ID:j+FU2ysS0氏:時を廻って(ページ2)

 突然つかさの身体に大きな衝撃が走った。つかさは転んでしまった。
「済まない、私の不注意だった」
男性の声がした。男性はつかさの腕を掴んでつかさを起こした。
「ごめんね、ちょっと急いでいた」
男性はハンカチをつかさに渡した。顔を見上げて男性の顔を見た。それはそうじろうだった。若いせいか声だけでは分からなかった。
つかさ「いいえ、私もボーとしちゃって」
つかさは渡されたハンカチで服に付いた埃を落とした。
つかさ「どうもありがとう」
つかさはそうじろうにハンカチを返した。
そうじろう「今度はぶつからないように気をつけるよ」
そう言うとそうじろうは走って行った。つかさは辺りを見回した。鞄を見つけた。つかさは慌てて鞄の中身を確認した。薬の瓶は割れていなかった。ほっと胸を撫で下ろした。
ふと正面をみると泉家の門の目の前だった。そうじろうが出かけるタイミングに来てしまったらしい。
つかさ「そうだ、こなちゃん、こなちゃーん」
つかさは辺りを探したがこなたの姿はなかった。やはり二人同時にタイムとラベルは無理だったようだ。つかさに重い重圧がかかった。一人で実行するしかない。
つかさは一回大きく深呼吸をした。つかさは呼び鈴を押そうと手を伸ばした。
こなた「おーい、つかさ」
つかさの手が止まった。声のする方を向いた。こなたが走ってきた。二人同時は成功した。
こなた「設定した場所から少し外れていた……場所を把握するのにちょっと手間取っちゃって……つかさ……来たよね、本当だったね」
こなたは今にも泣き出しそうだった。
つかさ「こなちゃん、泣くのはまだ早いよ、薬を渡すまでは……ね」
つかさはこなたを優しく諭した。
こなた「そうだった、まだ目的も達成していないね」
こなたは自分の家を見上げた。
つかさ「さっきおじさんが出かけて行ったよ、おばさん一人で大丈夫なのかな」
こなた「お母さんに車椅子が必要になるのはこの時代から半月先だよ、まだ一人で行動できると思う」
つかさはまた深呼吸をした。
つかさ「……呼び鈴押すね」
こなたは頷いた。つかさが呼び鈴を押す。

 しばらくするとドアが開いた。
かなた「あら、つかさちゃん……」
すぐにつかさの名前を言った。覚えていた。つかさは嬉しかったがすぐに気持ちを切り替えた。
つかさ「こんにちは、先日はありがとうございました、実は大事なお話があるのですが、お時間はありますか」
深々とお辞儀をした。
かなた「……大事な話ならどうぞ」
かなたはドアを全開にした。つかさはこなたの方を向いた。こなたはただかなたを見つめていた。つかさはこなたの手を引いてかなたの前に出した。かなたがこなたに気付いた。
かなた「そちらの方は?」
こなたは放心状態に近かった。自己紹介できそうにない。
つかさ「えっと、こちらは泉こなた……私の友達です」
かなた「泉……こなた」
自分の娘と同じ名前の女性が立っている。かなたはこなたの姿を上から下まで何度も見回した。こなたはもじもじして動きそうにない。
つかさ「お邪魔します」
つかさはこなたの手を引いて家の中に入った。

