ID:2BcYWkhw0氏:こなたの旅(ページ4)


 かがみの会合は終わった。今はかがみ、ひより、ゆたか、つかさ、そして私だけが残った。つかさは自分の店だから最後まで残るのは当然だ。
かがみは帰り支度をしている。つかさは後片付け、ひよりとゆたかは二人で何かを話している。私は渡されたファイルをボーと見ていた。
つかさ「えっと、お姉ちゃんに用意した軽食がまだ残っているんだけど、みんな食べていかない?」
かがみ「私はさっき食べたからいいわ」
ひより「あ、直ぐに帰りますので、お構いなく……」
ゆたか「私も直ぐに帰るので……」
皆帰るのか、私は帰っても何かする事はないしな……残った料理は捨てられちゃうのは勿体無い。
こなた「私が食べるよ……」
つかさ「それじゃ暖め直すから少しまってね……」
つかさは厨房の方に向かった。それと同時にゆたかがかがみの近くに来た。
ゆたか「あ、あの、いのりさん達と言い合いになりましたけど……」
かがみは帰り支度を止めた。
かがみ「あ、ああ、あれね、別に気にしなくていいわよ、ただの姉妹喧嘩、あんなのは日常でよくやってるから、それともちょっとムキになりすぎたかしら?」
ゆたか「いのりさん達が途中で退出したのはすすむさん達を危険に曝したくないから……」
かがみ「それは分かってるつもりよ、かえでさんもそう言っていたでしょ……でも、教えればどうなるかは予測できた……」
ゆたか「神崎さんが協力するなんて言い出したら、きっと皆も協力するね」
かがみ「そうなるかもね……」
ゆたか「私は……」
かがみ「どうするかは自由よ、ゆたか、そしてひより、もう帰ったけどみなみは私達の関係者とまではいかない、ただ事情を知っているだけ、呼ぶかどうか最後まで悩んだくらい」
ゆたか「うんん、もし呼んでくれなかったから……一生かがみさんを恨んでいたかも……」
ひより「私も……」
ひよりもかがみの近くに来た。
かがみ「ふふ、どうやら恨まれなくて済みそうね」
かがみは笑いながら再び帰り支度をした。
ひより「この一件が済んだら……私とゆたかはそれぞれの道を進もうって決めました」
かがみ「独立するつもりなの……え、もしかして二人とも結婚……」
ひより「し~、まだ皆には内緒ですよ、泉先輩も」
こなた「へぇ、結婚するんだ」
ゆたかは厨房の方を心配そうに覗こうとしている。
こなた「大丈夫、つかさの所までは聞こえないよ」
ひよりとゆたかは鞄を持った。
ひより「それじゃ帰ります、泉先輩、結果を楽しみにしていますね」
ゆたか「お先に失礼します……」
二人は店を後にした。
かがみ「私も帰るわ、実家に寄って行くからこのまま帰るわよ、つかさにはそう言っておいて」
こなた「分かったよ」

かがみが帰って数分した頃つかさが料理を持って来た。つかさは周りをきょろきょろと見回した。
つかさ「お姉ちゃんは、皆は?」
こなた「帰ったよ……あ、そうそう、かがみが実家に寄って行くって、実家なら帰れば会えるでしょ?」
つかさ「うん、そうだね……」
つかさは私の前に料理を置いた。
つかさ「片付けてくるね」
そう言うと厨房の方に向かって行った。会合前にかがみが食べていた料理と同じものだ。一口食べてみた。
美味しい……ちゃんとかえでさんの味もする。お菓子屋さんなのに料理の研究もしていたのか。あやのも美味しいけどかえでさんの味はしない。
やっぱりかえでさんが辞めたとしたらつかさが店長になるのが一番だよ。

そして、私が食べ終わり、片付けも終わり、帰るだけになった。
つかさ「それじゃ灯りを消すから先に出て」
つかさと二人きりか……
こなた「ちょっと待って、話がある」
つかさはスイッチを切るのを止めた。
つかさ「なぁに?」
つかさになら言ってもいいかな。バカにされる事もないし。
こなた「神崎さんについてなんだけどね……さっきの会合で気付いた点があってね……」
つかさ「気付いた事……?」
こなた「ひろしが言ったでしょ「おめでたい」って……神崎さんも言うんだよ、それも全くおなじ口調で……」
つかさ「へぇ~面白いね」
うぐ、つかさ~気付いてよ。鈍いのは昔のままだよ……
こなた「……神崎さんはゆたかの作ったお弁当を食べてゆたかがその時どんな気持ちだったのか言い当てた……」
つかさ「え……」
つかさの表情が変わった。やっと分かったかな。
つかさ「……まなみの演奏会が始まる前、神崎さんとカメラマンさんが取材に来てね、その時、カメラマンさんの質問で私あたふたしちゃって……そうしたら神崎さんがそっと
    緊張をほぐしてくれた……殆ど初対面だったのに、その時ねなんだか以前にも会ったような気がしたの」
こなた「神崎さんは真奈美さんの化けた人……そう思うようになってね……」
つかさ「まなちゃん……」
こなた「今度会うときにハッキリすると思うけどね」
つかさ「まなちゃんが神崎さんに化けていた、そうすると本当の神崎さんはどうしたのかな……」
こなた「本当の……?」
そこまで考えていなかった。つかさは鈍いのか鋭いのか全く分からない。
つかさ「私が初めて会った時は辻さんの姿だった……」
こなた「そうだったね……」
あれ……そうなると貿易会社に囚われているお稲荷さんって誰なんだ…… 私達の知らない人なのかな……
こなた「ありがとう、つかさのおかげでいろいろ分かった」
つかさ「ねぇ、私も一緒に行きたい、神崎さんに会いたい」
こなた「実は私も会えるかどうか分からない、彼女実家に殆ど居ないからね、携帯やメールでもダメでしょ、絶対会えるとは言えないよ」
つかさは項垂れた。
つかさ「そうだね、そうだよね……」
こなた「そんなにしょげない、きっとまた会えるよ」
つかさ「そうだね……」
笑顔になるつかさだった。
つかさ「そうだ、この話しなんだけど……お姉ちゃん達に……」
こなた「別に話しても良いよ、でもね「おめでたい」って言われるのがオチだよ」
つかさ「ははは……それじゃ帰ろう、灯りを消すから先に出て」
つかさは笑いながらスイッチの方に歩いて行った。この後つかさに家に寄って行かないかと誘われたがそのまま帰った。

本当はつかさが神崎さんに会った方が良いような気がする。だけど私はつかさと一緒に行くのを断った。何故だろう。
このファイルを持って移動している時つくづくそう思った。私は一つの大企業を潰せるほどの情報を持って移動して。
何故か周りの人の視線が気になってしょうがなかった。もし誰かにこれを読まれたら……盗まれたら……落としたら……忘れてしまったら……
そう思うと恐くてたまらない。つまりこのファイルはそう言う物。コミケの帰りでくる視線とは次元が違う……
ふと周りを見回した……皆私が居ないかの様に通り過ぎていく。ふふ、意識しすぎだ、私以外にこの鞄に機密文章が入っているなんて知らない。
つかさはこの重荷に耐えられる訳がない。だから一緒に行くのを断った。いや……違う。そんなんじゃない。
思えばつかさはあの時、正確に言うとみゆきさんも同行していたっけ。ある意味けいこさんの計画は状況的に今の私達と同じだ。つかさもみゆきさんもあの時恐くなかったのかな。
下手をすればつかさたちが捕まっていたかもしれない。それにあの当時恋人だったひろしと会えなかったのに……
それでもつかさは最後まで諦めなかった……
あまり深く物を考えない天然だから……そう思った事もあったけどそれは違った。実際つかさは凄いよ……今になってつかさの凄さが分かった。
つかさと一緒に行けば私が今までやってきた事を直ぐにひっくり返されて先に進んでしまう。そんな気がした。
たまにはつかさより先に進んでみたい……かがみも以前そう思ったように。
これが本音だったりする。
なんてね。今更つかさと張り合ってどうする。
私は神崎家の玄関の前で悶々していた。
さて。もう心の準備はいいや。
『ピンポーン』
呼び鈴を押した。
『ガチャッ!!』
ドアが開くと思った通り母親の正子さんが出てきた。
正子「泉さん……」
こなた「あの、あやめさんは……」
正子「ごめんなさい、留守で何時帰るか分からないの……」
やっぱり空振りか……でも。このファイルは郵送とかしたくないし。持って帰りたくもない。私は鞄からファイルを取り出した。
こなた「これをあやめさんに渡してくれませんか」
正子「……何か重要な書類みいたね、良かったら上がって少し待って直接渡されてはどうです?」
こなた「実は今日、電車で来たので余り時間がありません……夕方4時まで神社で待っています」
正子さんは玄関の置時計を見た。
正子「まだ2時間以上もあるのに、どうぞ遠慮しないで……」
こなた「どうしてもあの神社で会いたくて……あやめさんが来たらそう言って下さい」
正子「そうですか……もし来なかったら……」
こなた「来なかったらそのまま帰ります、その書類は大事に仕舞っていて下さい」
正子「あやめの部屋の机の上に置いておく、一番安全だからね」
微笑む正子さん……
もし神崎さんが真奈美だったら、もしかしたらその正体に気付いているかもしれない。いくら化けたと言っても本人になった訳じゃない。親ならばその異変に気付くはずだ。
こなた「あの~」
正子「はい?」
にっこり微笑む正子さん。
こなた「……い、いいえ、なんでもないです、それじゃ失礼します……」
正子「?……お構いもしませんで……」
やっぱり聞けないや……
私は神社に向かった。不思議そうに私を見る正子さんが印象に残った。

 幾ら待っても来ない。どうして。今日は帰らないつもりなのかな。
全く、母親に連絡もしないで留守にするなんて考えられない……ってもうそんな歳じゃないよね。それにしてもメールくらいの返事は欲しい……
って私もよくかがみからそう言われたっけ。いやいやそれはそれ。関係ない!!
腕時計を見るともう4時になろうとしている。ボーとしていたらもうそんな時間か。私は階段を見下ろした。人が登ってくる様子は全くない。
やれやれ本当の空振りだ。帰ろう。滑り下りが出来るようになったから下りるのはそんなに時間は掛からない。

 電車が来た。この電車に乗らないと特急電車に間に合わない。そうしないと今日は家に帰れなくなってしまう。電車がホームに到着した。
私はその電車に乗って空いている席に座った。電車はゆっくりと駅を離れた。
どうやって彼女と会うかな……あ、あれ……ま、待てよ。神崎さんがあのファイルを読んだら私と会う必要がないよね……もし、彼女がまだデータを分析していなかったら。
彼女はタナボタで解析済みのデータを手に入れてしまう。っとすると……神崎さんは次の行動を起こしてしまう……やばい。ダメだあのデータは直接私が渡さないとダメだった。
わわわ~どうしよう。なにやっているのかな~私は……ちょっとセンチメンタルになりすぎていた……ばかばかばか……
しょうがない次の駅で降りて引き返そう。私は席を立ちドアの前に立って次の駅の到着を待った。
早く次の駅に着かないかな~
おや……ドアの窓の向こうに並走するオートバイが走っている。そのバイクは私の乗っている車両で速度を合わせた。あのバイクは……神崎さんのバイクじゃない?
ヘルメットを被っていて誰だかは判らない。ライトを何度か点滅するとライダーは片手を上げたその手に持っているのは私の持って来たファイルだった。間違いない神崎さんだ。

 次の駅で降りるて改札口を出るとバイクに跨ったままヘルメットを取った神崎さんが待っていた。神崎さんは笑っていた。
あやめ「ふふ、何も言わずに帰るつもりだったの、だとしたらよっぽどお人好しだ」
こなた「へへへ、私もそう思って引き返す所だった」
あやめ「帰ったら泉さんが来ていたって母が言ってね、このファイルを渡してくれって……急いで追いかけたけど丁度電車に乗る所だった、気付いてくれて良かった」
神崎さんは私にヘルメットを渡した。
あやめ「話があるんでしょ、乗って……」
私はヘルメットを被ると神崎さんの後ろに座った。神崎さんもヘルメットを被るとバイクはゆっくり動き出した。バイクは電車で来た方法の逆に向かっている。戻っているみたい。
暫く進むとバイクは止まった。そしてエンジンが止まった。神崎さんはヘルメットを外した。
あやめ「着いたよ」
私もヘルメットを取りバイクを降りて辺りを見回した。
こなた「公園?」
そこは公園だった。滑り台、ブランコ、ジャングルジム……どこにでもあるような在り来りの公園だった。
あやめ「よく父がここで私と遊んだらしい、全く覚えていないけどね……この時間ならもう誰も来ない、込み入った話だって出来る」
そんな昔の話しを知っているなんて……やっぱり神崎さんは神崎さんなのかな……。
神崎さんは公園に入りベンチに腰を下ろした。私も公園に入ったがベンチには座らなかった。
神崎さんは持っていたファイルを開いてペラペラと捲って見た。
あやめ「……本当に解析したんた……半年は掛かると思ったのに……一ヶ月とは……仲間のお稲荷さんが協力したみたいね」
こなた「うんん、手伝っていない、ほとんとみゆきさんとかがみがした、それにお稲荷さんはみんな人間になったから」
神崎さんの紙を捲る動きが止まった。
あやめ「人間に……そう言えばそんな事を柊さんが言っていた、泉さんの友達はよっぽど優秀みたいね……」
こなた「さて、もう話しても良いんじゃないの、神崎さん」
神崎さんはファイルを見ながら答えた。
あやめ「あのデータを解析したのなら、私がこれから何をしようとしているのか大体判ったんじゃない、そしてその危険性もね……どうなの?」
こなた「4万年前の遺跡、それはお稲荷さんの物だった、それを利用して兵器を開発して密輸している貿易会社を暴こうとしている、そして、それに協力させられている
    お稲荷さんを救おうとしている」
あやめ「……そこまで分かっているならどれだけ危険な事は分かるでしょ、これから先は私一人でする、無用な犠牲は出したくない……あの会社の不正を暴くにはこのデータだけでは
    不十分なの、確証が必要、兵器の設計図、取引先の密約の文章……」
こなた「それが貿易会社本社の25階にあるわけだね?」
神崎さんはファイルを何度も捲った。
あやめ「……驚いた……そこまで分かっているの……」
こなた「まぁね、ところで神崎さんはどこまで分かったの?」
あやめ「わ、私はもう既に全部分析した……こんなファイルは要らないくらい」
こなた「それじゃ返して」
私は神崎さんの目の前に両手を出した。しかし神崎さんはファイルを私に渡す素振りは見せなかった。この人……負けず嫌いだ……
こなた「……返さなくて良いから教えて、神崎さんの本当の目的をね」
あやめ「…………だから、さっき言ったでしょ、貿易会社の不正を暴くって、それ以上でも以下でもない」
こなた「みゆきさんが言うにはお稲荷さんの使っている文字ってかなり難解だって、お稲荷さんの文字を読める人が貿易会社に居るって……多分そのファイルにも書いてあると思うけど」
神崎さんは黙ってしまった。
こなた「あらら、神崎さんらしくないね、ダンマリなんて……」
神崎さんはファイルを私に渡した。
こなた「へ?」
あやめ「ファイルは返す、そしてもう私に姿を見せないで欲しい」
こなた「ファイルはいいのかな、こんな短時間で全部読めないでしょ?」
あやめ「そのファイルは必要ない……それに間違えが数箇所あるから、調べ直しなさい」
うそ……まさか全部読んだ……ありえない。私が神社に向かった時にすれ違いで帰ってきたとしても二時間ちょっと……そんな短時間であのファイルを全部読むなんてできっこない。
神崎さんはヘルメットを被った。
あやめ「もうこんな時間じゃ帰れないでしょ、近くの町のホテルに送るから、それでお別れね」
もし本当にデータを全部解析していたとしたら神崎さんは人間じゃない。
この人はあくまで一人で行動するつもりなのか……よ~し、それなら。
こなた「ほんとうにそれでいいの、つかさが悲しむよ……真奈美さん」
神崎さんの動きが止まった。
あやめ「つかさ……真奈美……いきなり何を言っているの、貴女、大丈夫?」
私は続けた。間違えでも本当でも構わない。
こなた「神崎さんって本当はお稲荷さんの真奈美さんなんでしょ」
神崎さんはヘルメットを外した。そして私を呆れた顔で見ている。
あやめ「……最後の悪あがきね、そこまでして何故私を引き止める、私は貴女にとって赤の他人、私がどうなったって何も感じないでしょ、高々一ヶ月ちょっとの付き合いなのに」
赤の他人……何故か怒りが込み上げてきた。
こなた「……赤の他人……赤の他人でわざわざこんな所まで何度も来ると思う、つかさはね、つかさと真奈美さんはほんの数日の出会いだった……それなのに生まれた子供にまなみと名付けた、どれだけ慕っていると思っているの、時間なんか関係ない……」
神崎さんは一歩後ろに下がった。
あやめ「熱い事を言う…………ただの他人なら私を助けはしないか……泉さん、ただのオタクじゃないみたい……それで、何故私が真奈美なんて言うの」
こなた「おめでたい……データを解凍するとき神崎さんはそう言ったよね……つかさの旦那、真奈美の弟も全く同じ口調でそう言った、それだけじゃない、私のお弁当を食べたら作った人の気持ちを読んだよね……それにあのファイルを短時間で読んだし……」
あやめ「ふ……ふふ……ははははは~」
神崎さんは高笑いをした。
あやめ「そ、それだけで、ははは、それだけで私がお稲荷さんだって……それだったら泉さんだって……ははは、お稲荷さんの秘術を使うじゃない、お稲荷泉さん……」
神崎さんは暫く笑った。そして笑い終わると真面目な顔になった。
あやめ「パソコンを完全に制御した時の泉さんは正直言ってお稲荷さんだと思った……」
こなた「確かにあれはお稲荷さんの物だけど、教えてもらっただけだよ……あのUSBがなければ私はただの人間だよ」
神崎さんはまた笑った。
あやめ「それなら私も説明する、私は速読方を習ったからあのファイルの内容を把握するのにそんな時間は掛からない、速読方はコツさえつかめば大抵の人なら出来るようになるから
特別じゃない、、それからあのデータはね、約八割は2年前に入手済みだった、それに解析も終わっていた訳……それからお弁当は状況から推察すれば判る、泉さんの持って来た
    お弁当はとても丁寧に作ってあった、すぐに「心が籠もっている」って判る、最後に「おめでたい」……これは確かに真奈美の口癖だった、
    私は中学を卒業するまで彼女と何度も会っていた、その間にその癖が移ってしまった……それでも私がお稲荷さんって言うの?」
こなた「い、いいえ、ごもっともです……でもさ」
神崎さんの説明だと確かに普通の人間でも出来そうな事ばかり……
あやめ「でも、まだ何かあるの?」
こなた「真奈美さんと高校生から会ってないの、どうして?」
神崎さんはすこし悲しげな表情になった。
あやめ「彼女はいきなりもう会わないと言い出した、それに神社には大人になるまでと来るなって……一方的過ぎる」
そうか……つかさの時と同じだ。
こなた「それは神崎さんを守るためだと思う……」
あやめ「守る……ため?」
こなた「そうだよ、つかさの時もそうだった、お稲荷さんの殆どが人間嫌いだからね」
あやめ「人間嫌い……それは知っている、私を守るって……いったい柊さんと真奈美に何があったの?」
それはつかさに話してもらおうと思った。だけど……
こなた「話すよ、でも聞いたからには私達の会合に参加してもらうから、いいね?」
あやめ「……分かった……」
よし、これでかがみとの約束は果たした。
私は話した。つかさの一人旅の話しを。

