気で言ってるの?」
「私はいつだって本気ですよ! やっぱり信じてませんね?」
とはいえ、疑われるのは早苗にとっても予想の範疇だ。
幻想郷ならいざ知らず、外の世界でいきなり神様宣言されて信用する人間などいない。
寧ろ頭が可哀想な子だと思われても仕方ない。それが外の世界の常識だからだ。
「ならば私が起こす奇跡の力で信じさせてあげましょう! ムラクモくん、そこにある水を手に持っていただけますか!」
早苗はビシッとベッドの宮棚の方を指差す。そこには飲みかけのペットボトルの水が置かれている。
彼は何度も訝しげな眼を早苗に向けながらも、その水を手に取った。
「その水から目を離さないで下さいね。行きます!」
早苗は目を瞑り、右手で五芒星形の印を切りながらボソボソと呪文らしきものを唱える――その時不思議な事が起こった。
ペットボトルは動かしていないのに、ボトルの中の水だけが突然ひとりでに揺れだしたのだ。
そして無色透明だった水が、見る見るうちにオレンジ色に色づいていくではないか。
「水をオレンジジュースに変化させてみました。これぞ現人神の力、これぞ八坂の奇跡です!」
ドヤァ……と得意げに胸を張る。だが彼女の予想に反してムラクモの反応はいまいちだ。
「それだけ?」
「いえいえ、これは簡単な営業用奇跡ですから! 本気になればもっと大それた事も出来ますよ」
実際それは早苗が里の子供達を相手によく使っていた手品レベルの奇跡だった。
呪文詠唱が一言で済むお手軽なもので、それでいて子供ならとても喜んでくれるのだ。
年相応でない彼に合わせて別の奇跡をチョイスすべきだったかとちょっとだけ後悔する早苗。
そんな彼女を前に、ムラクモはフッと鼻で笑う。
「なら、他にどんな事が出来るの。…………”現人神”さま?」
ひたすら抑揚がなく、感情の篭っていない声。
だが元々彼の台詞は起伏が乏しい方で、早苗は別段気にする事はなかった。
「雨風を喚ぶのが主ですね、快晴の日に大雨を降らせたり出来ますよ。あとは海を割ったり、客星を輝かせたり」
「蘇られる?」
「え?」
「死んだ後に何度でも蘇られるとしたら、それは”奇跡”と言っていいよね?」
唐突にそんな事を言われて唖然としない訳がない。
早苗は大きな目をぱちくりとさせるが、またすぐに笑顔を取り戻した。
「ステキですねそれ、中二感がたまりませんっ! そんな秘術があれば良かったのに」
「ないの?」
「ないですよ、守矢の秘術には。『東風谷は滅びぬ、何度でも蘇るさ!』とか言ってみたいですけどねー」
そんな先代にホイホイ甦られたら一子相伝の意味がない。
尤も幻想郷には人間が死後に復活した例も、人間が数百年単位で転生している例もある事にはある。
ただ前者はほぼ人間をやめているようなものだし、後者は色々と面倒な制約があって早苗はあまり憧れなかったのだが。
それを聞いて、ムラクモは再び鼻で笑った。
「死ねば終わりか。……それで良い」
「え?」
小首を傾ける早苗にはわからぬように。
ムラクモは、自らの体内に仕込まれた”ソレ”のスイッチを入れ。
出力を、一気に最大まで引き上げた――――――――――――――
「――――早苗さん、いらっしゃいますか!? 一大事です!」
窓の外から突如飛び込む鬼気迫った声。
「わっ!? な、何事ですか海東さんっ!」
突然の事に面食らいながら振り返る早苗の後ろで、ムラクモは即座にソレのスイッチを切った。
海東は開けていた窓から部屋に侵入し、慌てた様子で彼女に近づいてくる。
「実は、権兵衛さん達と別れた場所に、こんな物が……」
そう言って、ピラッと一枚の紙切れを差し出す。何かの紙の端を小さく破ったもののようだ。
その紙切れにはクッソ汚い字でこう書かれていた。
◇
先に光写真館へ向かいます
このメッセージに気づいたら追ってきて下さい
事情は後でご説明します
権兵衛
◇
「汚い字ですね」
「汚い字、ですか。犬らしい」
これが犬の妖怪である権兵衛が書いたものだとすれば、このミミズののたくったような字も納得できる。
まさか彼らが自分達を置いて先に行ってしまうなんて。
やはり誰か一人でもあの場所で待っているべきだったのかもしれない。
果たしてどんな事情があったのだろうか。説明を省く程に時間に追われていたのだろうか。
それに、シャロやリュウセイに代筆を頼まなかった理由はなんだろうか。
もしや――。理由を考えれば考える程に、早苗の背中に嫌な汗が流れた。