 静かな居間だった。かなたはこなたをじっと見たままだった。こなたも普段の元気がない。つかさもいつ話を切り出すか決めあぐねていた。時間だけが過ぎていく。
居間の置時計、正時の時報が鳴った。かなたは一回大きく息を吐いた。かなたはつかさの方を見て少しし間を空けてから話し出した。
かなた「つかさちゃん、私服だと随分大人びて見えるね」
つかさ「えっ、えっと、実は私はもう二十歳です」
つかさはどう返答するか困ったが事実を言と話し合いで決まったのでその通り話した。
かなた「あの制服はどうして着ていたの?」
つかさ「えっと、こなちゃんがあの日に設定しちゃって……私はてっきり学校だと思ったから……」
かなた「設定……学校……言っている意味が分からない」
中途半端に話しても分かってもらえない。つかさは覚悟を決めた。
つかさ「信じてもらえないかもしれませんけど、私達未来から来ました、今から二十年後の時代から……」
かなたは驚かなかった。それどころか笑顔で返した。
かなた「やっぱり、そんな気がしたのよね」
そう言うとかなたはこなた方を見た。
かなた「すると私の目の前に恥ずかしそうに黙って座っている人は私の娘……でいいのかな」
かなたはこなたに微笑みかけた。しかしこなたは返事をしない。
つかさ「はい、そうです……どうしたのこなちゃんさっきから黙っちゃって、挨拶もしてないよ」
慌ててつかさはこなたにを励ました。こなたは黙ったままだった。何も言えなかった。なんて言っていいのか分からなかった。
かなた「……娘とその友達がわざわざ未来から私に大事な用事……私の命に関わるお話しかしら」
これでこなた達の話の九割はかなたが話してしまった。つかさもそこまでかなたが自分達の事を理解していたとは思わなかった。
かなた「私はあとどのくらい生きられるのか……せめてこなたにお母さんと呼ばれるまでは生きたい」
感極まってしまった。つかさもこれ以上話せそうにない。短く済ませる為、鞄から薬を取り出してかなたの目の前に置いた。かなたはその瓶を見た。
かなた「これは?」
つかさは直ぐに答えた。
つかさ「薬です、私たちの時代では不治の病ではありません、おばさん……かなたさんの病気はきっと治ります」
自分とあまり年齢が変らなく見えた。おばさんとは言えなかったので名前で呼んだ。そんなつかさを尻目にかなたは瓶を手に取った。
かなた「これを飲むだけでいいの?」
つかさは頷いた。
かなた「しかし、こなたは本当に私を助けたいのかしら、さっきから黙っちゃって」
つかさとかなたはこなたに注目した。
こなた「……お、お母さん……」
俯いて呟くように小さな声だった。
かなた「なんて言ったの、もう一回」
こなたは顔を見上げてかなたの目をしっかり見た。
こなた「お母さん、薬を飲んで……下さい」
かなた「はい」
かなたは瓶の蓋を開けて口に付けると一気に飲み干した。こなたは席から立ち上がりそのままかなたに抱きついて泣いた。
つかさは見ていた。信じられなかった。何故としか言い様がなかった。今すぐにでも聞きたかった。でも聞けない。たまらなくなりつかさはトイレに走って行った。
つかさは二人を直視できなかった。つかさもトイレで泣いた。

 涙も収まりつかさが居間に戻るとかなた一人だけが椅子に座っていた。
つかさ「すみません、二人だけにしたかったので……嘘です、私こうゆうのが苦手なのです、逃げちゃいました」
かなたは微笑んだ。
かなた「ありがとう、おかげで少しだけどお話ができた……こなたは良い友達をもちましたね」
つかさ「こなちゃんは……」
かなた「ついさっき、私の腕の中から霧のように消えていった……」
現代に戻ったに違いない。つかさは思った。
つかさ「それじゃ私も……」