 もうすっかり日も落ち街灯が点いた。静かな公園。街灯の光が私達二人の座っているベンチを淡く照らしていた。
私の話が終わって数分が経つけど神崎さんは動こうとはしなかった。
あやめ「……ま、真奈美は死んだ……死んでいた……ばかな……そんな筈はない」
私に訴えかけるような目だった。
こなた「そう、私達もつい最近までそう思ってた、だけどね、神崎さんと同じ様にお稲荷さんが貿易会社に囚われているんじゃないかなってみゆきさんが言ってね、理由も
    神崎さんが最初に持って来たデータと同じだった」
あやめ「でも、さっきの話しだと彼女は首に致命的な傷を負って……絶望的じゃない」
こなた「でもね、つかさの話しだと消えちゃったって言ってた、だから誰もも本当に亡くなった所をみていないんだよ、つかさもそれは心の奥で感じていたみたいでね、
    真奈美さんからもらった葉っぱを今でも大事に財布に仕舞っているよ」
あやめ「葉っぱ……それはもしかして葉っぱをお札に見えるようにした技じゃないの」
こなた「そうだったかな……」
神崎さんは微笑んだ。
あやめ「彼女は悪戯が好きでよく私にそれを見せてくれた……家に帰ればその時の葉がまだある」
こなた「ふ~ん」
私はまじまじと神崎さんを見た。
あやめ「な、何、その顔は、私の顔に何か付いている?」
こなた「神崎さんが真奈美さんを助けていなかったら、つかさはあの時殺されていた、つかさが居ない世界、もちろん私はレストランかえでの店員になっていない、
    うんん、働いていたかどうかも分からない、そして……かがみもこの世にいなかった」
あやめ「私が柊さん姉妹を救ったって、ふふ、私は一匹の狐を拾っただけ、仔猫を拾ったようなもの、取るに足らないもの、何の関係もない」
こなた「うんん、神崎さんが真奈美さんを助けたから真奈美さんは人間に対する憎しみが減ったんだよ、だからつかさを殺せなかった」
あやめ「本人が生きているならそれも聞けるでしょうね……」
こなた「生きているなら私も会ってみたいな~」
神崎さんは立ち上がった。
あやめ「最初から私は貿易会社に囚われているのは真奈美だと思っていた……」
こなた「あれ、でもあのときはワールドホテルの会長だって……」
あやめ「ごめんなさい、いきなり真奈美の名前は出せなかった、貴女達が真奈美を知っていたのが分かっていたのならもう少し違った対応もあったかもしれない……」
こなた「もしかして、神崎さんの目的って、真奈美さんを助ける為?」
神崎さんが頷いた。
あやめ「何よりそれが最優先」
こなた「それなら私達と目的は同じだよ、一緒にやろうよ、一人でするより成功率が上がるよ」
神崎さんの目が厳しくなった。
あやめ「一緒にって言っているけど、これはお遊戯じゃない、分かっているの?」
こなた「神崎さんも見たでしょ、怒ったかがみのあの姿を、私だってつかさやかがみと一緒にここまで来たから分かっているつもりだけど」
神崎さんは諦めたような溜め息をついた。
あやめ「これも何かの運命ってやつかもね……」
神崎さんは公園の中央にある時計台を見た。
あやめ「もうこんな時間、もう電車じゃ帰れないでしょ……バイクで送ってあげたいけど……泉さんには少し辛いかな……」
あのバイクで家まで帰るのはきつそうだ。
こなた「……ちょっと……ね」
あやめ「それじゃ一度家に帰って車で送ってあげる、」
こなた「う~ん、そこまでしてもらわなくても、一晩泊めてくれれば朝一番の電車で帰るよ……」
あやめ「……その方が良さそうね……」
その日私は神崎さんの家に一晩泊めてもらった。

 それから丁度10日が過ぎた。今日は水曜日、つかさの店がお休みの日……と言ってもここ数日つかさの店は臨時休業になっている。
かえでさんの体の具合が芳しくなく1週間くらい前から入院している。医者の話しだと入院するほどまでではないらしいけど旦那さんが心配して入院させたそうだ。
確かにかえでさんだけの体じゃないからそれはしょうがない。かえでさんが抜けたのでつかさが臨時でかえでさんの代わりに店を手伝ってくれていた。
そのせいでつかさの店はおやすみだった。
そして今日は神崎さんが来ると約束した日。私とつかさが抜けるので夜はレストランもお休みにした。
それで集合場所はこのレストランにしたのだった。
かがみは約束の一時間も前に来ていた。
こなた「相変わらず早いね、かがみ」
かがみ「間違いがあるって言うからもう一度見直したのよ……」
かがみの目が怒っている。
こなた「直したってあのファイルを?」
かがみ「そうよ、他に何があるのよ!!」
私を睨み付けてきた。
こなた「こ、こわ~」
かがみ「来たら一番に見せ付けてやる」
間違えを指摘されてよっぽそ悔しいのだろう。
そんなかがみを尻目につかさが私服に着替えて来た。隣にはひろしも居る。
つかさ「……あやちゃん、今日は残ってくれなかった……」
淋しそうな顔おつかさ。
かがみ「この前の会合とは違う、あやのはそれを感じたのかもしれない……まつり姉さんとまなぶさんも来ないわ、それからゆたかとみなみも来ない、
ひよりは神崎さんと一度も会っていないから来るって言っていた、みゆきは少し遅れる」
つかさ「そ、そうなんだ……い、いのりお姉ちゃんは?」
かがみ「いのり姉さん夫婦は来る」
つかさ「よかった」
ひろし「よかったじゃない、本当はつかさも来て欲しくなかった」
つかさ「大丈夫だよ、私、何も分からないから話しを聞くだけ、それと神崎さんとお話をするだけだから」
つかさは辺りを見回した。
かがみ「ひとしさんは?」
かがみ「彼は彼なりに貿易会社を調べると言って事務所にいる……」
かがみは窓から外を見た。
かがみ「……彼女が来た、早いわね……」
私も外を見ると既に入り口の直ぐ前まで歩いてきていた。服装は普段着だ。多分バイクじゃなくて車か電車で来たのだろう。つかさが扉を開けて神崎さんを店に入れた。
つかさ「こんにちは……」
神崎さんはつかさを見ると礼をしてそのまま店の奥に入った。
つかさ「あ、あの~この前の演奏会の記事ですが……ありがとうございます、まなみも……娘も喜んでいました」
神崎さんは立ち止まりつかさの方に振り向いて微笑んだ。
あやめ「あれは私が感じた事をそのまま書いただけ、代筆だから上手く書けなかった、素晴らしい演奏だったのを表現したつもり……もう一度聴きたい」
つかさも微笑み返した。
ひろし「う、嘘だろ……神崎あやめ!」
いきなり大声を上げた。私達全員がひろしの方を向いた。神崎さんは首を傾げてひろしを見ていた。
ひろし「お、お前から姉の気配を感じる、何故だ……まさか、泉こなたの言っていたのは本当なのか!!」
ひろしが神崎さんを大きな目をして驚いている。神崎さんは否定したのに……でもひろしがそう感じたって事は、まさか……
神崎さんは再び微笑むと胸のポケットから手帳を出し開いてそこから一枚の一万円札をを出してひろしに腕を伸ばして見せた。
ひろし「そ、それは……」
つかさ「あっ!!」
つかさも思い出した様にポケットから財布を出し中から葉っぱを出して神崎さんと同じ様に腕を伸ばして神崎さんに見せた。
つかさ「同じだね!」
つかさは満面の笑みを浮かべた。神崎さんはゆっくりお札ををつかさの方に向けた。
あやめ「私に唯一真奈美が残した物……柊さんにそのお札ををどうやって渡したのか想像がつく……」
つかさ「……私も……私も分かるよ……悪戯好きの狐さんだったから……一日経つと……葉っぱに戻っちゃうから……」
微笑みながらもその目には涙が溜まっている。いまにも零れ落ちそうだった。
二人は暫くそのままの状態で止まっていた。もう二人は分かり合っている。
この二人にはこれ以上の言葉は要らないみたい。そんな気がした。

 神崎さんは一万円札を手帳に挟むと胸のポケットに仕舞った。
あやめ「ごめんなさい、昔話はまた今度にしましょう」
神崎さんはかがみの方に向かって歩き出した。そしてかがみの目の前で止まった。
あやめ「大事な妹さんに手荒な事をしてしまいました、すみません」
深々と頭を下げた。葉っぱを見せ合った二人を見ていたかがみは少し動揺したのかそれとも、神崎さんの素直な態度に戸惑ったのかオロオロした。
かがみ「べ、別に……もう過ぎたことだから……か、勘違いしなで、つかさが許したから大目にみただけで私は完全に許した訳じゃ……」
神崎さんはゆっくり数歩下がって私に近づいた。
あやめ「……ツンデレですか……」
こなた「流石記者……よくお分かりで……」
かがみは立ち上がった。
かがみ「ちょ、ツンデレ言うな、それにこなた、記者は関係ないでしょ、記者は!!」
神崎さんは腕を組んで頷いた。
あやめ「ふむ、ツンデレに、ツッコミも入っている、泉さん……貴重じゃない」
私も腕を組んで頷いた。
こなた「そうそう、ほらかがみ、やっぱりツンデレだ、神崎さんが証明した」
かがみ「う、うるさい、だまれ!!」
かがみは怒っている。怒ってはいるけどあの時のような気迫はない。高校時代からよく怒っているのと同じレベルだ。つまりかがみは神崎さんを許した。
神崎さんは笑った。
あやめ「ふふ、冗談はこのくらいにして、本題に入りましょうか?」
かがみは咳払いをした。気持ちを切り替えたようだ。
かがみ「まだ来る予定の人が来ていない、時間まで待って」
神崎さんは腕時計を見た。
あやめ「……少し早く来すぎたかしら……分かった、待ちましょう」
つかさ「あ、あの……少し話しませんか?」
つかさが神崎さんの近くに寄ってきた。すぐ後ろにはひろしも居た。
神崎さんは私とかがみを交互に見た。私とかがみは頷いた。神崎さんはつかさの方を向いて頷いた。
つかさはテーブル席の方に歩いていった。神崎さんとひろしもそこに移動した。

 つかさと神崎さんが話しをしている。時より笑いが混じりながら、そしてあのひろしまでがその話しに混ざっている。一見すると数年来の親友のような……
いや、家族じゃないかと思えるほど三人は自然な状態で話している。話題はもちろん真奈美の話しだ。ひろしが神崎さんを知らない所を見るとやっぱり真奈美は
神崎さんと交流があるのを他のお稲荷さんには内緒にしていた。それはそうだ、もしそれがばれたらきっと神崎さんは只では済まない。もしかしたら殺されていたかもしれない。
神崎さんが高校生になってから会わなくなったのも、神社に来させなかったのも神崎さんを守るため。神崎さんがあのまま頻繁に神社に出入りしていたらつかさと同じ様になっていた。
だから……つかさが生贄に選ばれた時、真奈美はつかさを守った。命を懸けて……
こなた「ふぅ~」
かがみ「こなたが溜め息をつくなんて……雨でも降りそうだ」
こなた「ふんだ、私だってたまにはそんな時もあるんだよ……」
かがみ「へ~ そんな時って何なのよ」
かがみは私の見ているつかさ達の方を見た。
かがみ「……楽しそうね……まだ全員集まっていないし時間ならまだあるわ、話したいなら行きなさいよ」
こなた「うんん、話したい訳じゃない……話しに入っても真奈美さんを知らないから……」
かがみ「そうね……それは私も同じ……」
こなた「見てかがみ、あんなに楽しそうに……ついこの間まで私は神崎さんをつかさから遠ざけようとしていたのにさ」
かがみ「それは私も同じよ……」
こなた「それなのにあんなに楽しそうにしちゃって、しかもひろしまで混ざって……私が一ヶ月以上掛けた事をたった一日で……」
かがみは私を見た。
かがみ「何よ、つかさに嫉妬してるの?」
嫉妬……
こなた「……つかさに出来て私に出来ない訳がない……そう思って勝負した……簡単な勝負、神崎さんを仲間に入れる勝負……結局勝てなかった」
かがみはつかさの方を見た。
かがみ「ふふ、やっと私の気持ちが分かったみたいね……勝負なんかしてもつかさに勝てないわよ……」
こなた「つかさのくせに……」
かがみ「勝負なんか挑んでもつかさは最初から勝負なんかしていないし自覚すらしていない、だから勝てるはずないじゃない、こなたの負け」
こなた「へぇ、分かるんだ」
かがみ「これでもつかさの双子の姉よ……考えてみて、けいこさんの依頼を受けるなんて正気じゃ考えられない、人類とお稲荷さんの共存だなんて……
    どんな大国の大統領でもできっこないにに……つかさはそれを受けた……バカよ……しかもみゆきまでその気にさせたのよ……」
こなた「……まぁ、失敗しちゃったけどね……」
かがみは私を見た。
かがみ「失敗……こなたはそう思うか、違うわよ、少なくとも私達四姉妹に関して言えば成功している……」
こなた「そりゃ全員お稲荷さんの旦那さんだもんね……でもいのりさんとまつりさんの旦那さんははつかさと関係ないでしょ……」
かがみ「つかさが真奈美さんの話しを家族や友人にしていなければそうなならなかった……あんな体験を話すなんて……信じるとは思わないから
    普通は話さないで心の奥に仕舞っておくものよ」
こなた「でもつかさは話した……」
かがみ「そう……おまけにお稲荷さんの秘薬までつくらせた、だから勝てる訳がない……」
かがみはまたつかさの方を見た。
かがみ「でもね……これから挑もうといているのはそんなのは通用しない、兵器を密輸する死の商人、正義とか良心とか常識なんかかざしても何も感じない連中……
    しかもお稲荷さんの存在を知っている、貿易会社が私達の事を知らないのが唯一の幸いだ」
こなた「貿易会社……」
かがみ「そう、こなたの持って来たデータだけじゃ証拠が不十分なのがやらしい……それにけいこさん達をいとも簡単地拘束させるなんて向こうもかなりの策士よ」
こなた「ワールドホテルの事件が貿易会社の捏造だったら……組織の力だよね……私達には手に負えないよ、ちょっと無理ゲーかもしれないね」
かがみ「その確証もデータでは得られなかったけどな……さて、みゆき達が来たみたいよ……」
かがみは深呼吸を一回すると立ち上がりつかさ達の方に歩いて行った。
かがみ「メンバーが揃ったみたい、雑談は終わりよ」
かがみの話しだとかなりやばそうな展開になりそう。

