ID:qGxVJSiz0氏:another story of lucky star

第1夜

 銀色の月が漆黒の天井の真上に差し掛かる頃、少女はそれを眺めつつ少し震えていた。
秋風が身体に染み込む。都会の喧騒を知らぬ町外れで、うっすらと涙をにじませながら呟く。
「・・・来ちゃったんだ・・・」
男は少女の肩に手を乗せて「ごめんな」と一言呟くと、もうそれ以上、声を出せなかった。


―――――翌朝

「おっはよー!柊姉妹~!」
「おはよぉ、こなちゃん」
「おっす、こなたぁ~。そのまとめて呼ぶのやめないか?」
柊かがみのこめかみがぴくぴくと震えているのを知ってか知らずか、蒼髪の泉こなたは顔全体を緩ませながらにやけている。
どことなく空気にいっそうの透明感を感じる秋空の下、少女たちはいつものように学校へと向かっていた。
教室にたどり着けばやはり、いつもと変わらぬ喧騒が回りを支配し、何事もなく平穏な日々が続くと思われていた。
「そういえば、もうすぐお月見だよね」
「そうね、そんなイベントもあったわね」
「クリスマスとかバレンタインに比べるとイベント感は薄いし、なによりギャルゲーでもそこでフラグは・・・」
「わかった、わかったから、私たちに通じないような話を堂々とするな!」
「おひょ~」
「ふふふ、相変わらずですね皆さん。おはようございます」
クラス一の優等生、高良みゆきが両腕にプリントを抱えて会話に入り込んできた。
「おっす、みゆき!その荷物は何よ?」
「ちょうど良かったですわ。かがみさんのクラスの分もありますから、持って行っていただけないでしょうか?」
「なぁに、ちょっと見せてね?”都市伝説と宗教の関連性”?なんじゃこりゃ?」
柊つかさの頭上にトレードマークのリボンよりも巨大なはてなマークを誰もが確認し、同じようにプリントを覗き込んだ。
「なんでも、黒井先生が卒論で書いたものらしくて、次回からの授業で使用するとのことです」
「ほへー、だてにネトゲしてるわけじゃなかったか」
「あはは、黒井先生には悪いけど、人って分からないものね」
「なぁ、柊~、もうHR始まるんやけどなぁ~」
ゴスッ!ゴツッ!
「った!す、すみませんでしたー!」
「あう~、なんで私は出席簿の角なんですかー」
頭を抱え走り出すかがみとその場でもだえるこなた。教室中が笑いに包まれた。
「さぁ、席につきぃ~。はじめるでぇー」


「さぁて、今日はこなたの買い物に付き合っちゃおうかなぁ~」
「あ、ごめん、かがみんや。今日はバイトの日なのだよ~」
「そうなんだ!?わかったわ、またにしましょ」
「こなちゃん、最近アルバイトの回数増やしたの?」
不思議そうな顔でつかさはこなたの顔を覗き込んだ。
「うん、ちょと忙しくてね~。人手が足りないって言うか…」
「へぇ、じゃあ、パティも忙しかったりするわけだ?」
「へ?う、うん。そだねー」
「なんか憧れちゃうな~。アルバイトやってるだけでも”大人”って感じなのに、仕事で忙しいとかかっこいいよね~」
無邪気に笑うつかさの横で、こなたが少しだけ暗い表情をしたのをかがみはぼんやりと眺めていた。

――21時のニュースです。先程、○○市××町の××交差点付近で28歳の会社員男性が襲われるという事件が発生しました。
男性は首筋に鋭利な刃物で傷つけられたような裂傷があり、大量の出血を伴い現在大学病院にて緊急手術を受けているとのことです。
次に―――

「ちょ、××町ってこなたのバイト先のあるところじゃなかったっけ!?」
「え!そうだっけ!?こなちゃん大丈夫かな?」
二人は居間を飛び出すと一目散に電話機の元へ駆け寄り、泉家へとダイヤルを回した。

「はい、もしもし、泉ですけど~」
「こなちゃん!」
「こなたぁっ!」
「ぬおぉぉぉぉ!かがみにつかさ!いきなりなんなんだ!?」
受話器の向こう側で頭頂部の毛が揺れる様が手に取るようにわかる。二人はほっとして溜息を吐き出すと、次の瞬間笑いがこみ上げてきた。
「もうー!心配したんだよ!?」
「な、な、なに?なに!?」
「ちょっと、つかさ貸しなさいよ!・・・こなたー!元気そうね!」
「う、うん。元気だけどさ、なんなのよ?」
「いいのいいの!元気ならね!また、明日話すわぁ~」
そう言って柊家の三女と四女は受話器を置いた。
あっけに取られていたこなたも受話器を置く。だが、その表情には笑顔は無く、苦悶の、悲哀の相が現れていた。
「いい・・・友達だよね・・・」
部屋へと続く階段をゆっくりと慎重に踏みしめる。
「私なんかにはもったいないくらい、いい友達だよね」
自室のドアノブにそっと手をかける、ゆたかを起こさないように。
「もう・・・後戻りは出来ないからね・・・」
こなたは部屋の壁に向かって険しい眼光を光らせた。
その先にあったのは・・・。
「よごれちゃったな。これじゃ、ブルセラショップに売れないよ」
うっすらと涙を浮かべながら見つめるセーラー服は赤く・・・染まっていた。

第2夜

次の日、陵桜学園内のどこにも泉こなたの姿は無かった。
「なんだよ、あいつ・・・。休むなら一言くらい言ってくれてもいいのに・・・」
「昨日、電話の時一方的だったから、怒っちゃったのかなぁ~?」
さびしげな二人。いつもいるはずのもう一人が今日はいない。
HRの時点でも担任である黒井は「ずるちゃうん?来たらとっちめてやるけどな~」としか、言ってなかった。皆勤賞とはいかないまでも、少なくとも3年になってからは
病欠以外のこなたを見ることは無かった。
「でも、メールも出来ないほど重症なのかも!」
「いやいや、それならおじさんから連絡が入るでしょ?」
「そだね・・・」
なにか、嫌な予感がしてた。お姉ちゃんも同じだと思うけど、なんか嫌な予感がする。
そう考えながらつかさは今日5度目のメールをこなたに送った。
<こなちゃん、何かあったの?>


泉こなたはそれから1週間、学校を無断で休んだ。
「どうしたんや泉?」
「すみません、ほんとに何でもないんです!あはは、ネトゲやりすぎてガッコ忘れてたとかさすがの私も言い出しにくくって・・・」
朝の職員室。校内にいる生徒の数もまだまだ少なく、静かな無機質な空気を感じた。
「にしてもやなぁ~・・・」
黒井ななこは思った。泉こなたとは同じネトゲでよく遊ぶほうだ。友人登録もしてるし、プライベートでのメール交換もしている。たしかにこいつは”オタク”と呼ばれる人種に間違いはない。
だが、そこまで羽目をはずしてのめり込むほど壊れた人間ではないはずだ!
教師と生徒以上のつながりを持つ彼女だからこそ、そこの疑問点がどうしても拭えない。
「ホント!ゴメンナサイ!」
こなたは飛び上がるように伸びると深々と頭を下げた。謝罪の言葉を言い終えると黒井の顔を一瞥して退室していった。
「まぁ、えぇわ。そや!今度、例の人狼倒しにいかへんかぁ?結構ゴールド稼げるらしいで?」
ビクッとして肩をすぼめる。歩みを止め小さな声で言う・・・。
「人狼はしばらく見たくないっすね・・・」
再び歩き出す蒼髪の少女。彼女のささやきは担任の耳に届いたのだろうか・・・。

それから放課後までの間というもの、つかさにみゆき、どこから聞きつけたのかひよりやパティまでがこなたの元にひっきりなしに訪れ、彼女の不登校について質問を浴びせた。
もちろん、かがみもその中にいたことは言うまでもない。だが、こなたは一様に「ネトゲ」とだけ答え、引きつった笑いでごまかし続けていた。

――またもや、奇妙な殺人事件が発生しました!現場はまたしても××町!若者の街として賑わいを見せていたこの街には午後8時以降、その影を見ることは出来ません――

家に帰った二人はそれぞれ別々の時間を過ごしていた。
どう考えても嘘をついているとしか思えない親友に対する怒りや悲しみが混沌となり、食事すら受け付けずに自室にこもる双子の姉。
垂れ流したままのテレビ画面をずっと凝視したまま動かない妹。
「あんたたち・・・。」
次女まつりも只事ではない何かを感じてつかさの横に腰を下ろす。
「どうしたのよ?何かあったの?けんかでもした?」
「うぅん。してないよ・・・」
「じゃあ、どうしたの?なんか変だよ。空気が澱んでる気がする・・・」
「え!?」
つかさは不意に正気を取り戻し、まつりにの顔に近寄る。
「うわぁ!な、何よいきなり!?」
「まつりお姉ちゃん、いま、なんて言ったの!?」
「へ?何のことよ?変って言っただけよ」
「ちがう!そのあと!」
いつも温和なつかさの表情に激しさが溶け込む。
「空気・・・空気が澱んでいる気がするよ、って・・・」
「やっぱりそうだよ!」
つかさは立ち上がり駆け出すように居間を飛び出る。あっけに取られたまつりは口をあけたまま妹の消えていく様を見ているしかなかった。


そこは少しかび臭くて、決して気持ちのいいものではなかったがどこか落ち着きのある静寂と温もりが充満していた。
ここに入るのは何度目だろう?少女はそんなことを考えながらろうそくの灯りだけを頼りにゆっくりと歩いていた。
しばらくすると古ぼけた木作りの扉が彼女の前を阻んでいる。中で何者かの呟く声と、ばさっばさっという音が、年代ものの扉の隙間から漏れ出てくる。
少女は扉に手をかけ力を込める。
「おとうさん・・・」
「おぉ、きたね・・・」
いつも見ているものの、その姿は平時のそれではなく、こんな夜中にする格好でもない。
「お父さん・・・」
心配そうに父を見つめる少女。父親は振り向きやさしく声をかけた。
「つかさは優しくていい子だね。それ故にこんな辛い役回りを務めさせて、ごめんな」
ただおは我が子に近づきそっと頭を撫で、やわらかく抱擁した。

