第2話 岩壁に刻む炎の道

※断崖の町ガト 全景

こなた「そういえばゆーちゃん、なんであんな所にいたの?」
ゆたか「うーん……考え事しながら散歩してたらいつの間にか、かなぁ」
みなみ「気をつけて……またあんなことになったら困るから……」
ゆたか「うん。迷惑かけてごめんね」
こなた「考え事して迷子になるなんてみゆきさんみたいだねぇ」

 そんな話をしながら私たちは町に戻る。
 そうそう、町の名前はドミナって言うらしいね。
 入り口のゲートに英語でしっかり「Domina」って書いてあった。
 これまたご都合主義ってヤツ?

 その後、3人で手分けしての町中大捜索が始まった。
 もちろん捜すのは私たちの知り合い。つかさたちやひよりん、パティ、もしかしたら黒
井先生もいたりするかもしれない。


 ……だけど、丸一日費やしても収穫はゼロ。元の世界に戻る手がかりも見付からない。
 このままドミナに滞在していても状況は変わらなさそう、そんなわけでリュオン街道の
先にある断崖の町ガトへとやって来たのだ。


 断崖の町ガト。
 その名前の通り、巨大な断崖に作られた町。

ゆたか「すごいね……あんなところにも建物があるよ」

 町の入り口からでもはっきりと見える。
 突き出た岩場に立派な寺院が建てられている。先端こそそれなりの広さがあるけど、寺
院と崖を繋いでいる橋の部分がすごく狭い。

こなた「なんか今にもボキッといっちゃいそうだね」
みなみ「不思議ですね……何かで支えられてるわけでもなさそうですし」

 ちなみにあれが寺院だって知ってるのはドミナで人に聞いたからなのでした。

こなた「とりあえず――見て回ろっか。そんな広いわけでもなさそうだし」

 2人を連れて町の中へ入っていく。
 急な坂が結構多くて危ないかも……ゆーちゃんとか特にね。
 みなみちゃんがフォローしてくれるから心配は必要なさそうだけど。

こなた「……おろ?」

 誰かが道端に倒れてる。あの全身緑は……草人? だったっけ。
 ドミナにもいた、発言が子供っぽかったり不思議ちゃんっぽかったりする種族(?)だ。
 見た目はみんな同じなんだけど色んな場所にいるらしいんだよね。

ゆたか「どうしたのかな……大丈夫ですかー!?」

 ゆーちゃんが駆け出して、草人のそばにしゃがみ込む。
 それとほぼ同時に、坂の上から女性が走り寄ってきた。
 全身白ずくめの服に、顔も白い布で隠している……町の入り口でも見かけた衣装。
 多分、あの寺院に仕えている(?)修道女さんだと思う。


 - 岩壁に刻む炎の道 -


修道女「もし、どうされました?」
草人「お、おなかが、痛いの……」

 倒れるぐらいの腹痛ってのも……。
 つかさ「どんだけ~」
 とか言われそうじゃん、うん。

修道女「あの、手を貸していただけますか?」

 修道女さんは草人に肩を貸そうとしている。
 さすがにそれを黙って見ているわけにいかないから私も反対側から草人を支えてみる。

修道女「とりあえず、そこのお店で休んで行きましょう。さ、がんばって歩いて」
草人「うん……いたいよ~」

 坂を少し上ったところの武器防具屋。そこまで連れてくのね。
 心配そうな顔の2人に見守られながら、ゆっくりゆっくりと歩いていく。……が。

草人「う、うっ……もう、ダメ……」
こなた「え」

 プルプルと肩が震えだす。超ヤバそう……あぁ!

草人「誰かなんとかしれ~~~~~~!!!」
こなた「おあっ!?」

 いきなり叫び出し、私たちの手を振り払って猛スピードで走っていってしまった。
 なんとかしれ、って……。

修道女「大丈夫かしら……?」
みなみ「放っておけない……追いかけないと……」
ゆたか「う、うん。そうだよね」

 呆然とする修道女さんを尻目に、私たちは草人を追いかけて坂を駆け上がる。
 上りきった先は……うわ、道が分かれてる。
 完全に見失ってしまったみたいだ。

こなた「どっち行ったかな……」

 ざっと見回しても緑色は見当たらない。
 でもその代わりと言うかなんと言うか、赤い装束の人が立っている。

こなた「ちょっとすいませーん」
???「ん、何――」

 振り向いたその顔は……ってあれ!?

