ID:O1mi2Otc0氏:つかさの旅の終わり(ページ3)

 先に仕事が終わった私は家で来客の準備をしていた。かえでさんの話しって何だろう。こなちゃんも呼ばれるなんて……かえでさんは凄く怒っていた。
それに私達だけに話って……移転の話しなら店のスタッフ全員に話さないといけないし……
あれこれ考えているうちに時間は来た。かえでさんはこなちゃんと一緒に来た。二人は家に入ると、もう既に何をするのか決まっているかの様だった。
こなちゃんは自分の部屋からノートパソコンを持ってきて電源を入れた。かえでさんは私に一枚の名刺を手渡した。
つかさ「これは……貿易株式会社……え?」
かえで「お昼過ぎにやって来た連中の名刺よ」
つかさ「何で貿易会社の人が私達の店に?」
かえで「……ワールドホテルの株を全て引き取って、全ての事業を引き継いだそうよ……」
つかさ「引き継いだって……ちょっと待って、この町の土地を買ったのはお稲荷さんの為に買ったって……この人達は……」
かえで「そうよね、柊けいこさんの計画なんか知るはずもないわね……ここは工業団地になる」
つかさ「え、そ、そんな……そんなのって……」
追い討ちをかけるようにかえでさんの話しは続いた。
かえで「あの神社は……神社は壊してしまう、テーマパークにする……そして、そこに建設するホテルのレストランに私達の店を誘致したいと……」
つかさ「ちょっと待って、契約と内容が全然違うよ、そんなのが許されるの……だめ、そんなの」
かえで「契約と違う……うんん、違わない、契約はワールドホテル配下の任意のテナントとなっている……これでも……問題ない……それが向こうの言い分だ」
つかさ「違う……全部違うよ……神社を壊すなんて……」
かえで「『出直して来い』……そう言って追い払ってやった……つかさ、神社に居たスーツ姿の男を覚えているか、あいつら、下見を既にしていたんだ、
    しかも、けいこさんの逮捕前からね……」
つかさ「それって、どう言う事なの……分らない」
こなた「つまり、けいこ会長の会社は乗っ取られた……そう言うことだよ、つかさ」
パソコンの画面を見ながらこなちゃんはそう答えた。
こなた「けいこ会長は夫の竜太さんと知り合う前の経歴がまったく不明……そこを突かれたね、今調べたところだと、けいこさんの罪状はいつのまにか不法入国と贈収賄に
    変わっているよ、罪名なんてなんでも良かった……みごとに嵌められたね」
つかさ「なんでそんな事をするの……」
こなちゃんのキーボードを叩く音が早くなる。
こなた「なるほどね~彼等の製造している製品の中にけいこ会長の持っている特許が数多く必要みたいだね……乗っ取ってしまえばそれらは使いたい放題だね」
『バン!!』
強くテーブルを叩く音が部屋中に響いた。かえでさんだった。
かえで「バカか、そんなチンケな特許なんか比べ物にならない程の知識がこれから手にはいると言うのに……バカとしか言い様がないじゃないか……何故そっとしてくらなかった、
    これほど人間を愚かに思った事はない」
くやしそうなかえでさんだった。そしてかえでさんが私達だけに話したい事の意味が分った。
こなた「乗っ取りなんて普通にあるから~彼等からしてみれば企業活動の一環なんだろうね、私達は裏の事情を知っているから過ちが分る、知っている者と、知らざる者の差かな、
    無知ゆえの過ち……私達ってこうゆう過ちで何度も損をしてきたんだね……」
淡々と話すこなちゃん。感情が入っていない分余計に重く響いた。
こなた「さて、詮索はこれまでとして、これからどうするか……このまま貿易会社の言い成りに言う事を聞くのか、反旗を翻して対抗するか……でも……
    彼等の力は大企業をも陥れることが出来る、なめてかかると大怪我するね」
かえで「泉さん、あんたパソコンを持っていると変わるわね……と言っても泉さんの言うように、私達に抵抗する力はないわね……それに私達以外のスタッフに
    どうやって説明する」
こなちゃんはノートパソコンを閉じた。
こなた「お稲荷さんの話し以外は全て話して良いんじゃないの、その上で今後の方針を決めれば、今までやってきたように……従うにしても、反抗するにしてもね」
かえで「それで、泉こなたの意見はどうなんだ?」
こなた「う~ん、このまま屈服するのは私もいかがなものかとは思うけど……けいこ会長程の人でも太刀打ちできないと思うと従うしかないのかな」
かえでさんは私を見た。
かえで「柊つかさはどう?」
つかさ「私は……」
どうしよう、何て言えばいいのか全く言葉が出てこない。
こなた「つかさに答えを求めちゃ悪いよ、お稲荷さんの立場もあるんだし」
かえで「そうだったわね、悪かったわ」
つかさ「うんん、いいの、私も何か言わないと……私はお店があれば、料理ができれば何も要らない……」
かえで「二人の意見は聞いたわ、私としては、当初の予定通りの移転を要求するつもり、神社の件も同じ……やれるだけの事はするわ、最終的には私も店の存続を最優先
    にするつもり、二人とも意見をありがとう」
かえでさんは帰る支度をし始めた。
つかさ「お茶でも飲んで行ってください」
かえで「今日はもう遅いしいいわ、ありがとう」
かえでさんは玄関で靴を履いた。そして私の方を向いた。
かえで「お稲荷さん達が人間を信用しない理由が分ったわ……一番良い時代だと思っていたこの世界でも人は同じ事をするみたいね……今後の会合がどうなるか
    私には分らないけど……頑張って」
つかさ「うん」
恵子さんは玄関を出て行った。
 
こなた「さて、私はもう寝るかな……」
こなちゃんはノートパソコンを持って自分の部屋に移動しようとしていた。
つかさ「こなちゃんさっきの凄かったよ、詩人みたいだった」
こなた「へ、何のこと……あ、ああ、あれね、あれはみゆきさんのメールを引用しただけだよ……」
つかさ「パソコンで調べていたって、もしかしてゆきちゃんと話していたの?」
こなちゃんは苦笑いをしていた。こなちゃんはゆきちゃんに調べてもらっていたみたい。でも、それで私からゆきちゃんに説明する必要がなくなった。
つかさ「それでも凄いよ、私じゃ何をして良いのかも分らなかった」
こなた「そんな事ないよ、店の存続がやっぱり一番だよ、つかさの考えは正しい」
つかさ「ありがとう」
こなた「おやすみ……」
つかさ「おやすみ……」
『ドンドン、ドンドン』
玄関のドアから音がした。
こなた「ノックかな、おかしいな、なぜ呼び鈴鳴らさないのかな、それにこんな夜遅く……」
つかさ「きっとかえでさんだよ、忘れ物でもしたのかもしれない」
私は駆け足で玄関に向かった。
こなた「一応、誰か確認してから開けて」
私は覗き穴からドアの外を見た。誰も居ない。
『ドンドン、ドンドン』
ノックの音がまたした。誰も居ないのにノックの音……急に恐くなってしまった。心配になったのかこなちゃんが来てくれた。
こなた「どうしたの?」
つかさ「誰も居ないのに……ノックが……」
こなちゃんは笑った。
こなた「そんなはずないじゃないか、どれどれ」
こなちゃんも覗き穴を覗いた。
こなた「……あれ、本当だ……」
『ドンドン』
しかしドアの音は確かにノックの音。ドアから聞こえる。
つかさ「こ、恐いよ……」
こなた「物事には全て原因がある……みゆきさんはそう言っていた……ドアを開ければそれが分る」
私はこなちゃんの後ろに隠れた。こなちゃんはゆっくりとドアを開けた。
こなた「い、犬?」
違う、狐だ。ドアの正面に狐が立っていた。背が低いから覗き穴から見えなかった。
つかさ「狐だよ、こなちゃん」
こなた「狐って、狐がドアをノックするの……」
私はこなちゃんの前に出た。
つかさ「どうしたの?」
狐に話しかけると、狐は私の顔を見た。
『グルグル』
唸り声を上げるとその場に崩れるように倒れた。
こなた「この狐……傷だらけ……」
こなちゃんの言う通り、毛から血があちらこちらから出ていた。狐が私の家に……もしかしたら……
つかさ「こなちゃん、救急箱の用意をして」
こなた「え?」
私は倒れている狐をそっと抱きかかえた。すごい熱……あの時のたかしと同じだ。私は抱きかかえたまま居間に移動し、ソファーにそっと寝かせた。
こなた「救急箱もってきたよ」
つかさ「ありがとう、そこに置いて」
傷は深いのから浅いのまでまちまちだった。たかしさんみたいな銃の後みたいのはない。背中の擦り傷が一番酷い、皮ごと少し剥がれている……車にでも触れたのかな。
つかさ「濡れたタオルで優しく拭いておいて……お薬持ってくるから」
私は洗面所に向かった。まだ残っていたはず。洗面所にしまってあった壷を取り出し居間に戻った。こなちゃんは狐を濡れたタオルで血をふき取っていた。
こなた「何、その壷……」
つかさ「お稲荷さん特製のお薬だよ」
こなた「特製って……かがみの病気を治したやつ?」
私は頷いた。
つかさ「こなちゃんは口の方を押さえていて、暴れるといけないから」
こなた「う、うん」
救急箱からガーゼを取り出し、壷の中に入れた。漬したガーゼを傷口に置いた。そしてその上から包帯を巻いて固定した。
こなた「……手つきが慣れているよ、包帯なんか巻いたことあるの?」
つかさ「私、狐になったお稲荷さんの看病をしたことがあるの、お姉ちゃんを呪ったたかしさん、この薬もたかしさんから教わった」
こなた「……何だって、つかさ、まさか、この狐もお稲荷さんって言いたいの?」
つかさ「私の家を訪ねて来るなんて、それしか考えられないよ……さてと、これでよし、最後に薬を飲ませなきゃ……」
こなた「あれ……つかさ、この狐何か咥えているよ……」
こなちゃんは狐の咥えている物を掴んで引っ張った。
こなた「凄い力、取れない……」
噛んだままだと薬が飲ませられない。私の家を知っている狐はたかしさん、ひろしさんくらい……だけどこの狐は雌みたいだから違う……
つかさ「私がやってみる、代わって」
こなちゃんは狐から離れた。
つかさ「私の声が聞こえる、つかさ、柊つかさだよ、もう大丈夫だから、薬を飲ませたいの……めぐみさん」
さっきまで身体全体が強張っていたけど、みるみる力が抜けていった。咥えていた物がポロリと落ちた。私はスプーンで薬を掬って狐の口に流し込んだ。
こなた「つかさ、さっき、めぐみって呼んでいなかった、まさか、この狐は」
つかさ「たぶん、めぐみさんだと思う……」
こなた「どうやってここまで……まさか、狐のままで……」
つかさ「人間の姿だと、捕まっちゃうでしょ、だから狐の姿のままで来たのかも知れない、その途中で車にでも当たってしまったんじゃないかな」
薬を飲ませると熱が引いたような気がした。表情も穏やかになった。
つかさ「このまま寝かせてあげよう、私はここで寝るから」
こなた「看病するの……明日の仕事はどうするの……」
つかさ「この様子だと大丈夫そう、途中で看病することは無いと思うから、万一の為にここで寝るだけ」
こなちゃんは狐が咥えていた物を拾った。
こなた「……これは……USBメモリーだ……狐がこんなのを持っているはずないよね……つかさの推理で正解かも……」
こなちゃんは私にUSBメモリーを渡した。
こなた「中身を見てみたいけど……さすがに今は見る気がしないや、それに、勝手に見るのも気が引けるし……つかさが持っていて」
つかさ「うん」
こなた「私はもう寝るけど……何かあったら起こして」
つかさ「ありがとう」
こなた「私達……何か大きな出来事に……運命に巻き込まれようとしているような気がしてきた……」
つかさ「もうとっくに、巻き込まれているよ……」
こなた「少しワクワクしてきた、こんなのゲームの世界でしか味わえないと思っていたけど……楽しい冒険が出来そう……指名手配の人物を匿うなんて、そう出来る事じゃない」
こなちゃんはそのまま自分の部屋に入って行った。
ワクワクする……か。こなちゃんらしいや。
冒険か……私の一人旅から始まって、何時しかこの町を巻き込んで……うんん、全人類を巻き込む……それは大袈裟かな。お稲荷さんにとっては存亡に関わる一大事。
旅や冒険なんて表現したらお稲荷さんに怒られてしまうよね。もうここまでくると私の意思がどうのこうのは関係ない。大河の流れの中に居る私……その流に抗えない。
ひろしさんにはもう会えないと思っていた。会えるかもしれない……そう思えただけも幸せだよね。
安らかに眠っているめぐみさん……他のお稲荷さんかもしれない、ただの狐さんかもしれない。もし、めぐみさんだったら、私は指名手配を匿って罪に問われるのかな。
めぐみさんは人間じゃない……だから、関係ないよ……
 
