ID:UGD4A1bJ0氏:He is Smiley!

けたたましい音が響き渡る教室内。
時は既に放課後に近く、鞄を持った生徒達が所狭しと動き回っている。

ぎぎい、ぎいぎい。何かを引きずる音。
中々耳障りな音なのだが、今に限ってはそれも許される。

何故ならば・・・席替えとはそういうものだからだ。



ただ、何となく生きていた。

例えば今こうして、引き抜いたクジに従い所定の場所に机を動かしているように。
笑うことは楽しい。そして皆で笑うともっと楽しい。
だから回りをいつも笑顔にさせるような存在でありたいと思った。

それだけが自分の存在価値であるように思えた。
元々内気だった自分の変身した姿。誰もそのことに気付かない。
だが他人の笑顔を目にする回数が増えたことこそ、自分が変われた何よりの証拠だと感じた。


では他に、自分の存在価値となれるものがあるだろうか。

答えは浮かんでこなかった。
でもそれでもいいと思った。笑ってれば楽しいから、楽しいことが大好きな自分は、誰かと一緒に笑えれば辛いことも心に迫る闇も吹き飛ばせるから。

だけど、もし‥‥こんな風に周りを笑わせることの出来る自分がいなくなってしまったら。
そう考えると怖かったけど、怯えてばかりもいられなかった。周りを笑顔に出来る存在として在り続けるために、俺はみんなと楽しく笑いあっていた。
闇と恐怖を、心の奥底に常に抱えながら。

「むぅう~‥‥」

奇妙な唸り声。
隣を見てみる。一人のちっこい青い髪をした女子が、机にノリで貼り付けたみたいにベッタリとへばり付いていた。
別に自分から女子に話しかけたりはしなかった。ただ必要のある時に話して、それでたまたま会話が弾んで、気付いたら仲良くなっていた、ということはよくある話だったけど。
無駄に自分から歩み寄ることも無かったから、勿論彼女もいない。

眠いんだろうな‥‥なんて思いながら、自分も横にいる女の子と同じ体勢でつっぷしてみた。
あぁ心地よい。これで眠気が自分の中にあったら間違いなく寝てしまうだろう。
首だけを右に向けて、彼女の方を見る。たまたま目が合った。
仕方なく自分は顔を真逆の方へとやる。気まずいからではない。引き続き彼女のモノマネをしているからだ。

隙を突いたつもりでまた彼女を見る。彼女の後ろにある扉を気にするフリで、彼女がどうしているかを伺う。
視界が暗い。彼女の姿も、その後ろにある扉も、扉を抜けた先にある廊下も全く目に入らなかった。

闇?
違う。これは・・・ワインレッドだ。血が固まって黒くなったような。
視界一面の赤が、意識を混沌とさせていく。


「何さっきからまねっこしてんのさ」

ふと、天井付近から声が降ってきた。ナメクジが這うみたいにタルそうな声。見上げると、そこにはさっきまで隣で同じように寝そべっていたハズの女の子。
目の前にあったのは、よくよく見ればうちの制服のスカートだった。
寝そべったままで首をねじる。
苦しい。けど、視界ぎりぎりで顔が見えた。
さて困った。眠たいところにいきなりこんな喋ったこともないような奴にマネをされて、これで寝起きが悪くて不機嫌な人とかだったらどうしようか。

どうしようもいい案が浮かばなかった自分は、仕方なく二度寝した。

「寝るなぁっ!」

ぺちんと軽快な音。頭を軽くはたかれた。

「なんだよ‥‥いいじゃねーか、放課後なんだしもう良い子はお休みの時間だろ」
「いや、学校で寝泊りはしないでしょ。てゆーかまだ夕方にもなってないし」
「じゃああと5分だけでいいからさ」
「何つかさみたいなこと言ってんの。さっさと起きなよ」
「いーやーだー寝ーるーぅう~」
「‥‥私さ、こう見えても格闘技経験者なんだよね。いっそのこと永遠に目覚めなくしてあげようか?」
「すいませんでした」

問答にも飽きたのでとりあえず身体を起こして、机から立ち上がる。腕を引っ張ると自然にあくびが出た。

「んじゃ、バイバイ」
「待てやコラ」

逃亡失敗。がっしりと腕を掴まれた。

「はぁ‥‥」
「何でさっき私のマネしてたの?」

やっぱりその件だった。
でもこうしてわざわざ本人に聞くあたり、中々いい根性をしていると思う。

「いや、特に意味はないんだけどさ。ちょっと暇だったからやってみただけで」
「はぁ・・・?いきなりモノマネって、頭のおかしい子じゃん」
「じゃあ泉は髪型のおかしい子な。髪の毛長っ!ていうか何で今時妖怪アンテナが生えてんの?」
「おやおや、キミにはやっぱりこの高度な萌え要素が理解出来ませんか・・・」
「燃え‥‥って、泉って今何かに熱中してるのか?」
「・・・そうじゃなくて、こぅ、オタク的な‥‥」
「あぁなるほど、分かるぜ。泉萌え~」
「‥‥絶対やる気ないよね、キミ」