こなた「みさきち!?」
みさお「ちびっ子!」

 やっぱり私たち以外にもこの世界に来た人いたんだ。
 んー……しかしまさかここでみさきちが出てくるとは。

こなた「いやぁ全然ノーマーク……だって背k」
みさお「そういうこと言うのはこの口か~?」
こなた「ほっへひっはうあ!」

 ほっぺ引っ張るな! って言ったつもりなんです。

ゆたか「日下部先輩、草人がこっちに来たはずなんですけどどっちに行きましたか?」
みさお「あー……そっちのテラスに行ったゾ」

 あー解放された……結構思いっきり引っ張られたなもう。

みさお「オマエらどっか他の町から来たのかー?」
こなた「そだよ。ドミナからね」
みさお「へー。3人だけか?」
こなた「うん……って草人追いかけないと。みさきちも来たまえっ!」
みさお「お、おう……」

 テラスに着いたけど――ああ、いた。
 さっきとはまた別の修道女さんと話してるみたいだ。

草人「おなかが痛いの。なんとかして」
修道女「お腹が? 見せてみて」

ゆたか「なんか、もう大丈夫そうだね……」
みなみ「……多分」
こなた「じゃあ……みさきち、どれくらいここにいたの?」
みさお「ん? ここ来たのは1週間ぐらい前だなー」

 な……1週間?
 私がこの世界で目覚ましたの昨日なのに……。

みなみ「その前は……別の所にいたんですか?」
みさお「おう。ジオってとこになー」
こなた「ジオ? どこそこ」
みさお「でけぇ塔横切って、ミンダスって遺跡抜けた先。あやのもそこにいるぞ」

 おぉ、峰岸さんまでいるのか……周りの人たちみんなこっちの世界に来てるなぁ。
 ……けど、かがみもつかさもみゆきさんもまだ見付かってない。

こなた「そのジオってとこには峰岸さんだけ? 他に知り合いいないの? かがみとか」
みさお「ウチらも捜したんだけど全然。んで他の所も捜そうってことでこっちに来たんだ」

 そもそも、かがみたちがこっちの世界に来てるとは限らないのか。
 見付からないことを喜べばいいのか悲しめばいいのか……よくわからない。
 もちろん目の前で顔見れば安心するんだけどねぇ……。

草人「いや~~~~っ」
こなた「え――のわっ!?」

 突然の出来事だった。
 叫び声を上げながらさっきの草人が駆け抜けていく……。

修道女「ププは高価なのに。利用しないなんてもったいないわ」

 草人と話していた修道女さんが呟く。
 ププ……プランド?

ゆたか「あのー、何かあったんですか……?」
修道女「え……ああ、あの草人の腹痛の原因が回虫ププだったのよ」
ゆたか「ププ?」
修道女「万病の薬になる虫なのよ。取り出す時に少し痛いから我慢してねって言ったんだ
    けど、痛いのは嫌って逃げていっちゃったわ……あ、ルーベンスさん」

 修道女さんがみさきちに目を向けた。

こなた「るーべんす?」
みさお「なんかこっちだとこう呼ばれてんだよなぁ。なんでだろ」
修道女「寺院の炎のことでお話があるんですが……いいですか?」
みさお「おう――ちびっ子たちはこれからどうするんだ?」
こなた「じゃ私たちはまたあの草人追いかけるよ。ほっとくわけにもいかないし」
修道女「でしたら、良ければテラスにもう一回来るように伝えていただけませんか?」
みなみ「わかりました……それでは」

 一礼して、また走り出す。
 なんでお腹痛いのにあの草人はあんなスピードで走り回れるんだろ……。
 分かれ道に戻ってきたけど、やっぱり完全に見失ってしまっていた。

こなた「ゆーちゃんたちは街の方探して。私あっち行くから」
ゆたか「うん。行こ、みなみちゃん」

 手分けして捜索。私が向かったのは寺院だ。
 いやホントに怖いよこの橋……冗談抜きでボッキリいっちゃいそうだもん。

 そろそろと渡りながら、寺院を見上げる。
 外観はなんだかやたらと刺々しい。
 センスは微妙な気がするけど、太陽を背にするとやけに荘厳に見えるから不思議だ。
 ていうかこういう所って入り口に守衛とかいるものだと思ってたんだけど誰もいない。
 寺院だから誰でも気軽に参拝できるように……とかなのかな。

