「思い出の旅路」ID:JUTwa.BE氏

ー1ー
ドアが開き、バスからこなたが飛び出てくる。
「よっと。っとっと」
長い間座っていた為、足取りがおぼつかない。
「どうも~」
二人分の料金を払い、そうじろうが後に続く。
警笛を鳴らし、バスが去って行く。
「このすぐ近くなんだが…あ、あったあった!」
バス停から少し歩いた所に、目的の場所はあった。
山間の少し寂れた宿屋。強いて名前を付けるならボロ屋旅館。
それほどまでに廃れ、朽ち果てた、とまでは言わないが、
老朽化した宿に二人は到着した。
「大丈夫なの?お父さん」
「まぁ、まだやってるって事は、大丈夫だろ?行くぞ、こなた」
暖簾をくぐり戸を開けると、中は思った以上に綺麗だった。
入り口には花が生けられ、木彫の像や掛け軸、
奥には売店やゲームコーナーも見て取れた。
ボロ屋から一転、そこは極ありふれた、普通の旅館の様であった。

ー2ー
「ごめんください」
声をかけると、奥から着物姿の女性がやってきた。
「予約してた泉です」
「ようこそ、いらっしゃいませ。…お久しぶりですね、泉さん」
女性は優しく微笑んだ。
女性に案内され、床張りの廊下を進むと、『ぼたんの間』という部屋に到着した。
手際良くお茶の用意をし、二人にそれを差し出して、女性は去って行った。
「お父さん、知り合いなの?」
お茶を飲みつつ、こなたが聞いてきた。
そしてそうじろうも一口。
「昔来た事があってな。その時の女将さんがあの人だったんだ。
 よく覚えていてくれたな」
「一人旅?」
「いや、俺とお前とかなたの三人だ。
 お前はちっちゃかったからな。覚えてないだろ?」 
「…うん」
少し寂しそうなこなた。
「そっか。いいとこだぞ?ここは」

ー3ー
仕事が一段落したのを機に、家族で旅行に出た事があった。
山に行くか海に行くかどちらか迷って、俺とかなたは
こなたに行きたい方を選ばせる事にした。
「こなた、お山に行きたい!」
生憎あの頃のこなたは水が嫌いで、海には行きたがらなかった。
宿に入る前に牧場や動物園を散策し、疲れを忘れて三人で遊びまわった。
お昼は確か、美味いと話題だったうどん屋ですませたはずだ。
家族セットと言うのがあって、これが思った以上の大盛りで、
みんなで吹いた記憶がある。
体の小ささと反比例するかなたの胃袋、
こなたもうまうま言いながら、一生懸命頬張っていた。
なんとも微笑ましい光景だった。
「よくいらっしゃいました」
旅館に着くなり、ふくよかな年配の女性が俺達を迎えてくれた。この旅館の女将だ。
彼女は俺を見るなりこう言った。
「あの、失礼ですが、泉さんって、作家の泉さんですか?」
「え、ああ、まぁ、…そうですけど…」

ー4ー
聞けば、彼女はかなりの読書家で、俺の顔は
本に載ってた写真で知ったらしい。
まさかこんな所でこんな出会いがあるとは。
彼女は時間を見計らって、俺の元へ本を持ってくると、
そこから一人サイン会が始まった。
なかなかの情報通というか、俺の知らない業界の話や、
自分の事等、色々話してくれた。
その間かなたはこなたをあやしていたけど、
突き刺さる視線がちくちくと痛かった。
部屋を去る際、彼女は
「露天風呂を貸し切りにできますが、如何でしょう?」
と、問掛けてきた。
喜んで!露天風呂は温泉の醍醐味!断る理由は有馬温泉!!
たまにあるんだよな。家族風呂ってんで貸し切りにしてくれる旅館。
幸いこなたも付いてきてくれて、風呂ながら、家族水いらず。
三人で洗いっこしたり、浸りながらの一杯も最高だった。
「なんかさ、こうつかってると、嫌な事とか忘れちゃうよな。
 俺は世界一の幸せ者だよ。かなた、こなた」
「しやわせー!」
万歳をするこなた。
「もう、そうくんったら」
かなたも笑っていた。
幸せの一時、最高の休日だった。

