「やさしさに包まれて 笑ってた日々を心に留めておきたくて」ID:ndPZQLs0氏

全てが静寂に包まれた夜。
かがみは自室に一人きり。

その目には涙。

亡くした親友を思いやる涙。

もう親友は帰ってこないのは分かっている。

分かっているのに……。

かがみは涙を流し続ける。

☆   ☆   ☆

太陽がその姿を見せ、植物は光合成を、道を歩く人々が徐々に増え始める。
かがみもその中の一人として淡々と目的地へ向かう。
この街にも朝が来たのだ。
植物、人間……この街の多くを構成する生命が、目覚める時間。

「かがみぃ……」

いや、例外が居た。

「おはようこな……た?」

後ろから今にも消え去りそうな声をかける彼女は泉こなた。
その顔は青ざめて、目元には大きなクマが出来ている。


「何か今日はヤケに眠そうね……」
「うん、昨日は徹夜でネトゲーだったからね…………今にも……別の……世界に…………ZZZZ」

いつになっても変わらない親友。
そんな彼女を見て、かがみは呆れるしか無いのだった。

☆   ☆   ☆

────こなたが死んだ

今でも、それは夢の中で聞いた言葉のように思えた。
葬式の時、顔をクシャクシャにするつかさ、顔を俯かせながら震えるみゆき。
そして火葬場に運ばれるこなたの亡骸にしがみ付いて、止めようとするゆたかちゃん。
全てがリアルだった。
そのはず……、なのに──

時間は、決して万能薬では無い。
事実、今ここに一人の少女が過去の囚人となっているのだから。

☆   ☆   ☆

チャイムが鳴り、四時間目の授業が終わりを告げる。
その時間が睡眠時間と同じになっている生徒も示し合わせたかのように次々と目を覚ます。
そして彼女、泉こなたも例外では無い。
昼休みが始まる。
それは落ち零れや優等生までピンキリな陵桜高校ではあるが、皆が授業よりもこの時間を何よりも待ち望み、満喫する。
優等生は親友と話が出来る時間として、落ち零れは空腹を満たせる時間として、逸れ者は孤独を感じる時間として……。
人それぞれ形が違うけど、それ誰でも同じこと。


「でさ、人が死んだら何処に行くかって考えてみたんだけど」
「あんたには、ちゃーんと地獄に逝けるように祈ってあげるわよ」
「ちょっ、か、かがみ! それ、キツイっすから!」

空腹とは別に、空腹以上の何かが満たされる。
心から分かり合える誰かと居るというのは、そういう事だ。
何時までも、何時までもどうでもいい事を語り合う日常。
やがて、チャイムが鳴り響く。

「あ、じゃあ私はもう帰るわねー」
「うん。また放課後にね、かがみん」
「あ、そうだ!」
「ん?」
「明日さぁ、新しくゲームセンターがオープンするでしょ? 私達の青春の記録を残さないかね?」

そう行って、友達ととったプリクラのノートを取り出すこなた。
かがみが二つ返事で承諾したのは書くまでも無いだろう。

昼休みが終わる。
人それぞれの過ごし方はある。満喫の形は違う。

気付いている人間は居ないのだろう。
この時間は、何よりもかけがえの無い時間だと言う事に。
泉こなたの場合も、『また明日同じ時間がある』と思っている。

────たとえそれが明日失われる事になっていても

☆   ☆   ☆


「…………こなた」

布団の中に入りながら、かがみは一冊の手帳に目を通す。
星型のフレームに二人っきりで移っているプリクラ。
こなたが映っている最後の写真。

月明かりが彼女を照らしていた。

☆   ☆   ☆

昼休みが終われば、あとはあっと言う間に終わる。
放課後のチャイムが鳴るとこなたは真っ直ぐとC組に向かった。

「やっほーかがみー」
「おーっす……」
「うほ~い! かがみんと二人っきり~、かがみんと二人っきり~。それでは青春へ向かってー」
「こ、コラ! 引っ付くなこなた!!」

クラスメート中が怪訝な瞳をこちらに向けている。


「なぁ……柊、その……」
「分かってる。 何も言わないで……日下部」
「かがみーん、早く行こうよー」

何時の間にか、教室の出口付近で待機しているこなた。
もちろん自分のせいでかがみがヒンシュクをかいた事など気付いてもいない。

「まったく、アンタってヤツは……」

そう言いながらかがみもこなたの後を追う。

先ほど抱きついてきたこなたの肌の温もり、それはもう二度とかがみには感じられない物だった。

☆   ☆   ☆

49日。
それは報われぬ死者が、救われる時。
こなたにとっても、今日がその日に当たるのだ。
始まりがあるものには、必ず終わりがある。
滅びの美学とは、同時に誕生の美学でもある。

だが、かがみには終わって欲しく無い物がひとつだけ……。
何で、こなたともっと一緒にいてあげられなかったのだろう。
あの日、あの瞬間……。
もしこなたに寄り添っていれば、自分も一緒になれたのに。

こなたと一緒に、トラックで轢かれて、全て混ざって、グシャグシャに……。

☆   ☆   ☆

「あんたねー、いくらなんでも引っ付きすぎでしょ」
「アハ♪」

ゲームセンターから出てくる二人は何時も通りだった。
それは彼女達のいつもの光景。
決して失われる事は無いはずの物。

「でさー、どんな出来だったワケ? 私にも見せてよー」
「え、あ、コレは」
「ねー見せて見せてよー」
「ちょ、こなた危な────あっ」

それは偶然か、神のイタズラか。
一陣の風がかがみの手元からプリクラを奪い取ってしまう。

それを反射的に追いかけるこなた。
だが次の瞬間────、

「こ、こなた!!」
「──────えっ?」


こなたが振り向いた先。
そこあったのは、こなたに向けて真っ直ぐ突進するトラックの姿だった。

「イヤアアアアアアアア────」

────全てがスローに見えた

「こなた……!」
「ふぇー、驚いた」

トラックはあっけなく『こなたを素通りしていた』。

「直前で避けてくれたのかな? いやー私ってツイてる?」
「バカ! 気を付けなさいよね……」
「いやー心配してくれるんなんて……うれしいね~」
「もう、バカッ! さっさと行くわよ!」
「あ、おいてかないでよー」

そして、少女達は再び帰路に着いたのだった。

☆   ☆   ☆

月を毎晩眺めるのが日課となってから、もう50日となった。
最初に見た時は、失われるだけだった半月。
それが半月程度で折り返しとなり、今や最高に満たされた満月と化していた。

かがみは手帳を開く。
それは今日こなたと一緒に撮ったプリクラ。
あの後、こなたに見られまいと念のため回収したものだ。

────バカこなた

────前々からそうだとは思ってたけど、ここまで酷いバカだなんて思わなかったわよ

────自分が死んだ事にも気付いていないなんて……。

結局、こなたはこなたのままだった。
そう思うと、嬉しいような可笑しいような、そんな気がして口元に笑みを浮かべる。

そしてかがみは目を閉じた。
永遠の別れと思った。
でも本当はこれからも、永遠にこなたと会えるのだ。

────あんた、今日で50日目よ

────不成仏霊になっちゃったのよ?

────ホント、何時までも変わらないんだから……

ベットの淵に置かれた手帳。
一番新しく貼られたプリクラ……。

そこにはかがみ一人しか写って居なかった。

☆   ☆   ☆

翌朝……。
かがみとこなた、二人だけの日常……。
それは永遠のものとなったのだった。
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