ID:6DyRCOk0氏:喧嘩作戦(ページ2)

 先生の話ではもうすでにゆきちゃんの両親はこの話を知っていると言っていた。お姉ちゃんに対しては特に咎めることはないと言っていたけどそれはゆきちゃん次第らしい。
ゆきちゃんが許さなければ訴えられるのも覚悟しなさいと。ゆきちゃんがそんな事するはずない……なんて言えないよね。私からはお姉ちゃんを許してなんて言えない。
でもどうしてお姉ちゃんとゆきちゃんが喧嘩しちゃったんだろ。私達が原因なのは分かるけどゆきちゃんがお姉ちゃんを怒らすなんて想像もつかない。
そんな事を考えている間に病院に着いた。病院は歩いてでも行けそうな距離にあった。病院に入ると待合室に案内された。黒井先生は学校に戻った。携帯に連絡を入れれば
迎いに来てくれると言ってくれた。

 待合室の真ん中にポツンとお姉ちゃんが座っていた。私達に気が付いてこっちに向いた。目が真っ赤だった。でも涙の跡はなかった。お姉ちゃんは座ったまま話した。
かがみ「……あんた達来たのか、みゆきに会いたいのなら明日で良かったのに、まだ意識が戻らない……」
私達は返事はせずに空いている椅子にそれぞれ腰を下ろした。お姉ちゃんは私達が座ったのを見届けるとまた話しはじめた。
かがみ「醜態を見せたわね、人が倒れたのに何もしないで……応急処置は最低限の事よね……それすらも出来なかったなんて……」
つかさ「うんん、私だって何も出来なかったよ、こなちゃんがみんなやってくれたから……」
お姉ちゃんはこなちゃんの方を向いた。
かがみ「そういえばあんたを何度か殴ったことあったわよね……今思うとぞっとしたわ……今更だけど謝るわ、ごめん……」
こなた「どうしたんだよ、かがみらしくないよ……それよりも私が聞きたいのは……」
かがみ「……分ってるわよ、私が何故みゆきを殴ったかでしょ……職員室でも聞かれたわ……でも薄々は分ってるでしょ、原因はあんた達よ」
私とこなちゃんは顔を見合わせた。
かがみ「昼休み、弁当を食べ終わって日下部達と話していても落ち着かなかった、つかさとこなたの喧嘩のせい、みゆきが居るから平気だと思ったけど……様子を見にいった、
     こなたが教室を飛び出したのを見かけた……教室を見るとつかさが目を擦っていた……泣いていたのは直ぐ分った、仲直りどころか悪化してるじゃない……そう思った、
     放課後、会議が終わってみゆきに聞いたわ、何をしたかってね、昼食を一緒に食べれば何とかなると思ったとみゆきは言った、そして今頃つかさはこなたと直に会って
     話をつけていると言った、私はみゆきを叱り付けた、私達が仲介しても解決できないのに当事者同士だけで会わせてどうするつもりなんだ……ってね、
     みゆきはつかさやこなたの意思を尊重したいって言ったけど……私は今すぐこなた達の所に行くと言った、みゆきは止めたけど私は制止を振り切って向かったわよ、
     場所は察しがつく、屋上の扉が開いていた、二人を見ると……つかさがこなたを直視して泣いていた……こなたもつかさに向かって何かを言っていた……
     もう終わったと分かった、私の出来る事は何もない、たかがゲームの事って甘くみていたわ、もっとあんた達の話を聞いていれば良かった……私はそのまま戻った……
     戻ってみゆきにその話をしたら……みゆきは急に怒って私に言った、何故何もしないで戻ってきたのかってってね、現場も見ないで何を言ってるのかって言い返した、
     みゆきなら二人の間に入って話を聞くと言い出した、私はもうそれは昨日やったと言った……もうその後は覚えていない、気が付いたら私は手を振っていた」