ー5ー
畳に寝転がり、んー!と伸びをするこなたとそうじろう。
極めて平和的な、休日の昼下がり。
「こなた、ちょっと散歩に行かないか?」
横に寝そべるこなたをちら見し、そうじろうは声をかける。
「う~ん。いく~」
気だそうなこなたの返事。でもその声からは嫌嫌しさは感じられない。
いつも通りのこなたの返事であった。
よっ、と起き上がり、もう一度伸びをするこなた。
そんな娘の姿を見て、ほくそく微笑む父。
「何?娘を卑らしい目で見ないでよ!」
当のこなたも本気ではなく、それは日常のふざけ合い。
親子の、いたって普通のコミュニケーション。
「よっし、いくぞ、こなた」
すくっ、と立ち上がって、カメラ入りの小さなバッグを手に取るて
いそいそと二人は部屋を後にした。
人気もなく静かなロビー。ゲーム機から流れるメロディ以外は音が聞こえない。
「あれ?お父さん、あれ」
こなたの指差した先に、壁に掛けられた一枚の写真があった。
仲の良さそうな、家族の記念写真。
それにはそうじろうかなた、小さなこなたに女将が写っていた。
「懐かしいな~。確か帰り際に頼まれたんだよ。一緒にお願いしますって」
四人の記念写真。旅館を背に四人が笑っている。
小さいこなたも勿論笑っていた。
「取っといてくれてたんだ…それにしても若いよな~
 かなた、ほんとお前にそっくりだ。逆か?ははは」
写真の中のかなたは、しとやかに微笑んでいた。


ー6ー
旅館を出て裏道を少し行くと、その先に林道があった。
更に進むと、眼前は断岩絶壁。
頭上を遥かに仰ぐ、巨大な滝がそびえていた。
手前の縁には手摺が携えられ、東屋も建っている。
そこはさながら、憩いの場でもあった。
「凄いだろ。自然の壮大さを感じると言うか、想像が膨らむよな」
轟音を放ち、水が絶え間なく滝壺に落ちていく。
覆い茂る樹木が、しぶきを浴びて七色に煌めいていた。
まるで絵や映像作品、そのままの風景。
「そうそう、ここでな、かなたに高い高ーいってやったら、本気で怖がってな
 お前はきゃっきゃって喜んでたのに」
縁に立って、そうじろうは高い高ーいの仕草をして見せた。
「お父さん」
こなたの言葉と共に、風が吹き抜けた。
「ん?何だ?こなた」
少しだけ肌寒い、微風。
「この旅行ってさ、もしかしたら、お母さんとの思い出探しか、何か?」
こなたの顔は、風に吹かれて愁いていた。

ー7ー
「ここに着いてからお父さん、『かなたがな』『かなたがさ』って
 お母さんの話、よくしてる」
「え…いや…その…」
「私さ、お母さんとの思い出、全然ないから、少しだけ…悔しい」
「すまん…その、そんなつもりじゃなかったんだが…すまん、こなた」
「謝んないでよ。ていうか私もごめん。…悔しいけどさ、嬉しいよ。
 色々なお母さんが知れて。
 だからさ、もっと聞かせてよ。お母さんの話」
風が止んだ。こなたの顔と声も、いつの間にか元の明るさを取り戻している様だった。
「こなたぁ」
屈み、こなたの肩を抱くそうじろう。
瞳は潤み、今にも涙が溢れてしまいそう。
「もう、お父さんまでそんな顔しないでよ。
 お母さんじゃないし、代わりにはなれないけでさ、
 今は私がいるじゃん。今日も楽しもうよ。楽しませてよ。ね?」
微笑みながらぺちぺちと父の頬を叩くこなた。
「うぅぅ」
鳴咽、頭を垂れて娘の肩でそうじろうは泣いた。
「…も、もぅ、しょうがないなぁ…」
今度は親が子にする様に、頭を優しく撫でてあげる。
「俺は…俺は嬉しいよ!よし!お前ももう一度高い高いだ!」
「え?」
腰を掴み、こなたを掲げるそうじろう。
「ほ~らこなた。高い高~い」
「ちょ、お父さん!?マジで危ないって!お父さんってば!」 
「高い高~い、高い高~い♪」
「も、もぉ…」
涙を流しながら、娘と戯れるそうじろうであった。
「(ちょっと恥ずかしいけど…たまにはね…って怖いよ!ホントに!!)」

