ID:KT0o18LR0氏:夢で踊れ

ある土曜の朝、目が覚める。
昨日は夜遅くまで文化祭の練習をしていたため、今日の起床時間はいつもよりも遅くなってしまった。
私はひとまずキッチンへ向かった。が、だれもいない。いつもは誰かがいるのに……。

不審に思いながらつかさの部屋に入ってみると、つかさはベットに腰を下ろして座っていた。
うつ向いたままで変化がない。どうも様子がおかしい。

「つかさ、みんながいないんだけど、何か聞いてない?」

返事がない。

「ねえ、つかさ、どうしたのよ?」

私はつかさの前で腰を下ろし、つかさの顔をのぞき見る。
その瞬間、反射的に私は叫んだ。

「つかさ!つかさしっかりしなさいよ!つかさー!!」

つかさは薄目を開いたままで床に視線を向けているが、多分何も見ていない。

閉じていない口からはヨダレが糸を引きながらに垂れ続けている。

なんてことだ。
さっきから叫んでいるのに家族が来ない。
やっぱり誰もいないのか。
早く救急車を!

私は電話を探した。
携帯電話はどこだった?
携帯電話を探すよりも、固定電話でかけた方が早いかもしれない。
私は固定電話のある玄関へ走り出すのだが、なぜか玄関へどうやって行くのかがわからない。
私は家の中を迷走しているうちに、いつの間にかまたつかさの部屋に戻って来ていた。

やはりつかさは白い顔でうつ向いたままだ。

私は何をもたついているの!?早くしないとつかさが!

ふと気が付くと、見慣れた黒電話が目の前にあった。すかさず私は受話器を手に取り救急車を呼ぼうとする。
しかし。
あれ?電話番号ってなんだっけ?あれ?あれ?そもそもどうやって電話をかけるんだったかな?
あれ?あれ?あれ?
急がないといけないのに。

私は焦った。様子のおかしいつかさを見付けてから、どれだけの時間がたっただろうか?
数十秒?それとも一時間を超えたかもしれない。



どうして!何もわからない。私がいったい何をしているかがわからない。

その時、私の背後で音がした。

ドサ…………

つかさが崩れた…………。

間に合わなかった………………。


ある土曜の朝、目が覚める。
同時に全身の力が抜けて、むさぼる様に空気を吸い込んだ。
新鮮な空気を吸うことの叶った私の体は、のたうち回りながら狂喜している。
目の前にあるのはいつも通りの部屋だ。

まったく酷い夢だ。

こんなに現実感のある夢を見るなんて。でも所々はやっぱり夢でしか有り得ない内容だったのを覚えている。
試しにつかさの部屋へ行くべきかとも思ったけど、なんとなく行く気になれなかった。


しばらく、ベッドに寝そべりながら今日の予定を思い出してみる。
今日はたくさんの人が私の家にやって来る。
文化祭の出し物の練習だ。
えーと。こなた、みゆき、日下部、峰岸、ゆたかちゃん、みなみちゃん、パティ、
田村さんにつかさ、そして私……。
本当にこの家の中に入るのかしら?
本堂のほうに案内すればなんとかなるかな。



まぁとにかく、朝ごはんを食べよう。

私がキッチンに行くと、そこにはちゃんとお母さんがいて、ついででまつり姉さんがいた。

「おはよう。姉さん早いね。いつもはもっと起きるの遅いのに。」

「ん、おはよう。試験が近いんだよ。さすがに勉強しないとさ、まずくってね。」

いつも通りの朝を迎えられて、私は内心で微かにホッとする。
つかさはまだ起きていないようだが、きっと大丈夫だろう。
いや、そろそろ起こさないとみんなが来てしまうかもしれない。
ここはちょっと意地悪してわざと起こさないでおこうかな。