フラグがたったか……な。



 皆が揃うとかがみが神崎さんにファイルの説明をしだした。ががみのその目は真剣そのものだった。かがみは何であのデータをこんなに真剣に調べたのだろう。
真剣なかがみの顔を見ながら考えていた。
そういば、ついさっきかがみは私がつかさに勝てるはずがないとか言っていた。まるで自分の事の様な言い方だった。
まさか、かがみも私と同じ様につかさに勝とうなんて思っているのでは。確かにかがみはつかさには出来ない事をしようとしている。貿易会社の不正を暴くなんてつかさには
出来そうにないから。それでかがみは……何もそこまでしなくてもいいのに。さっきのかがみの言い方じゃ結果は私と同じになる。かがみもつかさに勝てない。それなのに……
つかさにだってかがみに勝てない所がいっぱいあるのにね。姉としてのプライドなのか。意地なのか。見栄なのか……かがみらしいと言えばそうかもしれないけど……
 かがみの話している内容はこの前と同じなのですぐに飽きてきた。眠気覚ましにふと周りを見回した。
つかさはコックリ、コックリと睡魔と闘っている。その夫ひろしはつかさが席から落ちないように方に腕をそっと添えて支えている。まったく見せ付けてくれる。
みゆきさんはファイルを見ている。きっとかがみの説明を追ってみているに違いない。
いのりさん夫婦は真剣にかがみの話しを聞いている。特にすすむさんは食い入る様に聞いている。この前もそうだったけどお稲荷さんの中ではすすむさんが一番真剣みたい。
そういえばまつりさん夫婦は来ていない。この辺りの温度差が不思議に感じる。
最後ににひよりは……
一所懸命ノートにメモをしている。どうしてだろう……ひよりも真奈美を助けたいのかな、いや、ひよりも真奈美とは一回も会っていないはず。
まさか漫画のネタにする気じゃ……

 かがみの話が終わると神崎さんが立ち上がった。
あやめ「丁寧な説明でした、このファイルは大変良く纏め……」
かがみ「待った、まだ指摘された修正の説明が終わっていない」
割り込むようにかがみも立った。
あやめ「訂正したとしても結果が大きく変わるものではありません、それ以上の説明は結構です」
かがみ「な、なによ、間違ってるって言うから調べなおしたのに……」
かがみは不満そうにブツブツ言いながら座った。
あやめ「私もこのファイルと同じ結果が導き出されました、貿易会社は四万年前の遺跡、つまり墜落した宇宙船の残骸からメモリーを見つけ出して
    中身を解析してその知識と技術を独占している、しかもそれで兵器や武器を作って密輸までしている、これでいいかしら?」
かがみとみゆきさんは頷いた。
みゆき「しかもあのメモリーを解読するのは簡単ではありません、しかも解読したとしても未知の技術や理論を理解するには更に時間が掛かります、ですが彼等は実用レベルまで
    兵器を作っているようです、この事から貿易会社に協力している……いいえ、させられているお稲荷さんがいるに違いありません」
神崎さんは頷いた。
つかさ「そ、それがまなちゃんなの!?」
さっきまで夢うつつだったつかさが身を乗り出した。
みゆき「データからの推測なので確証はありません」
あやめ「そこの元お稲荷さんの意見がききたいですね」
神崎さんはひろしとすすみさんの方を見た。
ひろし「僕達4人以外に仲間が居るはずがない、でも、それでも居ると言うなら姉しかいないだろうね、姉は亡くなった事になっているから」
すすむ「……いや、仲間の死を確認出来ないで後に生存していた例が何回かある……言えるのは人間が短時間であのメモリーを
    理解出来るとは思えない、あのメモリーからデータを取り出すだけでも数百年先の技術が必要だ」
みゆき「5人目のお稲荷さんが居るのは間違いなさそうですね」
つかさ「それじゃ早く助けないと」
その先からは神崎さんも座り込み黙り込んだ、そして、誰も話さなくなった。つかさはきょろきょろと皆を見て戸惑った。
つかさ「ど、どうしたの……私、変な事言ったかな、こなちゃんと神崎さんでデータを持って来たのでしょ、だから同じ様にすればきっとまなちゃんも助かるよ」
神崎さんは首を横に振った。
つかさ「な、なんで、どうして……」
つかさは私の方を向いた。
こなた「データはメモリーに入れちゃえばポケットに入る、だけど……人はポケットに入らないからね……例え狐の姿だとしても連れて帰るなんて……」
かがみ「その様子だともう貿易会社の25階を調べたな」
さすがかがみ……
こなた「調べたと言うか……ちょっとハッキングしてみたんだけどね、あの階にはコンピュータが見つからない……この前ハッキングした35階の資料室はいつでも出来るけど
    なぜか25階だけはどうしても見つからない……これもお稲荷さんの技術なのかな……」
すすむ「いや、見つからならその25階のコンピュータは回線に繋げていないのだろう、繋げなければ繋がらない、当たり前だが確実だ、よっぽど知られたくない情報を仕舞ってあるに
    ちがいない」
オフラインなのか。どうやら私の出る幕ではなさそうだ。
こなた「そのオフラインのコンピュータの情報を得るには直接その場に行かないとね……そこのセキュリティはこの前言った通りだから、サイン会くらいじゃ揺らがないよ」
かがみは溜め息を付いた。
かがみ「さて、どうしたものかしらね……」
かがみは神崎さんを見た。
かがみ「あんたならもう何か策を考えているんじゃない?」
神崎さんはゆっくり立ち上がった。
あやめ「私は言った、これ以上は私に関わるなって、これで分かったでしょ、どれだけ危険な事なのか、親身なってくれるのはありがたいけどこれ以上の議論は無駄なようね」
神崎さんは帰り支度をしだした。
かがみ「ちょ、ちょっと何よその態度は、私達を見くびらないで、こっちには元お稲荷さんだっている」
あやめ「ワールドホテルの柊会長を助け出せなかった人がよく言う」
う、痛い所を突いてきた。やばい、かがみの目が尖ってきた。
かがみ「な、なんだと、そっちこそこなたに助けられたくせに、一人で何が出来るって言うのよ、今度どこそ捕まってしまうぞ」
あやめ「なんですって、言ってくれるじゃない」
かがみ「何度でも言うわよ!!」
二人は詰め寄って言い合いになった。やばい、
かがみが今にも手を上げそうだ。私が止めに入ろうとした時だった。
みゆき「神崎さん、かがみさん!!」
つかさはかがみの前に、みゆきさんは神崎さんの前に立って二人の言い合いを止めた。
かがみ「み、みゆき……」
あやめ「近藤さん……」
つかさ「喧嘩はだめだよ」
みゆきさんはかがみの方を向いた。
みゆき「私達がしようとしているのはとても危険です、なによりそれを知っているのは神崎さんです」
かがみはみゆきさんを見ながら座った。
かがみ「……そうね、私が悪かった、怒鳴ってすまない」
みゆきさんは神崎さんの方を向いた。
みゆき「あの当時私たちの出来る精一杯の行動でした、それでも力不足は否めません、ですから神崎さんのご協力が必要なのです、神崎さんが泉さんを必要としたように」
神崎さんはかがみの方を見た。
あやめ「……私も言い過ぎた、ごめんなさい」
神崎さんは席に着いた。

 二人が席に着いて数分した頃だった。みゆきさんが立ち上がった。
みゆき「すみません、意見がなさそうなので私から提案があるのですが」
かがみ「なに?」
みゆき「先ほどから再び潜入される話ばかりしていますが本当に潜入する必要があるのでしょうか?」
かがみ「当然でしょ、捕まっているお稲荷さんを助けないとならない、そのお稲荷さんが真奈美さんだったら尚更でしょ」
みゆきさんは首を横に振った。
みゆき「いいえ、そうではなく危険な潜入をする必要があるのかと言うことです」
かがみ「潜入しなければ助けられないでしょ、虎穴に入ずらんば虎子を得ず…」
みゆきさんはまた首を横に振った。
みゆき「要するに今あるデータを使えばわざわざ潜入する必要はないのでは、このデータだけでも密輸をしているのは明白の事実、これを世間に公表すれば
    貿易会社に捜査の手が及ぶでしょう、そうすれば捕らわれた真奈美さんも助かります」
かがみは目を大きく見開いた。
かがみ「そ、そう言えばそう、そうだわ、このデータを使えいいのよ、流石みゆき、これ以上危険な事をする必要はない」
かがみは得意げに神崎さんの方を見た。
あやめ「ふぅ、つくづくおめでたい……」
かがみ「な、何よ、そのムカツク言い方は!」
つかさ「……まなちゃん……」
ひろし「姉さん……」
怒るかがみを尻目につかさとひろしが懐かしそうに神崎さんを見ていた。神崎さんの「おめでたい」はそれほど真奈美の言い方にそっくりなのだろう。
神崎さんは立ち上がった。
あやめ「このデータだけでそれが出来るならとっくにそうしていた、貿易会社はね昔から密輸の噂があった会社なの、このデータだけでは不充分……それにね、
    お稲荷さんに関するデータは公表出来ない、公表したら信憑性が落ちてしまう」
みゆき「しかし、この知識はまだ私たちが到達していないものばかり、それ自体が証拠になるのでは」
あやめ「到達していない知識だからみんな理解出来ない、オカルト程度の話で終わってしまう」
みゆき「し、しかし……これ以上危険な……」
神崎さんは人差し指を立てて横に振った。みゆきさんはそれ以上言うのを止めた。
あやめ「このデータを公表して誰が捜査する、ワールドホテルの事件を忘れた訳じゃないでしょ、その捜査する側が貿易会社の息がかかっているからこの程度の証拠はもみ消されて
    しまうでしょう、それにね、もし捜査までいったとして、捕らわれている真奈美さんとお稲荷さんのデータ板はどうなるかしら……
    どこかに隠してしまうでしょうね、仮に貿易会社が解体したとしても真奈美さんとデータ板がある限り第二、第三の貿易会社が出来るだけ、いいえ
こんどは国家が、大国が関わってしまうかも、そうなったらもう私達では太刀打ちできない」
神崎さんはまた座った。みゆきんはこれ以上言っても無駄だと思ったのか俯いてしまった。
みゆき「す、すみません、私が浅はかでした」
かがみはみゆきさんの代わりとばかりに言い寄った。
かがみ「なかなかもっともらしい事を言ってくれるじゃない、それならあんたに何か策があるって言うの!?」
あやめ「ある……」
ゆっくりと答える神崎さん。
かがみ「それじゃその策とやらを話して」
神崎さんは私達を見回した。
あやめ「これは極秘事項なの、だから実際に行動を共にする人でないと話せない」
かがみ「この中に話せない人がいるって言うの?」
神崎さんは頷いた。そして神崎さんはつかさの方を向いた。

あやめ「柊さん夫婦には話せない」
つかさ「え、ど、どうして……」
ひろし「何故だ、自分の姉だぞ、一番助けたいにきまっているじゃないか!」
悲しそうな顔をするつかさ、怒り出すひろし。
あやめ「その身内ってのが一番危ない、今度の計画には冷静な判断、機械的な正確さが必要なの、私が話せないって言ったくらいで怒ったり悲しんだりするようじゃとてもじゃないけど
    この計画は成功しない」
二人は黙ってしまった。
かがみはつかさの方を見た。
かがみ「神崎さんの言う通りかもしれない、今回は私達に任せて」
つかさ「う、うん……」
神崎さんはかがみの方を向いた。
あやめ「いいえ、小林さん、小林さん夫婦にも話せない」
かがみは一歩後ろに下がって身を引いた。
かがみ「なっ!、ばかじゃない、あのデータの解析をしたでしょ、これ以上の適任はいない」
神崎さんは首を横に振った。
あやめ「貴女はワールドホテル事件の時、弁護を担当した事務所に所属していたでしょ、これを見て」
神崎さんは鞄からL版の写真をテーブルの上に置いた。そこには黒ずくめの服を着た女性が写っている。写真の風景は見覚えがある……
そうだ。私が潜入取材の時に働いていた喫茶店だ。まさかあの時のかがみを……
あやめ「私がたまたま店に居た時に隠し撮りしたものだけど、数名の人に尾行されているのに気づかなかった?」
かがみ「し、知らない……尾行……まさか」
あやめ「この後、この店を出て別の喫茶店に向かったでしょ、何をしたの、私は尾行を巻いたからその後の足取りが掴めなかった」
かがみ「こなたと会っただけ……よ」
神崎さんはため息をついた。
あやめ「それならいいけど、行動は気を付けて、私が貴女の事務所を取材しなかったのは貿易会社から監視されているから、本当は此処にも来て欲しくなかった」
かがみ「ま、まさか此処も監視されて」
かがみは窓を開けて外を見回した。
あやめ「監視されているのはあくまで貿易会社の本社に近づいた時だけ、あまり重要視はされていないみたい」
かがみ「ま、まずい、ひとしが……」
かがみは慌てて携帯電話を取り出した。
あやめ「安心して、もう彼には連絡をして調べないように言ってあるから」
かがみは携帯電話を持ったまま動かなくなった。
神崎さんは帰り支度を再び始めた。
あやめ「さっき言った4人以外で私の計画に協力できる人が居たら今度の日曜日、私の家に来て、此処に居ない人も呼んで構わない、但し、それなりのリスクは覚悟して」
帰り支度が終わるとドアに向かって歩き出した。
ひろし「まて!」
神崎さんは立ち止まった。
ひろし「姉を……頼む」
神崎さんは頷くと黙って頷くと店を出て行った。

神崎さんが帰って店は静けさに包まれた。
かがみ「な、なによ……プライベートは調べないって言ったじゃない……」
ぼそっとかがみが呟いた。
みゆき「いいえ、かがみさんがけいこさんの弁護の手助けをしていたのはプライベートではありません」
かがみ「そうね、確かにその通り……」
かがみは私の方を見た。
かがみ「こなたはあの時気づいていたか、神崎さんが居たのを?」
こなた「うんん、知らなかった、知っていればもう少し違った対応をしていたかもね」
かがみ「その様子じゃ尾行も気づかなかったみたいね」
こなた「かがみが気づかなかったのに私が気づくわけがないじゃん」
ため息をつくかがみ、諦めたみたいだった。
かがみ「私はお荷物ににしかならないか……」
みゆき「神崎さんの様子から推察しますと、以前からかがみさんを調べていたみたいですね……」
かがみは帰り支度を始めた。
こなた「へぇ~ かがみにしては珍しいね、神崎さんに言われてもう引き下がっちゃうの?」
かがみは私の方を向いた。
かがみ「引き下がる……そう、ちょっと癪にさわるわね、でも彼女の言う事は正しい、私とひとしは貿易会社からマークされている、これはおおきなハンデ
    それを挽回できる程の力は私達にない、素直に退散するしかない」
かがみはつかさの方を向いた。つかさは黙って俯いている。
かがみ「つかさ、いつまでしょげてるのよ、帰るわよ」
つかさはゆっくりかがみの方に顔を上げた。
つかさ「私……私……」
つかさは今にも泣きそうな顔になっていた。
かがみ「バカね、嘘でもいいから笑っていれば神崎さんだって少しは考慮しただろうに……でも、そんなつかさだかで良いわ」
つかさはまた俯いた。
かがみ「……ほらほらひろし、あんたの出番でしょ、あんたもいつまで落ち込んでいる」
ひろし「あ、ああ、分かってる……」
ひろしはつかさの側に寄り添った。かがみは私の方を向いた。
かがみ「あんたは行くのか」
こなた「神崎さんは来るなとは言ってないし……私が行かない理由はないかな」
かがみ「あんたにその覚悟はあるのか、私個人から言わせてもらえば行かせたくない、こなたには直接関係ないじゃない、真奈美さんだって会ったこともない、
    それにお稲荷さんのメモリー板なんて興味ないだろう」
かがみが私を止めるなんて。
こなた「乗りかかった船だし……ってかもう乗っちゃってる、それにこのまま中途半端じゃ終われない」
かがみ「そう……」
あっさり引き下がるかがみ。そしてこんどはみゆきさんの方を向いた。
みゆき「泉さんと同じです」
にっこり微笑み返した。
かがみ「……何も言っていないのに……まぁいいわ……」
かがみはひよりの方を向いた。
かがみ「ひよりも行くのか……」
ひより「それより一つ聞きたいことが……」
ひよりはすすむさんの方を向いた。
ひより「お稲荷さんのメモリー板の話が出てきてから突然態度がかわりましたよね、何故っスか?」
すすむ「態度が変わった……いや、私は何も変わっていない」
ひより「いいえ、変わった、お稲荷さんの知識を人間が得るのは肯定できでしたよね、でも今は違った」
すすむ「……人類が我々の知識を得ようが使おうが構わない、例え武器や兵器を作ったとしてもね……それが人類の総意ならばの話だ、見たところそうではなさそうだ、
    それに、あのメモリー板は私が故郷から預かった物、私はあの会社に渡したつもりはない」
ひより「そ、そっですスか……」
すすむさんが少し怒り気味になっている。ひよりが少し驚いている。
すすむさんは立ち上がった。そしていのりさんを見た。
すすむ「今度の土日は休診日にしておいてくれ、私は準備をしないといけない、先に帰る」
いのり「わ、分かった……予約はしないようにする」
すすむさんはそのまま店を出て行った。

