ep02 第五夜

第五夜



 一瞬のことだった。
 かがみが、自身の気持ちを言葉にして吐き出す、と同時に涙が溢れた。
 その涙が滴る間もなく、腹部に激しい衝撃が走る。
 驚きと困惑の為か、痛みすら感じられない。
 そっと手をあてる。どろっとした感触が伝わり、それを確かめようと下を向く。
 かがみの左手が赤く染まり、その色が己の血液だと理解する。
 途端に痛覚が回復し、想像を絶する痛みに意識が薄れる。

 消えていく思考と意識を必死にかき集め、かがみは思う。



――――なんなの?なんなのよ、これ……、格好悪すぎじゃない。

――――つかさに迷惑をかけて、こなたの邪魔をして、みゆきさえ取り戻すことが出来ないなんて……。

――――私って……、なんなの?

――――ねぇ、そこで見てるんでしょ?いるんでしょ?そこに……

――――私には力があるんでしょ?

――――封印されてるけども、私には、力があるんでしょ!?

――――あの子達を救えるのなら、私は人間を辞めてもいい!

――――お願い!お願いだから、私に力を!

――――お願いだから、あの子達を救う為の力を!



「もう……、もう二度と、一人になるのは嫌なのよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」



 かがみの絶叫とともに、淡い紫色の光が少女を包み込む!
「なに!?」
 みゆきが後ずさる。右腕を引き抜くとかがみの血が溢れ出てきた。
 野性の本能――――そう、それが最も近いであろう。
 絡み付いた鮮血を、汚いものでもついたかのように必死に払いのける。
 みゆきの中にいる”狐”はかがみの中の見えない何かに恐れをなしたのだ。
「おねえちゃ……」
 異変に気づいたつかさが顔を上げた。
 彼女の視界に入ったのは夥しい量の血を流しながら立ち尽くす、柊かがみ。
 しかし、つかさが吐き気を催すよりも早く、かがみの様子が変化していく。
 貫かれたはずの傷口がみるみるうちに塞がっていき、柔らかそうな白い肌が再現される。
 さらに、重力に逆らうかのように紫髪が広がり、ゆっくりと彼女の身体ごと宙に浮かんだ。
「な、何者だ!?お前、人間なのか?」
 ”狐”は身構え、かがみと対峙する。
 かがみを包み込んでいた光は次第に彼女の背後へと集まり始め、一つの”像”を浮かび上がらせた。
「か、かが、み……」
 こなたは、全身のに広がる痛みを抑え付け、反射的に立ち上がる。
「だいじょうぶ」
 かがみは落ち着いた、優しい声で彼女を制した。
 それを聞いたこなたは、握り締められた拳はほどき、両腕をゆっくりと下ろした。


 彼女の目に映ったそれは、淡く美しい紫色。
 けれど、内部から溢れ出る光で、白銀にも見える。
 それはどこか懐かしさと暖かさを感じずにはいられない不思議な色。
 妖艶にして美麗。
 滑らかな肌は美しく輝き、伸びやかな四肢はギリシアの彫像のそれを思い出させた。
 衣服の類は身に着けておらず、かがみを生きうつしたような、輝く紫銀色の幻影。

 それは、まさしく――”雪女”。


「ふざけろーーーーー!」
 正気に戻った”狐”が両手から無数の衝撃波を放つ!
「無駄」
 かがみは広げた両腕を、本を閉じるように目の前へ突き出す。
 それを忠実にトレースした”雪女”の指先から荒れ狂う吹雪が渦を巻き、直線に放たれる!
「なに!?」
 吹雪と衝撃波は互いの間で衝突!相殺、音も無く消えていく。
 驚嘆を隠せないみゆき。目を見開き、しばし、硬直する。
「かがみ!」
「おねえちゃん!」
 つかさとこなた。二人の表情がにわかに明るくなる。
「ごめん……。待たせたね」
 かがみは相変わらず照れながら、微笑み返す。
 その微笑をすぐに打ち消し、みゆきへと向き直るかがみ。
「いい加減にしなさいっ!」
 かがみの両腕がだらりと垂れ下がる。
 そして、すばやくそれを振り上げ、目の前で交差させた。
「な、何をする気だ!?この身体がどうなっても――――」
 ”雪女”の振りぬかれた両腕から白銀の光が伸び、みゆきを包み込む。
 断末魔は白銀の光に包まれ凍結し、遮られた。


「あんたたち、しっかりしなさいよ!?」
 床に降立ち、かがみが親友と妹を交互に見つめる。
「おねえちゃん、かっこいいー!」
 かがみの横には、自らに癒しを施し、笑顔を見せるつかさがいた。
「さてさて~、リーダーのお手並み拝見と参りましょうかね~」
 何度となく打ち付けられ、とっくに限界を越えているであろう身体をさすりながら、こなたが近づいてくる。
「待て!いつリーダーになったんだ!?てか、なんのリーダーだ!?」
「もちろん!」
 小さな身体をいっぱいに伸ばし、思い切り胸を張ってこなたが答える。

「世界の大いなる闇を薙ぎ払う、セーラー服の団、SOS団に決まってるじゃん!!!」

 かがみの眼前に、激しく自己主張する人差し指が突き出される。
「えへへ、それに決まったんだ?」
「くっだらない!」
 かがみは溜息混じりに悪態をつき、つかさは口に手を当てて、楽しそうに笑う。
 かがみを中心に、右にこなた、左につかさ。そして背中には、今では天使にさえ思える、かがみの分身。
「あったま悪いわね~!でも……でもそれ……」
 かがみは顔を上げ、一点を見つめる。
「一人、団員がたりないわよね……」
 かがみの言葉に、二人は力強くうなずき、視線をはずす。
 三人の視線の伸びる先には、氷柱となった、みゆき。
 そして、そこから抜け出る魂のように揺らめく、白金色の影。


「準備はいいわね?」
「うん!」
「もちろ~ん」
 つかさの詠唱が始まる。三人は神聖なる光に包まれた。
「つかさはみゆきをお願い!」
 かがみが跳躍し、空に浮かぶ。それに付き従うように”雪女”も舞い上がる。
「うん、わかったよ!」
 つかさは更に言霊を重ね、すばやく左側に散開する。
「こなた!あんたは私についてきなさいよ!」
「あいあいさ~!」


 笑顔で返事をするこなた。
 彼女にとって、こんなに嬉しいことは久しくなかった。
 ずっとつき続けてきた嘘に苦しみ。
 それが終わり友を救い出そうとも、終わらぬ戦いが友との時間を奪い、友を傷つける。

 いま、目の前にいるのは自分の最も信頼すべき、愛すべき親友。
 そして同じく最愛の仲間とともに一つの目的に向かっている。
 最愛の友を救うという目的に向かって。
 それが、こなたには嬉しくてたまらなかった!
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