ID:WVqJ69WNO氏:らき☆すた殺人事件 ~嵐の夜の惨劇~

FILE.1

「三年生になる前にさ、みんなで旅行とかに行こうよ!」

そう提案したのは泉こなただった。三年生になってからだと、受験勉強で忙しくなるだろうから、今のうちにということだった

「そうねぇ。でもこなたは来年も勉強しなさそう」
「うっ!!」
「でも、いいねぇ。行こうよ!」
「そうですね、時間は今しかありませんもんね」

満場一致で決定、加えて柊かがみのクラスの友人二人を誘い、かがみの妹、柊つかさの提案で山奥の片田舎までやってきた

……のだが

「もー!! なんだってこう嵐に会っちゃうワケ!?」
「せっかくの旅行が台無しだよ~!!」

山道を歩いている途中に嵐に遭遇、彼女達は雨宿りできる場所を求めて走っていた

「あ、あそこ!! 家みたいなのがあるよ!」

つかさの指差す方には、木造のロッジのような家が建っていた
明かりは見えないので誰も住んでいないと見え、これ幸いとばかりに建物に飛び込んだ

「うひゃ~、びしょ濡れだゼ~!」
「うう……気持ち悪いわ……お風呂あるかしら……」

そう洩らすのは柊かがみの親友、日下部みさおと峰岸あやのだ
二人の問には答えず、かがみは中を見渡す

「……誰かの所有する別荘かしら……」
「だろうね。場所が場所だけに避暑地か何かかな?」

続いてこなたが呟く。そしていつのまにか二階にあがっていた高良みゆきが、

「皆さん! 部屋はちょうど六部屋あるみたいです!」
「とりあえず、一人一部屋ずつ使えるわね」
「ちょ、ちょっと待ってよぉ! 本当にここに泊まるの!?」

つかさがそう声をあげる。怖い場所がキライなつかさは、得体の知れないこの家を恐がっているようだ

「その通りよ。イヤなら外で野宿してなさい」
「うう……そっちの方が怖いよ……」

つかさもしぶしぶ賛同し、とりあえず部屋決めとなった

入り口から見て左奥からみさお、あやの、こなた、つかさの順で、みさおの正面の部屋にかがみが、つかさの正面の部屋にみゆきが入ることとなった

「うっわ! 下着までびしょ濡れかよ……明日までゼッテー乾かないな……」

みさおは自室でそうぼやいていた。まあ、明日が晴れるかどうかもわからないのだが……
着替えるのはお風呂の後にして、自室のストーブを付ける。幸い電気はちゃんと通っている

「みさちゃん」

突然、あやのの声が聞こえた、びっくりして辺りを見回すと……

「こっちこっち」
「あらら、穴が開いてんじゃん」

隣の部屋との壁に小さな穴が開いていて、その穴からあやのが喋りかけてきたのだ

「よく見ると穴ばっかじゃん。覗かれたらまずいよなー」
「でも、今は女の子しかいないからいいじゃない」
「まあ、そうだけどさ」

『みんなー! お風呂沸いたよー!』

聞こえてきたこなたの声。二人は穴からお互いを見て、

「まずはお風呂の順番を決めないとね」
「ああ、みんなを呼ぼうぜ!」

二人は同時に部屋から飛び出した





(さあ……始めようか……)

その頃、部屋の一室で一人の少女が不気味な笑みを浮かべていた――

FILE.2

「じゃ、最初はあやのさんね」
「んで、次が高良」
「その次は柊ちゃん」
「次は、日下部さんですね」
「つかさが五番目で」
「最後がこなちゃんだね」

お風呂に入る順番は決まった。遅い人達は自分の部屋で待機だ

「あ~、持ってきたゲーム壊れてないかな~」
「あんたねぇ、こんなところまでゲーム持ってきたわけ?」
「あはは、アレがないと、ね」
「まあ、こなたらしいけどね」


・・・


「ふ~、さっぱりだゼ」

しばらくして、お風呂から上がったみさおは髪を拭きながら自分の部屋とは反対方向へ歩いていく。次にお風呂に入るつかさを呼ぶためだ

つかさの部屋のドアをノックする

「つかさ~、お風呂上がったゼ~」
「うん、わかった~」

つかさは着替えやタオルを持って出てきた

「ちびっこにも教えとけよ? 私もたまにゲームするんだけど、途中で終われなくなるんだよな」
「うんうん、それすっごくわかるよ~」

みさおの言葉に首を何度も縦に振る。そして廊下を歩いていくみさおの後ろでノックをする音と、

「こなちゃ~ん、お風呂次だからね~」

という声が聞こえた


・・・


みさおは自分の部屋で考え込んでいた

(なんだ……すごく嫌な予感がする……なんでだ……?)

なにか、とんでもないことが起きそうな、そんな予感が……

「日下部さん」

不意に、ドアをノックする音と声がした。ドアを開けると、つかさが立っていた

「んあ? どした?」
「あのね、こなちゃんの部屋が開かないの。声を掛けても返事がないし……」

そのつかさは、なぜか怖そうにしていた

「もう寝ちまったんじゃねぇの?」
「だって、まだ8時だよ? いくらなんでも早すぎるよ……もしかして、こなちゃんになにかあったんじゃ……」

つかさの怯え方が尋常じゃないことと、さっき自分が感じた嫌な予感もある
みさおはみんなを集め、こなたの部屋の前に向かった

「とりあえず、ブッ壊すか?」
「うっわ! いきなりだな……」
「でも、妹ちゃんが何回呼んでも返事はなかったのよね?」
「う、うん……こなちゃんがこんなに早く寝るなんて今までなかったから……」
「先ほどの大雨で風邪を引いた可能性もありますね。お風呂の順番は最後でしたし……」

