ID:F7ebqHGf0氏:遺書(ページ2)

みき「つかさが病気だって分かっているなら何故あんな嘘を、つかさは薬の影響でまともな考えが出来ない状態なの、たまに意味不明な事を言う、分かってあげて」
かがみ「意味不明だって、違う、つかさの行動は筋が通っている、だから知りたかった、私を避けている本当の理由を、あのまま死なれたら分からないじゃない、
    私が原因なら謝りたい、つかさが原因なら謝らせたい、このままじゃ別れられないよ、お母さん、私の気持ちは分からない?」
初めてかがみは自分の本音を口に出した。
みき・いのり「かがみ……」
かがみ「高校時代に書いたって言うつかさの遺書を見つけた、読んだけど私の名前は出てこなかった、私はつかさに何をしたんだろう、少なくとも嫌われるような
    事はしていないと思う、それとも私は知らない間につかさを傷つけていたのかしら、それすらも分からないなんて、私、つかさの姉失格ね」
いのり「まだつかさが死ぬって決まったわけじゃないよ、元気になったらきっと話してくれる、それを信じよう」
かがみ「話さないのはつかさの験担ぎって言いたいの?」
いのり「つかさはそうゆうのが好きじゃない、占いとか」
そう考えるのもいいか。かがみはそう思い始めた。
かがみ「もういい、つかさがそれを墓までもって行きたいのなら私はもう何も言わない、今は病気の回復だけを祈るわ」
みきがほっとため息をついた。もうこれ以上かがみとつかさの仲が悪化することはないだろう。
みき「それにしてもお父さん達遅いわね」

 もうあれから一時間を越えている。ただおとまつりは帰ってこない。
かがみ「ちょっといくらなんでも遅すぎる、私も探しに行ってくる、私もつかさが行く所に心当たりがあるから」
かがみは出かける支度をした。すると突然玄関の扉が開いた。ただおとまつりだった。
かがみ「おとうさん、まつり姉さん、つかさは?」
かがみ達は駆け寄った。まつりはただおの方を向いた。ただおの背中につかさが居た。ただおがつかさを背負ってきたようだ。
いのり「ちょっと、つかさ大丈夫なの?」
ただお「シー、眠っているだけだ、たぶん薬の影響だと思う、このまま部屋で寝かすよ」
ただおはそのまま二階に上がって行った。かがみ達は居間に戻った。
まつり「つかさは何処に居たと思う?」
かがみ「まさか神社隣の公園……」
まつり「当たり、あんた達が幼少の頃よく遊んだ公園、かがみもよく覚えているでしょ、つかさがあの公園に行ってかがみを思い出さないはずがない」
かがみ「つかさは私を嫌いになっていないって言いたいんでしょ、まつり姉さん、もうその話は終わったわ、私はもうつかさを追及しないことにしたから」
まつり「終わってなんかいない!!かがみは終わっても私は終わっていないんだよ」
まつりは叫んだ。
まつり「あの公園は私もかがみやつかさと遊んだ公園、私は二人がどこかに行かないように見張っててお母さんに言われてた、だけどよく公園を出て何処かに行こうとする
    子がいてね、何度も連れ戻しに行ったわよ、それがつかさ、思い出しちゃったじゃない」
みき「そういえばそんな事があったわね、小さい頃はつかさの方が活発に動き回っていた」
いのり「そういえばあの公園でつかさがブランコから落ちた時はビックリしたな、あれだけ派手に落ちたのにかすり傷だけで済んだ、怪我していたらお母さんに怒られるところだった」
ただおが二階から下りて来た。
ただお「あの公園で遊び疲れて眠ったつかさをよく家まで負ぶったものだ、さっきみたいにね」
あの公園は幼い頃のつかさの出来事がたくさんある。つかさも親や姉達の思い出が沢山あったのだろう。
ただお「つかさを見つけたとき、ブランコに乗っていた、こいでいるわけでもなく、ただ座っていた、帰ろうと言っても、もう少し居たいと言うだけだった」
かがみ「幼少の頃はあの公園でつかさと一緒に遊ばなかった、私は飯事的な遊びをしていた、つかさは元気に走り回っていたわ、あの公園でつかさに引っ張られて泣いた覚えがあるわね、
一緒に何かをするようになったのは小学生からよ、あの頃はつかさの方が姉だったかもしれない、何故今はあんなに大人しくなっちゃっただろうね」
そんな昔話をしているうちにみきが泣き始めてしまった。それに釣られるように次々に……。
暫く居間にすすり泣く声が響いていた。