 何だろう、プニプニした感触が頬に……
『チュン、チュン』
小鳥のさえずり……あれ。
寝てしまったみたい。ソファーに寄りかかっていた。起き上がるとソファーにお座りをしている狐さんがいた。さっきの感触は前足の肉球の感触かな。
つかさ「おはよー、起こしてくれたの?」
私には頷いているように見えた。良く見ると足の包帯が少し取れていた。その隙間にはあるはずの傷がすっかり消えていた。
つかさ「もうすっかり治っているみたい、包帯、邪魔だよね、取ってあげる」
近づいても逃げようとはしない。それどころか包帯を取り易いように体勢を変えてくれた。
つかさ「もしかして……めぐみさん?」
狐さんは何の反応もしない。
つかさ「大丈夫だよ、警察に連絡したりなんかしないから……ごめんなさい、何もしてあげられなくて……」
狐さんは私の手に前足をそっと乗せた。そして首を横に振った。
つかさ「やっぱり、めぐみさんだね、よかった無事で……お話したいけど、まだ人間になれないの?」
めぐみさんは頷いた。ふと時計を見ると……出勤の準備をしないと……
つかさ「ご、ごめんなさい、出勤しないといけないから、この家を自由に使って、それにね、こなちゃん……泉こなたって同居人がいるけど、安心して、私の親友でお稲荷さんの
    事は全て知っているから、きっと協力してくれるよ」
こなた「つかさ~さっきから独り言を言っているの……起きちゃったよ」
自分の部屋からこなちゃんが眠い目を擦りながら出てきた。
こなた「え……ミイラみたいに包帯だらけだったのに……伊達にかがみの病気を治した薬じゃないね」
こなちゃんの姿を見てめぐみさんが身を低くして構えた。
つかさ「あ、警戒しないで、紹介するよ、私の親友の泉こなたさん……それから、こなちゃん、こちらがお稲荷さんのめぐみさん……」
こなた「つかさの勘が当たったみたいだね……泉こなたです」
こなちゃんはめぐみさんにお辞儀をした。めぐみさんは構えを解いた。
つかさ「傷は癒えたけど、まだ本調子じゃないみたい……私、これから出勤しないといけないから、こなちゃんは遅番でしょ、めぐみさんの相手をして」
私は洗面所に向かった。
こなた「ちょっと、いきなりそんな事言われても、どうすればいいの?」
つかさ「こっくりさんって、覚えているかな、紙にはい、いいえ、五十音と数字を書いて……それでお話できるから……」
こなた「覚えているけど……」
こなちゃんとめぐみさんの目が合った。めぐみさんはじっとこなちゃんを見て待っている感じだった。
こなた「わかった、わかったからそんな目でみないでよ」
こなちゃんは自分の部屋に戻って行った。きっと紙を用意しているに違いない。さて、私も準備しないと、お風呂入っていない、時間がないからシャワーで済まそう。
 
 お昼を過ぎた頃だった。もうとっくにこなちゃんは出勤していなければならないのに、まだ来ていない。高校時代はよく遅刻をしていたけど。この店で働くようになってから
は遅刻は一度もしたことは無かった。どうしたのかな。めぐみさんに何かあったのだろうか。それなら連絡がくるはず。
かえで「つかさ、泉さんから電話があって、今日一日休むって言ってきたわよ……気分でも悪いの?」
つかさ「え、あ、は、はい、なんか風邪気味みたいで……」
かえで「昨夜はそんな感じにはみえなかったけど……つかさも気をつけなさいよ」
つかさ「はい」
こなちゃん得意の仮病……めぐみさんに何かあったに違いない。でも私を直接呼ばなかったのは何故だろう。こなちゃんに連絡を取りたいけど、かえでさんに怪しまれちゃう。
帰りの時間が来るまで気が気ではない。だけど……かえでさんはめぐみさんと何度も会っているし、内緒にしていたら逆に怒られそう……
 
 就業時間が近づいてきた。事務所のドアをノックする。
つかさ「かえでさん、今夜時間空いていますか?」
かえでさんはパソコンに向かって作業をしていた。そういえば抗議文を書くとか言っていた。
かえで「何かしら、手短に用件だけを言って」
つかさ「昨夜の話しの続きをしたいと思います……」
かえでさんは作業を止めて私を見た。
かえで「泉さんは風邪でしょ、お邪魔にならないかしら……」
しまった……あの時は咄嗟に誤魔化してしまったのを忘れていた。どうしよう。ここでまた誤魔化してもしょうがない。
つかさ「こなちゃんは風邪をひいていません、ここでは言えませんけど、家に来て欲しい」
かえで「彼女、学生時代はズル休みを何度かしたそうね、今までの勤務態度からは想像もつかないわ、今日の休みも有給休暇だし何も問題はない、いったい何を隠している……」
かえでさんの目が少し厳しくなった。
つかさ「家に来てくれれば分ります……」
かえでさんは溜め息をついた。
かえで「ふぅ~つかさがそこまで隠すのならよっぽどの事ね、家に行けば分るのか、それなら今聞くこともないか、準備する、駐車場で待っていて」
かえでさんはパソコンをシャットダウンした。
つかさ「ありがとう……」
 
 かえでさんを乗せ、私の運転する車は家の駐車場に着いた。来客用の駐車スペースに車が停まっていた。どこかで見たことがある車だった。運転席側のドアが開いた。
この車も駐車場に入ったばかりみたい。
「あら、つかささん……」
つかさ「ゆ、ゆきちゃん……」
思い出した。この車はゆきちゃんの車。
つかさ「どうしたの、連絡もしないで……」
みゆき「泉さんに呼ばれまして……」
かえで「高良さん、お久しぶり」
みゆき「ご無沙汰しています……」
ゆきちゃんの車の助手席側が開いた。中から出てきたのはお姉ちゃんだった。
かがみ「つかさ……あ、松本さん、つかさがお世話になっています……」
かえで「いいえ、つかさにはこちらがお世話になっているわ……」
お姉ちゃんとかえでさんは会釈をした。
つかさ「二人ともどうしたの?」
かがみ「どうしたも、こうしたも無いわよ、こなたが重要な話があるからって言うから来たのよ」
みゆき「内容は来れば分ると……」
こなちゃんと私は別に打ち合わせをしていた訳じゃなかった。こなちゃんも私と同じような事を考えていた。お姉ちゃんとゆきちゃんが来てくれたのは嬉しいし、心強い。
 
 家に入るとこなちゃんは皆を居間に案内した。そして、そこに居たのは人間の姿になっためぐみさんだった。かえでさんとゆきちゃんは、硬直して動かなかった。
おねえちゃんはめぐみさんを見ると会釈をした。
お姉ちゃんはめぐみさんとは初対面、いくら指名手配で有名になったとは言っても分るはずもない。
かがみ「お客さんかしら……柊かがみです……ちょ、みゆき、知っている人なら紹介しなさいよ」
お姉ちゃんの言葉になんの反応も示さない。ゆきちゃんは呆然とめぐみさんを見ているだけだった。
かえで「柊けいこの秘書、木村めぐみ……と言えば分るかしら」
かがみ「めぐみ……まさか、ワールドホテル事件の……」
お姉ちゃんも言葉を失った。
『パン、パン、パン!!』
こなちゃんは手を叩いた。
こなた「ほらほら、皆、突っ立てないでこっちに来て座って、変身していられる時間は短いらしいから急いで」
私もめぐみさんの回復の早さに少し驚いた。私が席に着くと遅れて他の皆も席に着いた。
つかさ「怪我は大丈夫ですか?」
めぐみ「はい、ありがとうございます、おかげさまで」
かがみ「怪我……どこも傷なんかない……」
みゆき「それは……」
こなた「ゴメン、めぐみさんに時間がないから早速だけど本題に入らせて、こっくりさんなんかで話していたら日が暮れちゃうよ」
ゆきちゃんが言いかけたのを阻止するようにこなちゃんが割り込んだ。ゆきちゃんはそれ以上何も言わなかった。
かえで「本題の前に、何故こうなったのか説明してもらえないかしら、それに何故逃亡なんかしたのか」
めぐみ「私……いいえ、私達は企業経営に関して言えば細心の注意をして運営をしてきたつもりです……人間の法律や、慣習について私は古くから観察、研究をしてきました、
    しかし……彼らは自らその約束事を破り、その罪を全て私達に擦り付けたのです……会長が逮捕される時、私は丁度狐の姿でした、どうする事もできません、
    幸い、私が木村めぐみだとは誰も思わなかった、ビルを抜け出し、隠れながらここを目指しました、その途中、車と接触してしまい、昨夜の有様に……」
かえで「言わせて貰うわ、何故お稲荷さんの知識を使った、使えばライバル会社から注目される……教える前から使ってしまったらこうなる事は分って
    分っていたろう、それが人間の歴史ってものじゃないの」
正直かえでさんには驚いた。本当ならゆきちゃんがこんな質問をすると思っていた。私みたいに料理だけじゃない。幅広い知識をかえでさんは持っている。
そういえばよく図書館に行くって言っていた。それにかえでさんにお稲荷さんの話しをしたのも図書館だった。めぐみさんは目を閉じてかえでさんの話しを聞いていた。
めぐみ「泉さんは私達の知識がどれ程のものか試そうとしましたね、私達……いいえ、私もそれと同じように、人間を試したのです、特許は今の人間のレベルになるべく
近いものを選びました……その結果がこれです、私達の知識を人間に教える事は出来ません……」
つかさ「で、でも、それじゃ、これからどうするの、二十人もお稲荷さんが居るのに……狐狩りが無くても生活するのは大変だよ」
めぐみ「この星は人間の住む星……私達の居場所はありません、私達は本来居るべき場所に帰ります、その目処が付きました」
めぐみさんは部屋の天井を見上げた。
つかさ「帰る……何処に?」
みゆき「やはり貴女方は異星から来たのでしたか……どうして地球に来たのですか、そして、もっと早く帰ることは出来なかったのですか」
めぐみ「私達の先祖は約三万年前、この太陽系を調査する為に来た、木星の衛星、ガニメデに基地を置き、調査団を地球に向かわせた、その時の人員が百名だったと聞いています、
    しかし、不慮の事故で宇宙船が故障、地球に不時着する以外なかった……宇宙船は航行不能、修理も未開の惑星では術はありません、それに地球の環境は私達には
    厳しすぎました、救援が来るまでの間地球の環境に身体を合わせなければなりませんでした、宇宙船の装置が稼動できる時間も僅かしかなかったそうです、
    近くに居た四足動物のサンプルを利用して私達の身体を地球の環境に合わせました……」
みゆき「まさか、その四足動物は……狐……ですか」
めぐみさんは頷いた。
めぐみ「狐になり、救助を待ちましたが……来なかった……通信手段も無く、私達は見捨てられた……途中で発見した人類を私達の身体の基本とするはずでしたが装置の
    修理が不完全で……代々中途半端な身体を余儀無くされたのです」
みゆき「それで、どうして今になって帰る目処がついたのですか?」
めぐみ「私は一年前、ガニメデの基地に通信をすることに成功しました、もちろん既に基地は無人でした、遠隔操作で基地の記録を調べて分ったのです、
    当時、私達の母星に何か大きな災いが起き、調査団は私達の救助を打ち切り帰ったのです」
めぐみ「そんな遠くにどうやって通信を……そんな大掛かりな施設は日本には……」
めぐみ「NASA(ナサ)のコンピューターをハッキングして、電波望遠鏡を操作し、制御信号を送った……簡単な事です、遠隔操作で基地から母星に救助信号を送った、
    母星は無事に危機を脱したのが分り、救援が来ることになった……それが二週間後」
みゆき「ちょっと待ってください、一番近い恒星でも数光年かかります、どうやってそんな短時間で通信して、援助まで来ることが出来るのですか……」
つかさ「あの~途中から言っている意味が分らなくなっちゃった……」
でも……最後の意味は分る、二週間後、お稲荷さんは故郷に帰るって……
みゆき「光より速く移動できる物はないはずです……」
めぐみ「……それが分れば我々の知識など必要は無い……今まで帰れなかったのは木星の距離まで制御信号を送る技術がなかったからです」
みゆき「知りたい……調べても分らない事……木村さん、フェアではありません、事情を知っていれば彼らも乗っ取りなどしなかった筈です」
珍しくゆきちゃんが怒っている。
めぐみ「フェア……ですか、私達はこれらの知識を得るためにどれ程の時間を費やしたか、時には命の犠牲を払い、我々自身の滅亡の危機まであったのです、
    この程度の試しをフェアでは無いと言われるのは心外です」
ゆきちゃんは何も言わなくなった。
めぐみ「救助の話しは仲間も会長も知りません、私が個人的に行った事です、今度の会合の時、第四の選択として提案するつもりでした……故郷と言っても
    私達は地球になん世代も住んでいます、中には残りたい者も居るでしょうから……仲間と連絡を取る事はできます、しかし……
    会長に意思の確認を取りたいのです……ある程度の距離なら意思の疎通もできますが、施設の外からでは無理です」
かがみ「面会をしたい訳ね、それは無理よ、共犯とされている貴女が逃げている限りね」
今まで黙っていたお姉ちゃんが小さな声で話した。
めぐみ「どう言う事です?」
かがみ「本来なら裁判が終わるまで保釈が認められるはずよ、でも貴女が逃げているからそれが出来ない、証拠隠滅のおそれがある……それが理由よ」
かえで「かがみさん、よくそんな事情を知っているわね」
かがみ「私の彼の所属する法律事務所がけいこさんの弁護をする事になったから分るわ……」
めぐみ「そうですか、捕まるのはやぶさかではありません、しかし、救援に来る者に救援者の報告をしなければなりません……それさえ伝えれば、例え牢獄の中からでも
    特定の人物を収容出来ます……」
こなた「報告はどうやって?」
めぐみ「私の持って来たUSBメモリーの中にあるプログラムを起動して……」
こなた「要はパソコンがあればNASAの施設をハッキング出来るって分けでしょ、方法を教えてくれれば私が代わってやっても良いよ」
こなちゃんはノートパソコンを得意げに持ち上げた。
かがみ「バカ、ゲームをするのとは違うわよ、こなたに出来るわけがないだろう」
めぐみさんはこなちゃんを見ながら考えていた。
めぐみ「いいえ、操作そのものはゲーム程度の操作で出来ます……」
こなた「それじゃ決まりだね、あとはけいこ会長に面会をして帰るか残るか聞かないと……」
皆の視線が私に集まった。
つかさ「わ、私……む、無理だよ~ゆきちゃんの方が適任だよ」
みゆき「いいえ、その役はつかささん以外に考えられません」
こなた「決まりだね……頼むよ、つかさ」
つかさ「え、う、うん……」
みゆき「けいこさんとの面会の前に、お稲荷さん達の同意を得ないとなりません、提案者が捕まってはどうにもなりません」
めぐみ「仲間との連絡も……私がしなければなりませんね……明後日……場所は……」
めぐみさんの様子がおかしい、辛そうだ。
かえで「場所は一つしかない、神社、夜なら貿易会社の連中も来ないわ」
めぐみ「……それで……手配します」
めぐみさんはそのまま倒れこんでしまった。そそて、みるみる小さくなって狐の姿になってしまった。
かえで「……驚いた……彼女の話しはSFみたいだけど、狐になるのを見せ付けられちゃ……信じるしかない」
つかさ「めぐみさんを休ませてくるね」
私は狐になっためぐみさんをそっと抱きかかえて私の部屋に移動した。
 