とりあえず無理に開ける派は四人。かがみもしぶしぶ了承した

「んじゃ、壊すゼ……せーの!!」

思い切りドアノブを引くみさお。すると、わりと簡単に開いた

『!!!』

中の光景を見た五人は、硬直した

「そ……そんな……」

中にあった『ソレ』が、五人の思考を停止させた

「う……ウソだろ……?」

その瞳からは、一切の輝きも感じられない

「こ……こな……ちゃ……」
「つ、つかささん!!」

五人が見たのは、首元に突き立てられたナイフから流れ出る、おびただしい量の血液で自身を紅く染め上げた、泉こなたの変わり果てた姿だった……

「こ……こなたーーーーー!!!!!」

不気味なほどに静まり返った屋敷に、柊かがみの悲痛な叫びだけがむなしく響いていた……




(ふふふ……まだまだこれから……)




FILE.3

「ひっ……く……ううぅ……ああ……」

大広間、かがみの啜り泣く声だけが辺りを埋め尽くしていた
つかさは気を失い、現在は部屋で眠っている
他の人達――みゆき、みさお、あやのは、声を発そうとしない。……いや、発することが出来ないのだ

「うう……こなたぁ……なんで、なんでぇ……」

かがみに掛けるべき言葉が見つからない。下手な事を言えば、かがみが余計に傷つくだけだ

「こなたぁ……なんで自殺なんか、したの、よぉ……」
「……なあ、柊……」

突然、黙り込んでいたみさおが喋りだした

「ちびっこは、自殺したんじゃないんじゃないか?」
「……え……?」

かがみは、間の抜けた顔でみさおを見返す

「だってさ、この旅行を計画したのってちびっこだろ? これから死のうってヤツがこんな旅行を計画すると思うか?」
「確かにそうよね……自殺するなら普通、旅行が終わってからするんじゃないかしら……みんなとの楽しい思い出を作ってから……」
「……では泉さんは、何者かに殺害された可能性が高いということですか……? しかも、密室だった、あの部屋で……」
「だとしても!!」

かがみが声を荒げる。泣きすぎて充血した目が余計に恐怖をそそる

「だとしても、この中にこなたを殺した犯人がいるってコトでしょ!? 嫌よそんなの! 誰かが犯人なんて信じたくない! 犯人探しなら勝手にやってちょうだい!!」

確かにそうだ。ここまで騒いでも誰も出てこないということは、この屋敷には今や五人しか存在しないのだ
だとしたら、もう一人友人を失うことになる。それが、かがみは嫌だったのだ

「ダメ、だよ……お姉ちゃん……」

不意に、つかさが現れた。おぼつかない足取りでかがみに向かって歩いてくる

「つかささん! まだ寝ていないと!」
「寝てられるわけ、ないよ……こなちゃんは……殺されたんでしょ……?」

が、やはり大丈夫ではない模様。倒れそうになったところをあやのが受けとめる

「このまま、犯人が見つからなかったら……こなちゃんが可哀想だよ……。みんなで犯人を見つけて……こなちゃんを、殺した理由、を……」

あやのの腕の中で、つかさはまたも気を失った
しかし、つかさの言葉で、かがみの目に生気が戻ってきた

「……そうよね、つかさの言う通りだわ」
「かがみさん……」
「このまま犯人がわからないままだと、こなたが報われないわよね……!」

犯人は今、この中で嘘をついている。みんなと同じように哀しんではいるが、心の中では笑っているにちがいない!

「こなたを殺した犯人を見つけだす! それが、私があいつにしてやれる、最後の恩返しよ!」

「……ああ、そうだな」

みさおがゆっくり立ち上がり、かがみに近づいていく

「このまま犯人を野放しにするのは絶対にダメだ。ちびっこの無念を、晴らしてやろうぜ」
「ええ!」


・・・


「妹ちゃんは、眠らせてきたわ」

二階から戻ってきたあやのが伝える

「高良~、そっちはどうだ?」
「……ダメです、やはり電話線が切られてるようです」
「まあ、無断でこの家を使ってる以上、電話したら私達全員捕まるわよね」

ケータイはみんな圏外、屋敷にあった電話を使おうと思ったのだが、案の定切られていた

「仕方ない、私達で犯人を捜すしかないな」
「……この中に、犯人がいるのよね……」

かがみがボソッと呟いた。その場の全員が無言になる

「ま、まずは皆さんのアリバイを聞かないと始まりませんね……」
「とりあえず……つかさは間違いなく白だな」
「なんで?」
「あいつはお風呂に入る前にちびっこと話してた。つまり、この時ちびっこはまだ生きていた。ということは、お風呂に入ってたつかさはまず犯人じゃない。お風呂上がりの犯行でもない。ちゃんと体は温かかったしな」


みさおは三人を見回し、

「死亡推定時刻はつかさがお風呂に入ってる時だ。はっきり言うが、アリバイなんかつかさ以外ねぇだろ?」

みさおの問いに、誰も反論ができない。困ったように頭をかき、

「……埒があかねぇや。とにかく、ちびっこの部屋に行って証拠を見つけないとな。誰か、やれる奴はいるか?」

その問いに、だれも答えようとはしない
あの部屋にはまだ、こなたの死体が転がっているのだ。入りたくないのも頷ける

「……じゃあ、私がちびっこの部屋を調べてる。三人は自分の部屋で待機してくれ。誰が犯人かわからないんだ、絶対に部屋から出るんじゃねぇぞ!」

大きな声で言い放ち、自室に戻るよう促す
この状況で、一番まともでいるのは自分だ。自分がなんとかしなければ……!