私が朝食をすませて一時間程したころに、ゆたかちゃんとこなたがやってきた。

「いらっしゃい。どうぞ上がって。」

「おじゃまします。」

「ひょっとしてつかさはまだ起きてないのかな?」

「まだよ。ちょっと起こしてきてもらえる?」

「くくくっ、はーーい。」

その後、おおよそ時間通りにメンバーがそろった。やはりこの家ではきゅうくつだったため、境内で練習する事にした。
つかさはこなたに顔を落書きされて、額に肉と書くところを内になったあたりで起き上がった。
もちろんつかさは無事だ。当たり前だ。夢の中のようなことに、なるはずが無いのだから。
練習には熱が入り、普段よりもはかどった様に思える。
ゆたかちゃんの事も考えて、連続して長時間の練習はせず、こまめに休憩を入れての練習である。
その何回目かの休憩で、お母さんが差し入れにとお小遣いをくれたため、私とこなたは差し入れの買出しに行く事になった。

「あんな目立つ事して、お参りに来た人たちの目が痛いわ。」

「恥じらいのかがみ萌。」

「はぁ?あんたは恥ずかしくないの?」

「私はバイトでよくやってるからね。なれてるよ。」

「そ、そういえばそうでございましたね。」

近くのコンビニに着く。
こなたはジュースやポッキーやポテチなど、様々なものをかごの中へ押し込んでいく。

ふと棚を見ると可愛らしい水色のリボンがあった。
ちょっと欲しいな、と思ったけれど想像以上に値段が高く、買うのは諦めざるをえない。

しかしそのリボンは、あまりに魅力的で、あまりに無防備で……。
かごからお菓子が崩れ出してしまいそうなくらいになった頃、私とこなたはレジに向かう。
少々予算をオーバーしてしまい、仕方がないので私が超過分を立て替えておく事にした。

「ちょっとは考えて買え。今は私の貯蓄が少ないんだから。」

「ごめんかがみ、ついいつもの大人買いの癖が出ちゃったみたいで。」

「それだからあん……」

ここで私の言葉は止まってしまう。
なぜなら、私のジーパンのポケットの中に水色のリボンが入っていたからだ。
それを手に取りじっと見つめる。
私は何をしたの?
記憶を探る。
そう言えばリボンをポケットに入れた気がする。
そう言えばあの瞬間、私は万引きをしようと考えていた気がする。
そうだ、リボンは私が万引きをした。
確かにこのリボンは私が万引きをしてここにあるのだ。
なんで私はこんなことをしてしまったの?
未開封のビニールに包装されたリボンが、小刻みに触るえ始めた。
背後に気配を感じる。
私の正面に立つこなたは、視線を私を通り越してその向こう側に向けている。
きっと私の背後にいるのはコンビニの店員に違いない。

「いやっ!」

私はこなたの手を取り、足がもつれるくらいに走った。手に持っていたリボンはその場に落ちる。

私はリボンは返した。だから許して。
すごく後悔してるんだから。もう絶対にやらないんだから。
お願いだから、お願いだから。
お願いだから全部なかった事にして。
見逃して、見逃して、見逃して

どれだけ走ったかはわからない。ここは見覚えのある公園だが、私の家からは随分と離れたところだ。

「ハア、ハア、ハア……、か、かがみ一体どうしたのさ。」

「ハア、ハア、ハア。………。」

何も言えない。
万引きをしてしまった私がなにを言える?
言えるはずがない。こなたは私をなんて思うか……。

私の呼吸が整い、脈が静まる。

「はぁ、ちょっとね、走りたかったのよ。」

言えない。絶対に言えない。

「へ?」

そこで私の目にはパトカーが映る。
そのパトカーはこの公園の入り口に止まった。中から出てきたのは成実さんだ。

「あ……、あ……。」

「かがみ?どうしたの。いったい。」

成実さんが、こっちへ歩いてくる。にっこりと笑いながら。
しかし明らかに怒りに満ちた顔に見えてくる。
終わった。きっとあの店員に通報されたんだ。
もうダメだ……。
もうダメなんだ!



ある日曜の朝、目が覚める。

最悪だ。二晩続けて悪夢を見るなんて。
今回もまたリアルだ。前回の夢よりもさらに。
お父さんに頼んで厄払いでもしてもらおうかな……。
こういうのってストレスとか、体調とかにも影響されるんだろうか。
心当たりはないけど、そんな事、何かあったかな?