 すすさんが出て直ぐにかがみがが話し出した。
かがみ「すすむさん……何時になく感情的になっているわね……姉さん、何か知っているの?」
かがみは帰るのを止めて座った。
いのりさんは少し話すのをためらった様にもみえたけど話し出した。
いのり「彼は昔の事故の責任を取りたいって……そう言っていた」
かがみ「どう言う事なの?」
いのり「……彼は、すすむはこの地球に来る時の調査船のパイロットだった」
すすむさんががこの地球に来たのって4万年前だった。その時の事を言っているのか。
ひより「まさかすすむさんはあの時……」
いのりさんは頷いた。
いのり「操縦ミスをしたみたいね、宇宙船が墜落した時、乗組員は全員無事だった、だけどメモリー板だけは見つからなかったみたい」
かがみ「4万年前のミスを未だに悔いているなんて……知らなかった、でも、そんなのもうとっくに時効だわ」
いのり「すすむはそうは思っていない」
かがみ「するとすすむさんも参加するのか……まなぶさんはどうなんだろう……」
いのり「すすむが関わるなって言っているみたい……」
かがみ「そう……」
かがみは立ち上がった。
かがみ「一応ここに居なかった人にもこの旨を話しておく、参加するもしないも自由、だけどそれはとても危険な事をするってことは自覚して、しかもそれで
    成功したとしても報酬は一切ない、失敗すれば命すら危ういのよ……分かったわね!!」
かがみは私に向かって話していた。私に言い聞かす様に……
そしてかがみの言葉を最後にこの会合は解散になった。

 私は思った。
神崎さんは最初からかがみがつかさの妹だって知っていたのかも。だからあの時つかさの手を強く握ってわざと怒らせて嫌われようとした。
でも、そんな細かいことはどうでもいいのかもしれない。神崎さんの目的が分かった。そっちの方が重要かもしれない。
彼女は捕らわれている真奈美とお稲荷さんの知識を納めたメモリー板の両方をあの貿易会社から助け出そうとしている。
どっちか一つでも大変なのに両方ともなんて……
でも考えてみればどっちか一つ残したって意味はない。やっぱり助けるなら両方ともになってしまうのかもしれない。
幸い元お稲荷さんのすすむさんが協力してくれそうだからもしかしたらなんとかなるかも。そんな淡い期待をする私だった。

 土曜日の夜。つまり神崎さんの家に行く前日。私は日直当番の日だったがつかさが代わりにやってくれると言うので一足先に店を出る準備をしていた。
つかさ「ねぇ、こなちゃん、本当に行くの?」
こなた「行くって……神崎さんの所?」
つかさ「うん、神崎さんは言ってたでしょ、覚悟が必要だって……それにお姉ちゃんもこなちゃんは行かないようにって何度も私に言うしね……」
そこまでして行かせたくないのか。
こなた「それならみゆきさんだってそうでしょ、それにすすむさんだって、彼は義理の兄だよ、多分ひよりも行くと思う、なんで私だけなの?」
つかさ「そうだけど……」
つかさはいつになく悲しげな顔になった。
こなた「もしかしてつかさもかがみと同じなの?」
つかさ「だって、こなちゃんは直接関係ないから……」
私はがっかりした表情にして見せた。
こなた「関係ないね、ふ~ん、つかさにとって私ってその程度だったんだ」
つかさは慌てだした。
つかさ「ち、違うよ、私はこなちゃんが心配だから……」
そう言うのはだいたい想像できた。もうつかさとはかれこれ10年以上の付き合いだ。つかさがどう反応するかなんてだいたい分かってしまう。
こなた「もうそろそろこのゲームを終わらそうと思ってね」
つかさ「え、な、なに、ゲーム?」
つかさは目を大きく見開いて驚いた。私は頷いた。
こなた「つかさが始めたゲーム」
つかさ「私が……始めた?」
こなた「そう、勇者つかさは結婚して家庭を持ってしまったから代わりに私がこのゲームの続きをするよ、お稲荷さんの呪縛から皆を解き放つの」
つかさ「……こなちゃん……」
私は笑った。
こなた「ふふ、実はね、お稲荷さんの知識がどうかとか、人類の未来とかぜんぜん興味が無い、興味があるのは真奈美さん」
つかさ「まなちゃん?」
こなた「そう、つかさを180度変えてしまった真奈美さんに一度会ってみたくなった、私の目的はそれだけ、このゲームを終わらせてまた学生時代の時みたいに楽しく行こう」
つかさは笑った。
つかさ「学生の時って、こなちゃん今だって高校時代と全く変わっていないよ、それに私だって変わっていない……お姉ちゃんやゆきちゃんだって」
こなた「みゆきさんはあのまま変わってないね、かがみは凶暴なのはそのままだった」
つかさ「またそんな事言ってる」
つかさが笑った。その後、しばらく二人で話しに花を咲かせた。

 話に夢中になりすぎてつかさの仕事がぜんぜん進まないか。それに私もそろそろ行かないと。
こなた「それじゃお先に失礼しますよ」
私は店を出ようとした。
つかさ「それじゃね、こなちゃん、がんばって……」
待て、本当にこれで良いのかな。私は立ち止まった。
こなた「神崎さんはああ言ったけど、気にすることなんかないよ、一緒に行こうよ、真奈美さんを助けたいんでしょ、さっさと戸締りしてさ、車で待ってるから」
つかさ「本当!?」
一瞬、すごく嬉しそうな顔をした。でも直ぐに首を横に振った。
こなた「どうして、私なんかよりつかさの方がずっと真奈美さんへの想いは強いよ、それさえあれば……」
つかさ「ありがとう、でもね、ひろしさんが言ってた、その想いが強いほど失敗しちゃうって」
こなた「そうかな……」
つかさ「何か、何かね作戦をしていて選択を迫られた時、そんな時、間違った方を選んじゃうって、そう言っていた、だから神崎さんの言っている事は正しいって……」
こなた「そんな選択なんて無いよ、ギャルゲーじゃあるまいし、作戦通りやってりゃ問題ないよ」
つかさ「……こなちゃんはすぐゲームに例えちゃうね……」
こなた「だって置き換えた方が分かり易い……って、そんな話なんかしていない!」
つかさ「私って運動音痴でしょ、それに要領だって悪いし、すぐにテンパッちやうでしょ……無理だよ……」
これじゃ昔のネガティブつかさに逆戻りじゃないか。
こなた「そうかな、何度も言うけどたかしにお稲荷さんの秘薬の作り方を教えてもらったのはどうなの、ひろしと結婚までしてるじゃん、なにより真奈美さんと友達になれたのは
私やかがみだって、うんん、他の誰でも出来ることじゃない」
つかさ「……」
つかさは黙って何も言わなくなった。神崎さんに来るなと言われたのがよほどショックだったのか。それとも私の励ましが逆効果だったのか。
どちらにしてもこんな状態で神崎さんの家に行ったとしても帰されるだけかもしれない。諦めるか。
もうつかさは充分すぎるくらいに活躍してきた。
こなた「それじゃ、お先に……」
つかさ「……神崎さん、まなちゃんじゃなかったの……」
ぼそっと小声だった。
こなた「そんな都合よくいかなかった、残念だね」
つかさ「……お疲れ様」
私は店を出た。

 いったい神崎さんの作戦ってどんなものなのだろう。資料室の時みたいにはいかないのは確かだ。
つかさやかがみにたいに神崎さんの家に行って突然追い返されたりしたら……
行ってみないと始まらないか。
私はそのまま駐車場に向かった。

⑱-1

 駐車場に向かう途中、つかさの店を横切る。もう辺りはすっかり暗くなっている。街灯がつかさの店を微かに照らし出す。そこを通り過ぎようとした時だった。
つかさの店の入り口に人影があった。店は臨時休業なのに、いや、普段だったとしてもとっくに閉店時間。あやしい。怪しすぎる。もしかして泥棒……留守なのをいいことに。
これは見逃せないな。
私は店にゆっくりと近づいていった。人影は立ち止まって動く気配はなかった。
近づいていくと目が慣れてきたのか人影の姿が見えてきた。どうやら店の入り口の臨時休業の張り紙を読んでいるみたいだった。
肩を落としため息をついた様に見える。後姿だからはっきりは分からない。つかさの店のお菓子目当てのお客さんなのかな。こんな時間に来るなんてよっぽどのファンだな。
人影が突然振り返った。私が店の前に立っていたのでバッタリと目が合った。
人影「うぁ!!」
こなた「ひぃ!!」
二人とも奇声を上げた。突然だったのでお互いに驚いてしまった。振り返って顔がはっきりと見えた。初老の男性だ。どこかで見たことがあるような……
男性「び、びっくりした……ん、あ、貴女は……?」
こなた「すぐ隣のレストランの店員ですけど……こんな時間に何かあったの?」
男性「こ、これは済まない、いつ再開するのか確認しにきましてね……帰り道だったもので……」
こなた「ここの店主は私の店で臨時に手伝ってもらっていて……」
男性「臨時……ですか?」
こなた「うちの店の店長が入院しちゃって……」
男性「入院ですか……それは大変ですね」
紳士的な対応だな……まてよ……この人……思い出した。まなみちゃんの演奏会前、つかさの店に行った時最初に来たお客さんだ。つかさがチケットを渡したから覚えている。
こなた「入院って言っても病気じゃなくて妊娠してちょっと調子を悪くしただけなので……もうすぐ退院するかな、それまでは休業すると思いますよ」
男性「そうですか……」
肩を落として残念そうな顔をした。
つかさ「どうしたの、こなちゃん?」
私の後ろからつかさの声がした。つかさが日直の仕事を終えて店から出てきたのか。私は振り返ろうとした。
男性「あ、あぁ、久しぶりですね!」
男性がつかさに駆け寄った。
つかさ「あ、どうもです……ご無沙汰しています」
やっぱりつかさと男性は顔見知りのようだ。この男性はつかさの店の常連客だな。
男性「いやぁ~もう店仕舞いをしてしまうんじゃないかって心配しましたよ」
つかさ「すみません、知り合いの店の手伝いをしていますのでもう暫く休ませて頂きます」
男性「あぁ、さっきこの方から聞きました、すぐ隣の店なのですね、安心しました」
男性は何かつかさに会うのを待ちかねていたように喜んでいる。常連客にしては少しテンションが高すぎる。つかさのファンなのか……ま、まさか不倫なんて……ことは……
男性「ところで、演奏会、聴きましたよ、素晴らしかった……」
つかさ「あ、ありがとうございます」
つかさはこの時になって初めて笑った。
男性「貴女のお子さん……まなみさんって言いましたね……」
男性は胸ポケットから何かを出してつかさに差し出した。名刺だ。つかさはそれを受け取った。つかさは名詞を見た。
つかさ「……芸術大学……え……大学の先生?」
男性「この店から奏でるピアノの音……素晴らしい、是非私達の小学部に編入していただけませんか、私が特別推薦します、本格的にピアノを、音楽を学ばせたいと思いませんか?」
……凄い、みなみの言う通りになった。みなみはもうまなみちゃんを教えられないって言っていたし。いい機会かもしれない。
つかさは喜びながらも戸惑いの表情をした。
男性「……失礼しました、こんな夜遅くする話ではありません……つい興奮してしまって……即答できないですよね、日を改めてお伺いいたします」
男性は深々と頭を下げると店を離れて行った。つかさは名詞を胸に当てて男性が見えなくなるまで見ていた。

こなた「このリア充め!!」
私の声に驚いたつかさは私の方を向いた。
つかさ「こなちゃん……私……」
こなた「なにそんな困った顔しちゃって、すごいじゃん、私も素直にそう思うよ、クラッシックやっていればどんなジャンルの音楽にだって対応できるって言うしさ」
つかさは何も言わない。外野の私が言っても始まらないか
こなた「まぁ、私がどうこう言ってもしょうがない、家族で話し合って決めるといいよ……それじゃね」
私は駐車場に向かって歩き出した。
つかさ「こなちゃん……」
私を呼び止めるつかさ。私は立ち止まって振り向いた。
こなた「なに?」
つかさ「こなちゃんは運命って信じる?」
こなた「こりゃまた重い質問を……」
つかさはいたって真面目な顔だった。占いの雑誌を見ている時のような遊び半分で聞いているのではないのは直ぐに分かった。
つかさ「私……あの時、一人旅なんかしない方が良かった……」
こなた「もし、つかさが旅に出ていなかったら、かがみの病気は誰が治したのかな」
つかさ「お姉ちゃんの病気……」
私は頷いた。
こなた「つかさが旅に出ていなかったらお稲荷さんの秘薬は手に入らなかった、今頃かがみは墓のなかだよ、そんなのやだね」
つかさ「……」
つかさは何も言ってこない。
こなた「つかさが真奈美さんに殺されていたら……さっきと同じ理由でかがみも生きていない……二人とも居ない世界なんて……それこそバットエンドだよ……
あの時、どうして旅に出たの、行かないって選択もあったんだよ」
つかさ「分かんない……」
こなた「分かんない、だけど旅に出た……そして今、この世界がある、つかさの気まぐれの選択、いつでも在りそうな選択でこんな世界になった、その選択で
    人の生死が左右されて、人生まで変わっちゃう……」
つかさ「それが運命なの?」
こなた「う~ん、分かんない、でもちょっとした事で変わっちゃうのが運命だよ、多分、だからつかさもそんな事言わない」
つかさ「そうだね、そうだよね……」
つかさに笑顔の表情が戻った。
こなた「高校を卒業してそのまま音信不通なったりするよね、結婚なんかして子供が出来たりすると尚更だよ、でもつかさは違った、今もこうして友達じゃん」
つかさ「と、突然どうしたの、でもそれは私だけじゃないよ、お姉ちゃんやゆきちゃん、あやちゃんだって……他にも……」
こなた「うんん、私にとって始まりはつかさだった」
つかさ「そうかな……?」
つかさとこんな話をするなんて。でも言っておきたかった。
こなた「さて、もうそろそろ行かないと」
つかさ「あ、ごめん、足止めさせちゃって」
こなた「つかさ」
つかさ「なあに?」
こなた「い、いや、なんでもない……」
ここは「さよなら」じゃないよ。うん。へんなフラグは立てない。
自分にそう言い聞かせた。
 つかさの場合、過去の出来事だから選択肢の分かれ目が分かるし予想もできる。だけど私の場合は。これから起きる事なんて予想なんてできない。
それにどこに選択肢があるなんて分からない。気づかずに通り過ぎてしまうかもしれない。その場合、自分の意思とは無関係に選択されてしまう。
ゲームと違ってリアルはやり直しができないから厄介だよ。
まぁゲームの場合でも最初に選択したのが大抵バットエンドなのがだが……これが運命ってやつなのかな……
ふふ、つかさの言う通りだ。私ってすぐにゲームに例えちゃうな……
つかさ「どうしたの?」
つかさが心配そうに私の顔を覗き込む。
こなた「いや、なんでもない」
あとはリアルラックを信じるか。
こなた「それじゃ行って来る」
つかさ「行ってらっしゃい……」