・・・


「うっ!! 気持ち悪ぃ……」

血液が異臭を放ち、みさおは思わず鼻を覆った
おびただしい量の血液が、部屋を、こなたそのものを赤く染め上げている
この光景を見てもなお平気でいられる人間がいるはずない

「…………」

彼女はこなたの――こなただったモノの横にしゃがみ、静かに手を合わせる

(ちびっこ……お前を殺した犯人、絶対に見つけだしてやるからな……)

立ち上がると、こなたの首に刺さっているナイフに視線を向ける

「ちびっこは、これで殺されたのは間違いない。即死だったろうな……」

そして彼女は証拠探しを開始した


・・・


「ちょっとくらいなら……いいよね……」

あやのはドアからそっと頭を出し、辺りを見回す
誰もいないことを確認すると、ゆっくりと一階に降りていく
そして数分後、水の流れる音とともにあやのがトイレからでてきた

「……んもう、なんで一階にしかトイレがないのかしら?」

ハンカチで手を拭きながらそうぼやく

「さて、早く戻らなくっちゃ……」

彼女は急いで階段を登ろうとする。が……

「?」

身体がなんらかの衝撃を受けた
一瞬、何が起きたのかわからなかったが、自分の腹部を見て、全てを理解した

「え……うそ……?」

腹部に刺さっていたのは、ボウガンの矢
おそらく、二階から撃たれたのだろう。さらに二発目、三発目が彼女の胸を貫き、力なく倒れこむ
飛び散る血液、霞む視界。その全てが、自分の今後を予見させる

(そん、な……私、ここで……死んじゃう、の……?)

動こうにも、身体が言うことを聞かない。かろうじて指先が動く程度だ

(――!!)

二階から、ある人物が『ボウガンを持ったまま』降りてきた

(う……うそ……? な、んで……『あなた』が……?)

あやのにボウガンを向け、背筋が凍り付くような、不気味な笑みを浮かべた

(い……いやぁ……私、まだ……死にたく……な……)


・・・


「くっそ……」

みさおは苛立っていた
あれから結構時間は経った。しかし、証拠となり得るものが何一つでてこない
ナイフに犯人の指紋が付いている可能性はあるが、調べようがない
こなたの身体をどけてダイイングメッセージの類を探すが、即死なのだ。あるわけがない

「……!」

一瞬ではあったが、こなたと目が合ってしまった
初めて会った時は綺麗だった瞳も、今ではひどいものだ
瞳だけではない。彼女の肢体も、髪も、全てが見るに堪えない

「…………」

そんな彼女を見ているうちに、みさおの中に、どす黒い感情が生まれた
先ほどまでとはまったく反対な方向の感情が、みさおの中を支配していく

(……くそ! 復讐なんて、何を考えてるんだ私は!)

彼女は首を振り、正気を取り戻す

(そんなの、ちびっこが望んでるわけないじゃないか! 私がやろうとしてた事はただの自己満足だ!)

気持ちを落ち着かせると、みさおはまたもこなたを見やる

「……お?」

その時、血液により紅く染まる壁に色が違う部分があることを発見した
よく見ると、自分とあやのとの部屋にあったような穴が、この部屋にも見つかった

(ここにもあるのかよ……しかも、反対側にまで……)

振り向くと、そっちにも穴があることを発見
なぜここの壁にはたくさん穴が開いているのか疑問に思いながら、こなたの方へ首を戻す
そういえば、この壁の向こうはつかさの部屋だ。覗いて様子を伺おうとした時――

(……ん……?)

みさおは何かを見つけた
その穴にはこなたの血液が飛び散っていたが、なぜか線のような跡が付いている

(なんだ、これ……?)

詳しく見てみようと思ったが、穴の向こうのドアを開ける人影を見て中断した

「おい」
「ひゃわっ!?」

『こなたの部屋』から出てきた彼女に、つかさは驚いた

「あ、く、日下部さん……こなちゃんの部屋から出てきたから、こなちゃんのユーレイかと……」
「だったらドアを通り抜けるんじゃね?」
「あ、そっか……」

てへへ、と頬を掻くつかさ。どうやらもう大丈夫なようだ、みさおはホッとした

「どこに行くつもりだったんだ? 犯人が誰だかわからないんだから、あまり出歩くなよ?」
「う、うん、ごめんなさい……ちょっとトイレに行こうと……」

トイレくらいならいいか、とみさおは思ったが、つかさはこの中で一番か弱い
もし犯人に襲われたら、抵抗できずにやられてしまう可能性が高い
しかも犯人は顔見知り、一切疑わないまま殺されてしまうかもしれない

「よし、私も一緒に行くよ」
「え、でもトイレは一部屋しか……」
「違う違う! 念のための護衛だ!」
「あ、そっか。てへへ……」

つかさのボケが、みさおには有り難かった
少し曇っていた心の中も、今は晴れ間を見せている

「よし。じゃ、行くか」
「うん!」

二人は廊下を歩く。やはり一人より二人の方がいい、そう感じながら

「……え……?」
「あ……あの人は……!?」

階段を降りようとした時、階下に血まみれの女性を発見した
あの髪は、あの服は、あのカチューシャは、間違いない!!

「あやの!!!」

みさおは急いで階段を降り、彼女の――峰岸あやのの身体を抱き上げる

「あやの! あやの!!」

その問いに返事はなかった。彼女の瞳に、みさおの姿が映ることは、もうない

「うう……あやの……」
「峰岸……さん……」

追い付いたつかさは、彼女の惨状を見て床に崩れ落ちた

彼女も、こなたと同じだ。生きていれば、明るい人生が待っているはずだった
それが、一瞬にして壊されたのだ

「うああああああああ!!!!!」





(……これで二人目……三人目は誰になるかな……?)





