「旅行にいこー!」
始まりはこの一言だった。
「またいきなりだな。あんたはいっつもそうなんだから」
いつもの四人組は今、柊家で談笑していた。
「去年は海にいったよねー。楽しかったなぁ」
「でも、今からで間に合うでしょうか?予約も一杯そうですが…」
いやいやいや、突っ込むとこはそこじゃないでしょみゆき。
「やっぱ思い出といえば旅行だよー、わくわくしながら現地に着いて、みんなでうろちょろして、お風呂でむふふ…んで布団で怪談!」
むふふってなんだ。
「去年とあんま変わんないんじゃ…まぁ楽しかったけどさ」
ポテチを一枚かじる。やっぱりうす塩がシンプルで美味しい。
「じゃいいじゃん!つかさとみゆきさんは大丈夫でしょ?」
〇ッキーで二人をさしながらこなたが言う。ホントに楽しみそうだなぁ…
…そんなとこがかわいいんだけどね。
「はい、大丈夫だと思います」
「うん、楽しみだねー」
まったく…
「あんた達勉強は大丈夫なの?」
言われたつかさとこなたがうっ、と息詰まる。
「はぁ………じゃあんた達は勉強してなさい。…私とみゆきで調べとくから」
「なぁんだ、やっぱかがみもいきたいんでしょー?素直じゃないんだからー」
「う、うるさいなっ!心配されるような学力ってわかってんの?!」
「うーむ、見事なツンデレ…さすが私の嫁だ」
びくん。
「? どったのかがみ?」うぁぁ覗き込むなぁっ顔が近いっ
「な、何でもないわよっ」「顔赤いけど…熱ださないでよ?かがみいけなくなったりしたらつまんないから」
人の気も知らないで…
「お姉ちゃん、お風呂あいたよー」
「はーい」
かがみはパソコンを終了させて、一つ伸びをした。夕食後、ずっと行く場所を探していたのだ。
「うーん…意外とないわね…みゆきがいった通り予約が一杯の所もあるし…」
~♪
携帯が鳴る。
「あ、こなた?どしたの?」
『かがみー?行き先だけどね、お父さんの知り合いがなんか持ってるらしくてそこ行けるらしいよー』
「なんかって何よ…んで、どこにあるの?」
『おとーさーん、なんだっけー?マンション?』
は?マンション?
『よくわかんないけど、場所は確保したから大丈夫!行き方もわかるから!心配無用さー』
めちゃめちゃ不安だって。
『じゃ明日会って話そう!お風呂入ってこなきゃ』
「ちょ、おま」
つー、つー
「人の話を聞けよっ!」
「お姉ちゃん、どしたの?」
その頃こなたは
「あーいいお湯だー…
…もっていーけさいごにわらっちゃうーのはあたしのはーずー…♪」
「いい湯だったよー」
「あ、お姉ちゃん」
ゆたかがジュースを差し出してくる。
「はい、喉乾いたでしょ」「おー、ゆーちゃんありがとー」
喉を潤しているとそうじろうが居間に入ってきた。
「こなたー、さっきいってたペンションだけど、8月1日から8月10日までならいいって行ってたぞー」
「あ、ペンションだ」
「ん?ペンションがどした?」
ちなみにさっきの会話からかがみにはマンションと伝わっている。
「いやいや、こっちの話。それとお父さんは連れていかないからね」
そうじろうの顔がムンクの叫びのごとく歪んだ。
「そんな顔してもダメだよ。てか普通ついていこうって考えないよ…」
少し呆れつつ、こなたは自室に戻り、パソコンをつけた。
次の日は泉家に集合だった。待ち合わせていた三人は途中で食べ物を買い、時間に少し遅れて着いた。
ぴんぽーん
『はい』
「あ、柊です」
『あ、ちょっと待ってくださいね』
ぱたぱたと音がしてドアが開く。
「あれ、ゆたかちゃん」
「あの、お姉ちゃんまだ寝てて…とりあえずあがって下さい」
まったく…遅れてきたのに寝てるって…
ガチャ、と遠慮なくこなたの部屋に入る。
「ちょっとこなた、いつまで寝てんのよ」
「んぁ…あれ、早いね…今何時…」
こしこしと目をこするこなた。
「あ、こんな時間か。まぁ座ってー」
まったく反省する様子がないのもいつもの事だ。かがみはため息を、つかさとみゆきはくすっと笑い座る。
「で、マンションって何?」
さっそく昨日の疑問を聞いてみる。旅行にマンションは合わないだろう。
「あ、あれペンションだって。ペンションって何なのかよくわかんないけど」
はぁ…もう行った先で迷子になるのが目に浮かぶわ…
「みゆきさん、ペンションて何?」
「はい、ペンションとはドイツやオーストリア、イタリアやスペインなどのヨーロッパ諸国では比較的低価格で泊まれる小規模なホテルをさします。
