ID:HJFMC2az0氏:乗り過ごし(ページ1)

もう秋も深まり、朝晩は少し寒くなってきた頃だった。
つかさ「こなちゃん帰ろう」
こなた「ごめん、今日はバイトの日なんだよ」
あっ、そうだった。ゆきちゃんは学級委員会、だからお姉ちゃんも同じ。今日は私一人で帰るのか。
つかさ「それじゃ、また明日」
こなた「またね~」
教室に私一人が残った。このままお姉ちゃん達を待っていても良いけど、一人じゃ間が持たない。やっぱり帰るかな。
こなちゃんを追いかけたけどバス停にはもう居なかった。
 
つかさ「ふぁ~」
大きな欠伸が出た。咄嗟に開いた口を手で隠す。もうこれで三回目。
学校からバスで駅までの時間、一人だとなんでこんなに長く感じるのだろう。普段なら皆とお喋りをしながらあっと言う間に着いちゃうのに。
バス停から改札を超えてホームまでの道のり、電車を待つまでの時間。毎日毎日、高校の二年間をこうして帰ってきているのに。
何度も何度も腕時計を見ながら電車が来るのを待った。
『電車がまいります、危険ですので白線の後ろへ御下がりください』
待望のアナウンス、思わず電車の来る方向に顔を向ける。でもまだ電車は見えない。暫くすると米粒ほどの大きさの電車が見えてきた。どんどん大きくなってくる。
電車は風を切るようにホームに入ってきた。一両目、二両目と私を追い越して行く。どんどん速度が落ちていく。電車は止まっても直ぐには扉は開かない。
扉が開くと中から乗客が降りてきた。お客さんが降りた後、私は電車に乗り込んだ。今日は少し早い時間なのかお客さんが少ない。席も空いていた。
私は適当な席を見つけて座った。ベルが鳴り、扉が閉まった。電車はゆっくりと動き出す。
電車の適度な揺れ、窓からは暖かな日差し、頭がボーとしてきた。心地よい……次の駅に着く前に眠ってしまった。
『ガタン』
突然の揺れで私は飛び起きた。あれ、どのくらい寝たのかな……ベルが鳴っている。慌てて辺りを見渡した。電車は止まっている。扉も開いている。
まずい。私は立ち上がり走って電車を降りた。直ぐに扉は閉まり電車は動き出した。見慣れない風景。ここは何処だろう。駅の名前を見ると……降りる駅の二つ先だった。
 
 
『乗り過ごし』
 
 
お姉ちゃんと一緒なら起こしてくれるのに。しょうがない反対側のホームに向かおうとした時だった。
『お客様にご連絡を申し上げます、ただいま〇〇駅で人身事故が発生しました、怪我人の救助の為、上下線とも運転を見合わせます、重ねて申し上げます……』
場内アナウンスが響いた。
つかさ「えー」
一人なのに声に出てしまった。やっぱり座るべきじゃなかった。今日はついていない。よりによって人身事故とは。あっ、ダメダメ、
今、人が大変な目に遭っているのにこんな気持ちになっちゃいけないよね。取りあえず復旧を待つしかない。反対側のホームに移動して暫く待った。
10分くらい過ぎただろうか。なにやら騒がしくなっていた。そうだよね、電車が来なければ人が増える一方だから。でも何だろう。この騒がしさは何か違う。
何が違うのかな。分からないや。でもその原因は直ぐに分かった。
「ちょっと、どうしてくれるのよ!!」
響く女性の声、私はその声の方を向いた。女性……中学生、高校生……あれ、あの制服、良く見たら私と同じ、陸桜学園の生徒。駅員さんに向かってけたたましく怒っていた。
女性「いつになったら動くのよ、だからここの鉄道は嫌いなの!!!」
駅員は何事も無かったように左右を見て安全確認をしていた。謝るわけでも、反論するわけでもなかった。あそこまで怒っている人にはこの対応の方がいいのかな。
電車が来ないのは嫌だけどあそこまで怒らなくてもいいのに。周りのお客さんもきっと同じように思っているよね。見て見ぬ振りをしているから。
それにしても私と同じ高校の生徒、見たこと無い人。少なくとも私のクラスやお姉ちゃんのクラスではなさそう。一、二年生なのかな。
 
