ID:GtOxjXwDO氏:らき☆すた・ファンタジー『Another』

プロローグ


「魔術を使うには大地から、神々から力を借りなければ行使できない」

その部屋のろうそくには一本しか火が灯っていなく、薄暗い、気味が悪い部屋と化している
その部屋の中では、父と娘が語り合っている
魔術に対しての知識を確認しているのだ

「そう、その力を借りることができる人間は生まれつき身体のどこかにアザがある」
「それは動物や魔物も同じ事」
「ここで問題。そのアザは子供たちにも受け継がれる?」
「答えはNO。でも、子供もアザができて生まれる可能性はある」
「正解。じゃあ第二問、その兄弟・姉妹にアザはできる?」
「それも答えはNO。兄弟・姉妹につき、一人にしかチカラは備わらない」
「そう、そしてこれからお前にしようとしていることは、後天的に魔術を行使できるようになる『実験』」

父は実験という言葉を強調し、白い石とナイフを取り出した

「失敗したら……?」
「腕を失う。確実に」

娘は生唾をゴクリと飲み込む。額には尋常ではない脂汗が滲み出ている

「大丈夫、失敗しない。失敗させない。だから、俺を信じろ……!!」
「……うん……!」

この二人の間に、家族を超えた何かが存在しているように思えた
娘は覚悟を決め、右腕を父の方に差し出す

「かなり痛いだろうが、耐えてくれ……!!」

父は娘の腕を取り、ナイフを彼女の右手の甲にあてた

「……行くぞ……!!」




1―1


それから5ヶ月後、少女――泉こなたはアウレ町を歩いていた
アウレ町は彼女と彼女の父が住む町。道が石畳で舗装されており、近くの集落の中では一番大きな場所だ
彼女は今、町の図書館を目指して歩いている
彼女の目当ては図書館が貯蔵している魔導書にある
彼女は基本的に勉強が大の苦手だが、魔導書に書かれている文字『魔導言語』を学ぶのは好きな様子
毎日と言っていいほど図書館を訪れていた

「ふふふ、館長さん、今日は封書を読ませてくれるって話だし、楽しみだな~」

彼女は鼻歌を歌いながら道を歩いていく。何が書かれているか気になって仕方がない
封書を早く読みたいがために、足速に通りを歩く
町の武器屋を通り過ぎたあと、近道のために裏路地へと入る

「きゃ!!」
「うわ!!」

裏路地に入ろうとした直前、その裏路地から女の子が出てきた
避けることは出来ず、こなたは女の子とぶつかってしまった
こなたはよろめきながらもなんとか倒れることは阻止できた
これは彼女が古武術という昔から伝わる武術を習っていた賜物である
しかし、ぶつかった女の子はそういうわけにもいかず、石畳に尻餅をついてしまった

「いたた……」
「ごめんね。大丈夫?」

女の子は薄紫色の髪を左右でツインテールにしていて、腰には鞘を差している
こなたは女の子に手を差し出すが、その手は払いのけられ、女の子は立ち上がりながらこちらを睨み付けてきた

「あんた、何処見て歩いてんのよ!!」
「ごめんごめん、急いでてさ~」
「……あんた、謝る気ある?」
「あるよ~」

言葉だけで悪びれる素振りも見せないこなたに女の子は大きな溜め息をついた

「……まあいいわ。ところで、『そうじろう』って人はどこに住んでるかわかる?」
「ああ、それなら……」

こなたは裏路地から出て、家々の間にある大きな家を指差した

「あの青い屋根の家に住んでるよ。結構大きいから、すぐにわかると思う」
「わかった、ありがとね」

女の子は裏路地を出て、こなたが指差した方へ歩いていった

「……ん?」

ふと地面を見てみると、そこには光るものがあった
それを拾い上げてみると、どうやらそれはロケットペンダントのようだ

「しまった、ぶつかった時に落としちゃったのか……」

女の子が駆けていった方を見るが、もうその姿は見えなくなっていた

「……ま、いっか。家に来てるんだし、帰ってきたら渡してあげよ」

そう言って、こなたはロケットペンダントの中身を見る
中央に先ほどの女の子がいて、両脇に二人の少女がたたずんでいる
その中の三人は、笑顔でこちらを向いていた




1―2


「ふ~、少し早く走りすぎたかな?」

こなたはあの後、図書館ま走ってきた
太陽の位置がまだ東の空にあることを確認し、図書館のドアを開ける

「いらっしゃい、こなたちゃん。今日は早いわね」

図書館の館長だ。人手不足により、カウンターで貸し出し業務も並行している

「うん、早く封書が読みたくてね~」
「急がなくても、封書は逃げないわよ」

そう言うこなたに笑いかけながら、一冊の本を取り出し、カウンターに置く
タイトルは現代の文字で書かれていないうえに中身まで同じ調子。故にこれまで封書とされてきた本だ

「よし、さっそく読もうかな」

こなたは図書館中央に位置する読書ルームに移動

「……おおお……」

本を開いてすぐ、こなたの目が輝きだした





どれくらい時間が経過しただろうか、窓の外はオレンジ色に染まっていた
本来ならお昼頃に本を読むのを一時中断、古武術の修行を行うはずだった
しかし、本に夢中になっていたこなたはそれを忘れていた

「ふ~、おもしろかった~」

パタンと本を閉じ、ふと窓の外を見る
この時初めて、こなたは時間の経過を悟った

「……マジ?」

こなたのこめかみから冷や汗が流れた

「ま、いっか。今日は休暇ということで」

気持ちを瞬時に切り替え、読書ルームを出てカウンターにいる館長に本を返す

「今日はずいぶん長くいたわね。そんなにおもしろかった?」
「うん。新しい事も知れたし」
「それはよかった。さ、早く帰ってお父さんを安心させなさい」
「う……ん?」

――お父さん? 何か忘れているような……?