しかし日本で言えば民宿のうち建物が西洋風の内装、外観で食事も主に西洋料理を提供する宿泊施設のことをさし、ヨーロッパのペンションとは異なるものです。ですからこの場合、後者になると思いますね」
「ゆきちゃんさすがだねー」
「ホント、誰かさんとは大違いだわ」
「なにおぅ!私だってオタク議論していいならかがみに小一時間」
はぁ…あたしって素直じゃないなぁ…
「だからやっぱり中の人は…って聞いてる?かがみ」
「えっ!?ああ、うん」
最も解決すべき問題は決まってしまったので話題は自然と横道にそれがちだ。
「よね、臭いよねー」
「あれはさすがに臭いですねー」
「だねー」
買ってきたマッガールを食べつつ(マッガールおじさんが爽やかなスマイルでこっちを見つめている)
ふと枕元に目をやるとマンガが目に入った。
何の気なしに読んでみようと手に取るとこなたが振り向いた。
「かがみーん、かがみは」こなたは言葉を止め、一瞬かがみが手に持っている同人誌に目をやり、次の瞬きのあとにはこなたが同人誌をとりあげていた。
「こっ、これはまだ途中だからだめだよ」
僅かに焦っているように見える。こなたが焦るなんて珍しいな。
「どうしたのよ、堂々とエロゲーの話するくせに。別に隠さなくても…まぁ無理にとは言わないけどさ」
なんだかただならぬ気配を発してるわね…そんなにまずいものなのかしら…
こなたは安心したようにため息をつき
「ま、気を取り直してゲームでもしよっか」
と、立方体のゲームハードとコントローラーを四つ取り出した。
赤と緑の配管工、電気ネズミ、ピンク玉などが入り乱れて戦うゲームで大いに盛り上がった。
「じゃ、明後日に出発だからね!各自準備しとくよーに」
「あんたが言うな」
夕暮れ、最後の夫婦漫才を終え三人は帰路に着いた。
みゆきと別れ二人になって、つかさが言った。
「お姉ちゃん、こなちゃんの事…どうするの?」
ドキン。
「うん…旅行の間に…言うつもりよ」
これまで散々悩んだ。でもこの気持ちは変わらない。
「そっか…私、応援してるからね!絶対上手く行くよ」
かがみはふふっと微笑んだ。
「ありがと、つかさ」
ついでに気になっていたことを聞いてみた。
「あの本なんだったのかしら?」
今度はつかさが微笑んだ。
「きっともうすぐわかるよ」
?
「遅い…」
8月1日、かがみ、つかさ、みゆきの三人は駅前でこなたを待っていた。
「まったく、“早く行きたいから8月1日だよね!”とか言ってたのは誰よ…」
「あ、来たよ」
遠くからぴょこぴょことトレードマークのアホ毛がゆれているのが見える。
「ごめ、遅れたっ」
「おそいっ!もう…早く行くわよ」
二泊三日の小旅行。つかさは事情を知ってるから少しは助かるけど…
緊張する…
つかさの方を見ると口が頑張ってと伝えていた。
電車に揺られること二時間、少し田舎、という印象の道に四人は立っていた。
「なんだかいい感じの所ね…都会の喧騒から逃れた」
「こっからバスで15分だって」
少し歩いてバス停でバスを待つ。
「重い…」
どさっ、とこなたがバッグをおろす。
「こなちゃん、そんなにたくさん何持ってきたの?」
「いやぁ夜のお供に色々とね」
「待てッ危ない発言禁止ッ!」
夜のお供って…!もしかして…あんなものやこんなものを
「むぐ、かがみ、苦し」
「あっ、ごめんごめん」
慌ててこなたの口を押さえていた手を離す。
「かがみは何を想像したのかなー?お姉さん怒らないから言ってごらん?」
「う、うるさいっ!ニヤニヤするなっ!」
顔が赤くなってるのがわかる。あんたがそんな事言うからでしょっ
「バスが来たようですよ」
バスに乗り込み、一番後ろの席に並んで座る。人は一人も乗っておらず、車内は適度に冷房が効いて涼しかった。
電車に比べればほんのわずかの時間、すぐに到着した。
愛想のいい運転手さんに運賃を払い、歩き始める。
「降りてすぐの道を入って…あ、ここだ」
バス停から徒歩一分、かなり近い。
敷地は草木が整えてあり、まわりは森におおわれている。暑さも和らぐ、天然のクーラーだ。
「奥のでっかいのが受け付けだって」
「お、そうちゃんの娘さんかい?話は聞いてるよ。見たと思うけど小さな小屋みたいなのが立ってたろ。あれ一つで一部屋ってよんでるんだ。」
そうじろうの友達は気さくそうな少し太ったおじさんだった。説明を四人で聞く。
「一部屋に二つの部屋があって、ベッドが二つある。どうする?布団をしけば四人一緒にも出来るけど」
どうする?とこなたが振りかえる。
つかさがちら、とかがみを見て、
「私はゆきちゃんと一緒の部屋で寝るよ」
言った。
つかさ…GJ!