眠そうな目をますます細くして、彼女は大きなあくびを一つ。
自分も釣られてまた大あくび。

「さ、帰ろか」
「帰んないってば」
「こなちゃーん、おまたせー!」

後ろから冬の暖房機みたいな声。
同じクラスメイトの柊つかさだった。

「あぁ、さっきの「つかさみたい」っていうのは柊のことだったんだな」
「むぅ、さてはつかさのことだったって分かってなかったな。この薄情者」
「ぇ‥‥どうしたのこなちゃん?藤村君に何か私の話してたの?」
「んや、俺が寝ぼけて「あと5分~」って言ったら、泉から「つかさみたいなこと言うな」ってつっこまれて」
「は、はうぅ…」

急に顔をボンっと赤くして、うつむきがちに泉の袖を掴む柊。
何かブツブツ言い合ってるのが聞こえると、俺は周りを見渡す。
既にいつの間にか皆帰宅したみたいで、気付けば俺と泉、そして柊の三人だけになっていた。

「(やべ、ネタに走りすぎた・・・)」

一人でも残ってたらその友達と帰れたのに。そう思うと、少し後悔の念が押し寄せる。
だがすぐにその後悔は消えた。お陰でこうして、今までほとんど話さなかった奴と話すことが出来たんだから。

「で、かがみんは?」
「お姉ちゃんなら、多分もうすぐ・・・ぁ、ほら」

その名を聞いた途端、泉に釣られてお休みモードに入ってた脳が急に活性化する。
鞄を持つと、念のため忘れ物がないか確認。
逃走準備完了。他の二人が驚きの声を上げるのも無視して、俺は教室の出口から学校を走り去る───‥‥つもりだった。

「うわっ!?」
「きゃあっ??!」

急ブレーキ。しかし曲がり角90°というのは条件が悪すぎた。
ほとんど減速させることも出来ずに正面衝突。俺とそいつはお互い弾かれたように倒れこんだ。

「いったぁ・・・って、あ!」
「え、えっと、ホントごめんなっ!!」

両手をぱんっと合わせて謝る。
しかし如何せんぶつかった相手が悪すぎた。何せ相手はあの天敵、柊かがみなのだから。
とりあえずここは謝っとくに限る。うんうん。

「ってゆーかなんでこんな急に飛び出してくるのよっ!!」
「んやぁ、かがみんの名前を聞いたら急に飛び出していったんだよ。やはりここでもかがみん最強説が‥‥」

殺気。
もう泉の言葉はまともに聞き取れなかった。目の前をほとばしっている強烈な殺気こそが、今の俺の全て。

「じゃっ、じゃあ俺帰る───」
「待ちなさいよ」

当然ながら呼び止められる。
いっそのこと無視してその場を去ってしまえばよかったのだが、今にも物体として形を成しそうな殺気が俺の足を止めていた。

足音が聞こえる。さながらそれは、13段の階段を登る死刑囚の足音。
目の前には死刑執行人の姿。まともに顔を見れない。見たらもう俺の命はないような気がした。

「‥‥なんでそんなになって逃げるのよ。私もう怒ってないのに」
「───ぇ」

返ってきたのは、思いも寄らぬ返答だった。
ここで初めて相手の顔を見る。殺気なんてどこにも無い。あるとすれば、戸惑いと、一抹の寂しさ。

「どういうこと、かがみん?」
「二人とも、大丈夫・・・?」

他の二人が駆け寄ってくる。
今の俺にしては珍しく、心からのため息をついた。お互いに顔を見合わせる。相手の顔は、自分が覚えていたその顔よりも少し大人びているように感じた。






「‥‥なるほどねぇ、そんな過去があったのか」
「藤村君の話なんて私、全然聞いたこと無かったよ」
「そりゃまぁ、躍起になって話すことでもないでしょ」

まさにそのとおりだった。

本当に遠い昔のように感じる。俺が高校1年生だったころ。
まだまだ内気だった俺が、今日までの課題を仕上げるために一人教室に残っていたその時。

ふと、二つ前の席の鞄が目に入った。
この席は、確か・・・

「委員長‥‥?」

ツリ目でどちらかというとキツイ感じの女の子。どの女の子とも仲が良くて、どちらかと言えば人気者だけど‥‥当時の俺には苦手な部類に入る女の子だった。
でも、見た目には中々定評があったらしく、男子間の噂にのぼることもしばしばあったし、実際俺もちょっとは「可愛い」なんて思ったりもしてて。
時計を見る。まだ4時半だ。クラス委員長同士の会議が終わるにはあと30分近くある筈。