第3夜

―――××町

人が倒れていた。その脇にはおびただしい量の血液が溢れ、路面を覆いつくしている。
辺りには小さな人影があるだけで、入り組んだ狭い路地には何も動くものはない。
「ふぅ・・・。まだ・・・まだなのかな・・・」
女の子の声。肩で息をし、身体には熱を帯びているようだ、暗闇の中でも蒸気が立ち上るのが見える。
柔らかな風が流れると、月を覆い隠していた雲がすーっと流れ、白銀の月光が地上に降り立つ。
地面にも着きそうな蒼く長い髪がふわりと揺れ、暗闇から姿を現したのは、泉こなたその人であった。
「!?」
不自然に彼女の頭上の毛が微妙に揺れ、咄嗟に身をかがめると、低い姿勢のまま路地を走り抜けた。
そしてその直後、彼女を追いかけるかのようにもう一つの影が現れた。

どれくらい走ったのか、しばらくしてこなたは小さな公園にたどり着いた。
「ふう、珍しいね、一人でいるなんて」
追いかけてきた影に対し、彼女は親しげに話しかける。
「やっぱり、気づいていたんだね」
「ふふふ。長い付き合いだからね~。それにしてもその”巫女服”よく似合ってるね?”つかさ”」
「こなちゃん・・・」
「ん~でも、やっぱ巫女服は赤い袴がいいかなぁ~?そっちの方が萌えるしね」
なにを想像してるのか、こなたはぐふふと含み笑いしながら、紫色の巫女服を着たつかさを見つめていた。
「知ってるかもしれないけど、話しておくね」
つかさはそう言って一呼吸置くとこなたの返事を待たずに続けた。
「柊家はね、昔からずっとこの地域周辺の守護や八百万の神々を祭ること生業としてきたの。地鎮祭も小さなほかの神社に分業はしてるけど、
かなり広範囲に対して、大きな権力を持ってるの」
月がゆっくりと音を立てずに頭上に達する。いつの間にか雲は消えてなくなり、月光が二人の影を短く映し出す。
「だけどね、本当の目的はそうじゃないの。本当の目的は・・・」
「封魔の一族でしょ?」
つかさがギクリとして背筋を伸ばす。その表情には普段の優しく暖かなつかさはなかった。
「やっぱり、知ってたんだね」
こなたはコクリと頷く。
「ごめんね、こなちゃん。ずっと、友達でいたかったな・・・」
「へ!?ちょ、ま、つかさ!!!」
つかさはポンと軽く地面を蹴ると5メートルはあったであろう間合いを一瞬のうちに詰め寄り、いつの間にか取り出した短刀を一閃させると、そのままこなたの首に切り付けた!
「うそ!?これがつかさ!?」
目を白黒させながらこなたはそれを数ミリの差でよける。
「ま、いいか!こうなたら腕試しもよかろう」
「なにブツブツ言ってるの?こんな事長く続けたくないの!お願い!こなちゃん!」
にやりと笑い、両の手で拳を作る蒼髪の少女。
溢れる涙に構いもせず、泣き喚くように短刀によるつきを繰り返す幼き巫女。
こなたがふわりと宙に舞い、つかさの攻撃をよける。その滞空時間はとても人間業とは思えない。空を飛ぶが如く。
「こなちゃん相手に物理攻撃ばっかじゃダメだね・・・」
つかさは攻撃の手を止め、小さく何かを呟きはじめた。
「言霊・・・まずいな」
こなたは地面に降立ちつかさとの間合いを詰める。その動きは先程のつかさよりも速い。一気に10メートル以上の間合いを0にする。
「ウソ!?」
つかさの言霊が唱え終わらないうちにこなたの両手がつかさの肩をつかみ、そのままコンクリートの上に押し倒した。馬乗りになったこなたはすぐさま右手を振り上げ・・・
「今までありがとう・・・」
弱く小さな声でつかさが囁く。
ドガァッ!
何かが砕ける音がした。
「たのしかたよ~、つかさ~」
顔中を緩ませにやける蒼髪の少女。
長い髪の毛がつかさの顔を覆い隠し、側に寄らなくては表情さえうかがい知る事は出来そうにない。
「むふふ~、こんなに動けるのに体育のときは隠してるつかさ萌え~」
こなたは右の拳をゆっくりと引き上げる。彼女の拳からぱらぱらと小石の様なものが落ちていった。
「こ、こなちゃん!?
ヒビの入ったコンクリートの上でつかさは目を丸くしてにやけたこなたを見つめる。
「よいしょっと!」
こなたはつかさを解放し、後ろに一回転して親友に手を差し伸べた。
「さぁ、起きて!せっかくの巫女服が台無しだよ?」
「・・・」
何も分からぬままこなたに引き上げられたつかさはきょとんとしたまま動かない。
「つかさってけっこうせっかちだよね?私の話も聞いて欲しいのだけど」
こなたの表情はいつもどおりのゆるゆる顔。
「申し遅れたけど、私もね裏高野の退魔師なの。宗派は違うけど、同業者ってところかな?」
「へ?・・・え?」
「あれあれ~、さっきまでの熱血封魔巫女はどこ行ったんだろ?それともこっちが正体なのかな?」
「まさか、は、や、と、ち、り、?」
目を丸くして片言で聞き返す。するとこなたは豪快に笑い、腹を抱えてのけぞる。
「あははは、うん、早とちりだよ!早とちり!よかった!いつものつかさに戻って!つかさに殺されたら負けかなと思ってる」
徐々につかさの顔から緊張が解け始めると、夜の公園に二人の少女の笑い声が響いた。

第4夜

「はは、久々に心のそこから笑えたかな・・・」
「こな、ちゃん・・・」
その言葉とは裏腹に空を見上げてこぼれそうになる涙をごまかそうとしている。つかさは急に切なくなってこなたを抱きしめた。
「一人で闘ってたんだね。大丈夫!私でよければ側にいるよ?」
「ありがとう、つかさ」
こなたはつかさを抱きしめ返すと、堰を切ったように涙を流し始めた。嗚咽を漏らし、身体を震わせる彼女につかさの手が優しく触れる。
「つかさのことは知ってた。でも、巻き込みたくなかった。私が何とかすれば、つかさ達は今までどおり、普通の女子高生でいられると思ったから・・・」
「水臭いよ、こなちゃん。私たち友達だよ?困ったときは相談してよ」
「その通り。何度も同じ歴史を繰り返す必要は無い。宗教の垣根を取り払い、一致団結しなくては・・・。人の欲望は大きくなりすぎた・・・」
いつからいたのか、暗闇の中から柊ただおが二人の少女に歩み寄ってくる。
「お父さん・・・」
「おじさん・・・」
ただおは二人にうなずくと、手を取り帰ろうと促した。もう、月も沈み始めている、こんな時間に女の子だけで出歩くのは危険だと、にっこりと微笑んで。
駅に向かい、いつもの二人に戻った彼女達の背中を眺めながらただおは思った。この二人の前に立ちはだかる運命を変えることが出来ればと・・・。

「というわけでぇ~、ギリシャのゼウス神しかり、インドのインドラ神しかり、各国各宗教により、雷は神格化されてるっちゅーわけや」
黒井の声が教室に響く。昼食後のこの時間、机の上に伏して眠る生徒もいれば、必死にノートに板書する生徒もいる。
昨夜遅く月夜の舞を演じた二人は当然のように舟をこぎ、その目はうつろなまま黒板を眺めていた。
「何にせよやなぁ、大昔の人間は得体の知れない大きな力を”神”さんか”化け物”かどちらかに決定することで生活に対する不安を払拭しとったちゅーわけや」
「センセー!この授業は受験生に関係あるんでしょーかっ!?」
「うるさい、白石っ!受験にカンケーないお前が言うな!」
教室中にどっとわらいが押し寄せる。
「この時間の授業、ウチの科目、それほど受験に影響せんわ!受験で聞きたいことがあれば日曜でも祝日でも相手したるさかい!」
いつものように快活な笑いを響かせる黒井。今日も自慢の八重歯が光る、独身女教師27歳。
キンコーン、カーンコーン
「今日はここまでや!ほなまたな」
黒井が教室から出て行き、休み時間が訪れる。
「ねむいね~」
「ねむいよね~」
うつろな目をした少女二人は引きつるような笑顔で席から離れられないでいた。
「そういえば、かがみんはまだ、怒ってるのかな?」
「セバスチャン白くなって・・・。え!?あ、うん。でも、もうすぐ元に戻ると思うよ。こなちゃんのことでメールも入ってたし」
「なら、いいんだけど・・・。昨日のことは説明してない・・・んだよね?」
「うん。お姉ちゃんには”ちから”が無いってお父さんが言ってた。だから、何も知らないよ」
「むむむ。となるとまだまだ、かがみんには隠し事を続けるわけか・・・。正直、それが一番辛いな・・・」
「こなちゃん、お姉ちゃん大好きなんだね?私、ちょっと嫉妬しちゃうな」
頭をポリポリとかきながら照れ笑いを見せるこなた。
始業のベルが鳴る。放課後まではあとちょっと。次の授業の教科書を出そうとして、二人がそれを供に忘れたことに気づく時にさえセバスチャンは白かった。

放課後、こなた達の教室にかがみがもじもじしながらやってきた。久々の登場だ。
「あ、あのさぁ、怒ってないわけじゃないのよ?ただ、人にはそれぞれいろいろな事情ってのがあるなーって思ったし、あ、あんまり長い間怒り続けるのも疲れるって言うか・・・」
「ごめん!」
「へ!?な、なによ?素直じゃないの?」
こなたの素直な謝罪の言葉にあさっての方向を眺めながら顔を赤くしていたかがみはびっくりして振り向く。
「かがみんが私のことそんなに心配してくれてたなんて、私、私・・・」
ヒクヒクと鼻を動かしながら、誰がどう見ても大袈裟な演技で泣きまねをするこなたにあわててかがみが飛びつく。
「ちょ、ちょっと泣くこと無いじゃない!もう、怒ってないってば」
「こなちゃんの泣きまねにうろたえるお姉ちゃん萌え~、ふふふ」
「つ、つかさぁ!?」
「あう、私のセリフとられた!つかさのくせに~」
「つかささん、モノマネできるんですね~。新境地、ですわね」
昨夜の出来事などまるで無かったかのように、普段となんら変わらぬ仲の良い4人の姿が映し出されていた。

――××町における連続殺人未遂及び殺人事件に関する情報ですが、現在警察では市民の方からの情報提供に頼らざるを得ない状況となっております。
もし、何か少しでも不審な人物などを目撃された方がいらっしゃいましたら、こちらまで、御連絡下さい――

