ep02 第三夜

第三夜


 学園の敷地内を一周して3人が目指す先、それは今、目の前にある体育館、ただ一つとなった。
「あとは、ここだけですね……」
 部活動が行われていないためか静かに、どっしりと佇む、大きな建造物。
 目的が目的だけに、いつも見慣れているはずの風景さえ不気味に感じる。
「じゃ、いこっか」
 こなたは意気揚々と先頭を歩く。
 その後ろには最初の意気込みとは裏腹に、ブルブルと震えるみゆき。
 さらに、小首を傾げて呟きながらつかさが続く。
「……んー、気のせい?かな?」
 鍵が掛けられていないことが不自然であった。
 だが、妖魔が自分達をおびき寄せていると考えれば、それは逆に自然なこととも思える。
「こなちゃん……なんか、変……」
「ほへ?」
 おおよそ慣れているはずのつかさがみゆきと同じくらいに身体を震わせている。
 彼女の困惑が気になり、こなたは足を止め、後ろを振り返る。
 体育館の中はひんやりとしていた。普段ついているはずの照明が無いだけで、
これほど不気味な雰囲気を漂わすものだろうか?
「つか……さ?」
「……変だよ。絶対変だよ!!」
 つかさの声に反応したかのように、開け放たれたままの扉が、大きな音を立てて閉まった!
「何!?」
 暗闇が辺りを支配し、少女達の視界が一旦途切れる。
 そして、次の瞬間……。

「泉さん!後ろですっ!」
 慌ててみゆきの指差す方向に身体を向けるこなた。
 その視界に飛び込んできたのはいくつもの鋭い眼光と、爪。
「うぐぅ!」
「こなちゃん!」
 こなたは体勢が不完全だった為に大きなかぎ爪の攻撃をまともに喰らった!
 つかさとみゆきの間をこなたの身体が舞う。
 まるでバスケットボールのように床にバウンドするこなたの身体。
「い、いきなりだねぇ~……。まだ、あいさつもしてないのに……」
 軽口を吐き出すも、全身が軋んでいる。床に打ち付けられた際の衝撃だろう。
 つかさがみゆきの手を引き、自分の背後に回らせる。
 同時に言霊を紡ぎだし、こなたの身体を癒しの風で取り巻いた。
「思念の集合とか、ポルターガイストとか、そんなんじゃないよ?もっと、もっとすごいのだよ!」
 徐々に闇に慣れてきた視界が捉えたのは、犬――いや、”狐”の群れ……。
「だね……。油断してたよ……」
 最初の落下により強かに打ちつけた右肩を押さえながら、ようやくこなたが立ち上がる。
 みゆきはうずくまり、頭を抱えて震え続けていた。
 自らが望んでいた状況を目前にして、自分の発言と希望がどれほどの愚行であったかに気づく。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめなさ……」
「ううん、いいの。謝らないで。私たちも甘かったよ。ごめんね、ゆきちゃん」
 必死に謝罪を繰り返すみゆき。つかさは彼女の方を揺らし、それを制す。
 彼女は悪くない。彼女を連れて来た自分達が、自分達の判断が甘かったのだ。
 つかさとこなた、二人で妖魔を相手取るようになってからは苦戦を強いられたことは一度たりとも無い。