「あ~~~~~~!!」

こなたは絶叫し、疾風の如く駆け出した

「このロケットペンダントを早く返さなきゃ!! 町を出てるかもしれない!!」

そう、あの女の子と出会ったのは朝方
腰に鞘を差していたということは旅の者、下手をしたら、彼女はもう……

「お父さん!!」

家に着いてすぐにそう叫んだ。全速力で走ってきただけに、肩で呼吸をしている

「おお、どうした? そんな急いで……」
「今朝、女の子が来なかった!?」
「ああ、来たな。薄紫色のツインテールっ子が……」
「その子、今どこにいるか知ってる!?」
「ええっと、今日は宿屋に泊まるって言ってたから、もう宿屋にいるんじゃないか?」
「宿屋……よかった……」

こなたは大きく息を吐き出した。その後すぐに深呼吸、呼吸の乱れを整える

「何かあったのか?」
「うん、朝ね……」

こなたは今朝の話をした。女の子とぶつかったことや、落としたロケットペンダントのこと……

「そういえば無くしたって言ってたな。友人との思い出の品だとか……見せてもらってもいいか?」
「いいよ」

そう言ってこなたは父――そうじろうにロケットペンダントを渡した
中身を見たそうじろうの顔は一瞬驚きに染まった

「……どしたの?」
「あぁ、いや、なんでもない」

そうじろうはロケットペンダントの蓋を閉じてこなたに返した

「もうすぐで夕飯ができるから、それを食べてから行きなさい」
「うん、わかった」
「そうそう、ちゃんと手は洗えよ」
「わかってるよ」

外にある井戸にこなたが走っていくのを見届けると、そうじろうは呟いた

「……どういうことだ? あの子は確かに人間だった。だが、両脇の二人は……」



1―3


(さて、どうしようかな……)

暗闇の中、こなたは宿屋の前で思案していた
アウレ町の宿屋は少し特殊で、宿泊客以外の人間が中に入るには宿泊客の許可を得ないといけない
もちろん向こうは自分の名前を知らない。自分も向こうの名前を知らない。これでは会うことはほぼ不可能だ

(……仕方ない、覗きみたくなっちゃうけど、窓の外から……)

こなたは宿屋と隣の家屋との間に入り、裏手に回る
そこは意外と広々としており、夕方なら小さな子供が鬼ごっこをしていそうだ
こなたは宿屋の窓から見えないよう、窓の下を通る
中をそっと確認し、目当ての女の子がいないと、次の窓に向けて動きだす。その繰り返し
そして、とある窓の下で彼女の動きが止まる
窓の下から目の部分から上だけを出し、中を確認する
そこには、薄紫色の髪の女の子が二人いた
一人は椅子に座り、一人はベッドの中で上半身を起こしている

「……つかさ、またひどくなってない?」

椅子に座る女の子の声。横顔しか見えないが、あのツインテールは間違いない、今朝の女の子だ

「ううん、私は大丈夫だよ、お姉ちゃん…」

今度はベッドの上の女の子。どうやらツインテールの女の子の妹らしい、姉と違ってショートカットだ
なぜか肩で呼吸をしており、苦しそうにしているが、ここからでは顔がよく見えない
左手にアザがあるところを見ると魔術師であろう

「ほら、あまり無理しちゃだめよ?」
「うん……。少し横になるね」

そう言うと、つかさと呼ばれた女の子はベッドの中に潜り込む
少しだけ身を乗り出してみると、つかさの顔が少しだけ見えた

(……!?)

「……この旅を続けてもう一ヵ月だね」
「そうね……でも、つかさの容体は悪くなるばかりね……」
「私の病気って、生まれつきなんだよね……」
「ええ……いろいろなところの医者を訪ねたけど、結局治る気配すらなかったって、お母さんが……」
『それは医者じゃ治らないはずだよ』
「「え!?」」

突然した声に驚く二人。窓の外を見ると、青く長い髪に頭からぴょこんと跳ねた毛
ツインテールの彼女には、それらに見覚えがあった。今朝、ぶつかった女の子だ

「ごめん、話は聞かせてもらったよ」
「あんた、なんでここにいるのよ!?」

彼女が窓を開けて尋ねると、こなたは窓のさんに飛び乗る

「説明は後だよ。まずはつかささんが先決だ」

ひらりと舞い降りて部屋の中へと入る

「お姉ちゃん、知り合い?」
「あ、うん。今朝、ぶつかった女の子よ」
「つかささん、っていったっけ。私は泉こなた。よろしくね」
「うん、よろしくね。私のことはつかさでいいから」

笑顔ではあるが、呼吸は荒く、辛そうにしている

「私は姉のかがみよ。ちなみに名字は柊。それで……つかさが医者じゃ治らないってどういうこと?」
「教えてほしかったら八坂こう(この世界唯一の魔導言語翻訳家)さんのサインを」

……鈍い音が辺りに響いた



「気を取り直して……」

ドでかいタンコブを頭に作ったこなたはつかさの顔を見てから少し間を置き、

「つかさは多分……呪われてるよ」
『……え……?』

二人は何も言わず、つかさを、自分自身を見る
つかさは、自分は、ただ病弱なだけだと思っていた。それがまさか、呪いだったなんて……
今までの苦労は何だったのだろう、落胆したかがみはうつむいた

「これは……どうやら対象者の魔力を奪う呪いみたい
生まれつきってさっき言ってたから、その時から狙われてたんだろうね。つかさは常人よりも魔力が高いみたいだし」

魔力とは、魔術を行使する際に必要な力であり、すべての命の源でもある。これが尽きると、その者の命も尽きてしまうのだ
基本的に魔術を行使する際に消費され、時の経過により回復していくが、つかさのように呪いによって魔力を吸い尽くされた人間もいるのだ

「……さて、どうする? 一番手っ取り早いのは呪いをかけた張本人を倒すこと」

淡々と、二人にそう説明し、反応を伺う。すると、うつむいたままのかがみが左の手で拳を作った

「……場所は、わかるの……?」
「うん、だいたい予想はついてるよ。一緒にくる?」

かがみは顔をあげ、拳を高く振り上げた

「私も、つかさを救けたい!!」
「……決まりだね」

かがみからつかさへと視線を変え、

「つかさは私の家で待っててくれないかな? 本当は強いんだろうけど、今のつかさだと酷だよ」

つかさは少し考え、憂いを含んだ顔で何も言わずに縦に振った



1―4


翌日、こなたは家の前で待っていた
目的は、前日の柊かがみ、つかさを出迎えるため
父親のそうじろうには、事の次第を全て説明してある
背負ったリュックには松明や薬草、念のための食料も入っているが、武器は一切入っていない。格闘家のこなたにとっては必要がないからだ