FILE.4

「ちょっと! 何よ今の叫び声は!」
「何かあったのですか!?」

みさおの声を聞きつけ、かがみとみゆきが飛んできた

「うっ!!」
「そ、そんな……峰岸さん、まで……」

あやのの惨状を見た二人は、思わず目を背けた

「く、日下部……」

そのあやのにすがり付くみさおに声を掛けようとしたとき、

「うあああああああああ!!」

みさおは叫びながら、階段を駆け上がっていった

「あ、ちょ、日下部!?」
「……そっとしておいてあげましょう。お二人は幼なじみだと言っていましたし……相当ショックを受けたのでしょうから……」


・・・


「ううう……うあああああ!!!」

その頃、日下部は自室でなにやら唸っていた。鬼のような形相で


あやのを殺されたことで、彼女の頭は怒りでいっぱいになっていた
犯人を見つけたら、殺す。あやのと、同じ苦しみを味わわせてやる。そういった感情が、彼女を支配していた
しかし、良心までは支配されていなかった。敵討ちなんて間違っている、という思いが、彼女を動かした
誰の干渉も受けないで、自分の気持ちを鎮めるために、自室に閉じこもったのだ

「……はぁ……はぁ……」

なんとか落ち着いたみさおは、汗でびっしょりの顔を拭いた
親友を殺される。それが、こんなにも辛いなんて、知らなかった

「……あやの……」

ベッドで仰向けになり、そっと目を閉じる。太陽のようなあやのの笑顔が、そこにはあった
だが、その笑顔はもう、二度と見ることはない。次に目を開けた時、瞳は怒りに燃えていた。ただし、先ほどとは反対の怒りだ

「そうだ……人殺しなんて、間違ってる……!! どんな理由があっても、人の未来を奪うなんて……そんなの……おかしいじゃないか!!」

みさおは拳を握り、決意する

「犯人は、私が絶対に見つけだす! ……そうだ、みんなの部屋を見せてもらおう! 何か手掛かりがあるかも!」

みさおがドアを開けようとした時、いきなりドアが開いておでこがぶつかった

「~~~!!」
「く、日下部!? ごめん!」

ドアを開けようとしたのはかがみだった。みさおは頭を押さえてしゃがみこんだまま動かない

「あ、あれ……? く、日下部……?」
「ぷ……く……あはは……」
「へ?」
「あっはははははははは!!」
「どわあぁ! 日下部が壊れたぁ!!」

みさおはしばらく笑い続けた。よくある光景に、張り詰めていた緊張の糸が切れたのだ

「ははは……柊、ありがとな。少し、頭が冷えたよ……」
「い、いや……そんな風には見えなかったんだけど……」

笑い終えたみさおはかがみの瞳を見つめる

「柊、もうちょっと待ってくれ。ちびっことあやのを殺した犯人、絶対に見つけるからな」

みさおのまっすぐな瞳を見て、かがみは頷いた

「そういや柊、なんのようだ?」
「あ、うん。話し合って決めたんだけど、みんなで広間にいるわ。お互いを監視できれば、それはそれで安心だもの」
「わかった。じゃあ、柊から二人に言っておいてくれ。みんなの部屋を調べたいから、勝手に入るぞって」
「わかったわ」