次の日の夕方、かがみは陸桜学園校門の前に居た。もう就業時間は過ぎている。学校の門は閉じていた。ゆたか、みなみ、ひよりは在校生だけあってかがみよりも先に居た。
しばらく待つと聞きなれた車の音が聞こえる。そこにはこなた、みゆき、みさお、あやのが乗っていた。運転席からこなたが降りた。
こなた「やふー、かがみ昨日ぶりだね」
かがみ「車で来るなんて思わなかった、駐車はどうするつもりよ」
こなた「大丈夫、この辺りは駐車違反でお巡りさんは来ないから、ゆい姉さんの極秘情報だよ」
かがみ「成美さんも相変わらずね」
平日、しかも月曜日にも関わらずかがみがメールを送った人は全員来た。かがみは嬉しかった。しかし喜ぶために呼んだのではない。かがみは心の中で気合を入れた。
かがみ「皆、来てくれてありがとう、ゆたかちゃん、熱は大丈夫なの?」
ゆたか「あ、昨日は家に来ていたのに御迷惑をかけました、お姉ちゃんの看病のおかげでもうすっかり元気です」
こなたが辺りをきょろきょろと見回している。
こなた「ところでつかさは? かがみからの誘いだからあえて連絡取らなかったけど」
かがみはつかさを誘った。しかしつかさは無言のまま専門学校に行ってしまった。この時間はもうバスもない。来ないだろう。
かがみ「そのつかさについて話すわ、みんな覚悟を決めて」
かがみは一拍置いてから話した。
かがみ「つかさは病気なの、それもかなりの難病よ」
周りがざわめき始めた。しかしこなたとみゆきは目を閉じてじっと動かなかった。かがみはそのまま今までの経緯を話した。