突然背筋が凍った。女生と目が合ってしまった。こっちを睨んでいる。慌てて目線を逸らした。でも女性の視線を感じる。私は少し歩いてその場から離れた。
ホームの一番端っこに着いた。ここまで来れば大丈夫かな。
女性「ちょっと、あんた」
後ろから女性の声、ど、どうしよう。見ていたから気を悪くしちゃったかな。怖くて後ろを振り向けない。
女性「なにシカトしてるのよ!」
口調が荒くなった。駅員さんみたに無視はできそうにない。恐る恐る振り向いた。そこにはさっきの女性が立っていた。駅員さんの時と同じように私を睨んでいた。
女性「さっきからジロジロ見て、見せ物じゃない……なんだ、その制服、うちの生徒じゃない、なんで学校に戻る方に居るのよ、忘れ物でもしたのか」
彼女も私が同じ高校の生徒であると気付いたみたい。目つきが少し穏やかになった。
つかさ「え、えっと……二つ前の駅で降りるつもりが……寝過しちゃって……」
女性「ぷっ、バッカじゃないの、ふふふ」
吹き出して笑い始めた。思いっきり笑われてしまった。でも何故か嫌な感じには受けなかった。
女性「何、真面目に答えてるのよ、適当に言っちゃえば良かったのに」
確かにそうかもしれない。でもそんな余裕なんてなかった。こっちも何か言わないと……初対面の人と話すのは難しい。
つかさ「あ、貴女も同じホームに居るけど……」
女性「え……私?」
彼女は黙ってしまった。もしかして私と同じ理由でこの駅を降りた。そんな彼女の姿を思い描いていた。私も吹き出しそうになった。それに彼女は気付いたみたい。
女性「な、にやけて、言っておくけど私は……」
『お客様におきましては大変ご迷惑をおかけしています、只今の情報によりますと〇〇駅での人身事故でけが人の救助に時間がかかっています、復旧の見込みは午後
 6時以降になると思われます、お急ぎの方は……』
またアナウンスが入った。復旧は午後6時、腕時計を見るとまだ午後3時を過ぎたばかりだった。彼女の目つきが元に戻ってしまった。そしてホームの中央の方を向いて
歩き始めた。きっと駅員さんを怒鳴りに行くに違いない。
つかさ「あ、あの~」
彼女の足が止まった。まさか止まるとは思わなかった。足は止まったけど体はホームの中央に向いたままだった。
つかさ「ど、怒鳴っても何も変わらないような気がする……」
女性「……それじゃ黙っていれば変わるとでも言うの?」
うわ、お姉ちゃんみたいに直ぐに答えを返してくる。しかも逆に質問されちゃった。何も答えられない。
女性「私には時間が無いの、こんな所で足止めしてる訳にはいかないの」
足止め。そうだよ、足止めしなければ良い。
つかさ「それじゃ、歩いて……」
彼女はやっと振り向いた。
女性「歩いて何処まで行けると思っているの……」
彼女は駅の時計を見た。
女性「……歩く……歩くねぇ……悪くない……行くわよ」
つかさ「行くって?」
女性「歩くって言ったのだから責任とって案内しなさいよ」
案内って、そんなの無茶すぎる。でも断りきれそうに無い。
つかさ「何処まで行くのですか?」
女性「〇喜駅まで」
その駅は私の降りるはずだった駅の一つ先。この駅から三つ先の駅だ。
つかさ「やっぱり歩くのはちょっと……バスとかで……」
女性「取りあえずこの駅を出よう、身動きが取れなくなる」
辺りを見回すと乗客がどんどん駅のホームに流れてきている。このままだと人でいっぱいになりそう。私たちは駅の出口に向かった。
女性「そういえば名前聞いてないわね」
歩きながら彼女は話してきた。
つかさ「柊……三年B組の柊つかさ」
彼女は驚いた顔をして私を見た。
女性「三年……には見えないわね、そのリボンがあるからかな……私も三年、A組の峰さおり……」
A組……同じ三年生、隣のクラスだ。でも見たことのない人。峰さんも私を知らなかったみたいだし。これからどうなるのか心配だなぁ~。
 