ー8ー
夕食を終え、後は明日に備えて寝るだけ。
こなたももう寝ている。
俺は、考えていた。
迂濶。だったと思う。
この旅行はこなたとの旅行、そのつもりで来たはずなのに
思い出は思い出、そう割り切ってたつもりだったのに。
思いはつい、口を出てしまう。
あいつの事なら尚更だ。
こなたは笑ってくれていたけれど、やっぱり寂しいんだろう。
いつもそうだった。こなたを喜ばせたくって、あいつの話をしても
結局寂しそうな顔をさせてしまう。
こなたはあいつの温もりはおろか、声すらも覚えていない。
いくら求めても、相手がいるのは遥か先。
この世ではない。酷い話だ。
母親の役はできても、こなたの母親はあいつだけ。
「かなた、俺の選択、間違ってたかな」
首から垂らしたロケットペンダントを開けてみる。
あの頃のかなたが笑っていた。
「それ、お母さん?」
「うぉわ!?」
振り向いたらこなたがいた。
「相変わらず熱々ですなぁ~」
ニヤケルこなた。
「ああ。…付き合い出した頃な、交換したんだ。二人で」
「ノロケ話ですな」
ムフフと口に手を当て、こなたは笑っている。

ー9ー
これ以上話すべきか、正直戸惑ってしまう。
「お父さんってさ」
「ん?」
「片時もお母さんの事、忘れてないよね」
「え」
唐突の発言。
「家にいる時もそうじゃん?いつも写真見てるし」
確かに、年がら年中あいつの写真見てるな。
「お母さん、幸せ者だよね。今でも一途に思われてるなんてさ」
「…こなたさ、寂しいだろ?俺が話しててもさ…」
ん~、と少し考え込むこなた。
「そりゃまぁ、寂しいと思う事もあるよ?でもしょうがないじゃん。いないんだし
 今はお父さんの話だけで十分だよ。それに寂しいのはお互い様じゃん?」
お互い様…
「それで良いのか?」
「それしかないじゃん。お父さん再婚する気ないんだもん」
「断定かよ」
「お母さんと結婚した時点で確定してます」
「はは、まったく。まぁ、間違っちゃいないがな」
「でしょ?さってと、私はそろそろ寝るよ。
 お父さんも早く寝なよ?おやすみ~」
「おぅ。おやすみ」
俺が思ってた以上に、こなたは強い子みたいだな、かなた。
明日は予定を少し変更して、「かなためぐり2006」を慣行しようと思う。

ー10ー
作家の朝は早い。
昼夜逆転がどうとかは置いておこう。
俺は練りに練った。今日のこなたとの予定。
あいつとの思い出を可能な限り、探し回った。
探す、元より頭にちゃんと残っているから、探すと言うより確認。
机上の物であるかの様に、手に取るように何があったのかわかる。
朝の起こされ方、食事のメニュー、帰路の会話、眠るあいつの顔。
流石は愛、あいつの事なら何でも記憶している。
「おはよ~、お父さん」
珍しくこなたが早起きしていた。
「おう!おはよう。今日は徹底的に巡るぞ!」
ガシッとガッツポーズを決めてみる。
「うん!」
こなたも元気だ。
「お父さん、ちゃんと寝た?目の下くまできてるよ?」
正直、ちゃんとは寝ていない。
色々回想していたら、その都度悶々としてしまって、眠れるどころではなかった。
だが辛くはない。むしろ気持はハイ。
よく言う言葉を使うなら、「ずっと俺のターン」 
睡眠は帰ってからでもできる。
今はこなたとの旅を楽しみたい。
こなたに良い思い出を持ってもらいたい。
だから、今日は徹底的にあいつの事を知ってもらう。