そして、魔がさしてしまったのだろう。
おもむろに足が動く。向かう先は、目の前の鞄。


まるで夜中に泥棒が家に忍び込むみたいだった。心臓のバクバクが止められない。拭っても拭っても手汗が出てくるのを感じる。
じいぃ・・・と、静かにチャックの開く音がした。
ご開帳。僅かに漂う程度だった心地よい香りがさらに強くなった。これが、女の子の香りってやつなのか。

そのまま夢遊病者になったかのようにふらふらと、鞄に手を差し伸べようとした、その時。

「‥‥誰?」

声がした。
間違いない。この鞄の持ち主だった。

そこから先はもう全く覚えてない。思い出せない。思い出したく無い。

ただ、思ったより彼女は怒ってなかった気がする。どうしようもない、迷子になった子供のような気持ちが表情に出ていたのかもしれない。
でも「どうしてこんなことをしたのか」というのをしつこく問いただされて、彼女と校門で別れてからは思わず涙が出てきて、もうどうしようも抑えられなくなったのを覚えている。
急いで人が通らない草陰に隠れる。あぁ、自分はなんてことを。何てことをしてしまったんだ。
生まれてこの方感じたことの無い、強烈な後悔が自分に襲い掛かり、もうそのことしか頭に浮かばなくなる。
その日はご飯もまともに喉を通らず、睡眠すらもほとんど取れなかった。

後悔はやがて強いトラウマとなり、気がつけば姿を見ただけで彼女を避けるような、そんな人間になっていたのだ。





あれから2年がたった今。
自分はあの頃からは想像も出来ないくらいにオープンになって、いろんなことをネタにして、様々な方法を用いて皆を楽しませる、皆で楽しく騒ぐことの出来る存在になっていた。
そうじゃなかったとしても、少なくともあの頃の俺とは全く違っている。そう自分で思っていた。

だが、たった2年も前の過ちのことはいまだに忘れられず。ずっと、後悔は強く胸にあり続けていたのだ。

「もういいって。だからさ」

夕日が彼女の顔を映し出す。もう俺は顔を背けることはなかった。

「今日は‥‥一緒に帰ろ?」

あぁ、こんな彼女がいるなんて。
本当にあの、自分の中で鬼のような存在になっていた、柊かがみの顔なのか。

「‥‥さんきゅ」

その笑顔が眩しかったのは、きっと夕日のせいだけではないと思った。





はて、「一難去ってまた一難」とは、誰が言った言葉だっただろうか。後ろに「ぶっちゃけありえない」と付けてしまえば幼稚園児でも分かる簡単な問題になるのだが。

交通バス。
ありがちな二人分の椅子が縦にいくつも連なってる。それは真ん中の通り道を挟んで反対側にも同じように置かれてあった。
顔を上げると、前の座席の後ろについてある停車ボタンが映る。まだ点灯していないところを見ると、次のバス停には停車しないらしい。
右を向くと、何かのビジョンでも見ているかのように過ぎ去っていく景色たち。
左を向くと、

「‥‥何よ」
「んや、ちょっと足が滑って」
「どこをどうすればそんな理由になるのよ!こっち向いた言い訳なんて他にも色々あるでしょーがっ!!」
「だからな、こう、ズリッと」
「実践せんでいい!!」

思いっきりツリ目全快で咆哮を上げる女の子が座っていた。
後ろの様子を伺うと、明らかに不審な話し声が聞こえる。

「こ、こなちゃん・・・なんで‥‥?」
「ふっふっふ、こういういざこざの後に恋が芽生えることはよくあるんだよ、つかさ。ちなみに私達は監視役ね」
「か、監視って‥‥でも」

聞こえてるっつーに。
隣の柊の顔を見てみる。少し呆けたような、何とも取れない表情をしていた。どうやら後ろの二人の会話には気付いてないらしい。
‥‥訂正、徐々に頬が赤くなってくるのが見て取れた。明らかに気付いている。しかも俺のことを気にしてツッコミも入れづらいらしく、ただただ顔を赤くしてじっとしていた。