私はつかさと別れた……あれ?
つかさが私の後をついて来る。やっぱりなんだかんだ言ってもつかさも参加したいのだろう。でも神崎さんが言うように今回ばかりはつかさは参加しない方がいい。
つかさのもっとも苦手な「アクション」が入る可能性が高いから。今までの様にはいかないのだよ。つかさ
つかさはそれでも私の後を付いて来る。少し足を速めた。つかさも私に合わせて速度を上げる。未練だ。未練だよ……つかさ
でもつかさの気持ちも分からないわけじゃない……真奈美との再会。それに命を助けられた恩返しもしたいだろう。私は決めた。心を鬼にしないとだめだ。
私は足を止めた。ここははっきりと言っておこう。友人として……
つかさも足を止めた。私は振り返りつかさの顔を見る。キョトンと私を見ている。
こなた「つかさ、付いてきちゃ駄目だよ……」
つかさ「どうして?」
面と向かっているとやっぱり言い難い……でも言わなきゃ
こなた「つかさの気持ちは凄く分かる、だけど今度は……私に任せてくれるかな」
つかさ「任せるって……私も行かないと」
つかさが珍しく食い下がってきた。
こなた「私は友人として言っているんだよ……」
つかさ「でも、私も行かないと……」
どうしよう、つかさがこんなに食い下がるなんて。
こなた「かがみだって来ないんだよ……だから」
つかさ「うん、だから私も行かないと……駐車場……」
こなた「へ?」
駐車場って、つかさは何を言っている。
つかさ「私も車に乗って帰るから……駐車場まで一緒に行こう」
……そういえば私とつかさの車は同じ駐車場に停めてある。
こなた「……神崎さんの所に付いて行く気じゃなかったの?」
つかさはクスリと笑った。
つかさ「ふふ、もう私はこなちゃんやゆきちゃんに全て託したから……」
つかさは切り替えが早いな。少しは任される私の身になってほしい。
私は駐車場に向かって歩き出した。
こなた「そんなに託されてもねぇ……でもさ、かがみがあんなにあっさりと神崎さんの言うとおりに引き下がるとは思わなかった、もう少し反撃すると思ったんだけどね」
つかさ「うん……私もそう思って聞いてみた……ひとしさんや子供達の事を思うとこれ以上踏み出せなくなっちゃったって……そう言ってた」
こなた「ふ~ん、それじゃさ、つかさも同じなの?」
つかさ「分かんない……」
つかさは夜空を見ながら少し早歩きになった。質問を変えてみるかな。
こなた「けいこさんの依頼、今だったらどう、受けてた、それとも断ってた?」
つかさは夜空を見ながら立ち止まった。
つかさ「あの時の私はひろしさんに逢いたくて……それしか考えていなかったから」
こなた「ヒュ~お惚気、おのろけ!」
つかさの顔が赤くなった。
つかさ「だ、だって、こなちゃんが質問したから答えただけだよ……」
そう、今と昔じゃ状況が違う。つかさやかがみが変わった訳じゃない。廻りが変わった。
こなた「そうだった……大切なものが出来たんだね……私は独り者だからお気軽だよ、どんな危険な事だって……」
つかさ「危険、駄目だよ」
つかさが珍しく言い寄ってきた。
こなた「だめって、これからそう言う事をするから」
つかさ「でも、気軽なんて言っちゃだめ、こなちゃんに何かあったらおじさんはどうするの」
お父さんか……
つかさ「ゆたかちゃんは、成実さんは、うんん、身内だけじゃないよ、お姉ちゃんやゆきちゃんだって……私だって……私だって」
暗がりでよくは分からないけど……つかさの目から……涙? まさか。やだな死亡フラグなんて立てないでよ……
私はつかさを友達と思ってはいたけど趣味も違うし、遊ぶって言ってもゲームはいつも見ているだけで参加してこなかった。ゲームに限って言えばかがみと遊んだ方が多いかも。
それに学生時代から何か特別な事をした覚えも無い。確かに仕事を一緒にした。今だってこうして会っているけど。心配しただけで涙を流せるなんて……
皆との会合だって私やかがみが決めてきた。つかさはかがみやみゆきさんがが来るからそれに付いて来るって感じだった。
私と下らないお喋りをいつもして。それだけで……何故。
私が死んだら泣いてくれるのかつかさは……
こなた「ちょ、何も戦争に行くわけじゃあるまいし……大げさだよ……」
つかさ「だって、だって……」
私の為の涙か……別に嫌な気はしない。それどころか何故か勇気が沸いてくる。
これが友情ってやつなのか……初めて友情を感じた。かがみでもみゆきさんでもない。つかさからなんて。
でも……女の友情も捨てたものじゃない。
こなた「はいはい、リア充は早く帰ってさっきの事を話さないとね、大学からのスカウトの話をさ」
つかさは人差し指で瞼を擦って涙を振り払った。そして笑顔になった。
つかさ「うん」
なるほどね。たかしがつかさに秘薬の作り方を教えた理由が分かったような気がした。
私は車に向かった。
つかさ「待ってこなちゃん……」
こなた「ん、まだ何かあるの?」
つかさ「これから銀行に潜入して盗みにいくんだよね……」
こなた「……まぁ、まだ何も話していないけど、そうなるだろうね……」
つかさ「悪いことしちゃうんだ……他に方法は無いの、こなちゃんを悪人にしたくない……」
心配そうな顔をして私を見ている。
こなた「う~ん、確かに他人の物を盗むのは悪いことだけど、もともとメモリー板はお稲荷さんのものだから」
つかさ「で、でも……」
更に心配そうな顔になるつかさ。
こなた「私はもう悪人だよ、元気だま作戦を考えたのも実行したのも私だから、例え少しずづかも知れないけど他人に黙ってお金を盗んだ事には変わりはないからね」
つかさ「私はあれを悪いことだとは思わない、お姉ちゃんだって……」
こなた「そう、だから今回も同じ、良い事の為に悪いことをするのは許されるのだよ、つかさ」
つかさ「え……良いことの為に悪いこと……難しくて分からないよ」
こなた「例えば勇者が勝手に他人の家に入ってアイテムをゲットするのは許されるのと同じ事」
つかさ「え、あれって許されるの?」
こなた「うん、でも、イベント選択次第で別のフラグが立つと捕まっちゃう事もあるけどね」
つかさは笑った。
つかさ「ふふ、またゲームの話だね、こんな時に……でも、こなちゃんらしい」
こなた「なんて冗談、私も何が悪くて何が良いのかなんて分からない、もしかしたら悪いことかもしれない……でもね、誰も傷つけないのなら良いんじゃない?」
つかさ「こなちゃっていろいろ考えているんだね」
こなら「これは神崎さんが言った事をそのまま言っただけ、だけど私もそう思う」
つかさ「誰も……傷つけない……うん、私もそう思う」
つかさと私の意見が一致した。そういえばつかさとこんなに意気投合したのは久しぶりかも。ちょっと嬉しい。
でも、つかさの表情が少し硬い。やっぱり私が神崎さんの所に行くのが心配なのかな。
それなら親友として少し安心させるかな。
こなた「はるか四万年前の遺跡をわざわざヨーロッパからこの日本にもってきた、神崎さんの登場、そして潜入取材に真奈美さんの影がちらほらと見え隠れ……これって偶然だと思う?」
つかさ「え、突然どうしたの?」
こなた「これは偶然じゃないよ、きっとこれはつかさの言う運命ってやつじゃないかなってね……きっと何か起きるよ」
つかさ「何かって……何?」
こなた「分からないけど……きっと良いことだよ」
つかさは喜んで笑った。
そんなのは分かるはずはない。奇跡って言いたいけど言えないよ。
でもそれは私ができる精一杯だよ。
私は車に乗り込んだ。そしてつかさも自分の車に乗った。つかさが車の中から手を振った。私が手を振って答えるとつかさの車が走り出した。
車は駐車場を出ると柊家宅へと向かって行った。
さてと、私も向かうとするかな。神崎さんの所に。


⑱-2

 私はあの時、駐車場に行く時、つかさが私の後を付いて来て一緒に行くと思ってしまった。でもそれは直ぐに分かった。
つまり私はつかさが私と一緒に神崎さんの所に行って欲しいと思っていたって事。どうして……
つかさに今回の作戦は不向きだって。だから私は駐車場で別れる時誘わなかった。
参加しても重要な場面でオロオロして何も出来ないつかさの姿が容易に想像できる。でも私は来て欲しいと思っていた。
友人だから。一緒に仕事をしていたから。それとも一人じゃ寂しいから。
違う。そうじゃない。どれも違う。
 つかさが旅から帰って来たその時から全てが変わった。私はお稲荷さんの世界を知った。そしてその世界に入った。
その中でのつかさは別人だった。それでいて高校時代の彼女の性格はそのままだった。天然と優しさだけでまさかあそこまで出来るなんて……
もっともつかさ自身は出来る出来ないなんて考えてもいなかったに違いない。その時その時が精一杯……それは今も同じか……
 それにしてもコミケ事件の時、かがみが私を殴ろうとした時、つかさは私の前に立ってかがみを止めた。
あの時のかがみの怒りっぷりからしてつかさも叩かれていたかもしれない状況だった……それでもつかさは私の前に立った。
それはつかさが変わったと思った始めての出来事だった。正直つかさがかっこいいと思ってしまった。
つかさは真奈美の真似をしただけだったかもしれない。それでもおいそれと出来ることじゃないよ。
それから私の……いや、皆のつかさに対する見方が変わった。
勇気……そう。RPGで言えば勇者だよ。
つかさに一番相応しくないもの。つかさは真奈美との出会いでそれを得た。
笑っちゃうね。
でも……
はたして私はつかさの代わりができるかな……

 どのくらい考えていたのか。気づくと高速道路の出口に近づいていた。

 少し遅れて出たけど神崎さんの家には午前中には着いてしまった。きっと誰よりも早いに違いない。家の周りには私の車以外停まっていない。
寄り道をして時間を潰しても良かったかもしれないけどそんな気にはなれなかった。いつも待ち合わせの時間に遅れる私がこんな時には一番だなんて。
玄関の呼び鈴を押した。
ドアから出てきたのは神崎さんだった。正子さんがいつも出てきたのに。
あやめ「……泉さん、早いじゃない、貴女が一番、他に誰が来るの」
こなた「さぁあ、分からないよ、少なくとも柊夫婦と小林夫婦以外は来ると思う」
あやめ「ふふ、聞いていないのか、貴女らしいと言えばそれまでね、入って」
家に入ると私は辺りを見回した。神崎さん以外の人の気配を感じない。
こなた「正子さんは?」
あやめ「母は用事があって出かけている、これからの会合の話は誰にも聞かれたくないから好都合」
自分の母親にも話せないだなんて……とは言え、私もお父さんに話していないか。
こなた「ふ~ん、わざわざそれに合わせたんだね」
あやめ「いや、偶然、でも母が居たなら別の場所でするつもりだった」
こなた「あの神社でするつもりだった?」
あやめ「その通り、さすが……居間で休んでいて、お茶を入れてくるから」
こなた「う、うん……」
この人、正子さんが居ないのは本当に偶然なのかな。
まぁ、本当にそうだとしても正直にはなすなんて事はなさそうだ。彼女の本当の目的は何だろう。
それはこの前の私達だけの会合で話し合った。結論は出なかった。それはそうだ。他人の思考なんて分かるわけがない。だけど今なら分かる。直接聞けばいい。
神崎さんがお茶を持って居間に入ってきた。
あやめ「まさか泉さんが一番に来るとは思わなかった」
こなた「まぁ、学生時代は授業も遊びも遅刻の常習犯だったけどね」
神崎さんは笑いながらお茶を私の前に置いた。
あやめ「へぇ~それは初めて聞いた、今の貴女からは創造も出来ない、社会人になって変わったのかしら、それとも田中さんの教育のせいかしら」
かえでさん……
そういえば入院してから一回もお見舞いに行っていなかった。つかさの話では近々退院するって言っていたっけな……退院してもお腹が大きくなってきたから
レストランの仕事は当分できそうにない。だから今後もつかさが手伝ってくれるって……
あやめ「泉さん?」
こなた「えっ、あ、ああ、そ、そうだね、かえでさんが厳しかったのは確かだよ、うんうん」
退院すまでにお見舞いにいけるかな……なんてらしくない事を思ってみたりする。
こなた「それより、私の知らない間にかがみの写真をよく撮ったね、あの効果は絶大だった、かがみが参加を諦めるなんてよっぽどだよ」
神崎さんは少し考え込んだ。
あやめ「ああ、あれね……あれはたまたま泉さんの様子を見に行ったらその場面に遭遇しただけ」
こなた「それに尾行されていたなんて、やっぱりかがみは有名人なんだね」
神崎さんは目を閉じて微笑んだ。
かえで「尾行……ふふ、小林さんは最初から尾行なんかされていない」
私は耳を疑った。
こなた「……え……まさか嘘をついて……」
あやめ「敏腕弁護士なんて言っている割にはこんな簡単な手に引っかかるなんて、たいしたこと無い、妹の柊さんもそう、少し脅しただけですぐ引っ込んでしまう弱虫、
    つまり腰抜け姉妹、貴女も大変ね、こんな姉妹のお守りをしないといけないなんて」
いくらなんでも酷い。ここまで私達が、いや、つかさやかがみがどんな想いでここまで来たのか。
『ばかにするな~!!!』
そう叫ぼうとした瞬間だった。脳裏に神崎さんがつかさの手を強く握った場面が浮かんだ。
同じだ……私を怒らそうとしている。私は怒鳴るのを止めた。
あやめ「……どうしたの、何か言いたいことはないの、それとも何も言えないの、貴女も腰抜けだったのかしらね、類は友を呼ぶとはよく言ったもの」
追い討ちをかけるような罵声。理由は分からないけど神崎さんは一人で解決しようとしている。それが分かった。それが分かってしまえば何も怒る気がしなくなった。
それどころか健気に思ってしまう。
こなた「ふふ……」
私が笑うと神崎さんは驚いた表情を見せた。
あやめ「な、なにが可笑しいの……」
こなた「私を怒らせて帰らせるつもりでしょ、私が帰って他の人にも同じような事を言って怒らせて帰らせるの?」
神崎さんは更に驚いたのかそわそわしだした。
あやめ「怒らせるって……本当の事を言ったまでで……」
こなた「こう言うのを何て言うのかな、ツンデレともヤンデレとも違うし……」
あやめ「ツンデレって、ふざけないで、私は本気で……」
私は首を横に振った。思い出した。神崎さんの今までの行動を。
こなた「もういいよ、確か前にも言っていたよね、一人でしたいとかって、分かっちゃった、つかさの時やかがみの時もそうだった、私の時も資料室の直前で別れたでしょ」
神崎さんは苦笑いをした。
あやめ「……あからさま過ぎたかしら」
こなた「もうばればれ、私には効かないよ」
伊達にホール長やっていない。お客さんの顔色を見て時には先を読まないといけないからね。神崎さんの場合声に感情が入っていなかった。
あやめ「……そのようね……」
こなた「なんでそんな事をするの?」
あやめ「それは私情的なものだから……これ以上巻き込みたくなかった、それが理由」
私情ってプライベートって意味なのか。私は笑った。
こなた「私情ねぇ、そんな事言ったらこれから来る人だって同じようなもんだよ、みゆきさんとすすむさんはお稲荷さんのメモリー板の奪還が目的だよ、すすむさんの理由は
    分からないけどみゆきさんに限っていえばお稲荷さんの知識が知りたいからだよ、それにひよりは自分の作品のネタに使う取材を兼ねている、みんな私情だよ
    それで……その私情って何?」
あやめ「……だから私情」
口を噤んで話そうとしない。そんなに話したく無い事なのか。他人のプライベートの内容に触れない神崎さん。これ以上追及するのも気が引ける。
こなた「分かったもうこの話は止め」
神崎さんはボソっと小さな声で話した。
あやめ「……友との約束の為……」
こなた「友って真奈美さんの事?」
神崎さんはなにも言わず頷いた。そうか神崎さんは真奈美を助けるのが目的だったのか。それにしてもその約束ってどんな約束だったのだろう。
あやめ「それより泉さんは何故私の協力をする、特に今回は貴女に何のメリットも無いでしょ、報酬はもう出せない」
こなた「報酬はまだ手を出していないよ、私はお金じゃ動かないから」
あやめ「それじゃ何故……」
何故って……そう言われると何故だろう。
こなた「なんかぴ~んときた、インスピレーションってやつかな、面白そうだしね、お稲荷さんの世界なんてゲームじゃ体験できない」
あやめ「選択……選んだの」
こなた「選択なんかしていないよ、選んだのはつかさ、私はそれに便乗しただけ」
神崎さんは首を横に振った。
あやめ「いいえ、泉さんは選んだ、柊さんの選択に付いていくって選択をね」
こなた「それ違うから、一番楽だからそうしただけで選んでなんか……他に選択肢なんかなかった」
つかさにレストランで働かないかなんて言われた時だって他に行くところなんかなかった。
神崎さんは立ち上がった。
あやめ「そうかしら、選択肢は無数にあったはず、それでも貴女はそれを選んだの」
こなた「そうかな……」
あやめ「現実はね、ゲームに出てくる選択肢とは比べ物にならなくらいの選択の場面と選択肢がある、例えそれが無意識に近いとしてもね、泉さんも私もその他の人も
    それらを選んでここまで来た、それにね、何日もかけて悩んだ選択より無意識に選んだ事の方が後に重大な結果を生じるの、良い事も悪いことも含めてね」
こなた「まさか、そんなのあるはずないじゃん……」
あやめ「当時の陵桜学園に何百人の生徒がいたの、クラスに何十人いたの、泉さんはその中から柊さんを親友として選んだ」
こなた「選んだって言うよりたまたま近くに居たから……」
あやめ「それだけ、それだけで親友になった?」
……それだけじゃない。だけど何であの時友達になれたのかと言われても直ぐには答えられない。
あやめ「理由を忘れるくらい無意識に選んだ、そしてその後の泉さんの人生は大きく変化してく、私の様にね」
こなた「神崎さんの様にって……真奈美さんとの出会いの事を言っているの、狐だった真奈美さんを助けた事を言っているの?」
あやめ「あの時、何もしないで素通りする事だってできた……」
こなた「それでも助ける方を選んだ……」
神崎さんは急須を片付けて居間を出た。