駅を出て驚いた。バス停に長蛇の列が出来ていた。考える事は皆同じなのか。時刻表を見てもこの時間は一時間に1台くらいしかない。増便があったとしても何台目か後。
バスを待っていたら復旧の6時位になりそうだった。
さおり「ま、こんな所かな、歩くしかなさそうね」
早く帰るならやっぱり歩くしかなさそう。自分で歩くって言ったから……しょうがないよね。私は次の駅を目指して歩き出した。
さおり「ちょ、ちょっと、あんた、何処に行くのよ」
慌てて私を引き止めた。
つかさ「何処って、取りあえず次の駅を目指さないと」
さおり「そっちは反対方向よ、柊さん大丈夫??」
あれ、駅のホームを行ったり来たりしていたから、方向感覚が分からなくなった。私は恥かしくなった。自分の顔が赤くなっているのが分かるくらいに。
さおり「この道を通って行くわよ」
案内するどころか案内されてしまった。私は峰さんの後を付いていった。道を進んでいくとどんどん道が狭く荒れてきていた。
つかさ「あ、あの~」
峰さんは立ち止まった。私の言いたい事が分かったのだろうか。指を指した。その方向を見ると線路が道と平行に走っている。
さおり「道が間違っているって言いたいのかしら、方向は合っているわ、一応最短距離ね」
方向音痴の私でもこれで理解出来た。
さおり「もう少し色々な所に出歩いて方向感覚を養うのね……しかし今までよく学校に登校できたわね、不思議でしょうがないわ」
つかさ「今までお姉ちゃんに頼りすぎたかな~」
さおり「やっぱり、兄か姉が居ると思った、典型的な甘えん坊さんだ」
私もそう思っていた。そう思っていたけどはっきり口に出して言われたのは初めてかもしれない。こなちゃんやゆきちゃんもそこまでは言わなかった。
さおり「そのお姉さんはもう大学生、社会人になったのかしら」
つかさ「上のお姉ちゃんは大学生と社会人、あと双子のお姉ちゃんが居るよ」
さおり「ちょっと待って、双子の姉……柊……」
峰さんの歩く速度が遅くなった。
さおり「もしかして柊かがみさんの妹?」
つかさ「うん、お姉ちゃんを知ってるの?」
私は頷いた。峰さんはさらに歩く速度下げて私をじっと見た。
さおり「知ってるも何も一年生の時同じクラスだった……なるほどね~」
納得されてしまった。やっぱり私はお姉ちゃんのオマケみたいな存在なのかな。そんな考えが私の心の中で廻っていると峰さんの歩きが完全に止まってしまった。
つかさ「どしたの?」
さおり「あれ……」
峰さんの指を指す方を見ると狭い道のど真ん中に大きな犬が寝転がっていた。犬は繋がれている。その綱が長いので庭から飛び出してしまったようだ。
つかさ「犬……シベリアンハスキーだね、可愛いね」
さおり「……そ、そうかな」
峰さんは私の陰に隠れた。もしかして峰さんは犬が苦手なのかな。改めて道に寝ている犬を見てみた。シベリアンハスキー、みなみちゃんの飼っているチェリーちゃんに似ている。
チェリーちゃんより少し大きめかな。チェリーちゃんとは何度も会っているから別段怖くもない。私は犬に近づいた。
さおり「やばいよ、まずいよ、噛まれるよ」
峰さんはその場から一歩も進もうとはしなかった。
つかさ「大丈夫だよ、大型犬は大人しいから」
犬が突然起きだした。私の目の前に立ちふさがった。大欠伸をしてゆっくりと背伸びをして私を見上げた。私と目が合った。
『ウー』
あ、あれ、いきなり唸りだした。尻尾も振っていない。もしかして歓迎されていないかな。私は一歩後ろに後退した。
さおり「こ、この場合はどうするのよ」
犬は牙をむき出しにして威嚇してきた。
つかさ「え、えっとね、逃げる~」
私は走って逃げた。後から峰さんも付いてきた。20から30メートルくらいは走っただろうか。さすがに全速力で走ると息が切れる。
さおり「大型犬は大人しいんじゃなかったの?」
つかさ「ハァ、ハァ、お、おかしいな、何故だろう、お腹でも空いていたのかな」
さおり「そんな訳ないだろう……ふふ、ふふふ……」
つかさ「えへへ……ふふ、ハハハ……
私たちは笑った。最初はどうなるかと思ったけど、峰さんは良い人だ。そんな気がしてきた。
 
犬が居るからこのままあの道は進んでいけない。峰さんは少し戻って幹線道路から行くのを薦めた。その道だと少し遠回りになると言っていた。
どちらにしたって道はよく知らないから峰さんの言う通りに行くしかなかった。犬のおかげなのかな、峰さんは駅で見たような刺々しい感じは無くなっていた。
私たちはお喋りをしながら駅に向かった。私はこなちゃん達の話をした。
さおり「泉さんに高良さんね、B組って面白そうね……でも、担任の先生って黒井先生でしょ、やっぱり窮屈そうだよね、あの先生厳しいし」
つかさ「うんん、黒井先生は一年生からずっと担任だったけど、面白い先生だよ」
さおり「本当かな~柊さんの話を聞いていると皆良い人……に聞こえるんだけど」
つかさ「だって良い人だよ」
さおり「そうかしら、かがみさんなんか……」
つかさ「お姉ちゃんがどうかしたの?」
さおり「……何でもない……もうそろそろ駅に着く、行こう」
急に峰さんの顔が曇った。そういえば一年生の時、クラスが一緒だったって言っていた。何かあったのかな。
 
 1時間くらい掛かったかな。駅に着いた。駅の改札口を見てみると乗客で混んでいた。
さおり「状況は変わっていないわね、もう次の駅まで歩くしかない」
つかさ「そうだね……」
 