 屋上でのこなちゃんとのやり取り……見ようによっては喧嘩していると見えるかもしれない。屋上にお姉ちゃんが来ていたなんて気が付かなかった。
お姉ちゃんの目には涙が溜まっていた。実は私達は喧嘩なんかしていない。お姉ちゃんにそう言ったらどうなるかな。きっとお姉ちゃんは怒る……。
怒るだけじゃ済まない。三人で言い合いの喧嘩になっちゃう。でも私はもう嘘なんかつきたくない。どうすればいいんだろ。こなちゃんは黙ってお姉ちゃんを見ている。
こなちゃんもどうしていいか分からないんだ。私も分からない。でもこのままじゃだめだよ。何かしないと。何を?
もう頭が爆発しそう。お姉ちゃん達が喧嘩してなかったら仲直りした姿を見せて終わったはずなに。仲直りした姿……。そうだ、やってみよう。

つかさ「お姉ちゃん、見て」
お姉ちゃんは私を見た。
つかさ「どう?」
かがみ「どう……って何よ」
私はこなちゃんに近づいて並んだ。
つかさ「喧嘩してるはずの二人が並んで座っているって不自然だとは思わない?」
お姉ちゃんは私とこなちゃんを交互に見ている。
つかさ「お姉ちゃんを待っている間、こなちゃんが言ったんだよ、このまま喧嘩してるとお姉ちゃんとゆきちゃんみたいになちゃうんじゃないかって、だからもう止めようって……
     そうだよね、こなちゃん?」
こなた「えっ?、あぁ、うんうん、そうそう、そうだよ、うんうん」
こなちゃんがどんな反応するかなんて分からない。でもこなちゃんは喧嘩作戦を秘密にしたいって言ってた。だからきっと私の話に合わせてくれる。そう思った。
その通りにこなちゃんは相槌を打ってくれた。
かがみ「……何よ、私達は反面教師かい……」
お姉ちゃんは顔を背けてしまった。
つかさ「これでお姉ちゃん達が喧嘩をしている理由はなくなったよね……」
お姉ちゃんは顔を元に戻して再び私達を交互に見た。
かがみ「確かにね、もうみゆきと喧嘩をする理由はもうない、普通の喧嘩だったらもうこれで終わり……でも私はみゆきに怪我をさせてしまった、これだけは消えないのよ」
つかさ「だからここに居るんでしょ?」
私はお姉ちゃんにゆきちゃんの眼鏡を渡した。
かがみ「これは……みゆきの」
つかさ「そうだよ、お姉ちゃんが飛ばしちゃった眼鏡、渡してあげて……」
かがみ「つかさが渡しなさいよ」
私に突き返そうとした。私は受け取らなかった。
つかさ「こなちゃんと喧嘩して分かっちゃった、誰かに何かをしてもらったって仲直りなんかできないって、結局喧嘩した本人同士で仲直りしないとダメなんだって」
その時、ドアをノックする音がした。
看護婦「高良さんの同級生の方々ですね、意識が戻ったので面会するならどうぞ……ただし頭を打ったせいで少し混乱しているようですので沢山のお話はお避け下さい」
看護士さんはそのままナースセンターの方に帰って行った。
かがみ「みゆき……」
お姉ちゃんはゆきちゃんの眼鏡を握り締めると待合室を出て行った。

