ID:Vil2YYGb0氏:ぼーいふれんど

放課後・・・。
授業も終わったし、いつもならソッコーで帰るところなんだけど、腰が重くて立ち上がれない。
私は椅子に座り込んだままうつ伏せになっていろいろな事を考えていた。
「はぁー」
いかんいかん。ため息をつくと幸せが逃げるんだぜ!
「じゃあ、今日は先に帰るね?」
「あ、あやの・・・。うん、じゃあなぁ~!」
やけにそわそわしてたけど・・・ま、仕方ないか。
「はぁー・・・。と、いけね。またため息出ちゃったよ」
って、独り言まで・・・。私なんか変だよなー。
「く・さ・か・べ!どーしたのー?暗い顔しちゃってさぁ~?」
「うぐ、ひ、ひいらぎ~。頭の上に乗るなってばぁ~!」
「ひひひ、みさおちゃんらしくない顔してるから気になってね~」
「なんでもねぇーけどさぁ~。それより、ひいらぎ胸でかくなったんじゃね?」
「え!ほんと!?ほんとに!?」
必死で胸をまさぐるひいらぎ。なんか、ちょっとエロいんですけど・・・。

「あぁ、胸だけじゃなかったわ。全体的にこう、ふっくらと・・・」
「うぐっ。う、うるさい!食欲の秋を謳歌してただけよ!?そ、そりゃあちょっと食べ過ぎたかなぁ~とか・・・」
「あはは!嘘だって!太ってもないし、胸も変わってないってば!」
「う、それは喜んでいいのかどうか微妙だな」
ちょっとは気が紛れてきたかな?
「それより、今日は峰岸と一緒に帰らないの?」
「あぁ~。今日は、ほら、あいつ誕生日だしさ」
「なるほど~。ん?あ、そかそか」
なんか、一人で納得してる。ま、ひいらぎなりに気を使ってくれてんだろーな。
「誘ってくれたんだけどさー、さすがに高校生活最後だし、私も遠慮したわけよ」
「うんうん」
うなずきながら、ぽんぽんって頭を撫でてくれるひいらぎ。だめだ、私が男だったらとっくにひいらぎに抱きしめてるってば!
「やふ~、お待たせかがみん!」
「おっす、こなたー!」
「ちびっ子、おす~」
「あれ?みさきちあやのさんと一緒じゃないの?」
「ま、たまにはなぁ~・・・」
う、がんばれ私!らしくないな。自分の表情が暗くなっていくのが分かる。
みゅ~ん、なんとかしなくちゃ!

「そっだ!もしかしてこれからどこかいくのかぁ~?」
「え?うん。こなたとゲマズへ・・・」
「そっか。わ、私も着いていって、いいかなー?」
「どしたの?みさきち。まさか落ちてるたこ焼きでも拾って・・・」
「なわけないってば!」
「あはは!日下部が拾い食いするのはミートボールだけだって、こなた!」
「ちょ、ひいらぎー!?」
「あははは」
ふー。こいつらといると少しは気が晴れるよな。
よっし!今日はこいつらとめいいっぱい遊んでやるんだぜ!


「よっ!と」
私はなんとなく勢いをつけたくて、階段を5段ほど一気に飛び降りた。
ちょっとだけど、スッとするな。やっぱ動いてたほうが性に合ってるんだよな、私の場合。
「ちょ、ちょっと!下着見えちゃうわよ!?」
「ん?これかぁ~?ほれほれ!」
私はスカート裾を両手で捲り上げる。少しでもバカやっていたい気分。まぁ、元々馬鹿なんだけどなー!
「うわ!って、スパッツ履いてるのか・・・。いや!だから、いいってもんじゃないだろ!?」
「そだよ~みさきち~。今や需要がどこにあるかわかんないからねぇ~。気をつけないと」
そう言いながら私のスパッツをまじまじと覗き込むあんたは何もんだ?
「じゃ、さっさと買い物済ませてゲームでもやりに行こうぜ!」
私は意気揚々と・・・いや、そんな気分を作りながら駅の改札を出たわけよ。
「変なみさきち・・・」
「気にすんな!あいつも女の子ってことじゃない?」
「?・・・あ、今日はあやのさんの・・・」
「そうゆうこと。いい?今日は日下部を楽しませるのよ?」

