ID:qGy. > 3k0氏:身長こんぷれっくす

むぅ。
全校生徒の集う体育館。小さくうなる少女の声。
出席番号順に整列するため割と先頭の方にいる彼女だが、その姿を前から垣間見ることは出来ない。

要因は、目の前の人間だった。標準より少し高めの人間であっても、背丈が142センチしかない彼女にとってそれは脅威。
前が見えず、あるのは真っ白な制服の後姿だけ。
こなたにとってそれは何よりも退屈なことだった。前の壇上で表彰を受けているのが知り合いの友達であれば尚のこと。


「お陰でちっともみゆきさんの晴れ姿が見れませんでしたよ。全く」
「い、いえ・・・」

腕を組み、プンプンと不機嫌そうにして自分の席の椅子に腰掛ける彼女。
横には必死でなだめようとするみゆきの姿。

「最近読んでた小説なんだけど、これなんかアンタにピッタリじゃない?」

みゆきの後ろから、2つの人影。
同じくこなたがいつも行動を共にしている、柊姉妹の姿だ。

「えぇー、小説ぅ?」
「まぁまぁ、タイトルだけでも見てみなって」

嫌々ながらも、親友の勧めということもあってその本を受け取る。
表彰式の後に訪れた校長の長話により発生した眠気に目をこすりながら、おずおずと表紙を確認。

タイトル、“蹴りたい背中”。

「実体験を元に書かれたベストセラーよ。これを後ろから読んで前の人を威圧すればきっと目の前の相手も空気を読んで‥‥」

「いや、それって明らかに嫌がらせだよね?解決法になってないし」
「じゃあいっそ本当に蹴っちゃえば?こなたって格闘技習ってたから蹴りは得意分野でしょ?」

頭から二つぶら下げたポニーテールを振り回して、キックとパンチのポージングをするかがみ。横からは何ともいえない生ぬるい視線。

「具体的な解決策ありがと。でも新たな問題が発生しそうだからやめとく。てゆーか三学期の始業式という卒業間近の同級生に何でそういうアイデアを持ち出すかなぁ」
「まぁまぁ、こなた。ワンモアタイムって言葉もあるじゃない?」
「知ってるけどそれ留年しろって意味だよね」

目の前にあった机にへばりついて、気だるそうにため息をつく。
どの道1年間ずっと耐えてきたことだし、前の女の子とも仲が悪いわけじゃない。あと数回のことだし我慢するかと眠気に身をゆだねた。

「そうねぇ‥‥つかさは何かいいアイデアとかない?」
「うーん‥‥えっと、シークレットブーツとかなかった?『厚底20センチ』とか、何かの雑誌でチラッと見ただけなんだけど・・・」
「それって全然シークレットになってないと思うよつかさ。私Mr.ビーンじゃないし」

突然椅子から立ち上がると、奇怪な動きを周りの3人に見せ付ける。
今度はこなたに生ぬるい視線の数々が集まった。

「えっと、確かあの方は履いていらっしゃらなかったと思いますよ」
「えぇっ、そうなのみゆきさんっ?!」
「てゆーかどうやったらそういう勘違いをするんだお前は」
「いやぁ、何となくだけどさ。でも女の子のシークレットブーツっていうのも新たな萌え要素かもしれないな‥‥」
「結局それかい」

一通りの動作を終えると、また元通りにだらしなく机に倒れこむ。
ふあぁ、と大あくびを一つ。
変なところでノってしまうのは昔から自分の悪い癖だった。少し醒めた眠気を再び呼び起こそうと目をつむる。

「こう、横に少しズレてみてはいかがでしょうか?その程度なら黒井先生は見逃してくれると思いますよ」
「なるほど、さすがゆきちゃんだね!」
「うーん、うちの担任の桜庭先生は、普段だらしない癖に変なところにこだわるタイプだから駄目だと思うけど‥‥黒井先生ならきっと大丈夫よ」
「はい、先生は心が広いといいますか、その‥‥たまにちょっと大雑把というか」
「あはは、さすがO型だよね」
「へぇ、黒井先生って血液型O型だったんだ。でもみゆきとは凄い違いよね」
「い、いえ‥‥そんな」
「ホントだねっ!先生は活発でいつも忙しそう~ってイメージなのに、ゆきちゃんは落ち着いててのほほんとして女らしい、って感じだし」
「まぁあの先生にそんなのを求めちゃ駄目なんじゃない?」
「ちなみに今、みんなの後ろにいるんだけどね」

三つの口がそろって「えっ‥‥」と後ろを振り向いたのもつかの間。そこには鬼神の如きオーラを発しながら唇を噛む黒井先生本人の姿があった。
かがみの左肩に置かれた黒井先生の手が、次第にアイアンクローへと変化していく。それはさしずめ地獄から伸びる死者の使い。
しかし振り払うことは叶わない。ただ無抵抗に受け続けるだけ。
地獄への片道切符は今となってはもう、返品不可なのだから。



三人の友人と先生がいなくなった教室で、ソロ狩りのテーマ(こなた命名)を口ずさむ。満足するまで歌い終わったところで、今度こそ眠りに落ちようと身を机に預けた。

「泉さん」

あまり聞きなれない声。
目をこすりながら前を見ると、そこには背の高い、始業式などの体育館の集まりでいつもこなたの前にいる女の子。
言ってみれば、この女の子さえどうにか出来ればこなたの悩みは解決するのだ。

「さっきの話、途中から聞いてたんだけど‥‥それなら今度から交代してみる?」
「ぇ‥‥いいの?」
「うん、多分大丈夫だと思うよ。黒井先生も泉さんの身長のことは良く分かってるだろうし‥‥あれ、そういえば先生は?」
「あぁ、先生なら‥‥きっと今は秘奥義でも発動してるんじゃないかな?」
「ふーん・・・?」

かくして、こなたの積年(というか月?)の悩みは解決した。
しかしその為に支払われた代償は‥‥‥余りにも、大きすぎる。



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