 私はつかさを選んだ……
確かに結果的はそうかもしれない。それならつかさだって私を友人に選んだ事になる。
何時からつかさと友達になった。確か高校一年からクラスは一緒だった。だけど実際に話をしたりするようになったのは二年からだったような気がする。
どうして話すようになったのかな……
思い出せない。気に留めないほど何気なかったに違いない。
そもそも陵桜学園に入らなければつかさに逢えなかった……私は陵桜学園を選んだ……数ある高校から、どうやって……
それは覚えている。お父さんとの賭けで……無意識ではないけれど神崎さんの言うように簡単に決めていた……
あんな簡単に決めていた。
つかさはどうやって決めた……
確かかがみが陵桜を受験するから……そう言っていたのを覚えている。
それならかがみはどうして……前に言っていたけどよく覚えていないな……もしそれが誰かのもしくは何かの影響なら……選択の連鎖……
……何処かの誰かが選択が変わればその後の出来事は変わってしまう……ゲームのエンディングの数なんか比較にならない。
私も選んでいた……そんな事って……私の選択……これから私はどんな選択肢があって何を選ぶのかな……
『パンパン!!』
手を叩く音がした。私はハッとして神崎さんを見た。呆れ顔の神崎さん、少し笑っているようにも見えた。
あやめ「何真剣になって考えているの、そんなのは寝る前に少し考えればいい、それよりもっと考えなきゃいけない事があるでしょ?」
寝る前って……こんなに考えさせたのは神崎さんじゃないか……いや、これも選択なのかな……もういい、考えると無限ループに入りそうだ。
暫く忘れよう。神崎さんの問いに私は答えた。
こなた「……貿易会社の銀行……」
あやめ「何とかしないと」
こなた「え、何か策があるんじゃなおの?」
あやめ「策なんかない……」
こなた「ちょ、この前あんなに息巻いていたのに~」
あやめ「私一人なら策はある、多数だと作戦の変更が必要」
こなた「それじゃその一人の時の策を教えて」
あやめ「それは……」
『ピンポン~』
呼び鈴の音がした。
あやめ「どうやら参加者が来たみたいね……」
神崎さんは玄関に向かった。何だろう。作戦を話したくなかった様な素振りをみせたけど……気のせいかな。

 居間のドアを神崎さんが開けるとひよりが部屋に入ってきた。
ひよりは私を見ると驚いた顔になった。私が来たのを驚いたのか。時間よりも早く来たのを驚いたのか……
ひより「外に停めてあった車はやっぱり先輩のでしたか、それにしても先輩が時間よりも早くくるなんて……」
後者の方だったか。やっぱり学生時代のイメージは払拭できないみたい。これでもかえでさんの所で働くようになってから遅刻は滅多にしなくなったのに。
こなた「そう言うひよりもかなり早くない?」
ひより「こんなチャンスはそんなにないっス」
チャンス……ネタにする気まんまんだ。神崎さんが居間のドアを閉めた。来たのはひよりだけなのか。
こなた「ゆーちゃん、ゆたかは?」
ひよりは暫く間を空けてから話した。
ひより「彼女は来ないっス」
ゆたかには特に誘いはしなかった。やっぱり危険なミッションになるのは明らかだから。ゆたか本人の意思で決めてもらいたかった。
こなた「ゆたかは来ないのは正解かもね、ゆたかも色々あったみたいだし」
ひより「まぁ~お稲荷さんの件に関してはいろいろあったけど……それだけじゃなくて……」
ひよりがもったいぶっている。珍しい。なんだろう。
こなた「他に何があるの?」
ひよりは待っていましたとばかりに話し出した。
ひより「実は……私達の作品の映画化の話が出ていまして……その話し合いがあるのでゆたかを責任者にしたから忙しくて……」
こなた「映画化……映画化だって、そ、それで……」
こなた・あやめ「もちろんアニメでやるんでしょうね!?」
気づくと私と神崎さんは身を乗り出してひよりに迫っていた。ひよりは一歩下がって引いた。
ひより「ま、まだそこまでは決まっていません……スポンサーとかの意向もあるので」
神崎さんは私よりもさらに前に一歩出だ。
あやめ「漫画を映像化するなら迷わずアニメにする事、それ以外の選択肢はない、今までそれで失敗した作品が幾つある、漫画で描かれているキャラクターと一致する俳優が
    どれほど居ると思っているの、それに作品の世界観を表現するのは実写じゃ難しい」
神崎さんの言葉は私の言いたい事をほぼその通りに代弁しているようだった。私は腕を組んで何度も頷いた。
ひより「は、はい、仰る通りです……私も個人的にはそう思いますけど……」
はっきり言わないひよりに痺れを切らせて話し出した。
あやめ「それに貴女達の作品のキャラはどれも個性的で現存する俳優に……演じられる人なんか……私が知る限り……」
神崎さんは話すのを止めて私の方を向いて私の顔をじっと見た。
あやめ「運動神経抜群、それでいて……オタクで……背は小さい……悪戯好きな……」
こなた「ほぇ?」
私は首を傾げた。神崎さんは再びひよりの方を見ると私を指差した。
あやめ「登場人物、もしかして……泉さんがモデルじゃないでしょうね、悪戯好きを除けば泉さんそっくりじゃない」
ひより「……いやぁ、やっぱり分かってしまいすね、身近な人をモデルにするのは鉄板っス、キャラがブレないし……それに泉先輩は悪戯好きでした」
好きでしたじゃないよ、今だって好き。
あやめ「それじゃ、友人の双子の姉妹って?」
ひより「……お察しの通りです……」
あやめ「……お金持ちで、歩く知恵袋の友人も出てくるでしょ……あれって……」
こなた「それはみゆきさんだね」
あやめ「……ふ、ふふ、ふははは、まさかとは思っていたけど……実在する人物をモデルに……はは」
神崎さんは笑い始めた。
あやめ「ふふ、やられた、通りで……初めて会った時からそうだった……初めて会ったのに何処かで会った様な気がしていた……まさか実在していたなんて」
ひより「あの~私の、私達の作品をご存知で?」
こなた「知ってるって言うか、ファンでしょ、この前のサイン会のサインも部屋に飾ってあったし」
ひよりは嬉しそうな笑顔になった。
ひより「いやぁ、神崎さんの様な人に気に入ってもらえるなんて……光栄です」
あやめ「貴女達の作品が素晴らしい、取り敢えず映画化おめでとう」
ひより「ありがとうございます……」
ひよりと神崎さんは握手をした。
『ピンポーン』
呼び鈴の音が響いた。
あやめ「また来た様ね……」

 ひよりが来てから30分もしない内にメンバーは全て揃った。
私にみゆきさん、ひより、佐々木さん夫婦……神崎さんを入れて5人が集まった。
一番驚いたのはいのりさんが来た事。すすむさんは来るのは分かっていたけどまさかいのりさんまで来るとは思わなかった。彼女はすすさんの参加するのを反対していた。
すすむさんはこの地球に来る時のパイロットだったって話は聞いたけど……いったい何があったのだろう。
あやめ「時間が来たようね、もう参加者はいないとします」
神崎さんは皆を一人、一人、見回した。
あやめ「……これから話をするのはとても危険な話、下手をすれば犯罪者になるかもしれない、その覚悟は出来ていると判断してよろしいですね」
こなた「それはこの前いったじゃん、みんなわかっているよと思うよ、私は覚悟できてるよ」
他の皆も頷いた。
あやめ「そうだった、でもやるからにはそんな事にはならない様に万全を尽くすつもり、皆もそのつもりでお願いします」
皆は頷いた。
こなた「それで、今回の最終目的は、真奈美さんの救出、それともメモリー板どっちなの」
あやめ「……真奈美の救出を最優先にしたい」
ひより「あの、メモリー板の大きさはどのくらいですか?」
すすむ「名刺より少し大きいくらいだ、重さは1グラムあるかどうかだ」
ひよりは少し考えた。
ひより「するとスマホくらいの大きさ……真奈美さんは人間になっていると仮定するとどう考えても救出の方が難しいっス……どうやって隠して脱出するか……」
すすむ「仮に彼女が生きているとしたとしても人間になっている可能性はないだろう」
ひより「……どうしてです、現にすすむさんだって人間になっているじゃないですか?」
すすむ「この地球に死ぬまで居ると決めるまではそうはしない、彼女を監禁するような人間しか回りに居ない環境で人間になるなんて在りえない」
ひよりは腕を組んで考え込んだ。
こなた「真奈美さんがお稲荷さんのままだったら隠すのは難しくないよ、狐になれば犬用のキャリーバックを持っていけば誤魔化せると思う」
『パン!!』
ひよりは片手を握ってもう片方の手を叩いた。
ひより「それはいい考えじゃないっスか、どうです皆さん?」
皆は何も言わない。
こなた「でもね~あの貿易会社の25階って言っても1フロワーで何店舗も入れるような大きな場所でどうやって真奈美さんを探すか……」
すすむ「メモリー板を真奈美が解読しているとしたら正常に動作していると考えていいだろう、それに真奈美もメモリー版の近くにいるのは想像つく……私を連れて行くががいい、
あのメモリー版は私の脳波で3メートル以内ならリンクできる、人間になっていても私は私、脳波は変わらないからな、近くに在れば直ぐに分かるだろう」
こなた「ん~でもね、どうやって潜入するかが問題だよ、私の時みたいに一般人は入れないみたいだしね……」
私はチラっと神崎さんの方を見た。それに神崎さんは気づいたようだ。
あやめ「そうね、泉さんの時のような分けにはいかない、無理に行こうとすれば直ぐに気づかれてしまう……」
皆は黙ってしまった。
あれ、おかしいな。神垣さんは何か策があるような感じだったけど。なんで話してくれないのかな……
ひより「あ、あの~ちょっと良いですか?」
へぇ、今回のひよりは積極的だな……
あやめ「はい、何でしょう?」
ひより「ちょっと調べてみたのですが……」
ひよりは鞄からA4サイズの紙を出してみせた。チラシ?
ひより「清掃員の募集です……実はサイン会の時、トイレに行った際に清掃していたおばさんが着ていた作業着にこのチラシの会社と同じエンブレムが付いていたので……」
神崎さんはチラシを手に取って見た。
あやめ「……清掃員……なるほど、清掃員なら怪しまれなくていろいろな部屋に移動できる……しかし、幾つもある高層ビルの、しかも貿易会社の25階に配属される可能性は低い……」
ひより「それはどうでしょう、アルバイトの配属なんてパソコンの乱数かなんかで決めているんじゃないッスか……泉先輩の力でチョコチョコっと遠隔操作で……」
ひよりと神崎さんは私の方を向いた。
こなた「それくらいなら問題ないよ……」
神崎さんはチラシを読み始めた。
あやめ「……この募集要項によると住民票や写真の提出が必要みたい……私だと素性が分かってしまう」
私は皆を見た。
こなた「私も以前に貿易会社のビルで働いていたのがバレちゃうかもね……すすむさんは整体院の経営者だって分かっちゃうかも、ひよりは有名すぎちゃうし……みゆきさんは……」
みゆき「すみません……大学の研究員から清掃員ではおそらく怪しまれる可能性があります……」
いのり「私……私なら怪しまれない」
皆はいのりさんの方を向いた。
あやめ「確かに……しかし貴女は……」
すすむ「いのり、そこまですると言ってなかったじゃないか……」
心配そうな顔でいのりさんをみるすすむさん。
いのり「私じゃ力不足かしら、清掃なら毎日整体院でしている、外でも神社の清掃をしていたから一通りの事はできる」
あやめ「いいえ、その事を言っているのではなく……」
いのり「私がこの件に関係ないって言いたいの、私はお稲荷さんの妻、関係大有りでしょ」
あやめ「い、いえ、確かにそうですけど……」
すすむ「重要な役だ……私が行く、整体院は休業で臨時収入が必要になったとすれば問題ない……」
いのり「うんん、私にさせて……」
すすむ「しかし……」
なんだろう、反対していたいのりさんと全く違う。何が彼女をそうさせたのかな。
あやめ「佐々木さん……いのりさん、いったい何がそうさせるの?」
いのり「それは……」
すすむ「いのり!」
言いかけるいのりさんをすすむさんは首を振って止めた。
あやめ「そうですか……言いたくないのでしたら無理は言いません……それにいのりさんならこの中のメンバーの中では最適かもしれません、お願いします」
いのり「ありがとう」
神崎さんは立ち上がった。
あやめ「潜入して粗方の場所が判明すればいよいよ奪還となるが、どうやって私達が潜入か問題になる、泉さんのパソコンからの遠隔操作は期待できない、警備は厳重、
    場所が判っても実行が問題ね……」
皆はまた沈黙した。
みゆき「無断で入れば捕まってしまいます、では無断で入らなければいいのではないでしょうか?」
みゆきさんがゆっくりと話し出した。
こなた「無断で入らないと奪還なんかできないじゃん?」
みゆき「貿易会社の25階は銀行です、その客として入れば怪しまれずに中に入れるのでは?」
こなた「客?」
みゆきさんは頷いた。
みゆき「客として入り、新規口座を開いて入金すればいいのです」
こなた「さすがみゆきさん、確かに客なら誰にも怪しまれないね」
みゆきさんの顔が曇った。
みゆき「ですが……あの銀行は大口額しか扱っていません、一口最低1500万円でないと口座が開けません」
1500万円か、さすがにそんな大金は用意できない。
ひより「それなら例の元気だま作戦をしたらどうです、その程度の金額ならすぐ手にはいるのでは?」
私は引き受けようとした時だった。
みゆき「それは止めた方が良さそうです」
ひより「何故です、この前は難なく成功したじゃないッスか?」
みゆき「あの当時と状況が違っています、スイス銀行が昔ほど秘密を守ってくれるかどうか心配なので、それに泉さんは以前ハッキングに失敗しています、
    同じ方法は二回しない方がいいでしょう」
ひより「はぁ、そ、そうですか……」
失敗って、昔お稲荷さんの救助船と交信しようとしてNASAのシステムにハッキング出来なかった事を言っているのかな。
確かにあの時からもう10年以上経っている。同じ方法は通用しないかもしれない。
みゆき「私が個人的に用意できるのが1000万くらいまででです……」
500万円……あと500万円か。
こなた「私がその残りの500万円だすよ」
皆は私の方を見た。
あやめ「まさか、私の出した報酬を?」
こなた「うん」
私は頷いた。
あやめ「あれは貴女に私が個人的に出した報酬、それに佐藤さんもそんな大金を……」
みゆき「少しでもリスクは回避した方がいいです、最初に失敗してしまったら元も子もありません」
みゆきさんはにっこり微笑みながら話した。
あやめ「そ、それはそうだけど……」
神崎さんは戸惑いながら私の方を見た。
こなた「私もこの一件が済んだら報酬は全額返すつもりだったから問題なし」
あやめ「返すって……それじゃ何故受け取ったの」
こなた「……何でだろう……う~ん……わかんない……だけど神崎さ風に言えばそう選んだからかな?」
あやめ「そう……」
すすむ「大口専用の銀行なら一口じゃ怪しまれるだろう、もう一口追加しよう、私のも使いなさい」
あやめ「さ、佐々木さん……もし」
すすむ「失敗は許されない、この程度の金額で左右されるなら多い方がいい」
あやめ「……ありがとう」
すすむ「礼は無用だ、これは私の事でもあるのだから」
いくら人気整体院で繁盛しているって言ってもあんな大金をほいほい出せるものじゃない。やっぱり佐々木さん夫婦になにかがあったんだ。

それから数時間、私達は色々と話し合った。

あやめ「作戦は至って簡単。まず清掃員になったいのりさんが真奈美とメモリー板の在り処に目星をつけたら、、私、泉さん、すすむさん、佐藤さんの4人で銀行に向かう、
3000万円の口座を開いて銀行に融資の取引を持ち出す、そうすれば銀行は交渉する為に奥の部屋に案内する、佐藤さんが融資の交渉をしている間に
残りのメンバーで真奈美とメモリー板を奪還、メモリー板と真奈美を外に待機した田村さんの車で私の家に運送……こんな感じかしら」
すすむ「大まかな段取りはそれでいいだろう、決行までにもう少し詳細を煮詰める必要がありそうだな」
あやめ「そうね……それでは最初の潜入……お願いします……いのりさん」
いのり「任せて!!」

