「パトリシア・マーティンの失敗と成功。」 ID:0obYW8pB0氏

「今日はここまでにしましょう。」

柊かがみは練習している皆に合図を送った。

「ふぅ~、本番まで何とかなりそうですね。」

パティことパトリシア・マーティンが安堵の溜息と共にほっと胸を撫で下ろす。

「でもさぁもうちょっと甘い所とかはまだまだあるけどね。」
「そうですか?」
「そうよ。」

帰り支度をしながらかがみは吊り上がった瞳をパティに向け、

「例えば・・ほら、最初にケンケンで跳ぶ所とかまだ甘いじゃん。」
「でもそういう所は楽しくやったらいいのでは―」
「それが駄目なのよ。」

まだかがみの徹底ぶりは劣らない、パティの考えを突き返すようにかがみは言葉
を続ける。

「そりゃ楽しむのも重要な事よ、でもねそれだとね完成度が低くなるでしょ?私はね
やるからには完璧にしたいのよ。」

かがみの言ってる事は厳しい意見とも言えるがそれは正しい意見とも言える、元はと
言えばパティ自身の責任でこんなにも練習が遅れてしまった、そんな状況下でもここまで
周りを引っ張ってくれるかがみはありがたいと言えるであろう。

「まぁとにかく次はもっとそこらへんの所練習しましょう、じゃね。」
「・・・・・。」
「パティ?」
「え!あぁ・・・はい・・・。」

ことの起こりは2週間前に遡る、文化祭でチアダンスをやらないかという提案を
パティが出した、まず同じクラスで仲のよい小早川ゆたか、岩崎みなみ、田村ひより
が乗り出した。しかし事が次第に大きくなり上級生にまで今では総勢10人までに
及んだ。最初はただ楽しくやればいいと思っていたパティも事の大きさに段々と
不安になってきた。

そんなもやもやを抱えたまま次の日を迎えた。
その昼休みに小早川ゆたかは心配そうにパティに話を振る。

「さっきから何そわそわしてるの?」

ゆたかは白米をつつきながら、

「チアダンスの事で心配してそうな顔してるね。」

まるで占い師のような推測の鋭さに悪寒を感じたパティ。

「いえ別に・・ただ最近寝不足気味でして・・・。」
「もしかしてお姉ちゃんみたいにゲームとか?」
「そんなんじゃありませんよ・・本当に大丈夫です・・・。」
「そっか・・・ならいいよ・・・。」
「あ!いたいた。お~い!」

第三者の声が聞こえた、ツインテールをなびかせながらかがみが叫ぶ。

「練習の打ち合わせやっちゃおうよ。」

つかつかと違う教室にも関わらずお構いなしに入って来た、やはりかがみはこういう
行事には情熱を燃やすタイプらしい。

「ちょっと聞いてるの?」
「あ・・はい・・・。」
「しっかりしてよ!提案したのはあんたなんだから!」

この強気な態度は変わらない、元々吊り上がった瞳のせいもあってか余計に気が強い
ように思えてしまう。

「いくら何でも言い過ぎじゃ―」

ゆたかがカバーに入ろうとするもかがみはそれ以上の言葉で跳ね返す。

「駄目よ!言ったからにはそれなりの責任ってもんがあるの!甘やかしちゃ駄目!」
「柊さんの言う通りですよね、すいません・・・。」
「マーティンさん・・・・。」


場所と時間が変わり場所は体育館、時間は放課後。
上級生と下級生に別れた不安定なこのチームもクラスの準備の合間を取り、何とか
練習に参加していった。軽快で明るい音楽と共に踊りを踊った一同であったが急に
音楽が止まった。止めたのはかがみだ。

「さっき言った所!どうしてまたミスするの?」
「ご・・ごめん・・・な・・さい・・・。」
「反省してるならいいけど・・次はそんなミスは無いようにしてよね!」

か細く岩崎みなみは呟いた、そしてそれと同時周りの空気が一気に冷たくなった。
他人が見てもみなみのミスは目立つものでは無いしそれは周りでもわかっていた事だ、
単刀直入に言うとかがみのミスの指摘は文化祭の披露にしては明らかに厳しいといえる
であろう。かがみの言い方はきついかもしれないがかがみがこのダンスを引っ張ってる以上
誰もかがみに反論はできなかった。

そんな中小早川ゆたかが口を開く。

「柊・・・さん・・。」
「何?」
「今日は終わりにしません?」
「何でよ!まだ直す所が―」

柊の強い態度で危うく喧嘩にまで発展しそうな所になるとちょうどいいタイミング
に泉こなた達の担任の黒井先生が出てきた。

「おーい!もう下校時間やで!そろそろ終わりにしーやー!」

この黒井という先生は生徒達からそれなりに慕われていてやはりそれなりに統率力が
ある、流石のかがみも下校時間を破ってまで練習しようとは思わず大人しく帰る事にした。
ただしちょっとで問題になりそうだった自分の意見を訂正せずに。
この状況に長年の教師としての勘でわかったのだろうか黒井が口を開く。

