FILE.3

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「ひっ……く……ううぅ……ああ……」

大広間、かがみの啜り泣く声だけが辺りを埋め尽くしていた
つかさは気を失い、現在は部屋で眠っている
他の人達――みゆき、みさお、あやのは、声を発そうとしない。……いや、発することが出来ないのだ

「うう……こなたぁ……なんで、なんでぇ……」

かがみに掛けるべき言葉が見つからない。下手な事を言えば、かがみが余計に傷つくだけだ

「こなたぁ……なんで自殺なんか、したの、よぉ……」
「……なあ、柊……」

突然、黙り込んでいたみさおが喋りだした

「ちびっこは、自殺したんじゃないんじゃないか?」
「……え……?」

かがみは、間の抜けた顔でみさおを見返す

「だってさ、この旅行を計画したのってちびっこだろ? これから死のうってヤツがこんな旅行を計画すると思うか?」
「確かにそうよね……自殺するなら普通、旅行が終わってからするんじゃないかしら……みんなとの楽しい思い出を作ってから……」
「……では泉さんは、何者かに殺害された可能性が高いということですか……? しかも、密室だった、あの部屋で……」
「だとしても!!」

かがみが声を荒げる。泣きすぎて充血した目が余計に恐怖をそそる

「だとしても、この中にこなたを殺した犯人がいるってコトでしょ!? 嫌よそんなの! 誰かが犯人なんて信じたくない! 犯人探しなら勝手にやってちょうだい!!」

確かにそうだ。ここまで騒いでも誰も出てこないということは、この屋敷には今や五人しか存在しないのだ
だとしたら、もう一人友人を失うことになる。それが、かがみは嫌だったのだ

「ダメ、だよ……お姉ちゃん……」

不意に、つかさが現れた。おぼつかない足取りでかがみに向かって歩いてくる

「つかささん! まだ寝ていないと!」
「寝てられるわけ、ないよ……こなちゃんは……殺されたんでしょ……?」

が、やはり大丈夫ではない模様。倒れそうになったところをあやのが受けとめる

「このまま、犯人が見つからなかったら……こなちゃんが可哀想だよ……。みんなで犯人を見つけて……こなちゃんを、殺した理由、を……」

あやのの腕の中で、つかさはまたも気を失った
しかし、つかさの言葉で、かがみの目に生気が戻ってきた

「……そうよね、つかさの言う通りだわ」
「かがみさん……」
「このまま犯人がわからないままだと、こなたが報われないわよね……!」

犯人は今、この中で嘘をついている。みんなと同じように哀しんではいるが、心の中では笑っているにちがいない!

「こなたを殺した犯人を見つけだす! それが、私があいつにしてやれる、最後の恩返しよ!」

「……ああ、そうだな」

みさおがゆっくり立ち上がり、かがみに近づいていく

「このまま犯人を野放しにするのは絶対にダメだ。ちびっこの無念を、晴らしてやろうぜ」
「ええ!」


・・・


「妹ちゃんは、眠らせてきたわ」

二階から戻ってきたあやのが伝える

「高良~、そっちはどうだ?」
「……ダメです、やはり電話線が切られてるようです」
「まあ、無断でこの家を使ってる以上、電話したら私達全員捕まるわよね」

ケータイはみんな圏外、屋敷にあった電話を使おうと思ったのだが、案の定切られていた

「仕方ない、私達で犯人を捜すしかないな」
「……この中に、犯人がいるのよね……」

かがみがボソッと呟いた。その場の全員が無言になる

「ま、まずは皆さんのアリバイを聞かないと始まりませんね……」
「とりあえず……つかさは間違いなく白だな」
「なんで?」
「あいつはお風呂に入る前にちびっこと話してた。つまり、この時ちびっこはまだ生きていた。ということは、お風呂に入ってたつかさはまず犯人じゃない。お風呂上がりの犯行でもない。ちゃんと体は温かかったしな」


みさおは三人を見回し、

「死亡推定時刻はつかさがお風呂に入ってる時だ。はっきり言うが、アリバイなんかつかさ以外ねぇだろ?」

みさおの問いに、誰も反論ができない。困ったように頭をかき、

「……埒があかねぇや。とにかく、ちびっこの部屋に行って証拠を見つけないとな。誰か、やれる奴はいるか?」

その問いに、だれも答えようとはしない
あの部屋にはまだ、こなたの死体が転がっているのだ。入りたくないのも頷ける

「……じゃあ、私がちびっこの部屋を調べてる。三人は自分の部屋で待機してくれ。誰が犯人かわからないんだ、絶対に部屋から出るんじゃねぇぞ!」

大きな声で言い放ち、自室に戻るよう促す
この状況で、一番まともでいるのは自分だ。自分がなんとかしなければ……!


