ep02 第一夜

第一夜

「こんな攻撃じゃ私たちはやられないよ?」
「こなちゃん、もう一体着たよ!」
 街外れの廃工場。乾燥した風の吹き抜ける中、闇夜の舞を華麗に踊る二人の天使。
 蒼翼の天使、泉こなたは夜空を駆け巡る。彼女の長い髪の毛はまるで意思を持つ翼のように翻る。
 紫の巫女、柊つかさは隠し持っていたその才能を思う存分披露するが如く、強力な結界を幾重にも敷き詰めていた。
「・・・明王火炎呪:焔鎧!」
 全身を火炎が包み込み焔の塊となったこなたは眼前に迫る異形のものに向かって突進していく!
「ほりゃぁ!爆炎(ダ○ド)!」
 手のひらから発せられた光弾が異形の化物の腹部に当ると、それは内部から弾けるように爆破を起こし絶命した。
「ふふふ、ダ○ク・シ○ナイダー様から頂いたのだよ」
 にやりと笑い、化物の残骸を見下ろす。
 しかし、直後に強烈な衝撃がこなたを襲う!
「いてっ!」
 地面に叩きつけられる少女!しなるムチのように当てられた化物の触手が更に追撃してくる!
 こなたは咄嗟に身体をよじり地面を転がった。土をえぐり畑を耕すかのように突き刺さる!

「う、油断した!つかさ!」
「うん!」
 つかさは手に持っていた包みをこなたに投げる。身体を起こす反動で飛び起きるとそのまま跳躍し包みを受け取った。
 中から出てきたのは明王がその手に持つと言われる真鍮製の独鈷杵が二つ。
 以前の彼女が持っていたものとは違い、剣の部分が短く、握ると両側が少し飛び出る程度のもの。
 こなたはそれを両手に握り締め化物に向かい突き出す。
「いくよ~?」
 とても化物と対峙している人間の表情とは思えない、悪戯っぽい微笑を浮かべこなたが術を唱える。
 蛸の形容をした化物の触手が四方八方からこなたに向かい襲ってきた!!!
「こなちゃん!あぶない!」
 もうだめ!つかさは思わず両手で顔を覆い力いっぱい目を閉じた。
「七鍵守護○!ハーロー○ーン!」
 独鈷杵により増幅されたこなたの術がその双方の先端からほとばしり、碧く煌く炎の龍となり化物の触手ごと焼き尽くしていく!
「○×G□☆※ーーーーー!?」
 人間では聞き取ることが出来ない不可思議な断末魔の雄たけびを上げ、蛸の化物は焼失していった。

「こなちゃんすごいねー!えっと、バーロー・・・なんだっけ?」
「そ、それはわざとなのかな?つかさ・・・」
「およよ?あはは」
 ぺろっと舌を出して頭をかく紫色の巫女。
 多少セーラー服は汚れているものの、息一つ乱していない蒼翼の天使はにやりと笑う。
「あれもダーシュからもらったのだ!ていうか、術と名前は全然関係ないんだけどね!」
 わっはっはーと腰に手をあて、大きな声で笑う。
 その声が暗闇に包まれた廃工場に響き渡り、やがて吸い込まれていくと、辺りは再び静けさを取り戻した。



「やっぱね、技名は重要だと思うわけなのだよ!」
「うんうん、こなちゃん、すっごくかっこよかったよ~!」
「そんなに重要な問題なのか!?しかもパクリだろ?」
 深夜の非日常を体験していたことが夢かのような平穏なる日常。
 こなたは親友3人に熱く”技”の説明を施す。
「泉さんは体術、呪術ともにとてもアクティブなようですわね」
「いやいやぁ~、みゆきさんがいろいろ下調べしてくれるから私たちも大助かり!」
「うんうん!私もね、呪文がたくさんあるから、いつ何を使うのか?で混乱しちゃうもん!」
「あはは、つかさらしいね・・・」
 その笑顔とは裏腹に紫のかがみは少しうつむいて、表情を隠していた。

 あの日、私は最も愛すべき親友に新しい命を貰った。
 新しい命。その親友が自らの命と引換えにしてでも守ろうとしてくれた私の命。
 大切にしなくちゃ・・・。
 そう思うと悲しくなる。今、すぐ横で3人が楽しげに繰り広げている談笑が私には冷たく突き刺さる。
 彼女達に悪気がないのは分かっている。これはただのわがままだ。

 かなたさんの手により封印された私の力は、お父さんいわく「非常に不安定」なのだという。
 術者がこの世界に存在しない為、強力な封印ではあるものの、その信頼性は低いらしい。
 何らかのきっかけ、妖魔たちの放つ瘴気や術などにより封印が解ければ、私はまた、あの汚らわしい雪女に変貌してしまうだろう。
 そうなれば、今度こそ、この愛おしい親友達を自らの手で殺めてしまうかもしれない・・・。