「何や?何か問題でも起こったんか?」

ちょうど近くに居たパティに質問する。

「えっと・・・その私のミスで皆を困らせちゃっただけです・・・。」
「う~ん・・そうか・・でも何かあったら相談するねんで・・。」

やはり変だ、黒井はパティの曖昧な返事やうんともすんとも言わない他の生徒達にも
何か問題があると思った、しかしこれは生徒同士で解決する事とりあえず今は様子見
と言う事でこの場は引く事にした。高校生とは言ってもまだ子供、それぞれ違う思い
の人間が10人にもなれば苦労だって絶えないだろう、いくらやる気あるとは言って
それが返って空周りしない事を祈りつつ・・。


そして当日になる、不安定でもあった踊りも何とか形になった。
とは言ってもまだミスがあるのは目を瞑る訳にはいかない、当然それも彼女達は
わかっているのだから本番直前にもなってこんなに緊張感を持っている。

場所は体育館の舞台、ライトが付いていない為赤いカーテンは黒く染まっており
そのカーテンごしから滲み出る観客の会話の多さがより彼女達を緊張の渦に巻き込む。

「な・・・何か、いつもの調子じゃ無いわね、こなた・・・。」
「そ・・・そういうかがみだって変だよ・・・。」

それぞれが口を出して場が騒ぐ、その中で周りに聞こえないようにパティとゆたかが
口を開く。

「ねぇ、前の事引きずって無いよね?」
「は・・・はい。」
「でもさぁ柊さんだって問題あるよ、いくら何でもきつく言い過ぎだよあれは。」
「そんなに柊さんのせいにしちゃいけませんよ。」

多少声を荒げた為に一同がパティに振り向いた。

「えっと・・私何か―」
「すいません、貴方じゃなくて・・・とにかく気にする必要ありませんから・・。」

その時電子音と共にマイクの音が出る、始まりの合図だ。

『え~本日は・・・・・』

実行委員の白石みのるが前置きを述べていても彼女等の緊張は変わらなかった。
このカーテンが上がった時自分達はどういう目に遭ってるだろうか、考えただけ
体の震えが止まらない。

(・・・・・・・・・・。)

パティはまだ緊張の震えが止まらずにいた、今思えば自分のまいた種がこんなにも
大きくなるとは思って無かった、こんな事になるならやるんじゃなかったと後悔の
念もあった。

そしてカーテンが上がった。軽快な音ともに周りが光に包まれる。

まず心で思うより行動が支配した、あれだけ練習しただけあって体に習慣が
染み付いてたのだ、多くの観客が見詰ている中他の人の面倒等みている余裕など
あるわけないだろう、そしてそれが後の間違いを招くのは5、6秒後の話になる。

それはすぐに起こった、元々この窮屈な舞台で激しい動きは周りに体がぶつかり
難しい事になる、練習中に何度か体験したがそれは本番に出ない事を祈っていたが
それが現実となった。

それはスローモーションのような一瞬な出来事だった、だがこれは永遠のように時間
が止まったように見えた、最初で肩を動かすシーンで元々優柔不断になっていたパティ
がトラブルを起した。

「――――――」

声を発する者はいない、ただ目の前の失敗を見詰るしかなかった、それはドミノ倒し
のように横の一列が倒れそれに引きつられるように他の列も踊りを止めた。

残ったのは静まり返る場と無常に流れる音楽だけだった。


その後の突然のアクシデント踊りは途中終了になり観客は騒然とし何とか場を
取り繕うと次の出し物が開始された。
今は体育館裏の空きスペースに全員休んでいる、この短時間で完璧を目指そうなど
むしが良すぎる話かもしれない、しかし最大限の努力を出し今まで努力を重ねてきた
全ての時間が無駄になってしまった。誰もこの気まずい雰囲気をどうすることもできず
に押し黙った中かがみが口を開いた。

「ねぇパティ・・・何かあたし達に謝らなきゃいけない事があるんじゃないの?」

一同の目線がかがみに向かった。

「あんたのせいで練習した時間が全部無駄になったのよわかてるの!」

「何とか言ったらどうなのよ!」
「待って下さい!」

ゆたかが口を開いた。

「確かに失敗したのはマーティンさんだけど全部責任をなすりつけるのはおかしいと
思います!」
「でも失敗したのはパティじゃない。」
「私が言ってるのはその前の話です!」