また私たちは線路に沿っている道を歩いて次の駅に向かった。周りを見ると歩いている人が結構いるのに気が付いた。皆も電車で移動するのを諦めたみたい。
30分くらい歩いただろうか。流石に疲れてきた。
つかさ「こんなに歩いたのは夏休みのオリエンテーリング以来なかったよ~、少し休みませんか?」
峰さんは歩くのを止めた。
さおり「ふぅ、そうね、まだ半分はありそう、少し休もうか」
辺りを見回すと公園があった。
つかさ「公園があるよ、きっと座って休める」
公園の中に入ると思った通りベンチがあった。私達はそのベンチに腰を下ろした。私は最初の駅で買ったジュースを一口飲んだ。そういえば峰さんは会ってから一回も
飲み物を飲んでいない。きっと喉が渇いているに違いない。
つかさ「あの、飲みますか、口を付けちゃってますけど、それとも自販機で買ってきましょうか?」
峰さんは腕を伸ばしてジュースを取ろうとした。
さおり「やっぱり要らない、喉は渇いていない」
峰さんは伸ばした腕を引っ込めた。そして座ったまま峰さんは空を仰いだ。
さおり「今日はお天気で良かったわね、寒くもなく、暑くもなく、歩くには打ってつけ」
つかさ「そうだね、だから私はうとうとしちゃって……」
さおり「ふふふ、乗り過ごした、柊さん、あんたは不思議な人ね、何故私と一緒に歩こうなんて思ったのよ」
峰さんは空を見ながら話している。
つかさ「え、私が言い出した事だし……」
そういえば何故。峰さおりさん。初めて会ったのにどこかで会ったような親近感はあった。ふつうあんな態度でこられたら良い印象なんてないよね。一緒に行動しよう
なんて思わない。でも今の峰さんは違う。話しやすいし、話も結構合うし、一緒に居るだけで楽しい。
さおり「私ね、こう見えても十九歳になのよ」
十九歳、あれ、高校三年生で十九歳、計算が合わない。
さおり「柊さんより一年早く私は陸桜学園に入学した、だけどね……入学して直ぐに大病を患ってね、治療のために登校できなかった、出席日数が足りなくて留年したのよ」
つかさ「留年……ですか」
さおり「そう、だから私の同級生は皆卒業しちゃったわ」
悲しそうな顔。そうだよね。今まで同級生だった人が上級生になっちゃうのだから。
つかさ「お友達、卒業しちゃって寂しいですね」
さおり「友達、そんなの居なかった、二年になっても三年になってもね……治療であまり登校できなかったから……」
しまった。言ってはいけなかったのかもしれない。
つかさ「ごめんなさい」
さおり「いいのよ、私が一方的に話したのだから……柊さんが初めてかもしれない、こんな話をするの、きっと乗り過ごしをした理由を正直に言ったからかもしれない」
そうなのかな。そう言ってくれると嬉しい。
つかさ「それにしてもまだ電車動いていないみたい」
公園から見える線路、こうして休んでいる間に一本も電車は通過していなかった。
さおり「……そうね、さてと、そろそろ行きましょうか」
峰さんは立ち上がった。
さおり「うゎー」
歓声を上げて公園の奥を見ていた。何だろう、私も峰さんと同じ方向を見た。奥はお花畑、コスモスが沢山咲いていた。もう時期が少し過ぎてすこし萎れているのもあるけど
まだまだ鑑賞に堪えられる。そよ風にゆっくりと揺れていて可愛らしい。日も傾いてきて幻想的でもあった。
つかさ「コスモス畑……綺麗ですね」
さおり「私……コスモスが好きなの、もう暫く見ていて良いかな」
つかさ「うん」
峰さんは畑の方に近づいていった。そしてじっとして動かなかった。目に焼き付けているみたいだった。
 
さおり「待たせたわね、行きましょうか」
あれ、峰さんの目が少し赤いような気がした。まさかあのコスモス畑を見て泣いていた。綺麗なお花畑だけど、泣くほどの景色かな。日が落ちてきているから赤く見えただけかも。
公園の出入り口に差し掛かった。道の端にコスモスが咲いているのを見つけた。
つかさ「こんな所に咲いていますよ」
さおり「本当だ、きっと種がこぼれたのかもね」
つかさ「ここに咲いているのなら一輪くらい持っていっても大丈夫かも」
私はコスモスに手を伸ばした。
さおり「止めて」
手が止まった。
つかさ「え、一輪持って帰って飾ればいいかなって思って……峰さんの部屋にでも」
さおり「摘んだらその花はもう終わり、持っても数日で枯れちゃうわ、そのままにすればもっと長い時間咲いていられる、花が終わっても実をつけて次の花を咲かすわ」
なんだか摘むのが可愛そうになってきてしまった。
つかさ「そ、そうだよね、このままの方が良いかも」
花をそのままにして公園を後にした。
 