かがみ「これで私の話は終わりよ」
話が終わるとこなたがかがみに近づいてきた。かなり怒っているようだ。
こなた「今頃そんな話をして、遅い、遅いよかがみ、かがみはつかさの姉でしょ」
こなたはかがみに詰め寄った。
かがみ「それはつかさが黙っていたからよ、私は超能力者じゃないのよ、そこまで分かるはずもない」
こなた「つかさが妊娠しただって、それじゃつかさも怒るはずだよね」
かがみ「だから私は勘違いをしていて……ちょっと待って、遅いって言ったわよね、こなた、あんたつかさの病気を知っていたの?」
かがみはこなたの話し方で気が付いた。
みゆき「私も知っています、かがみさんならもう知っているものだと思いました、この前、駅で話した時にヒントを与えたのですが……あんな反応をされて失望しました」
かがみは慌ててみさおとあやの方を向いた。
みさお「わ、私は始めて聞いたぞ、つかさから少しもそんな感じは受けなかった」
あやの「そうね、私も始めて聞いた、今、ひーちゃんの具合はどうなの?」
続けてゆたか達の方を向いた。
ゆたか「私も知らなかったです、すみません」
みなみ「右に同じです、すみません」
ひより「面目ないっス」
改めてこなたとみゆきの方を向いた。
こなた「つかさはずっと待っていたんだ、かがみが気付くのを、なんで気づいてあげなかったんだよ、つかさが可愛そうだよ」
かがみ「こなた、みゆき、あんた達は何時どうやって知ったの?」
かがみは分からなかった。
こなた「一ヶ月前だよ、みゆきさんも同じ頃だと思う、つかさの行動を見てればすぐに分かる」
たったそれだけで分かるものなのか。かがみは愕然として動かなかった。
こなた「それにつかさに引越しの話をするなんて、かがみはバカだよ」
みゆき「つかささんの病気を知ってもかがみさんはつかささんを怒らせました、しかも故意に、それで何を知ろうというのですか、酷すぎます」
かがみ「そ、それは、つかさがあんな態度しているから、元にもどそうと思ったのよ、」
こんなに怒っているこなた、みゆきを見たのは初めてだった。
かがみ「みゆきがあの時ヒントをくれたのは確かに役にたった、あれがなければ私はつかさと本当の喧嘩をしてしまう所だった」
みゆき「喧嘩をするつもりだったのですか……病人に鞭を打つ行為に等しい、許せません」
かがみ「だ、だ、だから、わ、私は知らなかった」
こなた「知らないじゃないよ、知ろうとしなかったんだ」
かがみの目が潤んできた。必死に弁解をする。
かがみ「違う、う、うう、私だって……双子だからって……つかさの全てを……知らない、だってそうだろ、知らない所があるからこそ個々の人格として認めてるんだ」
みゆき「それは今回の話とは全く関係ありません」
かがみ「私にこれ以上何をさせたいのよ……」
とうとうかがみは座り込んでしまった。それでも執拗にこなたとみゆきはかがみを責めつづけた。目からは涙が出ている。もう言い返せない。
みなみが突然走り出しかがみとこなた達の間に割って入った。
みなみ「泉先輩、高良先輩、無知が罪なら私も責めて下さい、私もつかさ先輩が好きです、尊敬もしています、でも気付きませんでした」
みゆき「みなみ……」
二人は責めるのを止めた。みなみはかがみの方を向きハンカチを渡した。
かがみはハンカチを受け取って目に当てた。とても話せる状態ではない。みなみは二人の前で話した。
みなみ「家族だから、一番親しいからこそ最悪な状況は考えられない」
こなた「つかさは自分からかがみに病気の話なんか出来ない、だからかがみが先に気づくしかないんだよ、かがみはつかさの優しさに甘えてただけなんだ」
みなみ「つかさ先輩も本来は自分で話さなければならない事実をかがみ先輩に話せなかった、つまりつかさ先輩はかがみ先輩の優しさに甘えている」
こなた「みなみちゃんはどっちの見方なんだよ」
みなみ「どちらの見方でもない」
感情的なこなたと冷静なみなみしばらく言い合いが続いた。感情的だったみゆきも次第に冷静さを取り戻した。
みゆき「泉さん、みなみ、もう止めましょう、私達はかがみさんを責める権利などありませんでした」
こなた「みゆきさん、どうして」
みゆき「私はつかささんに病気の話はしないように頼まれていました、泉さんもそうだったのではないですか」
こなたは黙って頷いた。
こなた「かがみには教えてあげたかった、でもつかさとの約束、天秤にはかれないよね、話せばつかさからなんて言われるか分からない、
    だから誕生プレゼントを貰ったのを話したんだよ」
みゆき「私達もつかささんに甘えていました、話すなと言われてただ黙っているなんて。教えても良かったのです、いいえ教えるべきでした、それを全て気付かないかがみさんの
    責任として押付けた……ごめんなさい」
みゆきは深々とかがみに頭を下げた。こなたはみゆきの話に心を打たれた。謝るしかなさそうだ。
こなた「ごめんなさい」
こなたもかがみに頭を下げた。みなみはかがみのもとを離れゆたか達の近くに戻った。
ゆたか「かがみさんがつかささんの病気に気付いたのは昨日でしたよね、たった一日で私達に教える決意をしたのですね、凄いと思います」
かがみ「私はただ教えたかっただけ、あとはそれぞれが考えてくれればいい」
かがみは立ち上がりづきハンカチを返した。
かがみ「みなみちゃんありがとう、こなたとみゆきにあそこまで対等に言い合うなんて、普段無口なのに凄いわ」
みなみはまた普段のみなみに戻ったようだ、俯いたまま何も言わなかった。
みさお「それぞれが考えればいいって言うけど、私にはそんな重い事実、どうしていいか分からない」
かがみ「そうね、私もどうしていいか分からない、だから皆に話したのかもしれない」
しばらく重い雰囲気が続いた。
ゆたか「つかさ先輩の真意は分からないけど、病気を隠したい、その気持ち私は分かるような気がするよ、病気になると皆の態度が変わっちゃうから、
    それが苦痛になっちゃう、それが嫌だったんだよ、だから普段どおり、いつものように接してあげるのが一番かもしれない」
かがみ「確かにそれを望んでいるのは確かのようね、日下部、そして皆、それでいいかしら」
皆は頷いた。
かがみ「ありがとう、それから私は帰ったらつかさに言う、病気の事を、普段のつかさに戻ってもらう」

