「巫女さんと共に!」ID:V5P1Z4o0氏

 高校生活もそろそろ終盤に差し掛かり、クリスマスだとか大晦日だとか正月だとか一体何故騒いでいるのかも分からなくなりかけてしまった行事も終わった頃、私はふと一つのことを思案するようになる。
 それに向かって私の周りの人間は今現在、精一杯の努力をして動き出しているんだろうけれど、今の時点での私は何の準備もしていない。
 というより、何を準備すればいいのかもわからない。
 進路。
 この言葉一つで私は本当にいらないものを背負ってしまうことになる、そしてそれは今現在、私の心に鈍重にねちっこくのしあがり始めている。
私は今まで面倒臭いことは考えないようにしていた。担任の黒井先生や友人の一人にも、いや、もしかしたら私が覚えていないだけでそれ以外のたくさんの人たちにもこうなる前に言われ続けていたのかもしれないけど、とにかく。
 私って……何をやってたんだろう。
 まずい、非常にまずい。確かに面倒くさいことを後回しにして遊び呆けていた私だけれど、今更ながら、進路ってテストみたいに一夜漬けで何とかなるもんじゃないとかいう自分でも訳のわからない境地に達している。
「ねえかがみ、何だか自分が無性に情けなくなって腹が立ってしまうことって無い?」
 いきなりのように思いついたことで無駄に自分に腹を立ててしまった私は、何となく隣に居た友人に聞いてみることにした。このままかがみが何とかしてくれたらな、というまた馬鹿らしくなりそうな考えも少しは持っていたことは否定しない。

「突然何なのよあんたは……。でも、まあそうね、そりゃああるわよ。」
「ほう、例えば?」
「ほら、こないだちょっと話してたでしょ、あんたの思いつきで。言われたらショックな言葉がどうのこうのって奴」
「あ~、そんなこともあったっけ」
 ああ、そういえばそんなこともあった。でも本当に適当に思いついたことを言ったから、それで腹を立てたのなら非常に申し訳ないかもしれないな。
「あれで私つかさに、今日からお弁当私が作るからお姉ちゃんはもう作らなくてもいいよ。――とか言われたらショックかもって言ったと思うんだけど」
「今思えばあれはあれで結局自分には手の届かない範囲じゃない? だからこそショックなんだろうけれど……。自分が適わないなって思ってしまうものが、あんたの言うことなんじゃないの?」
「ふうん……自分が適わないものか……。それもそうかも知れないね」
 自分が適わないもの……か。まあ確かにかがみがつかさに料理で勝つ……。うん、それだけは無理かな。流石に面と向かってたらこの空気で言えないけれど。
「真面目な話はここまで、さ、帰るわよ。それにしてもいきなり何でそんなこと聞いてきたのよ?」
「それはね――――」
 やっぱり止めた。もう少し自分で考えてみようかな。

家について、健全な学生ならそろそろ眠っているんじゃないのかな、と思えるような時間帯。私はチャットで今度は黒井先生にもなんとなく聞いてみた。
「黒井先生、何だか自分が無性に情けなくなって腹が立ってしまうことってありますか?」
「おいおい……折角ネトゲでファンタジー楽しんでるっちゅうに、そんなリアルな話をせんでほしいな……」
 だったらいつもあなたが私に宿題のこととか夜更かしのこととか平気で書いてきていることは、リアルではなくファンタジーなのでしょうか?
「まあいいじゃないですか。で、なんかあります?」
「まあいっぱいあるでー。ロッテがウチ行ったとき必ず負けてまうとか」
「あ~、前も聞いたけどありますよねー、それ」
「今日はガッツリネトゲすんぞ! って時にメンテナンス中やったこととか」
「それも仕方ないですよね……って先生何気に物凄い速さで返信されるとそっちの気分がすごいわかっちゃうんですが」
「気にしたら負けや。まあ結局は、諦めなあかんと思っても諦められん癖になんもできんってのが腹が立つな」
「それはまたかがみと同じ考え方ですねー」
「何や、柊にも聞いたんか? それと他にも……というかこっちの方がよくあるんやろうけど」
「?」
「昔のことを思い出したとき、思い出させられたとき」
「先生……そこから先はデッドラインいけそうなのでちょっと……」
「昔ってなー、本当馬鹿みたいなことやってんねん。笑って済ませんこと、笑って済ませることようあるわー。笑って済ませんことってのが本当につらいんやってなー。何か全然関係ないこと思い出してほんまきゅーに叫び出したくなるわな」
 先生……多分それはピンポイントに私を貫いてくれちゃうかも知れません。私自身、もう今の自分の状況を笑って済ませられませんから。ニートもフリーターも絶対いやですよ。ゲームとかではたまに有るかもしれませんが、実際にそんな人にはなりたくないって思いくらいは持っています。
「先生でも笑って済ましたくないことってやっぱりあるんですね」
「お前、それはウチの性格を考えた上での書き込みか? 明日遅刻したら許さんで」
「それは勘弁を。それじゃ、そろそろ落ちますねー」
「ちょい待て。何でいきなりそんなこと聞いてくるん?」
「それは――――」
 やっぱりまだ止めておこう。