・・・


つかさの部屋――

「さて、まずはここからだな。……しっかし、隣であんなことがあって気が付かないモンなのか?」

ぶつくさ独り言を言いながら、物色を開始する

「まあ柊の話だと、アイツ抜けてるらしいし……ん?」

部屋の隅に赤い箱を発見、開けてみるとスパナやハンマー、どうやら工具箱のようだ

「なんでこんなとこに……って、これはテグスか?」


・・・


みゆきの部屋――

「さて、次は高良の部屋だな」

着くや否や、早速部屋を調べ始める

「っても、そんなホイホイ証拠が出るワケが……」

そう言いながらベッドの下を覗き込んだ時、部屋の光に反射して光を放つものが見えた。引っ張りだしてみると、

「! これは……ボーガンじゃん!!」

そのボーガンを持ったままドアに目をやる

「高良……まさか……」


・・・


かがみの部屋――

「んだよ……ここにもあんのか……」

かがみの部屋に着いて真っ先に調べたのはベッドの下だった
すると、なんとそこからもボーガンが見つかったのだ

「つーことは、ボーガンは全部の部屋に備え付けられてるのかよ……」

嘆息しながらも証拠となり得るものを探す。が、最初のボーガン以外に見つからなかった


・・・


「……さて、結局戻って来ちまったか……」

みさおはこなたの部屋に戻ってきた
部屋の穴に目をやる。飛び散ったこなたの血液に、何か紐のような跡が付いていた、あの穴である

「う~ん……多分こうしたんだろうけど、これなら犯人は誰でも……」

部屋の中を行ったり来たりして考える

「……ダメだ! 埒が開かねぇ!!」


気分転換も必要だ、みさおは窓を開けて外の空気を吸う。外はまだ薄暗く、何があるのかよくわからない
懐中電灯を地面に向けて照らすと、そこは白く覆われていた

「ん、いつの間にか雪が降ってたのか。気付かなかったゼ」

まだ四月上旬、しかもここは山奥だ。雪が降ってもおかしくはない
よく見てみると、木の右側に雪が集中している。ついさっきまでは吹雪いていたのだろう

「……ん? なんだありゃ?」

みさおが懐中電灯を向けた先には、黒光りする謎の物体。よく見ると、雪のなかにボーガンが埋まっていた

「ボーガン……? なんであんなところに……誰かが落としたのか……?」

前述したように、ここは山奥だ。漁師のような職業の人が無くしたとしてもおかしくはない

「……待てよ? それはあり得ない! ということは……!」

部屋を飛び出すと、また全員の部屋を調べ始めた
そして、最後に調べた自室から出てきたみさおはあごに手をやる

「外に捨てられたボーガン……穴の血にあった紐のような跡……そして……」

ぶつぶつと呟き、状況を整理していく

「ダメだ……あれがある限り、犯人とは言えな……?」

待てよ? と言って、みさおはこの屋敷に来てからの出来事を思い出す





「そうか……そういうことだったのか……!」

拳を握りしめ、階段を降りていく

「あ、日下部!!」
「どうでした? 」
「……ああ、バッチリだよ」
『!!』

日下部の言葉に、三人の顔が強張った

「で、では……」
「ああ。犯人も、密室殺人の謎もわかった」
「そ、それで、犯人は誰!?」

かがみがみさおに詰め寄った

「その前に、みんな、私が誰を差しても、驚くなよ」
三人の唾を飲み込む音が、広間の静寂を切り裂く

「ちびっこを、そして、あやのを殺した犯人……それは、アンタだよ!!!」





FILE.5

「えっ!?」
「そ、そんな……!?」

みさおの指差した人物を見て、二人は驚いた

「……!!」
「ちびっこを、あやのを殺した犯人はアンタだ! 柊つかさ!!」

差された本人、柊つかさは数瞬、硬直し、

「じょ、冗談はやめてよ! 日下部さん!」
「冗談なんかじゃない。私はいたって真剣だ」

つかさのこめかみがピクリと動く

「で、でも、日下部さん自分で言ってたじゃない! 私は犯人じゃないって!」
「そうよ!」

つかさの言葉に反応し、かがみもみさおに反論する

「私だって聞いたわ! こなたが殺されたのは、つかさがお風呂に入ってる時だって、アンタ言ってたじゃない!」
「わ、私も確かに聞きました!!」

みゆきも加わり、みさおは完全に孤立してしまった
しかし、その瞳は死んではいなかった

「……妙な話だな。その話をしてた時、つかさはその場にいなかったはずだぜ?」
「!!」
「その時は確か、つかさは部屋で眠ってたはずだよな。なんでその話を知ってるんだ? 気絶したふりをして、私達の話を二階からこっそり聞いてたんだろ?」

その言葉に、つかさは何も言い返さなかった。何も言い返さず、ただ立ち尽くしていた

「で、でも、つかさには、峰岸を殺す理由がないじゃない!!」

かがみの言う通り、ほんの数日前まで、あやのとつかさは会ったことすらなかった
昨日今日で恨みを持つようなハプニングなど、起きるはずがない

「これは私の推測だけど、あの時本当は、私が殺されるはずだったんだと思う」
「日下部が……?」
「ああ。二階でこっそり私達の話を聞いていたアンタは、私がちびっこの部屋を調べると言った時に相当焦ったはずだ。
だからアンタは、部屋の前で待機していたんだ。私が部屋から出てきた瞬間に殺せるよう、ボーガンを持って」
「……」

つかさはなおも、その場に立ち尽くしている。加えて、目の焦点が定まっていない。明らかに動揺している

「だが、そこであやのが出てきたんだ。多分、トイレに行くためにな。顔を見られたと思ったアンタは、トイレから出てきたあやのに向けて……」
「……で、でもまだ、私が、犯人だって、いう証拠が、ないよ? 全部、日下部さんの、推測だよ……」

恐怖か焦りか不安か、呂律が回らないようだ。言葉が途切れ途切れになる
だがみさおは、追撃の手を休めなかった

「証拠ならあるぜ」
「!!」
「とりあえずみんな、つかさの部屋に移動してくれ」

三人に背を向け、階段を上っていく
その後を追うように、かがみが、みゆきが、そしてつかさが階段を上る

「まず、密室殺人のトリックから説明しようか」

つかさの部屋の前で三人に振り返り、ドアノブに手を掛け、開く

「殺すのは、簡単だろう。二人は親友だったからな、油断しきったちびっこの首元めがけ、隠し持っていたナイフを刺した」
「う……」

こなたの変わり果てた姿を思い出したのか、かがみは反射的に口元を覆った

「そしてつかさ、アンタは頑丈な紐のようなものをちびっこの部屋の鍵に引っ掛けて、この穴からこっちの部屋に通した」
「穴……って?」
「そっち側の部屋にはないかもな。こっち側はそれぞれの部屋を隔ててる壁全部に穴があるんだ」

みさおは一つの穴を指差し、かがみにそれを見るよう促した
恐る恐る見てみると、飛び散った血液に残る線のような跡を見つけた

「その跡が、このトリックを使った証拠だ。自分の部屋に戻ったあと、この紐を引いて鍵を掛け、そして切った。残った紐は、私達がちびっこの死体を見て慌ててるうちに回収したんだろう」
「で、でも!! そんなテグスを使ったトリック、私がお風呂に入ってる間なら、だれでも出来たよ!?」
「いつお風呂からあがるかわからないのに、そんな危険を冒してまでつかさを犯人に仕立てあげる必要あるか?」
「でも!」
「……あら? ちょっと待ってください」

何かに気付いたのか、みゆきが突然、手を挙げた

「日下部さん、今までの推理でテグスなんて言葉、使いましたか?」
「いや? 覚えが無いけど?」
「!!」

つかさは拳を握りしめ、唇を噛み、ただ地面を見つめていた

「自爆、だな。誰がテグスを使ったトリックなんて言った?」
「……そ……それは……そ、そこの工具箱に、テグスが入ってたから、それを使ったのかな、って……」

つかさの言葉を無視するかのように、みさおは窓に向かって歩いていく

「そして、この窓の下に証拠がある。それが、アンタの一番の失敗だ」

窓を開け放ち、持っていた懐中電灯で地面を照らす

「雪……?」
「ああ、私もさっき気付いたよ。そしてアレを見てくれ」

みさおは地面に落ちていた、あのボーガンに懐中電灯を向ける

「あれは……ボーガン、ですか?」
「そうだ。護身用なのかは知らないけど、全部屋のベッドの下にあったよ」
「!!」

かがみは急いで部屋のベッドの下を覗き込む
が、そこには何も存在していなかった

「そう、そこには何もない。あやのを殺した後、外にぶん投げたんだ。全部の部屋にボーガンがあることも、もうこっち側の部屋には私とつかさしか残っていないことも知らず」

つかさは手で自分の胸を差し、言い返す

「だからって、私が捨てた証拠にはならないよ!」
「そうよ! 私達が来る前から落ちてたかもしれないじゃない?」
「残念だけど、それはないと思うぜ?」

今度は懐中電灯を林に向け、みゆきに尋ねた

「高良、こういった片方に雪がべっとり付いた木から天候とかわかるか?」
「あ、はい。おそらく、吹雪いていたと思います。風も強かったのでしょう。雪が強い風に乗って吹くため、片方に雪が集中したのでしょう」
「吹雪、ね。じゃあ、これを見て何か感じないか?」