こうして奪還作戦が始まった。


 打ち合わせが終わると佐々木さん夫婦とみゆきさんは足早に帰宅の途に就いた。特急券を既に予約してあったようだ。
私はひよりを車に乗せて彼女を家まで送って行く途中だった。
ひより「先輩、まさかいのりさんが参加するとは思わなかった、まして最初の潜入まで買って出てくるなんて、最初の会合の時と正反対……っス」
こなた「そうだね、それは私もそう思った、なにがいのりさんをそうさせたのかな?」
ひよりは暫く考え込んだ。
ひより「すすむさんが関係しているのは分かるけど……それ以上は」
ひよりは私よりも佐々木さん夫婦と親交があるのに知らないのか。
こなた「すすむさんはこの地球に来る時、調査船のパイロットだった……」
ひより「……え、それは初耳ですね」
知らなかったのか。
こなた「かがみがそう言っていた」
ひより「パイロットだった……事故で墜落したって……って事は、すすむさんが何かミスをしてしまったって?」
こなた「さぁね、その先はかがみも何も言ってなかった、話したくないのか、知らないのか」
ひより「そうっスよね、自分のミスを他人に話すなんてできない……」
こなた「いのりさんはその話を直接すすむさんから聞いたんじゃないかな?」
ひより「仰る通りっスね、メモリー板はきっとすすむさんにとって重要ななにかがあるのですよ、じゃなかったら反対していたいのりさんが参加するはずがない、その重要な
    何かって何でしょう?」
こなた「さぁ……」
私はその後何も話さなかった。興味が無かった訳じゃないけど、これ以上詮索しても結論には至らないのは分かっていたから。
ひより「それにしても、ゆたかが来なくて良かった……」
ため息交じりの小さな声で言った。いくら走行中の車の中でも直ぐ隣、囁き声でもしっかりと聞こえる。
こなた「ゆうちゃんが来なくて良かった?」
ひより「あ、ああ~」
聞こえないと思っていたのだろう。ひよりは驚いて話題を変えようと必死になった。それが逆に私の好奇心に火を付けた。
こなた「そう言えばゆたかはすすむさんの事が好きだったよね」
ひより「え、、あ、はい……」
小さく頷くひより。ある程度予想していたけどあてずっぽうで言った。でもひよりの態度で分かってしまった。ゆたかとすすむさんの話は以前聞いた事はある。
だけど失恋の話なんて早々詳しく話すものじゃないし、こっちから聞くなんて気まずくて聞けやしない。
こなた「そってもうお互いに解決したんじゃないの?」
ひより「それはそうっスけど……やっぱり以前好きだったから……なんて言うのか、夫婦で仲が良いところを見ていると他人事ながら見ているのが辛くって……」
こなた「ふ~ん、そんなものなのかな……」
そういえばひよりも宮本まなぶさんが好きだったって言っていた。その話も私は詳しくは聞いていない。
まてよ、それじゃ今回、すすむさんじゃなくてまなぶさんが来ていたらひよりじゃなくってゆたかが来ていたのだろうか。分からないな……
どうも惚れた腫れたの話は苦手だ……
それを察したのかひよりは話を変えてきた。
ひより「そ、それよりいのりさんは大変っス」
こなた「大変、どうして?」
ひより「先輩の潜入取材の時は一ヶ月でしたよね、でも今回は2週間、約半月で真奈美さんとメモリー板のある場所を探さないといけない」
こなた「そうだね~やけに時間が短いよね……」
ひより「なぜそんなに急がないといけないか、あの銀号は神崎さんが調べた限りでは何も大きなイベントはないって言っていたのに、ちょっと不自然な気がして……」
こなた「それなら帰り際に本人に聞けばよかったじゃん?」
ひよりは大きく頷いた。
ひより「そうッス、先輩が車を出している時間を利用して聞いたんですよ……でもお茶を濁されてしまって、それで時間がなくて……聞けなかった」
ひよりが車に乗る時、神崎さんと何かを話していたけどその事だったのか。
こなた「まぁ、早く手に入るなら、それに越したことはないじゃん、2週間で情報が手に入らなくても私のハッキングで雇用延長ができるから問題ないよ」
ひより「そ、そうですけど……」
こなた「元々神崎さんの計画に私達が参加してるからね、その辺りは神崎さんに仕切ってもらうしかないよ……少し疲れちゃった、次のサービスエリアで休もう」
ひより「はい……」
神崎さんは急いでいる。そんな感じは無かった。
でも言われてみると私の時が一ヶ月でいのりさんが2週間。どう考えても私よりもいのりさんの方が難しいミッション。少しでも怪しまれたら最後だから慎重にしないといけないのに。
……でも、いのりさんの情報を操作する前に一度神崎さんに会う機会があるからその時でも聞けばいいか。

 サービスエリアで休憩を取って車を走らせて暫く経った頃だった。
ひより「先輩、ちょっといいですか?」
何だろう、さっきの続きかな。それならさっき考えていた内容を話してみるか。
こなた「ん、さっきの続きの話?」
ひより「いいえ」
違うのか。助手席に座っているだけだから退屈するのはたしかだ。
こなた「景色をみているだけじゃ飽きちゃうね……ラジオでも付けようか?」
ひより「……会合の時の話ですけどいいですか?」
こなた「会合?」
ひより「はい、先輩と神崎さんで報酬の話をしてたじゃないですか」
こなた「報酬……報酬って、ああ、話さなかったっけ、神崎さんから500万円もらった」
ひより「その話は知っているのですけど、先輩と神崎先輩のやり取りですこし不思議に思った事があったので」
こなた「不思議に思うこと、なにそれ?」
ひより「神崎さんがなぜ報酬を返すのかって聞いて先輩が選んだからって答えましたよね……それって答えになっていないような気がして……
    何故って問いの答えになっていない、それなのに神崎さんはそれ以上質問してこなかった、かがみ先輩だったら即突っ込んでいましたよ」
こなた「……質問が難しいくて分かんない」
ひより「つまり選んだのは結果であって理由じゃないから……」
私は言っている事は理解できたけど答えられなかった。返す理由か。
こなた「そう言われると」
ひより「そうでしょ、それを神崎さんは聞きたかったと思うっス、特に記者をやっていればこういった中途半端を嫌うんじゃなかなって」
私もみんもスルーした話なのに、ひよりだけ気づいたのか。
こなた「でもね、はっきり言って理由を聞かれても即答できなかったよ……」
ひよりは腕を組んで考え込んだ。ひよりってこう言う所でこだわるよね……
こなた「そういえばひよりが来る少し前、神崎さんと選択について話してたからその影響かな」
ひより「せんたく……せんたくって選ぶって意味のッスか?」
こなた「うん」
ひより「選択……ゲームの話?」
こなた「まぁ、似た様なものだけど、リアルな話……ちょっと私には説明出来ない……」
ひより「リアルな選択の話……哲学ッスね……」
こなた「ははは、そんな大げさな話じゃないよ」
ひより「リアルな選択か……」
ひよりは大きくため息をついた。
こなた「何、どうかしたの?」
運転しているから彼女の表情を窺い知ることは出来なかったけど気になった。
ひより「大学を卒業してから私は選択なんかしていない……」
こなた「いや、してるじゃん、ゆたかと一緒に漫画家になった」
私としたらゆたかが漫画家になったこと自体が驚きだった。
ひより「いえいえ、私はゆたかに誘われたからそうなっただけで……言わばゆたかの選択に乗っかっているだけ……」
これって……私と同じような事を言っている。
こなた「うんにゃ、ひよりはゆたかの選択に乗っかるのを選んだんだよ」
ひよりは笑った。
ひより「はは、先輩~選ぶのを選ぶって……それは無いっス」
こなた「いや、選んでるって、無意識のうちに」
ひよりは再び笑った。
ひより「無意識って……先輩、選ぶって事はそこに意識が働いているから選べるっスよ、無意識じゃ何もえらべられないじゃないですか、ゲームの選択肢
だって選ばなきゃ先に進まないっス」
確かにその通り……だけど。
こなた「……さっきサービスエリア寄ったけど、さ今まで何箇所サービスエリアを通過したかな」
ひより「……え? 何箇所って……3箇所くらい?」
こなた「なんでさっきの所で休憩したのかな……」
ひより「何でって先輩が選んだからじゃないですか?」
こなた「でも、2箇所は通り過ぎたよね」
ひより「それはそうですよ、毎回なんか寄っていられないし、先輩といろいろ話していたし、気付かずに過ぎてしまったかもしれないし」
こなた「ほら、無意識のうちに選んでるじゃん」
ひよりは笑った。
ひより「ははは、それは車が動いているからっス……」
こなた「そうだよね、動いている、ゲームは選択するまで待ってくれるけどリアルは待ってくれない、だから選択したのに気付かないんだよ、サービスエリアを通過した時、私達は
    選んだ、通過するってね」
ひよりは黙って何も言い返してこなかった。
こなた「もし、前のサービスエリアで休んでいたら……この次だったらどうなっていたか、多分違う展開になっていた……そう思うと不思議だと思わない、
    無意識の選択が人生を変えちゃうなんてさ?」
ひより「……先輩がゲーム以外の例えをするのを初めて見たっス……」
ひよりはそのまま左を向いて景色を見た。ちょうどパーキングエリアを通過する所だった。ひよりはパーキングエリアの標識を目で追い通りすぎても暫くパーキングエリアの
方を目で追っていた。
神崎さんの言いたい事はこう言う事だったのだろうか……
こなた「ふふ、神崎さんはこんなのは寝る前に考えろなんていっていたけどね……運転している間考え込んでしまったよ」
ひよりは私の顔を見た。
ひより「先輩と神崎さん……私が来る前にそんな話をしていたっスか?」
こなた「そうだよ、きっと私がRPGやギャルゲーが好きだから合わせてくれたんだと思うけどね」
ひよりは暫く考えた。
ひより「そうでしょうか、……とっても深いと思いますよ、意識しない選択だなんて……」
ひよりはまた暫く考えた。
ひより「意識しないで選んでいるとしたらそれは私達にはどうする事も出来ないって事……言い替えるとそれって運命ってことじゃないっスか?」
こなた「運命……」
そういえばつかさもそんな言葉を言っていた。
こなた「ひよりは運命を信じる?」
ひより「運命……そんなのあるのかなって思っていましけど……さっきのサービスエリアの話を聞いたら在るんじゃないかなって思えて……」
こなた「選択が運命だとしたら、その無意識の選択に気付けば、もしかしたら運命を変えられる?」
ひより「無意識を意識するっスか……禅問答みたいで訳が分からなくなってきました……」
こなた「……うぐ」
やっぱり慣れない思考は突っ込まれるな……
ひより「運命を変えるって……先輩は何か変えたい運命があるんですか?」
こなた「別にそんなんじゃないよ……」
別に変えたいわけじゃない。でも運命は変えられないってよく言われるから聞いてみただけだった。
ひよりはそれ以上この話をしてこなかった。私も話さなかった。
それからひよりとは家に送るまで映画化の話やひよりの腐った話などをした。いわゆるいつもの話ってやつ。

 それから一週間が過ぎた。
私はかがみの法律事務所に来ていた。私がこの事務所に行くのは初めてだ。
それもそうだ。法律事務所に用があるような事をした覚えはない。それにしてもかがみが自身の仕事場に私を呼ぶなんて。いったい何の用事なのかな。
事務所に着くと会議室に通された。暫く待っているとかがみが入ってきた。
かがみ「いろいろ忙しいのによく来てくれたわね」
こなた「それよりどうしてこんな所に呼び出したの、私の所のレストランでも、つかさの店でも良かったのに、特につかさの店は休業中だよ、それにわざわざつかさ経由で
    呼ばなくても……携帯でもメールでも呼べるじゃん」
かがみは私の対面に座った。
かがみ「ここならどんなに騒いでも他人に聞かれることは無い、私はここが一番落ち着くから……それに公共通信は使いたくなかった」
こなた「ちょ……なにそれ、どんだけシークレットなの?」
っと言ってみたけど。随分かがみも慎重になってきた。これも神崎さんの影響なのか。
かがみ「神崎さんが自分の家で会合したでしょ……それと同じよ」
こなた「かがみ~いくらはぶられたからって、そんな大げさにする事ないでしょ」
かがみの目つきが変わり鋭く私を睨み付けた。
かがみ「あんはた全く分かっていない、事の重大さが、あんた達がしようしている事が」
こなた「分かってるって、貿易会社はお稲荷さんの知識と技術を独り占めしようとしている、しかも兵器に利用しようとしている、
差し詰め私達は悪の陰謀を阻止するヒロインってところだね」
かがみは更に声を張り上げた。
かがみ「そんな事を言ってるんじゃない!!」
こなた「まぁ、まぁ、落ち着いて、最初から話さないと分からないよ」
かがみ「あっ! そ、そうね、そうだった……お茶も出さないで……ちょっと待って……」
私の声に冷静さを取り戻したのか立ち上がると部屋を出て行った。かがみらしくない。かがみが怒る時、その理由はだいたい理解できる。
私が冗談で返したくらいであんな怒り方はしない。イライラしているみたいだったけど。何だろう……
作戦の人選から外れたのを怒っているのか。いや、本当に作戦に参加したかったらあの時もっと食い下がったはずだよ。かがみならそれが出来た。いのりさんの様に……
つかさが言っていたっけ。夫や子供が頭に過ぎったって。それが違うとしたら、じゃ何だろう……
あれこれ考えているうちにかがみが再び部屋に入ってきた。私の前にお茶を置くととゆっくりと座った。
かがみ「今から5年前の話……」
こなた「5年前?」
かがみは頷いた。
こなた「いきなりそんな前の話……」
かがみ「ヨーロッパとアメリカに二人の記者が居た、二人は不慮の事故で他界したそうよ」
こなた「不慮の事故なんて珍しくないじゃん、記者が二人……記者?」
何か嫌な予感がした。
かがみ「この二人の記者に特別の交流はなかったみたい、一人は社会、もう一人は古代遺跡を取材するのが主な仕事、不思議なのは不慮の事故ってだけで詳細がまったく
    解っていない、それに彼らの取材したデータが消えている」
こなた「それって貿易会社に抹殺されたって言いたいの……」
かがみはゆっくり立ち上がった。
かがみ「結論が早いわねこなた、まだ完全な証拠がある訳じゃないからそこまでは言えない……でもね、こなたが持ってきたデータの中にこの二人の名前が何度も出てくる、
    5年前の彼らの行動が事細かに書かれている、しかもこの二人の他に約10名の名前が載っていた、科学者、記者、高級官僚、政治家……そしてその半数がこの世に居ない……」
こなた「まさか、神崎さんの名前が載っていたとか?」
かがみは首を横に振った。
こなた「よかった」
『バンっ!!』
かがみは両手を強くテーブルに打ちつけた。
かがみ「よかったじゃない!!   いい、良く聞いて、仮にこなたの言うように彼らが抹殺、あるいは暗殺されたとして、彼らは目的の為なら命を奪っても構わないと
    思っている連中、しかもそんな事をしても秘密に出来るほどの力を持っている、見つかったら最後、あんた達も間違いなく消される、こなたはその覚悟があるのか、
    失敗したって復活の呪文もない、キャンセルボタンだってない」
確かにそうだ。でもそれはつかさとけいこさんが出会ってからなんとなく分かっていた。貿易会社の正体。
かがみ「今ならまだ間に合う、中止にしなさい」
私は首を横に振った。
かがみ「何故?」
それはそれを選んだから……なんて言ったら突っ込まれるだけだろうな。
こなた「昔、命の危険を顧みず独りで果敢に大きな力に立ち向かった人がいてね……」
かがみ「誰よそれ、その人の真似をするっていうのか、歴史上の人物を並べてたって到底あんたには真似できないわよ」
こなた「目の前に居る人、かがみ」
かがみは一歩後ろに下がって驚いた。
かがみ「え……私は……ば、ばか、なにを唐突に……私を持ち上げたって無駄」
こなた「うんん、持ち上げてないよ」
かがみは俯いた。
かがみ「私は逃げた……果敢になんか一度もしたことない……」
こなた「そうかな、かがみはお稲荷さん……えっと、たかしだっけ、その人に呪いかけられながらも誰にも言わずにつかさを守ろうとしたよね……あれは凄かった、
その勇気半分でもいいから分けて欲しいくらい」
かがみ「……結局私はその呪いにのたうち回って苦しんだだけじゃない、つかさを助けられなかった、それどころかそのつかさに命を救われた……ひとしだってつかさが居なかったら
    夫になっていなかった……何が勇気よ、いい加減なことを言うと殴るわよ」
かがみは片手を握ると私の前に握り拳を見せた。
こなた「それが凄いんだよ、私には分かる……うんうん」
そうなると分かってそれを選んだ。それが勇気なのかも。
かがみ「ばか……あれは死ぬ気だった……そんなのを真似してどうするのよ……この前のは運が良かっただけ、今度はどうなるかわからい……死ぬかもしれない」
今度は涙を流し始めた……全くいつも大げさだな。かがみは。
こなた「死ぬつもりなんか無いよ、あの時かがみは独り、だけど今回は度独りじゃない、元お稲荷さんにその妻でかがみのお姉さん、現役漫画家に高級レストランのホール長、
    歩くWikiの研究員、 最後にお稲荷さんを助けた記者だよ、向かうところ敵なしじゃん」
かがみはまたゆっくり座り涙を拭った。
かがみ「……ふぅ、ホール長だけ頼りなさそうだけどな」
こなた「なに~それじゃね……スーパーハッカーこなちゃんってのはどう?」
かがみ「はぁ、なんで急に名前をつけるのよ」
こなた「別にいいじゃん、あだ名だし」
かがみ「こなちゃんって歳かよ」
こなた「だってまだそう呼ばれるし」
かがみ「……つかさはお婆ちゃんになってもそう呼ぶわよ」
こなた「そうだろうね……」
かがみ「って、なんでそんな話になった、私の言いたいのは……」
かがみは言うのを止めて私の顔をじっと見た。そして苦笑いをした。
こなた「ん、なに?」
かがみ「ふふ、みゆきと同じ事を言うなんて、こなたも変わったわね……」
こなた「みゆきさんって……みゆきさんはこの話知らないの?」
かがみ「みゆきは知らなかった、英語の文章を調べるのは私が担当だった、ただの名前の羅列だったから後回しにした、だけど最初に調べるべきだったわね……」
こなた「みゆきさんが同じ事を言ったって?」
私は聞き返した。
かがみ「そう、みゆきに作戦の中止を提案した……みゆきはさっきこなたが言った内容と同じ言葉を返してきたのよ」
さっき涙を見せたのはそのせいだったのかな?
かがみ「そういえばこなたもつかさの制止を振り切ってひろしに突進して行ったわね……返り討ちの危険も省みずに」
つかさとみゆきさんと一緒にかがみを神社まで追いかけた時の事を言っているみたい。
こなた「結局かがみを呪ったのはひろしじゃなかったけどね、もしかしたらそのせいかもしれない、ひろしが今でも私を嫌っているのは」
かがみは溜め息の様な、諦めたみたいに息を吐いた。
かがみ「……どうやらこなたも止める気はなさそうだ」
こなた「も、もって言った?」
透かさず聞き返した。
かがみ「……そうよ、さっきの話はみゆきはもちろん、ひよりや姉さんやすすみさんにも話した、でも結果は誰一止めようとはしなかった、それで残ったのはあんたと神崎さんだけ」
こなた「私と、神崎さん、それじゃ……」
かがみは頷いた。
かがみ「あとは神崎さんだけ……だけど、腑に落ちない、神崎さんならもうこの話は知っているはず、姉さんに聞けば神崎さんはその話をしていないって言うじゃない、
    こなたは聞いたのか?」
私は首を横に振った。
かがみ「この期に及んで隠し事なんて、やっぱり彼女は自分の名を売りたい為に私達を利用しているだけ、そう思わない?」
かがみの話を聞いても止める気にはならなかった。
こなた「思わない……神崎さんはそんな人じゃない」
即答する私にかがみは少し驚いた顔をした。
かがみ「何故そう言い切れる、出会って一年も経っていないじゃない、彼女の何が分かったって言うの?」
こなた「何でって言われると分からないけど、直感って言うのか……かがみがそう思うなら直接聞けばいいじゃん、それが手っ取り早い」
かがみ「……い、いや、どうも彼女は苦手で……あまり……」
驚いた、かがみに苦手な人が居るなんて。でも、それは神崎さんも同じかな。だからかがみを遠ざけたのかもしれない。
こなた「そう言うけどさ、友達になる前、かがみは私の事をオタクだと思って近づかなかったでしょ、私だって、優等生でツンツンしている人なんて近寄り難くて
    話しかけるなんて出来なかった」
かがみ「な、誰ががツンツンだ!」
両手をテーブルに叩きつけて身を乗り出した。
こなた「そう、そうそう、そう言う所」
かがみ「……」
かがみは何も言わない。
こなた「そんなかがみも私とゲマズに行くようになったし、私はかがみがどんなに怒っても怖くないし」
かがみ「……少しは怖がりなさいよ……でも……そう言われるとそうね……」
神崎さんに手を握られた時のかがみは本当に怖かったけどね。
こなた「だから神崎さんもそう、話さないのは別に何か理由があるんじゃないかな?」
かがみは私をじっと見る。
かがみ「分かった、そこまで彼女を信じるならこなた自身で彼女に聞くといいわ、どんな答えが返ってくるか、神崎さんと運命を共にするならそれからでも遅くない」
こなた「もうとっくに同じ運命さ……お稲荷さんと出会った時点でね」
かがみ「そう言うなら話すも話さないもあんたの判断に任せるわ、好きになさい、私の言うべき事は全て話した」
こなた「そうするよ」
私は帰り支度を始めた。そんな私を物珍しげにかがみは見ていた。