 なんだか前の黒井先生とのチャットで思ったんだけれど、これってただ単に周りの思い出したくないことを思い出させているような、性質の悪い質問なのかもしれない。でもそれだったら、今度は年中頭の中に花が咲いているようなあの人に聞いてみよう。
「ねえゆい姉さん、ゆい姉さんが笑って済ませられないことってなに?」
「笑って済ませられないこと? 難しいこと聞くねー、こなたは」
「姉さんは本当にノリだけで生きてるーってな感じだけど、やっぱり腹が立つことあるでしょ?」
「まあねー。例えば……そうだねー、今みたいにこなたが何か隠しているような感じがするときとか、かな。あ、これはそんなに腹がたつことでもないか」
 今現在の私は隠しているというより、焦っていると表現したほうがいいと思うけれど。
「……鋭いなー、姉さんは」
「でもさー、殆どのことなんて笑っていたら楽しいんだよねー。無理やりじゃなくて、本当に楽しもうと思って笑うこと。まあそりゃあさ、冗談にならないこととかはあるけどさー。こなたが私をノリだけで生きてるってように見てるのもわかる気がするよ。こなたって意外と悩みとか多そうだもんね」
「あれ、わかっちゃう?」
 なにやらどこかで聞いたような言葉を私に言い聞かせたゆい姉さんは、結局今も楽しそうに話している。この人は本当にノリだけで生きているようにしか私には見えない。でも、だからこそ羨ましい気がする。
 そういえばこの人は今の仕事についた理由も、本当に笑っちゃうような、それとも呆れちゃうような理由だったように思う。いや、だって運動会のピストルを見て警察官に憧れるなんて私にはほとんど理解できない。
「わかっちゃうもんなんだって! そういうのはさ、自覚しちゃうときついよー」
「自覚すると、きつい、か。確かにそうかもね」
 今の私も、自覚したからこそきつい。それは良くわかる。いや、気付かなかったら相当まずいんだろうけれど、自覚しなかったら幸せだったのかも知れないななんて、今更ながらに思う。
 そんな状態には今更ながら絶対になりたくないと思うけれど。
「で、何を隠しちゃってるのかな?」
「そうだね――――」
 隠してなんかいないよ。でも、やっぱりゆい姉さんにも話さないでおこうかな。
 ああ、これを結局隠しているって言うんだっけ。

かがみ、黒井先生、ゆい姉さん。結局誰に何を言っても私が欲しい確かな答えをもらえそうに無いような気がする。
だったらつかさはどうだろう。
 みゆきさんにはこんなこと何となく聞きづらいような気がする。
 つかさも真面目に考えてはくれそうだけれど、結局私の欲しい答えにはたどり着かないのかな。
 未だに自分の進路で迷っている私が、誰かに決めて欲しくて今の状態になるのに、結局答えは決まっている気がする。
 ……矛盾だらけだな。やっぱりかなり情けないかも。
「ねえつかさ、つかさは料理とかに疑問をもっちゃったこととかない?」
「どういうこと?」
「例えば、いくら頑張っても結局はたどり着けない場所とかあるじゃない?」
「あ~、こなちゃんそれはちょっと危ないかも……」
「まあまあ、それは置いといて」
「えーとね、難しいことはよくわかんないんだけれど、結局は自分が満足するかしないかじゃないのかな」
「むぅ……」
 満足するかしないか、か。少しつかさらしいかも。なるほど、少しわかってきたかも知れない。私が進みたい場所は、どこでもいいのかもしれないな。
 皆についていきたい、誰かと一緒に居たい。あの思いは本心からだけれど、それを本当に実行したら皆(特にかがみが)呆れるだろうな。
「私はねー、高校終わったら料理の勉強していきたいんだけれど、一番なんて結局取れないと思うんだ。だからさ、私は食べてもらいたい人に食べてもらって、それで喜んでもらえたら満足かな」
「あ~、それはつかさらしすぎるかも……」
「そういえばこなちゃんはこれからどうするの?」
「それが……どうしよう……なんかもう皆に寄生していきたいなーなんて」
「なるほど。それはすごくこなちゃんらしいね」
「やりたいことがないんだよねー。かといって仕事しない訳にも行かないし、適当に大学選んで仕事適当に決めちゃうなんてのも嫌なんだよねー」
 ここまで来て私は何となくつかさに持ちかけてみることにした。
 つかさは正直に言ってしまえばかなりの天然キャラ。でもそれだけに、自分の本当の答えを言ってくれる。あまり考えずに物事を言ってしまう、なんて言えば聞こえは悪いけれど、でもそれは本当のことを自覚させてくれる、とも思える。