 気が付くとつかさは自分の部屋に戻っていた。目の前にこなたが座っている。
つかさ「こなちゃん、靴持って来たよ……」
こなたは座ったまま動かない。
こなた「つかさ……何か変わった……かな」
つかさ「変ったって、何が?」
こなたは潤んだ目でつかさを見た。この涙は喜びの涙ではない。
こなた「私の記憶にはお母さんの記憶がない……手帳の日付も内容も全く変わってない……つかさの記憶はどうなっている、高校時代からの記憶……」
つかさ「かなたさん、おばさんの記憶……」
つかさも同じであった。何一つ変っていない。かなたの記憶は無かった。
こなた「どうゆう事なの、確かにお母さんは薬を飲んだ……つかさも見ていたでしょ、それなのに……薬の期限が切れていた、飲み方が違っていた、そもそも違う病気だったのか、
     分からない……結局かがみの言う通りになった……過去は変らない」
つかさ「こなちゃん……」
なにやら焦げた臭いがする。二人はそれに気が付いた。周りを見回すとパソコンから煙が吹いていた。つかさは慌ててパソコンに近づいたが何をいていいのか分からない。
こなたは素早くコンセントのコードを抜いた。パソコンの煙は次第に消えていった。
つかさ「新品のパソコンだったのに……どうして」
こなた「きっと二人同時に過去に行ったからだよ……大きな負荷が掛かってしまった、もうこれで時間旅行は出来ない」
つかさ「また過去に行きたかったの?」
こなたは答えなかった。ただつかさを見ていただけだった。つかさは思ったとおりに言った。
つかさ「私は卒業式の日に行って何もしなかった、私はそれでもう一回行きたかった、でもこなちゃんはおばさんに薬を飲ませた……こなちゃんが羨ましいよ」
こなたはそんなつかさの言葉に反応した。
こなたは涙を拭った。
こなた「そうだね、お母さんって言って、返事をしてもらえた、お母さんに触れられた……」
こなたは笑った。それと同時に。つかさの肩の力が抜けた。
つかさ「パソコンどうしよう……折角買ってもらったのに……怒られちゃうかな」
こなた「保険があるから大丈夫だよ……さてと帰るよ」
こなたは帰り支度をしだした。
つかさ「どうせならお茶でも飲んでいかない?」
こなた「そうしたいけどお父さんが待っているし」
つかさ「こなちゃん、おじさんに話すの……今回の出来事」
しばらくこなたは考えた。
こなた「……いや、話さない、まず信じてくれない、それに話したら『何でお父さんも連れて行ってくれなかったのだ』って僻むからね」
二人はまた笑った。
こなた「それじゃ帰るよ、またね」
つかさはこなたに靴を渡した。
つかさ「ねぇ、こなちゃん」
こなた「ん?」
つかさはこなたを止めた。
つかさ「私のお母さんとこなちゃんのお母さん、比べてどう思う?」
こなた「……つかさは比べるものじゃないって言ったじゃん、意外とつかさは意地悪だね」
こなたは即答した。もっと突っ込んで聞きたかったがつかさはそれ以上聞くのが怖いような気がした。
つかさ「それじゃまた」
こなた「それじゃね、かがみによろしく」
こなたが帰った後、つかさは部屋で泣いた。今までの出来事を整理するために。

 こなたが帰って一時間くらい経った時だった。
『コンコン』
ノックするとかがみがつかさの部屋に入ってきた。先程のように怒っている感じはなかった。
かがみ「なにか焦げ臭いわね」
つかさ「……パソコンが壊れちゃって、今修理の手続きをしている所だよ」
つかさはパソコンを梱包していた。
かがみ「こなたは?」
つかさ「もう帰ったよ……そういえばお姉ちゃん出かけていたみたいだけど何処に行っていたの?」
かがみは少し赤い顔をして答えた。
かがみ「ちょっと神社にね、つかさが言ったでしょ……だから祈っていたのよ……こなたのお母さんが助かりますように」
つかさは少し悲しいかをした。
かがみ「……私の記憶の中にこなたのお母さんは出てこない……どうやって過去に行ったかは知らないけど私の言った通りだったでしょ」
かがみも悲しい顔をした。
つかさ「お姉ちゃん、信じてくれるの?」
かがみはつかさの机の上に置いてある手紙の破片を拾った。そして手紙を自分の鼻に近づけた。もう何も臭わない。
かがみ「もしつかさが卒業式の時拾ったのならこの紙からインクの臭いはしない、まるで昨日書いた時のようだった、新しすぎるのよ、信じるしかない」
つかさ「ごめんなさい、私がもっと知っていれば……」
かがみは手紙の破片をつかさの机の上に戻した。
かがみ「モタモタしていたから思わず頭に血がのぼったのよ、短気は損気ってほんとね……ところで私を過去に連れて行くと言った時、つかさも制服を着ていたけど、
     つかさも行くつもりだったのか、何故?」
つかさは苦笑いしながら答えた。
つかさ「お姉ちゃんと同じ、私もあの日、ある男子生徒に告白しようとしていた、お姉ちゃんみたいに文章なんか書けないから直接アタックするつもりだった、
     だけど出来なかった、だから自分の背中を押そうと思って……」
かがみは驚いた。高校時代のつかさに片思いにしろ恋人が居たなんて。つかさに隠し事は出来ないとかがみは思っていた。しかもこなたにも見破れない程奥に秘めた恋。
かがみ「ある男子生徒って……誰なの?」
つかさ「お姉ちゃんと同じクラスの……」
かがみは慌ててつかさの口を両手で塞いだ。言ったら自分も言わなければいけなくなる。つかさは見ているから知っている筈だがかがみは言いたくなかった。それだけだった。
かがみ「名前は言わなくていい……私のクラスメイトだって……そんなの全く感じさせないなんて」
かがみは全て理解した。つかさが何故かがみを誘った理由。
かがみ「……私と同じだった、だから私の気持ちが分かったのか……そんなつかさを私は……ごめん、ごめんなさい」
頭を下げて謝った。つかさはもうそんなのはどうでも良かった。
つかさ「もういいよ、分かってくれれば」
その言葉にかがみは救われた。
かがみ「ありがとう……良かったら話してくれない、こなたとおばさんの話」
つかさは頷いた。