「じゃ二部屋でお願いしますー」
「はいはい、じゃこれが鍵だ。無くしちゃダメだぞ。あと7時には晩ご飯だからここにくるように。楽しんでってくれ!」
おじさんの笑顔に送り出され、それぞれの部屋に荷物を持っていく。
おじさんは近くの二部屋にしてくれていた。106と107と書かれた部屋にそれぞれ入る。
中は一部屋目にソファにテーブル、テレビ、クローゼット、冷蔵庫があり、どれも西洋風に揃えてある。なかなかお洒落だ。
寝室にはきれいに整えられたベッドが二つ、間に引き出しのついたサイドボードと電気スタンド。
「おおー、みゆきさんの言ったとおりだ」
こなたと二人で一部屋で一晩過ごすって…考えただけであぁぁ
「と、とりあえず荷物置いてあっち行ってみましょ」
「ん、そだね」
つかさ達の部屋も同じ内装で、二部屋目の位置が左右反対なだけだ。
「あ、こなちゃんとお姉ちゃん」
つかさとみゆきも一通り見終わった様子だ。
「いい感じだねー、たまにはお父さんも役に立つよー」
「ひどい言われようだな…仲良いんだか悪いんだか」
「この後はどうするの?もう四時近いけど…」
つかさが時計をみながら言う。
「この時間じゃどこか行くにも難しいですね…」
「じゃお風呂入る?ここ露天風呂あるってさ」
「そうだね、そうしよっか」
待ってよ、いきなりお風呂なのー!?
「ほらかがみ、着替えとりに行くよー」
こなたがかがみの手をとる。
「わっわっ」
「さぁいこー」
こなたの手は小さくてあったかかった。
敷地の隅の方にお風呂があった。ほかの小屋よりかなり大きい。奥に露天風呂があるようだ。
「じゃ早速…」
部屋のクローゼットに入っていた浴衣(「なんでここだけ和風なのよ」とかがみから突っ込みが入った)を着た四人は女湯に入っていった。
「うーむ…やはりみゆきさんはホルスタイン…」
みゆきが照れたように笑う。
「またセクハラ発言か」
そういえばこなたはよく胸の話するわね…お、おっきいほうが好きなのかな…
「わー、結構広いね」
「ドアで露天と室内が区切られてるんですね」
「よし、まずは飛び込みから!」
「やめんか!」
「はぁ…気持ちいいわね…」
「うん…お姉ちゃん、今日言うの?」
「…ん。とにかくあたしはひゃあ!!?」
かがみがいきなり大声をだした。後ろにはこなたが立っている。
「んっふふ、みずでっぽー」
どうやら冷水をいれてかがみをうったらしい。
「…あんたは…ちょっとこっち来い!わっ!?やっ、ちょ、卑怯者ー!!」
究極兵器、水鉄砲には歯が立たないかがみだった。
そんなこんなでお風呂をあがる。
「まだ夕食まで時間がありますね」
「じゃトランプでもしよっか、私持ってきてるよ」
浴衣姿でお風呂上がりのこなた…なんかほっぺもちょっと赤くて髪も少し濡れてて…かわい
「かがみ、つかさ達の部屋でいい?」
「えっあ、うん」
じゃトランプとってくるから先行ってて、とこなたは自分の部屋に向かう。
「かがみさん、行きましょう?」
なーんかかがみの様子がおかしい。ちらちらと自分を見てる。
「あーあ、やっぱあの本少し見られちゃったかなぁ…」
しかも枕元に置いてたの見つけられたし。どういうシチュだったのかかがみなら簡単に想像つきそうだし。
「…まぁ無視とかされてないから大丈夫なのかな」
バッグをあさると携帯がちかちか光っている。メールのようだ。
「あれ、つかさからだ」
メールには『きっと大丈夫だよ♪』と書いてあった。かがみから誕生日にもらった携帯のストラップがちゃり、と音を立てた。
「…うん、そだね。」
トランプをもってつかさ達の部屋に向かう。
「ではAのペアです」
「げっ、また大富豪みゆきさんだ」
大富豪をはじめた四人だったがみゆきが異常な強さを見せ付けていた。
「さすがねー、こういうゲームじゃかなわないわ」
かがみが貧民であがる。
「うぅ…私ずっと大貧民…」