 草人はいた。
 寺院に入ってすぐ、祈り場のような所。
 瞑想している修道女さんの周りをぐるぐるぐるぐる回っていた。
 すごく……邪魔そうです……。

修道女「おやめなさい」
草人「おなかいたいの~! ププ、なんとかして!」
修道女「心を静めるのです。体全体で世界を感じなさい。そうすれば痛みなど感じません」
草人「なおして~~~」
修道女「あなたも瞑想なさい。心を解放なさい。全ては、気の持ちようです」
草人「誰か助けて~~~!!」
こなた「あ、あぁっ! 待てぇ!」

 再び猛ダッシュで逃げていく草人……。
 あー、黙って見てないで止めればよかったよ。

 そうして三度分かれ道へ。
 ゆーちゃんたちも戻ってきていた……けどだいぶ息が上がっている。
 坂ばっかりだしね……私も正直ちょっと疲れてきた。

こなた「ゆーちゃん大丈夫?」
ゆたか「ちょ、ちょっときついかも……休んでもいいかな」
こなた「おっけー、無理しなくて大丈夫だよ」

 ゆーちゃんが壁にもたれかかり、みなみちゃんもその隣に立つ。

こなた「みなみちゃん、ゆーちゃんお願いね」
みなみ「はい……草人はテラスの方に走っていきました」
こなた「ま た テ ラ ス か。じゃ行ってくるよ」

 2人を置いてテラスへ走る!
 ……ホント振り回されてるよ今日は。

 テラスには相変わらずみさきちと修道女さんがいる。
 そして――2人の足元に倒れた草人。へんじがない、ただのしかばねのようだ?
 と思ったらバッと起き上がり、またまたこっちへ走ってくる!

草人「オニ~~~ッ!」
こなた「あ、こら待てぇっ!」

 咄嗟に首根っこを捕まえようと手を突き出す……けど、草人はそれを見事に回避!
 相変わらず衰えないスピードでテラスから去ってしまった……。

こなた「ま、また追いかけるのコレ……」

 もーヤダ。

修道女「ほら、逃げられちゃったじゃないですか」
みさお「でもなぁ……怪我させるってコトだろ? ちょっとなぁ」

 そういえば回虫ププを取り出すとか言ってたっけ。
 どういう方法かは知らないけど、みさきちが渋るってことはけっこー痛いのかな。

修道女「……やっぱり私、ププを手に入れます」
みさお「やるなら1人でやれよ。私は嫌だかんな」
修道女「つめたいのね。草人が死のうが関係ないと?」

 え?
 いきなり話が飛躍した?

みさお「死ぬって……そこまでして必要なのかよそれ!?」
修道女「必要よ。生死の瀬戸際に立ってる人がいるから」
みさお「ププを手に入れるためなら何してもいいってのかよ! 草人だって生きてるんだ
    ぞ!」
修道女「だったら、あんたがどうにかしてくれるの?」
みさお「なっ……」

 修道女さんの口調が変わった。みさきちも気圧されてる。
 なんだろ、この嫌な感じ……。

修道女「私が求めることがあんたに出来るの?」
みさお「な、何言ってるのかわかんねーよ!」
修道女「……やってみせなさいよ。ほら!」
みさお「え――」


 嫌な音が聞こえた。


みさお「あ……ぁ……」

 みさきちが、お腹を押さえながらがくりと膝をつく。
 修道女さんの左手に光るそれは……何?
 いや……わからないフリをしてどうするんだ私。あれは……そう、ナイフ。

 刺された? みさきちが、修道女に?

こなた「み……みさきち!」
修道女「近づかないで。殺しちゃうわよ」
こなた「っ……」

 本気、だ。
 みさきちの苦痛に歪む顔は演技なんかじゃない。
 あの修道女はきっと私が近付いたら容赦なくみさきちを……。

修道女「核は傷つけてないわ。私の言うことを聞けば核には手出ししない」
みさお「か……く?」
修道女「簡単なことよ。痛いでしょ? 今ここで涙を流してみせなさい」

 涙……?
 意味がわからない。……意味がわからない!

修道女「どうしたの? 泣けないの?」

 痛ければ人は泣くはずなのに、みさきちは涙を落とさない。
 泣くのを我慢してるとか、そんなレベルの話じゃない。はたから見てたってわかる。
 あいつの目はこうなることをわかりきってる目だ!