何とか体を起こして着替えを済ます。今日もまた忙しい。

今日は登山だ。登山と言ってもロープウェイを使うので、ほとんど歩く事はない。
現在は朝の六時。つかさを起こさないと。


お眠なつかさを引っ張って、珍しく私たちより早く来ているこなたとみゆきと、静かな駅で合流する。
電車に揺られている間に、自然と皆テンションが上がってくる。

「この間は、やけにくさくってさ。」

「そうですね、あれはくさいですね。」

「……。どうしたの、お姉ちゃん。」

「え?」

「お姉ちゃん、なんだか元気がないよ。」

「そ、そんな事ないわよ、ほらっ。」

持っていたスナック菓子を、握れるだけ握って口に押し込んで見せる。

「やるねー。でもダイエット中だったんじゃないの?かがみん。」

少し夢の事をボーっと思い出していたが、何も思い当たる事はなかった。
偶然だろう。


そうこうするうちに電車は目的の駅に着き、あとはバスに乗り換え十数分。
私たちはロープウェイの発着場にたどり着く。
ゴンドラには私たちだけで乗り込む事が出来、広いゴンドラ内は独占の状態だった。
山肌を眺めながらこなたが言う。

「紅葉のシーズンだったらもっときれいだったかな。」

「そうね。でもいいじゃい、これで。」

紅葉の季節には文化祭は終わっている。出来れば季節ごと時間が止まって欲しいと思っていた。

「まあね。でもどうして葉っぱって赤くなるのかな。ねえ、みゆきさん。」

「それはですね、普段、緑色に見えている葉緑素が寒さや日照時間の短さに影響されて分解されます。
それと同じころ葉の中では糖分が作り出される様になり、その糖と光合成を利用して赤や黄色といった色素を作り出すようになります。
この色素が葉の色を変えて紅葉するんですよ。」

「わあ、紅葉してる葉っぱって、糖分が入ってるんだね。じゃあ、食べてみると甘いのかな?」

「そ、それはどうでしょう。すみません、ちょっとわかりません。」

「つかさ、だからって食べるなよ?」

「え、えへへへ……。」

「食べる気だったのか。」

私たちはロープウェイから降りて少し歩き、展望台へ向かった。
展望台には簡易な柵しかなく、私たちは岩肌が露出した断崖のその真上に立っていた。

「はあ、見晴らし良いわね。」

「これが高校時代最後の旅行なんでしょうね。」

「そうね……。」

「かがみとみゆきさん、受験勉強がんばらないといけないからね。」

「うん……、ってちょっとこなた、あんたどこ行くのよ。」

「いや別に、ちょっと散歩」

「あ、私も行くー。」

「はあ、まったく。」

展望台には私とみゆきの二人だけになり、穏やかな空気が流れ始めた。
最後の旅という事もあり、少々物寂しい。
ただただ無言で時間を潰していた。
ちらりとみゆきを見てみる。みゆきはこっちを向いていて、目が合った。
みゆきはニカッと笑った。

「毎日ダイエットばかりで、結局いつも損してますよね。このデブ。」

わけがわからない、みゆきがこんな事を突然言い出す事が。
寒気が走った。みゆきが迫ってくる。背後には断崖が迫っていた。
しかし私は後ずさるをえなかった。
そのまま数秒の間を置く。この時私は、とてつもない絶望感に襲われていた。
助かるはずがない。ここで私は殺されるんだ……。
冷たい横風が吹き、私の長い髪が自分の目に入って反射的に目をつむった時、
みゆきが突然飛び掛ってきた。
抵抗はしたものの体のバランスを保つ事は出来ず、私はとうとう崖から足を踏み外した。

私は回転しながら落下していく。
しかし無重力を感じる事はなく、また風を感じる事もなかった。
落ちながらも気が付いた。

あ、これ、夢なんだ。

私は地面に着地した。



ある月曜の朝、目が覚める。
また……、まただ。
これで3回目。
ハァ、いい加減にして欲しいわね……。
やっぱりお父さんに頼んで厄払いでもしてもらおうか?
今日は学校か。正直あんまり行きたくないな。
こなたならよく学校をサボっているが、私は当然サボった事などは一度も無い。
こんな愚痴をこぼしながらも、所詮は習慣付いた行動をとってしまう。