「こっ、こうしてはいられません、早く追いましょう! ムラクモくん、歩けそうですか!?」
「いいよ、心配しないで」
早苗は出してあった食料や水を急いでかき集めてデイパックの中に放り込む。
ムラクモはいつの間にやら先に荷造りを終えていた。
「とはいえ、ムラクモくんにあまり無理をさせるとまた足の傷が開いてしまいます。
……早苗さん、こんな事を女性にお願いするのも申し訳ないですが、彼を背負っていただけませんか?」
「私がですか?」
「本来なら私の役目でしょうが、いざという時に貴女様方を守る為にも両手は空けておきたいのです」
「なるほど、でしたらお任せ下さい!」
早苗は快く引き受け、ベッドに座るムラクモに背を向けて身を屈めた。
しかし女性の背を借りるのはプライドが許さないのだろうか、ムラクモ本人は少々遠慮気味だ。
「見栄なんて張らなくていいですよ、怪我人なんですから。それに、私は空を飛べますからね!」
早苗は半ば無理やりムラクモを背に担ぐと、ふわりとその身を宙に浮かせた。
提案した海東自身もこれは想定外だったらしく、ほう……と思わず嘆息した。
ムラクモは彼女の背でほんの少しだけ目を見張ったが、奇跡に慣れ始めていたのかさほど驚く事はなかった。
「すごいですね。私の世界には空を飛べる人間なんていませんでした」
「幻想郷では常識に囚われてはいけないのです。さあ、早く権兵衛さんを追いましょう!!」
★ ★ ★
―――駄目だ、まだ笑うな……こらえるんだ、し、しかし……。
あまりに上手く事が運び、俺は笑いを押し殺すのに必死だった。
権兵衛は光写真館になど向かっていない。それどころかまだあの場所に戻ってきてすらいないはずだ。
この書置きは手駒達を動かす為についさっき俺が偽造したものだ。
いくら思慮の浅い女子供が相手とはいえ、権兵衛との約束を無下にすれば俺は反感を食らい信用を落としてしまう。
だったら餌で釣ればいい。ここにいない権兵衛に俺の手駒を誘き寄せる、まさに餌を演じてもらったんだよ。
俺はまんまと騙された早苗達を連れ、民家の外に出る。
「では参りましょう。あまり上空を飛ぶと目立ちますから、出来るだけ低空飛行でお願いいたします」
「わかりました!」
それにしても、空を飛べる人間か。ただの少女かと思ってたが、存外利用価値がありそうだ。
時々意味不明な事を喚くのが難点だが、少し優しい言葉をかけたり励ましただけですぐ従順になって実に扱いやすい。
しかも既にこの俺に厚い信頼を寄せている。この早苗はもう俺の意のままだ。
次はムラクモの使い道でも考えようか。今の所は人質くらいにしか使えそうにないが。
……全く、子守役というのもつらいな。まあ、大樹も昔は手がかかったものだが……。
―――その時、北東の方角から眩い閃光が放たれた。
★ ★ ★
眩しい光とほぼ同時に爆音が辺りに響き渡って、私と海東さんは同時にその方向へ顔を向けた。
「な、何でしょうか?」
「爆弾……でしょうね。気にせず参りましょう」
海東さんはそれだけ言って急ぎ足で南東へと進み始めた。
……なんでしょう。とても嫌な予感がします。
方角からして無関係でしょうけど、もし権兵衛さん達があんなのに巻き込まれる事があったら……。
海東さんも同じ思いで私を急かしてるんでしょうか。……急がなきゃ!
私は空を飛んで海東さんについていく。
さっきは何とも思わなかったけど、いつもよりちょっと疲れやすいような?
「早苗さんは、本当に現人神なんだね」
ふとムラクモくんが耳元で私に語りかけてくる。
「信じてくださいましたか? ではこうして出会ったのも何かの縁、あなたも守矢神社に一信仰を!」
「何それ、宗教臭い」
「宗教ですよ! 神の力は信仰の力です。信仰を得れば神は強くなりますし、逆に信仰を失えば力を失うんです」
背後からクスクスと微かな笑い声が聞こえる。おぶっているから表情は見られない。
「じゃあ……僕も信仰を得れば、神になれるかな」
「あははは、ムラクモくんも現人神になるんですか? そしたら私と仲間ですね!
でも信仰を集めるのも大変なんですよ、メイド服着たり体操服着たり……」
……最初は内気で口数の少ない子かと思ってましたが、意外と冗談も言える子なんですね。
なんだか楽しくお話してたら不思議と疲れも取れてきた気がします。
神奈子さま、諏訪子さま。私は守矢の巫女として、きっとこの子を守ってみせます!
★ ★ ★
……済度し難き愚か者め。
現人神だと? こんな常識知らずの小娘が?