最後の大会からずっと陸上部には顔を出してない。燃え尽きたってやつかな?
あの大会はいろいろあったし・・・。でも、それでくよくよ悩んでるのも私らしくない!そっだろ?
だから、努めて明るくしてるんだけど、やっぱ、人間弱いところもあるわけよ。
そんなとき、いつもならあやの”姉ちゃん”が優しく慰めてくれるんだけど、今日はあいつの誕生日だしな。
兄貴と二人きりの時間を提供してやるのが妹の勤めってもんだよな。
こういうとき、友達がいてよかったってすごく安心する。
ひいらぎはいつも私を冷たく突き放すけど、最後はちゃんと面倒見てくれる。まぁ、お姉ちゃん2号だ。
ちびっ子はバカ呼ばわりしてるくせに、やたら友達思いで知らないうちに私を支えてくれてる。
うん。お姉ちゃん3号はもったいないから、妹にでもしておくかな?
そんな二人と遊びに来るときは、たいていこの辺りをうろつくのが定番。
3人とも男っ気が全くないのもあってか、ゲームセンターでだらだらしたりもする。
「ちょっと、そこのお姉ちゃんたち!一緒に遊ばない!?」
「!私たちはあんた達のお姉ちゃんじゃないのよ?いくつだと思ってんの!?しっしっ!あっち行きなさいよ!」
「こわっ!お姉ちゃん怖いね~。まあ、またにするわ~!」
あはは、ひいらぎといると変な連中に絡まれなくて安心だ。
「かがみんさすがだねぇ~!どうやったらかがみんフラグを立てれるのか真剣に研究したくなってきたよ!」
「ふっふっふ、そう簡単に立つもんですか。って、フラグとかないから!」
「あはは、お前ら見てるとあきねぇーなー。あはははは」
そう、こうやって笑ってるのが一番私らしい。私自身もすごく楽でいられるしな。

そんな風にくだらない会話でだらだらしてる私の後ろから男の子の声がした。
「日下部先輩!」
ひいらぎとちびっ子がびっくりしたように会話をとめて声の主を探す。
振り返るとそこにいたのは・・・
「おお!久しぶりじゃねぇーか!」
一つ年下の陸上部の後輩だ。
何色っていうのかわかんないけっど、紫蘇の葉みたいな髪の毛をツンツンに立てて、いつも笑ってる。
そいつは女子の間でも結構人気があるらしく、よく女の子に取り囲まれてるのを見た覚えがある。
「そっすよー!日下部先輩、最近ぜんぜん顔出してくれないじゃないっすか!?みんな心配してますよ!」
「あはは、わりぃ~わりぃ~」
「大会以来ですよね~?2ヶ月ぶりぐらいっす!あ!すんません!友達とご一緒・・・」
「あ、いっけね忘れてたぁ~」
「あんたねぇ~・・・。まあいいわ。こんにちわ」
「2年生かな?私はこれでもいちおー先輩だから、おほん!そのつもりで!」
おいおい、自分で言っておいてくらい顔するなよ。って、ひいらぎも慰める必要なくね?


「あはは。楽しそうな人たちですね?きょうは遊びに着たんですか?なんか先輩とこんなところで会うのって不思議な気がするなぁ」
「そっだよー。今日はこのちびっ子に勝つために来たんだぜ!」
「おやおや~、あんなこと言ってますよぉ~?まだ一度も勝ったことないのに。うぷぷ」
「お!挑戦的だな!いっちょやってやるぜ!」
「いいっすね!俺もゲーム結構上手いっすよ!?」
「いいねー!じゃあ、4人で大会でもすっかな!」
「ちょ、ちょっとー!私は遠慮するわよ?しゅ、シューティング系なら問題ないけど・・・」
なんて、顔見知りばかりでわいわいやるのは今の私にはちょうどいい。
そうだよな、つまんないこと考えてないで最初からこうすればよかったんだ。

「ぐ!お!うわ!負けたー!ちびっ子先輩強いっすね!」
「ふっふっふ。当然。っていうか、そのちびっ子って呼ばれるの恥ずかしいんだけど?」
私とひいらぎは横で見ていて大笑い!”ちびっ子”って言ってんのに”先輩”つけるっておかしいよな?
ひいらぎとは、まあ五分五分の勝負だったけど、あいつとちびっ子はやけに強い!相当やりこんでんだろうな。
だけど、やっぱりちびっ子の方がちょっと上みたいだ。さすが”ヲタク”ってのはすげーよなー!
「ははは。すみません。泉先輩!また今度やりましょう!」
「ふふふ、いつでもかかってきたまえ~」
「あれ?もう行くのか?」
「はい!今日はウチの姉に頼まれてる買い物もあるんで!」
部活の時は気づかなかったけど、こいつが持てる理由が分かる気がする。
なんかこう・・・あうー。頭わるいとこういうときに言葉がでねーんだよなぁー。
「じゃあ、お先に失礼します!」
頭を深々と下げて私たちに挨拶。部活じゃないんだから、もっと気楽にすればいいのに。
「おー!またなー!」
「気をつけて帰りなさいよ!?」
「次回までにはもっと精進するのじゃぞ~!」
「はい!じゃあ、また!です!」
そういって駅に向かって走っていく。