      • これは気まずい。何か話題を振ろうか。

「なぁ、柊」
「ぁ、え?」
「なぁに?」

左と後ろ、両方からの返答。

「そっか、「柊」っつーと二人のことになっちゃうんだよな。うーん‥‥」
「あ、あの、私のことなら別に名前で呼んでもらっても…」

おずおずとした口調そのままで、大胆な発言をする妹。
つかさ、か。つかさ、つかさ、つかさ‥‥。

‥‥なんか微妙に恥ずかしいな。
それなら。

よし。じゃあ妹の方は今まで通り「柊」って呼ばせてもらってもいい‥‥か?」
「ぇ、うん‥‥」
「って、じゃあ私はどうなるのよ?」

拍子抜けしたような顔をする妹とは逆に、ずいっと顔を俺の方に向けて罪人を問いつめるような迫力の姉。もう少し顔を近づければキスだって容易に出来そうな距離だ。
彼女が舐めているいちご飴の香りが強くなる。

「お前は、みっちゃん」
「みっ‥‥ちゃん?」
「みっちゃんかぁ‥‥なんか呼びやすくていいねっ」
「んん?でも何でかがみんが「みっちゃん」に‥‥なぁるほど♪」

椅子の外側はスポンジみたいにやわらかい素材であるため、指を椅子と椅子の間に挟みこんでみる。そこに出来た僅かな隙間から後ろを覗くと、泉が一人呟いて得意げにしているのが見えた。
つまり。

「かがみの「み」を取って「みっちゃん」ね。なるなる」
「はぁ?何一人で決め付けてんだよ」
「‥‥じゃー何が元ネタなのさっ」

むすっとした口調で、俺の座ってる椅子を後ろからこんこんと軽く小突いてくる泉。

「「鏡」は英語にすると「ミラー」。だからみっちゃん」
「へぇ~!なんかなんか、すごいね!」
「‥‥いや、そんな凄いか?」
「と言いつつ、内心ではあだ名で呼んでもらうことに喜びを隠し切れないかがみんなのであった」
「変な裏設定をつけるなっ!!」

素直に感嘆の声を上げる妹と、微妙に引いてる姉と、余計なちゃちゃを入れる泉。反応は三者三様である。
賑やかな車内をよそに、俺は窓の外を見つめていた。
時刻はもうそろそろ夜といったところ。教室で話し込んですっかり遅くなってしまった。
外は暗く、車内が明るいためにガラス窓が自分の姿を映し出す。

まるで‥‥

「なぁ」
「何よっ」

隣には、散々後ろからいじられて少しむくれっ面をしている女の子。
肩をすくめたその仕草が、改めてこの子は鬼でもなんでもない、どこにでもいる一人の女の子なんだと思わせる。

「窓ガラスってさ、夜になるとまるで鏡みたいになるじゃん?」
「・・・そうね」
「だよな‥‥このやろっ!このやろっ!このやろっ!」

がん、がん、がん。
軽く握った拳をその鏡もどきに打ちつける。

「わわっ?!」
「ちょ、何してるのよ!?」

またしても後ろと左からから声が上がる。
勿論思いっきりパンチしているわけではなく、軽く音のする程度だ。その分素振りは大げさになってるけど。

「鏡のくせに、鏡のくせに、鏡のくせにぃ!」
「‥‥あんた、まさか」

左から呪いでもかけられそうな声が聞こえる。
でもとりあえず無視。

「今までの恨み!ヤムチャの恨み!天津飯の恨み!ピッコロの恨み!」
「私は何もしてないでしょーがっ!!」

ようやくこの高度な比喩の意味が理解できたらしい。
分からない人は左の女の子の名前を思い出してみること。

「餃子の恨みっ!」
「アンタも真似しなくていいのっ!!」

ごん。
後ろから同じような音が一つ。どうやら泉らしい。

「そうか、餃子の分忘れてたな、ありがと」
「いやいやぁ、これ位お安い御用ですよ兄さん」
「意気投合するなっ!!」

車内は和気あいあいとしていた。時たま前の席から笑い声が聞こえるくらい。
でもなんだろう、こいつらは・・・いや、どんな集団の中にもあるんだと思う。「このグループだけの雰囲気」というのが。
その中でもこいつらの雰囲気っていうのは何か異質で‥‥その時の俺にはまだ表現しづらいものだったけど。

結局行けるとこまで一緒に帰って、柊ん家がかなり近いことを知った。
というより、あの大きな神社の家に住んでることの方がだいぶ驚きだったけど。

帰宅すると同時に二階へと駆け上がる。
パソコンを開いて、今日あった出来事‥‥もっぱら放課後に起こったあいつらのことをタイピングすると、某巨大コミュニティサイトの日記として書き込む。
どんなコメントがつくか楽しみにしつつも、飯を食って、宿題を終わらせ、風呂に入るとそのままバタンキューという普段とほとんど変わらない一日の終わりになっていた。


余談だが、名前を伏せて書いたにも関わらず、多くのクラスの友達にバレていたことを書き足しておく。
ツールボックス

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