 話が終わった。かがみは目を閉じて聞いていた。
かがみ「こなたがそこまで一度も会っていない母を慕っていたなんて、いや、一度も会っていないからかもしれない、両親とも健在の私には理解できないわ」
つかさ「そうだね」
つかさは短く答えた。
かがみ「しかし何故薬が効かなかった、おかしいだろう……科学の力を持ってしても歴史を変ええられないなんて……所詮人の考えた物はその程度なのか、
     まさか薬の期限が切れていた……いくらこなたでもそんな失敗はしないだろう」
両手を握り締め悔しがるかがみ。
つかさ「お姉ちゃん、私の話はまだ終わっていないよ……私は忘れっぽいから今はお姉ちゃんにだけに話すよ、私が忘れたらお姉ちゃんが話して」
つかさは思った。かがみには話しておきたかった。とても一人でこの事実を受け止められなかった。
かがみ「何を話すつもりなのよ」
つかさ「こなちゃんが先に戻った後の話だよ」
まだ話の続きがある。かがみは薬効かなかった訳を知っているのかと思った。失敗は単純なミスから起こる……期限を間違えた。不安がかがみの頭を過ぎった。
そんなかがみの心配を余所につかさの回想が始まった。
つかさ「私がトイレから戻ったらもうこなちゃんは居なかった……」

かなた「ついさっき、私の腕の中から霧のように消えていった……」
現代に戻ったに違いない。つかさは思った。
つかさ「それじゃ私も……」
しかしつかさはどうしてもかなたに聞きたかった。聞かずには帰れない。戻る足を止めた。
つかさ「おばさ……かなたさん、なんで、どうして嘘をついたの、こなちゃんは初めて会うかなたさんに嘘をつきたくなって……そう言っていました」
かなたはすこし怒り気味のつかさに少し驚いた。
かなた「嘘……そうかもね、そうゆう意味では私はこなたの母親失格ね」
かなたは静かに立ち上がった。
かなた「付いてきて」
隣の部屋にかなたは移った、そうじろうの書斎だった。そこには赤ちゃんが静かに寝ていた。
つかさ「もしかして、こなちゃん?」
かなたは赤ちゃんの側に腰を下ろしてあやし始めた。
かなた「そう、こなた、この赤ちゃんが二十年後にはあんなに大きくなるなんて、不思議ね……」
つかさは何故ここに自分を連れてきたのか理解できなかった。つかさはもう一度同じ質問をしようとした。
かなた「こなたは私と同じ病気なの」
かなたは手に薬の瓶を持っていた。瓶の内蓋を取るとゆっくりと幼いこなたの口に瓶をつけて飲ませた。つかさはかなたを止めなかった。止められなかった。
かなたは外蓋だけを外しこなたに薬を飲んでいるように見せたのだった。つかさはこなたとは違う角度からそれを見てしまったのだった。
つかさ「うそ……そんなの嘘だよ、こなちゃんは自分が病気だったなんて一言も言ってない」
かなた「それは多分私が話さないように言ったから、こなたは知らないはずね」
幼いこなたに薬を全て飲ませると瓶をこなたの枕元に置き、こなたを寝かせた。
つかさ「どうして、知っていればもう一つ薬を持っていけた、そんな嘘をつかなくても……今からでも戻ってもう一個薬を取ってきます」
熱く語るつかさに対してかなたはいたって冷静だった。
かなた「もう一つの薬は持って来られない気がする、それに持ってきてもらっても私は飲まない」
つかさ「こなちゃんはかなたさんに飲んでもらうために持って来たのに……」
かなた「そう、飲んでもらうために……私が亡くなったらその様にこなたは考えた、私が生きていたら薬の存在すら気が付かな……分かるでしょ、こなたが存在するには私は
     生きていてはいけない、私はこなたに生きてもらう方を選んだの、分かってくれるかな」
やさしく諭すような口調だった。
つかさ「分かんないよ、そんなの分からない、こなちゃんは……自分だけ助かろうなんて思わないよ」
つかさは必死にかなたを説得した。
かなた「こなたは最初からつかさちゃんに頼りっきりだった、きっとつかさちゃんには兄妹がいるのね……こなたが帰って、それでもこなたの代弁してくれるなんて、
     つかさちゃんの言っている言葉が一言、一言、恰もこなたが言っているように私の胸に響いてくる、あの時私が飲まないと言ったら、こなたが私と同じ病気だと知ったら、
     こなたは私に抱きついてこなった、そのまま帰ってもう一つの薬を取りに行こうとする、つかさちゃんと同じようにね、せっかく会えたのにそれは嫌、
     それが嘘を付いた理由」
つかさ「抱きついて欲しかった……それだけのために」
かなたはまた幼いこなたをあやし始めた。
かなた「親は子供よりも先に死んでいく……この当たり前に戻したい、それが私の願い、私が亡くなってこなたにいろいろ辛い思いもさせるかもしれない、
     それでもこなたには生きてもらいたい」