深夜、静まり返る××町。
風はなく、妙に湿気を帯びた空気が身体にまとわりつく。雨でも降りそうな空模様。月は当然のように見えない。
辺りを歩く人は全くいない。時折、人影を見かけるもののテレビで流れるニュースのせいか、みな足早にこの辺りを通り過ぎていく。
そこにゆっくりと、実にゆっくりと足らしきものを引きずりながら移動している一つの影。
「ぐふふ、ずいぶんゆっくりしてるんだねぇ?獲物を探してるのかな?それとも・・・」
暗闇の中、声はすれども姿は見えず。うごめく者はその動きをしばし硬直させ声の主を探す。
3,4階はあろうビルの屋上から落ちてくる影が一つ。羽根のように広がった蒼髪はまるで天使の羽根を想起させた。
「私に傷つけられたせいかな?かな?」
地上すれすれでクルリと一回転し、着地する。まるで曲芸師のような身の軽やかさはその小さな身体に詰め込まれた際限なきちから。
ニヤリと含み笑いをし、こなたは地面を蹴る。
イタチの様な形をしたうごめいていた者は先ほどとは目を疑うほどのスピードでこなたに向かって突進する。
「あら?不正解か。待っていたんだね、私を・・・」
スピードはほぼ互角。互いの対峙していた距離からちょうど半分のところで火花が散る。
「武器を持つのは苦手なんだけど」
こなたの両手に握られた真新しいメリケンサックに抉られた様な刀創。再び傷ついたそれを握り締め、顔の前に両手をかざす。
”かまいたち”と呼ばれる獣は右後ろ足から少量の血を流し、次の間を測るように後ずさった。
再びこなたの跳躍!ほぼ水平に流れるように少女の身体が舞う。
迎え撃つ獣は身をかがめ、全身の力を一転に集中する。両前足のカギ爪をキラリと一閃させ、こなたに襲い掛かった!
突進してくる相手の右側にもぐりこみ、こぶしを突き出す。獣はそれを食らうことなく身体をよじり地面へ。着地するやいなや追撃のジャンプ。
右へと身体をひねったこなたはそのまま一回転し、体制を整え三度獣の懐へ。
「つかさ!いま!」
「うん!」
少女の声と同時に不可思議な言葉の羅列が暗闇の街に響き始めた。
こなたの背後、10数メートルほどの距離にいたつかさの身体を、乳白色のもやが包み込み、やがてそれは指を絡ませた彼女の両手に円を描くように集結してくる。
かまいたちの追撃!右、左、右。交互に繰り出される鋭利な刃物の様なカギ爪がこなたを襲う。その全てを軽やかなフットワークでかわしているものの、爪とこなたとの距離は徐々に近づいていく。
「はやく!」
言うが早いか、彼女の背中が何かにぶつかる。
ガシャーン!
店舗のシャッターだ。かまいたちの全身全霊を込め振り上げた両前足がこなたの頭上に襲い掛かる!絶体絶命!
刹那!
乳白色の球体がかまいたちに向かいとてつもないスピードで迫ったかと思うと、獣の全身に絡みつき、まるで乳白色の縄に絡め取られるかのようにかまいたちはその場に倒れこんだ。
「ふぅー。あぶなかたよ~」
額の汗を袖で拭い去り、ほっと安堵の溜息をつく。
「ちょっと、油断しちゃったね。足の傷もほとんど回復してたみたいだね」
「うん。予想外だった。さて、止めを刺すから、つかさはあっちに」
「うん」
つかさは巫女服のすそを軽くはたいて、後ろを向いた。
何か影絵でも作るかのように複雑に指と指を絡め合わせながら、こなたが呟く。
うなりを上げ、必死に身をよじるかまいたち。だが、つかさの放った縫縛(ほうばく)の縄は一向に解ける気配はない。
「ネトゲの中なら出てきてもいいよ、ばいにー」
こなたは呟き、光り輝く右手を獣の額にそっとかざす。
一瞬のうちに光はかまいたちの全身を包み込み、すべてが光の中に入ると同時に霧のように消えていった。

「ありがと、助かった。私の術はどうしても詠唱が長いからね」
ペロリと舌を出し微笑むこなた。
「うぅん。私一人じゃあの子を追い込むことも出来ないよ」
「それにしても純血の巫女は違うね~!呪縛系一つにしてもあんなに強固に固められるとは、いやはや」
「ふふふ、なんか、誉められるのってうれしいね」
「あは。巫女服も似合ってるよ!」
「ありがと。でも、こなちゃん・・・それは・・・」
「ん?これ?」
こなたは先ほどの戦闘で少し汚れたセーラー服を整えながら続けた。
「”闘う女子高生”って良くないかな?これも、いわゆる一つの萌え要素!!!」
「どんだけ~」
少女たちは笑いあい、夜の帳の中に消えていった。

明日は満月。月光は人の狂気を呼び覚ます―――

第5夜

昼休み、少女たちは一つの机を囲みながら恒例の昼食タイム。
「あ、セバスチャンお茶買ってきて~」
「はいよー!・・・ってなんで俺、つかさの言うこと素直に聞いてんだ!?」
「ごめん!セバスチャン出てくるシーン間違えた!今のは嘘だよ」
にっこりとセバスチャンに微笑み返すつかさ。セバスチャンは少しだけ萌えつつその場を立ち去った。
「それより、受験勉強の合間にちょっと息抜きか、まぁ、悪くないわね」
「私、おいしいお団子の作り方覚えたの、だから、期待しててね!」
「じゃあ、場所はつかささん達の所の境内でよろしいですわね?」
「わかたよ~」
「団子と聞いてやってまいりました!私も行くからなー!」
「く、日下部!いつの間に!」
「さっきから、柊ちゃんの後ろにずっといたのよ?」
知らぬ間に月見パーティのメンバーは6人に。
「よかったら妹ちゃん、一緒に作りましょ?」
「うおおー、あやのも作るのか!これは楽しみだぜ!」
「ふぉっふぉっふぉ、息抜き息抜き~♪」
「おいおい、なんか、受験勉強に関係ないやつ中心に盛り上がってる気がするんだが…」
かがみはおでこに手をやりやれやれとため息をついた。

午後の授業が始まっている。眠い、眠気が襲ってきてまぶたが重い。
こなたは毎時間訪れる眠気との格闘に必死になっていた。この辛さは昨夜のかまいたち戦の比ではない。
「今夜は満月や~。満月にもいろいろとエピソードがあってな、月に住むウサギはもちろんのこと、ギリシアのセレネの説話、ヨーロッパ起源の人狼伝説など、月は伝説の宝庫や。
そもそも、こういった伝説や伝承の類は前の授業でもやったとおり、自分たちの力では解決できない何かに無理やり理由をこじつけて出来たものが大半や」
つかさのリボンがピクリと動いた気がした。
「不謹慎かもしれへんけど、最近話題になってる通り魔事件にしても、犯人の姿を見たものが全くおらへん」
こなたの眠気も同時に消えていく。
「しかも、異常なほどに大きな刃物の跡が被害者には残ってるそうや。この状態が長く続くと、そのうち、なんやバケモンの仕業ちゃうか?と思えてこんか?
それが、噂として広まるにつれ、都市伝説と呼ばれるようになる。この時点では”噂”や。やがて、この広がりが大きくなると伝説や伝承といったものに姿を変える。
ま、ゆうても、噂は噂やしな」
にかっと黒井の八重歯が光る。
「噂なら…」
「良かったのにね…」
小さくつぶやく二人。
「お!珍しいな!?いつも真っ先に居眠り始める柊と泉が揃ってウチの話聞いとるわ!」
教室に笑いが溢れる。
「あはは、センセの話は結構聞いてますってー!」
「ホンマか~?まぁ、ええわ!雨が降らんとえぇけどな!」


かがみの顔面を赤く染める血の雨。先ほどまで喉を撫で、一緒に遊んでいたはずの猫がそこにはいない。
「―――!」
あやのとみゆきは一瞬の出来事に反応できずにその場に立ち尽くす。目から生気は失われ、震えることさえ出来ず眼前に繰り広げられた光景を見つめていた。
6人が揃って始まった月見パーティの途中、境内に住み込んでいた猫の家族がゲストとして参入してきた。
少女たちは小さな訪問者たちの登場に喜び、互いに手に取りパーティを満喫していたはずだった。
一陣の風と共に現れた黒い影は猫たちをさらい、無垢な少女たちの目の前で・・・咀嚼し始めたのだ。
「かがみーーーーーーーーっ!」
絶叫するこなた。ちょうど運悪く黒い影の一番近くになってしまったかがみは状況を把握できず、また、降りそそいだ血の雨に気を失っていた。
食事を終えた黒い影は向きを変え、こなた達の方にのそりのそりと歩み寄ってくる。
「な、なんなんだよこれはーっ!?」
何かが切れたかのように激昂するみさおは立ち上がり、黒い影に向かって突っ込んでいった。
「みさきちーっ!」
言うよりも早くこなたの跳躍。一瞬でみさおの身体を抱えると、そのまま押し倒した。
「ちびっ子!?」
「何やってるの!?あんなわけの分からないものに敵うはずないよ!」
影は立ち止まり、また、振り向く。みさおとこなたに向かって。
「とにかく、あやのさんとみゆきさんをお願い。私はかがみを・・・」
力強くうなずくみさお。幾分冷静さを取り戻したのか、息も上がっていない。彼女の陸上部で鍛えられた体力なら逃げることくらいは出来るはずだ。
こなたはそう考え、みさおに別れを告げた。
「行って来る!」
こなたとみさおはお互い背中を向けて走り出した。
茫然自失となったあやのとみゆきの手を強引に引っ張りながらみさおは鳥居をくぐり階段を駆け下りる。横目でそれを確認したこなたは小さく何かを呟き、かがみの元へせまった。
すると、いきなり、こなたの伸ばした右手に凍てつく吹雪のような風が吹きつけた!
「え!?まずい!」
「こなちゃん!」
つかさの絶叫が耳に届く。こなたは全身を必死にまげてブレーキをかけた。しかし、一瞬反応が遅れ、右手は吹きぬけた風により凍らされてしまった。
「・・・・・・・・・・明王火炎呪」
左手で”印”を結び炎を呼び出すと、凍てつく右手にそれをあてる。
こなたは自らに呪文を唱えるため一瞬だけかがみから目をそらした。そう、ほんの一瞬だ!
こなたの右手を凍らせた風は竜巻のようにそそり立ちかがみを襲う!回転はそのスピードを増し続け赤く染まりその場に伏しているかがみを巻き上げると陽を浴びる雪のように、溶けるように消失した。
「かがみっ・・・!」
が、親友の安否を気遣う間もなく背後からの強烈な一撃!!!
「うぐぅっ!」
顔から地面におちるこなた。瞬時につかさが言霊を紡ぎだす。影はほんの数秒固まりはしたが、再びこなたに向かい触手を伸ばす。
泥だらけになった蒼髪の少女は全身の力を両の拳に込め短い呪文を唱える。そして、跳躍!
影の上方からこなたが襲い掛かる!あるはずの無い空中の壁を蹴りつけ、助走をつけた一撃!
ブシューン―――――
影はこなたの凍傷ののこる右手を中心に四方へと散り散りになって消えた。