学校では何となく頭の回転が悪く、授業がはかどらなかった。
粘っこい時間はいつの間にか過ぎさり、私たちは文化祭の出し物の練習をしていた。
体育館は他のグループが使用中ということで、私たちは3年B組の教室で練習をする事になった。
C組ではトンカントンカンと作業に追われている。
しかしB組は占いをするだけなので、私のクラスのお化け屋敷のように様に大道具は必要ではなかった。
だから私たちの他には誰もこの教室を使っていない。

さすがにこの練習をしている間は、いろいろと忘れてるこが出来た。
最後の文化祭だ。もうみんなとこんな風に練習する事は多分ない。
だからひたすらに打ち込む事が出来たのだった。

何度目かの休憩で、こなたが私に言った。

「みんなにジュース買いに行こうよ。」

「え?いいわよ。」

なんとなく覚えのあるシチュエーションだ。

「え?全部こなたのおごりで買うの?」

「そうだよ。おとといはかがみのお金で差し入れ買ったでしょ?
だから今回私が出して差し上げようというわけだよ。」

「べ、別にそんな事は気にしなくていいのに。それに大丈夫なの?」

「大丈夫、大丈夫~。」

こなたと一階に並ぶ自販機に買いに行く。
その途中の階段。

「最近買うものが少なかったからさ、バイトの給料がたまって、最近財布がふくよかになっててね。」

「へぇー、そうなんだ。」

「かがみも気をつけないと、財布みたいにデブになっちゃうよ?」

「デブ?」

「そう……。」

空気が変わる。あの夢と同じだ。
ニヤニヤとしたこなたが迫ってくる。
後ろを向くとそこは全開になった窓だった。
いや、いや……。
あの夢と同じように寒気がする。
そのまま数秒の間を置く。やはりてつもない絶望感。
窓からの風が私の髪をなびかせた時、こなたが動くより早く、私の体が動く。
こなたの小さな体が、人形のように宙を舞う。
私はこなたを階段から突き落としていた。
こなたは階段の踊り場に派手に転げ落ちた。そしてぐうと言って痙攣しはじめる。

白い顔。白目を向き、よだれを垂らしながら。

その様子を見て思った。一回目の夢と同じだと。
次に思ったのが二回目の夢と同じ、ひたすらに深い後悔をしているということだった。
階段の上のほうから誰かの足音が聞こえてくる。
その誰かがこの惨状を見つけた時、私の姿はそこには無かった。
全開の窓が私を歓迎いていたからだ。

三回目の夢とは違い、無重力とひやりとする風を感じる。
地面は猛スピードで私に近づいてくる。
しかし、そんな事はどうでもいい。

どうせこれも……



夢・な・の・だ・か・ら



ある、月と太陽が同時に昇る朝、目が覚める。
これは夢?それとも現実?

そこは緑色の平原。
みんなは出し物の練習をしているのに、私だけはその輪に入っていない。
私もその輪に入ろうとするが、何故か体が動こうとはしない。

「かがみは何もしなくていいよ。」

「こなた……。」

「だって、柊がいなくっても私たちだけでできるぜ?」

「……。そう……。だね……。」

「柊ちゃんは自分でそうだと思うの?」

「え……。」

「お姉ちゃん。私たちにとってお姉ちゃんは、本当に自分が必要ないと思われてると、思ってるの?」

「つかさ……。」

「かがみさんはどうしたいんですか?」

「私は……。」

「先輩、きっと言いたい事があるはずです。」

「そうでス。思い切って言っちゃってくだサイ!」

「私……。」

「先輩、ファイトっス!!!」

「頑張ってください。」

「私、みんなの一緒にいたい!それからみんなに必要とされたい!ずっとみんなと過ごしたい!
私すごく寂しいの。みんなと過ごせる時間がどんどん減ってる。文化祭が終われば私はもう
みんなとこんな風に力を合わせる事なんてない。んっ、だから私、みんなと……。」