再び懐中電灯を雪の上のボーガンに向けた
それを見て少し考え、そしてつぶやいた

「……かがみさんの意見は、通用しませんね。はじめから落ちていたなら、普通ボーガンは雪の下に埋まるはずです」
「あ!」
「……」
「そういうことだ」

みゆきまでも、疑いの眼差しでつかさを見始めた

「あやのの部屋からつかさの部屋の方に投げたってことも考えたけど、私はちびっこの部屋にいたんだ。私がそれを見る可能性を考えると、危険すぎる」
「で、でも! やっぱりつかさには無理よ!」
「……ところで柊、なんでさっきからつかさをかばってるんだ? 言っとくけど、『妹だから』なんて理由なら私は認めない。柊はただ、つかさが犯人だと認めたくないだけだろ!?」
「!!?」

ものすごい形相でかがみをにらみつける
同情だけで妹をかばうかがみに、相当の怒りを感じていた

「ち、違うわ! だってアンタ、言ってたじゃない! 『つかさがお風呂に入る前に、こなたと話してた』って!」
「そ、そうだよ」

横を見たかがみの背筋に悪寒が走った
つかさが、笑っている。ただその顔は、普段からは想像もできないほどドス黒いものだったのだ
そのつかさを、みさおはポケットに手を突っ込んだ状態でじっと見つめていた

「私は確かに、二階でみんなの話を聞いてたよ。それは認める。ただ私が行ったら、みんなが心配するだろうから降りなかっただけ
その時、日下部さんは確かにこう言ったんだよ? 『お風呂に入る前、私はこなちゃんと話していた』って」

みさおはポケットに手を突っ込んだまま目を閉じ、一言

「ああ、確かに言ったよ」
「でしょう!? その日下部さん自身の言葉が、私が犯人じゃない証拠じゃ……!」
「私はちびっこの声を聞いた憶えはないけどな!!」
「!!」

目を見開き、つかさをにらみつける
怯んだのか、つかさは身体を震わすも、まったく動くことができなかった

「どういうこと!?」
「人間の記憶っていうのは曖昧なんだよ、柊」

みさおは顔だけをこなたの部屋に向け、

「つかさがドアをノックした時、本当はちびっこの声は一切しなかったんだ。つまり、この時にちびっこが生きていたと言い切ることはできない。これでつかさのアリバイは崩れた」
「でも、日下部に聞こえなかっただけで、つかさには聞こえ……」
「もういいよ、お姉ちゃん」

声がした方向を見ると、つかさが地面に座り込んで、深いため息をついていた
そしてその行為は、その発言は、自分が犯人ですと言っているようなものだった

「日下部さんの推理は、全部当たってるよ。峰岸さんを殺した理由も」
「いいのか? まだ柊がしたような言い逃れは出来たぜ?」
「ううん、いいの。お姉ちゃんの必死な顔、見たくないもん。それに、あの距離で日下部さんだけが聞こえてないっていうのはおかしいし」


つかさのその言葉にかがみは絶望的な気分になった
信じていたのに。つかさは犯人じゃないと、信じていたのに!

「教えてくれ、つかさ。この事件は、前から計画してたのか?」
「ううん。この屋敷に着いたのは、まったくの偶然。最初はこの田舎の空気に癒してもらおうと思ってたんだけど……穴とか、テグスとか見た時に、全部思いついたの」
「……じゃあ、もう一つ。つかさは気絶したふりをして、二階からこっそり話を聞いてたと思ったけど、なんで一回戻ってきたんだ?」
「さっきの言葉とだいたい同じ。お姉ちゃんの辛い顔、見たくなかったから」

絶望にうちひしがれるかがみの横で、みゆきは悲しそうな視線でつかさを見つめた

「つかささん……なぜ泉さんを……? お二人は……親友ではなかったんですか?」
「親友だったよ。親友だったからこそ、憎かった。ゆきちゃんも、お姉ちゃんも」

つかさは立ち上がり、ベッドに腰掛けた

「こなちゃんは足が早いし、お姉ちゃんは勉強ができるし、ゆきちゃんはそれに加えてスタイルがいいよね。
でも、私にはなんの特技もない。みんなに迷惑をかけてばかり……。みんなが羨ましくて、そして、憎かった」
「だから……殺したのか?」

みさおが上からつかさを見下ろす。先ほどつかさに向けたものとは違う、憐れみの眼差しで

「ううん、違うの。死ぬのは、私だけで充分だった」

つかさはゆっくりと、右腕の袖を捲り上げる

「!!」
「う、嘘……!」

その手首には、何かで切ったような、生々しい傷跡が残っていた

「つかささん、まさか!?」
「そう、リストカット。他にもいろいろやろうとしたよ。校舎の屋上から飛び降りようとしたり、自分の首に包丁を突き立てようとしたり。生きていくのが、辛かったから。……でも、出来なかった。死ぬのが、怖かった」


……なぜ?

なぜ自分は、こんなにも辛い思いをしている妹を、わかってあげられなかったのか?

かがみはただひたすら、自分を責め続けていた


つかさは袖を下ろし、今度は左手を胸に当てる

「それで、思ったんだ。みんなが向こうで待っててくれたら、すんなり死ねるんじゃないかって。ゆきちゃんとお姉ちゃんを殺したら、私もすぐに死ぬつもりだった」

今度は立ち上がり、窓辺へと歩きだす

「でも、私バカだね。人を殺した私は、天国へ……こなちゃんと同じところへは逝けないのに……なんてことをしちゃったんだろ……」
「つかさ……」

それから少しして、つかさの啜り泣く声が聞こえてきた
自分がしでかしたことに、深く後悔しているのだろう。それで二人が戻ってこないことは、充分理解しているのに、涙が止まらなかった

「みんな……ちょっと、部屋から出てくれないかな……?」
「……わかったわ。みんなで広間にいるから、落ち着いたら来なさいね……」

そして三人は、ゆっくりと、つかさの部屋を後にした

「……なあ、なんか変じゃね?」

部屋から出てすぐ、みさおがそんなことを言ってきた

「何がよ?」
「いや、まだ夜中だけど、だいぶ明るいんじゃねえかって思ってさ」
「そういえばそうですね。それに、少し暑いような……」

加えて、メラメラという音も、微かに聞こえてくる

「――まさか!!」

かがみは走り、階段の上に出た

「うわっ!?」
「やっぱり……!」

あちこちから火の手があがっている。――火事だ!
かがみは元来た道を引き返し、つかさの部屋のドアノブを回す
が、なぜか開かない。中から鍵がかかっている!