なんたる戯れ言か。先祖が積み上げた伝統と血筋の上に胡坐をかいているだけではないか。
己が使命を忘れ、俗世にまみれてのうのうと生きる神など滅びてしまえ。
海東の居ぬうちに早苗の支給品を確認し、使えるものがあれば奪い去る画策だったが……。
まさか先に手を打たれていたとはな。あの拍子に割り込んできたのも恐らく彼奴の策略であろう。
あと少し時間があれば、電光機関でこの神人くずれに天誅を加えられたというに。
……まあ良い。まだ殺せんのなら、暫くは足として利用するまで。
それにこの小娘の奇跡の力があれば、オリーブオイルも楽に手に入るかもしれん。
東風谷早苗、精々信仰を集めるがいい。
だが何れ解らせてやろう。お前の先に待つ未来は破滅しかないのだと。
全人類の信仰を手に入れるのは、この私なのだよ。
【F-2 市街地/一日目・日中】
【海東純一@仮面ライダーディケイド】
[状態]:( ^U^)申し訳ございません、このような健康体で。
[装備]:グレイブバックル@仮面ライダーディケイド、電磁サイリウム@COBRA THE IDOLM@STER
[道具]:基本支給品、電光戦車@エヌアイン完全世界、外部AI@MUGEN、AT-4@魔法少女まどか☆マギカ、権兵衛の書置き(偽)
[思考・状況]
基本:優勝して、元の世界を支配する。
1:光写真館に向かう。
2:表向きは対主催として振る舞い、集団の中に潜む。
3:早苗とムラクモと行動を共にする。
4:ノーリスクで殺人が可能な武器が欲しい。
5:グレイブバックルの制限を何とかしたい。
6:ディケイドにも制限が?
7:AIを搭載した電光戦車は切り札。
8:光写真館に少し興味。
※「ディエンドの世界」編終了後からの参戦
※鬼柳とさやかを死んだと思っています。
※大変胡散臭い表情をしていますが、本人はそれに気付いていません。
※グレイブバックルは一度使うと2時間使用不可になります。
※電磁サイリウム@COBRA THE IDOLM@STER、AT-4@魔法少女まどか☆マギカを早苗から譲り受けました
※早苗のことは別の世界の仮面ライダー住民だと思っています。
※権兵衛の書置きを偽造する為、支給品のどれかの説明書の端を破り取ったようです。
【東風谷早苗@守矢一家コスプレ劇場】
[状態]軽傷、霊力消費(小)
[装備]無し
[道具]基本支給品
VGカード『幸運の運び手エポナ』@カードファイト!!ヴァンガード、権兵衛の考察メモ
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:権兵衛を追って光写真館に向かう。
2:ムラクモを守りたい。
3:海東さんはさすが仮面ライダーだ!
4:北東から見えたあの光は……?
5:守矢の巫女として信仰を集める。
6:博麗神社は後で改めて訪れたい。
7:\ /
8:● ● この会場では常識に囚われてはいけないのですね!
9:" ▽ "
※権兵衛が光写真館に向かったものと思っています。
※海東を正義の仮面ライダーだと信じて疑っていません。
※ムラクモはただのミリオタの少年だと思ってます。
※奇跡が制限されているかどうかは不明ですが、とりあえず簡単な奇跡は起こせるようです。
【ムラクモ@アカツキ電光戦記】
[状態]:貧血、疲労(中)、ダメージ(中)、右足に刺し傷(処置済)、身体が十二歳程になっています
[装備]: 六〇式電光被服@アカツキ電光戦記、十六夜咲夜のスカート
[道具]:基本支給品、マッド博士の整形マシーン、ポラロイドカメラ、オレンジジュース(元は支給品の水)
[思考・状況]
基本:主催も含めて皆殺し。
1:早苗はいつか絶対に殺す。
2:海東を警戒。
3:無力な少年を装い2人と行動を共にして隙を見て支給品を奪い殺す。
4:怪我の回復にも専念する。
5:早苗を利用すればオリーブオイルを入手できるかもしれない。
6:もこみちざまあwwwwwwwwwwwww
※海東が自分の思惑を見抜いていると思っています
※権兵衛の考察メモを読みました。
※早苗が現人神である事、奇跡を起こす程度の能力の一部を知りました。
※E-3で権兵衛が使った地球破壊爆弾の爆発に気づきました。
|sm142:[[私気になります!]]|[[時系列順>第一回放送までの本編SS]]|sm145:[[三人寄ればなんとやら……]]|
|sm143:[[D.K. ディケイドは世界を紡ぐのか? 最終鬼畜ホモディーノ]]|[[投下順>101~150]]|sm145:[[三人寄ればなんとやら……]]|
|sm124:[[必ず無事で……]]|海東純一|sm149:[[自分から騙されていくのか(困惑)]]|
|sm124:[[必ず無事で……]]|東風谷早苗|sm149:[[自分から騙されていくのか(困惑)]]|
|sm124:[[必ず無事で……]]|ムラクモ|sm149:[[自分から騙されていくのか(困惑)]]|
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