もう私は泣いていた。

「ありがとう、かがみ。私その言葉が聞きたかった。でもね、私は文化祭が終わったら何もない
って言うかがみの考え方が気に入らないよ。」

「どうして……?」

「文化祭が終わったって、私たちかがみを応援するよ。大学の勉強するんでしょ?それくらい、
私たちにだって手伝えるよ。私たち、かがみのためにそれくらいの事をしようとしてるのに、
かがみはそれに気づいてくれないんだもん。……かがみ。私たちを、見くびらないでよ!」

「うん、ごめん、ごめんね……。」




ある月曜の夜、目が覚める。
すぐには意識がはっきりしないが、ここは見慣れた私の部屋ではない。
多分ここは病室だ。
暗くてすぐには気が付かなかったが、私の寝るベッドにもたれかかって眠る人がいた。
子供の様に小柄で、その体格には不釣合いなくらいに長い髪が重力に従って垂れているが、
頭のてっぺんにある髪だけは重力に逆らって跳ねている。
この姿を見るだけで、どれだけホッとすることだろう。
こなただ。

よく見ると頭には包帯が巻かれている。

「んー?」

「あ、起こしちゃった?」

「あれ、かがみ?」

「よだれ、垂れてるわよ。」

「かがみー!!!よかった、なんともない?すぐにナースを連れてくるからね!待っててよ!」

「待ってっ!こなたに謝りたいの。その……ごめん、こなた。」

「かがみ……。ううん、私も調子に乗った事、言っちゃったからね。」

「ありがとう、ありがとうこなた。私、こなたとこれからもずっと一緒にいたい……。」

そう、この言葉が言いたかった。
夢のこなたじゃない。
私の目の前にいる、このこなたに。

「私もだよ、かがみ。私だってかがみと同じくらい一緒にいたいよ。だから、窓から飛び降りるなんてやめてよ。
私なんかよりかがみの方が危なかったんだよ!」

「ごめん……」

「ずっと友達でいるよ。私たちが離れ離れになってもさ、きっとすぐに会えるんだから。
それにさ、かがみ。離れ離れになっても、絆はつながってるんだよ。」

「こなたにしては、味な事を言うじゃい?」

「むぅ、私はまじめに言ってるんだけど!」

「うふふふふ……。」

「ははは、ははははは!」

泣いたり、笑ったり、怒ったり。
やっぱり頭を打っておかしくなったんじゃいかと思えるくらい、
自分の思った事が洪水のように溢れては感情に現れた。

すぐに看護師さんが駆けつけてくれて、次の日には検査をする事になったが異常は無かった。
あの時、私の落ちた所がたまたま花壇になっていなければ、たまたまやわらかい土が衝撃をやわれげてくれなければ、
私はここに立ってはいられなかったろう。
体のいたるところにかすり傷や打撲などがあって少々痛みがあったが、
それほど酷いもではなく数日のうちにそれらの痛みは消えていった。
もう一日検査入院をすることになりCTスキャンを使って脳を調べたが、やはり異常は見つからなかった。

入院の間に警察の方にいろいろと聞かれるはめになった。
こなたの計らいか、私とこなたは知らないおじさんに突き落とされた、と言う事になっているらしい。
どう言えばいいのかわからず、私は何も覚えていないの一点張りで通す事にした。
沢山の友達がお見舞いに来てくれた。
いくつかのお見舞いの果物を頂いたが、それらを食べる間もなく退院する事になった。

そう言えば私がこなたを突き落としてしまった直前、こなたは私のお腹をつまんでやろうと、
私に迫っていただけらしいのだ。
本当に私はこなたに何て事をしてしまったのだろう。
その事を夢の事と一緒にこなたに打ち明けた。
こなたは笑って許してくれた。
夢の事も笑い飛ばされてしまった。
その笑顔を見ていると、自分がとても簡単な事を悩んでいると思えた。


文化祭はこの事件のせいで中止寸前になったのだが、生徒の反対の声が多く、
結局、沢山の警官に囲まれた、物々しい雰囲気の中で開催される事になった。
こんな事になってしまって、少し罪悪感を感じるが、こなたはいつもの調子でいるため、
いつの間にその様に感じる事はなくなっていた。
すみません、次はそうしないように気をつけますから、今回は許してください。