今度はかがみが押し黙った。

「前から言おうと思ってたんですけど練習中柊さんは言い方がきついと
思ってました、今まで黙ってたのはそれが練習の為になると思ってたけど・・でももう限界です!」
「だから・・・何が言いたいのよ。」
「今回の失敗は貴方が原因じゃないですか!柊さん!」
「貴方が厳しく怒鳴らなきゃ皆もやる気が出てちゃんと出来たかもしれないんです!
貴方が皆の努力を踏みにじったんです!私達の踊りが失敗したのは本当は貴方にあったんじゃ
無いんですか!」
「それはあんまりだ!」

仲裁に入ったのは日下部みさおだった。

「皆かがみがどれだけ苦労してるか知らないからそんな事言えるんだ!何も知らない
そんな言い方無いだろ!」
援護するように峰岸あやのが、
「そ・・・そうよ、現に失敗したのはパティじゃない。それで全員がミスをした訳だし・・。」
「違います!マーティンさんはかがみさんが怒鳴らなきゃちゃんとやれたんです!」
「間違ってるの小早川だろ!パティは練習中だって!―」
「そ~こ~ま~で。」

あわよくば喧嘩になりそうな雰囲気を収めたの教師の黒井だった、前々からのこのチアダンス
には何か問題があるんじゃないかと警戒して様子を見てたら案の定あったのだ。

「小早川・・・って言ったな確かに柊がきつく言い過ぎた所はウチだってあると思うよ。」

「せやけど・・・・」と今度は周りを見渡して、

「柊の気持ちも少しはわかってあげたらどうや?柊のやった事は皆を思ってやった事やろ?
それを言ったらマーティンのミスは悪い事やないとは言い切れん、そうやろ?」
「・・・・・・・。」
「周りの皆だってちゃんと意見を言わんとあかんやろ。わかったか、今回は誰も悪くない。
誰のせいにもしたらあかん・・・・さて、後はどうするか自分達で決めたらええ。」

黒井の去っていく背中を目で追っていたがはっと気付くようにゆたかが、

「ごめんなさい!」
「違うわよ、私の方こそ―」
「辞めろって。」

みさおが真顔で制止する。

「誰のせいでも無いって言ってたじゃん・・・。」

重苦しい空気の中を去っていく中黒井だけが信じていた、今までばらばらだと思っていた
チームが変わるとしたらこの場面だけしかない、そもそも色物集団のこの面子はこのまま
では終わらない事を1人で呟いていた。

「見せてくれや・・・チアダンスを・・・。」

「もう一回やりませんか?」

ここで立ち上がるしかない、ここで立ち上がらなければ後で後悔しそうな気がパティ
にはした。

「ここまでの努力を無駄したくはありません!失敗は怖いかもしれないけどここで
終わるのはもっと嫌です!皆さん!」
「それじゃあ。」

ゆっくりとかがみが立ち上がる。

「ここでもう一回踊りを成功させたら、それは無駄になんないのよね!」
「はい!」
「皆!もう一頑張りよ!」

だが誰も重苦しい雰囲気に飲まれたままだった、諦めかけた時立ち上がったのは岩崎
みなみだった。普段大人しく冷静な彼女が今積極的になったのは珍しい事である。

「・・・・やる・・・。」
「岩崎さんの言う通りだよ!成功させようよ皆!」

次々と立ち上がる一同、ここまで練習したのはそれほどまでにこの踊りを成功させたい
と思っている者なかりなのだ。


あの後もう1回やらせてくれという力強い意志に折れ、続きをやれるようになった。
もう1回という情けない事に付き合ってくれた実行委員達や観客達に歓喜の涙を
流したのは言うまでも無い。

「・・・・・・。」

静まり返った体育館、何脚もある椅子が自分達が踊った事が夢でない事を
表している。その中でかがみは何を思うか一人で黄昏ていた。

「パティ。」
「柊さん。」

第二者の声に特に驚く様子も無く、2人は対峙する。だが2人共特に言葉は出さず
ぼんやりしている内に沈黙を破ったのはかがみだった。

「ありがとう。あんたのお陰で良い思い出を作れたわ。」
「ふふ!似合ってませんね!」
「な!何言ってるのよ!私がどんな気持ちで言ったかわかってんの!」
「す・・すいません・・。」

悪びれた様子が無く苦笑するパティ、続いてかがみもそれに合わせて表情が砕ける。

「辞め辞め!こんなの症に合わないわ!」

その女の子の名はパティと言った、明るい太陽な彼女があの時あんなに思いつめてた
何て思いも寄らなかった、かがみ自身も踊りをやってみて楽しかったやはりこの2人
はそりが会うかもしれない。

「そうだ!打ち上げ行きません!皆も誘って!」

普段素直じゃないかがみも今回ばかりは反対しなかった。

「うん!」

笑顔で体育館を出て行く2人、彼女達の青春はまだ始まったばかりだ。

終了
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