「つかさ! 火事よ! 早く逃げないと! ……つかさ!?」



――ゆきちゃんとお姉ちゃんを殺したら、私もすぐに死ぬつもりだった――



「――! つ、つかさ! あんたまさか!?」
「言ったはずだよね。私は死にたかったって」

そのつかさの声は、震えていた
死ぬのが怖かったと、さっきつかさは言っていた。だとすると、今もつかさは恐怖を感じているに違いなかった

「時限式の発火装置を作っておいたんだ。逃げられないなら、確実に死ねるでしょ?」
「バカ! いいからドアを開けなさい!」
「そうです! 今ならまだ間に合います!」

かがみとみゆきが必死に説得を続けるも、つかさはまったく出てこようとはしなかった

「私は、みんなに迷惑を掛けたりしたくないの! それくらいだったら、死んだ方がマシだよ!」
「迷惑なんかじゃない! 私達にはつかさが必要なのよ!」
「私達は、親友ではなかったんですか!?」
「……二人なんかに、私の気持ちはわからないよ!」
「なんですって……」

言い掛けて、みさおの手がかがみの肩に伸びた

「柊、高良! これ以上は無理だ! このままだとみんな死んじまう!」
「!」
「私はつかさとちびっこをよく知らない! だから、二人には生きてもらわなくちゃいけないんだ! ちびっこ……いや、こなたとつかさが生きた軌跡を、失わないためにも!」

みさおはかがみの目を見たまま、動かない。決断を迫っているのだ
かがみは拳をにぎり、唇を噛みしめ、

「……つかさ、ごめん! あんたのこと、一生忘れないから!!」

それだけ言うと、かがみは大粒の涙を流しながら燃え盛る屋敷を駆けていく
振り返らない。振り返ると、別れが一層辛くなる。かがみはただ、前を見て走る


「ハア……ハア……つかさぁ……」

屋敷から出て、入り口手前の草むらで自らの膝に手を置き、体重を預ける
あふれ出る涙を拭おうともせず、ただただ妹の名前を呟いていた

「ハア……ハア……ん?」

その後を追ってきたみさおがあたりをキョロキョロと見回した

「お、おい! 高良がいねぇぞ!?」
「……え……!?」


・・・


「……こな……ちゃん……」

フラフラになりながらも、つかさはこなたの部屋に歩いてきた。流れた涙がベッドに落ちてシミをつくる
そしてつかさは、もう動かないこなたの身体を抱き上げた

「ごめんね……こなちゃん……! うう……!」

深い後悔の念を抱きながら、こなたの身体を強く抱き締めた
その時――

「つかささん!」
「ふぇ!?」

よく聞きなれた声が、つかさの耳に届いた
ドアをぶち破って入ってきたその人は、高良みゆきだった

「ゆきちゃん! なんで戻ってきたの!? ここにいるとゆきちゃんまで……」
「つかささんを一人にするなんて、私にはできませんから」

みゆきはつかさに向かって、ゆっくり歩きだす

「でも、私は二人を殺したんだよ!? 一緒に焼け死んだって、同じところに逝けないよ!」
「でしたら……」
「……え!?」

みゆきの左手に視線を落とすと、そこには銀色に光るモノが……


「私が今ここでつかささんを殺せば、私も地獄に行くことになります。それなら……私達は一緒ですよね?」

微笑みながら、つかさの隣に座る

「……いい、の……?」
「はい。親友の――つかささんのためなら、この身体を血に汚しても構いません。……いいですか?」

つかさは、自らのためにここまでしてくれる親友に涙しながら、ゆっくりと頷いた
そして、深く息を吸い込むと、みゆきは左手に持つソレを――ナイフを、つかさの腹部に突き刺した

「かは……!」

血にまみれたナイフを抜いた時、つかさの血が、みゆきの身体をも赤く染め上げる
バランスを崩したつかさの身体は、みゆきの腕によって抱き抱えられた

「ご、ごめん、ね……ゆき、ちゃん……。最後まで……頼って、ばかり、で……」
「いいえ。私だって、つかささんに何度も助けられてきましたから」
「あり、がと……ゆき、ちゃん……。向こうに……行って、も……親友で……いよ……う……ね……」

つかさはフーっと長い息を吐き、今までで最高の笑顔を親友に向けると、それきり動かなくなった

「……もし生きているのが私ではなく、泉さんだったとても……私と同じ選択をしたでしょうね……」

みゆきは動かない二人の顔を撫で、そしてつかさを殺めたナイフを自分の首元に向ける

「私のやっていることは……間違っているのでしょう……。それでも、私は……」

目をつぶり、深く深呼吸をして、手の中のナイフを、思い切り振りかぶった



――さよならです、かがみさん、日下部さん。どうかお二人は、途中で道を踏み外さないでくださいね――




・・・


「日下部! 離してよ!」
「離さねぇ! 絶対に行かせるもんか!!」

燃える屋敷に走ろうとするかがみの身体をみさおが羽交い締めにしていた

「離して! みゆきが死ぬんなら、私も死ぬ!」
「ヴァカっ!! 高良がなんで残ったのか、わからねぇのか!?」
「!!」

必死に抵抗していたかがみの動きが止まる

「あいつはつかさを一人にさせないために……私がさっき言ったこと全部を柊に任せて、つかさと一緒に死ぬことを選んだんだ!」
「……そんなの……みゆきの勝手よ! なにがなんでも、私はあそこに行く!」
「ぐあ!!」