「お、来た来た。おはよー!」

行き交う人々の間から薄い紫色のツインテールが見えた
間違いない、柊かがみだ
つかさの腕を肩にかけ、つかさ自身の負担を軽くしているようだ

「おはよ!」
「おはよー、こなちゃん」
「こ、こなちゃん!?」
「そ。こなたちゃんだからこなちゃん。ダメかな?」

こなたはガックリとうなだれ、「18」とだけ呟いた

「へ?」
「私……もう18なんだけど……」

二人は、どう受け止めていいかわからないといった様子だった

「ご……ごめんね……」
「いや、いいよ。一度定着しちゃった呼び名は変え辛いだろうし。さ、行こうか」

かがみはつかさを降ろし、こなたと顔を見合わせて行ってしまった

「……無事で帰ってきてね……二人とも……」





町外れの洞窟。ここは、何かあった時のための非難所とされている
そんな洞窟の前に、二人は立っていた
幅はそれほど広くなく、狭い通路が延々と続いているようにかがみには見えた

「ここに、つかさに呪いをかけた奴がいるの?」
「多分ね。まずは入ってみよう」

躊躇いもなく入っていくこなたを追い掛ける。何故か楽しんでいるようにも見えた

「アンタ、なんでそんなに楽しそうなの?」
「いやー、私、町から出たことがなかったからね。その点だとかがみ達が羨ましく思えるよ」

ヘラヘラと笑うこなたに、かがみは苛立ちを覚えた
自分たちは、とても大変な思いをしてきたというのに

「かがみってやっぱり剣士なの?」
「え? ああ、私達の家族はほとんど剣士よ。ちなみに姉が二人いるけど、その二人もね」

右の腰に下げた鞘を見る。剣士は利き手の反対に鞘を下げる。つまり、彼女は左利きなのだろう

「つかさは魔術師でしょ? アザがあったし」
「アザ? ……ああ、印(いん)のことね。そうよ、つかさは炎と雷の魔術師なの。つーかアザって……学校で習わなかったの?」

その言葉を聞いたこなたは少しうつむき、

「私は行きたかったんだけどね、学校……。なぜか行かせてくれなかったんだよ」
「え……?」

学校は別に強制的に行かされる場所ではないので、それほど驚くことでもない
だが、このご時世、学校に通っていない人間の方が珍しかった

「多分、『賢者の娘』っていうレッテルを貼られるのが怖かったんじゃないな」
「賢者の娘……か」

世界には『三賢者』と呼ばれる人達がいる。こなたはその一人の娘なのだ
賢者とは、過去の事柄を未来に紡いでゆく存在である。また普通の人間にはない特別な力もあり、人々に頼られている
かがみ達も、そんな三賢者の力を頼りにアウレまでやってきたのだ

「そうよね。小さい子供とかって、そういうのに敏感なのよね」
「一応、私に勉強を教えようとしたんだけどね。勉強イヤって言ったらやめてくれた」
「おいおい……」
「あ、でも武術はちゃんと習ってたよ」

その場で正拳突きをするこなた。なかなか様になっている

「さ、着いたよ。ここがこの洞窟の最深部……なはず」

話をしているうちに着いたようだ。そこは今までの通路とは違い、ドーム状の広間となっていた

「はずってなによ」
「さっきも言ったでしょ? 私は村から出たことないんだよ。だからここに来たのも初めて」

こなたはざっと広間を見渡し、そして正面を指差した

「あの赤い光、見える?」
「うん……ぼんやりとは……」

不自然に揺らめく赤い光。外からの光はほとんど入らないのに、なぜ……
反射しているのではなく、自ら発光している? だとしたら……

「魔物か何か、ね?」
「松明に火を点けようか、あんまり見えないし」

そう言ってこなたは松明に火を点ける。視界が一気に開け、そこに何がいたかすぐに理解できた
悪魔をかたどった石像が意思を持った魔物――ガーゴイルだ
右手には三つ又の槍、背中から生えた翼で低空飛行、額にある宝石のようなモノがキラリと光る

『ギギ……』

向こうもこちらに気が付いたようだ、こちらに向かってゆっくり移動してくる
松明を岩の間に差し込み、

「あれはガーゴイルだね。額の宝石には『死者の魂が宿っている』って言われてて……」


かがみはこなたの声を途中からまったく聞いていなかった

腰に下げた鞘から家宝の剣――シャムシールを抜く
怒りの眼差しで、ガーゴイルを見据えながら

「――!? かがみ、ま……!!」

こなたが制止しようとしたときには、かがみは駆け出していた

(こいつが……つかさを!!!)

今のかがみにあるのは激しい憎悪、剣を高く振り上げ、

「――斬魔!」

ガーゴイルに向けて一気に振り下ろす! ……しかし、

『ギ?』
「か、硬い!」

かがみが一閃させた剣をガーゴイルは片腕で受け止めていた
奇声を発して、ガーゴイルはその槍を振りかぶった!
身の危険を感じたかがみはそれが振り落とされる前にバックステップで後退する
が、先ほどとは比べものにならないほどのスピードでかがみの懐に潜り込み、左の拳をかがみに食らわせる!

「がっ……!!」

避け切れず、腹部にもろに喰らったかがみの身体は後方へと吹き飛ばされた。このままでは、壁に激突する!

「かがみ!」

何時の間にかがみの後ろに来たのか、こなたがかがみの身体をキャッチ!
こなた自身の身体も、かがみの勢いで数mほど後ろに滑ったが、壁に激突する前に止まった

「こなた、ありがとう……」

口から少量の血を流し、息も絶え絶えのかがみ。腹部に激しい痛みを感じ、こなたに体重を預ける

「かがみ……気持ちはわかるけど、無謀だよ」

三つ又の槍を自由自在に振り回すガーゴイルを見据え、

「ガーゴイルは石の魔物なんだ、物理攻撃はほとんど効かないんだよ」
「じゃあ、どうしろっていうのよ……? 私は魔術なんて使えないわよ……」

魔術が一番有効だ、そうこなたは言いたいのだろうがそれは無理な話だ
魔術師にのみ出るアザ――すなわち印は、その者の総合的な力を吸い取って魔力へと変換させるため、魔術師には非力な人間が多いと、かがみは学校で習った
かがみを受けとめたあの腕力、魔術師にあれだけの力は普通はないため、こなたはただの格闘家だろう
これは――物凄くまずい状況だと、かがみは判断した

「ま、私にまかせてよ」
「え? あ、ちょっとこなた!」

かがみをその場に置き、ガーゴイルに突進していく

「ちょっと! あんただって『ただの』格闘家でしょう!? 太刀打ちできるわけが……!!」

出せるかぎりの声で叫ぶかがみの言葉を無視し、こなたは突進をやめない。右手を大きく振り回し――

「……え!?」

こなたの右腕に、白い光が収束していく。あんな光、かがみは見たこともなかった
一体、何の光なのか。それ以前にどこからあの光が……?