 部屋の座布団の上にめぐみさんを寝かせた。人間に化けているのがよっぽど辛かったのみたい、ぐったりと死んだように眠っている……
お稲荷さんが故郷に帰る。木星よりもずっとずっと遠い星に……
どの位遠いのかは何となく分るよ。私達人間は月にさえ何人も行っていないのだから……
二十人の中で何人のお稲荷さんが帰ってしまうのかな。その中にひろしさんや、たかしさんも入るのかな。けいこさんはどうするの……
残って欲しい……そんな事言えないよね……この期に及んで……私達が悪い……
めぐみさんに毛布をかけてから部屋を出た。
 
 居間に戻るとかえでさんの姿が見えない。
つかさ「かえでさんは?」
こなた「帰るって……知恵熱が出たから休むってさ」
つかさ「お姉ちゃんとゆきちゃんはどうする、さすがにこの家に四人は泊まれないよ」
こなた「大丈夫、温泉宿を予約しておいたよ……」
みゆき「すみません、お手数をおかけします」
つかさ「お姉ちゃん?」
お姉ちゃんはさっきからもそうだったけど、いつもの元気がない。席に座ったまま俯いていた。
かがみ「こなた、あんた最初から木村さんと打ち合わせしていたわね……」
こなた「へへへ~ばれちゃったか……実はもう少し操作方法を教えてもらっていたりして……そう言う事だから、つかさ、USBメモリー貸して」
つかさ「うん……」
かがみ「そんなのはどうでも良い、木村さんが言っていたな、こなたはお稲荷さんを試そうとしていたって……詳しく聞きたい、何を試そうとしていた」
それは内緒だよ。言えないよ。
こなた「え、そ、それは~お稲荷さんの力でお母さんを生き返らせてって……はは、ははは」
かがみ「木村さんはここに逃げてくる途中、車に接触したと言っていた、傷が一つも無いのはどう言うこと」
こなた「さ、さぁ、お稲荷さんの不思議な力で治したんだよ……ねぇ、みゆきさん」
みゆき「そうです、そうに違いありません」
お姉ちゃんは立ち上がった。
かがみ「もういい、私が入院した時、つかさが飲ませた怪しい飲み物……あれで私の病気が治った……違うか」
つかさ・こなた・みゆき「うぐ……」
その先は何も言えなかった。
かがみ「図星のようね……その表情から察するに、私はよっぽど重い病気だったみたいね……分るわよそのくらい、自分の体の事くらい……死を覚悟したのだから……
    フェアか……私の方がよっぽどアンフェア、あるはずの無い薬を手にいれたのだから」
お姉ちゃんはあの時すでに自分の病気を知っていた……あの時、こなちゃんと楽しく話していたのは演技だったって……
こなた「まったく、かがみも生真面目すぎるよ、もう少し楽に考えなきゃダメだよ」
かがみ「生真面目で悪かったな、どうすれば楽に考えられる、是非ともご教授願いたいわね」
こなた「そうだね……宝くじにでも当たったと思えば、つかさが呼び込んだ不幸と幸福……そんな感じ、それにかがみは呪いで苦しんだのだから差し引きゼロだよ」
お姉ちゃんは笑った。
かがみ「宝くじかよ……」
みゆき「それより……つかささんは良いのですか、ひろしさんと本当のお別れになってしまうのでは、未だに再会すら果たせていないと言うのに……」
つかさ「そうだね……今度の会合が最後のチャンスかもしれない……こなちゃんがさっき言った、私も宝くじが当たったと思うよ、その通りだよ、
    一人旅で私が偶然降りた駅、偶然寄った神社、そこで偶然出会った人達、お稲荷さん、奇跡だよ……とっても楽しかった……そして、お別れも……
    こなちゃん達でさえいつかは別れなければならいから……私はそれを受け止めるだけ……」
かがみ「つかさ……」
こなた「……受け止めるのは良いけど、やれるだけの事はやっておかないとね……ひろしの前で泣いて引き止める位の事はして欲しいね」
つかさ「もちろん……するよ」
こなちゃんに微笑んだ。
こなた「それ、それ、やっぱりつかさは笑っているのが一番」
みゆき「同感です」
こなちゃんは立ち上がった。
こなた「さてと、行こうかみゆきさん」
みゆき「はい」
ゆきちゃんも立ち上がった。
かがみ「何処に行くのよ」
こなた「旅館だよ」
つかさ「旅館って、ここはこなちゃんの家だよ」
こなた「姉妹水入らずってやつだよ、かがみが結婚したらもう出来ないよ、まして、卒業したらすぐに子供も出来そうだしね……ね、スケベかがみ」
かがみ「なんだと!」
こなた「恐い、恐い、ささ、みゆきさん逃げよう」
みゆき「はい」
こなちゃんとゆきちゃんは家を出て行った。
 
かがみ「何が姉妹水入らず……もうそんな歳じゃないわ、みゆきまで……」
玄関に向かってお姉ちゃんはそう呟いた。
つかさ「そうでも、ないかも」
お姉ちゃんは私を見ると溜め息をついた。
かがみ「しかし、あんたもややこしい人を好きになったものだ、お稲荷さんなんて」
つかさ「違うよ、お稲荷さんを好きになった訳じゃなくて、好きになった人がお稲荷さんだっただけ」
かがみ「はぁ、どっちも同じじゃない……」
つかさ「うんん、違う……だって私達と同じだよ……怒ったり、笑ったり、恨んだり……好きになったり」
それに音楽だって理解できる。
かがみ「同じか……こなたが言った宝くじが当たったって比喩もあながち間違っていないわね……お稲荷さんか……彼等、彼らの先祖は他の星から来た
    調査団だった……事故でこの地球に取り残された人達だった、当時100人、今は20人って言っていたわね、増えるどころか減ってしまっている所をみると
    彼等にとって地球が住み難い所であるのは確かね……三万年前か……人類はまだ農耕もしていなかった時代よ」
つかさ「そういえばゆきちゃんがコウソクがどうのこうの言っていたけど……分らない」
かがみ「あれは光速、光の速さの事、私達の知識では光の速さより速いものはないとされていてね……」
私の顔をみてお姉ちゃんはそれ以上言うのを止めて溜め息をついた。
かがみ「ふぅ~それ以上言っても分らないみたいね、物理の勉強を少ししなさい……よくそんなんでお稲荷さんの知識を教えてもらう交渉が今まで出来たわね、不思議だ」
つかさ「理屈は分らないけど、大変な事なのは分るよ、遠い星からくるなんて私達には出来ないから」
かがみ「そうね、せめて理屈くらいは知りたいものね、みゆきはそれでつかさを手伝っているのだから」
つかさ「楽譜が読めても、演奏する技術と楽器がなければ音楽を奏でることはできない……」
かがみ「はぁ、何を言っている」
つかさ「けいこさんが言っていた、知識を楽譜に例えてそう言っていたけど……」
かがみ「……なるほどね、結局、今の私達には高値の花って訳ね……」
お姉ちゃんはすぐに納得しちゃったけど、あれで分るのかな……凄いな……。
つかさ「ねぇ、お稲荷さん達の故郷ってどの星かな、夜空に見えるかな……」
かがみ「さて、どうかしらね……もっと遠いかもよ」
つかさ「子供の頃、よく夜空を見上げたよね、織姫と彦星……私達七夕生まれだから、知っているよ、ベガとアルタイル……」
かがみ「よく見たわね……懐かしいわ」
つかさ「外に出てみない、実家より田舎だからきっと星が綺麗だよ」
かがみ「そうね……」
外に出て空一杯に散りばめられた星達……私達は語ることもなく夜空を見上げていた。昔の幼い時と同じ様に。
こなちゃんとゆきちゃんが旅館に行って私達だけにしてくれた訳が今分った。もうこんな事は二度と出来ないかもしれない……
流れ星が一筋……
『逢いたい』
その“あ”の字も言えないほど短い時間で消えてしまった。それでも頭の中で何度も願い事を唱えた。
かがみ「つかさ、見えた……流れ星」
つかさ「うん」
私は空を見ながら答えた。
かがみ「願い事をしてしまったわ……バカだな……」
つかさ「私もしたよ、お姉ちゃんはどんな願い事したの?」
かがみ「つかさが彼氏と再会できますように……」
つかさ「お姉ちゃん……」
かがみ「神社が壊されないように……レストランかえでが無事移転できますように……こなたがヘマしませんように……それからね……」
つかさ「え、え……ちょっと欲張りすぎだよ……」
かがみ「このくらいの願いなんて、全宇宙に比べれば小さいものよ、まだ足りないくらいだわ……それにね、救われた命、せめて祈りで……祈らせて」
つかさ「あれは、たかしさんの教えてくれた薬だよ、お礼を言うならたかしさんに……」
かがみ「たかしには呪われて、殺されかけて……命を救われた……」
つかさ「そうだったね……」
かがみ「今まで人間がしてきた仕打ちを思うと、お互い様と言わざるを得ないわね……それでも、帰ってしまうのも何か寂しいわね」
つかさ「それ、たかしさんが聞いたらきっと喜ぶと思うよ」
お姉ちゃんは微笑みながらまた夜空を見上げた。
かがみ「さて、もう目に焼き付けたわ、つかさは?」
つかさ「うん」
かがみ「帰ろうか」
つかさ「うん」
この星空……一生忘れない。
 