もう外は日が落ちてすっかり暗くなった。街燈の明かりが灯った。
かがみ「今日はみんなありがとう、もうすぐ最終バスの時間ね、解散しましょう」
かがみの携帯電話が鳴った。皆はかがみに注目した。かがみは携帯電話を手に取った。まつりの名が示されている。かがみは悪い予感がした。
かがみ「もしもし……」
まつり『つかさが……つかさが』
声が震えている。かがみはどんな内容なのか分かった。でも確認しないといけない。
かがみ「姉さんしっかりして、ちゃんと話して!」
まつり『つかさが倒れた、専門学校から連絡があって……どうしようかがみ』
かがみ「病院はどこなの」
まつり『県内の〇〇総合病院……』
かがみ「私は直接病院に向かうからお父さん達にそう言って」
まつり『ばかだよ、なんで学校に行ったんだ』
かがみ「急ぐから一旦切るわよ」
かがみは携帯を切った。
かがみ「昨夜飛び出したせいかもしれない、つかさのやつ無理しやがって」
ふと周りを見るとかがみを囲むように皆が居た。
かがみ「みんな、帰ったんじゃないの?」
こなた「で、病院はどこなの」
かがみ「〇〇総合病院」
こなた「ここから直接行った方が早いね、かがみ送ってあげる、乗って」
こなたはポケットから車のキーを取り出した。
ゆたか「私達も行きたい……」
ゆたか達がこなたに駆け寄った。
こなた「っと言っても五人乗りだし、どうしようか」
みさお「それなら兄貴に頼んで車だしてもらうよ、柊達は先に行ってていいぞ」
みさおは携帯電話を取り出し電話をした。
かがみ「悪いわね、頼むわ」
こなたはかがみ、みゆき、ゆたか、みなみを乗せて先に出発した。

 病院に着くとかがみは駆け出した。受付を済ませ病室に向かう。病室の入り口に家族全員が居た。
かがみ「どうしたの、何故病室に入らない?」
かがみの脳裏に不安がよぎった。
ただお「感染してしまう可能性があるから一人しか入れない」
かがみはほっとした。
かがみ「容態はどうなの?」
みき「病気が進行していてもう薬では対処できないって、あとは骨髄移植しかないそうよ、それができなければあと一ヶ月持つかどうか……」
かがみ「誕生日まで間に合わない……そんな」
状況は最悪だった。それでもかがみにはしなければならない事がある。
かがみ「病室、誰も入らないなら私が入っていい?」
いのり「入ってもいいけど、まだ意識が戻っていない」
かがみ「構わない」

病室にはマスクと白衣の着用を義務つけられた。つかさはベッドで静かに寝ていた。安らかな寝顔だった。とても病気とは思えない。周りで看護士が忙しなく動いている。
かがみ「お邪魔します」
言葉をかけたが忙しいのか看護士は無反応だった。しばらくかがみは遠くからつかさの様子を見ていた。
時よりつかさの眉が動いた。ただ立っているだけなんて。
かがみ「すみません、手を、手を握ってもいいですか」
看護士「ぞうぞ」
看護士はかがみを見ず作業をしながら答えた。かがみはつかさに近寄り布団から少しはみ出した右手を両手で握った。しかしつかさは無反応だった。
しばらくすると看護士の作業が終わった。
看護士「邪魔しちゃったわね」
かがみにそう語りかけた。マスクをしているがその目は笑顔だった。看護士はそのまま病室を出て行った。病室にはかがみとつかさ二人きりになった。
つかさの手が少し熱く感じる。薬のせいなのか、病気のせいなのか分からない。かがみはつかさの手を強く握った。
つかさ「お姉ちゃん」
つかさの顔をみるとつかさはかがみの目を見ていた。
かがみ「呼び捨てで呼ばないのか、少し安心したわよ」
つかさは周りを見回した。ここがどこなのか分かったようだ。つかさはかがみを見ようとはしなかった。かがみはつかさの手を強く握った。
かがみ「つかさ、こうなるまで黙っているつもりだったのか」
つかさは何も話さない。
かがみ「昨日、裏庭でつかさといのり姉さんの話を聞いた、それでする気も無い引越しの話をした……それでもつかさは話してくれなかった」
つかさは目を閉じてしまった。
かがみ「話さなければ病気が治るとでも思ったのか、私が心配しなくて済むとでも思ったのか、そんな訳ないだろう、もし、つかさが倒れるまで病気を知らなかったら
    一生つかさを恨むところだった、早く帰る切欠をつくってくれたゆたかちゃんに礼をいいなさい」
裏庭でつかさが言った台詞をそのまま返した。つかさの手がかがみの手を強く握り返してきた。つかさはゆっくり目を開いた。
つかさ「お姉ちゃん……私、悪いことしちゃったかな」
かがみ「そうね、そのおかげで私はこなたとみゆきに散々叱られたわよ、何も言い返せなかった、妹の病気を知らない姉なんて……そうでしょ?」
つかさ「……ごめんさない」
つかさの目が潤み始めた。そして泣いた。それは今までのつかさの涙とは違っていた。
ちょっと叱られただけで泣き出すつかさ、すぐに挫けて泣き出すつかさ、しかし倒れるまでかがみに隠し続けてきた。
病気の辛さや苦しさをかがみには一切感じさせなかった。つかさは自分の信念をとおしたのだ。かがみはつかさに一人の大人としての強さを感じた。