満月が白銀の光を地面に降り注がせる。あたりは光に包まれ、先ほどまでの惨劇を忘れたかのように静寂を保っていた。
完全に油断していた。まさかこんな所に出没するなんて。
「こなたちゃんも知ってるとは思うけど、奴らの活動は一定の周期で活発になる」
そう、おじさんの言うとおり。奴ら、人外の物の怪共は一定の周期で力を蓄え、その力が風船に水を入れるがごとく臨界点に達した時、破裂し、全てがあふれ出す。
「私たちは太古の昔より、それらを封ずる事を朝廷より承ってきた」
「私の家は人に害為す物を打ち滅ぼすよう、人々の生活を護るよう、各々が立ち上がり、今日まで伝えてきました」
その成り立ちは違えど、目的は同じ。こなたは下唇を噛みしめながら、境内の片隅でただおの話を聞いていた。
「さっきの黒い影は・・・」
つかさが震えながらたずねる。
「あれは恐らく低級霊の一種だと思うが、なにぶん人々が持つ負の因子を吸収しすぎていたようだ。それゆえ実体化した」
「・・・負の因子」
「たぶんいじめなどで虐げられた魂の集合体だろう。弱いものに対して異常なほどの憎悪を放っていた」
「それで・・・」
「それで、まずはじめに猫が襲われた。ニュースなんかでも時々やってますわね。むしゃくしゃして猫に当たる人の事件などが」
「みゆきさん!?」
気がつくと3人の輪の外から高良みゆきが近づいてきていた。
「み、みさきちとあやのさんは・・・」
「あの二人なら大丈夫。峰岸さんは貧血も伴ったみたいで目が覚めないようでしたので、日下部さんが家まで送っていきました。それより・・・」
パシーンっ!
みゆきの強烈な平手打ちがこなたの右頬に刺さる。あまりに急なことで避ける事も出来ず、痛みよりも驚きがこなたを支配した。
「ゆきちゃん!?」
「泉さんやつかささんにどんな使命が、どんな力があるのか、そんなことは私には分かりません。でも、お二人は私の友達です。もちろん、かがみさんも」
みゆきの頬を水滴がつたう。
「1週間、心配してたのはかがみさんだけではありません!私だってどれだけ心配していたことか!そして、本当の理由を教えてくれない友人にどれほど苛立ちを感じたことか・・・」
「みゆきさん・・・」
今更ながら強烈な痛みがこなたの右頬を襲う。この痛みは叩かれた痛みだけじゃない。親友の心の痛みだ。
「ごめん。みゆきさんやかがみや他の人たちには迷惑をかけたくなかった・・・」
「それでも!私たちは友達じゃないですか?何が起きたのか、何が起きているのか正確にはわかりません。何の役にも立たないかもしれません。けれど・・・」
つかさの嗚咽が聞こえる。
「けれど、もっと頼ってください!だって、私たちは友達なんですから!」
3人の少女はお互いを抱き寄合い涙を流した。こなたとつかさは涙混じりに謝り続けた、ありがとうを織り交ぜながら。

「お姉ちゃん・・・大丈夫かな・・・」
いくらか落ち着きをとりもどし、つかさが口を開く。
「たぶん・・・大丈夫。死んだりはしていない」
ただおが呟く。3人はその声の主を見上げた。
「あの場でなんら危害を加えられることなく、さらって行ったのだ。まだ、大丈夫。奴らにも何かの目的がある」
「では、何かの目的のためにかがみさんを連れ去ったということですわね」
「そだね。まぁ、あまり良い目的ではないだろうけどね」
4人は顔を見合わせ、どうすればかがみを救い出せるのかを必死に考えていた。
「・・・」
いま、言うべきではない。ただおは言いかけて開いた口を閉じた。

第6夜

――本日未明、××町にてまたもや男性の凍死体が発見されるという事件がありました――

朝のニュースが誰とも無く語りかける。この電車の中の誰かが使ってるワンセグ放送からもれ出た声は泉こなたを安心させた。
これで2件目、いずれも”凍死体”が発見されている。恐らく正体はやつに間違いない。奴はあの凍てつく吹雪で人を凍死させるのだ。
だからかがみは大丈夫。かがみはさらわれた。殺されたわけじゃない。
こなたは自分にそう言い聞かせ、まだ戻らぬ友人の安否で思考を埋めていた。
「こなちゃん降りよ?」
気がつけば××町。西の空を夕日が燃やし始め、夜が近いことを物語っていた。


数時間前――
「私も行きます!」
「だめだよ!危険すぎる!」
「私だってかがみさんの事が気がかりなんです!」
「気持ちは分かるけど、危ないよ、ゆきちゃん」
「そだよ、多少は分かってもらえたと思うけど、でも、奴らは普通の人がどうこう出来る相手じゃないんだよ!?」
「・・・」
みゆきらしくない昂ぶり。その昂ぶりは彼女の友人に対する熱い思いを物語っていた。
しかし、現実は甘くはない。漫画やアニメのようにスーパーヒーローが現れて命を救ってくれる保障などどこにもないのだ。
「ふぅ、やっぱり駄目なんですね。だけど、協力くらいは、させてください」
みゆきはカバンの中から包みを取り出す。
「これは?」
二人はそれを受け取り、不思議をうに眺める。
「こんなものが役に立つか分かりませんが、使い捨てカイロです。相手はずいぶん冷たそうですからね。
それと、世界各国の水、氷、雪などにまつわる妖怪や化け物のデータをネットで検索してきました。
黒井先生のお話がこんなところで役に立つとは思いませんでしたけどね」
「みゆきさん・・・」
そういってみゆきはファイルできれいにまとめたコピー用紙をこなたに手渡した。
「ありがとうゆきちゃん!私たちがんばるよ!」


「それにしても場所が××町でよかたねぇ」
「そだね・・・」
「注目は浴びたけど、私たちの服を疑問に思う人はいなかったしねぇ~」
「でも、恥ずかしいな」
照れ笑いを浮かべながら頭をかく。
つかさはもちろん紫の巫女装束。こなたは何故か、”超監督”。
「さて、なんて名前にする?」
「なまえ?」
「そ、そろそろ私たちも名前を決めなきゃ!これ、ヒーロー物の基本なのだよ!」
つかさの目の前にこなたの人差し指が突き出される。
「”退魔師つかこな”?いやいや、世界の、大いなる闇をなぎ払う、セーラー服の団!”SOS団”が常考?それとも巫女巫女ナーs」
「いかほど~」
笑いを交え会話する二人。その雰囲気から緊張は伝わってこない。だが、その笑顔の中にとてつもなく強く、激しく、熱い意志をにじませていた。


次第に街は黒く染まり、それとともに物々しい雰囲気が漂ってきた。警邏隊の巡回が始まったのだ。
何度か少女たちは帰宅を促されたが、その度に適当な言い訳を繰り返した。
「さすがに、これ以上はうろうろ出来ないかな」
「だね、どっかで待機してた方がいいよさそだね」
「といっても、緊急事態でどこのお店も閉まりかけてるよ?」
「だいじょぶ!私にまっかせなさぁ~い!」
こなたは意気揚々と入り組んだ路地をすすんだ。やがて目の前に現れたのは見覚えのある雑居ビル。
「ウチもしばらく休業しててね、パティなんか「生活費がパターンレッドデース!」って、言ってたよ」
スカートのポケットからガチャガチャと鍵の束を取り出し、セキュリティを解除。玄関に鍵を差込み扉を開けると、そこはこなたのバイト先であった。
「いいの!?」
「むふふ、私、来春からここで店長待遇でバイトするのだよ、雇われだけどね」
そういったこなたはどこか自慢げだった。
「とにかく、ここで待とう。あまり遠くに現れたりしたら、被害者が出るかもしれないけど…」
「そこはまかせて!来る途中に結界張っておいたから」
「おぉ!つかさGJ!やるねぇ~あんたぁ~」
「えへへ。侵入防ぐほど強くはないけど、侵入者を広い範囲で知ることだけは出来るよ」
「じゃ、ちょっと、身体休めておこう」
「うん」
二人は喫茶店のベンチシートに横たわり、しばしの休息をとることにした。

屋外からの音がパタリとやんだ。遠くで電車や自動車の走る音は聞こえるものの、この雑居ビルの周辺にから音というものが消えたかのような、そんな錯覚さえ覚える静寂。
「きたよ」
ぱちりとつぶらな瞳を開いてつかさが起き上がる。
「やな感じだね・・・」
澱んだ空気がべっとりと身体にまとわりつき吐き気をもよおす。自らに課せられた使命や運命さえなければこの場から逃げ出したい。
こなたの脳裏にふっとかがみの顔が浮かぶ。
だめだ、こんな弱気なことを考えてたら、かがみに笑われちゃう。
「行こう・・・」
「うん・・・」
立ち上がる二人。その小さな両肩に大切な人の運命を乗せて。