「なんか、かわいい、いい子だねぇ~。アニメとかに出てくる少年のようだ!」
「アニメはどうか知らないけど、こう清潔感があるって言うか、快活っていうか・・・」
「そ、それそれ!それを言いたかったんだってば!さすがひいらぎは頭いいよなー!」
「なによ!?誉めたって何にもでないんだからね!」
ひいらぎが顔を赤くしてるそのとき。
「あ!日下部先輩!」
息を切らしながらものすごい勢いであいつが戻ってきた!
「ど、どうしたんだよ!?」
「一つ、訂正、てか言い忘れたんで・・・」
「訂正?」
「はい!はぁはぁー。ちょっと待ってくださいね」
そんなに重要なこと、何か喋ったかな?
「先輩は久しぶりだったかもしれませんけど」
「ほむ」
「俺はいっつも先輩のこと見てましたから!もっと笑っててくださいね!じゃあ!」
「・・・ほむ」
なんのこっちゃ?そりゃあ、言われなくても笑うけどさ。
なんて考えてるうちにあいつはまた人だかりの中を駅に向かって走っていった。
あいつの姿が消えるか消えないかの内に、私の背後からただならぬ気配が近づいてきた!
「え!?なに!なに?今のって!え、うそーーーっ!」
おい、ひいらぎ落ち着け。意味がわかんねぇー。
「むふふふふふふ。フラグ立ったね!みさきち!」
ちびっ子は左手を顎に当てながらニヤニヤしてる。
「お、お前ら、なんか変だぞ!?」

帰りの電車の中。
家路に着く会社員やOLさん達がいる中でもこの赤面ツンデレ娘と電波系ヲタク娘は何かぶつぶつ言ってくる。
いい加減に勘弁してってば!
「スペックうp、うp!」
「いや、見たじゃねーかよぉ」
「あ、アレだよね?これってアレだよね!?キャー!」
「もしもしひいらぎかがみさ~ん、国語の授業受けてくださ~い。文章になってません~」
やれやれ、こいつらは何を考えてるんだよ?
んー、最近の私ってそんなに暗い顔してたのかな~?
でも、なんであいつはそんな暗い顔をわざわざ見てたんだろうな?
もしかして、部活が大変なのかな?
そんなことしてるうちに電車は止まり、ちびっ子に別れを告げ、ひいらぎと一緒にすっかり暗くなった帰り道を歩く。
「なーなー、ひいらぎ~」
「なに?」
「なんでお前達そんなに盛り上がってんだよぉ?私にも教えてくれよぉ。ぶー」
「は?日下部さん?いま、なんと?」
う、ひいらぎがめっちゃ私のことをバカにしてるときの顔だ!みゅ~ん。
私だって最近のローテンションは確かに反省してるけっどさ、そんな顔しなくてもいいと思うんだ。
「だ、だから、私が暗い顔してっとそんなに面白いんかな~と思ってさ」
「あちゃ~」
ひいらぎが片手で自分の顔面を覆い、うなだれる。

「な、なんか変な事、言ったかなぁ~?」
「あのねぇ、日下部、良く聞いてね?」
ひいらぎはカバンを道路に置くと、両肩をガッシと掴み、私の顔をじっと見つめてくる。
お、こうしてみるとひいらぎってかわいいよなー。
「や、やめろよぉ。照れるじゃねっかよ~」
「ばか!まじめに聞け!」
「みゅ~ん。冗談ですー。ちゃんと聞くってばぁ」
「あのね、こなたじゃないけど、フラグ立ってんだよ?」
「フラグ?」
「そう、フラグ!さっき言ってたでしょ?『ずっと見てました!』って」
「あぁ、そうなんだよなー。何で見てたんだろうな~?私の顔そんなに面白いのか?」
「はあ~~~~」
ひいらぎがいっそう大きなため息をつく。幸せ逃げちゃうぜ!
「年頃の男の子が女の子のことずっと見てる理由は一つしかないでしょ?この鈍感!」
「そ、そんなに怒るなよぉ~」
「いいから、耳かっぽじってよく聞く!あの子はあんたの事が好きなの!」