 私はそれを考えるたびに、隣で微笑む親友達の輪に入ることをためらい続けていた。

―――独りだった自分を助けてくれた仲間のために、私はまた独りになるんだ・・・。

「ほな、今日はこれで終わりや!先週から校内の器物がいくつか破損する事件が起きてるようやから、みんな、気ぃつけて帰りや~!」
「センセー!ぼくじゃありませんー!」
「わかった、白石、お前職員室まで来い?えぇな!?情報は掴んどるんや!」
「な!?やぶへびっ!?」

 いつものように放課後を告げる予鈴がなり、クラス中にざわめきが巻き起こる。
 皆、それぞれに帰り支度をはじめ、一人、また一人と消えていく。
「先程の件ですけど・・・」
 みゆきがいつになく真剣な表情でこなたに話を切り出す。
 教室内には彼女達を含め数名しか残っていない。
「へ?先程って?」
「黒井先生のお話にあった、器物破損事件です」
「あぁ、職員室の窓ガラスが割れてたり、銅像が粉々になってたって噂のやつだね?」
「はい。私、いろいろとデータを検証して、独自に調査をしてみたのですが・・・」
「もしかして・・・」
「はい。もしかしました。妖魔です」

 その言葉にこなたとつかさは敏感に反応して、背筋を正した。
「”柊さん”に言わせれば、怨念の塊と申しましょうか・・・。おそらくこの学園に残るいくつかの思念の集合体のようです」
「・・・いやだね。こんな近くにも出るようになっちゃったんだ・・・」
 3人の表情が変わる。言葉を繋げられなかった。
 そこへ、とびきり明るい声でかがみが現れた。
「おーっす!帰ろうー!って、あれ?みんなどうしたの?」
 さすがに親友達の表情を見て察したのか、かがみは声のトーンを落とし、ゆっくりと近づいた。
「かがみんや~、ごめんー・・・。”バイト”が入っちゃった・・・」
「”バイト”って・・・」
「お姉ちゃんゴメンね。私もお手伝いに行くから・・・」
 その言葉で全てを理解したかがみは、一瞬うつむき考えを巡らせたがすぐに顔を上げ、そして満面の笑みを浮かべた。
「そか!二人ともがんばってね!みゆきも二人を助けてくれてありがとう!私は何も出来ないけど、応援だけはしてるからさ!
 あ、そうそう!一応怪我しないようにお祈りもしてるんだよ?別にこなたの心配なんかしてないけどさ、つかさはドジだからねぇ~!
 危なっかしくて!あはは、んじゃ、邪魔しても悪いから、先行くわ!またね~」
「かがみ・・・」
「お姉ちゃん・・・」

 二人には何も言えなかった。
 無理に明るく振舞っていたかがみをのけ者にしてるような気がする。
 しかし、彼女を巻き込めば、自分達の手で彼女を抑せねばなるまい。
 そうなれば最悪の場合は・・・。
 こなたは頭を2,3度振る。たった今脳裏をかすめた自分の思考を払い落とすかのように…。



「はぁ・・・」
 うなだれ、肩を丸める。かっこ悪い。こんなとき彼氏がいたら元気にしてくれるのかな?
 いや、そんなものが欲しいわけではない。
 私は正しいことをしている!愛すべき妹、愛すべき親友達のために、私は彼女達の足を引っ張らない。
 これが今の私に出来る最大限の恩返しだ。
 かがみはこみ上げてくる感情に気づかないふりをしながら、そう堅く心に刻み込んだ。
「お~い!ひぃらぎー!珍しいなぁ、一人かよ?」
「日下部・・・」
 背後から脳天気で舌ったらずな声が聞こえた。
 振り返ればそこには日下部みさお。その横にはいつもと同じように峰岸あやのの姿もある。
「あれ?柊ちゃん泣いてる?」
「ば、ばか!泣いてなんかいないって!ちょっと目に砂埃がさ」
「あはは!いつも目を見開いて怒ってっから、そうなるんだよ!」
「なに!?わ、私がいつそんなに怒ってるんだ!」
「ほら、怒ってるじゃんよー!」
「そ、それはあんたが」
「まあまあ、柊ちゃん、落ち着いて。よかったら一緒に帰ろ?」
 その一言が今のかがみには何よりも優しくあたたかい響きに聞こえた。
「う、うん・・・」
 相変わらず、みさおが後ろでわめいているが、今はそれさえも心地よい。
 今は少しだけ嫌なことを忘れていよう・・・。
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