修道女「無理なのね。残念だわ……さよなら、ルビーの騎士」

 そう言い捨てて、修道女がみさきちの胸のあたりをまさぐって何かを手に取る。
 赤い、石だ。ゆーちゃんやみなみちゃんの胸にあったような、あれだった。

修道女「ルーベンス……『希望の炎』、確かにいただいたわ」
こなた「希望の炎……? みさきちに何したの!?」
修道女「何も。核を奪われた珠魅は死ぬ、それだけね」
こなた「死ぬ、って……」

 珠魅? その石が核? 核を奪ったら死ぬ?
 言ってることが全然わからない。
 みさきちはその珠魅ってやつなの? だったら……何が、どうなるって!?

修道女「あんたもラピスラズリと真珠の珠魅を連れてるみたいだけど。あまり珠魅に関わ
    りすぎると石になっちゃうわよ」

 ラピスラズリと真珠。間違いない、ゆーちゃんたちのことだ。

こなた「みさきち、死ぬの……?」
修道女「そうよ」

 あっさりと、あいつは認めた。

修道女「それじゃあね。珠魅と一緒にいる以上、また会えるとは思うわよ」
こなた「……! 待てええええっ!!」

 槍を掲げ、私は駆けていた。
 みさきちを、友達を手にかけたあいつを逃がしたくない!

 だけど。

こなた「え――」

 あいつはテラスから、空に向かって飛び降りた。
 急いで崖下を覗き込んだけど……いない。
 消えた? 逃がし……た?

 すぐ近くでうつ伏せに倒れているみさきちに視線が移る。

こなた「みさきち……みさきち!」

 抱き起こし、肩を揺する。
 胸にぽっかりと空いた無機的な空洞がすごく痛々しかった。

みさお「ちびっ子……あやののとこ、行って……」
こなた「わかってる! 死なないでよみさきち!!」
みさお「はは……無理っぽいなぁ……」
こなた「嘘だ……」

 みさきちの体が赤い光に包まれて。

こなた「嘘……」

 ぱん、とはじけるように……消える。
 腕にかかっていた重みも霧のようにかき消えてしまった……。

 友達が、死んだ。
 こんなわけのわからない世界で、核を奪われたからなんて意味わかんない理由で。
 目の前で。

 ……死んでしまった。

???「ややっ!」

 後ろで声がする。
 振り向いた先にいたのは――着崩れしたスーツに探偵帽、パイプをくわえたネズミ。

ネズミ「遅かったかぁ~~~!!」

 ……誰?

ネズミ「貴様がサンドラだな! 正体はわかっておる! 頭のヘンな棒、取れ!」
こなた「……」

 冗談に付き合う気分じゃない……。
 腰を上げ、無視して歩き出そうとした瞬間、ネズミが大声を上げた。

ネズミ「逃げる気か! 貴様の目の前でルーベンスさんが亡くなったのを見ておるんだ!」

 何? なんなのこいつ……私がみさきちを殺したって言いたいの?

こなた「……奇遇ですね」
ネズミ「な、何の話だね……」

 いらつきが募る。思わず、口をくっと結ぶ。

こなた「私もたった今、友達が目の前で死んだんです」
ネズミ「何を――」
こなた「目の前で友達が殺されたって言ってるんですよ!!」

 ……叫んでからはっと気付く。
 ネズミの後ろ、テラスの入り口の所にゆーちゃんたちが立っていたことに。

ゆたか「お姉ちゃん……」
みなみ「先輩……今のは?」
こなた「……みさきちが殺されたんだよ。修道女に」
ゆたか「え……」

 2人が唖然とする。……そうだろうね。こんなこといきなり言われても困るよね。

ネズミ「そうか、修道女に変装していたのか……くそっ、逃してなるものか!」
みなみ「あ、あの……あなたは……?」
ネズミ「ワシか? ワシはボイド警部である」
みなみ「警部……」
ボイド「宝石泥棒サンドラを追っているんじゃ。……そうか、ルーベンスさんはお嬢さん
    のご友人だったか……失礼した」

 そうだ、みさきちのことをルビーの騎士だとか言ってた。
 胸の宝石……あの核とか言うのを狙ってるってこと?