かがみ「どう言うことなの、あんたがみゆきと同じ事を話したと思えば、神崎さんを信じるなんて言い出して……こなたらしくない」
私は帰り支度を止めてかがみの方を向いた。
こなた「らしくない……まさかこんな時におふざけでもすると思った?」
かがみは少し焦った様だった。
かがみ「い、いや、そうは思わない、思わないけど……昔のあんたなら半分ふざけていたでしょうね……フラグが立ったとかなんか言って騒いでた」
確かにフラグが立った……何のフラグ……それは結果が分かって初めてそれがフラグだったって判る。
こなた「懐かしいね」
かがみ「懐かしい、そう言うか……何時からかしら、あんたも変わった、つかさと同じくらいに変わった……神崎さんと会ったから……」
こなた「誰かと会えば誰だって影響をうけると思うよ、つかさが変わったのは真奈美さんと会ったから」
かがみ「……私は、変わったのかしら、誰かを変えたのかしら……」
かがみは自分の両手を広げてその手を見つめた。
こなた「変わってるし変えてる」
かがみ「そうかな……」
かがみは微笑んだ。
こなた「さて、帰るかな」
かがみ「そういえば思い出した、捕まってしまったけいこさんにつかさに会わす前、つかさといろいろ話した場面がふと過ぎった」
こなた「ん、何で?」
かがみ「ふふ、何だろう、分からない、だけど今のこなたを見ると作戦が成功するように思えてきた」
こなた「あっ、それ言ったら駄目じゃん」
かがみ「……逆フラグってか?」
私達二人は笑った。

こうしてかがみと話していると最後はつかさの話になる。ただの仲の良い姉妹だと思っていたけど。それだけじゃないみたい。
あ、そうだ。
こなた「かがみ、かがみは何故陵桜学園を選んだの?」
かがみ「唐突にそんな質問を……以前に話さなかったか?」
こなた「そうかもしれないけど、忘れちゃってね、つかさはかがみと同じ高校に行きたかったって言っていた、だとしたらかがみが陵桜学園を選ばなかったら
私達はこうして話すこともなかった」
かがみ「そうね……確かに、」
かがみは暫く話さなかった。私は首を傾げた。話せない内容なのかな。
かがみ「話してなかったかもね……」
そうボソっと言うと話し始めた。
かがみ「そろそろ妹離れしようと思って陵桜を選んだ、いつまでもベッタリじゃしょうがないじゃない」
こなた「妹離れ……」
かがみは溜め息をついた。
かがみ「もっと上位を狙えたけど陵桜を選んだ、どこかでまだ一緒に居たいと思っていたのかもしれない」
この姉妹はお互いに影響し合っている。どっちが先とか優位とかじゃない。
かがみ「でもこれで良かったと思っている、高校までつかさとの学生生活……掛け替えの無いものになった」
こなた「成るほどね~」
かがみ「もう作戦決行も間近なのになんでそんな事をきくのよ」
こなた「ちょっとね」
かがみ「なによ、内緒にすることなの、それともまた何かのゲームの攻略でもしようとしているのか、言っておくけど私の話なんてまったく参考にならんぞ」
こなた「ちょっと神崎さんを攻略しようと思ってね……選択と運命について考えている」
かがみ「え、神崎さん、選択……運命……なんの話よ?」
こなた「今度の作戦が終わったら話すよ」
かがみは笑った。
かがみ「こんな時に余裕ね……せいぜい攻略すばいい」
こなた「さて、こっちもそろそろ準備とかあるんだけど」
かがみは真顔になった。
かがみ「……こなたの覚悟がよく分かった……実はね、少しでも弱気な素振りを見せたら引き止めるつもりだった」
こなた「もしかして皆に話をしたのはその為?」
かがみは頷いた。
かがみ「そう、そして皆合格、神崎さんを除いてね……神崎さんはこなた、あんたが見極めなさい、作戦を実行するその直前までなら止めることだってできる、それを忘れないで」
こなた「分かった」

 そして数日後、
つかさから渡された犬用のキャリーバック、これは捕らわれている真奈美を狐にして入れる為の物、そしてUSBメモリー……今回はあまり役に立ちそうもないけど持っておくか。
さて、作戦当日。私は待ち合わせ場所に向かった。


 私は貿易会社本社の非常階段25階の入り口に居た。もちろん神崎さんとすすむさんも居る。
この階段には防犯カメラもセンサーも付いていない。それはこの前の潜入で既に判っていた。それにこの階段は外からは見え難くなっている。隠れるにも好都合だった。
この一週間、私達は入念な打ち合わせをしていた。もちろん私の潜入で得たこのビルの特徴等も話している。
それらを考慮に入れてもいのりさんは凄いと思った。たった一週間で私達の探しているメモリー板と真奈美が捕らわれていると思われる場所を探し当ててしまった。
私は一ヶ月も掛かったのに……
これも夫のすすむさんを想う気持ちからなのだろうけど、いったい何でメモリー板を欲しがるのかな。
あやめ「四万年前からずっと見つかっていない物を今頃になって取り返すなんて、しかも妻であるいのりさんまで巻き込んで、何故そこまでして?」
私が疑問に思っている事をストレートに聞いた。それもこんな土壇場になってから。前にも何度か聞いたけど答えてくれなかった。これも記者ならでは出来ることなのかもしれない。
私もそれを知りたい。私達はすすむさんの方をじっと見た。
すすむさんは腕時計を見た。私も時計を確認する。時間はまだたっぷりある。
25階入り口。ここは外側からは開かない。災害が無い限り内側から鍵を開けないといけないからだ。私のUSBでも停電を起こせば開けられるのだがみゆきさんに止められて
この方法になった。
鍵を開けるのはいのりさんの役目。いのりさんは既に25階の室内で掃除をしている。その合間にここの鍵を開ける手筈になっている。その時間まではまだまだ間があった。
すすむ「妻は、いのりは自分の意思で私達に協力をしている、強制はさせていない」
あやめ「意思ね……でも当初はすすむさんの参加に反対していた、どうして意思が変わったのか、私の知りたいのはそこ」
透かさず、しかも的確に知りたい所を突いてきた。すすむさんは少し困った顔をした。やっぱり話し難いのだろうか。
こなた「すすむさんは調査船のパイロットだったって?」
すすむ「な、なぜそれを知っている……」
すすむさんは驚いて私を見た。
こなた「かがみからそう聞いた」
すすむ「……かがみが話したのか、家族にはかがみ以外には話していない、他言は無用と言ったはずなのに……」
こなた「もしかしていのりさんにも話したの?」
すすむさんは私と神崎さんを見た。
すすむ「はやり話さない訳にはいかないか……」
すすむさんは溜め息をついた。
すすむ「あのメモリー板は船の航行記録も兼ねていてね、おそらく事故の当時の詳細な記録が入っているはずだ」
あやめ「飛行機で言うブラックボックスもしくはフライトレコーダーね」
すすむさんは頷いた。
すすむ「そう、それと同じ機能だ」
あやめ「どうして航行記録を……」
すすむ「あの時、私の判断が正しかったのか、それを確かめたかった……」
あやめ「4万年前の事故……例え貴方のミスだったとしても誰も貴方を責めたりはしないんじゃなかな、着陸に失敗しても生存できたのだし」
すすむ「そうかもしれない……しかし私は知りたい、自己満足だけかもしれないがな……」
あやめ「それでいのりさんは夫の貴方に協力するようになった訳か……」
すすむ「事故さえなければ地球に取り残される事もなかった」
確かに当時はそう思っていたかもしれないけど……
こなた「本当に地球に取り残されて嫌だったの?」
すすむ「そう思っていた仲間が多数だったはずだ……それより」
すすむさんは神崎さんの方を向いた。
すすむ「君はなぜこの作戦を主催した、しかも泉さんの時より急いでいる気がしてならない」
あやめ「私は捕らわれている真奈美を助けたいだけ……只それだけ、それにに急いでいる訳ではない、作戦が早いのは泉さんの経験が活かされた結果よ、だから今回も来てもらっている」
すすむさんも神崎さんが急いでいると感じているのか。私もそう思っていたけど……
すすむ「そうかな……私は人間になる前から他人心を読む事はできなかった、しかし経験である程度は推理できる……呼吸数の増加、手のひらの発汗、身体の硬直……緊張しているな、
    本当に充分な作戦を練ったのか?」
あやめ「うっ……」
神崎さんは両手を素早く隠した。だけどもうそれは遅かった。それに神崎さんは反論してこない。図星かな。
そんな神崎さんを尻目にすすむさんは私の方を見た。
すすむ「泉さんはなぜここま協力する、なにか特別な思い入れでもあるのか、私から見ればそこまでしてもらう義理はないのだがね」
前にも同じような事聞かれたっけ。
お稲荷さんとはそんなに深い付き合いがある訳じゃないし……かといって正義とか人類の為とかそんな大げさな意識もないよ……
それじゃ何故……
強いて言えばつかさの存在があるから……つかさに出来て私にできない訳が無い。そんな気持ち……
それだけじゃない気がするけど今の所それしか思いつかない。私はそれを言おうとした。
あやめ「昨日……小林さん……小林かがみさんに呼ばれてね……」
私よりも先に神崎さんが口を開いた。
こなた「かがみが?」
思わず私は聞き返した。神崎さんは頷いた。驚いた、かがみは神崎さんが苦手って言っていたのに……
私が直接聞けばなんて言ったからなのかな。
あやめ「彼女は自分自身の秘書を通じて私の泊まっているホテルに連絡をしてきた、その慎重ぶりに私は会う気になった、落ち合い場所はとある広場」
こなた「それでいったい何を話したの?」
私は思わず身を乗り出して聞いた。
あやめ「私の覚悟を知りたかったみたいね……思えば親友が三人、身内が二人も参加している作戦だものね、それは心配になるはず」
こなた「もしかして名簿の話をしたの?」
あやめ「そう、私がそれを知らない筈はないって、何故黙っていた……返答によっては中止を切り出しかねない権幕だった」
こなた「そのリストは知っていたの?」
あやめ「もちろん、知っていた、貿易会社は自分が不利になる因子をあらゆる手段で消す……それは人も物も同じ扱い」
こなた「ってことは……」
あやめ「証拠があるわけじゃない、だけど彼らの組織の中に選り抜きの殺し屋が雇われているかも、そう私は推理している……私達の作戦がバレればそれが証明されるかもね」
○ルゴ13じゃあるまいし……うげ……
神崎さんは少し笑みを浮かべている。
半分冗談かもしれない。だけど半分は本気……なんだこれは死亡フラグじゃないか……フラグが立ちまくっている。こんな時に……
こなた「え、こ、こんな土壇場で……バレないで脱出できるの……?」
すすむ「ふふ、どうした、怖いのか……泉さんもかがみから聞いているだろう、怖いなら階段を下りていけば逃げられるぞ?」
あやめ「これでも万全は尽くしているつもり……少しでも不安があるなら降りた方がいい、作戦に支障がでる」
そ、そんな事言われても……
すすむ「なるほど、緊張はそこから来ているのか……もう何も言うまい」
神崎さんとすすむさんの顔がさらに引き締まった。そして、私は……
まてよ、まさか、かがみと神崎さんは最後に私を試しているのか……確かにメンバーの中で私は一番動機が乏しいかもしれない……
うんん。動機なんか弱くたって……私はこれを選んだから。止められない。
こなた「うんん、降りないよ……絶対に成功する、させる」
あやめ「そうこなくっちゃ!!」
……あれ、そのセリフ……久しぶりに聞いた……
すすむ「さて、もうそろそろ時間だ、雑談はこれまで、ミッションに集中しよう」
こなた・あやめ「はい!」
あれこれ考える暇もなく時間が近づいてきた。
そして……
『カチッ!!』
非常扉のドアが鳴った。鍵が開いた。
あやめ「行くわよ!!」
私達はビルの中に潜入した。


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