予想どおりというか、つかさは大貧民街道ぶっちぎりだ。
「ま、まぁ得意不得意はあるさー。さぁかがみん、富豪様に貢ぎなされ」
「あー!こういうときに限ってジョーカーくるんだから!」
「ゆきちゃん、あげる」
「ありがとうございます。じゃあこれを…」
「わぁ、ペアがいっぱいになったぁ」
結局また大貧民。頑張れつかさ。
「結局やってることは普段とあんまり変わんないわね」
それぞれの部屋に戻ってかがみが言う。
「まぁ私達らしくていんじゃない?」
こなたはなにやらバックをあさっている。
「そうね…何してるのよ?」
「いやー、一日一回は電源入れないと落ち着かなくて。かがみもやる?」
と、こなたが取り出したのは二つ画面がついた携帯ゲーム機だった。
特にすることもなかったので二人で通信して遊んだ。こなたが圧勝しまくりだったがかがみは気にならなかった。ほかのことを気にしていたから。
(どうやって言おうかな…いつ言おうかな…)
そればかりが頭のなかでぐるぐる回っていた。
と、ピッと音がして画面に文字が浮かび上がった。
『かがみもまだまだだね』
どうやら文章を送れるらしい。こんな距離だからわざわざ使う必要もない気もするが、かがみは決めた。
(これだ)
『あんたに勝てる人なんてそうそういないわよ』
『いやいや、世の中にはいろんな人がいるんだよ』
『そうね…女の子が好きな女の子もいるよね』
『まぁね、百合ってジャンルがあるくらいだし』
『私もそうなの』
「え?」
思わず声が出た。画面からかがみに視線を移す。
かがみはこっちをいつになく真剣な表情で見つめていた。
「あんたが…こなたが、好きなの」
思考が鈍る。指先が痺れる。時間が止まったような感覚。ゲームが手から滑り落ちベッドに落ちた。
「え…と」
「別に今すぐ返事とかもらえなくてもいいから、ううん返事もらえなくてもいい、ただ無理なら今までどおり友達でいてほしいの。」
一気にかがみが言い切った。
「本気で、言ってる?かがみ」
「うん」
短い返事は真剣だった。
「あはは…エロゲみたいな事ってホントにあるんだ」
こなたが表情を和らげた。
「え…?」
かがみはまだ緊張した面持ちだ。
「だいたいこういうシチュの時は…」
ベッドからおりてかがみに近づくこなた。
「な、何…」
そのままかがみの唇はこなたに塞がれた。
そのまま十秒程してからこなたが唇をはなす。
かがみはまだぽかんとしている。
「あれ、私マズいことした…?」
こなたはなんだか楽し、いや嬉しそうだ。
かがみが口をぱくぱくさせている。
「ん、もいっかい?」
「ち、違」
「やっぱり嫌だったのかぁ」
「嫌じゃない!あ」
こなたはいつものにやにや顔だ。
「あ、あんたがあんたがいきなりそそそんな事するから」
「キス?」
ぼんっ、と擬音が聞こえそうなくらいかがみが赤くなった。
「んもぅ、裸見た仲じゃーん」
「………いいの?」
「んぅ?」
「あ、あたしと…その…」
「うん、付き合お」
かがみの瞳からすーっと涙がこぼれ落ちた。
「うぉ!?か、かがみ?」
「っく……ひっ…」
よしよし、とこなたがかがみを撫でる。
「…人の気も…ひっ……知らないで…」
ぽろぽろと涙をこぼすかがみ。
「もー、かがみは可愛いんだから」
「……ぃすき…」
「ん…私も、前から好きだったよ」
「…えへへ」
「あぁびっくりした。いきなり泣きださないでよねかがみ」
「うん…嬉しくてさ」
目の端の涙を拭うかがみ。
「…じゃ、ゲームの続きしますか」
ひょいとゲームを拾い上げるこなた。
「えっ?ゲ、ゲームなの?」
「ん?何かしたいことある?」
…ホントに普段どおりだな………まぁ、変に意識されるよりいっか。
「…んーん、何もない!今度は負けないわよ!」
「ふふん、甘いよかがみ」
旅行一日目の夜は更けていく。
最終更新:2007年10月09日 00:34