ボイド「寺院に宝石泥棒サンドラの予告状が来ていたのだ。『希望の炎をいただく』と。
    ワシはてっきり癒しの寺院の炎のことかと思っておった……まさか、ルーベンス
    さんの核が狙いだったとはな……」

 宝石泥棒サンドラ。
 それが、みさきちを殺した修道女の正体?

ボイド「ルーベンスさんが珠魅だとワシが気付いておれば……くそぉっ!!」
こなた「警部。珠魅って……何なんですか?」

 考えてみれば、さっきから意味不明な単語が羅列され続けている。
 ゆーちゃんとみなみちゃんも珠魅ってのがどういうものなのか知らないはずなんだ。

ボイド「胸に核の輝きある限り生き続ける、不死の種族じゃ。珠魅の核は他の生き物にと
    っての心臓そのもの。核が傷つけば命が削られる」
こなた「みさ……ルーベンスも?」
ボイド「ルーベンスさんは核が隠れる服を着て、珠魅であることを隠していたようじゃな。
    宝石泥棒、ヤツがそのことに気付くのが早かった……」
みなみ「……その宝石泥棒というのは?」
ボイド「価値のある宝石ばかり盗む泥棒じゃよ。……ここ最近、珠魅の核を執拗に狙うよ
    うになったんじゃ」

 ゆーちゃんたちの胸に埋め込まれた核を見つめる。
 むき出しの石ひとつに命が委ねられている……か。
 そして、その命を宝石泥棒とやらは狙っているんだ。

ボイド「なんとしてもヤツを捕まえねばならん」

 ゆーちゃんも、みなみちゃんも、みさきちも珠魅。
 他にもこの世界に知り合いがいるとして、その人たちが珠魅である可能性はきっと高い。
 確証のないただの勘だけど、そんな予感がする。

 だったら……野放しにしておくことなんてできない。

こなた「協力させてください」
みなみ「……出来る限りのことはします」
ゆたか「わ、私も……」
ボイド「おお、ありがとう! ……しかしお嬢さん方も珠魅のようじゃな。くれぐれも用
    心してほしい」
ゆたか「はい……」

 とは言っても……どうすればいいんだろう。
 ボイド警部の言い方だと変装が得意みたいに聞こえるし、崖から飛び降りて姿をくらま
すなんて人間離れした芸当までやってみせた。
 先に珠魅を探し出して、現れた所を捕まえる……くらいしか思い浮かばない。
 そんなことを考えていると、警部が呟いた。

ボイド「ワシはヤツがまだ、この辺りにいると思っている。何か引っかかるんじゃ……」
こなた「何かって?」
ボイド「うーむ……経験から来る勘というヤツかの。ワシは街の中を調べてみる。君たち
    は町の周辺をお願いしたい」
みなみ「……わかりました」

 警部に背を向け、足を踏み出す。
 と、背後から声がかけられた。

ボイド「お嬢さん、珠魅のお二人を頼んだぞ!」
こなた「……わかってます!」

 そう、わかってる。
 あんなこと、二度とさせるもんか。

 町の入り口に戻ると、反対側に伸びる道の先を見つめる修道女がいた。
 ……ここの修道女、外見が全く同じなせいで全然見分けがつかないんだけど。

こなた「あのー、すいません」
修道女「あ、はい? 何でしょう」
こなた「こっちに様子が変な修道女が来ませんでしたか?」
修道女「様子が変……って言うのかしら。やけに急いで修験の道を登っていった子がいた
    けど」
ゆたか「その人、宝石泥棒なんです! ……人が、殺されたんです」
修道女「まあ……困ったわ、修験の道は寺院の関係者以外は立ち入り禁止なのに」

 いや、困るところはそこじゃないって……。
 これが平和ボケってやつなの?