 時は流れ、会合の日が来た。かえでさんは抗議文ができたので、貿易会社に向かうと言っていた。こなちゃん、ゆきちゃん、めぐみさん、私は神社へ、お姉ちゃんは、
私とけいこさんの面会手続きに奔走してくれている。もちろんめぐみさんは人間になるのは神社に着いてから。めぐみさんは指名手配中だからね。他人に見られたら大変。
めぐみさんは犬を運ぶときに使うキャリーバックの中に入ってもらって移動した。
神社に着いても、私、こなちゃん、ゆきちゃんで神社の周りに人が居ないか調べた。
こなた「こっちは居なかった」
つかさ「私も」
みゆき「居ませんでした……」
こなちゃんがめぐみさんに合図をする。めぐみさんはお座りの姿勢になった。全身が淡い光に包まれて……どんどん大きく……人間の姿に変わっていく。
人間から狐になる様子は何度か見たことはある。その逆は初めてだった。私とゆきちゃんはまじまじとその様子を見ていた。こなちゃんはいつもの様子でノートパソコンを
立ち上げていた。
こなた「そうなんだ、私も不思議に思っていたんだ、毛皮が服に変わっていたって分った……もっとエロっぽいのを連想していたんだけど……まぁそんなもんだね」
つかさ「こなちゃん、そうじゃなくて、普通に驚くところだよ……」
みゆき「狐になるときも驚きましたけど……」
めぐみ「連続で人間になれるのは長くて一週間です……あの時は傷が癒えたばかりなので短かったのです、この会合が終わり、けいこさんに面会が終わったら
    救助船に連絡をして下さい、そうすれば救助船は私達を回収します……」
みゆき「期限は一週間ですか、そうしないと木村さんの変身が解けて大変な事になってしまいますね」
めぐみ「おそらく人間は狐になった私をめぐみとは思わないでしょう、脱走したと思うはずです……あまり時間は気にせず確実に作業をお願いします、泉さん」
こなた「お~け~まっかせなさい!!」
胸を叩いて自信ありげだった。
つかさ「そろそろ時間だよ……」
茂みの陰から人が出てきた……たかしさんだった。その後から何人もの人が出てきた。皆初めてみる人ばかりだった。狐も出てきた。数を数えると十八人……
つかさ「二人足りない……」
めぐみ「けいこ会長も数に入っているので、足りないのは一人ですね……」
たかし「ひろしは遅れてくる、先に始めてくれ……それより……めぐみ、いったい何を仕出かした、人間が血眼になって探しているぞ、けいこは捕まってしまっているじゃないか」
めぐみ「それは今回の会合と関係ありません……」
たかし「それなら良いが、もし、けいこに何かあれば人間は只では済まさんぞ……人間になったとは言え、中身は我々と同じ血が流れているのだからな、その気になれば
    町の一つや二つ消し去る力はまだ残っている」
たかしさん、すごく感情的になっていた。また禁呪をしてしまうような勢いだった。
お稲荷さんの仲間に対する絆は私達人間以上に強い。そんな気がした。だからこそ、逆にまなちゃんが仲間に攻撃されてしまったのかもしれない。
めぐみ「我々はもう人間と争う必要はなくなりました、もちろん知識を教える必要もありません……故郷に帰れるのです、一週間後、救助船がこの地球に到着します」
たかしさんは黙った。そして、他のお稲荷さん達はざわめき始めた。
めぐみ「私の独断で母星に連絡を取っていました……その成果が今、実ったのです……ですが、私達がこの地球に取り残されて約三万年……故郷を知る者は居ないでしょう、
    人間との生活を望む者も居ると思います、そこでこの会合を開きました、各々、母星に帰るか、この地球に残るか……決めて下さい」
たかし「今、ここで決めろと言うのか……」
めぐみ「そうです、母星の判断によればこの地球の人間は未開の種族なので一刻も早く私達を救助したいそうです、救助が終わった後、ガニメデの基地は撤収します」
こなた「跡形も残さないって訳だね……私達は随分嫌われたね……」
こなちゃんは私に小声で耳打ちした。
めぐみ「時間は夕方まででお願いします」
お稲荷さん達は私達から少し離れて幾つかの集団に分かれて話し始めた。2~3人グループに分かれている。家族同士なのか、恋人同士なのか、
その半数近くが狐の姿のままだった。
つかさ「狐の姿だと話せないのに大丈夫なの?」
めぐみ「私達とだったら問題ありません……」
みゆき「それより、木村さんはどちらに決めたのですか、仲間と一緒に相談しなくてもよろしいのですか」
めぐみ「私はもう既に帰ると決めています……私は人類を調べる任務を持っていました、その報告をしなければなりません」
こなた「あれ……おかしいな、人類を見つけたのは遭難した後からだったよね……」
めぐみ「遭難しても暫く調査船は機能していましたから基地や母星と連絡はできました……」
みゆき「かなり細かい事までご存知なのですね……ご先祖さんから聞いたのですか」
めぐみ「……いいえ、私とけいこは遭難した時から居ました……」
こなた「え、すると……少なくとも三万歳以上ってこと?」
めぐみさんは頷いた。
めぐみ「母星の復興の為、また戻らねばなりません」
みゆき「復興……ですか、確か、母星の危機があったのは三万年前だったと聞きました、そんな長い間、危機が続いたのですか、
どんな危機かは知りませんが貴女方の知識と技術があるのなら回避なり克服出来るのではないですか」
めぐみ「……私達は人間よりは進んでいるかもしれません、それでも全ての理を理解している訳ではない……自然は私達でも未だに神秘に満ちている」
みゆき「……そ、そうですか……」
ゆきちゃんはぐみさんと難しそうな話しに夢中になっていた。こなちゃんはパソコンのキーボードを叩いていた。
 
ふと周りを見ると、狐が一匹だけで猫みたいに丸まって寝ていた……他の狐より一回り大きい。すぐに誰だか分った。私はその狐に近づいた。
つかさ「こんにちは」
耳を私に向けると頭を持ち上げて私を見た。とても悲しい目をしていた。
つかさ「もしかして、五郎さん、久しぶりだね」
狐さんは立ち上がった。私に牙を向いて唸っていた狐と同じとは思えない。小さく身をかがめて私から立ち去ろうとした。
つかさ「待って、お話したい、お姉ちゃんのお礼を……」
五郎さんは立ち止まって首を横に振った。話したくないのかな……
つかさ「たかしさんの呪いを止めようとしてくれたよね、ありがとう……もう会えないかもしれないし、それだけ、言いたくて」
五郎さんはそのまま私から離れようとした。
たかし「おい、あまりに失礼じゃないか、お礼を言っているのに無視はあんまりだぞ」
私の直ぐ後ろからたかしさんが五郎さんに向かって怒鳴った。
五郎さんは立ち止まったけど、また直ぐに歩き出した。
たかし「真奈美はつかさにそそのかされた、そう思った、それが許せなかった……つかさを憎んだ」
五郎さんはまた立ち止まった。
たかし「つかさ憎さから、真奈美まで憎んでしまった、しかし、実態は違った、真奈美とつかさは親友として当たり前の事をしていただけだった……それに気付いた時は既に
    遅かった……違うか」
五郎さんは振り向いてたかしさんを見た。
たかし「俺を止めようとしたのは、俺がその時の五郎と同じだったからだろ……もっとも俺は聞く耳はもたなかったがな……つかさに看病されて気付いた、
    こいつは俺をひろしだと思っていた……そして、つかさは親友を超えた感情だった……五郎、もういい、真奈美を亡くしたのはお前のせいじゃない、あれは事故だった、
    あの時、俺が居たら同じ事をしていた……自分の愛する者を殺すところだった……」
たかしさんは私の手と五郎さんの前足をを握った。
たかし「ありがとう、つかさ、五郎」
つかさ「わ、私はまなちゃんを助けられなかったし、お礼を言われる事なんかしていない」
たかしさんは手を放した。
たかし「最後に人間を憎まないで行けそうだ」
つかさ「え、たかしさんは帰っちゃうの……」
たかし「ああ、この星で生まれはしたが、この星の生き物ではない、取り残されたのだから一度帰って出直すのが筋だ」
私はごろうさんの方を見た。悲しい目のままだった。
つかさ「五郎さんも帰ってしまうの?」
五郎さんはなんの動作もしなかった。
たかし「彼も帰ると言っている……」
つかさ「出直すって、いつ頃来られるの?」
たかし「帰ったら復興の手伝いをしなければなるまい、おそらくつかさが生きている内には行けないだろう」
ひろしさんは、やっぱりひろしさんも帰ってしまうのかな。この前みたいな別れはもう嫌だ。でも、それじゃただのわがままだよね……
 
こなた「これでいいかな?」
こなちゃんはパソコンの画面をめぐみさんに見せた。
めぐみ「……良いでしょう、完璧です、もう私の教える事はありません」
こなた「ありがとう、とりあえず、帰る人が十五人、残る人は三人……分らない人は、けいこさんとひろしの二人だけだね」
めぐみさんは頷いた。そして皆に向かって話した。
めぐみ「一週間後、けいこ会長のデータを入れて、救助船に送信すれば何処に居ても転送されるでしょう……今日の会合はここまでです、各自自由解散」
人間になっているお稲荷さんは階段から下りて行った、狐の姿のお稲荷さんは森の中に消えて行った。
こなた「あの~ひろしのデータはどうしよう?」
めぐみ「……来ませんね、気配も感じられない……困りました、強制収容だけは避けたいのですが」
帰りの準備をしていたたかしさんが立ち上がった。
たかし「噂をすれば……来ている」
私はたかしさんの目線を追った……その先に……ひろしさんの姿があった。
名前を叫んで飛び込んで行きたかった。だけど体が言う事を聞かない。ひろしさんも私を見ているみたいだったけど、ただ、立っているだけだった。
たかし「やれやれ、恥かしがりやのお二人さんだ、俺たちは邪魔だってよ」
めぐみ「……それでは結果は泉さんにお願いします」
めぐみさんとたかしさんは階段を下りて行った。
みゆき「泉さん……行きますよ」
ゆきちゃんは強い口調でこなちゃんを呼んだ。こなちゃんはじっと私達を見ている。
こなた「えー、これから良いところなのに……お邪魔はしないから……」
みゆき「泉さん!!」
何時に無くきつい口調になった。さすがのこなちゃんもこれには驚いて、ゆきちゃんの後を追って階段を下りて行った。そして、居るのは私とひろしさんだけになった。
ひろし「いったい何があった……」
何か違う雰囲気にひろしさんは気付いた。取り敢えず私は自分を落ち着かせた。言いたい事はいっぱいあるけど、今はめぐみさんの話しを優先しないと。
私はひろしさんに今までの経緯を話した。ひろしさんは黙って聞いていた。
 
つかさ「……それで、ここに残るか、故郷の星に帰るか選んで……残るお稲荷さんは今のところ三人……後は、全員帰るみたい、決まっていないのはけいこさんとひろしさんだよ」
ひろしさんは森の外から町を見下ろして眺めていた。そういえば、あの時も、別れる直前もそうしていた。答えを聞きたくない。あの時と同じ答えが来る様な気がしてならない。
つかさ「なんで、会合に参加してくれなかったの」
答えを聞きたくない。もっとお話がしたい。今の私の頭の中はそれで一杯だった。
ひろし「なんでけいこの企画の手伝いに参加した」
私の質問に質問で返してきた。
つかさ「けいこさんの企画は難しすぎてよく分らない、ひろしさんに会えるから、50%……うんん、90%以上それしかなかったよ」
ひろし「ばかな……あの時、別れたはずだろ、未練がましい……」
その通りかもしれない。でも今度は宇宙の彼方に……そうなればもう二度と逢うことはできない。
つかさ「でも、こうしてまた逢えた」
ひろしさんの考えている事が何となく分る。それでもこなちゃんの言ったように、無駄な抵抗をするまで。
つかさ「一つ提案なんだけど、私と一緒に暮らすのはどうかな……お稲荷さんの様に頭は良くないかもしれないけど……料理なら得意だよ」
ひろし「それは人間になって結婚してくれと言っているのか」
つかさ「え……えっと、そんな大袈裟な事じゃなくて……え……う、うん……」
そんなつもりじゃなかった……でも、私の言っている事はそれと同じ事だった……。
ひろし「そんな事が出来ると思うのか……」
つかさ「出来るよ、けいこさんと竜太さんがそうだった様に」
ひろし「そして……彼女は牢獄の中……僕らと一緒になった人はみんな不幸になる、そんな辛い目につかさを遭わせたくない」
つかさ「私は……ひろしさんと一緒に居られればいいよ、けいこさんみたいな壮大な思想なんかないから……逮捕されるなんてないと思う」
ひろし「……そうだな、母星とはい言っても何処に、どんな環境かも分らない……住みなれた地球の方が良いのかもしれない……つかさとなら……」
その後のひろしさんは何も言わず景色を見ながら考え込んでいた。もうこれ以上言っても混乱するだけかもしれない。私も景色を見ながら彼の答えを待った。
 
 神社を下りると、皆が神社の入り口で待っていた。
みゆき「い、いかがでしたか……」
心配そうな顔だった。
こなた「みゆきさん、つかさのあんな喜んでいる顔を見たら聞くまでもないよ」
私の顔を見ながら、ニヤニヤした顔だった。
みゆき「そ、そうですね……これで安心して帰ることが出来ます」
みゆきさんは私にキャリーバックを私に渡した。狐になっためぐみさんが入っている。
私は辺りを見回した。
つかさ「たかしさんは……どうしたの」
こなた「途中で帰ったよ、そういや、ひろしはどうしたの、一緒じゃないの?」
つかさ「用事があるって、神社で別れた」
こなた「そうなんだ……さて、何時までも喜んでいられない、これからが本番だよ、つかさ……」
つかさ「分っているよ」
こなた「それじゃ、帰ろうか……」
私は皆を車に乗せた。
みゆきさんを駅で降ろし、買い物をしてから家に帰った。
 