 私もお姉ちゃんを追いかけようと待合室を出る準備をした。こなちゃんは私に笑顔で話しかけてきた。
こなた「つかさやるじゃん、本当の事言ってってバラしちゃうんじゃないかってヒヤヒヤしたよ」
私はこなちゃんを少し睨んだ。
つかさ「こなちゃん、お姉ちゃんに最後に言ったの……本当だから」
こなた「本当って?」
こなちゃんは言っている意味が分からないようだった。ポカンと口を開けている。
つかさ「私はこなちゃんと本当に喧嘩した……それで私達は自分達で仲直りしたんただよ、そうでしょ、こなちゃん」
こなた「つかさ……」
つかさ「……お姉ちゃんとゆきちゃんが仲直りしたら『喧嘩作戦』は全て忘れるつもりだから、私とこなちゃんの永遠の秘密……ゆきちゃんがお姉ちゃんを許さなかったら
    本当の事を言って謝るつもりだよ……それでいいよね」
こなた「……つかさ、ありがとう……それでいいよ……」
こなちゃんは少し目を潤ませた。そんな泣くような話はしていないのに。
つかさ「こなちゃん行こうよ、ゆきちゃんの所に」
こなた「うん……何だろうね、つかさは喧嘩が上手と言うか、慣れていると言うか……後腐れがないよ、そんなに喧嘩してるようには見えないのに」
そんな風に言われるは初めてだった。一つだけ思い当たるのがあった。
つかさ「私の家って家族が多いでしょ、お姉ちゃん達よく喧嘩するんだよね、それでもすぐ仲直りしちゃうんだよ、そんな姿を何度も見てるから……」
こなた「賑やかで楽しそうだ……羨ましいよ」
またドアをノックする音がした。ゆきちゃんのお母さんが入ってきた。
ゆかり「あら、つかさちゃん、さっきかがみちゃんとすれ違ったわよ」
普段と変らない温和な口調でそう言った。自分の娘が入院しているような感じは受けない。私はなんて言っていいのか分らない。
つかさ「おばさん、この度はお姉ちゃんが……なんて言うか……あの」
何を言っているのか分らなくなった。そんな私を見ておばさんは笑った。
ゆかり「そんなのはいいから早くみゆきの所に行ってあげて、きっと喜ぶわよ」
つかさ「行こう、こなちゃん」

 ゆきちゃんの病室の近くに来ると入り口にお姉ちゃんが立っていた。部屋に入れないみたいだった。
こなた「かがみ、入ろうよ……」
かがみ「さっきおばさんと会った……私がみゆきに会うのを知って部屋を出てくれた……おばさんは私に言った、意識の無いみゆきはしきりに私の名前を言っていたって……
     それを見ておばさんは私を許してくれた……名前だけじゃみゆきがどんな気持ちになっているなんて分からない、憎くて言っているかもしれないのに」
こなた「お母さんだから分るんじゃないの、子供の頃から育てたんならね、言葉の言い回とかでも分っちゃうんだよ」
かがみ「お母さんの居ないこなたがよくそんなことが……ごめん、今のは聞き流してくれ……」
お姉ちゃんは慌てて止めたけど今のはかなり酷いと思った。
こなた「……居ないからこそ分ることもあるんだよ……」
小さな声でポツリと言った。
かがみ「……ごめん、本当にごめんなさい」
こなた「別に気にしてないよ、それにその調子ならみゆきさんを怒らすことなんかなさそうだね……早く部屋に入ろう」
まさか、こなちゃんはお姉ちゃんを試したのかな。そんな気がしてきた。
かがみ「……入って何を話す、どう語りかける、そう考えると何も言葉がうかばない、謝罪の言葉、挨拶……何て言ったら良い」
こなた「かがみは私とか家で喧嘩していつもそんな事考えてるんだ、それでよく仲直りできたね」
かがみ「あんたや身内とは勝手が違う……幼い頃から一緒にいたんだ、手の内はお互いに知っている」
こなた「それじゃ私とつかさが先に入ってみゆきさんと話してるから頃合を見て入ってきて……行こうかつかさ」
こなちゃんはドアをノックしようとした。
かがみ「待って……私が先に入るわ……」
こなちゃんはドアから離れてお姉ちゃんに譲った。