「――仙光拳!」

直後、こなたの腕はガーゴイルの胴体を貫いていた

『ガ……!?』

どうやらそれはガーゴイルも予想だにしなかった出来事のようで、全く動く気配を見せない
貫いたガーゴイルの穴とこなたの腕の間からは、未だ光が洩れている

「んじゃ、この宝石はもらっとくよ」

余った左腕でガーゴイルの額にある宝石を抜き取り、ポケットの中に入れる
突き刺さった腕を抜き、掌を合わせ――

「光の中に消えちゃえ! ――フォトン!!」

光がガーゴイルを包み込み、それが消えた時にはガーゴイルは跡形もなく消え去っていた
あれは間違いない、魔術だ。しかし、なぜ『ただの』格闘家であるこなたが……

「こなた……あんた……?」
「あはは、いろいろ疑問があるでしょ」

こなたは笑いながらかがみに近づいてくる

「話は後にしようよ。早くここから出よう」
「ええ……」

かがみはゆっくりと立ち上がり、しかしうまく立つことができずに壁にもたれかかった
その光景を見て思い出したかのように、

「その前に回復だね。ちょっと待って」

先ほどと同じように、こなたは掌を合わせ、なにやらぶつぶつと呟き始める。そして……

「ヒール!」

拳を挙げてそう叫ぶと、かがみの周囲に暖かな光が渦巻いていく
それと同時に、腹部の痛みが嘘のように引いていくのを感じた
三賢者の一人――泉かなたの家系に代々伝わる力《治癒術》である
人体の代謝を加速させ、傷の治りを早くする術で、極めれば死の淵にある者さえ生き返らせることが可能になるのだ
かがみはつかさを治してもらうべく、アウレにまでやってきたのだが、強力な治癒術を持っていたかなたは亡くなっていた
そうじろうからこなたのことを聞いてはいたが、まだ若いために力が弱いという話だったので、昨夜は宿屋へ戻ったのだ
痛みが完全に引いたかがみは、出口へ歩きだすこなたへ礼を言いながらその後を追った





1―5

「お姉ちゃん!」
「つかさ!」

泉家に帰ってきた二人を待っていたのはすっかり元気になったつかさだった
かがみはつかさと抱き合い、喜びを噛み締める

「よかったね、つかさ! これでもう苦しまなくて済むよ!」
「うん! ありがとう、お姉ちゃん!」

美しい姉妹愛、こなたは思わず笑顔になった

「まあ、疲れてるだろうし、まずは入りなさい」
「あ、はい!」

そうじろうの言葉を聞き、かがみは家の中に入っていく

「……姉妹、か……いいな……」

こなたはそう呟くと、ゆっくりした足取りで中に入った





「こなた、ありがとね。あんたがいなかったら、つかさは治らなかったわ」
「いやいや、困ってる人を助けるのは当たり前だよ」

家の中で、先ほど洞窟で起きた出来事を話した。さっきからかがみに何度もお礼を言われたため、こなたは少し照れていた

「で、そのことなんだけど、あの光はなんだったの? 見たことなかったけど……」
「その話は俺からしよう」

不意に、そうじろうが喋りだした

「FOE変化って知ってるかい?」
「えふ、おー、いー……変化?」
「ちょっとつかさ、前に習ったでしょ?」

確かに以前、二人は学校でFOE変化について習った
魔術を行使した際に放出される魔力が、武器若しくは身体に流れ込むことをFOE変化と呼ぶ
一時的なものだが、刀剣が炎に包まれたり、拳から雷が発生するといった変化が生じる。もちろん本人にダメージはない
ちなみに魔術師が使う武器そのものに魔力を流れ込ませ、FOE変化させることも可能だ

「このFOE変化を利用した武術が古武術で、こなたはそのうちの一つ『光牙流』を会得しているんだ」
「他にもお父さんからいろいろな武術を学んだけどね」
「ち、ちょっと待ってよ! FOE変化って言ったって、じゃあなんでこなたは魔術を使えるの!?」
「そうだよね、こなちゃんには印がないみたいだし……」

印は大抵、というか確実に利き手の甲に浮かび上がるものだ
こなたの手を見てみるが、やはり印はなかった
……そう、“印は”

「あれ? こなちゃん、これって……」
「そ。白晶石」

こなたの右手の甲に見つけた、白く光る石――白晶石
晶石とはそれぞれ色に対応した力を秘めた石のこと。赤晶石なら炎の力、白晶石なら光の力を秘めている、といった具合だ

「なるほど」

不意にかがみがうなずく

「いくら魔力を持っていようと、印がなければ魔術は使えない。だから、ソレが印の変わりになってるってわけね」
「そういうこと。五ヶ月くらい前だと思うけど、魔導書にあったのを実験してみたんだ。そしたら見事に大成功!」
「いいなぁ……私も魔術使いたいなぁ……」