ー11ー
「おはようございます。昨日はよく眠れました?」
8時を回った頃、女将さんが朝食を運んできてくれ。
「ええ、ばっちりです」
「ふふふ」
と、不敵に笑う女将さん。このくま面、ばれてるかも知れないな。
彼女との束の間の談笑、彼女は相変わらず俺の本を読んでいてくれていた。
写真もあの日からずっとあの場所にあり続けていて、
ロビーに本も揃えていてくれてるらしい。
こなたは不思議そうに俺達を見ていた。
「お嬢ちゃん、大きくなったわね。ほんと、お母さんそっくり」
えへへと照れ笑いするこなた。まんざらでもなく嬉しそうだ。
そう言えばかなたがいない理由、何も話していないけど、察してくれてるのかな。
食事を終えて、俺は聞いてみることにした。
ロビーはやはり静かだった。女将さんはカウンターで書き物をしていた。
俺は彼女に声をかけた。
「あの、かなた、いや、妻との事、ご存知だったんですか?」
突然声をかけてしまい、女将さんは少し戸惑っている様だったが
「はい、本で読みました。あっ、すいません。さっきは余計な事を…」
俺の方を向き、慌てつつもそう答えてくれた。
「いえ、娘も吹っ切れてるというか…本?」
あれ?
「ええ、ちょっと待ってて下さい」
と言うや否や、女将さんは本棚から1冊の本を持ってきた。
「これです。以前こられた後、その…」

ー12ー
『思い出の旅路』そうタイトルの付けられた本。
これは、あいつが逝った後、失意に沈みながらも、みんなのごり押しで出せた本だ。  
あいつとの思い出を忘れない様、綴って綴って綴りまくった、
俺が俺を励ます為に書いた本。
でも、書いておいて、励ますどころか悲しみさ、侘びしさが増して、
あの頃から、読み返した事はあまりなかった。
「そっか…」
忘れちゃいけない本だった。
あいつとの馴れ初めや、色々な出来事がほぼノンフィクションで綴られている。
ー愛妻かなたに捧げるーその言葉から始まり、 
締めの言葉はー沢山の思い出をありがとうー
後書きには本を出す経緯も載っていた。
あの頃の心境がよくわかる1冊。
正直、昔の作品に触れるのは苦手だ。むず痒いと言うか何と言うか。
「もう14年…娘も高校生になりました」
「お元気そうで何よりです。仲、よろしいんですね」
「娘はどう思ってるかは知りませんが、俺は世界一の幸せ者だと思ってます」
「うふふふふ、惚気ですか?」
こなたの事を話すといつもこうなってしまう。俺はホント馬鹿親だな。
「…いやぁ、ははは。でもホント、ここに来て良かったです」
「ありがとうございます。女将冥利に尽きます。正直心配しておりました。
 ここに泊まっていただいたのも何かの縁。憧れていましたから…」 
「お陰様で…父子共々立ち直ることができました」
こうも支持してくれる人が目の前にいる。何よりも嬉しかった。
わざわざ本も置いて、写真まで飾ってくれていて。恥ずかしいより、それ以上に嬉しかった。
「へへ、それじゃあ、その、準備がありますので」
「はい。それでは」
何かエネルギーを貰った気がする。何と言うか、最高の気分だ。