 お姉ちゃんはドアをノックしてドアを開けた。
かがみ「入るわよ」
返事がなかった。お姉ちゃんは戸惑いながらも部屋の奥に入った。私とこなちゃんは入り口の所で止まった。
ゆきちゃんは耳にガーゼを付けていた程度だった。包帯をターバンみたいにグルグル巻きになっていたのを想像していたけど。思いのほか軽傷だったのかな。
ゆきちゃんはベットに座って窓の外を見ている。まだ私達に気が付いていないようだった。
かがみ「みゆき……」
お姉ちゃんの声に反応した。ゆきちゃんはお姉ちゃんの方に向いた。
みゆき「かがみさん……おはようございます……今日も早いですね」
おはようって……もう日はすっかり落ちて暗くなっている。さっきまでゆきちゃんだって窓の外を見ていたのに。
かがみ「おは……こんばん……」
お姉ちゃんも何て挨拶していいか分らないみたい。
みゆき「あっ、そうでした、今回議題についてかがみさんにお聞きしたい事があったのです、放課後の準備もしないといけませんね……」
かがみ「会議はもう終わってるわよ……」
みゆき「そういえば……おはずかしながら英語の教科書を忘れてしまいまして……かがみさん貸していただけませんでしょうか」
かがみ「いったいいつの話をしているのよ、今日は英語の授業なんかなかったわよ……それより私は……」
みゆき「……この前読んでいた本が読み終わりましたので御貸しできますよ……」
かがみ「はぁ?」
話が飛んで会話になってなっていない。支離滅裂ってこの事をいうのかな。看護士さんが言っていたようにゆきちゃん自分がどうなっているのか分かってないみたいだった。
ゆきちゃんはいきなりベットから降りようとした。鞄の方を向いている。きっと鞄の中の本を取りに行こうとしているんだ。ゆきちゃんは立ち上がって歩こうとたけどバランスを
崩してフラフラしている。まるで酔っているみたいだった。すぐに倒れそうになってお姉ちゃんにもたれかかった。
かがみ「ちょっと、怪我人は怪我人らしく寝てなさいよ……」
みゆき「……私は怪我なんかしてませんよ……」
お姉ちゃんだけじゃ体重を支えきれないみたいだった。いまにも二人とも倒れそうになっている。
つかさ「こなちゃん、手伝おう」
こなた「うん」
私達もお姉ちゃんを手伝いゆきちゃんをベッドに戻した。ゆきちゃんはわたしとこなちゃんに気が付いた。じっと私達を交互に見ていた。
みゆき「先ほどこな……ちゃん……と言ってましたね、怒っていない……二人が一緒にいるなんて……」
かがみ「とりあえずまずは落ち着け、渡すものがあるから」
お姉ちゃんはゆきちゃんに眼鏡を渡した。ゆきちゃんは眼鏡を受け取った。
みゆき「ありがとうございます」
ゆきちゃんは眼鏡をかけようとしたけど片耳にはガーゼで塞がれてる。眼鏡が滑ってかけられない。ゆきちゃんは手で耳を触れてガーゼを認識した。
ゆきちゃんは耳を手で押さえたまま動かなくなった。自分の身に何が起きたか分ってきたみたいだった。
………
………
みゆき「私……かがみさんと言い争って……ここは、此処は何処ですか……」
耳を押さえながらお姉ちゃんを見た。
かがみ「学校の近くの○○病院よ……」
みゆき「……そうですか……かがみさんが介抱して下さったのですね……ありがとうございます」
かがみ「お礼を言うならこなたに言いなさいよ……私はあんたが倒れて気が動転して何もできなかった、ただの小心者よ……」
みゆき「……かがみさん……愚直すぎます……嘘でもいいから『私がした』と言って欲しかった……そうでないと……うう」
ゆきちゃんはお姉ちゃんに抱きつき泣いてしまった。
かがみ「バカ、私はあんたを殴ったのよ、それなのに……何で抱きつくのよ……それは私が先にしなきゃ……うぅ」
お姉ちゃんも泣き出してしまった。もう二人は仲直りしたんだと思った。私はこなちゃんの肩を叩いて一緒にそっと病室を出た。

こなた「私達は要らなかったみたいだね……」
つかさ「そうだね……でもこなちゃんがお姉ちゃんの背中を押さなかったらこうはならなかったかも」
こなた「かがみが何時まで経ってもドアを開けなかったからね、じれったくなったんだよ……かがみって意外と気が小さいんだね、知らなかった」
つかさ「……そういえばお姉ちゃん、まつりお姉ちゃんと喧嘩するといつも私の部屋に来てたっけ……そのまま一緒に寝たこともあるよ……」
こなた「それは知らなかった、今度喧嘩した時の参考にするよ」
つかさ「もう喧嘩はこりごりだよ……」
こなた「はは、冗談だよ、さてと……ここで話すのもなんだし……待合室でかがみを待とうか」
つかさ「うん」