 こなた・つかさ「ただいま~」
玄関に入ると私はキャリーバックを開けた。中からめぐみさんが飛び出して居間に走って行った。こなちゃんも居間に向かった。私はキャリーバックを片付けてから
居間に向かった。
居間に入るとこなちゃんは早速ノートパソコンを開き充電を始めた。めぐみさんは狐の姿のままテーブルの上に乗り、その上に置いてあったこっくりさんの紙の上を
前足で叩いた。叩いた文字を頭の中で並べた。
『お・つ・か・れ・さ・ま』
つかさ「お疲れ様、こなちゃん、めぐみさん」
こなた「はいはい、おつかれさん……早速だけどこれからの計画を話しておくよ、明日、めぐみさんは人間になって、警察に出頭する……そこからかがみの活躍に期待だけど、
    けいこさんの保釈手続きをする、その時多分面会も許されるから、つかさはけいこさんに帰るのか、残るのかを聞く……ここまでは合っているかな?」
つかさ「うん」
めぐみさんは紙を叩いた。
『はい』
こなた「OK……それから、私にその結果を報告、私は今日のデータとけいこさんのデータを合わせて、救助船に送信する……それでお稲荷さん達を収容……だよね」
つかさ「うん」
めぐみさんは紙を叩いた。
『はい』
こなた「よしよし、完璧だね……」
こなちゃんはノートパソコンを閉じようとした。
つかさ「ちょっと待って、まだデータ入れていないよ」
こなた「へ、もう全て入れたよ、めぐみさんも確認したよね?」
めぐみさんは紙を叩いた。
『はい』
つかさ「データを入れて、ひろしさんは帰るって……」
こなた「へ、何言って、こんな時に冗談は止めて……って、つかさ……」
つかさ「冗談じゃないよ……ひろしさんから直接聞いたから」
こなた「神社から出て来たときの笑顔は……あれは」
つかさ「ああしないと、ゆきちゃん、安心して帰ってくれないと思ったから……」
こなた「どうして……涙の一つも見せれば大抵の男は……」
つかさ「うんん、何故か彼の前では泣けなかったから……」
こなた「諦めちゃうの、良いの、それで良いの、本当に良いの」
ノートパソコンをテーブルに置くとこなちゃんは私に詰め寄った。
こなた「まだ間に合うよ、めぐみさんに呼んでもらおうよ、ね、出来るでしょ、めぐみさん」
めぐみさんは紙を叩いた。
『はい』
つかさ「ありがとう、こなちゃん、めぐみさん……もういいの」
こなた「もういいって……つかさ、私が今まで何も知らないと思っているでしょ、寝言で何度もひろしの名前を言っている所を聞いている、何度も泣いている所見ている」
つかさ「さすがこなちゃん、同居しているだけあって……隠しきれない……」
こなた「だったら、どうして別れるなんて……」
つかさ「再会したから、出来たから今はそれが嬉しい……それにね、救助船に乗る前にもう一度会う約束をしたから、その時に……最後のお願いをするつもり……
    私だって好きになったからには、そう簡単には諦めない」
こなちゃんは私の目を暫く見て、私の決意を感じてくれたのか、ノートパソコンを取ってキーボードを叩き始めた。
こなた「分ったよ……データを入れる……」
その時、急に目頭が熱くなった。涙が出てきた……今頃になって……こんなに簡単に出るならひろしさんの居る時に出てくれれば良かったのに……
 
 次の日、私は出勤する途中、警察署の近くに車を止めた。そして人気の居ない場所を探してキャリーバックを開けた。狐姿のめぐみさんが出てきた。
めぐみさんは辺りをキョロキョロと見回すと、私の目の前で人間に変身した。
つかさ「本当に出頭しちゃうの……」
めぐみ「これしか彼女から意思を聞くことは出来ない」
つかさ「めぐみさんなら、けいこさんがどっちを選ぶか分ると思うけど……」
めぐみ「聞く必要はないと言うのですか、それならば、貴女ならどっちを選ぶと思いますか」
そう言われると……
つかさ「きっと残ると思う、竜太さんの居た地球を離れるなんて」
めぐみさんは微笑んだ。
めぐみ「私と意見が分かれましたね、だから私は出頭しなければならない、憶測で判断すると後悔します、本人から直接意思を聞くしかない……」
って言う事は、めぐみさんは帰ると思っているって……直接聞くしかないみたい。
つかさ「うん……」
めぐみ「短い間でしたが、貴女と会えて良かった、おそらくこれが貴女と会える最後の機会となるでしょう」
つかさ「こ、こちらこそ、何も出来ませんでした」
私とめぐみさんは握手をした。
めぐみ「最後にはなりますが、私個人の意見を言わせて貰えば、ひろしは地球に残るべきだと思う……成功を祈っています」
つかさ「ありがとう……」
めぐみ「私が出頭して、暫くしてから車を出すのが良いでしょう」
つかさ「うん、そうします」
めぐみさんは警察署の方を向くと一直線に警察署に歩き出した。私は彼女が警察著の入り口に入るまで見送った。
いくらこの後、救助されるとは言っても自ら捕まりに行くなんて……そういえばけいこさんんはめぐみさんを親友って言っていた。私はこなちゃんやゆきちゃんに
めぐみさんと同じ事が出来るのかな……三万年も生きてこられたのだから二人の絆は私の考える以上に深いのかもしれない。
めぐみさんの言う通り、暫くしてから車を走らせてお店に向かった。
 
 出勤すると私はかえでさんに事務室へ来るように言われた。
つかさ「失礼します」
事務室に入るとかえでさんが腕を組んで難しそうな顔をしていた。かえでさんの隣にはこなちゃんが居た。相変わらず自分のノートパソコンをいじっていた。
こなちゃんの職業が何だか分らなくなってしまうくらいだった。
かえで「早速だけど本題にはいらせてもらうわ、私達の一致した意見よ、我々、レストランかえではワールドホテルと契約したのであって貿易会社と契約した訳ではない、
    従って、店の明け渡しには応じられない……契約は破棄するものとする」
かえでさんは溜め息を付いた。
かえで「交渉は決裂、神社の抗議も聞き入れてもらえなかった、それでもこの店以外の土地はみんな買収済み、何れはどこかに移転しなかればならない……」
つかさ「移転は良いとして……神社の件は何とかならないの?」
かえでさんとこなちゃんは首を横に振った。
かえで「反対署名……と言いたい所だけど、既に神社はワールドホテルが買ってしまっていて、それを今の会社が引き継いでしまっている……もうどうする事も出来ない」
こなた「法律的にはどうする事も出来ないね、あ、これはかがみの意見だから……」
かえで「残る道は神社を貿易会社から買うしかないけど……一個人の資産でどうこうできるレベルではないわ……」
こなちゃんはノートパソコンを閉じた。
こなた「こう考えるとけいこさんがどれほど私達に譲歩してきたか分るね……ほんと残念だね、カリスマ会長と言われただけの事はある」
淡々と話すこなちゃん。その淡々さが感情を込めるよりも残念さを感じてしまうのは不思議なもの。
かえで「だめなものはだめ、そう割り切るしかない、へたに反抗すればけいこさんの様になってしまいそうだわ……」
私も何を言って良いのか分らない。
こなた「お金で解決できるのなら、方法が無い訳でもないけど……」
つかさ「どうするの?」
こなた「うんん、何でもない、聞き流して……」
珍しくこなちゃんが動揺している。何だろう……
かえで「仮定で言っても始まらないわ、現実的に今は、新たな移転先を探さないといけない」
つかさ「私、お稲荷さんの事で頭がいっぱい……あと一週間で全てが終わる……それから考えても良いかな?」
かえでさんは私の顔を見ると思い出した様に驚いた。
かえで「あっ、そうだったわね、つかさは個人的にも、公でも大きな問題を抱えているわね……私も狐が人間になる姿を見て初めてこの問題の大きさが分った……」
更に思い出したみたい、かえでさんは驚いた。
かえで「そ、そういえば今日は木村さんが出頭する日じゃないの、こんな所に居て大丈夫なのか」
こなた「めぐみさんの目的はつかさとけいこさんとを会わす事、後はかがみ達に任せるしかないよ、連絡待ちの状態」
かえで「法律の事になると任せるしかないみたいね……分ったわ、移転は私達に任せて、つかさと泉さんは悔いの残らないように最善を尽くしなさい」
つかさ・こなた「はい」
かえで「話しは終わりよ、今日も仕事お願いね」
つかさ・こなた「はい」
こなちゃんは事務室を出て行った。私もその後に続いた。
かえで「つかさ、ちょっと待って」
つかさ「何ですか?」
かえでさんは妙に改まっていた。
かえで「つかさもあの神社にはいろいろ想う所があるわよね」
ある。いっぱいある。まなちゃん、ひろしさん、たかしさん……神社から見える景色……皆と登った事もある。
かえで「もし、あの神社が壊されたらどうする」
つかさ「どうするって言われても……成る様にしかならないから……」
かえで「私は悔しい、神社の一つも守れないなんて、私にもお稲荷さんのような力と知恵があれば」
両手を強く握って拳を今にも机に叩きそうな状態になった。
つかさ「力を使ってどうするの、憎んだり、憎まれたり、その繰り返し、もう沢山……それで結局一番大事なものを失くしちゃうのだから」
かえでさんは両手を広げて力を抜いた。
かえで「……今の、一介のパテシエの言葉にしてはあまりに重い言葉ね……私一人には勿体無いないわ……私は軽率だった……取り消す」
かでさんは言葉に詰まったように途切れ途切れに話した。
つかさ「……お稲荷さんが帰る日、私は彼と逢う約束をしました……その時、私は彼を引き止めるつもり……その場所があの神社……」
かえで「そう……彼がどちらを選んでも、つかさにとって、忘れられない場所になりそうね」
つかさ「今でも私にとって忘れられない場所、あの神社、かえでさんと同じです……」
かえで「ごめん……引き止めてしまったわね、今日もお願いします」
つかさ「失礼します……」
私は事務室を出た。こなちゃんはテーブルを拭いていたけど私の表情を見ると寄ってきた。
こなた「どうしたの、かえでさんに怒られた?」
つかさ「分らないけど、怒ったのは私の方だったかも……後で謝らなくちゃ」
こなた「へ…?」
こなちゃんは腕を組んで考え込んでしまった。
つかさ「さて、仕事、仕事」
 
 夕方頃、めぐみさんの出頭の報道は全国に流された。めぐみさんは容疑の全てを認めて、けいこさんの容疑まで自分がしたと自供した。それに、逃げたのは証拠隠滅
をする為だったと……後で分った事だったけど、私達とお稲荷さん達の会合の議事録をめぐみさんは記録していた。それを逃げる時に持ち去ったみたい。
こなちゃんに渡したUSBメモリにその議事録が入っていた
警察はそれを犯行の証拠だと思ったに違いない。
お姉ちゃんとみぐみさんは事前に出頭したら何をするのかを打ち合わせをしていたけど、そこまで罪を被る話はしていなかったとお姉ちゃんは言っていた。
きっとめぐみさんは、私とけいこさんを会わせようと全ての罪を被るつもりだったかもしれない。
お姉ちゃん達は、直ぐにけいこさんの保釈手続きに入った。それと同時に私をけいこさんの親戚として面会も申請した。私の親と竜太さんが遠い親戚だと分ったので
それを利用したみたい。“柊”がこんな所で役に立つとは思わなかった。
けいこさんの機転とお姉ちゃんの努力の甲斐あって、面会は三日後に実現した。
 