右手でVサインを作るこなたを見てうっとりするかがみ。が……

「すっごく痛いけど、出来ないことはないよ? やってみるかい?」
「い、いえ……遠慮します……」

そうじろうの言葉で一気に消極的になってしまった

「さて、と……明日には帰らないとね。すいません、お礼の一つもできないで……」
「いやいや、別に見返りを求めてたワケじゃないし」

かがみとつかさは必要最小限のお金と薬しか持ってきておらず、お礼に出せそうなものは一つもなかった

「私、かがみ達の村に行ってみたいな」
「えっ、私達は別にいいけど……」

三人は一斉にそうじろうを見た。その顔は困っているようだった

「……そんな顔で見られたら、断れるワケないだろ? とは言っても、女性ばかりは危険だし、俺も一緒に行くからな」
「やた! 他の村に行くなんて初めてだよ!」

こなたはわざとらしくバンザイをする。

「……それにしても、ペンダント、どこ行ったかなぁ……」
「……あ……」

笑顔が一転、しまったというような顔になり、左手で口を覆う
そして、服のポケットやら道具袋やらを調べ始める

「あった! はいこれ」
「!! 私のロケットペンダントじゃない!」

かがみはこなたからペンダントを受け取る。……否、奪い取る

「ぶつかった時に落としたみたいなんだよね。いやー、返すのすっかり忘れてたよ」
「よかった……もう見つからないかと思ってたのに……」
「よかったね、お姉ちゃん」

蓋を開いて中の写真を見る。そこにはやはりかがみと二人の女性が写っていた

「つかさはいないね」
「うん。私、この時休んでたから……」
「その二人、友達?」
「ええ。私たちの……親友だった人達よ」
「親友だった?」

ひどく意味深な発言、こなたは言葉を反芻した

「左が日下部みさお、右が峰岸あやのっていって、学校時代の親友なんだけど……三年前から、行方不明なの」
『え……?』

こなたとそうじろうの言葉が被る

「まだ死んだってわけじゃないけど……もう、三年も経ってる。絶望的だわ……」
「……生きてて……欲しいんだけどね……」

声が出なかった。出せなかった。あまりに、重い話だったから

「……さあ、昔話はここまでにしましょ! 宿屋にまだお金払ってないし、今日は宿屋に泊まるから!」
「あ、お邪魔しました~!」

二人はあわただしく、泉家を出ていった

(……日下部みさおに、峰岸あやの……間違いない、三年前に来た、あの子たちだ。どういう要件だったかな……)

そうじろうは少し考える

(……!! そうだ、思い出したぞ! 確か、二人は……)





1―6

「こなたって、魔導言語が読めるのね」
「うん。アウレの図書館には翻訳前と後の魔導書があるからね。それで自力で覚えたんだ。まだ訳されてない魔導書も読みたかったから」

アウレを出て数日が経った。かがみ達の村〈オーフェン〉はアウレの南に位置しており、徒歩で行くには数日の時間を要するのだ
かがみは昨日、キャンプでこなたが読んでいた魔導書を横から見たものの、現代語でなかったために驚いたのだ

「昔、絵本は飽きたーって駄々をこねたことがあってな。試しに魔導書を読ませたらすっかり虜になったんだよ」
「え、そんなエピソードがあったんだ……」

昔話に花が咲く。特にこなたは、同年代の友人がいなかったためにとても楽しんでいた

「もう結構歩いたよね」
「そうよね。もうそろそろ着く頃だけど……」
「ん……?」

ずっと先からだが、しろい煙があがっているのが見える

「火事、かな?」
「いや、それにしちゃ煙が出てる範囲が広すぎだ。今日は風もないのに……」
「お、お姉ちゃん! あそこ、オーフェンがあった場所だよ!」
「嫌な予感がする。急ごう!!」

四人は煙の発生地点な向かって駆け出した!





「嘘……でしょう……?」
「村、が……」

オーフェンに着いたこなた達は、目の前に広がる光景に、かがみとつかさは愕然とし、こなたとそうじろうは息を呑んだ

――村が燃えている!
道具屋が、葡萄棚が、学校が、紅蓮の炎に包まれて、火の粉を巻き上げていた

「おかしい」

耳を澄ましていたそうじろうが呟いた

「これだけの惨劇なのに、声がまったく聞こえない」
「もう逃げているとかは? 村の外にいるかも」
「よし、手分けして人を捜そう! 俺はこなたが言ったように村の外に逃げた人を捜す!」

そう言うと、そうじろうは一人村とは反対方向へ走っていった

「お姉ちゃん達が心配だよ!」
「私達は家の方を捜すわ! こなたは反対方向を!」
「わかった!」

かがみは脱兎のごとく駆け出し、その後をつかさが慌てて追った

「お姉ちゃん達、大丈夫かな……」
「つかさ! 悪いほうに考えない! 姉さん達は絶対に大丈夫よ!」

そう言うかがみも、不安を拭えないでいた。これだけの惨劇、もしかしたら……
かがみは首を何度も振り、考えないようにした




「私達の家が……」
「ひどい……メチャクチャだよ……」

自分達の家も周りと同じく、紅蓮の炎に包まれていた。思わず、最悪の事態が頭をよぎる

「か……かがみ……? つかさ……?」
『!!』

不意に、自分達を呼ぶ声がした。それはとても聞き慣れた声で――
振り返ると、村の中央付近に倒れている人影を発見した。間違いない、あの人は――

「まつりお姉ちゃん!」
「姉さん!」
「やっぱり……ふ、二人だったか……」

二人は同時に声をあげ、かがみはためらうことなく姉の――柊まつりの体を抱き起こした

つかさが目を逸らすほど、彼女の傷はひどかった。明らかな刀傷であり、かがみにはそれが、致命傷であるとわかった

「はは……お、オーフェン最強と言われた私が……ざまあないね……」
「姉さん! 姉さん!」

かがみはひたすら彼女の体を揺らす。つかさは悲しみで立っていることすらできなかった

「む、村はね……ラミア軍にやられたんだ……みんな、連れていかれちゃったよ……」
「じゃ、じゃあ、お姉ちゃんの傷は!?」
「その、ラミアに……抵抗したんだけど、ね……多勢に無勢って……このことなんだね……」

ラミア軍とは、かつて世界を統治していたヴァルア王国直属の軍隊だ
現在は国という制度はないのだがヴァルア城、並びにラミア軍もかつての名残として残っている
そのラミアがなぜ、オーフェンという小さな村を……?

「ぐ、軍の奴らは……王国の再建のために、って言ってた……ゴホッ……」

口から大量の血液が、まつりの顔を紅く染める

「かがみ、つかさ……私は、もう……無理みたい……だから……私の、変わりに……村の、みんなを……」
「!? 姉さん! 姉さん!!」
「頼んだよ……二人、と……も……」

まつりは最後の息を唇から漏らし、それきり動かなくなった

「そんな……まつりお姉ちゃん……!!」
「いや……いやぁーーーーー!!!!」

泣き崩れるかがみの悲痛な叫びが、廃墟と化した村の隅々まで響いた





「誰か! 誰かいませんか!?」

こなたは村の中を駆けながら、声をあげる。廃墟と化した建物を調べ、人がいないかどうか何度も何度も確認する

「!」

そうしているうち、建物の陰から、燃え盛る村を哀しそうな目で見つめている女の子を見つけた
栗色の髪、青色に輝く瞳、白いマントが風にたなびいている
左の腰に鞘を差している。彼女も旅の剣士なのだろう
右手の甲に見たこともない印に加え、赤色に光る石――赤晶石
印を持つ剣士はとても珍しい。それに、印を持っているということは魔術を使えるということ。それなのに、わざわざ晶石を付けているところもまた珍しい


(……待てよ……?)