「うわーっ!」
巡回していた警邏隊の絶叫が聞こえた!まずい、被害者が出る!!!
こなたとつかさは”術”を唱え路地を駆け抜ける。
狭かった路地を抜けると大きな交差点に出た。
目の前では3,4人の警邏隊と人外の者とが格闘を演じていた。形勢は空を舞う物の怪たちの圧倒的な有利。
人間の英知である銃というものを全く意に介さず、手を振るたびに巻き起こる風で一人、また一人と屈強な男たちをなぎ倒していった。
「・・・・・・・・・・」
つかさが詠唱を開始する。その横をこなたがすり抜けて空を舞う物の怪に近づく。
体は透き通るように青白く、自らの背丈よりも長い髪の毛と細く長い四肢を持つ。美しい女性を思わせるような物の怪。
「雪女(ゆきめ)だ」
こなたは紫色の細長い包みを握り締めさらに雪女に近づく。
「危ない!」
警邏隊の一人が叫ぶ。が、その直後雪女の右腕が勢い良く振り払われ、生まれでた凍てつく風に当てられると叫んだままの表情で凍りついた。
「紺屋の白袴・・・違うわ。餅は餅屋だよ、おじさん」
こなたは”印”を結び高く跳躍した。
ようやくこなたの存在に気づいた雪女達はゆらりと揺れるように少女に迫り来る。
「こなちゃん!」
つかさの詠唱が完成し、こなたの周りを乳白色の光が包みこむ。同時につかさの存在にも気づき、一体が彼女に迫る。
こなたは握っていた包みからするりと何かを取り出した。
「お父さんにもらった特製の独鈷杵だよ。行くよ?」
迫りくる雪女に向かいビルの壁を蹴りつけたこなたは弾丸のように突っ込む。
こなたの眼前に巻き起こる吹雪!止まれない!
「・・・・・・・明王火炎呪!」
握り締めた独鈷杵から炎が唸りをあげて噴き出す。吹雪は掻き消え、雪女の顔がゆがむ。
「タイマシカ?マダイタノカ?」
「まだまだいるよ?悪かったね」
こなたの剣撃。雪女の頭上に激しく振り下ろされる。が、雪女は軽々とそれをかわし、両手からいくもの吹雪を巻き起こした!
「くっ!ちょっと強めだね?経験値ウマーだといいんだけどな?」

第7夜

逃げるつかさ、追う雪女。つかさはいつもとは違うすばやい身のこなしで雪女の放つ吹雪を次々とかわしていた。
「うわぁ~ん、このままじゃやられちゃうよ!?どうしよ~?」
泣き言をもらしつつビルの壁を巧みに使いながら雪女を煙に巻いていく。小さな吹雪の渦は次々に司に襲い掛かる。
セーラー服を着た可愛らしい女の子の立て看板を見て、急につかさは立ち止まった。
「いけない!これ以上離れたらこなちゃんの結界が消えちゃう!」
つかさは振り向き、雪女に対峙すると両手を胸の前で重ね詠唱を始めた。彼女を包んだ結界のおかげか、凍てつく風はすんでの所で逸れて行く。
「マダマダコドモ、ジャナイカ?クッタラ、ウマイダロウネ?」
3メートル、2メートル、1メートル!眼前に迫る雪女、目を閉じ詠唱を続けるつかさ。
「えいっ!お土様ぁーーーーっ!!!!」
詠唱の完成とともに巨大な土の壁がつかさの眼前に現れる。勢い良くつかさに向かってきた雪女は、止まることも出来ず、壁に激突し氷塊のように粉々に崩れ果てた。
ふぅー、と溜息をつき、額の汗をぬぐう。
「こなちゃん、大丈夫かな?」

わざわざフルオーダーメイドで頼んだ自慢の”団長服”はところどころ破れ、肌色の皮膚を垣間見せていた。
つかさにもらった乳白色の結界はその光を弱め、今にも消えそうになっている。
次々に襲い来る凍てつく風を、召喚した狐火でなんとかしのぐ。が、雪女の攻撃はそれだけにとどまらなかった。
雪女は手のひらを開き、天に向かってかざす。白い霧のようなものが吸い込まれるように集まり、やがてそれは円錐の形状となった。左右、両の手のひらから作られるそのつららは意思を持つがごとくこなたに向かってきた。
「つっ!」
彼女の体捌きは軽い。右に左に飛び回り、数ミリのところでつららをかわす。しかし、それは故意にしているわけではなく、ぎりぎりでしか避けられないのであった。少しでも油断すると衣服は裂かれ、その下にある皮膚を何の遠慮も無くそぎ落とされてしまう!
「しつこいなぁ、もう!そうゆうの、ウザイって言うんだよ!?」
強がって見せるこなたの表情に言葉通りの余裕は無い。
「だいぶ思い出したよ。礼を言わなきゃね。小さき退魔師よ」
時が経つにつれて雪女の言葉は流暢になっていく。
「私たち雪女はね、虐げられた女の怨念なのさ。生前、尽くし、慕い、思いを寄せていた男たちに、捨てられ、放置された女のね!
分かるだろう?同じ女同士、浅ましい男の欲望にうんざりするだろう?」
「あは。残念ながら私はまだ少女なのだよ。怖いねぇ~、年増女のひがみは」
ひときわ大きなつららがこなたを襲う!
父から預かった独鈷杵を水平に構え炎を纏わせる。迫り来る巨大なつらら、迎え撃つ焔の剣。
「うわぁーーーーーーーーーーーっ!」
防ぎきれない!衝撃がこなたの両腕を伝い、全身に響く。次の瞬間、身体は大きく後ろに吹き飛んだ!背中をビルの壁に激しく強打しほんの一瞬術が途切れる。
こなたの身体は重力を思い出し、引き寄せられるように地面に落ちていく。
「あーはっはっははー!いい様だね!私の場合はね、昔から人間そのものが嫌いなのさ!今すぐにでも止めを刺してやるよ!」
無表情かにおもえた雪女の顔が今は気味悪いほどににやけ、哄笑している。
「き、きたないね。ふふ、わ、技とかじゃないよ?心の中身も、その、にやけた顔も!」
満身創痍のこなたから振り絞るように紡ぎだされた言葉。顔は苦痛にゆがみ、口元からは血が滴っている。
少女の目の前で、先ほどのつららよりも更に大きなつららを作っていた雪女の身体が固まる!
「おまえ!?」
つららは逆再生するように霧に戻っていった。こなたの言葉になぜか動揺を見せる雪女。しかし、それもほんの数秒のことだった。
「ふふふ、ふはははは!面白いこともあるもんだねぇ~。まさかね、こんなことがあるなんてね!」
雪女はゆっくりと地上に降り立ちこなたに向かって歩み寄る。小さなつららを作り、こなたに向かって次々に繰り出す。からかう様にわざととはずしつつ。
ビルに衝突した時の痛みが未だ背中に残っていた。こなたの動きは緩慢でいつやられてもおかしくはない。
少しずつ彼女の衣服を切り裂き、少しずつ皮膚を抉る。そのたびに少女の口から悲鳴とも呻きとも取れぬ声が漏れ出ていた。
「お前には”力”がある。そうだね?」
雪女の力であればいつでも致命傷を与えられる、それが確実に可能なまでの距離へと近づき、おぞましき凍てつく獣は問いかけた。
「それも強大な”力”だ。違うかい?まだ、目覚めてはいないが、それは強大な、大いなる”力”だ」
「・・・・」
「なぜ知ってるのか?って顔だねぇ。冥土の土産に教えてやるよ、私の名前をね」
「・・・へっ!あんたの名前を聞いたところで、何か特典でもついてくるのかな?それなら聞いてあげるけどね」
「ふん!その強がりもあの女にそっくりだよ!」
雪女の周りに猛烈な吹雪が巻き上がった!
「雪女はね、人の生命を終え、この姿に転生する時に怨念以外の全ての記憶を失うのさ。だから本来名前など持たない。
けれどね、この姿になってから名前を持つこともあるのさ!私のように人間を食らった雪女は名前を持つこともある!
”力”を持つ人間を食らえば、その”力”を取り入れることも出来る。
その”力”をくれた者への感謝の気持ちさ!私の中に取り込んだ”力”の主に敬意を表して、その名をもらう!
ふはは、私のね・・・」
全身に鳥肌が立つ。寒さではなく悪寒、吐き気を催すような悪寒!
うつむき、歯軋りをするこなた!うっすらとではあるがその瞳には涙を湛えている。
「そう、私の名前は・・・・・・カナタ!」
こなたの表情が一変し、怒りに打ち震え赤く燃え上がる!
容赦なく再開する攻撃!凍てつく風が左右から迫り、少女に牙をむく。
「うわぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁっ!!!!!!」
大きく構えた独鈷杵を強くなぎ払い、雪女に飛び込む!風は立ち消え、こなたの周りを炎が包み込む!
「えぇい!まだそんな力が!くらえ!」
こなたの頭上から無数の白い塊が降り注ぐ!とてつもない高速で近づく幾千の雹!
炎の鎧により雹は消えていった。しかし、防ぎきれないいくつかがこなたの身体に食い込む!
「うああああぁぁぁっっっ!」
「こいつ・・・」
怒りに我を忘れ無我夢中で独鈷杵を振り回すこなた。
さすがの雪女も何箇所かは皮膚を切り裂かれたが致命傷には至らない。
いつの間にか頭上には倍以上の雹!そして無数のつらら!雪女が右腕を払う。雹とつららは一斉に降りそそいできた!!!
「こなちゃぁーんっ!」
こなたの周りを石の壁が取り囲み、降り注ぐ雹をけ散らす。
「つかさ!」
「おぉぉぉ!すばらしい!!!すばらしいねぇ!!!女王の復活だ!生け贄は多いほどいいって物さ!!!」
「こなちゃん!」
「つかさ!」
駆け寄るつかさが飛びつき、抱きしめる。身体を預けるこなた。その小さな身体に残された力はどれほどなのか?
「少しだけど、楽になると思うよ」
つかさは袖から玉櫛を取り出しこなたの傷口を撫でる。
「あいつ・・・、あいつ・・・!」
こなたは怒りで冷静さを欠いていた。息は乱れ、歯噛みする口元からは多くの血が流れ出る。その表情にいつものゆるさは微塵もない。
「こなちゃん、落ち着いて!少しだけど話は聞こえたよ。でも、今は落ち着かないと!」
パシッ!
つかさがこなたの頬をうつ。こなたは驚き、つかさの顔を覗き込んだ。
「・・・あ、ありがとう」
こなたの瞳に生気がやどり、荒々しかった呼吸も元に戻り始めた。
「つらいだろうね?でも、怒りに任せていたら、お母さんの仇さえ取れないよ」
「う、うん・・・。うん!そだね」
「うん!」
「さぁ、仕切りなおしだ!お母さんはきっと守ってくれる。それに、今は生きているかがみを救うことを考えなくちゃ!」
二人を包む石の壁にいくつもの衝撃音が響く。雪女の攻撃であろう。結界も長くはもたない。
「いつまでそこに隠れてるんだい?ジタバタせずに私のものになりな!生贄は無傷のほうがいいんだよ!!!」
天井に入った亀裂が徐々に大きくなっている。
「こなた!行きます!」
「うん!」
「あは、やっぱりツッコミいないとね。がかがみがいないとね!」
「およよ?」
石の壁は透き通り消えてなくなる。降りそそぐ氷礫の雨!
少女たちは左右に散開し体勢を整える。独鈷杵を下段に、居合いの構えを取り集中するこなた。目を閉じ呪文を唱える。
迫りくる風、絶え間なく降りそそぐ氷礫。それらをつかさの呼び出した結界壁がすべて打ち落としていく。
「つかさ、気付いたことがあるんだ。あいつね、お母さんの仇じゃない」
「え?」
「さっきは気が動転しててごめんね。だけどね」
言いながら右手で印を結び光の球を生み出す。それを独鈷杵に当てると剣はまばゆく煌いた。
「私のお母さんはもっと強いんだよ。あいつ、その場にはいたかもしれないけど、お母さんを殺した本人じゃないよ」
にやりと微笑む。つかさは何も言わずうなずいた。
「なにをぶつぶつ言ってんだい!?」
激昂する雪女。助走をつけ猛スピードでこなたに突っ込んでくる!彼女自身が巨大なつららとなり、こなたにめがけて一直線に!!
「召喚します!天岩戸(あまのいわと)!」
突如空中に現れる輝く巨石!つかさは持てる力を余すことなく使い、巨大な防御壁を雪女にぶつける!
正面から向かってくる巨石をよけようともせずに雪女は加速する。周囲を無数の雹とつららが取り囲み、ここら一帯に凍てつく吹雪が吹き付ける!
「ほりゃ~!」
少々間の抜けた掛け声はこなた。利き足に力を込め跳躍。
岩戸を粉砕し突き抜ける雪女。が、岩戸は砕かれたのではなく、自ら砕けたのだ。元に戻りつつも雪女を取り囲み拘束する。
「なにぃ!?」
岩戸の影響を受けなかったつららの数本がこなたの体表を削り滑った。しかし、彼女は表情一つ変えず剣に力を込める。
混乱し悶える雪女!目の前には蒼髪の天女!
「バイバイ!」
横に薙いだ独鈷杵が雪の獣の腹を裂く!
「ぐあぁーーーーーーーーっ!」
絶叫にも似た悲鳴を轟かせる雪女にさらに止めの一撃!!!
こなたの左手が神々しく光り輝き、雪女の顔を掴むように気を放つ!
「ネトゲにおいで!いつでも相手してあげるから」
放たれた光の波動が雪女の分かたれた全身を包み込み、次第にその形状は霧へと姿を変えていった!
「おおおぉぉっ!油断した!これほどまでの力とは!しかし、お前たちのことは私の仲間にすでに伝えた!次はこんなに上手くいくとは思うな!
そして・・・、そして、女王は間もなく復活する!見よ!あの空をーーーーーーっ!」
最後の力を振り絞り雪女が叫ぶ。おそらく手であっただろう霧の一部が指のような形を作り西の空を指し、そして、消滅した。
「こなちゃん!あれ!」
つかさは雪女が指差した方向じっと見つめ叫ぶ。
その先には暗闇よりも黒い大量の雲がある一部にだけ山のように固まって浮いていた。雲は増殖を続け、太鼓の乱撃のような轟音を響かせ稲光を落としていた。
「つかさ!行こう!」
こなたは独鈷杵を紫の包みに戻し駆け出す、つかさの手を引いて。