かがみ「つかさ、面会室の会話は記録されているかもしれないから軽率な言動は慎むこと」
つかさ「う、うん……でも、私の目的は……」
かがみ「そうね、その辺りはけいこさんが考えそうだから、つかさはけいこさんの指示に従って話して」
何時に無くお姉ちゃんは私に言い聞かすように熱心に話している。その向こうで拘置所の係りの人と小林さんが話していた。
つかさ「小林さんはお稲荷さんの事知っているの?」
かがみ「知らないわ、彼は私と似て現実しか認めないタイプよ」
つかさ「そうなんだ……」
かがみ「まぁ、何時かは話さねばならない時がくるかも、特に、ひろしが残ると決まったらね、そうなればひろしは義理の弟になるのだからね」
つかさ「お、お姉ちゃん!」
私を見るとお姉ちゃんは微笑んだ。
かがみ「ふふ、まだそれを考えるのは早いかしら……あ、準備が出来たみたいよ」
お姉ちゃんは小林さんの所に行って何かを話した。暫くするとお姉ちゃんは私の方を向き私を呼んだ。
かがみ「面会時間は一時間よ、それまでに用事を済ませなさい」
つかさ「はい」
私は係りの人に案内されて個室の中に入った。よくドラマとかに出てくる面会室と同じような部屋、ガラスかな、アクリルかな、透明な壁で仕切られている。
その壁の前に椅子が置いてあった。私はその椅子に座った。しばらくすると仕切られた部屋の扉が開いてけいこさんが入ってきた。扉に警備員みたいな人が立って
けいこさんを監視しているみたいだった。とっても話し難い。どうやってめぐみさんの話しを伝えよう……
『つかささん、聞こえますか』
突然頭の中にけいこさんの声が飛び込んできた。私はけいこさんを見た。
『聞こえたのなら、久しぶりですけいこさん、と答えて下さい』
また頭の中に声が聞こえる。けいこさんの唇は動いていない。もしかして私の頭に直接話しかけてきているのかもしれない。
つかさ「久しぶりですけいこさん」
『つかささん、貴女は私が逮捕された事を怒っているとします、この後、私が言葉で話した事について、一切反応しないで俯いていて下さい』
けいこ「こんな事になって……さぞかし皆に嫌われたでしょうね」
私は頭の中の声の言う通り俯いた。
『かがみさんから事情は殆ど聞いています、、めぐみは母星と交信を試みていた、そのせいで人間の行動の把握を怠ってしまったのですね、一年前からこうなる動きは
 知っていました……まさかこのようなタイミングで実行されるとは思いませんでした……』
私はどうやって話せばいいのかな。
『それで良いです、その様に考えていれば私が、貴女の心を読み取ります』
けいこ「どうしたのですか、何故黙っているの、ただおが何か言ったのですか」
私は思った。けいこさんは救助船で帰るのですか、それとも残るのですか。
『私の取る行動は只一つ、救助船に乗って帰ります』
え、そ、そんな……めぐみさんの方が正しかった……
『帰る、帰っちゃうの、どうして……竜太さんの事はどうするの』
『私は竜太と約束をした……私達と共に生きると、柊けいことして彼との約束を果たすことは出来なくなった、母星に帰り、人類が私達と対等なレベルになるまで
 待つことにしました……それに、私の体は人間……それを待つにはあまりにも時間が少なすぎる、帰れば元の体に戻ることができます』
けいこ「つかさ、何か言いなさい、せっかく来てくれて黙っていては分りません」
約束、けいこさんは約束を守る為に帰っちゃうの……けいこさんは人間になってまで竜太さんと一緒になった。そこまで愛していたのに……元の体に戻って
地球に残る事だって出来るでしょ。
『一緒に居ることだけが愛ではないと私は思っています』
そんな事言わないで……それを言ったら、私はひろしさんをどうやって止めるの。引き止める方法が無くなっちゃう……
『つかささんが私と同じにする必要はありません、二人で決めれば良いではありませんか』
それじゃ、教えて、どうすればひろしさんを帰さなくて済むの。
『それは……』
頭の中から声は聞こえない。
どうしたの。教えて。聞こえているよね……ずるいよ……お稲荷さんでしょ、何でも知っているよね……
けいこ「ごめんなさい……」
けいこさんは口から私に言葉をかけた。これは周りを誤魔化す為の言葉じゃない。私にかけた言葉……
そんな方法は無いって事だよね。
けいこさんは頷いた。
つかさ「私も……ごめんなさい……」
『私の計画に参加してもらい、私達の失敗から貴方達に多大な損害を与えたのは償いのしようがありません……しかし、貴女に参加してもらったのは間違えではありませんでした、
 ありがとう、それと、私を引き止めてくれて嬉しかった』
私は立ち上がった。
つかさ「ここに居ても辛いだけだら……帰りますね」
けいこ「さようなら……お元気で」
けいこさんが立ち上がると監視員が扉を開けた。けいこさんは暗い扉の外に出て行った。
 
 けいこさんの最後の言葉に返事ができなかった「さようなら」が言えなかった。
面会室を出るとお姉ちゃんが待っていた。小林さんはそこには居なかった。
かがみ「どうだった、けいこさんのテレパシー、私も最初は驚いたわよ……なんでも数メートルしか届かないって……ん、つかさ?」
つかさ「私って……最低かも……お姉ちゃん……」
かがみ「あんたが一人旅からかえって来た時、泣いたわね、その時とまったく同じように見えるわよ……今になってその涙の意味が分ったわ……なんてスケールなの、
    もう私なんか及びもつかないほど成長したわね、でも、まだ泣くのは早いわ……私に飛びついて泣こうとしたでしょ?」
お姉ちゃんは笑った。
つかさ「早い?」
かがみ「実はね、けいこさんにはつかさのしようとしていた託は私が殆ど話してしまったわ……返事も聞いて既にこなたに伝えてある……それでも彼女はつかさに会いたいと
    言ってね、今回の面会が実現したのよ……」
私は自分の事ばかり言って、けいこさんの話しを全く聞かなかった。そればかりかお別れの挨拶もしていない。
かがみ「つかさが出逢った真奈美さんから始まったつかさの旅……いろいろな事があったわ、私達も巻き込まれた、つかさの旅はまだ終わっていないわよ
    お稲荷さん達……お稲荷さんは私達が名付けた名前、本当の名は知らないけど、彼女達が帰るまでつかさの旅は終わらない、まだこれから大事な仕事が残っているでしょ、
    こなた一人に任せるのは荷が重過ぎるわよ」
つかさ「……そ、そうだね、泣いていられないね……けいこさんを見送らないと」
かがみ「そうそう、そうでなくちゃ……私の出来る事はここまで、あとは任せたわよ」
つかさ「うん、ありがとう……」
 
つかさ「ただいま~」
あれ、おかしい、部屋の中が真っ暗。もうこなちゃんも帰ってきていい時間なのに。私は電灯のスイッチを入れた。
つかさ「うゎ~!!」
居間の中央にこなちゃんが座っていた。
つかさ「こ、こなちゃん、居るなら電気くらいつけようよ」
こなた「あ、つかさ、おかえり……」
私が部屋に入ってきたのに気付いていなかった様子だった。それに顔色がすこし悪い。
つかさ「ど、どうしたの、パソコンに夢中になるのは良いけど、少し体の事も考えないと病気になっちゃうよ」
こなた「べ、別に何でもないよ、ちょっと仮眠していただけだから」
こなちゃんは立ち上がってテーブルの上に置いてあったノートパソコンを取った。
こなた「かがみから聞いたと思うけど、もうけいこさんのデータは入れてあるから」
こなちゃんは居間を出ようとした。
つかさ「あ、こなちゃん、調子悪いならお稲荷さんのお薬飲んでみる、まだ少し残っているけど」
こなた「難病も治す薬なんて大袈裟さよ、なんでもないよ、少し寝ればよくなるから……おやすみ」
つかさ「おやすみなさい」
こなちゃんは立ち止まった。
こなた「そうだった、かがみからちょっと前に連絡があったよ、けいこさんの保釈は一週間後だって……」
欠伸をしながらこなちゃんは居間を出た。
救助される日は四日後。間に合わない。
その時、気が付いた。
けいこさんはもう知っていた。だからけいこさんは別れの言葉を……それに引き換え私はただ感情をぶつけただけ……焦っている。
未練がましい……彼はそう言ったっけ、その通りかもしれない。あと四日……この四日が凄く永く感じてしまいそう……
 
かえで「泉さん、どう言う事なの、貴女らしくもない……」
珍しくこなちゃんを叱っているかえでさんだった。ワインを出すタイミングが遅すぎたらしく、お客様を怒られてしまった。
こなちゃんは言い訳をせず俯いていた。普段のこなちゃんなら冗談を言って誤魔化すのに。それで余計に叱られる。どうしたのかな……
かえでさんのお説教が終わると私はこなちゃんに寄った。
つかさ「どうしたの、お客さんの駆け引きをまちがえちゃった?」
こなた「はは、今日は調子悪いね……どうしたのかな……」
苦笑いをいていた。
つかさ「そういえば昨日もお客さんから怒られていたよね……それでかえでさんは怒ったと思うよ、今までこんな事なかったのに……何か悩みでもあるの?」
こなた「何でもないって……さて、今度こそ」
こなちゃんは私にガッツポーズをすると小走りにカウンターに向かった。なんかおかしい。いつものこなちゃんじゃない。
明日はお稲荷さんが帰る日。そして私がひろしさんに会う日……逢える最後の日になるのか、それとも……だめだめ、今はそんな事考えちゃ。
こなちゃんはお姉ちゃんやゆきちゃんよりも私とひろしさんの事を心配してくれている感じがする。それは嬉しいけど、そのために仕事に支障が出たとしたら……
泣いても笑っても明日、全てが終わる。私の旅が終わる。
 
 私の就業時間が終わりそうになった頃だった。片付けをしているとかえでさんが近づいてきた。
かえで「つかさも気付いていると思うけど、泉さん、彼女、何か隠しているわね」
私は作業しながら話した。
つかさ「隠しているかどうかは分らないけど、様子がおかしいのは分ります」
かえで「この前、移転の話しをしている時、泉さんは何かを言いかけて止めたのを覚えている?」
つかさ「言いかけて……お金で解決できるなら……って?」
『パチン』
かえでさんは指を弾いた。
かえで「それよ、それ、まさか何か無茶な事をしようとしようとして……」
私は濡れた手をタオルで拭いてかえでさんの方を向いた。
つかさ「こなちゃんは悪戯好きで、いろいろするけど……お金儲けには関心ないし、得意じゃないから……」
かえで「それなら良いけどね、らしくない失敗を続けてしているし、思い詰めている感じも見受けられる……どっちが今生の別れの瀬戸際か分らなくなる程よ」
つかさ「私は……」
私の顔を見たかえでさんは自分の口を手で塞いだ。
かえで「ご、ゴメン、比喩の対象を間違えたわ、思い出させてしまった」
つかさ「うんん、その日は明日だから……それより明日、休暇を……」
かえで「休暇はもう前から申請しているじゃない、気にするな、それより悔いの残らないように、出来れば彼のハートを奪いなさいよ……いや、もうとっくに奪っているわよね、
    やだやだ、見ていて歯がゆくて仕方がないわ……結果は明後日……楽しみにしているわよ」
かえでさんは私の両肩を力強く叩いて、事務所に入って行った。
お姉ちゃんと小林さんは婚約するに至っているのに、私とひろしさんは……お互いに告白しただけ。歯がゆいよね、
そういえばお稲荷さんは三人残るって言っていたっけ、あの時、その人達に会っておけば良かった。何故残るって決めたのか知りたい。
誰か好きな人が居るのかな。やり残した事があるのかな。それとも、この地球が気に入ったのかな……
ふふ、私って、だから鈍いって言われちゃうのかもしれない。思い付くのも、行動も遅すぎるよね……
もう過ぎた事を言っても始まらない。
さて、もう片付けも終わったし、買い物して帰ろう、明日は彼に五目稲荷寿司を食べさせる。最後になるかもしれない。この前のデザートよりも心を込めて作る。
残りたいと心変わりするくらいのを作ってあげる。私の持てる技術と心を全て注ぎ込む。それでも帰るって言ったならら諦めるよ。
 
