ID:x74x2QDO氏:此方に残る彼方の心

「あんた本当にお母さんに似てるわね」
「ん? そだねー」

泉家に泊まることになっている柊かがみ。アルバムを見ながら泉こなたに言った。
当の本人はゲームボーイという大分懐かしいゲームをしていた。ちなみにソフトの発売年月日は1990年、某怪盗三世のゲームである。

「でさー、見てて思ったんだけど……」
「ん?」

かがみの質問にも全く動じず、放っておくといつまでも無限増殖する敵を避けながら宝箱を目指す。

「あんたとかなたさんが写ってる写真、なんで一枚もないの?」
「!!」

その言葉を聞いた瞬間、あろうことか無限増殖する敵に自ら突っ込み、ゲームオーバーの音楽が部屋に響いた。

「こなた?」
「……私も……気になってるんだよね……」

ゲームの電源を切り、かがみの方に振り返る。
その瞳は、悲しみで微妙に濡れていた。

「お母さんが死んだの、私が一才の時だって、お父さんは言ってた」
「一才……?」
「一年も時間があるなら、私とお母さんの写真を撮っててくれても良かったのに……なんで一枚も撮っててくれなかったのさ……」

こなたの身体が小刻みに震えているのを、その瞳から涙が溢れだしていることを、かがみは見逃さなかった。
こんな姿は今まで見たことがない。ましてや、こなたが泣くなんて、あり得ないことだと思っていた。
でも、こなたは普通の女の子。母親の愛情を知らずに育った、不幸な女の子……。
気が付いたらかがみは、こなたの身体を抱き締めていた。

「か、かがみ……」
「泣くんなら、思い切り泣いていいわよ。こなたは我慢し過ぎみたいだしね」
「あ……ありがとう……かがみ……」

しばらく、こなたの嗚咽が部屋中に響いていた。

 

 

その夜、トイレに目が覚めたかがみ。こなたを起こさないようにゆっくりと階段を降りる。
そしてその帰り道、かがみはある部屋の明かりがついていることに気が付いた。
この部屋は確か、そうじろうの書斎だったはず。ドアを開けると、そうじろうは机に突っ伏したまま眠っている。

「おじさん、起きてくださーい。ここで寝てると風邪引いちゃいますよー」

身体を何度か揺さ振るものの、まったく起きる気配がない。
ふと、机の上にあるノートを見つけた。
ノートそのものはいくらかあったが、他のものとは色が違う、古ぼけたノート。かがみに見せている表紙には、何も書かれていない。
それに手を伸ばし、勝手に見るのはまずいと手を引っ込め、結局は手にとってしまった。
パラパラと捲っていく。どうやらそれは昔の日記のようで、かなたとそうじろうの思い出が書かれていた。
読み耽っている自分に気付き、かがみは「あと1ページだけ」と、ページを捲った。

「……は……!?」


前のページから数ヶ月ほど日にちが経った「あと1ページ」に書かれていた内容は、あまりにも衝撃的なものだった。

「な、なによこれ……!? こんなこと、あるの……!?」
「う……ううん……」

そうじろうの声を聞いた瞬間、ノートを机の上にブン投げた。

「あ、かがみちゃん。なんで俺の部屋に?」
「は、はい! あ、あの、明かりがついていたから、起きてるのかな~って……」
「そうか。ありがとね、起こしてくれて」
「じゃ、じゃあ、私は部屋に戻りますね!!」


挙動不審なかがみの態度が気になり、引き止めようとしたが、かがみはそそくさと出ていってしまった。

「どうしたんだろう……かがみちゃん……ん……?」

ふと机に目が行く。そこにあった本は、『裏表紙』をそうじろうに見せていた。

「……そうか……読んじゃったのか……」

 

 

翌朝、かがみはこなたを連れて書斎に入った。

「かがみ、何があるかだけ教えてよ」
「ダメよ! あんた言ったって信じないじゃない! 私だって、信じたくないのに!」

すごい形相で机をあさるかがみに若干の恐怖を覚えながらも、こなたは言われた通りに待つ。

「……ない! ない! なんで!? 昨日はここにあったのに!」
「探してるものはこれかい? かがみちゃん」

突然聞こえた声に驚き、二人は振り返る。
そこには、普段では(かがみには)考えられないほど真剣な顔で立つそうじろうの姿があった。
その右手には、昨日かがみが読んでいた、古ぼけた日記が。

「お父……さん?」
「す、すみません! 私……!」
「いや、いいんだよ。遅かれ早かれ、こなたに言うつもりだったからな」

そうじろうは右手に持つ日記をこなたに渡す。

「いいか、こなた。そこに書かれていることは現実なんだ。信じられないかもしれないが……読んでくれ」
「う……うん……」

今までにない展開に戸惑いながらも、こなたはその日記のページを捲っていく。

「129ページに、私達が言ってることが書かれてるわ」
「えと……ここだね」

かがみに言われた通り、129ページを開いてみる。

「……え……?」

しばらく読んだ後、こなたは驚きのあまり、日記を落としてしまった。
その日記の、129ページに書かれていたこととは――

 

 