公園を出てから峰さんはあまり話さなくなってしまった。どうしたのだろうか。
『ポー』
この音は、線路の方からだ。
『カタン、カタン』
聞こえる、線路を進む車輪の音。どんどんこっちに近づいてくるのが分かる。
つかさ「峰さん、電車動いたみたいだよ、次の駅で、○宮駅で乗れるよ」
そう言っていると。電車が私たちを追い抜いて行った。あっと言う間だった。最初の駅で待っていればあの電車に乗れていたのかもしれない。
でもあの駅で待っている時間とこうして峰さんといる時間だったら、こっちの方が楽しくていい。
つかさ「もう少しで駅に着くよ、そうしたら……」
さおり「……そうしたら、お別れだね」
峰さんは立ち止まってしまった。私も立ち止まった。
つかさ「お別れって、確かに私の家は近いけど……明日学校で会えるし」
さおり「ごめん、私、明日から会えない」
つかさ「どうして?」
さおり「私、明日から入院するの、また病気が再発しちゃってね、それでもう一度電車に乗ってみたかった」
つかさ「入院って、病院はどこですか」
さおり「〇〇病院」
つかさ「それなら、明日の放課後お見舞いに行くよ」
さおり「入院したらもう二度と出られないような、そんな気がするの、だから来てもらっても……」
つかさ「大丈夫だよ、きっと良くなるよ」
急に峰さんの目つきがきつくなった。
さおり「大丈夫……前もそう言ったわね、なによ、犬の行動もろくに分からなかったくせに、何が大丈夫よ、無責任な事言わないで!!」
同じだ、駅員に食って掛かっていた時と同じ。電車が止まっていたから駅員に怒っていた。そうだったのか。峰さんは入院する前に色々見て見たかったのか。
理由が分かればどんなに怒っていても怖くない。
つかさ「辛い気持ち分かるよ、でも二度と出られないなんて言ったらダメ、退院できるって言わないとね……良い事言うと良い事があるから」
さおり「何よ、それ」
つかさ「言霊って言うの、言葉には力があって、悪い事を言うと悪い事、良い事があると良い事が起きるの」
さおり「言霊……そんなの迷信よ」
つかさ「私の家はね、神社だから信じるも信じないもないよ、お仕事だからね、楽しいことを考えていればきっと良くなる、うんうん」
さおり「何、何よその笑顔、これから死ぬかもしれない人に向かって笑うなんて……私とこれ以上付き合っても死ぬだけ、このまま別れた方がいい」
笑っていれば死神だって逃げていくよ。峰さんはまだ死んではいけない。花一輪にあんなに優しくできるなんて凄いよ。
つかさ「出会いがあれば何時かは別れがくるよね、私の友達や家族だって……そんなの気にしていたら付き合えないよ」
さおり「ふふ、あんたは優しいわね、お姉さん、かがみさんの影響かしら?」
笑った。やっぱりこうでなくちゃね。私達は歩き始めた。そういえばさっきお姉ちゃんの名前が出た。ただの知り合いとも思えないけど……
 
つかさ「駅までもうすぐだよ」
もうここまで来れば私でも道が分かる。住み慣れた町並み。私たちは歩き出した。駅に向かって。
考えたけど、やっぱり峰さんはお姉ちゃんと友達みたい。でもお姉ちゃんと峰さんが友達だったら私に紹介するはず。今まで何も私に言わなかったのはどうしてだろう。
喧嘩でもしたのかな。峰さん、結構短気みたいだし……でも今は峰さんに聞けないな。とは言っても入院したら余計聞きにくいし。帰ったらお姉ちゃんに聞こうかな。
 
やっと駅に着いた。もう日はすっかり落ちて暗くなっていた。
駅はまだ少し客が溢れている。私はこのまま歩いて帰れるけど。峰さんはまだもう一つ先の駅に行くって言っていた。ホームまで送ろう。
つかさ「峰さんやっと駅についたよ、ホームまで送る……あれ?」
さっきまで居たはずの峰さんが居なかった。辺りを見回したけど見つからなかった。もう駅に入ってしまったみたい。一言言ってくれれば良いのに。
あっ、携帯の電話番号聞くのを忘れていた。でもいいや、入院する病院の名前も聞いたし。明日また会えるから、私も帰ろう。
かがみ「おーい」
お姉ちゃんの声だ。駅の改札の方から聞こえてきた。
かがみ「おーい、こっち、こっち」
何処だろう。キョロキョロと首を振ってお姉ちゃんを探した。人ごみで分からない。気付くと私の直ぐ近くに居た。
かがみ「全く、どこ見てるのよ」
つかさ「お姉ちゃん」
かがみ「ん、つかさ、制服のままじゃない、やっぱり人身事故に巻き込まれたみたいね」
つかさ「お姉ちゃんも?」
かがみ「会議は終わらないし、駅に着いてみれば人が溢れてるし、もう散々だったわ、上りのみゆきはもっと大変だろうけどな」
ぐったりした仕草をした。お姉ちゃんの髪が少し乱れているような気がする。普段乗る電車で満員になる事ってそんなにある訳じゃないから想像もつかない。やっぱり
乗らなくて良かったのかもしれない。
つかさ「大変だったね」
私達は自然と家に足を向けた。
かがみ「つかさは?」
つかさ「私、私はね~」
峰さんと歩いた光景が頭に浮かんだ。
かがみ「……何よ、何か楽しいことでもあったのか、何時になく笑顔が輝いて見える……ま、まさか、彼氏でも出来たって言うんじゃないでしょうね」
つかさ「うんん、そんなんじゃないよ、だけどね、とっても良い人に出会った」
かがみ「良い人ね~つかさの良い人はあてにならないからな」
つかさ「えっとね、私、居眠りしちゃってね……」
 