みさおの身体を押し退け、かがみは屋敷に走りだそうとしたその時、

「おい、ひいら……!!」
「!!」



屋敷が


音を立て


二人の目の前で


崩れ落ちていった



「いや……いやーーーーーーーーーーーー!!」



地面に座り込み、頭を抱えて泣き叫ぶかがみの顔を、みさおは黙って見つめていた

その瞳を、わずかに潤ませながら――









エピローグ

「一周していい匂いだよな」
「……そうね……」

あの事件から一週間が過ぎた
明日は陵桜学院の入学式。二・三年生の始業式も、その前に行われる

みさおはこの日、かがみの家に遊びに来ていた
……いや、『無理やりかがみの家に来た』と言ったほうが適切だろう
現にかがみはみさおの言葉に相づちを打つだけ。心ココにあらず、といった感じだ

「……やっぱり、悲しいのか? あいつらが死んで……」
「……当たり前じゃない……!!」

かがみは声を震わせながら、みさおの問いに答える

「たった一日で……親友を四人も失ったのよ……!? 悲しいに決まってるじゃない……!!」

こらえきれず、かがみの瞳から涙がこぼれ落ちる
みさおはまだよかった。死んでしまった四人の中で、みさおの親友は一人だけ。それでも、悲しみはとても深かった
だけどかがみにとっては四人全員が親友。一気に四人もの親友を失った悲しみは、みさおのソレとは比べものにならないほど深かったに違いない


みさおは小さく息をついて立ち上がり、窓の方へ歩きだす

「なあ、柊」
「……なによ……」
「柊にとって、私ってなんだ?」
「え……?」

予想だにしなかった質問に、かがみは戸惑った

「私にとっての日下部……もちろん、親友に決まってるじゃない……」
「だろ? 私もそう。柊は、私の親友だと思ってる」

窓を開けると、やわらかな風が部屋の中に吹き込み、みさおとかがみの髪を優しく揺らす

「こういっちゃなんだけどさ、私はあの時、屋敷が崩れてよかったと思った。あのまま崩れないで柊が行っちまったら、柊まで死んじまってたからな」
「あ……」


――あのまま屋敷が崩れないで私が突っ込んでいたら、日下部が今の私みたいに――


「柊は一人じゃない。まだ、私が残ってるじゃないか。親友をみんな失うよりは、マシだと思うぜ? だからさ……」

みさおは顔をかがみに向けた。輝く太陽のような、暖かい笑顔で

「笑ってくれよ、柊。お前がそんなんだと、あいつらが安心して眠れないじゃん」
「……」

目に涙を浮かべたかがみは立ち上がると、みさおの胸に顔をうずめた

「ひ、柊……?」
「そういうのは……もっと早く言うもんじゃない……?」

少し小声だったその言葉は、いつものかがみのものだった


「……んだよ、素直じゃねぇな~。これが噂のツンデレってやつか」
「ばっ! 私は別にツンデレなんかじゃ……!」

顔をうずめたまま怒るかがみの頭を、みさおの腕が優しく包んだ

「今は思い切り泣け、柊。その変わり、もうあいつらのことで泣かないって、約束してくれ」
「……日下部……いいの……?」

そうは言いつつも、みさおに向けたかがみの顔はすでに涙と鼻水でくしゃくしゃになっていた

「みずくせーな。私達は親友だろ? 私の胸でよかったら、いつでも貸してやるよ。柊に比べたら小さいけどな」
「……あ……あり、が……くさ、かべ……う……うわあああああああ!!!」

かがみは、まるで子供のように、みさおの腕の中で泣きじゃくった

そのかがみを抱き締めるみさおの瞳からも、一筋の涙が流れた


(みんな……私は、みんなの分まで、しっかり生きてやるからな……柊と、二人で……)







「ううう……ひっぐ……うああああ……!!」
「お、おい。いくらなんでも泣きすぎじゃないか……? 服がびしょびしょになっちまうじゃんか……」


みさおの額に脂汗がにじみ出るが、それはただの照れ隠しに過ぎなかった

本当は――


(……もう少し……このままでいたいな……)


親友を抱くみさおの腕の力が少し強くなった

そう、ほんの少しだけ――



~Fin~




(あくまでも)予告

あの嵐の夜の惨劇から一ヶ月が経った

「時間っちゅーもんは、残酷やな……」

彼女達、かがみとみさおの二人での生活が『日常』になりつつあった

「紹介するわ、日下部。こなたの従妹、小早川ゆたかちゃんと、みゆきのご近所さん、岩崎みなみちゃんよ」

陵桜学院に入学した一年生の人達とも仲良くなり、少しは悲しみも癒されてきた

「アニ研の田村ひよりっス!」
「留学生のパトリシア=マーティンデス!」

平和な生活が続けばいいと願っていた、そんなある日――

「ゆ……たか……?」
「見ちゃだめだ! 岩崎!」

またしても
悲劇は、起こってしまった

「これは……ダイイングメッセージ!?」

――続く殺人!

「た、田村さん!」
「ノ……Noooooooooo!!!」

――混乱する親友たち!

「ナんで!? ナんでヒヨリまで死ななキャいけないンですカ!!?」

そして、殺害現場に残された、ダイイングメッセージが意味することとは……?
その裏に隠された、愛と憎しみの悲しき真実とは……?

――ワタシハ……イキナクチャイケナインダ――


『らき☆すた殺人事件~愛憎の陵桜学院~』


「ご……ごめん……な……ひいら……ぎ……元気で……いろ……よ……」
「イヤ! 逝かないで! 私を一人にしないでよ!! 日下部ーーーーーーー!!」

彼女の叫びは、届くのか…
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