霊「最後にもう一度確認するわ。まず私たちは二手に分かれる。一つは攻撃班。まずは元気な毛玉を国の外まで護衛する。外に出たらそのまま外の敵を駆除。毛玉達は壊れた穴から再突入し、内部の敵を駆逐する。担当は魔理沙、補佐にリグル」
魔「できるだけ急ぐけど、しばらくは頑張ってくれ」
リ「私は魔理沙の案内だね。とりあえず方角はあっちにまっすぐ。蛍を一定間隔で置くから目印に。それから案内役を一匹つけるから、万一見失ったら迷ったらそいつについていって」
魔「OK 外に出たら連中を駆除して、毛玉を突入させる。その後はまた集まってこないように見張りだな」
霊「もう一つは防衛班。攻撃班が戻ってくるまで、残った毛玉達と時間を稼ぐ。担当は私とリグル。
広場での迎撃はもう無理だから、建物の入り口、奥への通路とかに結界を張って拠点にする。
もっとも、相手はただの虫だから気休めみたいなもんだけど。
箱は、万一施設内にとばれたら厄介だから、全部外に配置。これは運任せね。
再突入した攻撃班はまず真っ先にこの施設を目指して頂戴」
タ「わかりましたでふ」
霊「一刻を争うわ。攻撃班はすぐ出撃。私は結界の準備をする。
それでは、作戦開始!」
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魔理沙たちが出発してから約10分、ゴキの襲撃が始まった。
箱の大部分は運び出し、結界は間に合ったものの、バリケードを作るには時間も人手も足りなさすぎた。
初撃は十数匹による突撃。大部分は勢いをそがれ、入り口の外に転がる。そのままひっくり返って動けなくなるものもいた。
何匹かは結界を突破したが、速度を殺されたため、リグルや他の毛玉にとっては的にしかならない。
しかし、相手がどれくらいいるのか想像もつかない。
「私は結界の維持に専念するから、抜けてきたのは頼むわね」
顔をこわばらせつつ、なお笑みを浮かべる霊夢に対し
毛玉達は歓声を持って答えた。
霊夢 Mission continued
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毛玉を引き連れた魔理沙は一定の距離を置いて光る蛍に誘導され、一路出口へと向かう。
数度の襲撃を振り切り、どうにか落伍者を出さずに入り口までたどり着いた。
追撃してくるゴキを迎撃、最後の毛玉と同時に、魔理沙も外に飛び出した。
「とりあえず第一段階突破と、うわっ」
思わず一呼吸ついた魔理沙の足元に一匹の巨大ゴキ。
とっさにレーザーで無力した。
「もしかして…お前ら急いで入り口閉めろーっ」
慌てて従う毛玉たち。内側ですぐそばまで迫っていたゴキはぎりぎりのところで出口を閉ざされた。
「これ、縮小と解除じゃなくて、縮小と拡大なんだな。ガ○バートンネルかよ…
ってそんな場合じゃないか」
急いで進入口に向かった魔理沙は、穴に群がる数のあまりの多さに絶句し
バクレツタケを使った場合の惨状を思い浮かべて戦慄し
して無言で殺虫剤を放り投げた。正直体には良くないが……この際しかたない。
魔理沙 Mission Complete
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穴での渋滞に焦り、敵の襲撃を掻い潜り、予想以上の時間を必要とした攻撃班は、ようやく中央施設を視界に捕らえた。
入り口での戦闘はすでに終わり、戦場は内部へと移っているらしい。
タ「いくでふ。僕らの国を守るでふ!」
先頭を進むタマ。続く毛玉達。
あらかじめ打ち合わせていた順路を進み、いくつ目かの崩壊した拠点を通り過ぎたとき、前方にゴキの姿を捉えた。
殺到する毛玉達。サイズで大幅に上回った彼らにとって、一匹一匹はさほど脅威ではなかったが、いかんせん数が多く、進行は容易ではなかった。
それでも少しずつ、前進を続けた彼らはついに虫の壁を突破。
数mの空間を挟み彼らが見たものは、傷つきながらも、玉串を構えまっすぐ前を見据えている小さな巫女と、仲間の帰りを待ち戦い続ける同胞達だった。
彼らは間に合ったのだ。
霊夢andタマ Mission Complete
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「ふぁ…今日もいい朝ね」
大きいんだか小さいんだかよくわからない異変から数日。
今日も魔理沙たちはあの国で四苦八苦しているんだろうな。
寝起きのぼんやりした頭でそんなことを考える。
魔理沙の言ったとおり、湧き水が枯れたのは賢者の石のせいだそうだ。
国があそこから離れれば、水脈も元に戻る。
パチェがそう断言したときのリグルの顔は、悪いけど今思い出しても笑ってしまう。
リグルは事件の間あまり口には出さなかったけど、すごく気になってたんだよね。やっぱり。
アリスは格好の研究素材を前にして、魔理沙とのいざこざは棚上げしたみたい。
まぁほっといてもそのうち仲直りしただろうけど。
いつものように軽く伸びをして起き上がった霊夢は、ふとタマから貰った箱を見た。
何故か、ちょっといつもと違う気がする。気がする。
「この箱は差し上げます。大事にしてくださいね」
そう言われても正直使い道もなくて困っていたのだが、せっかくの気持ちを無碍にすることもできず、とりあえず神棚の隣においておいたのだが…。
「むぅ……ていっ!……ぉお!?」
ちょっと警戒してツンツンした時、思い切って開けた時、中身を見て驚いた時。
コロコロ動いた表情は、最後は笑みに変わった。
「あいつら、何考えてるんだか。 まあ、こういうのもアリ、かな?」
箱に入っていたのは、数枚の硬貨と紙幣、それから一枚の手紙だった。
手紙にはお礼の気持ちと、このお金について…。
「神社ならお賽銭がいいかなと思いまふて。僕らではあまり近づけませんから」
こんな素直な感謝の気持ちを、霊夢は新鮮に感じていた。
何せ幻想郷にはひねくれものが多いから。
そして、いつもより心軽く朝のおつとめを始めるのでした。
それからというもの、この箱の中には時々思い出したようにお金が納められるようになり
神様もちょっとだけ力を取り戻しましたとさ。
トリップは『#霊夢の素敵な賽銭箱』です。