もうこれでつかさはかがみに何も隠す理由はなくなったはず。かがみは聞きたかった。今なら聞けるかもしれない。いや、今しかない。
かがみ「私に黙っていた理由を聞かせて欲しい、嫌なら黙ったままでいいわ」
つかさは暫く目を閉じていた。
つかさ「遺書……私、遺書でお姉ちゃんに何も書けなかったから」
かがみ「それだけ、たったそれだけなのか」
つかさ「お姉ちゃんだけなんだよ、何も言葉が浮かばない、卒業してからも考えたけど何も書けないの……お姉ちゃんも言ったでしょ、遺書に何も書いてなかったって」
咄嗟に出た言葉だった。かがみを部屋から追い出した意味がやっと分かった。言うべきではなかった。
かがみ「あれはつかさが隠し事をしているから言ったのよ、本気で言った分けじゃない」
つかさ「でも何も書けなかった、私ってお姉ちゃんを何とも思ってないみたい」
かがみ「本当にそう思ってるのか、書ける、書けないは表現力の問題よ、つかさは文字では表現できない感情を私に持っている、それでいいじゃない」
つかさ「でも生きているうちに書きたかった、でももう時間がないみたいだね」
つかさはかがみが握っている手を引っ張って離してしまった。
かがみ「そうでもないわよ、私が居るじゃない、私の骨髄でも内臓でも心臓でも分けてあげる」
つかさ「こんな私でも助けてくれるの、私はお姉ちゃんに何もしてないよ」
これだけ一緒に過ごしてきてそんな言い方しかできないのか。
かがみ「こなたとみゆき、つかさが居なければ友達にはなれなかった、これでもつかさは私に何もしていないって言うの」
まだまだ言いたいことはだいっぱいあった。それは退院してから言おうとおもった。
つかさは寝返ってかがみに背を向けた。
つかさ「ありがとう……でも心臓だけは要らないよ、お姉ちゃん死んじゃうでしょ」
かがみ「そうだったわね……」
数分間沈黙が続いた。
つかさ「なんか眠くなっちゃった」
つかさはまた寝返りをしてかがみの方を向いた。
かがみ「それなら寝なさい、寝付くまで見ていてあげるから」
つかさ「寝たらもう二度と起きないような気がして……」
かがみ「そんな事はないわよ、安心しなさい」
そう言っている間につかさは眠りについてしまった。かがみはつかさの頭を優しく撫でた。そしてかがみはそっと部屋を出た。