第8夜

目の前に立ちはだかる黒く大きな雲の壁。二人は意を決してその中に飛び込む。
「お姉ちゃんは・・・」
「必ず、ここにいる。絶対に救い出す!待っててかがみ!」
分厚い雲の壁を抜ける。澱んだ空気に息がつまりそうなる。べったりとまとわりつくような感覚を振り切り、さらに前進する。
そこにはいくつもの獣と格闘を演じ、満身創痍の柊ただおがいた。
「お父さん!」
「やあ、来たね二人とも。私も少し用事があってね」
飛び掛る灰褐色の犬、いや狼か。ただおは身をかがめ狼を避けると、手にした短刀で相手の腹をかき切る。
狼は血を流すこともなくその場に倒れると、まるで雪のようにその場に溶けて消えていった。
1体、1体はそれほど強くはなさそうだ。だが、さすがにこれだけの数をただお一人でしのぐことは到底困難と思われた。
「それよりも・・・」
ただおがこなたたちに視線を送る。その先に二つの影。
空中に浮かぶ見えない十字架に張り付けられるかのように、両手を広げ、力なくうなだれる二つの影。
地上に現れた新しい人影をみつめる。ゆっくりと顔を起こすと、そこにはこなたとつかさがいる。
「おねーちゃん!?」
「ゆーちゃん!?それにみゆきさんまで!なんで!?」
「ごめんなさい。泉さん、私が悪いんです。私が二人のことを探していたばかりに…」
「違うの!」
ただでさえ身体が弱いゆたかのことだ、どれだけの時間そこにそうやっているのかは分からないが、ひどく体力を消耗しているに違いない。
が、彼女は身体のそこから振り絞った大きな声で言った。
「すごく胸騒ぎがしたの!なんか、すごく嫌な感じがしたの!こなたおねーちゃんのことがすごく心配になって…」
「ゆーちゃん…」
「それで、高良先輩と一緒にここまで来たの!ごめんなさい!私、また迷惑かけちゃってる!」
そのころには小さなゆたかの、大きな瞳からはぼろぼろと滝のような涙があふれ出ていた。
そうだ、あの子も同じ血を引いてるんだ。私に流れてるのと同じ血を。うかつだった。
”魔”が活性化する時、その対極である私たちの力も覚醒を開始する。そんな基本的なことにも気付けなかったなんて…。
こなたは唇をかみ締め、自分を呪った。
しかし、それを悠長に考えている時間など少女たちには与えられてはいない!
雪狼は先ほどよりもその数を増し、次々にこなたとつかさに襲い掛かってくる。
「グルルルーーーッ」
唸りを上げ、にじり寄るもの、遠間から飛び掛ってくるもの。さすがのこなたも防戦を強いられ後ずさりする。
「うわぁーん!数が多すぎるよ~。こなちゃーん!おとうさーん!」
「くっ!つかさ!これ貸してあげるよ!」
こなたは握っていた独鈷杵をつかさに投げて渡す。ほうほうの体でなんとかそれを受け取ったつかさはなんとかピンチを凌ぐ。
「私は元々素手のが強いのだよ?」
腰を低く落とし構える。左右から来る雪狼を軽い跳躍をしてかわし、2体が重なったのをみて、その中心に強烈な回し蹴り!
「待ってて、ゆーちゃん!みゆきさん!」

暗雲の中とは思えぬほどに視界がはっきりしているのは、頂点に輝く不気味な満月のせいなのか?
月の光が絶え間なく降りそそぐこのドーム状のエリアで活動をしている人間は彼女たちしかいない。
見慣れたはずの町並みにもかかわらず、初めて経験する空気と感覚。
ただおはさすがに男性ということもあり、まだ少しは余裕を残しているようだ。
しかし、本来戦う術を持ち合わせていないつかさは結界を組上げるとそこから動くことが出来なくなっていた。こなたを包むつかさの結界もかなり薄くなってきている。
「よくがんばってるね?話には聞いていたが随分と強いじゃないか?」
気味悪く冷笑する影。見間違えるはずもない、それは雪女!
「あんた・・・!」
「私たちは何人でもいるよ。そして、何回でも復活する。この地上に人間がいる限り、私たちを形成する思念は消えやしないのさ!」
ついさっきまで嫌というほど喰らったつららが雨となってこなたを狙い打つ!
「くはぁーっ!」
よけ切れなかった1本がこなたの頬をかすめ、耳を切り裂いた!バランスを崩し、地に伏すこなた。
「お父さん!こなちゃんを!」
ただおはうなずき少女に駆け寄る。倒れたこなたを抱きかかえ、娘の結界の中に飛び込んだ。
「これはえらく丈夫そうな結界だねぇ~。だが、今のお前たちの体力でどれだけ持つだろうねぇ~?」
にやにやと下卑た笑いをしながら雪女は仲間を呼び寄せた。
不気味さでは先程の雪女も敵わない。そう、こなたが思ったとき、ただおが静かに口を開いた。
「君たちに・・・二人に話がある。そのために私はここに来た」
雪女の攻撃は休むことを知らず、つかさの結界を揺らし続ける。中は少し暖かい。だが、外界の寒さは尋常ではなく、動くことを止めた身体ではとても耐えられない。
こなたは空に浮かぶ二人の少女を見つめながら、歯軋りをした。

「二人とも、少しだけ昔話を聞いてほしい」
ただおがゆっくりと語りだす。

「あれは20数年前。どこにでもいるような男と女が出会い、どこにでもあるような恋に落ちた。
ただ少し違ったのは、男はすべてを見透かす目を持ち、女は本人すら気付いてはいなかったが妖怪の血を引く人間だった。
女の力は既に封印されており、彼女の真の力をこの先見る事はないはずだ。
だが、何かのきっかけでその封印が解けてしまうかも知れない。
また、自分と同じような能力を持つ者が現れ、死をもたらすかもしれない。
そう考えると男は女のことをたまらなく可哀そうに思えた。不幸な子だと思った。
何も知らされないまま死をもたらされる。そんな目に遭わせたくはない。
そして男はこの女を一生見守ろうと決意した。

二人はごく普通の男女がそうであるように共に過ごし、共に生きた。
やがて二人は子宝に恵まれた。母に良く似た美人の長女。父に良く似た瞳の大きな次女。
長女、次女ともに妖怪の血が受け継がれることはなかった。
男は安堵のため息を漏らし、このまま幸せが続くだろうと信じていた。

しかし、18年前のあの日、7月7日、あのときの事は今も忘れることが出来ない。
まだ、梅雨の明けきらぬ蒸暑い日のことだ。
二人の姉にも受け継がれることのなかった妖怪の血は、手術室で元気な産声を上げる双子の姉にすべて注がれたのだ。
男は絶句し、自らの能力を呪った。見えることさえなければ、知ることさえなければ、この娘の命も、もう少し永らえることが出来たはずなのに…。
男の仕事は邪悪なる者を祓う事。目の前には愛する妻とその子。本来祝福しなければならないはずのこの瞬間。
彼に訪れたのは世界の終焉とも思える、絶望のときであった。
彼は家から持ち出したご神体の短刀を握り締めた。そして涙を流した」

