ID:HtmFcu0r0氏:オタクじゃないこなた

ある日曜の夕方。
家族に頼まれた買い物を済ませて帰る途中の道で、私は見覚えのある少女の姿を見かけた。

「こなた~、何やってんの?」
「あ、かがみ」

私が近づくとこなたは慌てるようにして、店頭のショーケースに背を向けた。
しかし、彼女の低い身長では背後にある物を隠しきれず、すぐに何を見ていたのかわかってしまう。
それは店の看板代わりではないかと思ってしまうほどの、巨大なクマのぬいぐるみだった。

「あはは、ちょっと可愛いと思って見てたんだ……」
「へえ、欲しいんだ?」
「うん……でも、高いからね」

それほど興味のない私とは違って、こなたはこうした女の子らしい物が好きだった。
好きだと言っても無計画に買いあさるわけではなく、今日のように見るだけで我慢をしている事が多い。
ライトノベルなども私が貸した物を読むだけで、どうやらお小遣いを使わないようにしているらしかった。
これは推測でしかないが、母親のいない家庭で育ったことで、わがままを言わないようになったのだろう。
自分の要求を主張しすぎることで、父親までもがいなくなってしまわないかと恐れるあまり。
……いけない。また、同情的になってしまった。
こなたが今でも辛いのかなんて、本人にしかわからないのに。
私は罪滅ぼしとして、親友の願いを叶えてあげたいと思った。

「買ってあげようか?」
「えっ、ダメだよ。だってこんな値段なんだよ?」
「そんなの気にしないでよ。あんたと違って、私は家で巫女のバイトをしてるんだから」

遠慮をするこなたの静止を振り切って店に入ると、私は店頭の商品を買いたいと従業員に伝えた。
学生が買うには高価すぎる物であるため、店員は訝しげな目で私を見た。が、そこはやはり商売人。
財布から現金を出した途端に、笑顔を浮かべて「お届けしましょうか」と私に尋ねた。
私の手帳には、年賀状を書くために教わったこなたの住所がメモされている。

手続きを終えて外に出ると、こなたは私が店に入る前とまったく同じ姿勢で待っていた。


「お待たせ。お金はもう払ったから、数日で家に届くと思うわよ」
「……あ、ありがとう。私、一生大切にするから!」
「一生って……。相変わらず大袈裟ね」

私は笑って答えながら、そのセリフを聞くのは二度目だなと、数ヶ月前のことを思い出した。
彼女の誕生日を祝ったときに、魔法使いのようだと言われたことがある。
自分の気持ちを理解してくれて、魔法のように簡単に願いを叶えてくれると。
とても安い贈り物であったにも関わらず、彼女は一生大切に持っていると言ったのだ。
だけど、私の本性はそんな良い人間とは正反対で、心の中を見られたら嫌悪されることは間違いない。
汚い打算で動く私を、彼女はきっと軽蔑するだろう。
それでも構わない。彼女の笑顔のためならばどうでもいい。
無邪気に喜ぶこなたを見ていると、何もかも、どうでもよくなるのだ。
純真で、ひたすらに無垢で、可愛くて。
そんな笑顔を見ていると、同性として羨ましくなってくる。
私が何も知らない異性であったら、きっと彼女を好きになっていたはずだ。

帰り道の別れる場所で、私は最後にもう一度だけ打算的な言葉を口にした。

「あのさ、たまにはさっきの子を見に行ってもいいかな?」
「うん。もちろんだよ、かがみ」

彼女の笑顔から安心している様子を感じ取り、やはり言って良かったと思った。
これで、私に対する負い目はなくなっただろう。
二人の共有物をこなたが管理する事になり、「買ってもらった」という印象は軽減される。
こなたが何度も振り返りながら遠ざかる様子を見届けて、私はようやく自分の家へと向かった。
おつかいの品を入れたビニール袋は手に食い込んで、私の罪の重さのような痛みを感じた。

いつか、彼女への同情心を隠しきれずに、バレてしまう時が来るかも知れない。
だけどその時までは。
私の心を知られるまでは、彼女にとっての魔法使いであり続けたいと、強く願った。


ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。