みなみ「宝石泥棒を捕まえたいんです……通らせていただけませんか」
修道女「そうね……あ、ダナエ様」

 いつの間にか私たちの後ろにネコむすm……じゃない、獣人? が立っていた。
 もしかして宝石泥棒が変装しているんじゃ、なんてことも少しだけ思ったけどそれ以上
考えるのはやめた。
 人を疑うのは……嫌いだ。

ダナエ「何かあったの?」
修道女「はい、実は……」

 修道女が事情を説明し、ダナエさんがこっちに向き直る。

ダナエ「私はダナエ。寺院の僧兵です。修験の道は通っていただいて構いません」
修道女「で、ですがダナエ様」
ダナエ「大丈夫、司祭様には私から言っておきます」
修道女「……わかりました」

 話のわかる人で助かった……と、私は息をついた。

みなみ「ご迷惑をおかけして……すみません」
ダナエ「気にしないでください。それより早く捜しま――」
草人「誰か助けて~~~~~!!!」

 ……突然現れた草人が修験の道に消えていく。
 うん、すっかり忘れてた。

ゆたか「葉っぱ、落ちてる……」

 本当だ。体から抜け落ちたのか、草人の走った跡に葉っぱが転々と落ちている。

こなた「……草人追いかけながら探そうか」
ゆたか「お姉ちゃん」

 ゆーちゃんが話しかけてきたのは、葉っぱをたどりながら道を走っている時だった。

こなた「ん? あ、疲れたならペース落とすよ?」
ゆたか「ううん。あのね……お姉ちゃん、大丈夫かなって」
こなた「……大丈夫じゃないよ」

 目の前でみさきちが殺されて大丈夫なわけがない。
 多分、あと少しでもあのままだったら泣いてたと思う。
 ボイド警部やゆーちゃんたちが来て……気が紛れたってのは少し違うけど。

こなた「でも今はあいつを捕まえることだけ考えないと。でしょ?」
ゆたか「……うん」


 やがて私たちは修験の道を抜けた。
 滝を左手に見ながらさらに歩き、塔のようにそびえ立つ岩山を登っていく。

 鳥の巨大な巣の下でついに道は途切れていた。

修道女「私が、治してあげるわ」
草人「ほんと……?」
修道女「ええ……」

 いた。草人も一緒だ。

草人「むぎょっ!」

 殴られでもしたのか、草人がどさりと倒れる。
 そこまでだ悪党っ!

こなた「宝石泥棒!」
修道女「ちっ……!」

 追い詰めた!
 逃げ場なんかない、さっきみたいに飛び降りようにも遥か下に滝が見えるだけ!

ボイド「見つけたぞ! サンドラッ!!」

 遅れてボイド警部も到着した。逃走劇はもう終わりなんだ!

ボイド「もう逃げられん!おとなしくお縄につけ!」
修道女「私は誰にも捕まらないわ!」
ボイド「こんの……この期に及んで何を言うかと思えば――ん?」

 突然、太陽が隠れた。雲なんてほとんどない天気なのに?
 天を見上げた瞬間、その理由がわかった。
 この巣の主だと思う。巨大な鳥が上空を飛んでいる!

修道女「また会いましょう、皆さん」

 宝石泥棒がそう言ってカギ爪の付いたロープを真上に投げる。
 ……って、まさか!?

こなた「ま、待てぇっ!」

 急いで駆け寄る……けど、遅かった。
 あいつの体が宙に浮き上がる……!

ボイド「カンクン鳥かァ~ッ!」

 巨鳥が空に消えていく。宝石泥棒を背に乗せたまま。

みなみ「そんな……」

 逃げられ、た……。

草人「にょ!?」

 静寂を破ったのは起き上がった草人だった。
 にょ……って、どこの店の看板娘ですか。

草人「あれれ……おなか、いたくない……」

 回虫ププを取り出したら草人が死んでしまうってのは嘘だったと、そういうこと?

草人「うわ~い!なおった~!」
ボイド「はしゃぐな、たれバカ!」

 耳からプンスカと煙を噴き出しながら、ボイド警部が草人をひっぱたく。

草人「ぎゅむぅっ!」
ボイド「珠魅が、また一人……殺されたんじゃぞ」

 そう。
 結局、残ったのはみさきちが宝石泥棒に核を奪われて死んだという事実だけ。
 それだけだった。

ボイド「宝石泥棒サンドラ……ワシが必ず、必ず! お前を捕まえてみせるぞっ!」

 警部が、巨鳥が消えた空の向こうを見ながらそう誓った。

ゆたか「お姉ちゃん……私……」

 ……ゆーちゃんが私の胸にすがって泣き出す。
 震える頭を撫でながら、私も警部と同じように誓う。

 ――絶対に捕まえる。捕まえてみせる。こんなこと、続けさせてたまるか。


 ゆーちゃんの目から涙がこぼれ落ちることは、ついになかった。


   - 岩壁に刻む炎の道 - おわり

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