晶石を使って魔術を使用可能にする方法はまだ一般には普及していないはず。村には知れ渡っているが
方法が示された魔導書は翻訳されていないうえにアウレに一冊しかないはず
魔導言語の読める旅人がアウレに来たとき、魔導書を読んだのだろうか? そうすると、自分の他にも、魔導言語を読める人間がいたのだろうか?

「……虚しい、デスね……」

女の子は呟いた。というよりも、こなたに話し掛けてきた
自分は彼女の視界には決して入らない場所に位置している。気配だけを感じ取ったなら、かなりの手練だ

「無益ナ争いナンテ……虚しいだけデス」
「あなたは?」

こなたはゆっくりと彼女に近付き、そして問い掛ける
視線を村からこなたへと移し、彼女は喋りだす


「人の名前を聞ク時は、マズ自分から名乗ったラどうデスカ?」
「あ、ゴメン。私、泉こなた」
「泉コナタ……ですね? ワタシはヴァルア城直属の軍隊、ラミア軍隊長のパトリシア=マーティン、通称パティでス」

彼女の喋り方に、こなたは違和感を覚えた。なまりというか、発音がどこかおかしい

「……コノ村は、ヴァルア城の城主「子神アキラ」にヨって破壊するよう命ジられたのデス」
「じゃあ、あなたもこの村を!」
「……いえ、ワタシは軍隊を止メに来たのデス。アキラ様の決定ニは、異論を唱える人も多かったデスから」

彼女は村へと視線を戻し、

「しかし、ワタシは間に合いませんデシタ。建物は破壊サレ、村人はラミア軍の砦やお城に連れテいかれまシタ」
「り、理由は? なんでこの村を襲ったの?」
「ヴァルア王国の再建……ト、兵士達には伝ワっているはずデス。シカシ、それは偽りの目的……」

憂いを含んだ表情で空を見上げる

「信じテくれないかもしれませんガ、私は……」
『いやぁーーーーー!!!!』
「!!」

突然響き渡った悲鳴、二人は同時に声のした方向へ向く

「ナンデスカ!?」
「この声は……かがみだ!」
「カガミ……?」

パトリシアがその名前に反応したのに気付かず、こなたは声のした方向へ走りだす

「かがみ! つかさ!」

村の中央に、二人はいた。二人は誰かの身体に顔をうずめて泣きじゃくっていた

「うう……まつり姉さん……」
「ひっく……えぐ……」
「二人とも……」

こなたは何が起きたのか、瞬時に理解した
姉が、亡くなったのだ。傷口から見て、殺されたのだ
二人の気持ちはよくわかる。自分も、母を早くに亡くしたから

「……二人とも、お姉さん、生き返らせたい?」
「「……え……?」」

二人は顔をあげ、真っ赤になった目でこなたを見た

「どんな願いでも一つだけ叶えてくれる石、『らき☆すたー』。それが、この世界のどこかにあるんだ」
「らき☆すたー……」
「そんな石が……」

二人は顔を見合せ、うなずく

「らき☆すたー……見つけましょう!」
「うん! 絶対に見つけて、お姉ちゃんを生き返らせもらおう!!」

「ソウはさせまセーン!」

突然の声に振り向くと、そこにはパトリシアがいた。右手に剣を、左手に盾を持った状態で

「パティ!!」
「ハーイ、コナタ! ソッチの味方するナラ容赦しませんヨ!」

白いマントを棄てた中は、ラミア軍の紋章が入ったローブ

「こなた! アイツ誰なのよ!」
「ヴァルア城直属の軍隊、ラミア軍の隊長パトリシア=マーティンだよ! なんで剣を抜いてるのさ! ここに来た理由は軍隊を止めるためでしょ!?」

そう言うこなたの後ろで、かがみはシャムシールを抜く。戦いは避けられないと判断したからだ

「ソレとコレとは話が別デース! らき☆すたーを狙う奴らは、我らの理想のジャマとなりマース!」
「ラミア軍もらき☆すたーを狙ってるのか!」
「特に柊カガミ! アナタは抹殺命令が出されていマス!」
「わ、私に!? なんでよ!!」
「オマエ達が知る必要はありマセン!! delete(消えろ)!!」

パティが剣――キャバリアーを構え、突進してくる!

「くっ! 来るなら追い返すまでよ! こなた、つかさ、行くわよ!」
「うん!」
「おけ!」

かがみとパティの剣戟(けんげき)の音が辺りに轟き、それが決戦の合図となった!





1―7

「はっ!」
「ハッ!」

かがみが一気に距離を詰める。パティの剣を防ぐと同時に甲高い音を立てる!

(く! なんて重い一撃なの!?)

パティの力に圧倒されつつも、なおも剣は交じり合い、お互いの身体へは届かない

「ッ!!」

突如、かがみがバックステップで距離を取った

(学校で習った剣技だけじゃ、とてもじゃないけど適わないわ……)

「つかさ、こなた、援護して。素手のアンタたちじゃ、絶対に不利だから」
「うん!」
「わかった!」

こなたは早速両の拳を合わせ、魔術の準備――詠唱に取り掛かる

「見せてやるわ、柊家に代々受け継がれてきた剣術を!」
「!」
「――魔神剣!」

かがみは体をひねって左腕を後ろへ回し、全身の力を込めてそれをまったくの間合いの外から、幻影を斬り付けるかのように空振りした
その瞬間、一閃させた剣から発生した剣圧が衝撃波となり、パティ目がけ疾る!

「――シャドウウィスパー!」
「な!?」

しかし、パティもまた、同じ構えから衝撃波を発生させ、それがかがみの魔神剣とぶつかり、お互いを打ち消し合う!

「まさか! 同じ系統の技が存在するなんて!」
「まだまだ甘いデ~ス!」

今度はパティがかがみに向けて走りだす!

「――デルタレイ!!」

直後、拳を挙げたこなたの掌から三つの光球が出現、パティに襲い掛かる
しかしそれはパティの振るう剣によってすべてが受け流されてしまった

「今だ! 瞬迅剣!!」
「レイジングエッジ!!」

一瞬の隙が生まれたパティへ走り込み、高速で出した突きが風を切ってパティへ向かう
が、それはパティの剣に阻まれ、体に届くことはなかった

「なかなかやりマすね……アレを使いますカ……」
「な……!?」

腕を左右に大きく開き、自らを十字架のようにしたその光景に、かがみは驚いた
間違いない、あれは呪文の詠唱だ!

