第1夜

第1夜

 銀色の月が漆黒の天井の真上に差し掛かる頃、少女はそれを眺めつつ少し震えていた。
秋風が身体に染み込む。都会の喧騒を知らぬ町外れで、うっすらと涙をにじませながら呟く。
「・・・来ちゃったんだ・・・」
男は少女の肩に手を乗せて「ごめんな」と一言呟くと、もうそれ以上、声を出せなかった。


―――――翌朝

「おっはよー!柊姉妹~!」
「おはよぉ、こなちゃん」
「おっす、こなたぁ~。そのまとめて呼ぶのやめないか?」
柊かがみのこめかみがぴくぴくと震えているのを知ってか知らずか、蒼髪の泉こなたは顔全体を緩ませながらにやけている。
どことなく空気にいっそうの透明感を感じる秋空の下、少女たちはいつものように学校へと向かっていた。
教室にたどり着けばやはり、いつもと変わらぬ喧騒が回りを支配し、何事もなく平穏な日々が続くと思われていた。
「そういえば、もうすぐお月見だよね」
「そうね、そんなイベントもあったわね」
「クリスマスとかバレンタインに比べるとイベント感は薄いし、なによりギャルゲーでもそこでフラグは・・・」
「わかった、わかったから、私たちに通じないような話を堂々とするな!」
「おひょ~」
「ふふふ、相変わらずですね皆さん。おはようございます」
クラス一の優等生、高良みゆきが両腕にプリントを抱えて会話に入り込んできた。
「おっす、みゆき!その荷物は何よ?」
「ちょうど良かったですわ。かがみさんのクラスの分もありますから、持って行っていただけないでしょうか?」
「なぁに、ちょっと見せてね?”都市伝説と宗教の関連性”?なんじゃこりゃ?」
柊つかさの頭上にトレードマークのリボンよりも巨大なはてなマークを誰もが確認し、同じようにプリントを覗き込んだ。
「なんでも、黒井先生が卒論で書いたものらしくて、次回からの授業で使用するとのことです」
「ほへー、だてにネトゲしてるわけじゃなかったか」
「あはは、黒井先生には悪いけど、人って分からないものね」
「なぁ、柊~、もうHR始まるんやけどなぁ~」
ゴスッ!ゴツッ!
「った!す、すみませんでしたー!」
「あう~、なんで私は出席簿の角なんですかー」
頭を抱え走り出すかがみとその場でもだえるこなた。教室中が笑いに包まれた。
「さぁ、席につきぃ~。はじめるでぇー」


「さぁて、今日はこなたの買い物に付き合っちゃおうかなぁ~」
「あ、ごめん、かがみんや。今日はバイトの日なのだよ~」
「そうなんだ!?わかったわ、またにしましょ」
「こなちゃん、最近アルバイトの回数増やしたの?」
不思議そうな顔でつかさはこなたの顔を覗き込んだ。
「うん、ちょと忙しくてね~。人手が足りないって言うか…」
「へぇ、じゃあ、パティも忙しかったりするわけだ?」
「へ?う、うん。そだねー」
「なんか憧れちゃうな~。アルバイトやってるだけでも”大人”って感じなのに、仕事で忙しいとかかっこいいよね~」
無邪気に笑うつかさの横で、こなたが少しだけ暗い表情をしたのをかがみはぼんやりと眺めていた。

――21時のニュースです。先程、○○市××町の××交差点付近で28歳の会社員男性が襲われるという事件が発生しました。
男性は首筋に鋭利な刃物で傷つけられたような裂傷があり、大量の出血を伴い現在大学病院にて緊急手術を受けているとのことです。
次に―――

「ちょ、××町ってこなたのバイト先のあるところじゃなかったっけ!?」
「え!そうだっけ!?こなちゃん大丈夫かな?」
二人は居間を飛び出すと一目散に電話機の元へ駆け寄り、泉家へとダイヤルを回した。

「はい、もしもし、泉ですけど~」
「こなちゃん!」
「こなたぁっ!」
「ぬおぉぉぉぉ!かがみにつかさ!いきなりなんなんだ!?」
受話器の向こう側で頭頂部の毛が揺れる様が手に取るようにわかる。二人はほっとして溜息を吐き出すと、次の瞬間笑いがこみ上げてきた。
「もうー!心配したんだよ!?」
「な、な、なに?なに!?」
「ちょっと、つかさ貸しなさいよ!・・・こなたー!元気そうね!」
「う、うん。元気だけどさ、なんなのよ?」
「いいのいいの!元気ならね!また、明日話すわぁ~」
そう言って柊家の三女と四女は受話器を置いた。
あっけに取られていたこなたも受話器を置く。だが、その表情には笑顔は無く、苦悶の、悲哀の相が現れていた。
「いい・・・友達だよね・・・」
部屋へと続く階段をゆっくりと慎重に踏みしめる。
「私なんかにはもったいないくらい、いい友達だよね」
自室のドアノブにそっと手をかける、ゆたかを起こさないように。
「もう・・・後戻りは出来ないからね・・・」
こなたは部屋の壁に向かって険しい眼光を光らせた。
その先にあったのは・・・。
「よごれちゃったな。これじゃ、ブルセラショップに売れないよ」
うっすらと涙を浮かべながら見つめるセーラー服は赤く・・・染まっていた。
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