 かなたはこなたの為にその命を捧げる。そしてその決意は岩のように固い。つかさはそう思った。
かなた「病気が治ったこなたはきっとわたにお母さんって言ってくれるわね」
つかさ「でも、間に合わない、後一ヶ月しかありません……」
かなたは幼いこなたを見ながら言った。
かなた「……一ヶ月後か、あと数年と思ったけど、これだとこなたが私を呼ぶようになるまでは間に合わないね」
しまった。そう思った時は遅かった。
つかさ「ごめんなさい……」
謝罪の言葉が空しい。
かなた「……でもこなたは私に言ったね、お母さんって……しかも成人したこなたが」
かなたは微笑んだ。つかさはそんな笑顔が眩しすぎた。
つかさ「私、帰ったらどうすればいいの?」
かなた「そうね、内緒にしてもらいたい、だけど……秘密にはできそうにない……いずれ分かってしまう」
つかさ「私が秘密を守るのが苦手だから?」
かなたは首を横に振った。しかしその理由を言わなかった。
かなた「私の命日に、その時はこなたと夫、そう君も一緒に話してもらいたい……彼はこなたの病気を知らない、教えていないの、
     先生と私の秘密にしている……だからその時教えてあげて、そう君なら分かってくれる、こうするしかなかったって。そう伝えて」
かなたの目に涙が光った。こなたにすら見せなかった涙。もうつかさはかなたの決意をただ見送るしかできない。
つかさ「私にそんな大事な話をなんて……出来そうにない……自信ない……それに帰ったらこなちゃんに嘘を付かないといけない」
俯いて肩の力を落とした。そんなつかさにかなたは優しく語りかけた。
かなた「さっき私にこなたの代弁をしたじゃない、あの要領ですればいいのよ……私の代弁だから嘘は全て私の責任、これならいいでしょ」
かなたは祈るようにつかさに頼んだ。つかさは断りきれなかった。
つかさ「うん、やってみる」
短く返事をした。かなたはこなたを抱きかかえた。
かなた「つかさちゃんが余命を言ってくれたおかげで迷いが取れた、もうこれからはこう君とこなたの側に居る、それだけを考えていられる」
つかさはお礼を言われるとは思わなかった。
つかさ「おじさんは何処へ?」
かなた「そう君は出版社に行った、なんでも連載が決まったって……喜んで飛び出して行った」
かなたは涙を出しながらもその顔は笑顔だった。
つかさ「やっぱり好きな人と一緒に居るのが一番ですよね」
そんなつかさをかなたはじっと見た。
かなた「つかさちゃんは、恋をしたか、しているわね、そうゆう風に言えるなんて」
つかさは照れて顔が赤くなった。
つかさ「すみません、お邪魔をしました、残りの人生をお幸せに……」
つかさはお辞儀をした。
かなた「つかさちゃん、貴女もね……こなたをよろしくお願いします」