「でもこの時期になってそれは流石に……お姉ちゃんじゃないけど本当に大丈夫?」
「う……それを言われると辛いなー」
「もうのんびりしている時間はないよ。とりあえず、好きなことやってみればいいんじゃないかな。あ、でも趣味は仕事にするなって言うし……どうなんだろ」
「そうなんだよねー。私も趣味を仕事にしたらもう楽しめなくなりそうで怖いんだよね――」
「何となくねー周りに聞いてみたりしてるんだけどさー。こんなくだらないことやっぱり話せなくてねー」
 好きなことを仕事にする……。ということは、自然に方向は決まってしまうのだけれど、そうすれば私は自分の好きなことを商業的なものにしてしまうような気がしないでもない。それでも、毎日は楽しそうだ。
 それでも何となく思う。私はそれ以前に今現在のこの状況をもっと楽しみたいのだろう。
「くだらなくなんかないわよ」
「お、かがみー。いつから居たの? まるで最初から会話に入っていたかのようにすんなりと入ってくるかがみ」
「妙な解説は入れなくていい。あんたこの間、結局最後まで教えてくれなかったじゃない。あんたがそんな哲学じみたこと聞いてくるなんてなんかあるって思うに決まってるわよ」
「いやー、私だって真剣に悩んではいるんだよ。バイト先でもう本職にしちゃおうかなーとか、でもやっぱり趣味を仕事にしたいかもなーとか、でも普通にオタリーマンでもやっちゃおうかーとか。それかいっそのこと皆に寄生していこうかなーとか。でもどれもしっくりこなくてねー」
「ま、あんたが後悔しなかったらそれでいいんじゃない?」
「他人事だと思って適当なこといわないでよかがみ……。そうだ! だったらかがみとつかさに決めてもらおう!」
「また馬鹿なことを言い始めた……」
「いやー、もう自分で考えて駄目なら巫女さんのお言葉でも借りようかと……」
「そしてあんたは最終的に私たちの責任にするつもりか」
「いや~、まあそんなことはしないよ~。自分で決めたことくらい自分で責任もつよ」
 うん、もうこれでいいや。……もうどうにでもなれ。ゆるゆるでいいや。
でもはっきり言って他人事だから適当だなんて言っておきながら、本当に適当なのは私だった――なんてことは確定してしまったわけで。
 あ、今私は皆に聞いてた「自分が無性に情けなくなって腹が立ってしまう」状態になっちゃってるかも。

「そう言われても……こなちゃんの将来を決めるなんて私にはちょっと無理かも。お姉ちゃんは?」
「私も却下。性に合わないわ、そんなの」
「えー、冷たいよ二人ともー」
「私たちはあんたのいう巫女さんらしく見守るだけにしておいてあげるわよ」
「かがみ……それは巫女さんらしくって言っていいの」
 ……結局かがみもつかさも何も言ってくれなかったな。自分のことは自分で決めろってことか……。
 まあいいや、だったらもうゆるく決めさせてもらおうかな。
 これは自分の適わないものじゃない。
 あきらめなければいけないものでもない。
 しかも自分がどうしたいか、なんとなく自覚してしまった。今の状況が私は楽しい。これだけで、きっと私のやりたいこと、という理由にはなる。
 私は……もっとこの状況を大切にしたい。皆と一緒にいたい。いつまでも馬鹿な話をしていたい。
 結局自分のことだから、私は自分で決めてみることにしてみた。


「そうそう、かがみさん。今日からこの事務所に新人が一人来るみたいですよ」
「へえ、どんな人なんですか?」
「ええと……かわいい人ですね」
「かわいい?」
「今日からここで働くことになった泉こなたです。よろしくお願いします」
「結局寄生してくるのか!!」
「かがみ様―。そんな殺生なこと言わないでー」
「うるさい!」

 ま、巫女さんについていってもいいよね!


「……というかあんた、結局やれば何でも出来たんじゃない。こんな努力わざわざせずに好きなことやってればいいのに……」
「いや~、そこを巫女さんについていくのもいいかなって思ってさー」
「もういっぺん高校生活やりなおしてこい!!」
 私の学生時代はこうして終わりを告げ、私は高校時代の友人と一緒に仕事をすることになる。結局その友人には呆れられてしまったが、別によしとしようかな。
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