「……え……?」

そのパティの右手に赤く光る石――赤晶石。加えて、今までに見たこともない形状の印も、しっかりと存在していた
印を持つ者の体力や腕力は、常人よりも劣るのではなかったのか!?

「――プラントウィード!!」
「な!?」

混乱するかがみの足元からツタが発生、身体を絡め取る

「うそ!? 植物!?」
「あんな魔術、魔導書でも見たことないよ!」

未知なる魔術に困惑する二人。植物を生やす術など、今までに見たことがなかった

「な……なに、これ……? 力が……抜け……」
「そのツタは対象者の魔力を吸い取り、そのまま私の糧となりマス!」

かがみの手から、剣が落ちる。それを持つ力が、吸い取られているのだ

「はわわわ!! あのツタをどかさなくっちゃ!! ――ファイヤボール!!」
「「!?」」

つかさの行為に、今度はこなたとパティが驚いた
呪文の詠唱もなしに魔術を行使するほど、高い魔力を秘めていたとは!

つかさの声に合わせるかのように、赤い魔方陣が出現。燃え盛る火球が三つ、かがみに絡まるツタへ向かう

「させまセン! ――ジャガーノート!!」

だが、かがみの魔力を吸い取ったパティも自らの魔力は増えている
やはり詠唱なしで火球を三つ飛ばし、つかさのファイヤボールにぶつけ、相殺した

「もう! 邪魔しないでよぉ!!」
「そう言われテも困りマス! こっちだって、殺ス気でやってるんデスから!」

パティが余裕の表情を浮かべ、つかさを見る
その間にもかがみに絡まるツタは彼女の魔力を吸い取っている。このままでは、かがみの命が危ない!

「――光牙流『心』の奥義――」
「!?」

パティの耳に届いた声。それのする方向を向くと、右手を自分の後方に引いたこなたの姿があった
その右手からは、強力な光が発せられていて――それを見た瞬間、パティは危険を察知した
察知したが……動けなかった。その光の圧倒的な威圧感が、パティを動けなくしていた

「『雲散霧消』!!」

叫ぶと同時に右手を前へ一気に突き出す
こなたの右手に集まった光が巨大な波動となって飛翔、パティの身体を吹き飛ばした!

「Noooo!!」

その身体は、辛うじて原型を止めていた建物の残骸にぶつかり、瓦礫の中に埋まった
それと同時に、かがみに絡み付いていたツタも消え、かがみは地面に倒れこんだ

「よかった、ツタが……」
「つかさ、援護をお願い。先にパティを倒すよ」
「わかった!」



その頃、瓦礫の中でパティは動けないでいた

(Shit! まさかコナタも晶石を付けていタなんて!)

口から流れ出る血を拭い脱出を試みるが、体勢が悪くまるで力が入らない
その瞬間――

「ライトニング!」

パティの埋まった瓦礫に小規模の落雷が発生
それは瓦礫を崩し、パティを自由にしただけだった。立ち上がり、剣を握りなおす
が、その雷の狙いはパティに攻撃するためではなかった

「What!?」

いつの間にかパティの目の前まで走ってきていたこなた
その手にはつかさの放ったライトニングの――雷の魔力が溜まり、しばしば放電していた

「これで終わりだよ! ――ライジンブレイク!!」

雷を纏った拳でパティに渾身のアッパーカットを極(き)める!

「――ッ!!」

声にならない悲鳴をあげ、空中へ投げ出されたパティの身体は重力によって地面に叩きつけられた

「終わった、かな。……! そうだ、かがみ!」

その一部始終を見ていたこなたは思い出したかのように、かがみの方へ走りだす
つかさがかがみの腕を肩に回し、なんとかこなたの方へ歩いてくる
いつかのかがみとつかさの立場が逆転していた
こなたはかがみの胸に右手をかざす。白晶石の力で、かがみの魔力の残量を調べているのだ

「これは……だいぶ魔力が減ってるね。――チャージ!」

叫んだ瞬間、かがみに向けた掌から光の球体が出現。それが粒子となってかがみの身体に吸い込まれていく

「……あ、あれ? なんだか、身体が軽く……」
「私の魔力を少し分けたんだ。時間が経てばすぐに元通りになるよ。かがみは魔術師じゃないから、魔力の消費はほとんどないしね」

つかさから腕を離して自力で大地に立つ
先ほど倒れた時にこびりついた砂を払い、二人に向き直った

「ありがと、二人とも」
「ふふ、お姉ちゃんが無事でよかった」
「そだね」

その時、誰かの足音が聞こえてきた
あわてて三人が振り返ると、そこにはボロボロになったパティの姿があった

「あんた、まだ……!」
「NO……こんな状態で戦っテも、たかが知れてマース……」

パティの言っていることは正しかった。それは悪あがきであり、無謀なのだ

「私がもう少し早ク来ていれば……アナタの、Sisterは……これは、止められなかった私の責任デスね……」

三人の後ろにいる柊まつりの死体を見、顔を歪める
こなたは、パティが冷酷な人間でないことを知った。ただ命令に従うだけの兵士とは違う、後悔の瞳をしていたから

「軍の隊長とハ言っても……私は一兵士……コレ以上の命令違反は、できまセン……だから、私の変わリに……オーフェンの人間を、助けてあげて下サイ……」
『!!』

パティのお願いに、三人は耳を疑った。今、パティがしようとしてることは、軍を裏切るも同じことだ

「村人タチは……南の『サーバ地方』……北西の『イリジアン地方』にそれぞれある砦……そして、北東にある『ヴァルア城』で……働かセられているはずデス……」
「なんで……そこまで教えてくれるの? お姉ちゃんを狙ってたはずじゃ、なかったの?」
「Yes……確かニ、私達の狙いは柊カガミでしタ……デモ、村人タチは無関係なんデス……このまま捕まってルのは……筋違いでショウ……?」