つかさ「それで玄関でこなちゃんの靴を持ってドアを開けたら……自分の部屋に戻っていた」
つかさの回想は終わった。かがみは目を閉じながら聞いていた。
かがみ「つかさ、私の言った言葉取り消すわ、歴史は変えられる、おばさんは歴史を変えた……つかさはその他に二度過去に行っているわよね、
     つかさも歴史を変えているわ、良かったのか悪かったのかは別にして……私達はそれに気付かないだけ……だからつかさのした事をとやかく言えない……」
一人重要な人物を忘れている。
つかさ「お姉ちゃん、こなちゃんは?」
かがみ「こなたには敬服するしかないわね、薬もみゆきに頼らず自分で調べたのか……資金も自分で調達、それに比べて私なんかつかさに八つ当たりなんて、恥ずかしい」
つかさ「お姉ちゃん、もうそれは終わった話だよ……自分を責めちゃだめだよ」
かがみ「そうね……終わった話……しかしこなたが時より見せる鋭い感性はおばさん譲りみたいね、こなたに恋人を見破られた時は焦ったわ」
つかさ「そうかもね、こなちゃん、おばさんと似ているところあるかも」
話が落ち着くとつかささ思い出した。
つかさ「しまった、おばさんに貰ったお金返すの忘れちゃった……」
かがみ「お金って?……ああ、家出娘と間違えられた時の話ね、まあ、あんな状況じゃそこまで気は回らないわ、おばさんとの約束の日に返したら」
つかさ「そうするよ」
かがみは腕を組んで考えた。
かがみ「もしかしたらおばさんは、もうその時にすでにこなたが来るのを知っていたかもしれない……そんな気がする……」
そんなかがみの話とは別につかさは急に怖くなった。
つかさ「……ねぇ、お姉ちゃん……」
つかさは聞きたかった。つかさはこなたともう会えなくなると思ったからだ。
つかさ「私、こなちゃんに嘘を言っちゃった」
かがみ「嘘?」
かがみは聞き返した。つかさがどんな嘘を言ったか検討が付かなかった。
つかさ「私が帰ってすぐ、こなちゃんにおばさんが薬を飲んだって言っちゃった……おばさんの約束の日、きっとこなちゃんは怒るよね……
     もしかしたら、それが原因で絶交なんて……」
つかさは涙目になった。
かがみ「それはその時になってみないと分からない……だけど考えられる、いや、きっと怒るわね、私がつかさを怒ったようにね」
つかさは少し震えだした。
つかさ「やっぱり嘘ついたらダメだった」
かがみにはその時のこなたの感情は想像できた。
かがみ「つかさ、あの時言っても、約束の日に言っても同じよ、こなたはつかさに怒りをぶつけて来る、こなたはそうするしかないからよ……八つ当たりするしかないのよ……その時の怒りは恐らく私のそれを遥かに上回る……」
つかさ「お姉ちゃん、私……おばさんの約束守れそうにない……話せないよ……私、そんなに怒ったこなちゃんを見たくない……」
かがみはつかさを脅かすつもりはなかった。そうなるであろうとあえて言ったのだった。かがみはかなたの意図が分ったからだ。
かがみ「私は何故秘密がバレてしまうのか何となく分かるのよ、それはつかさや私の意思とは関係ないの、だからつかさが言わなくてもこなたは分かってしまう」
つかさ「それじゃ何で約束なんかしたの?」
それなら約束した意味がないと思った。かなたの意図が分からない。
かがみ「おばさんは幼いこなたに薬を飲ませた話をしてもらいたかった訳じゃない、おばさんの気持ちを伝えてもらいたいのよ、側にいたつかさなら解るでしょ」
つかさは目を閉じて思い出した。まだそんなに時間が経っていない。あの時の光景ははっきりと脳裏に浮かぶ。自然と涙が出てきた。
かがみ「つかさは私と同じ様な失恋を経験した、その気持ちが、想いが、私にタイムトラベルを信じさせた、手紙の破片はその切欠にすぎない……帰って居なくなった
     こなたの気持ちをおばさんに伝えた……今度は、その涙の出ている気持ちをそのままこなたとおじさんに言えばいいのよ、こなたはその瞬間は怒るかもしれない、
     でもきっと分ってくれるわ、私の様にね」
目を閉じながらかがみの話を聞いたつかさ、目を開けるとかがみの目を見ながら言った。
つかさ「おばさんの命日の日、お姉ちゃんも立ち会ってもらいたい……」
かがみ「その為に話したのでしょ、聞かれなくても私の方から頼んだわ……私も関わりたかったから」
短気を起こさなければこなたとつかさと一緒に行ってあげられた。もっと別の何が出来たのではないかとかがみは思った。でもそれは自信過剰か。
自分がつかさの立場だったら、つかさのような振る舞いができたか、かなたを説得できたかどうか分からなかった。
そんな自分にできる事、せめてつかさがこなたとそうじろうの前で語る姿を見守りたい。かがみはそんな気持ちだった。