私たちの出し物もまた予定通り参加する事が出来た。
もちろん大成功のうちに幕を閉じる。
みんな嬉しくて泣いていたが、その中でも特に大声で泣いていたのが私だった。
みんな私をやさしく慰めくれたが、私にとってそれは、かえって逆効果だった。
余計に嬉しくなってて涙が止まらなくっていった。
これだけ盛大に泣いたのは何年ぶりか。
一切の不快を感じない涙がここちよかった。


あれから一ヵ月後、もう紅葉の季節となり、遠くに見える山々も紅く色付き、うちの神社のもみじもまた赤くなっている。
あの事件の前の私だったら、寂しいから来て欲しくなかったと思っている季節だ。
でも今の私は違う。
受験が迫って来るのに、勉強が追い付けないという状況から、季節ごと時間が止まって欲しい思っている。
という風にパワーアップしているのだ。
とは言っても私の友達たちが応援してくれているため、勉強はとてもはかどってはいた。
文化祭が終わり、打ち上げ会を開いてる途中、私とみゆきはこれから受験勉強をすると宣言した。
それ以来、みんな少し私を見る目が変わったようで、すごく協力的になってくれた。

つかさは良くクッキーを焼いてくれる。もちろん喜んで食べるのだが、そのせいで体重に悩まされるのがたまに傷だ。
みゆきとは良く一緒に勉強を教えあったりして、今では今まで以上に親友の絆は深まっている。
日下部とこなたは最近、宿題を見せて欲しいとは言わなくなった。二人でまじめに取り組んでいるらしい。
心配なのでたまに見てやるが、余計なお節介だと言われてしまう。どうやらこの二人、仲が良くなったようだ。
ただ、勉強の息抜きにと言っては新作ソフトのゲーム持ってうちに来ては、はしゃいで私たちと遊んでいる。
一年生はなかなかわかりやすい変化はなかったが、

「勉強がんばってください。」

と言う激励をたまにもらう事があり、その度にちょっと照れてしまうのだった。
夢の中でこなたが言っていた事。
私たちを、見くびらないでよ!
その通りだった。私の思うよりもずっと頼もしい。
内心、現実のこなたにあの言葉を言って欲しかった。
そうしたらもっと遠慮なくいろいろ頼み事が出来たのに。

結局あの悪夢の3連続は何だったのかはわからないままだ。
ただあの夢があの事件のきっかけであった事は間違いなく、今の状況もまたあの夢が無ければありえない。
あの悪夢は、いい結果だけを残して、それ以来見ることはなくなった。
最近私は、あの夢は自分で作り上げたのだと思うようになっていた。
きっと心のどこかで、私は友達を疑っていた。それがいけないのだ。
一回目の夢では、つかさがまだ間に合うと言う事を疑った。
二回目の夢では、こなたを信用せずに真実を話さなかった。
三回目の夢では、もはや考えるまでもなくみゆきを疑った。
こんな風に友達の絆を疑っている事を、そのころから気づき始めたのかもしれない。

夢のおかげなのか、自力なのか、とにかく絆に気が付く事が出来た。
さらそのおかげで、私は今まで以上に深い友情を築くいている。

私は今、自分の部屋で勉強をしている。
もみじが三枚机の上に置かれている。
いまこの部屋には誰もおらず、私一人しかいない。
しかし寂しさを感じることはない。
ここで勉強しているのは私一人だけではないからだ。
こなたの言っていた絆と言う言葉。
今ほどそれを強く感じる事はない。

こっそりと、一枚のもみじの葉先を食べて見た。
まったく甘くない。
当然の結果ながら、期待を裏切られてちょっとがっかりした。

私はには、これからも、この友情が続いてほしいと言う期待は、絶対に裏切られないと言う確信がある。

だから、私もみんなを裏切らないように、希望の大学に入学できるように努力しなければいけない。
しかし苦痛を感じることはない。みんな私の友達だから。


だから今日も気合を入れて、一人しかいないはずの部屋でみんなと勉強をするのだった。
ツールボックス

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