「あー!なるほどー!そういうことだったのかぁー!さすがひいらg・・・、ひ、ひいらぎさん?」
「な、何よ!?こ、こんな事言うの、こっちだって恥ずかしいんだからね!?」
「あ、あ、あ、あう、あう・・・」
シュゴーーーーーーッ!
ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!マジかよーーーーーーー!?
心臓がバクバクする!今なら顔の上で茶を沸かせそうなほどに熱い!
ひいらぎが目の前で口をパクパクさせてる。あはは、魚みてぇーだな。
って、何言ってるのか聞こえないよ~。
あぁ、頭の中に今までの人生が走馬灯のように駆け巡ってる~。
あやのがいる~、兄貴がいる~、ひいらぎがいる~、ちびっ子がいる~。
おぉ!あんなところで私が突っ立ってるじゃねぇか?
うおぉぉぉー、た、魂ぬけてる~~~!あぶねぇ、も、戻らなきゃ!
えと、あの、つまり、どゆこと?って、これじゃさっきのひいらぎと一緒じゃねぇかよ!?
「・・さ~ん、くさかべさ~ん!はぁ、ダメだ。ほっておこう。先帰るからね~!」

私、日下部みさお18歳は30分ほど路上に立ち尽くした後、帰宅途中の親父に救出されたのでした・・・。

昨夜、そのまま寝てしまったので朝からシャワーを浴びる。
ちょっと早く寝たためか妙に早起きできた。こういうときなんとなく得した気分だよな?
身体を洗いながら昨日の事を思い出してみる・・・。ボンッ!
うぐ!私は瞬間湯沸かし器か!?シャワーから出るお湯よりも全身が熱くなり、まるで水を浴びているようだ。
あう~、余計なこと考えるのはやめた!さっさと学校いこ!
ちょっと早起きしたから、ちょっと早く学校に行く。いいな!
いつもならあやのが起こしに来るんだけど、その前に出かけるのもたまにはいい。
いつもの通りをいつもと同じように歩き、ちょっと早い電車に乗って、生徒数もまばらな通学路を行く。
こ・こ・ま・で・は!よかった!
気がつくと目の前に”あいつ”がいる!!!
「おはよございます!日下部先輩!」
「お、おう!おは、おはよー」
う、意識しちゃってまともに顔が見れん!
ちょ、こっちそんな見るな!顔赤いのがバレっじゃねぇかよぉ。
「学校まで一緒に行ってもいいですか?」
コクコク
声も出せないまま、ただうなずく私。情けねぇよなー、このみさお様ともあろうものが、みゅ~ん。

「・・・」
「・・・」
おい、なんか話せよ!って、向こうもそんなこと考えてるのかな?
「あ、あのですね・・・」
「あ、あのさ・・・」
「どぞ、先に・・・」
「お、お前から・・・」
「・・・」
「・・・」
なんだこれは?私は女優か?なんかのドラマか?漫画か?アニメか?
早く喋らないと学校に着いちゃうだろ!?早くなんか言ってよ!
「・・・先輩!今日の放課後、一緒に走りませんか?」
「は?」
「え、あの、だから、一緒に走りに行きませんか?俺、待ってますから!じゃ、じゃあ!」
「あ、待って!・・・行っちゃった・・・」
勝手な奴!いつも言いたいことだけ言って・・・ずるいよなぁ。
私はしばらくの間、見えなくなったあいつの背中を呆然と眺めていた。
あぁ、う~ん、なんだろ?この感覚・・・。わかんねぇーや。


「で、それからなんかあったの!?」
「ほ、ほんとなの!?みさちゃん!すごいよ!」
ひいらぎの笑顔がめちゃくちゃ輝いてて、あやののおでこもめちゃくちゃ輝いてて、私は変な気持ちでゆらゆらら~。
いや、歌ってる場合じゃない!
ひいらぎのやつ、ここぞとばかりに私をおもちゃにしやがって!
「べ、べつに何も無いってば。それに、もしかしたらひいらぎの気のせいかもしれねーじゃん」
「え!そんなわけないよ!あのシチュであんな事、普通言うかな?絶対告白だって!」
「うんうん!きっとそう!知らないけど絶対そうだよ!」
あやのまでノリノリになってきた。この場から逃げ出したいなー。るー。
そんなこんなで放課の度に二人に事情聴取されてた一日だったが、なんとか終了!
私は一目散に教室を飛び出した!
「お、おい!日下部ー!」
ひいらぎの呼び声が聞こえたけど、今は無視!
今日は約束があるんだ!
なんだろう?ちょっとわくわくしてる、わたし。