 かがみはつかさの梱包を手伝い始めた。その直後だった。
『バン』
突然部屋の外から何かが当たる音がした。
まつり「やったな!!」
いのり「なに、その態度、今度と言う今度は許さないよ!!」
まつり「私だって許さない、許さないよ!!」
部屋の中にも聞こえる怒号、いのりとまつりが喧嘩を始めたようだ。ここ最近では珍しいかもしれないがこうなると収まりガ付かなくなるのが二人の喧嘩だ。
かがみとつかさは聞き耳を立てた。
みき「いのり!まつり!、あんた達いくつになったの、そんな下らない事で喧嘩して!!!」
みきの一喝が入った。その瞬間怒号は治まり静けさが戻った。
かがみ「凄い……私とつかさ、二人掛りでも姉さん達の喧嘩なんて止められない、お母さんか、私達四姉妹をここまで育ててくれた、私はお母さんのようなお母さんになりたい」
そう言うとかがみは立ち上がりつかさの部屋を出た。
この時つかさは自分が言った『比べるものじゃない』の意味を真に理解した。
つかさもパソコンの梱包を終えると部屋を出でみきの居る居間に向かった。


こなた「ただいま」
こなたが帰るとそうじろうが食事の支度をしていた。
そうじろう「どうしたこなた、鼻歌なんぞして……良い事でもあったのか」 
こなたは居間や台所の周りを見回した。何も変っていない。家具の配置。照明器具。台所の風景。変ったのは少し壁や柱が古くなったくらいか。きっとかなたのセンスで
家具が配置され、照明器具が付けられた。ここはまだかなたが生きている。こなたはそう思った。
こなた「まあね……ところでお母さんはお父さんには勿体無いね、つくづくそう思ったよ」
そうじろう「なんだって、何を言っているんだやぶから棒に」
そうじろうは少し怒り気味だった。
そしてそうじろうもそう思ったから部屋のレイアウトを変えなかった。
こなた「……だけど、そんなお父さんだから良かったのかも……お母さんを選んでありがとう……着替えてくるよ」
こなたは自分の部屋に向かった。
そうじろうは首を傾げた。

 自分の部屋に入ったこなたは真っ先に棚から一枚のソフトを取り出した。それはつかさにインストールしたゲームソフトだった。こなたはパソコンを起動した。
つかさの時と同じ様にインストールすればもしかしたら自分のパソコンがタイムマシーンになるかもしれない。ボタンを押しトレイを開けた。
ソフトをケースから取り出しトレイにセットしようとした。
自然と手が止まった。
こなた「……もう出来ることは全部したかな……そうだよね、お母さん」
こなたはソフトをカッターで半分に割りごみ箱に捨てた。