 こうして一件落着……したとは思わなかった。
でもこなちゃんと約束したからには守らないとダメ。でも私は隠し事が苦手。ついつい話しちゃう。さっきのお姉ちゃんが喧嘩があると私の部屋に来るって言うのも
暗黙の了解で話さない事になっていた。だから私は忘れる。この事は忘れる。そうすれば話さなくてもいい。話すこともない。私の心の奥にしまっておこう。永遠に。

 ゆきちゃんは数日で退院できた。そしてお誂え向きに皆はこの話をする事はなかった。
 あと皆はちょっと変ったかな。お姉ちゃんは誰に対してもどんなに言い合いの喧嘩をしても手を出さなくなった。
こなちゃんは悪戯をまったくしなくなった。最後って言ってたけど本当に最後の悪戯だったんだね。ゆきちゃんは……私と同じで変ってないかも。
皆が話さないから私も話さない。そして私も忘れた……。
……
……
 今日はとっても天気がいい、お出かけ日和。
土曜日。久しぶりに私達四人が集まる。大学を卒業すると滅多に逢えなくなるよね。それでも月に数回は誰かしらと会っていた。高校時代の友達としては多い方かもしれない。
私は家に残ったけどお姉ちゃんは家を出た。別に結婚したわけじゃないけどね。残りの私達はどうしたって?……それはご想像にお任せで。
私は皆が集まる約束をした店で皆を待っていた。予約したのは私。なんとこの店は私が働いている店。だから味は私が保証する。今日は休みを取って
客として店に来ていた。そして約束の時間が来た。
かがみ・みゆき「こんにちは……」
つかさ「姉さん、みゆき……早いね、席はこっちだから座って待てて」
お姉ちゃん、ゆきちゃん、こなちゃん、姉さん達が大学を卒業するまではそう呼んでいた。だけど社会人になると皆があだ名で呼ばれるのが恥ずかしいといいだしたので
名前で呼ぶようになった。最初は抵抗があったけどね、もう慣れた。
かがみ「つかさいいのか、一部屋貸しきっちゃって」
つかさ「うん、大丈夫だよ、それに今回はコース料理にしたからね、メニューはお任せ」
かがみ「コース料理かよ、奮発したな、割り勘でも結構すんじゃないのか」
つかさ「うんん、今日は私の奢りだからお金は気にしなくていいよ」
みゆき「いいのですか」
つかさ「四人だけで集まるのって久しぶりじゃない、だから嬉しくてね」
かがみ「そういや久しぶりだ……二年ぶりか」
みゆき「二年十ヶ月と二十三日ぶりですね」
かがみ「みゆき、相変わらずね……もう一人着てないわね……またあいつか……あいつも相変わらずってか」
みゆき「噂をすれば……来ました」
息を切らしてこなたがやってきた。
こなた「やふー、まいったまいった」
かがみ「……まったく、こいつの遅刻癖は治らんのか、まさかゲームをしてたってわけじゃないでしょうね」
こなた「まさか、子供じゃあるまいし、深夜アニメをついつい見てたら……寝坊した」
姉さんは絶句して何も言わなかった。こなたは全く変っていない。でもそれが羨ましかった。
みゆき「泉さん、昨日はどうもありがとうございました」
かがみ「ん?、みゆき昨日こなたと会ったのか?」
みゆき「はい、偶然駅でばったりと……」
かがみ「へー、偶然か、世間って広いようで狭いわね」
こなた「つかさが働いている店で食べるのは初めてなんだよね、昨日そうみゆきさんに言ったら話が盛り上がっちゃってさ、そのまま食事しちゃったんだよ」
みゆき「私は先日頂いた事がありましたので……いい話し合いになりました」
そういえばこなたが私の働いてる店にくるのは初めてかもしれない。皆呼んだつもりだったけど。やっぱり学生時代とは勝手がちがうな。
かがみ「こなた!、まだ遅刻の話は終わってないぞ、こっちに来て座りなさい」
こなた「えー、説教やだよ、もういい大人なんだしもう止めようよ」
かがみ「いい大人ならこんな事させるな、いいから来い!」
つかさ「姉さん、もういいじゃない、折角集まったんだからさ」
かがみ「……しょうがないわね、つかさに免じて今日は何も言わないわよ」
こなたは目でありがとうと言った。私は手で合図をした。
つかさ「もう始めちゃっていいかな、お料理もって来るように頼んでくるよ……お酒も少し飲む?」
こなた「少しと言わずいっぱい持ってきて……」
かがみ「ここは飲み屋じゃないんだぞ、まったく、お酒はつかさに任すわ」