ちょっと肌寒くなってきたけど、風が気持ちいい。
先輩が教えてくれたランニングコース。先輩から貰った、ただ一つのもの・・・。
いけね、目にゴミが入ったかな?
久々に着た陸上部のジャージの裾でまぶたをこすり、周りを見渡す。
舗道の脇に並ぶイチョウ並木。ここを抜けると春には満開の桜で埋め尽くされる大きな公園に出る。
先輩から唯一つ貰った、私の大切な宝物だ。
準備運動をはじめる。う、さすがになまってるな。
ゆっくりと足の筋を伸ばし、腕を振り、全身を動かして体温を上げていく。
体温が上がっていくにつれて、忘れていた思い出が蘇ってくる。
初めて先輩に会ったあの日のことや、一緒に練習した日々。
怒られたり、誉められたり、笑ったり。
最後に一緒に走ったのもここ。先輩がいなくなった後、走り続けたのもここ。
ここは思い出が詰まりすぎていて、少し苦しいな・・・。
「はは、私らしくねぇーな。私も女の子だったのかな~」
いつも、いつもそうだ。気が付くのが少し遅い。バカだから仕方ないのかな?
兄貴のことも、先輩の時も、少しだけ気が付くのが遅いんだ。
もっと、頭のいい子になりたいな・・・。
「先輩は女の子ですよ!めっちゃ、女の子ですよ!」


「え!?」
振り返るとあいつがいた。
冷たい秋風が横から吹き付けて私の髪がなびく。涙も一緒に流れてく。
よかった、バレずにすんだ。
色違いの紺色のジャージに紫蘇の葉色のツンツン頭。
「すんませんしたっ!クラス委員の仕事が長引いて・・・」
「ふふふ、いいよ。ちょうど準備運動終わったところだし、行くぜ!?」
「え!?ちょ、俺、まだ・・・」
「あはは、現役は準備運動いらねっだろ!?」
「いや、それ、現役とか関係ないっすよー!」
走り出す!気持ちいい。久々に味わうこの感覚。
髪をといて、顔をなでる風。上昇する体温、張り詰める筋肉。足の裏から伝わる地面の感覚。
嫌なこと、悩み、時間。全てを忘れさせてくれる。
この瞬間が私なのかもしれない・・・。

「せ、先輩ー!そ、そろそろ休憩しましょうよー!」
「うぉ!?」
気が付くと30分近く走り続けていた。
「だらしねーなー!現役だろ?」
「はぁはぁ、先輩のペース早いっすよ!?とても引退した人とは・・・」
「お、おい!?」
ツンツン頭は立ち止まったかと思うと、そのまま後ろの芝生に倒れこんだ。
「大丈夫か?」
「も、もう、ダメっす・・・」
「おい!しっかりしろよ!」

―――またなの!?

「なぁーんて!そんなにやわじゃないっすよ!」
「へ!?」
「もしかして、俺のこと心配してくれました!?」
「ば、ば、ば、ばかー!心配するに決まってっだろー!」
気が抜けたのか、私は腰から下の力が一気に抜けて、その場にうずくまってしまった。
「あ、そ、そんなつもりじゃ・・・。すんません、ちょっとふざけ過ぎました・・・」
ばか!ほんとに心配したんだぞ!
言いたかったけど、声が出なかった。代わりに何故だか涙が出てきた。
「せ、先輩・・・?」
とっくにバレバレなのに必死で泣き声をこらえながら両手で顔を覆う。
「先輩・・・」
「・・・」
年下のくせに、後輩のくせに、私よりもずっと太い両腕の中に私はいた。
あったかい・・・な。
ほんの少しだけこいつに甘えていよう。
こいつにならこんな私を見せてもいいよな?