 帰ってから直ぐに稲荷寿司を作り始めた。
作るのに夢中になっていて気が付かなかった。こなちゃんは早番だからとっくに帰ってきている。いつもなら、出来上がった料理をつまみ食いしにやってくるのに
自分の部屋に入ったきり出てこない。かえでさんの言葉が気なった。
『コンコン』
私はこなちゃんの部屋のドアをノックした。返事が聞こえない。私はドアを開けた。
つかさ「こなちゃん……五目稲荷作ったのだけど食べる?」
こなちゃんは自分の机の上にノートパソコンを広げて操作していた。こなちゃんの動作が止まった。
こなた「……稲荷寿司……もしかして、明日の準備をしているの」
つかさ「そうだよ、最後になるかもしれないから、ありったけの愛情をね」
こなちゃんは私から稲荷寿司を受け取ると口の中に放り込んだ。
こなた「……こりゃ、美味しい……もっと食べたいな」
つかさ「いいよ、沢山作ったから、少し持ってくるね」
良かった。ただパソコンに夢中になっていただけだったみたい。私はこなちゃんの部屋を出ようとした。
こなた「待って!!」
叫びににも似た声だった。私は部屋を出るのを止めて振り返った。こなちゃんは今にも泣きそうな顔をしていた。
つかさ「どうしたの、急に大声なんか出して」
こなた「……何度やってもダメだった、何とかしないといけない、それは分ってる、分っているけど……つかさ、どうにもならない事ってあるよね」
つかさ「何を言っているの?」
こなた「私……頑張ったよ、昨日は徹夜でやってみた、でもね……ダメだった」
つかさ「ダメだったって、何、何度もって……こなちゃん、ちゃんと言わないと分らないよ」
こなちゃんは両手を握って悔しそうに答えた。
こなた「……救助船にデータを送ることが出来ない……」
つかさ「出来ないって、どうしたの、操作を忘れちゃったの、めぐみさんから完璧だって言われたんでしょ?」
こなた「……忘れていないよ……」
つかさ「パソコンが壊れたとか、ケーブルが繋がっていないとか……そんなんじゃないの」
こなた「壊れてもいないし、接続も正常……」
つかさ「こ、こなちゃん、めぐみさんに会うなんて当分出来そうにないよ」
こなた「そうだよ、だからダメなんだよ」
つかさ「それなら、お姉ちゃんに言って、会わせてもらおう、救助船には少し待ってもらう事になるけど」
私は携帯電話を取り出した。
こなた「……それじゃ間に合わないんだよ、」
つかさ「めぐみさんは、あわてないでゆっくりすれば良いって言っていたよ」
こなた「めぐみさんが出頭する日、救助船から連絡がってね、なんでも、母星の復興が思うようにいかないみたいで、滞在時間は明日の昼まで……になった」
つかさ「え……」
携帯電話をかけるのを止めた。
こなた「ふふ、なんてグットタイミング、NASAがコンピュータのアルゴリズムを変更した……さすがだね、彼らはハッキングされているのに気が付いたみたい、
    めぐみさんもそれは予想して、プログラムを10段階も用意してくれた……だけどね、さっき、最後のプログラムを試したけど……ダメだったよ」
言っている意味はよく分らないけど、深刻な事態なのは理解できた。
つかさ「そ、そうだ、ひろしさん、ひろしさんに解決してもらおう、明日の朝一番には会えるから、なんとかしてもらえるよ」
こなた「……それもダメ、コンピュータの世界は人間が作ったルールで動いているから……人間をずっと調べていためぐみさんだから出来た事なんだよ……
    いくらひろしさんでも、めぐみさん程人間と接していないから、セキュリティを破るのはそんな短時間じゃ無理だよ……」
つかさ「やってみないと分らないよ……」
こなちゃんはゆっくり立ち上がった。
こなた「つかさ、これで良いよ、ひろしは帰らなくて済むじゃん、つかさが望んだ通りになった、一件落着だよ」
違う、何の解決にもならない。それは私でも分る。
つかさ「けいこさんとめぐみさん……有罪になれば、お稲荷さん達はどんな事をしても助けようとするよ、私達の知らない禁呪だって使うかもしれない、そうなったら、
    誰も止められない、お稲荷さんと人間の争いが始まるよ……まなちゃんみたいな犠牲者が沢山出る……もうそんなのは嫌だよ……」
こなた「そんな……大袈裟な……」
つかさ「うんん、私には分る、お稲荷さん達の絆の深さ、最後の会合の時のたかしさんを見たでしょ……」
こなちゃんは後ずさりし始めた。
こなた「ごめん……つかさ、ごめんよ、私はあの時、断るべきだった、中途半端な知識で知ったかぶりをして……お気楽だったよ、事の重大さを全く理解していよね、
    その挙句に……はは、ははは、学生時代のノリで今までやってきたけど、流石にもう通用しない、十七人のお稲荷さんを帰すことが出来ないは私のせい……
    お稲荷さんに殺されちゃうかな……木村さんにも申し訳できないよ……」
こなちゃんは私の目の前でしゃがみ込んでしまった。床に雫が幾つか落ちた。顔は見えないけど……肩を震わせている。泣いているのが分った。
こんなこなちゃんを見たのは初めてだった。失敗してもはぐらかしていたもんね。
こなちゃんは気楽にこの仕事を請けない。そんな気持ちだったら涙なんか出さない。
つかさ「あの時、めぐみさんの代わりになれたのはこなちゃんしか居ないよ、こなちゃんがダメならゆきちゃんだって、お姉ちゃんだって……他のお稲荷さんだって
    ダメだったよ……私なんか簡単なインターネット検索とカロリー計算しか出来ないから……」
こなた「そんな気休め止めて……もうおしまいだよ……」
こなちゃんは両手で頭を押さえて首を横に何度も振っている。
つかさ「こなちゃんは凄いと思うよ、だって、ホール長になったでしょ、かえでさんが認めたのだから自身もって良いよ、それに、こなちゃんはお客さんとゲームをしている
    みたいにして対応していたよね、それも凄いよ、私なんか真似できない」
こなた「……つかさに褒められも……何も変わらないよ」
そうだよね、私に褒められてもしょうがなよね。でもね、今のは褒めたわけじゃない。思った通りに言っただけだから。
つかさ「こなちゃん、まだゲームオーバーになっていないよ、ゲームだって人間の作ったルールで動いているでしょ、同じだよ……いつものこなちゃんなら、
    あっと言う間にクリアしちゃうでしょ……私も手伝うから……もう一度最初からやってみようよ、何か手違いがあるかもしれないよ」
こなた「ゲーム……」
つかさ「うん……」
こなちゃんは立ち上がった。そして、ノートパソコンを立ち上げて、USBメモリーを差し込んだ。
こなた「……やってみる、ゲームオーバーはまだ早いよね……つかさ、ケーブルを取り替えてくれるかな、最初から、1段階目からもう一度やってみよう」
つかさ「うん……手順を紙に書いておこうよ、そうすれば間違えないよ」
こなた「そうだね」
私はケーブルとか電源周りを確認した。こなちゃんは最初から順番にデータを送る準備をした。
 
こなた「……だめだ、やっぱりダメだよ、ハッキング出来ない……」
最初から10段階まで通して試しても成功しなかった。こなちゃんは手順を変更してみた。手順以外の方法もいろいろ試してみたけど手ごたえはなかった。
こなた「もうそろそろ明るくなってくる……つかさ、ゲームオーバーだよ、私には無理ゲーだったみたい……」
気付くともう午前三時……もうそろそろ明るくなってしまう。
つかさ「まだお昼まで時間はあるよ!!」
私は立ち上がり部屋を出た。
こなた「ちょ、何処行くの」
こなちゃんは私に付いてきた。私は台所から非常用の懐中電灯を取り出した。
つかさ「もともとハッキングなんて良くない事だかから失敗するの」
こなた「……それはそうだけど……それをどうするのさ?」
つかさ「外に出て直接救助船に合図を送ってみる、救助船は日本の上空に居るって言っていたよね」
こなた「……う、うん、確かにそう言った、つかさ、悪いけどそんな事しても、NASAの電波望遠鏡の電波を使ってやっと送信出来る、そんな小さな光じゃ……」
つかさ「やってみなきゃ分らないよ」
私は家を飛び出した。そして、玄関を少し出た所で懐中電灯をつけて真上の空に光を向けて円を描くように回した。
つかさ「気付いて……お願い……データはここにあるから……お願い……」
お姉ちゃんと見た時と同じ。澄み切った夜空……空は懐中電灯の光を飲み込んでしまっているみたいに少しも変わらない。
あの時見た流れ星の願いを変える。救助船が気付きますように……
懐中電灯を持っている手をこなちゃんは掴んで下ろした。こなちゃんは首を横に振った。
こなた「分ったよ……もうそんな無駄な事やめて、もう一度やるから……いくら近いって言ってもそんな光が直接届く訳がない……え……」
こなちゃんの動きが止まった。
つかさ「こなちゃん?」
こなた「直接……近い……そ、そうか、この手があった……」
つかさ「え、な、何?」
こなちゃんは手を離した。
こなた「やってみるしかない、つかさ、もう一度やってみる、でも、今までは違う方法で」
つかさ「うん?」
私達は家に入りこなちゃんの部屋に戻った。こなちゃんはノートパソコンの前に座った。さっきまでのこなちゃんと表情がちがって目が輝いている。
こなた「つかさ、聞いて、NASAの施設を使ったのは、木星のガニメデの基地まで信号を送るため……わざわざそんな事をしていたのはね、あの基地に超光速通信が出来る
    装置があるから、だから短時間で何光年、何百光年も離れた母星や救助船と連絡が出来た……でもね、今、救助船はこの地球のすぐ近く、この日本の真上にある。
    それならガニメデの基地の施設なんか使わなくて良い、NASAの施設も要らない……人工衛星と通信する日本の施設を利用すれば……
    直接救助船と連絡できるかもしれない……」
え、え、言っている事がよく分らない……こなちゃんがゆきちゃんに見えてきた。
こなた「つかさが教えてくれたヒントだよ、もうこれに懸けるしかない……つかさ、私のディスクトップパソコンを立ち上げて、日本の……日本じゃなくても良いよ、
    人工衛星と通信する施設を検索して……私はちょっとプログラムを手直しするから」
意味は分らないけど……ディスクトップパソコンを立ち上げて施設を検索してみた。
つかさ「……えっと、気象庁のアンテナ……それから……種子島にもあるみたいだけど……」
こなた「う~ん、気象庁の施設にしよう……」
こなちゃんの言われた通りに調べてこなちゃんに教えた。それをこなちゃんがノートパソコンに入力していった。
 
 朝日が窓から射し込んできた頃……
こなた「つかさ、やってみるよ」
私は頷いた。
こなちゃんはキーボードを叩いた。こなちゃんはディスプレーをじっと見ていた。私はそのこなちゃんをじっと見て祈った……成功しますように……
『ピピ…ピー』
ノートパソコンが鳴り出した。
こなた「や、やった、成功した、1段階でハッキング成功した」
つかさ「やったー、良かったね、こなちゃん」
こなた「まだまだ、これからアンテナを救助船に向けないといけないから……もう少し、もう少し調べてもらってもいい」
つかさ「うん、良いよ」
太陽は待ってくれない……もう約束の時間は過ぎていた……だけど、これで失敗したらなにもかも水の泡……私はこなちゃんの手伝いに集中した。
 
こなた「つかさ、このエンターキーを押せばデータを救助船に送ることが出来る……つかさ、押すよ、良いね?」
つかさ「うん……」
こなた「それじゃ、急いで神社に行って……もう私一人で大丈夫だから……ひろしに、彼に逢って来なよ……ギリギリまで待ってあげるから」
時計を見るともうお昼まで30分を切っていた。
つかさ「車を使って、神社の階段を登って……もう、間に合わないよ……」
こなた「早く、まだゲームオーバーにしたくないから、つかさが神社に行けば私のゲームはクリアする、間に合わなくても行ってよ……さぁ、早く!!」
つかさ「分った、ありがとう、こなちゃん、行って来る」
 
こなちゃんに押されるように私は家を飛び出し車に乗った。
稲荷寿司を積むのを忘れた……だけど、もう戻っている時間はない。エンジンをかけて車を走らせた。
神社に着いてもひろしさんと話せる時間は何分もないかもしれない。
まなちゃんの時もそうだった。たかしさんの時も……そしてさっきのこなちゃんの時も……私は何も出来なかった。ちょっと手伝いが出来ただけ。
手伝いも出来たかどうかも分らない。けいこさんにだってちゃんとしたお話ができなかった。
お稲荷さんが帰っても私達には解決しなければ問題がある。私にはどうする事も出来ない。
だから、せめて……せめて、最後のお別れだけは言わせて……
 
階段を上がる度に身体が重くなる。ひろしさんと別れてから殆ど登っていないせいかもしれない。息が切れる。いつもならとっくに頂上に着いているいるのに。
気ばかりが焦って身体が付いていかない。
階段を八割ほど登った時だった。神社真上に浮かんでいる雲が虹色に光り始めた……それと同時に町内のチャイムが鳴るのが聞こえた。
腕時計を見た。正午をさしている。もう時間……急がないと。
そう思っているのもつかの間、虹色の雲から光が頂上に差し込んでいる。まさか、あの光の下にひろしさんが……帰っちゃう。だめだよ。まだ、何も言っていないのに。
もう少し、もう少し待って……
 
頂上に着いた瞬間だった。光は雲に吸い込まれるように引いていく……そして、虹色に光っていた雲は普通の雲にもどってしまった。
頂上には……誰も居なかった。辺りは静まり返っている。私の荒い呼吸だけが響いていいた。
つかさ「はぁ、はぁ、はぁ……う、嘘でしょ……帰っちゃったの……ど、どうして……」
引き止めることも、お別れを言う事も、稲荷寿司を食べさす事も出来なかった……
私は空を見上げた。さっきま虹色に光っていた雲は形を変えて小さくなっている。救助船からここが見えているかもしれない。私は無意識に手を振っていた。
見えていないかもしれないけど……私が『さようなら』と叫ぼうとした時だった。
森の奥から人影が現れた。
「つかささん、何故……来なかったのですか」
声のする方を向くとゆきちゃんだった。悲しい目で私を見ていた。手には携帯電話を強く握り締めていた。
みゆき「連絡を取ろうとしても、ひろしさんは止めるように何度も嗜まれました、何か事情があるに違いないって……つかささん、その事情はなんですか、
    最後の別れに遅れまでしなければならい事情なんてあるのですか……」
私は首を横に振った。
みゆき「それでしたら、何故ですか!!」
珍しくゆきちゃんが怒鳴った。
こなちゃんを手伝って遅れた……そんなの言ったって理由にならない。あるのは遅れたと言う事実だけ……
また森の奥から人影が現れた……そこには小林さんの姿があった。どうしてここに小林さんが……ま、まさか小林さんは……
みゆき「この神社には母星に帰る殆どの人が来ました……小林さんは見送りに来ました……小林さんは呪いの解けたばかりのかがみさんを護衛するために
    ひろしさんに頼まれてかがみさんの側に居るようになって……好きになったそうです」
小林さんは地球に残る三人の内の一人だった……お姉ちゃんはそれを知らない。
私にはややこしい人を好きになったとか言っていたくせに……
さすがお姉ちゃん、私とは違うよ。小林さんの心をしっかり掴んでいるね。
つかさ「……ありがとう小林さん、お姉ちゃんの為に残ってくれて……」
小林さんは何も言わず階段を下りていった。私はまた空を見上げた。
つかさ「ゆきちゃん、私が間に合ったら、ひろしさんは残ってくれたと思う?」
みゆき「それは……分りません……」
つかさ「私は分るよ、来ても結果は同じだった、でもそう思ったから遅れた訳じゃないよ……私達はもう既に別れているから……私がちょっと未練を出しちゃっただけ……」
ちょっとどころじゃなかった。舞い上がっていただけ。けいこさんから話しを聞いた時、夢を見てしまった。それだけの事。
みゆき「……先ほどはすみませんでした、怒鳴ってしまって……」
つかさ「うんん」
私は空を見上げたまま答えた。ゆきちゃんは私を見守るようにずっと私を見ていた。
 