ただおの目頭が熱くなっているのが分かる。
だが、それを聞いていた二人の少女は今までに記憶がないほどの不安と恐怖の中にその身を沈めていた。
瞳を閉じることができない。目が乾き、張り付く。身体が動かない、言うことを聞かない!
術とかじゃない!これが”恐怖”なの?こなたはひざまずき、うなだれる。
目が開けられない。うぅん、目を開けたくない!何も聞きたくない!逃げたい!逃げたいよ!
頭が割れてしまうのではないかと思えるほど強く耳を押さえるつかさ。

「いつまでそうやってるつもりだい!?女王はお目覚めだよ!!!」
雪女の攻撃は絶えず続いていた。衝撃音も次第に大きくなり、心の揺らぎの所為か結界にもほころびが見える。
「だが・・・」ただおが続ける。
「だが、男は出来なかった。出来るはずはない。愛しい我が子を、自らの手で殺めるなど、出来るはずがない!
男は短刀を床に落とし、その場に立ち尽くした。
そして、その直後、男はこの世に神の存在を改めて認めた。妖怪の血を引く少女と対を成すように生まれてきた赤子。
妹となるその子には男と同じ神に仕える力が備わっていたんだ。
つかさ、こなたちゃんわかるね?君たちには本当にすまないと思ってる…」
いつの間にか4体まで増えている雪女たちの中心に、見覚えのある、影。
他の雪女と比べ背は低く、身体も透き通ってはいない。髪を左右二つに結んだツインテール。
「かがみーーーーーーーーーーっっっっっっっ!!!!!!」
火山の爆発を思わせるような跳躍!両の拳を血が滲むほど握り締め蒼髪の天女が舞う!
一瞬で間合いを詰められた雪女は動くことが出来ない。こなたの直突きをまともに喰らい、霧のように蒸発した。
「なにぃ!?」
慌てふためく残された雪女たち。
「私は信じないっ!絶対にーっ!」
動揺の消えないもう一体を睨むと、力を込めた右の蹴撃!神仏の神々しき光を伴った衝撃は横にいたもう一体をも含め一気に貫かれた。
降りそそぐつららと雹!こなたの全身が燃え上がる。
恐怖に震え、真実に脅えるつかさは動かない。じっと耳をふさぐだけ。
剣のように鋭利になった雪女の両腕がこなたを襲う。避けることなくそれを両腕でガードし、カウンターの一撃。
「な、なんてやつだい!?さっきまでとぜんぜん違う!?」
こなたのカウンターを辛うじて防いだものの上体はのけぞり、後方へと吹き飛ぶ。
少女の表情は固まったまま、変わらない。怒りのこもったその瞳には人間らしい優しさや温もりはかけらほども残っていなかった。
吹き飛び、うろたえる雪女に追撃の手刀!雪女の首をかききり、さらに腹を抉る!

第9夜

「お止めなさい。そこの少女よ」
「かがみっ!?」
我に返り振り向くこなた!そして彼女の視界に入ったのは自分の身の丈はあろうかという巨大な氷の刃を手にした・・・柊・・・かがみ。
雪女と同じ青白い着物を風になびかせ、ふわりと浮いていた。
「泉さん!」
「こなたおねーちゃん!」
巨大な氷の刃は水平に持ち上げられ、その切っ先は小早川ゆたかに向けられ静止している。
かがみの表情に感情は無い。目はうつろでどこを見ているかも分からない。雪女と同じ青白い着物が風になびいてる。
「や、やめて!かがみっ!」
こなたは力なく地上に着地し、涙を流す。
「いやだよ!そんなのいやだよ!そんなのいやだよぉっ!お願いだから!お願いだから元に戻ってよーーーーっ!!!」
天に向かって絶叫するこなた。少女の叫びがあたりをこだまする。
「私には何もわからない。まだ、名前も無い。かがみ。それが私の名か?」
表情も無く首をかしげるかがみ。しばらく考えていたように見えたが、次の瞬間、それを止めた。
「めんどくさいな。何もかも。私の中に在るのは”憎悪””嫉妬””絶望”。他には何も無い。だからこいつもわからない。めんどくさい」
氷の剣を握る左手を弓のようにしならせ高く持ち上げる!かがみは限界まで力を溜め、それを一気に開放する!
振り下ろされる凶刃!今から繰り広げられるであろう惨劇に目を覆うこなた!

ザシュッ!

映画のワンシーンであったとしても目を背けたくなる信じがたい光景。
「・・・・・・・しないよ・・・・」
「え?」
呆然とするこなた。その横をただおが駆け抜ける。
無表情のまま、眉一つ動かさず空に浮かぶかがみ。
「・・・させ・・・ない・・よ」
「そ、そんなことが・・・うっ!」
真横で身体を拘束されていたみゆきは思わず嘔吐する。
「お、おねーちゃんは・・・」
微かに聞こえる、消え入りそうな声。
「お、お姉ちゃんは、そんなこと・・・しないよ?私の、大・・・好きなお姉ちゃん、人殺しなんか、させないよ・・・」
「つ、つかさぁーーーーーーーーー!!!!」
三度、絶叫するこなた。次々に襲い来る衝撃の事実をうまく整理できない。なんで?なんで、そこにつかさがいるの?
ゆたかをかばい、背中に氷の凶刃を受ける紫色の巫女。着物は切り裂かれ、柔らかな肌は露出し、白かったであろう背中は血に染まった。
命を救われたゆたかはつかさに抱かれ、呪縛から放たれた。だが、悲劇に身を震わせ目の前で起きた事実を飲み込めない。
「つか、さ、せん、ぱ、い・・・?」
よく分からない。理解できない。ただ、涙だけが止め処なく溢れてくる。全身の水分が一気に押し寄せるかのように涙だけが。



―――おねえちゃん 1年3組柊つかさ

わたしには3人のおねえちゃんがいます。

いのりおねえちゃんはいっつもやさしくしてくれます。

まつりおねえちゃんはいっつもおもしろいことをおしえてくれます。

かがみおねえちゃんはいっつもわたしをおこります。

でも、わたしはかがみおねえちゃんがいちばん好きです。

わたしがしっぱいすると、お母さんにおこられないようにまもってくれます。

分からないことがあるとすぐにおしえてくれます。

まいごになったときも、ないちゃうぐらいおこってたけど、手をつないでおうちまでいっしょに帰ってくれました。

たのしいときもかなしいときも、いつもそばにいてくれます。

だから、わたしはかがみおねえちゃんが大好きです!

おねえちゃんごめんね。わたしおねえちゃんをこまらせないように、がんばるよ。

おおきくなったらけっこんしようね、おねえちゃん!

―――



「そだ・・・この作文書いた時も・・・怒られたんだっけ・・・」
「つかさぁ!」
涙混じりに叫び、必死で娘の手当てをする。背中についた傷は大きく、血が止まらない。
腰が抜けてしまい、その場に座り込んでいたゆたかは必死につかさの手を握る。悔しかった、何も出来ない自分が。
「女同士は・・・結婚できないよって・・・でも、一緒にいてくれるって・・・言ってくれた・・・」
「意識が・・・。つかささん!?しっかりしてください!」
「大好きだよ・・・おねえ・・・ちゃん・・・」

つかさの動きが止まる。それを見たこなたの中にふつふつと湧き上がる黒い感情。
「死んだ?か。そいつの顔を見ると無性に頭が痛くなる。ちょうどいい」
こなたの中で何かがきれた!
「うおぉー!許さない!いくらかがみでも絶対に許せないーーーーっ!!!!」
全身を紅蓮の炎に包み、飛び掛った!
振り返るかがみは氷の刃をこなたに向かい突きつける。
「お前も死にたいのか?」
かがみじゃない!かがみはこんなこと言うはず無い!こなたの中で憎しみが爆発し、18年間の人生で感じたことの無いどす黒い感情が生まれた。
「つかさを!かがみを、返せーっ!」
無数の拳撃を放つ。かがみはそれを剣で巧みにさばき、こなたをあしらう。
「こなたおねーちゃん!」
つかさの手を握り締めたまま憎悪の塊となった従姉妹に声をかけるゆたか。だが、その声はこなたには届かない。
必死で止血を続けるただお。動かなくなった娘の背中の血を涙が洗い流す。
神が、神が本当にいるのなら、なぜ、この者たちに救いの手を差し伸べないのか!?
気味の悪い満月はその表情を変えず、沈黙をまもる。
「えぇいっ!小娘!うっとおしいぞぉっ!」
なぎ払った氷の刃から無数の氷塊が飛び出す!氷塊は雪狼に姿を変えこなたを襲う!
神速、と呼ぶべきだろうか?少しだけ、距離をとると、目で追うことも出来ぬほどのスピードで振るわれる両手が次々に雪狼をなぎ倒していく。
隙を見計らいつつ優に2メートルはある大きなつららを生み出すと、かがみはそれをこなたへと向ける。
眼前に迫るつららを手刀で払う。が、大きすぎたつららを凌ぎきる事が出来ない!つららの後ろ側が勢いをとめることなく少女の身体を突き飛ばす。
こなたは後方へ吹き飛ばされるが、身体を翻すとさらに飛んだ!鬼神のごとく突き進む!
「かがみを殺して、私も死ぬ!」
その目に宿るのは殺気。そして、全てを失ったかのような絶望すら抱えていた・・・。

第10夜

頭上から吹き降ろしてくる強烈な吹雪!こなたはそれをもろに喰らって地面にたたきつけられる。
格闘家の面目躍如。華麗な身のこなしで受身を取り、衝撃を和らげる。気がつくと独鈷杵が手元に転がっている。
それを手に取り、再びかがみへの突撃!
待ち構える雪の女王!吹雪と共に襲い掛かる氷の刃!
何度と無く繰り返される斬撃をかわし、受け流し、こらえる。
「こざかしぃ!」
自らの正面に垂直に振り下ろされた刃から放たれる巨大な衝撃波。
「く!・・・・・・・金剛障壁」
独鈷杵を水平に構え術を唱えるも、衝撃波の威力は想像以上に強く全身を打ちつけられるこなた。
愛すべき友を殺され、愛すべき友に裏切られた彼女の混乱と怒りは痛みすらも感じさせない。
両腕に剣を握り力を込める。これが最後の突撃だ!こなたは死を賭してかがみとの相打ちを心に決めた。
こなたの決死の跳躍!が、その瞬間、彼女の耳に神のささやきが届いた!