○月×日
医者が手を上げてから一週間が経った。この日記を書いているうちにも、かなたは衰弱していっている。
何も言わず、何も出来ず、ただベッドで眠り続けるかなた……どうせ死ぬのなら、俺は最後であがいてみせる。
今、俺の左手には、知り合いから手に入れた薬をいろいろと調合した、自作の薬がある。
これが効くかはわからないし、もしかしたら、これが原因で命を落とすかもしれない。
だけど、何も出来ずに眠り続けるかなたをただ見ていることしかできないなんて……俺にはできない。
治ったら儲け物。治らなかったとしても、ただ死期が早まっただけだ。
俺は明日、早速かなたに薬を飲ませるつもりだ。この日記も、今日で最後かな……

○月△日
トンデモナイ出来事が起きた。今朝かなたに薬を飲ませたら、みるみるうちに身体が小さくなり、一歳くらいの姿にまで戻ってしまった。
最初はとても戸惑ったが、泣き声をあげる赤ん坊かなたを見て気付いた。自然の摂理に反してはいるが、かなたは結局、生き残ったのだと。
俺はこいつを――かなたを新しく育てることにする。俺とかなたの子供として。
名前は……そうだな、『今、ここにいるかなた』からとって『こなた』にしよう。
この日記は、今日で完全に止めることにする。この日記は、俺とかなたの日記なんだから。
最後に……さようなら、かなた。そしていらっしゃい、こなた……

 

 

「う……うそ、でしょ……? 私が……お母さん……泉、かなたなの……?」

今にも泣きそうなこなた。それを見て、そうじろうを視線を下げた。

「嘘……嘘だよね……? 私とお父さん、ちゃんと血が繋がってるよね!?」
「……血液検索をすればわかるが……俺達の血は……繋がってない……」
「そ……そんな……」
「すまない……こなた……いや、『かなた』……」

その瞬間、こなたの中で何かが弾けた。

「違う! 私はお母さんじゃない! 私はお母さんとお父さんの子供なんだ!! 私は……私は……泉こなただッ!!!!」
「こなた!?」

こなたは叫びながら、部屋を、家を飛び出した。

 

 

「はぁ……はぁ……ち、違う……私は……かなたじゃないもん……」

こなたは町の方まで走ってきた。あまりのショックで幼児退行化している。

だんだん、考えるのが面倒になってきた。自分がかなただろうと、こなただろうと、もうどうでもいい。
目の前の車道を走る車を見て、こなたは思った。

死のう。

本当に自分がかなただったとしても、どうせあの時死んだはずの命なのだ。ここに自分がいるのはおかしいこと。このまま生きていくのも、嫌になっていた。
ちょうどいいところに、四トントラックが走ってきた。信号は、赤。
こなたが車道に飛び出した、その時――

「こなたーーーー!!」
「!」

かがみが自分の方に突っ込んできた。ぶつかる直前にこなたの腕を引っ張って歩道まで戻す。

「はあ……はあ……」
「かがみ……」

かがみは肩に手を置こうとするこなたをキッと睨み、こなたの右頬をひっぱたいた。

「バカ!! なんてことしてんのよ!! あんたが死んだら私達が悲しむことを考えたの!?」

自分の右頬に手を当てたまま、呆然とかがみを見つめる。

「でも……私は、こなたじゃないんだよ……?」
「それが何よ!? 今、私の目の前にいる人間は誰!? 身体や血は確かにかなたさんのかもしれない! けど、今のあんたは、泉こなたでしょ!?」

かがみの言う通りだった。
自分は今まで、泉こなたとして生活してきた。身体はかなたのものかもしれないが、中身までかなたというわけではない。
そうじろうとの生活も、かがみ達との生活も……全て、泉こなたが送ってきたことなのだ。

「あんたが誰だろうと……あんたがあんたであることに変わりはないのよ。だから……死なないで……」

我慢していたのだろう、かがみは涙を流しながら呟いた。
それを見たこなたは、かがみを優しく抱き締めた。

「ごめんね、かがみ。私は、私でいいんだよね」
「そう、よ……あんたは……あんたでいいんだから……」
「うん、私は私……ありがとう、かがみ……」

こなたの瞳からも涙が流れだす。
そして、決意した。自分は、自分らしく生きていこうと……

 

 

「じゃ、お父さん。行ってくるね」
「おう。気を付けてな」

翌朝。昨日の出来事が嘘だったかのように上機嫌なこなたは、玄関先でそうじろうに言った。
自分がなんであろうとも、自分らしく生きていく。なぜなら自分は、全てがかなたではないのだから。

「あ、そだ」
「んう?」

靴を履き終えたこなたは振り返り――

 

(少しだけ思い出した……私の、『泉かなた』としての記憶……)

 

そうじろうの頬に、優しくキスをした。

「な、ななななな……!?」

戸惑うそうじろうをよそに玄関のドアをあける。
そして再び振り返り、優しい笑顔で言った。

「それじゃー行ってくるね! そう君!」

言い方はこなたのまま。しかし、その名前の呼び方はかなたのもの。
それは、娘であり、妻である自分ができる――
最大の、恩返しであった。


「……ひゃっほーい!!」
「もう……お父さんてば……ハッピーエンドで終わらせてよ……///」

そうじろうの歓喜に満ちた声を聞きながら顔を紅くするこなただった。

「まあ、それが……」

 

――そう君らしいところなんだけどね――

 

Fin

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