三人は無言のまま、パティを見つめた。彼女の言っていることは出任せなどではないということを悟ったからだ

「今日ノところは、帰らせテもらいマス……デスが……次に会った時は、こうは行きませんヨ……See you……」

そう言うと、パティはフラフラしながらも村を出ようとした

「ちょ……待ちなさ……」

かがみが引き止めようとするが、その肩を掴みこなたが制止させた

「かがみ、ダメ。パティは確かに襲ってきたけど、最終的には私達に重要な情報をくれたんだ。恩を仇で返すような真似は、絶対にダメだよ」
「くっ……」

歯を食い縛りながらも、かがみは黙ってパティの背中を見送った








「まず、情報を整理してみよう」

村の外から帰ってきたそうじろうが、大方の事情を聞いた後、三人に言った
オーフェンから避難した人は見つからなかったそうだ

「まず、オーフェンはヴァルア城直属の軍隊、ラミア軍に襲われた」

かがみが最初に言った

「オーフェンが襲われた理由は、王国の再建のためだったって、まつりお姉ちゃんが言ってた」
「でもそれは偽りの目的」

つかさが続け、更にこなたが付け加える

「本当の目的は……多分、かがみを殺害、もしくは拘束するため」
「私のせいで、村が……姉さんが……」

肩を落とし、落胆するかがみ
その様子を見たこなたが、かがみの肩を叩く

「悪いのは、かがみじゃない。本当に悪いのは、小神あきらだよ」
「こなた……」

かがみは頷き、すっかり廃墟と化したオーフェンを見回す

「……村のみんなを、助けなきゃね」
「そだね。パティちゃんは、砦とお城に連れてかれたって言ってたよね」
「ここから一番近いところは南――サーバ地方の砦だね」

そう言ってこなたは、とある方向に顔を向ける

「こなた、太陽の位置からしてそっちは北西のイリジアン地方だ。サーバは南だぞ?」
「う!」

かがみとつかさは小さく笑った後、本当の南を見る

「ここにいても、何も始まらないわね。早速、行きましょ」
「うん」
「あ、それ……」

歩きだそうとするかがみ達をこなたが呼び止める

「私も行っていいかな?」




――ヴァルア城 国王の間――


「柊かがみ、見つからなかったんだ……これが世界中に知られたら、私の信頼がガタ落ちだよ……」
「申し訳ありません、あきら様!」
「気にしなくていいですよー。ご苦労様ー♪」
「は、はい!」

玉座に座っていた少女――小神あきらは立ち上がり、報告をしていた兵士の肩に手を置く
その顔は、まるで小さな子供のような、無邪気さ溢れる笑顔だった

「この一件は、部下であるあなたの仕業として処刑させてもらうね」
「は……え?」
「――爆裂のヴォルカニックレイ♪」
「う、うわあああああ!!」

あきらの言葉に呼応するかのように局地的な爆発が兵士の足元で発生、次の瞬間には、兵士は影も形も残っていなかった

「ったく、弱いくせによくヴァルア四天王なんかになれたわよね。死んで初めて私の役に立ってくれたわ」

先ほどの笑顔はどこへ行ったのか、今は鬼のような形相で兵士のいたところを睨み付けた

「――フレイムドライブ!」

刹那、あきらは振り返り、天井に向けて火炎弾を飛ばした
その火炎弾が天井に当たる直前に、燕尾を思わせる形のマントを羽織った男が天井から飛び降りた

「さすがヴァルア四天王最強とうたわれるだけあるわね、立木。この私にギリギリまで気配を感じさせないんて」
「ありがとうございます、あきら様」

立木と呼ばれた男はあきらの前に膝をつき、頭をさげた

「全て拝見させていただきました。あきら様の命令であるとは我々四天王、及び隊長以外の耳には届いておりません故、ご安心を」
「相変わらず気が利くじゃない。新しい四天王は……その隊長、パトリシア=マーティンがいいわね」

あきらは自分が先ほどまで座っていた玉座へと戻っていく

「……その話なのですが、パトリシア=マーティンが泉こなたという人物にやられました」
「!!」

歩みを止め、そのまま立木に振り返る

「……それは確かなの?」
「はい。今、医務室にて治療を受けています。柊かがみも共にいたと、パトリシアは言っていました」
「……」

親指の爪を噛み、ぶつぶつと何かを呟きながら、あきらは考える

「……仕方ないわね、泉こなたも軍のブラックリストに載せといて」
「は!」
「それで四天王だけど……アイツにしてちょうだい」

その言葉を聞いた立木が驚きで目を見開く

「アイツを……? 正気ですか!?」
「今の軍の中で四天王になり得るのはアイツだけよ。わかったらさっさと伝えてきて」
「……承知しました」

それだけ言うと、立木は設置されているワープ装置を使って国王の間を後にした

「……私のせいで、『柊かがみの旅が早まった』のね。しかも、泉こなたまで加わるなんて……なんとしてでも先に、らき☆すたーを手に入れなきゃ……」




――あいつの願いを、叶えるために――






「ダメだ、こなた! 旅なんて危険すぎる!」
「ちょ、離してってばお父さん!」

こなたの肩を掴んでブンブン揺らすそうじろう
こなたがそう言った瞬間、そうじろうの手は離れた

「あんたの父さん、よほどあんたが好きなのね」
「私が死んだお母さんに似てるからじゃないかな。過保護すぎて逆に疲れちゃうよ」

耳元でささやくかがみに、こなたは少し呆れ気味に肩をすくめた

「興味本位で行きたいわけじゃないんだよ、お父さん。私はパティを倒したんだから、軍のブラックリストに載ってもおかしくない」
「……そっか、そうなってたら、今度はアウレが襲われちゃうんだね」
「それに二人の旅は、らき☆すたーを探す旅でもあるんだよ。私はいろいろな魔導書を読んでるから、二人の力になれる」

そうじろうは目を瞑り、考える
こなたが行く旅はおそらく危険なものだが、こなたの言うことももっともだ
それに……

「……娘の望みだしな。行ってこい」
「ありがとう、お父さん」
「俺はずっと待ってる。だから絶対に、生きて帰ってこいよ」
「もちろん!」

こなたはそうじろうの瞳をまっすぐに見つめ、振り返る

「さあ、行こう! 目指すはサーバ地方だよ!」
「うん!」
「ええ!」

こなたを先頭に、三人は歩きだした
村のみんなを救うために、らき☆すたーを手に入れるために――!









「こなちゃん、そっちは東だよ!」
「はぅあ!!」
「大丈夫かしら、こんなんで……」
ツールボックス

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