 病室を出ると家族とこなた達が居た。皆、目から涙が出ていた。
かがみ「ちょっと、つかさと私の会話聞いていたんじゃないでしょうね」
皆は黙ったままだった。かがみは一回深呼吸をした。
かがみ「……お父さん、先生の所に連れて行って、私の骨髄が使えるかどうか調べて欲しい」
……
……
……
七月六日
かがみは自分の部屋に居た。あの日からだいぶ落ち着きを取り戻した。忙しかった。いや、それすらも忘れるように時が過ぎたように感じた。
みき「かがみ、つかさの部屋の片付けは終わったの?」
かがみ「まだ、夕方までにはやっておくわよ」
みき「早く済ませなさいね」
みきは忙しそうに一階に下りて行った。正直あまりしたくなかった。ふと時計をみた。時間は午前十時を過ぎていた。時間が中途半端だ、片付けをするのは午後からに決めた。
しかしまだ二時間の時間がある。このままボーとしているのも勿体無い。なにをするか考えた。
大学のレポートはもう既に終わっている。読書をする気分にもなれない。どこかに出かけるにも時間が足りない。まったくもって中途半端な時間だった。
それなら予定を早めて部屋の片付けでもするか。かがみは立ち上がったが直ぐに座った。
明日は二十歳の誕生日。つかさの遺書を思い出した。黒井先生は二十歳になる前に書くように言っていた。
あの遺書は高校時代につかさのクラスメイト全員が書いたと言った。こなたやみゆきも書いたと言っていた。
つかさの異常を見抜いたのは家族以外ではこなたとみゆきだけだった。きっと死を見つめ、考えたから見抜けたのかもしれない。
それならこの時間を使って自分も書いてみようと思った。かがみは引き出しから紙と筆記用具を取り出した。

三十分が過ぎた。
かがみは愕然とした。手紙は真っ白のままだった。何故。かがみは心を落ち着かせて再び書き始めた。
更に三十分が過ぎた
『お父さん、お母さん、いままで育ててくれてありがとう。先立つ親不孝を許してください』
これだけだった。これは酷い。つかさと同じ書き出しだ。これを読まれたらこなたにも笑われるレベルだった。
更に三十分が過ぎた。
頭が真っ白だった。自分が死んだ時、何を伝えたいのか、たったそれだけのはず。難しく考えるな。そう自分に言い聞かせた。
一番書きやすいのは誰かと考えた。つかさが真っ先に浮かんだ。でも今更つかさに……
それでも他の人に書けそうもない。つかさ宛に書くことにした。

つかさは忘れん棒で、おっちょこちょい、失敗ばかりして世話がかかった。ちょっと待て。本当に世話がかかったのか。それは幼少の頃だ。
小中高学校では忘れ物以外は自分で全てやっていた。料理や裁縫の類ならかがみよりはるかに上手だ。つかさならかがみが居なくても充分一人で暮らしていける。
でもその忘れ物が大きな失敗を招く場合もある。その辺りを注意しようか。そんな話より楽しい日々を綴った方がいいか。一番楽しかったのはいつだったか。
まるで湧き水のように浮かんでくる。
気が付くと全く筆が進んでいなかった。もうお昼近い時間だ。何故書けない。レポートや論文ならすぐに書けると言うのに。
その時、つかさの遺書にかがみの項目がなかったのを思い出した。
かがみ「書けないってこれの事だったのか!!」
思わず叫んだ。

好きとか嫌いではない、文字に表現出来なかったわけでもない、思い出や、想いが何重にも頭の中で回って書けなかった。それだけだった。
もっと早く書いていれば気付いたかもしれない。つかさにあんな態度を取らせなくても済んだ。
つかさは書けないからかがみに自分の病気を話さずに隠していた。そう自分で言っていた。病院のベッドで。
もし自分がつかさと同じ病気だったらどうしただろう。つかさと同じようにしただろうか。かがみは考えた。
きっとかがみは真っ先につかさに駆け寄り自分の病気を打ち明けるだろう。そして涙ながらに『死にたくない』と訴える。
つかさがその時何をする。たぶん何も出来ない。それは分かっている。かがみ自身も何も出来なかった。そう変わりはない。
でもつかさは一緒になって泣いてくれただろう。まるで自分の事のように思って。
それなら逆につかさがかがみに病気を打ち明けたらかがみは何をした。励ましの言葉をかける。でもそれが病人にとっては一番の苦痛なのだ。
かがみはそれに気が付かない。そうだった、みゆきに言われるまで気が付かなかった。つかさはただ耐えていた。何も言わずに。
かがみはいつの間にか泣いていた。紙に涙が落ちていく。目が涙でぼやけて焦点が定まらない。書けない。書けるわけがない。