夢中になって話をした。だけど家に帰るまでに全ての話は出来なかった。お姉ちゃんも興味があったみたい、続きを聞きたいと言ったので食事を終えたらお姉ちゃんの
部屋で話をする事になった。犬の話はお姉ちゃんも大笑いをした。最後の公園の話はしんみりとなった。
つかさ「……そしたらお姉ちゃんが来たの」
話が終わるとお姉ちゃんは腕を組んで私を見た。
かがみ「それで、その人って誰なのよ、つかさはこういった話になるといつも真っ先に名前を言うわよね、もったいぶってないで教えなさいよ」
さすがお姉ちゃん、私がわざと名前を言わないのを分かっている。もしかしたら誰だか分かるかもしれないと思った。でもお姉ちゃんは分からなかった。ちょっと寂しかった。
名前を言ったらどんな反応するのかな。期待と不安が膨らんだ。
つかさ「三年A組の峰さおりさんだよ」
お姉ちゃんは一瞬目を見開いた。そして腕組みを解いた。
つかさ「知ってるでしょ?」
私は答えを急がせた。
かがみ「知ってるわよ、一年の時同じクラスだった、よく病欠するから何度か書類を家まで持って行った事もあった、学級委員としてね……でも、留年していたなんて聞いてない、
    一年の三学期のテストで全学科満点を取ったから、まさか留年していたなんて……そんな事より」
お姉ちゃんは私をマジマジと見つめた。
かがみ「よくあんな癖のある子とそこまで話せたわね、よく周りで言い合いの喧嘩をしていたわ、頭の回転が速いから誰も勝てなかった、そのせいで話し相手も居なかったみたい」
つかさ「そんな事ないよ、お姉ちゃんみたいに怒るけど、お姉ちゃんみたいに怒る理由がはっきり分かるから全然怖くないし、お姉ちゃんみたいに優しいし、面白いし……」
かがみ「いやいや、ちょっと待て」
お姉ちゃんは腕を前に出して手を広げて私の話を止めた。
かがみ「何故何度も私みたいって付けるのよ」
つかさ「だって、お姉ちゃんと話すのと同じようにしたらどんどん話すようになったから」
かがみ「私とあいつが同じだって……」
急に悲しい顔になった。
つかさ「お姉ちゃんと峰さん、友達なの?」
かがみ「何度か言い合ったかしらね……お昼も何度か食べた程度よ、さおりは二年からは別のクラスになった、それから疎遠になったわ……」
お姉ちゃんは立ち上がり机に座った。
かがみ「悪いわね、これから宿題しないといけないから」
つかさ「明日入院するって言ったよね、お姉ちゃんは行かないの?」
かがみ「だから言ったでしょ、疎遠になったって」
お姉ちゃんは鞄からノートを取り出して開いた。教科書と辞書を取り出し勉強をしだした。もう一度聞き直そうとしたけど止めた。私はそのまま自分の部屋に戻った。
 
「さおり」ってお姉ちゃんは言った。お姉ちゃんが名前で呼ぶのは親しい人だけ、やっぱり峰さんはお姉ちゃんと親しかったに違いない。
クラスが違っただけで疎遠になるかな。それならこなちゃんやゆきちゃんだってクラスは違うし、理由にならないよね。やっぱり喧嘩をしている。それしか考えられない。
仲直りさせないと。でもどうやって。それにはもっと峰さんと話さないと。明日のお見舞いには何を持っていこうかな。峰さんが喜びそうな物って。
コスモスの花が好きだった。そうだ花がいい。あっ、ダメダメ、生花だと怒られるよね。どうしよう。生花がだめなら造花を送ればいいかもしれない。
作るときに祈りを込める事もできる。そうだよ。コスモスの造花を作ろう。
確か中学生の時造花を作った。その時の材料を押入れにしまってある。押入れを開けて奥から造花の材料を取り出した。これだけ有れば足りるかな。
材料を机に置いて花の形を取ろうとした。コスモスってどんな花だっけ。遠くから沢山の花が咲いているのは良く見るけど一輪を細部まで見るなんてあんまりしない。
写真があるといいけど。そんな都合よくあるはずも無い。私はパソコンを立ち上げコスモスの入力してみた。
出てきた。私はそこから一番綺麗に撮れている写真を探しそれをモデルにして造花を作った。
 