 そこに慢心があった。

 つい先日もその慢心ゆえに危機に陥った。
「でも、やるしかないよね」
 その声につかさは無言でうなずき、消えかけていたこなたの防御結界を補修する。
 こなたは戦闘の構えをとり、異形の”狐”の群れを睨む。
 虎や熊ほどもあろうかという巨躯。全身は灰色の毛で覆われ、眼光は生物のそれとは思えないほどに気味悪く釣り上がっていた。
 耳元まで裂けた口からは、醜悪な臭いを発する涎を床に撒き散らし、じりじりと3人に近づく、”狐”。
「――――明王火炎呪!!!」
 こなたの詠唱完了と共に”狐”たちの足場に炎が巻き上がった!
 反応しきれない妖魔のいくつかが、その炎に焼かれ悶絶する。
「つかさっ!」
「うん!召還します。天岩戸!私たちを守って!」
 ”狐”たちの頭上に突如現れた巨石は無数に砕け散り、それの一つ一つが堅く鋭利な雨となって降り注いだ。
 さらに数匹が、降り注いできた礫に押しつぶされる。
 断末魔が気味悪く耳に残る。
 難を逃れた”狐”を更に追い込む。
 こなたは得意の体術で”狐”の群れの中に飛び込むと、両の拳を巧みに振り回し、妖魔の急所を突いていく。
 そのこなたを後方で援護する紫の巫女。こなたの視界の外にいる”狐”を呪縛の言霊で足止めしていた。
 すると、いつの間にか、つかさの詠唱を背後で見守っていたみゆきが呟いた。
「狐狗狸さんです――」
「え?こっくりさん?」
 つかさがみゆきの言葉に反応する。
「はい。皆さんが御存知の、あの狐狗狸さんです」
 みゆきは本来の冷静で落ち着いた声を響かせる。
「恐らく、呼び出されたまま、儀式を中断され、憑くことも還ることも出来ず彷徨っている悪霊……。
人の我儘と傲慢から生まれ、更にそれを肥やしに生き永らえる憑き物の集合体」
 みゆきは愁いのこもる目で”狐”を見つめ、自らが発した言葉を呪った。
 多くの知識を持ち、賢い彼女には、現状と知識とを重ねて出た解答がいくら信じたくなくとも、事実と認めざるを得なかった。
 彼女のおおらかさと優しさは、優秀な頭脳に裏打ちされた、全てのものに対する慈しみから生まれていた。
「つかささん!”あの子”たちを還してあげてくれませんか?」
 みゆきの語気が強くなる。
「うん、がんばってみる!」
 両手を握り締めつかさが力強くうなずく。
 膝を床につけ、手を重ね、目を閉じる。そして、ゆっくりと言霊を紡ぎはじめた。
「おけー。妖魔に思念が流れ込んでるわけね。道理で生半には行かないわけだね」
 こなたがにやりと笑った。
 振り返りざまの蹴撃を”狐”に打ち込む。
 ”狐”は大きく吹き飛び、壁にぶつかると動きを止めた。
 しかし、その一匹に集中する余裕はない。妖魔たちの攻撃はやむことを知らず、次々とこなたに襲い来る。
「そ、それにしても、ちょっと強すぎるよーな気が……」
 すでに、半数以上を今の攻撃で殲滅できているはず。
 それにも関わらず、”狐”たちの勢いは止まらない。
 こなたが、次々と襲い来る”狐”に苛立ちを感じたその時――――
 こなたの視界に入ったのは目を疑う、信じることの出来ない光景。
「嘘、でしょ……」
 焼かれていく”狐”から発せられる煙と、潰されて飛び散った肉片、転がる死骸が重なり、霧となって集まり始めた。
「え?うそ……」
 つかさは振り向く。背後には沈黙を守る鉄筋の壁。他には何も無い。
 再び向きなおしたつかさと、こなたが目にしていたのは、紛れも無く親友の囚われの姿!!!
『ふはははは。いい~女だねぇ~。それに”私達”にまで気を遣ってくれるなんて、優しいね~』
 霧の中から声が吐き出された。
 こなたはつかさの位置まで飛び退り、姿勢を低く構えた。
「ゆき……」
 言いかけて、つかさは口を押さえる。
『少々若いが私が頂くよ?』
 残りの”狐”が霧の中に飛び込んでいく。
 それに従い霧はどんどん大きくなり、天井を埋め尽くすと、そのままみゆきを包み込んだ!
「みゆきさん!」
 こなたが叫ぶ!しかし、その声が届きそうも無いほど霧は厚く、濃く、虜囚となった少女を飲込んでいた。
「ん~~~~~ふふふふ!いいねぇ!実に素晴らしい肉体だ!」
「そんな……」
 こなたは唖然とし、床に膝を落とす。
「このしなやかな腕や足。豊満な胸部。なんともいいじゃないかい!」
 目の前の”人物”がみゆきのジャージの袖を、裾を引き裂きながら悦に入る。
「暑苦しい布キレなんざ私には必要ないね。ほら、キレイだろう?小娘ども?」
「やめて!ゆきちゃんは何もしてないよ!?」
「あぁ、何もしてない。ただ、運が悪かった。実に私好みのいい女”だった”」
 みゆき”だった”目の前の身体は無残にも全身をさらけ出され、中空に浮かび上がっていた。
 その顔は既にみゆきのそれではない。目は釣りあがり、口は裂け、いやらしい笑みを絶えることなく湛えている。
「この乳房が実にいい!人間も進化するのだねぇ~」
 二人の少女の全身に寒気が走る。
 ”狐”に憑かれた”みゆき”は自らの乳房を愛おしそうに揉みしだき、淫猥な声を漏らし始めた。
「やめてよ!みゆきさんを馬鹿にするなー!」
 怒りが頂点に達し、こなたが飛び上がる。
「こなちゃん!ダメーッ!」
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