 かがみはつかさ宛に遺書を書くのを止めた。
気を落ち着かせて考えた。一言でいい。もっと気楽に。語りかけるように。ふとある人物が頭の中に浮かんだ。
それなら……。

『こなたへ。相変わらずバカやっているのか。私が居なくなってもきっとこなたは変わらないわね。私と会う前ののうに、それでもいい。
自分のポリシーを変えないのは凄いことだと思う。こなたにもう突っ込みはできなくなるけどガンバレ!!』

今度はすんなりと書けた。こなたは親しいが会ってからまだ時間は短い。この調子かがみは遺書を書き続けた。
『つかさへ』
やはりつかさには書けない。それなら正直な気持ちだけ書くことにした。
『つかさへ。いままでありがとう』
たった一言。それがかがみの精一杯の気持ちだった。かがみは書き終えた遺書を封筒に入れた。時間を見るともう午後を越えていた。
(お昼を食べる前に終わらせるかな)
かがみは掃除道具を揃えるとつかさの部屋に入った。

つかさの部屋に入るのは追い出された時以来か。つかさの『出て行って』と叫ぶ姿がまるで昨日のように感じた。
つかさが入院してからだれも部屋には入っていない。湿った粉くさい空気が部屋に充満している。
かがみはカーテンを開けて窓を全開にした。初夏の眩しい日差しが部屋一杯に入ってきた。空気は入れ替わり気持ちがいい。
周りをみると。家具や床、照明器具にうっすらと埃が積もっている。一年分溜まった埃。かがみは布団を干し、床を磨き、掃除機をかけて掃除した。
つかさの机を掃除しようとした。机の上に封筒が置いてあった。掃除の手を止め手紙を取ってみるとこの前見た遺書だった。入院前に置いたのだろうか。
封筒の中を取り出した。この前見たのと同じ内容の手紙が入っていた。
(まさかつかさは死を予感していた?)
かがみは手紙を封筒に戻そうとした。手が止まった。最後の頁に書き加えられた形跡がある。かがみは最後の頁を見た。
『かがみお姉ちゃん、いままでありがとう』
まったく同じだった。そこにはかがみと同じ一言が書いてあった。紙には涙の落ちた跡もある。つかさも考えた挙句にこの一言にたどり着いた。
かがみ「ふふふ、ははは、」
かがみは大笑いをした。笑いと涙が止まらない。やっぱりかがみとつかさは双子の姉妹だ。かがみはそう強く思った。
まつり「何してるんだ、一人で大笑いして」
まつりが部屋の入り口に立っていた。かがみは封筒をそっと机の中にしまった。
かがみ「なんでもないわよ、ちょっと思い出し笑いよ」
まつり「つかさの部屋……もう一年になるのか、辛かっただろうね」
かがみ「姉さん、もうそれは終わったわよ」
まつり「そうだった、そうそう、明日の事なんだけど、明日は姉さんと電車で行くからかがみはお父さんとお母さんを車でお願いね」
かがみ「分かってるわよ、初めからの予定通り」
まつり「明日は友達も来るんでしょ、きっとつかさも喜ぶと思う」
かがみ「黒井先生も来るってこなたが言っていた」
まつり「黒井先生?……ああ、つかさが三年だった時の担任ね……明日は忙しくなるよ」
まつりは階段を下りて行った。かがみはさっきしまった封筒を元の机の上に置いた。そして自分部屋からかがみ自身が書いた遺書を持ってきてつかさ遺書の隣に置いた。
かがみ「つかさ、あんたは入院した時、『何もしていない』って言った、これだけの人が集まってくれるなんて、もう私は何も言わない、つかさ自身で感じ取りなさい」

明日はつかさの退院の日。つかさが自分の部屋に戻ってかがみの遺書を見たとき何を思い、何を語るのか。

つかさにはかがみと同じ血が流れている。かがみとつかさの血は全く同じ型だった。骨髄移植から一年余りの闘病の末、つかさは完全に病気を克服した。
偶然にも二十歳の誕生日が退院の日と重なった。明日はかがみとつかさ、そして、つかさを慕う者達にとって忘れられない記念日となる。





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コメント:
  • この作品はつかさを亡くすつもりだった。
    しかし書いていくうちに感情移入してしまい死なせなくなってしまった。
    お題として中途半端になってしまったのかもしれない。
    -- 作者 (2012-05-06 07:35:59)
  • 良かった!
    つかさ無事だった! -- 名無しさん (2011-08-08 06:06:16)
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