「こな、ちゃん・・・」
「!」
ただおが咄嗟に娘を抱き起こす!目は閉じ動かない。だが、微かに心音が聞こえた!生きてる!つかさはまだ生きている!!
そしてその事実はこなたの心の闇をかき消すのに十分だった!つかさは生きている!
わずかに残っていた結界とただおの必死の介抱のおかげで一命を取り留めたのだろう!あとはかがみだ!かがみを取り戻す!
「ねぇ、聞いて!」
かがみに向かい問いかける。
「私たちいつも一緒だったよね?いつもお昼たべたよね?くだらない雑談も星の数ほどしたよね?覚えてないの?ねえ!
海に行ったことも!花火行ったことも!ゲマズ行ったことも!チョコをくれたことも!全部、忘れちゃったの!?」
左拳に力を溜め込むこなた。やがて全身の炎は左手に集まり、大きな炎の玉を作り出す。こなたはそれをかがみに向かって力の限り放出した!
高速でかがみを襲う炎の玉が氷の刃の死角に入ったかと思うと、次の瞬間、彼女のわき腹をかすめた。バランスを崩した雪の女王はたまらず落下していく!
「だまれっ!お前の言葉を聞くと頭が痛い!うおー、なんだこれは!?」
苦悶の表情で喘ぐ、殺人者。こなたは攻撃の手を休めない。いくつもの炎の玉を両手から繰り出す。
「友達だよね!親友だよね!ラノベ読むからさ!勉強もするからさ!」
気がつくとこなたの瞳からは大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちていた。
「だから、元に戻ってよかがみーっ!」
間合いを詰め、強烈な左の一撃を氷の刃に当てる!つかさを襲った凶器は音を立てて崩れ落ちた。
「しゃべるな・・・だまれ・・・頭がズキズキする!・・・えぇい!」
かがみは飛びすさり、片手で頭を抱え、再び刃を生み出すと、囚われたままのみゆきの背後にまわった。
「え!」
「周りから・・・殺してやる!そう・・・すれば、お・・・前も・・・・喋る気・・・力を失うだろう!」
かがみは苦痛に顔をゆがめながらも凍るように冷徹な笑みを浮かべた。
「かがみさんっ!?」
「やめてぇ!かがみ!私の、私の大好きなかがみんにもどって!ねぇ!かがみ!かがみーっ!!!!!」

―――
誰かが叫んでる・・・。
誰?誰なの?私は誰?私は・・・。
生まれた時から半人半妖の・・・。
誰かに封印はしてもらったものの、私の力はその人の手に収まるようなものではなかったらしい。
いつの日か、その日が訪れ、妖怪の自分に取って代られる日が来るのだと言う。
私は思った。あまり人と馴れ合わないでおこう、人と関わらないでおこう、と。
だけど、出来なかった。冷たくあしらっても、無関心を装っても、私の中の孤独感が人を呼び寄せる。
さびしいのは嫌だ。一人になるのは嫌だ。私はとっくに一人きりなんだ。
生まれた時から、周りに同じ人間はいない。
私は生まれたときから一人なんだ!
―――ダカラコロスンダロウ?
え?
―――オマエハ人間ジャナイ。人間ガキライナンダロ!ラクニナレ!ワレラト歩ユムノダ!
違う・・・。違う!そうじゃない!私は・・・私は皆と一緒にいたい!
・・・に一度も勝った事ないし!・・・のそばにいてあげなくちゃ!第一、・・・と離れたくない!
誰?私は誰の名前を呼んだ?頭が・・・頭が痛い・・・
―――

こなたは炎の鎧を解き、両足に気を集中しかがみへと突っ込む!
痛みに悶えるかがみはみゆきの背中をポンッとたたき間合いを取る。軽くジャンプし勢いをつけると氷の大剣を逆手に持ち替え、振り上げる!
間に合わない!更に加速する青髪の天使!

グサッ!

氷の凶刃は再び的をはずした。いや、もとより、こちらが狙いだったのかもしれない。
「ただいま・・・こなた。あんたの気持ち、ちゃんと届いたよ」
「そんな・・・」
「心配・・・しないで。こんなだけど、あんま痛くないんだ。嫌だなぁ・・・。人間だったら良かったのになぁ・・・」
みゆきの横をすり抜けた刃は、そのままかがみ自身の身体に深々と突き刺さった。
「ごめんね、こなた。隠し事をしていたのは、私の方なんだ。
数週間前に夜空を見てたら身体に異変を感じた。それが、前兆。
その日からお父さんは必死に封印のお祈りを続けてくれた。
こなたの事もつかさの事も知ってたよ。感じちゃうんだ、天敵?だからかな」
かがみは苦笑いしている。不意に力が無くなったのかガクンと身体が落ちる。
こなたは傷ついた友人を抱きかかえ、すべるように地上に降りた。
「この時期を通り越せば、月の魔力が弱まり、また封印の力も復活するはずだった。
だけど、18年生きたこの身体の中で”本当の私”も力を蓄えていたんだ・・・」
「かがみ・・・」
両手を自らの身体に刺さった刃に当てると、それは音も無く消失した。
「ほらね、血も流れない。もう・・・殆ど人じゃなくなってるんだ・・・。
今の戦いで少し疲れただけ、また・・・”元の姿”に戻る・・・」
力強く、骨が軋むのではないかと思えるほど強く親友の身体を抱きしめるこなた。
涙がかがみの頬に落ちる。一瞬で凍りつき、ころころと転がっていく。
「殺して、こなた。あんたになら殺されてもいい・・・」

「ばか!ばかがみん!何言ってんのさ!そんなことできるはずが無いじゃん!」
つかさは目を閉じたままだった。みゆきもゆたかもただおもその場から動くこともできず、遠巻きに二人を見守る。
頭上で輝いていた不気味な月は消え、本物の月が顔をのぞかせていた。漆黒の雲もいつのまにか消え、あたり一面見慣れた町並みに戻っている。
「だけど、また、あんたやつかさ達の命を奪おうとするかもしれない。私はそれが嫌なの!!!」
こなたがその声に反応して首を強く横に振る。長い蒼髪が月明かりに照らされて煌いて見えた。
「私がさせない!つかさも・・・。かがみに人殺しなんか絶対にさせないから!」
「こな、た・・・」
二人は涙を流し互いを抱きしめあった。
その瞬間、月の光が強くなって、かがみを包み込んだ気がした。こなたが空を見上げる。
(何者かが持ち込んだ私の思念が、私を引き寄せた・・・。久しぶりね・・・こなた・・・)
「えっ!?」
(こんな形でしか逢えないのはとても悲しいけれど・・・)
先ほどまで雪女と格闘を演じていた辺りにぼーっと透き通る白い影が浮かび上がる。
「お、お母さん!!!!」
やがて実体化する白い影。そこにはこなたと同じ蒼髪をたなびかせ、こなたと同じ顔をした女性が浮かんでいた。
「あなたはとてもいい人生を歩んでいるみたいね。私、とても嬉しいわ」
視線を吸い寄せられるように全員が空を見上げた。
「これは何もしてあげられなかった私からのプレゼント。受け取って・・・」
かがみを包んだ光がいっそう明るさを増すと、青白い着物は見慣れたセーラー服に変わっていた。
そして、その変化と共に泉かなたもまた、消えていった。
「え?また・・・また会えるよねっ!?」
こなたは何も見えなくなった空に向かって叫ぶ。声もすでに聞こえないけれど、風が少しだけ微笑んだ気がした。

「これ・・・」
こなたはポケットから何かを取り出し、かがみに手渡した。
「さっきまで冷え冷えだったし、ちょっと寒いでしょ?みゆきさんに貰ったの」
「・・・うん」
「行こ?」
こなたがかがみの手を引いて立ち上がらせる。
「おかえり、おねえちゃんっ!」
ただおの背中に抱えられたつかさが叫ぶ。
「つかさ!」
「かがみ、おかえり」
「かがみさん、おかえりなさい。泉さん、お疲れ様です」
「おかえりなさい。こなたおねーちゃん!」
ゆたかは相当疲れていたのか立てずに座り込んだままだった。
「あ、あの・・・私も、おんぶ、してもらってもいいかな?」
それを見て皆が笑い出す。少しふくれっ面のゆたか。
二人は駆け出す。いつもの表情を取り戻し、顔を見合わせて微笑んだ。



~エピローグ~

「ゆたか・・・」
「じゃあ、私行くね!」
「ゆーちゃん!調子悪かったら無理しちゃだめだよー!?」
ゆたかは親愛なる従姉妹にうなずいてみせると親友の元へと走っていった。
「ゆたかちゃん、大丈夫そうだね」
「そうですね。心配でしたけど、あの分なら良さそうですわね」
「うん、体調はいいみたいだよ~。それにしても、雪女ってすっごくハマリ役だと思わない?」
無邪気にいたずらっぽい笑顔をみせるこなた。
「おいおい、その話は止めないか?ていうか、ハマリ役って意味が分からないんだが?」
「あのね、雪女は生きてる時は男にデレデレ、死んだらツンツンだからお姉ちゃんにぴったりなんだって」
「おい、こなた?私はツンデレじゃないって何度言えば分かるんだ?それに、それじゃあデレツンじゃないか!」
「ふふふ、すっかり元に戻ったみたいですわね?」
学校へと続く道。何事も無かったかのように、いつも見慣れた4人の日常風景がそこにはあった。
「それにしても、こなたのお母さんには感謝しなきゃね~。あんなに強い封印かけてくれるなんて!」
「あひゃひゃひゃ、おじさん涙目wwwワロスwww」
「あはは、うちのお父さんあれで結構傷つきやすいから、あんまり言っちゃだめだよ?」

「あのぉ・・・」
みゆきが小さく挙手する。
「今、ふと思ったんですが・・・」
「なになに?」
「黒井先生のお話にもあったのですが、”噂”が広まってそれが強くなると”伝説”や”伝承”になるんですよね?」
「あ~、あの授業ね。そんなことも言ってたかもね」
「それで、かがみさんもいずれ”伝説”になるのかなと、妄想してしまいました。お恥ずかしながら」
「あ、あのねぇ、みゆき?そういうことじゃ・・・」
「おぉ!いいこと言うねみゆきさんっ!妖怪じゃあれだから神様になっちゃえー!」
「お、おい!こなたぁ!」
「雪女の神様かな?、雪の女神様?どっち?」
「ちょっと、つかさまで悪ノリしないでよ!」
「そうですわね!かがみさんですから、『ゆきがみさま』、というのはどうでしょう?
「わーい、ゆきがみさまー、ゆきがみさまー!」
「はしゃぐなっ!ちょ、待て!待って!待ってよー!」

~another story of lucky star~雪神(ゆきがみ)~ Fin
ツールボックス

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