『コンコン』
かがみ「いつまで寝てるのよ、起きなさい」
ノックと同時にお姉ちゃんの声だ。
つかさ「う~ん」
椅子から起き上がり大きく背伸びをした。ドアが開きお姉ちゃんが入ってきた。
かがみ「ちょっと、いつまで寝て……つかさ、あんた、パジャマも着ないで……徹夜していたのか」
眠い目を擦りながら作った。造花を作るのは中学の時に少しかじった位だからなかなか思うようにいかなかった。作った造花をお姉ちゃんに見せてみた。
つかさ「何の花に見える?」
かがみ「コスモスじゃない、良くできているわよ」
やった、コスモスだって分かってもらえただけで大成功。本当は何本も作りたかったけど一輪しか出来なかった。
かがみ「もしかして、その造花をお見舞いに持っていくのか」
つかさ「うん、そうだよ、峰さん、生花だと喜んでくれそうにないから」
かがみ「たった一日、いや、数時間しか会っていないのに、よくやるわ」
感心しているようにも、呆れているようにも見えた。
つかさ「お姉ちゃんも一緒にお見舞いに行こうよ、暫く会っていないのなら、きっと喜ぶよ」
昨夜は言えなかったけど、もう一度誘ってみた。お姉ちゃんの雰囲気が良かったから。お姉ちゃんは造花をじっと見つめていた。
かがみ「そうね……」
小さく、呟くように頷いた。
つかさ「ありがとう、それじゃ、こなちゃんやゆきちゃんも」
かがみ「こなた達はまだ話も知らないだろう、それに大勢で押し掛けるのはマナー違反よ、今日は私達だけで」
つかさ「そうだね」
造花を包装紙に包んで鞄の中にしまった。
かがみ「それより、目元が汚れているわよ、髪もボサボサじゃない、昨夜お風呂に入っていないでしょ、沸かしてあるからさっさと入ってらっしゃい」
つかさ「はーい」
 
こなた「おはよー」
つかさ「おはよう」
こなた「それにしても昨日の人身事故は酷かった~つかさはどうだった?」
つかさ「昨日はね~」
お姉ちゃんと別れて教室に入ると珍しくこなちゃんが先に教室に居た。こなちゃんの質問になんて言おうか戸惑ってしまった。
こなた「おかげでバイトには行けないし、帰りも遅くなっちゃったし、家に帰ったらゆーちゃんの気分が悪くなって連絡が来て駅まで迎えに言ったし……」
つかさ「私は、電車の中で寝過ごしちゃってね……」
続きを言うのを躊躇った。今日は二人だけでお見舞いに行く。そうお姉ちゃんが言ったから。今、峰さんの話をして、もし、こなちゃんも行きたいって言ったら断り切れない。
つかさ「……二駅も乗り過ごしちゃった、歩いて帰るのが大変だったよ」
これ以上先はいえない。
こなた「それは大変だったね」
みゆき「おはようございます」
つかさ・こなた「おはよう」
ゆきちゃんにも同じ理由で峰さんの話が出来なかった。もしかしたらお姉ちゃんは私に話すなって言いたかったのかな。
何か煮え切らない、モヤモヤした感じが一日中続いた。
 
こなた「つかさ、帰ろう」
つかさ「あ、今日はお姉ちゃんと約束があるから……」
こなた「そうなんだ、それより今日は何回先生に居眠り注意された……2…3……4回も、私でもそこまではしないよ」
指折り数えるこなちゃん、特に午後からの授業は目に鳩が何羽もとまっているくらいまぶたが重かった。
こなた「つかさでも眠れないような悩みでもあるのかい?」
つかさ「え、悩みなんかないけど……」
どうしよう、なんて言おうかな。
こなた「ん、つかさ、かがみが来たよ」
かがみ「つかさ、行くわよ」
お姉ちゃんが教室の出入り口に居た。そして教室の中に入ってきた。
かがみ「途中までだけど、一緒に帰るか?」
こなた「ん~今日は止めておくよ、つかさは眠そうだし、かがみもなんか元気ないから」
かがみ「悪いわね、先に帰らせてもらうわよ」
こなた「謝る必要なんかないよ、またね~」
わたし達はこなちゃんと別れた。
 