・・・


「うっ!! 気持ち悪ぃ……」

血液が異臭を放ち、みさおは思わず鼻を覆った
おびただしい量の血液が、部屋を、こなたそのものを赤く染め上げている
この光景を見てもなお平気でいられる人間がいるはずない

「…………」

彼女はこなたの――こなただったモノの横にしゃがみ、静かに手を合わせる

(ちびっこ……お前を殺した犯人、絶対に見つけだしてやるからな……)

立ち上がると、こなたの首に刺さっているナイフに視線を向ける

「ちびっこは、これで殺されたのは間違いない。即死だったろうな……」

そして彼女は証拠探しを開始した


・・・


「ちょっとくらいなら……いいよね……」

あやのはドアからそっと頭を出し、辺りを見回す
誰もいないことを確認すると、ゆっくりと一階に降りていく
そして数分後、水の流れる音とともにあやのがトイレからでてきた

「……んもう、なんで一階にしかトイレがないのかしら?」

ハンカチで手を拭きながらそうぼやく

「さて、早く戻らなくっちゃ……」

彼女は急いで階段を登ろうとする。が……

「?」

身体がなんらかの衝撃を受けた
一瞬、何が起きたのかわからなかったが、自分の腹部を見て、全てを理解した

「え……うそ……?」

腹部に刺さっていたのは、ボウガンの矢
おそらく、二階から撃たれたのだろう。さらに二発目、三発目が彼女の胸を貫き、力なく倒れこむ
飛び散る血液、霞む視界。その全てが、自分の今後を予見させる

(そん、な……私、ここで……死んじゃう、の……?)

動こうにも、身体が言うことを聞かない。かろうじて指先が動く程度だ

(――!!)

二階から、ある人物が『ボウガンを持ったまま』降りてきた

(う……うそ……? な、んで……『あなた』が……?)

あやのにボウガンを向け、背筋が凍り付くような、不気味な笑みを浮かべた

(い……いやぁ……私、まだ……死にたく……な……)


・・・


「くっそ……」

みさおは苛立っていた
あれから結構時間は経った。しかし、証拠となり得るものが何一つでてこない
ナイフに犯人の指紋が付いている可能性はあるが、調べようがない
こなたの身体をどけてダイイングメッセージの類を探すが、即死なのだ。あるわけがない

「……!」

一瞬ではあったが、こなたと目が合ってしまった
初めて会った時は綺麗だった瞳も、今ではひどいものだ
瞳だけではない。彼女の肢体も、髪も、全てが見るに堪えない

「…………」

そんな彼女を見ているうちに、みさおの中に、どす黒い感情が生まれた
先ほどまでとはまったく反対な方向の感情が、みさおの中を支配していく

(……くそ! 復讐なんて、何を考えてるんだ私は!)

彼女は首を振り、正気を取り戻す

(そんなの、ちびっこが望んでるわけないじゃないか! 私がやろうとしてた事はただの自己満足だ!)

気持ちを落ち着かせると、みさおはまたもこなたを見やる

「……お?」

その時、血液により紅く染まる壁に色が違う部分があることを発見した
よく見ると、自分とあやのとの部屋にあったような穴が、この部屋にも見つかった

(ここにもあるのかよ……しかも、反対側にまで……)

振り向くと、そっちにも穴があることを発見
なぜここの壁にはたくさん穴が開いているのか疑問に思いながら、こなたの方へ首を戻す
そういえば、この壁の向こうはつかさの部屋だ。覗いて様子を伺おうとした時――

(……ん……?)

みさおは何かを見つけた
その穴にはこなたの血液が飛び散っていたが、なぜか線のような跡が付いている

(なんだ、これ……?)

詳しく見てみようと思ったが、穴の向こうのドアを開ける人影を見て中断した

「おい」
「ひゃわっ!?」

『こなたの部屋』から出てきた彼女に、つかさは驚いた

「あ、く、日下部さん……こなちゃんの部屋から出てきたから、こなちゃんのユーレイかと……」
「だったらドアを通り抜けるんじゃね?」
「あ、そっか……」

てへへ、と頬を掻くつかさ。どうやらもう大丈夫なようだ、みさおはホッとした

「どこに行くつもりだったんだ? 犯人が誰だかわからないんだから、あまり出歩くなよ?」
「う、うん、ごめんなさい……ちょっとトイレに行こうと……」

トイレくらいならいいか、とみさおは思ったが、つかさはこの中で一番か弱い
もし犯人に襲われたら、抵抗できずにやられてしまう可能性が高い
しかも犯人は顔見知り、一切疑わないまま殺されてしまうかもしれない

「よし、私も一緒に行くよ」
「え、でもトイレは一部屋しか……」
「違う違う! 念のための護衛だ!」
「あ、そっか。てへへ……」

つかさのボケが、みさおには有り難かった
少し曇っていた心の中も、今は晴れ間を見せている

「よし。じゃ、行くか」
「うん!」

二人は廊下を歩く。やはり一人より二人の方がいい、そう感じながら

「……え……?」
「あ……あの人は……!?」

階段を降りようとした時、階下に血まみれの女性を発見した
あの髪は、あの服は、あのカチューシャは、間違いない!!

「あやの!!!」

みさおは急いで階段を降り、彼女の――峰岸あやのの身体を抱き上げる

「あやの! あやの!!」

その問いに返事はなかった。彼女の瞳に、みさおの姿が映ることは、もうない

「うう……あやの……」
「峰岸……さん……」

追い付いたつかさは、彼女の惨状を見て床に崩れ落ちた

彼女も、こなたと同じだ。生きていれば、明るい人生が待っているはずだった
それが、一瞬にして壊されたのだ

「うああああああああ!!!!!」

 

 

(……これで二人目……三人目は誰になるかな……?)

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