 どの位時間が経ったか……
みゆき「……今頃、けいこさんと木村さんが消えて大騒動になっているでしょう、私は後始末をしなければなりません……面会をしたつかささんにも
    何らかの調査が来るかもしれません、小林さんもそれを心配して先に帰りました」
つかさ「大丈夫だよ、私とけいこさんは親戚って事になっているから、実際も遠い親戚みたいだしね」
みゆき「そうでしたね……遺産相続の権限もありませんし、執拗な調査はしないでしょう……」
ゆきちゃんは後始末をするって言ったのに一向に私から離れようとはしなかった。私は空を見るのを止めてゆきちゃんを見た。
つかさ「どうしたの?」
みゆき「あ、あの、大丈夫ですか、お一人になられますが……」
つかさ「まさか、ゆきちゃん、私が自殺するとでも思っているの」
みゆき「え、い、いえ、そのような事は……」
ゆきちゃんは慌てて否定した。その慌てようからすると図星だったみたい。
つかさ「そんな事をしたらかえでさんに怒られちゃうよ、この神社は壊されちゃうでしょ……もう少しこの景色を焼き付けておきたいから……」
みゆき「そうですか、私はそのまま帰ります」
ゆきちゃんはお辞儀をした。
つかさ「またね……」
ゆきちゃんは何度も振り返りながら階段を下りていった。
 
 また私一人になった。さっきまであんなに静かだったのに蝉が鳴き始めた。でも真夏のような勢いはない。もう空は見上げても意味はないよね。
さて、ゆきちゃんに言った通りに、この景色を目に焼き付けるかな。私は階段の所から町並みを眺めた。
 
思えばこの神社に最初に来たのも一人だった。最後も一人……そんなものなのかもしれない。
私の旅は終わったけど、お稲荷さんの旅は大変だよね、故郷の星を復興させないといけないのだから、辛くて厳しいに違いない。
三万年も続く災い……私には想像もつかない事だけど、お稲荷さんならきっと克服するよね……
お姉ちゃん、もう泣いても大丈夫だよね……もう、私の旅は終わったよね……
 
でも、何故か涙が出なかった。
そうそう、まだこれから解決しないといけない事があるから。
私の住んでいる町、お店、そして、この神社……なんとかしなきゃ……泣いてなんか居られない。私も少しは強くならないと。
 
 日が沈み、街灯がちらほらつきはじめた。
もう私の記憶にしっかりとこの風景は焼き付けた。この神社がなくなっても私の心にこの神社はある。辻さん……この神社がなくなっても私達を見守ってください。
もうこれ以上居ると暗くなってしまう。帰ってこなちゃんに報告しよう。
階段を下りようとした。
辺りが急に明るくなった。振り向くと森の中が明るくなっている。この光は見覚えがある。ひろしさんが最後に私を送ってくれいるのかもしれない。
この光を頼りに階段を下りるかな……
あれ、何か違う。階段を踏んでも階段が光らない…………これはひろしさんの術じゃない……
私は振り返って再び森の中を見た。森の中の光は次第に弱くなっていく私は何歩か森の中に足を運んだ。森の奥から人影が見える。
それは紛れもなく……ひろしさん。私ったら、また夢を見ている。そう思った。その人はどんどん私に近づいてきた。そして、私の目の前で止まった。
ひろし「何故、来なかった……来たら何の躊躇もなく帰れたものを……」
この声は、ひろしさん……何て言ったら良いのか分らない。あれ……おかしいな、出ないはずの涙が……。
ひろし「データ送信のルートが大幅に変更されていた……めぐみがそう言っていた……遅れたのはそれが原因なのか……」
声が出ない……
つかさ「デ、データ……送らないと……帰れないでしょ……だから」
ひろし「めぐみはそこまで教えていないと言った、もちろん僕もそんな方法は知らない……つかさ達だけでやってのけたのか」
つかさ「うんん、こなちゃんが全部……」
ひろしさんは笑った。
ひろし「相変わらず控えめだな……そこが好きなんだけどな……どうだ、つかさ、僕と一緒に来ないか、確かに故郷は復興の途中だが、この地球よりいくらかはましだと思う、
    それに、僕達の知りうる知識、技術……それに、人間とは比較にならないほどの時間が得られる」
私は首を横に振った。
ひろし「……即答だな……つかさにはそんなものには興味ないか、それなら僕も即答しなければならない」
ひろしさんは片手を空に向けた。
『パチン』
指を鳴らした……
つかさ「な……なに?」
ひろし「船は帰した……僕はここ、地球に残る……人間のルールはそんなに知らないから迷惑をかけるかもしれい……それでも良いか?」
つかさ「人間の私もそんなに知らないから大丈夫……」
ひろし「一緒になる……こんなに簡単……だったのか……僕は二年間、何をしていたのか分らない……すまない……」
ひろしさんは頭を下げた。
つかさ「そうだよ、簡単だよ、難しい理論も知識も要らない、二年前も別れる必要なんかなかった、他のお稲荷さんだって……私がどれほど……どれほど……うぁ~」
私は彼の胸に飛び込んで泣いた……それは別れの涙ではなく、再会の涙……
旅の終わり、お姉ちゃんの前で泣くはずだった。それが彼の前で泣いていた」
ひろしさんは私の肩を掴むと力を入れて私を離した。そして、指を空に向けた。虹色に輝く星があった。
ひろし「宇宙船が帰る、見送ってくれないか……」
つかさ「そ、そうだね、三万年間、地球に居たのだから……それに、けいこさんにさよならを言わないと」
私は虹色に輝く星に向かって両手をいっぱいに振った。
つかさ「さようなら~元気でね~けいこさん……たかしさん……めぐみさん……五郎さん……皆……さようなら~」
虹色の星は私の声に答えるかの様に円を描いて回りだした。そして、さらに強く光ると地平線の彼方へ消えて行った。
つかさ「……また、会う日まで……」
ひろし「また、会う日まで……なんだそれは?」
つかさ「おまじない、これを言ったから、ひろしさんにまた会えた」
ひろし「おまじない……それが本当ならたいしたものだ」
私達は暫く夜空を眺めていた。
 
つかさ「あ、そうそう、家に五目稲荷寿司があるから、食べていって」
ひろし「……それは美味そうだな」
つかさ「それじゃ、階段を下りて……あぁ、もう、暗くて道が見えない」
日はもうとっくに暮れていた。
ひろし「それなら……」
ひろしさんは両手で水を掬うような動作をした。すると手の平から光の玉が出てきた。懐中電灯くらいの明るさがありそう。
ひろし「これで下りよう」
つかさ「……私やこなちゃん達の前ならいいけど、他の人の前でそんな事したらダメだから……」
ひろし「そんなのは分っているよ、つかさしか居ないからやっただけ」
つかさ「本当?」
ひろし「本当だって、これでも人間として生活していた、そのくらいの常識は心得ている」
ひろしさんは片手を出した。
つかさ「それじゃ、信じる」
私も片手を出した。彼は私の手を握って先に歩き出した。私は引かれるように彼の後を付いていった。階段の近くに差し掛かった時だった。
私は足を何かに躓いて転びそうになった。彼は腕に力を入れて私を抱き寄せた。
ひろし「大丈夫?」
つかさ「う、うん……」
彼の顔が直ぐ近くに……あれ……この感じ……これって……き……す
キスだよね……この前は突然だったけど……今なら分る……こうゆう時って、彼に任せちゃった方が良いのか……な
考えている間もなく彼の顔がどんどん近づいてきた。恥かしい……私は目を閉じた……
あ、あれ……まだ来ない……
来るなら早く来て……
 
ひろし「誰だ!!!」
突然怒鳴った。私は驚いて目を開けると、ひろしさんは私に背を向けて手の平の明りを茂みの方に向けた。その方向には木がある。以前かえでさんは、その木の裏に人が
居るのを見つけた。もしかして……貿易会社の人なのかな……
つかさ「こ、恐い……」
私は彼の背中にぴったり張り付いた。
ひろし「そこに居るのは分っている……隠れていないで出てこい」
今度は低い声で木に向かって話した……暫くすると人影が出てきた。ひろしさんは身を低くして構えた。そして人影に明りを向けた。
つかさ「こ、こなちゃん!」
そこに立っていたのは紛れも無くこなちゃんだった。私は彼から離れて前に出た。
こなた「へへへ、ばれちゃった……もう少しでラブシーンを見られたのに、木の枝を踏んじゃったよ……」
苦笑いをしていた。
ひろし「……泉こなたか……お前はいつも邪魔をする……」
少し怒り気味のひろしさん。でも、構えを解いてほっとしている様子だった。
つかさ「ど、どうして来たの……」
こなた「みゆきさんが心配だから様子を見て欲しいって言うから……夕方からずっと間違えがないように見守っていたんだよ、つかさが暗くなるまで下りないから私も
    出るタイミングをなくしちゃった……でも、その様子なら心配いらないようだね……お二人さん」
つかさ「え、う、うん……」
そう言われると恥かしい……あ、そうだ。こなちゃんに言っておかないと。
つかさ「あ、えっとね、今夜だけどね、ひろしさんを家に……」
こなちゃんは腕を私の前に出して手を広げて私の話しを止めた。
こなた「はいはい、分っております、私はお邪魔なんでしょ……」
こなちゃんはもう片方を出て携帯電話を取り出した。
こなた「今夜は、松本さんと温泉旅館で今後の対策を協議するから、お二人は……朝までしっぽり濡れて下さいな」
自分で顔が赤くなったのが分るくらい熱くなった。
つかさ「ちょ、ちょっと、こなちゃん、そんな事言ってないでしょ!!」
こなた「あら、それじゃ、家に居てもいいの?」
つかさ「え……それは……」
こなた「無理をしない……やっと一緒になれたのだし……ね」
こなちゃんは電話で話し始めた。本当にかえでさんと話している。
こなちゃんを見ながら思った。こなちゃんの失敗がなければ……約束通りの時間に神社に来ていれば私は彼と永遠の別れをしたかもしれない。
遅れたから彼は帰るのを思い止まってくれた。何が切欠になるか分らないものだね……こなちゃん、ありがとう……
私は彼の方を向いた。彼も少し顔を赤くしている。彼と目が合った。
ひろし「あ……ぼ、僕は別にそんな事を……」
少し動揺していた。
つかさ「うんん、こなちゃんの話しは置いておいて……これからどうするか二人で話さないといけないでしょ、良い機会だと思わない」
彼は私の顔を驚いた顔で見た。
ひろし「……二年前と感じが少し変わったな……」
つかさ「ふふ、ひろしさん、人間は寿命が短いから成長も早いから、のんびりしているとすぐにお婆ちゃんになっちゃうよ」
ひろし「……つかさ……」
少し涙目になっているような気がした。私に出会って殆どの仲間と別れたひろしさん……ぎりぎりまで迷っていたに違いない。
少なくともここに残ったのを後悔させないようにしてあげたい。
こなた「コホン、コホン」
こなちゃんの咳払いで我に帰った。
つかさ「こ、こなちゃん!」
つかさ「見つめ合っていて悪いけど……松本さんと話しはついたから降りようよ……私、明りないから降りられない」
つかさ「あ、そうだったね……ひろしさん、お願い」
ひろしさんはまた明りを点けた、そして、階段を降り始めた。私とこなちゃんもその後を付いていった。
こなた「松本さんから伝言……明日、遅刻したら良からぬ噂が店じゅうに広がるから注意しなさいって……」
私の耳元で囁くこなちゃん。
つかさ「……それ、どう言う事なの……」
こなた「なんだろうね……」
ニヤニヤしながら話すこなちゃんだった……
神社を降りると、こなちゃんは車に乗って店に向かった。私達は家へ向かった。
 
私達は話し合った。そこで一つの結論を出した。
その後の出来事は恥かしくて……話せない。
 
 翌朝、私は遅刻をしてしまった。その時、かえでさんの伝言の意味を痛感するのだった……
 

 

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