 数ヶ月後、それはかなたの命日。
この日こなたはつかさと会う約束をしていた。そうじろうも一緒にとの条件だった。内容はかなたの話をしたいとつかさは言った。
こなたはそれで理解した。つかさはかなたの話をしにくるに違いないと。こなたはそうじろうに話をしないと言ったから、そうに違いない。
こなた「お父さん、今日はお母さんを助けた人が訪ねてくるよ」
そうじろう「家出した陸桜の学生だった人だね、お父さんも一度お礼が言いたかった……しかしなんで今頃、もう二十年も前の話だ」
つかさが会う約束をする時言っていたのを思い出した。
こなた「お母さんからもらったお金を返す為だって」
こなたは思った。自分よりつかさの方が上手く話すに違いない。後は全てつかさに任すしかないと。今まで話さなかったのは、
自分だとそうじろうにちゃんと話せたどうか自信がなかったからだ。
そうじろう「そうか、実はあの話をかなたから聞いて二人で話した、こなたを進学させるなら陸桜がいいってね……
       ん、こなた、今日はかがみちゃんとつかさちゃんが来るって言っていなかったか、そもそもその人が来るのを何故知っている?」
困惑を深めるだけのそうじろうだった。
かなたが生きていても自分は陸桜学園の生徒になったと。そしてその原因を作ったのはつかさだった。こなたは確信した。
こなたはわくわくしてきた。家出少女とつかさが同一人物であるとそうじろうが分かったらどんな反応をするのか、いろいろ想像して楽しんでいた。

 そこに突然みゆきが訪れた。全くのアポ無しだった。みゆきはある人から手紙を託されていた。みゆきはそうじろうに手紙を渡した。

そうじろう「おい、こっ……これはどうゆうこだ……こなたがかなたと同じ病気だったなんて……何故、何故黙っていた!!」
こなた「えっ?」
封筒の中の手紙を読み始めたそうじろうは驚愕した……封筒送り主はかなたの主治医だった人からだった。

 かなた様の御遺言により今日まで感謝状を贈るのを控えていました。遅ればせながら感謝の意を表します。その間に薬が完成しました。
そんな件(くだり)で手紙の文は始まった。
それは、かなたと幼いこなたが特効薬の開発に協力してくれたと言う感謝状だった。かなた自身が懸命に辛い研究や苦しい検査に協力してくれた事、
こなたの病気が急に回復したのを切欠に血液サンプルを分析して薬の完成が数十年以上早まった等、切々と感謝の文が綴られていた。
感謝状はかなたの生前に贈られるはずだった。薬の完成は後に書き加えられた。こなたがこの文を理解できる頃までとの希望によりかなの指定でこの日になった。

 主治医は薬の開発の功績で大学の名誉教授になった。それはみゆきの通っている大学だった。つかさが薬の質問を電話したのを切欠にみゆきは薬について調べた。
その薬が自分の大学で開発されたのを知った。あとは導かれるように教授と知り合いになり感謝状を贈る役を引き受けたのだった。

 感謝状をそうじろうとこなたが読み終わる頃、つかさとかがみが泉家を訪れる。その時そうじろうはかなたとこなたの愛をしるだろう。
そして話を終えてこなたの表情を見て知るだろう。かなたはつかさの嘘の責任を取ったと。

 終



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  • 泣いた -- 名無しさん (2017-05-14 22:31:16)
  • この前の修正では足りなかったようです。
    ら抜き、い抜きを中心に修正しました。
    話し言葉で多用したのがよくなかったのかな?
    それとももっと違う事を言っているのか。勉強不足ですみません。
    今後ともご指摘お願いします。 -- 作者 (2013-01-14 08:38:11)
  • 内容はいいんですが、脱字が多すぎます。 
    ちゃんとした文章になれば面白いんですが… -- 名無しさん (2013-01-14 00:44:50)
  • まあ面白かったよ -- (^0^)/ (2013-01-06 01:16:21)
  • 誤字修正をしました(見落としがあるかも)。
    話し言葉に関してはこれが自分のスタンスなので大きく変更していません。
    ご指摘ありがとうございます。 -- 作者 (2011-01-21 00:29:56)
  • 誤字脱字・話し言葉が文語調…
    もう少し文章ちゃんとすれば面白いと思う、うん。 -- 名無しさん (2011-01-20 17:36:10)
  • う〜ん… -- 名無しさん (2011-01-16 17:14:59)

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最終更新:2017年05月14日 22:31
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