かがみ「おーい、起きろ~」
お姉ちゃんの声で目が覚めた。
かがみ「もうすぐで着くわよ」
お姉ちゃんが起こさなければまた乗り過ごす所だった。眠い目を擦り、背伸びをした。
つかさ「やっぱりお姉ちゃんが居ないと私はダメだよ」
かがみ「私にもたれかかっていたわよ、でも、徹夜してるからしょうがない」
お姉ちゃんの口調が静だった。こなちゃんの言っていた元気がないってこれの事なのか。
電車を降り、改札口を出た。確か○○病院は改札口を出て右だったかな。
かがみ「ちょっと、つかさ、どこに行くのよ」
つかさ「どこって、○○病院だよ」
かがみ「そっちは反対方向じゃない、なにやってるのよ、こっちの道を真っ直ぐでしょ」
またやってしまった。私の方向音痴は重症かもしれない。
かがみ「普段から出かけて方向感覚を養いなさい」
全く同じだった。峰さんと同じセルフをお姉ちゃんから聞けるとは思わなかった。
かがみ「なによ、さっきから人の顔をジロジロと……」
つかさ「だって、峰さんと全く同じ台詞を言うから、この話はお姉ちゃんには言ってないから、シンクロ率が高いなって……てね」
かがみ「そんなに褒めても何も出ないわよ」
お姉ちゃんの顔が真っ赤になっていた。照れているのかな。でも、一つ分かった事があった。
つかさ「やっぱりお姉ちゃんは峰さんの事を尊敬してるんだね」
かがみ「なっ、何故そんなのが分かる?」
つかさ「だって、私はお姉ちゃんと峰さんが似てるね、としか言ってないから、それなのに、お姉ちゃんは褒めていると思ってる」
かがみ「こなたじゃあるまいし、そんな分析なんかするな」
お姉ちゃんの歩く速度が上がった。私も追いかけるようにお姉ちゃんの後を付いていった。
 
病院に入り受付を済ませ病室に向かった。
つかさ「803号室だったよね、個室だから周りの患者さんに気を使わなくていいよね」
かがみ「そ、そうね」
病室に近づくとお姉ちゃんの歩みがどんどん遅くなっていった。
かがみ「つかさ……」
つかさ「なあに?」
かがみ「やっぱり帰りましょ……」
もう病室は目の前だった。お姉ちゃんは病室から5歩くらい離れて止まった。入り難い様子だった。やっぱり喧嘩をしていたに違いない。こんな時って気まずいからね。
つかさ「ここまで来てそんな事言ったらダメ、入っちゃえば何とかなるよ、私が先に入るから」
ドアをノックして笑顔で病室に入った。
つかさ「峰さん、お見舞いに来たよ~」
入ってすぐに私の知っている人が二人居た。日下部さんと峰岸さんだった。
みさお「柊の妹……じゃないか、なんで……」
驚いた様子で二人は私を見ていた。二人はずっとお姉ちゃんと同じクラスだったから一年生の時峰さんと同じクラスだった。そんなのは直ぐに分かる。
二人はなんでそんなに驚いているのな。私は二人の間を通り抜け病室の奥に向かった。
つかさ「峰さ……え?」
何か変だよ。ベッドに横たわる峰さんの横には見たことの無い機械がズラリと並んでいた。その機械からチューブがいっぱい峰さんへと向かっていった。
口には大きなチューブが深々と入っている。峰さんは目を閉じていて動く気配すらなかった。今日から入院するにしてはあまりにも重篤だった。昨日は二駅も歩いたのに。
つかさ「み、峰さん?」
私の声に全く反応はなかった。機械が正確にリズムを刻んで何かをしている音しか聞こえない。
つかさ「どうしたの、ねぇ……」
かがみ「問いかけても無駄よ」
後ろからお姉ちゃんの声、だけど振り向けなかった。私は横たわる峰さんをただ見ていた。
かがみ「彼女は、もうこうして半年も経つのよ……」
お姉ちゃんの声が震えている。
つかさ「う、嘘だよ、昨日、駅員さんに怒鳴っていたよ、私と一緒に歩いて帰った、この目で見た」
かがみ「機械を止めれば彼女は数分で……もう分かったでしょ、つかさ……」
分からない、何にも分からない。分かっているのは峰さんがベッドに寝ている姿だけだった。
つかさ「お、起きて……昨日は一緒に歩いたって言って……峰さんが居なかったら次の駅だって行けなかった……」
峰さんは何の反応も無かった。無機質な機械の音だけがしていた。
つかさ「う、うわー」
もう見ていられない。何か言いたかったけど叫び声に変わってしまった。私は病室を飛び出した。お姉ちゃん達が止めたような気がしたけど構わずそのまま走って飛び出した。
真正面しか見えない。周りの音も聞こえない。数時間だったけど私は峰さんに会った、一緒に歩いた、お喋りもした、そして友達になった。それなのに……そんなの無いよ。

 

 
 
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