気が付くと東の空に白銀に輝く月が顔を出し始め、夜の訪れを告げてくれる。
太陽が落ちたのに、ここは暖かい。
「先輩・・・あの、実は、おれ・・・その、日下部先輩のことが・・・」
ふふ、目が泳いでるってこういうときに使うのな。
あたふたしてる後輩を尻目に、私は暖かい腕の中から抜け出る。
「さ、帰るよ?」
「え!?あ、でも・・・」
「らしくねぇなー!昨日も今日の朝も言いたいこと言ってたくせに!」
「あ!そ、そういえばそうですね!」
立ち上がって、二人でお腹を抱えて笑いあう。
もう、答えは決まってる。うん、決めた!
「お、俺、日下部先輩のことが、好きです!」
風が止んだ・・・。
月明かりの照らし出した夜の公園の雰囲気は、いくらバカの私でも分かるくらいに芸術的で幻想的で夢の世界にいるようだった。
私は目の前の男の子の目をじっと見つめながら、ほんの少しだけ時間を稼ぐ。
いじわるだよなぁ、わたし。たまりかねてあいつが口を開く。
「ダメ、ですか?」
そこでようやく私が口を開く。
「私のどこがいいのか言ってみてよ?」
我ながらいい質問だ。とっくに私の答えは決まってるのにな!
「え!?あの・・・、んと・・・、顔も髪も目も耳も口も、明るい性格も大きな笑い声も、全部、全部好きです!」
あはは!顔真っ赤だぜ!うけるなー!てか、こいつよくそんな恥ずかしいこと言えるよな!?
こっちまで赤くなってきたってば!


「でも・・・」
「ん?でも?」
「でも、走ってる時の日下部先輩が最高に、世界中の誰よりも好きです!」
「え!?」
あいつの笑顔と先輩の笑顔が重なる。
―――――「みさお!走ってるときのお前ってすっげーいい顔してるな!」
「せん、ぱ、い・・・」
そか。そうなんだ、こいつにこの場所を教えたのはそういうことだったんだ・・・。
ごめん・・・。
ゆっくりと、ゆっくりと私より背の高いあいつに近づく。
吐息さえ聞き取れるほど近くまで。
今、私どんな顔してるのかな?そんなこと、どうでもいいか・・・。
月明かりに照らされながらうっすらと、でもはっきり浮かび上がる。
ごめん、わたしひどい女かもしれない。
だけど、もう二度と・・・二度と手遅れなんて嫌だから・・・。
彼の呼吸を唇に感じる。両腕を首の後ろに回して、ちょっと強引だけどひきつける。
びっくりしたのか、予想してたのか、彼の身体が私の両腕の言いなりになると、二人の顔は極限まで近づいて・・・。
体温と体温が交じり合う。鼓動が聞こえる。鼓動が聞かれちゃう。
血液が流れてる、温かい血液が。背中に彼のぬくもりを感じる。二人の時間が止まる。地球が自転を止める。
そんな錯覚に落ちたまま、やわらかい感触を確かめ合い、永遠よりも長い一瞬があることを知った。

「ごめん・・・」
時が流れ出し、私は呟く。
何が起こったのか分からない表情で立ち尽くす彼。
「やっぱ、無理だっぜ!お前と私じゃ無理だってばぁ!」
「え!?」
あはは、混乱した顔がかわいいな。
「だから・・・、だからもう少し、時間くれないかな?」
出来るだけ分かりやすく、ゆっくりと口を開く。
「もう少しだけ・・・。今のままじゃ、まだ、まっすぐお前のこと見られないから・・・」
「・・・」
「うん・・・もう少しだけ・・・」
小さく頷いた。それを見て私も頷く。
ごめんなぁ。でも、お前があんなセリフ言うから、本当の気持ちに気づいちゃったんだぞ?
気づいちゃったけど、あの言葉を聞けたから、待ってて欲しい。ほんとにもう少しだけ待ってて。
もしかしたら、この次は無いのかもしれない。この次もあるのかもしれない。
二度あることは三度あるって言うしなぁ。
でも、でも!三度目の正直なんだ、これは!
私は彼の右手をぎゅっと握り締めて駅に向かう。
たまには部活に顔を出すよ、と言うと、彼は嬉しそうに笑った。笑ってくれたことが私も嬉しい。
らしくねぇーけどな!やっぱ私も女の子だったんだな!

「おっと!他の奴らには秘密だかんな!絶対だかんなっ!?」
「あ!はい!分かってますよ、みさお先輩!」

先輩!見てっかな?
いつか、いつか彼のことを先輩に紹介するから!

Fin
ツールボックス

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