ー13ー
天気は快晴、絶好の行楽日和。
俺もこなたもうきうき気分。
「お父さん、ちゃんと着けてる?」
「ん?何を?」
「ロケットだよ、ロケット。昨日の」
「ああ。ほ~れ、いいだろう♪」
この旅行が終ったら、本を書こうと思う。
タイトルは『思い出の旅路2』…まんますぎるよな。
「こなた。まずは、ここだ!」
各所にラインや、赤丸のついたガイドブックをこなたに見せる。
動物園や渓谷、あいつとの思い出を一挙にまわる。
こいつの目に、耳に、あいつの生き様を叩き込んでやるんだ。
「1日でまわり切るの?」
「ん~、駄目だったら明日もあるし。問題ないだろ」
「そだね」
俺とこなたは、旅館と女将にしばしの別れを告げ、バスに乗り込んだ。
が、昨日のつけが遂に来てしまった様で…
「こなた、すまん。…眠気が…着いたら…起こして…」
「うん。降りるのは確か、○×△自然公園だよね。いいよ~。起こすよ~」
こなたの声が遠い…

ー14ー 
今日は待ちに待った家族旅行。
3人ともうきうき気分だ。
巷で噂の観光スポット、○×△自然公園に俺達は来ていた。
TVや雑誌で報じられている通り、一面赤や黄、オレンジに染まり
多くの人がその光景に心を奪われていた。
「うわぁ…凄く綺麗!そうくん!こなた!」
「お母さん、はしゃぎ過ぎだって」
「ははは。でも、見事な紅葉だよな」
「だね」
俺達も多分に漏れず、時を忘れて絶景に魅いっていた。
すると突然、こなたが俺とかなたの脇を抜け、走っていった。
「良いねぇ、絵になるねぇ、お2人さん。
 1枚撮ってあげるよ♪」
そう言って俺達にカメラを向けるこなた。
「ほらほら、もうちょい寄って。そうそう、良い感じ。んじゃ、ハイ・チーズ!
 うん。良いのが撮れた♪そんじゃ、私も1枚…てぃ!」
更にこなたは自分に向けてシャッターを切った。
「おいおい、撮ってやるから。かなたとこなた、一緒に並んで」
「うん。ほら、こなた」
こうして見るとほんとに瓜二つ。まるで姉妹。背丈も変わらないし、髪も同じロング。
かなたがしとやかなのに対し、こなたは何というか。
「お父さ~ん、早く~」
見惚れてる場合じゃなかったな。
それから今度は、道行く人に頼んで、3人で撮ってもらう事にした。
まさに、両手に華、だな♪

ー15ー
「ちょっと!お父さんひっつきすぎ!」
「おいおい、親子なんだから良いだろ?」
「私も~、えーいっ♪」
仲が良いと言うか、周りの人に笑われてしまった。
秋の風情を楽しんだ後は、隣接された動物園見学。
動物園と言ってもそれ程大きくはなく、飼われている動物達も多くはないけど
2人とも大いに楽しんでくれたみたいだった。
ふれあいコーナーでは兎や小動物を抱き、馬にも乗せてもらった。
慣れない手で手綱を引き、落ちそうになりながらも必死でしがみつく2人。
2人して同じ行動をとるというのも、遺伝のなせる技なのかな。
お昼をとろうとランチコーナーに入った時、横からかなたの声が聞こえてきた。
「これからだよ、そうくん」
囁くような、かなたの声。
「…さん、起きて。…おーい、着いたよー?置いてっちゃうよー?
 オイ!オキロ!ソウジロウ!」

ー16ー
頬を何かが叩いてる。聞こえるのは、こなたの声?
「ん…あ…ああ?」
窓の外に、公園のゲートが見える。
「起きた?」
何てタイミングだ。
まるでかなたが教えてくれたみたいじゃないか。
「…ああ。ばっちりだ。よっし、行こう、こなた」
俺は数度自分の頬を叩き、喝を入れた。
こなた、すまん。俺、お前より先に、楽しい思い、しちゃったかも。
「うん…」
うつむくこなた。
「どうした?こなた?調子悪いのか?酔ったか?」
「ううん。私もさっちうとうとしちゃってさ」
「お前もか(笑」
「…そしたらさ、夢、見ちゃった」
「夢?」

ー17ー
「お母さんの夢。私達、3人で旅行してた。
 お母さん、ほんと私にそっくりでさ、私より女の子っぽいと言うか
 もし生きてたら、あんな感じだったのかな…」
あれ?
「かなたはお前と違ってほんと、女の子って感じだったぞ。理想の女の子だ」 
「もぅ!」
ぷーっと頬を膨らますこなた。あいつもよくやってたな。
そっか。こいつも見てたのか。
「案外正夢かもな」
「え」
「ほら」
そう言ってロケットの蓋を開けて見せた。
「お母さんが見せてくれたのかな」
「ああ、きっとそうだ。…よし!行こう!こなた」
「うん!」
俺達はバスを降りて公園の前に立った。
そこは夢で見たものそのもの。
「…さっき見たのとおんなじ…」
こなたも同じ、か。
俺は妙に嬉しかった。
不思議な感覚。
何となくだが、かなたが横にいる。
そんな気がしてならなかった。
「旅のクライマックスだ!行くぞ!こなた!かなた!」
『うん♪』
かなたの声が、聞こえた気がした。

ー18ー
最終日
「お世話になりました。そうだ、今回の旅を本にしようと思ってるんです。
 完成したら送ります。良かったら読んでやってください」
「本当ですか!?ありがとうございます!楽しみにしてますね!」
興奮気味の女将さん。
本は、あの本の続きにしようと思う。
俺とかなたとこなた、3人の思い出。
今回は幸せ自慢だ。
帰りがけ、俺達は再び写真を撮った。
俺とこなた、そして胸のかなたの3人。
女将さんは、自重してくれた。
別れはいつも名残惜しいもの。親しい人なら尚更だ。
「また是非、いらしてください」
「ええ、また来ます」
女将さんに見送られ、俺達はバスに足を乗せた。
山道を走るバス。乗客は俺達以外いない。まるで貸し切り状態。
「お父さん、お母さんがつけてたロケットって、まだある?」
横でこなたが聞いてきた。
「当然」
なくす?棄てる?有り得ない。
「私が貰っちゃ、ダメかな。お母さんの写真入れて、持ってたいんだけど」
思いがけない告白。
「え…」
流石にこればかりは、答えに戸惑っちゃうな…
「ダメ?」
こなたに持っててもらう、娘だし、あいつの事を思っていてくれている。
それなら…。でもかなたは俺の嫁だ。 
これは揺るぎない事実。
世の理。

ー19ー
「んーーーー」
答えが見付からない。
「ダメ…だよね。お母さんとの絆だもんね。良いよ。諦めるよ」
絆、それを娘に託すってのもあり、じゃあ
俺とかなたとの絆はどうなる?
難題だな、これは。
「お父さん?いいよ?諦めるてるよ?私」
そうか…諦めてくれるか…
でもなぁ、かなた、どうすればいい?俺を導いてくれよ、かなた。
「おーい」
ん~、そうだな。旅は終ってないし、
答えは帰ってからでも良いよな?かなた、こなた。
「答えは、保留だな。お、こなた、見ろよ。猿がいるぞ、猿!」
「猿?あ、本当だ!野生ですな~♪」
バスは次の目的地目指して、ひた、走る。

ー20ー
…よくよく考えたら、俺とかなたの絆って、こなただよな?
…って事で、家に帰ったら、プレゼント、してやろうかな。
…許してくれるかな…かなた。
「お父さん!見て!原人の里だって!」
「そうそう、ここいらでな、色々見付かったらしいんだ」
「ロマンだねぇ」
こなた。この旅の思い出、忘れないでくれよ?
あいつとの思い出、これから作る思い出、俺は忘れない。
何でも聞かせてやるから、足りなくなったら聞いてくれ。
な、こなた。
「お父さん見て!見て!」
「ほほぉー、凄いなぁ!こなた!」
延々と続く赤い山々。
俺達は、尽きる事のない自然の驚異に、目を奪われていた。
そして、こなたの目も、いつまでも輝いていた。
(終)
ツールボックス

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