 昼食会が始まった。お酒も少し入り話しが盛り上がってきた。私は皆に料理を取り分けたりお酒を注いだりしていた。
かがみ「つかさ、店員じゃないんだからさ自分の席に戻りなさいよ、私達自分で料理は取るからさ」
みゆき「そうですよ、席に着いて落ち着きませんとお話すらできません」
つかさ「……いつもの職業癖が出ちゃった、そうだね今日は店員じゃないよね、これで最後にして席に戻るよ……はい、こなちゃん」
料理をこなたに渡すとみんなの動作が止まった。私があだ名でこなたの事を呼んだからなのだろうか。貸切の部屋。私達以外居ないので何気に言った。特に意味はなかった。
しかし皆の反応は大きかった。
つかさ「えっと、ごめん、あだ名はもう止めようって言ったんだよね、ちょっと調子に乗りすぎちゃったみたい、もう言わないから……」
私は自分の席に戻った。しかし沈黙は続いた。私ったら雰囲気ぶち壊しだよね。どうしよう。
こなた「こなちゃん……懐かしいね、いつから止めようなんて言ったっけ?」
つかさ「え?」
みゆき「そういえば私もゆきちゃんと呼ばれていました、確か大学を卒業した辺りからあだ名は止めようと決まったと思いますよ」
かがみ「つかさは親しい人にはあだ名で呼んでたわね……」
こなた「かがみは結局あだ名は付かなかったよね……キョウちゃんでよかったのに」
かがみ「キョウちゃんって何よ……あっ!そういえば高校時代私をそう大声で呼んだことあったわよね……なんで急にそう呼んだのよ」
こなた「つかさがあだ名を付けるならキョウちゃんが良いって言ったんだよね……漢字で『鏡』でキョウ」
そういえばそんな事もあったかもしれない。でもこなちゃんはは直ぐに言い直したんだった。
こなた「でも私は『凶』の方が合うんじゃないかってね」
うぁ、あの時の会話をそのまま話しちゃってるよ。高校時代じゃ絶対に話せない。
かがみ「……で、こなたはどっちの漢字であの時呼んだんだ?」
こなた「ふふふ、そんなの聞かなくても分るんじゃないの」
かがみ「あの時知ってたら殴ってる所だ」
お姉ちゃんはそう言って料理を食べ始めた。怒っているけど高校時代とは反応が全然違う。あの時お姉ちゃんが『凶』って知ってたらこなちゃんは殴られてたかも。
みゆき「ふふ、懐かしいですね……やはり高校時代の思い出のが一番残りますね……」
ゆきちゃんは部屋の窓の外を眺めなら言った。
かがみ「そうね、私もそうかもしれない、高校時代……みゆき覚えてるかしら、喧嘩して怪我させたことあったわよね」
そういえばそんな事もあった。お姉ちゃんがゆきちゃんを殴っちゃったんだった。でも何でだったんだろう。覚えてない。こなちゃんもお姉ちゃんの方を向いていた。
みゆき「……覚えています、まるで昨日の事のように、成り行きによっては今、私達がこうして集うこともなかったかもしれません……」
そんな大きな事件なら私だって覚えているはず。
かがみ「そうね、事の発端はつかさとこなたの喧嘩だった、ゲームのデータを消した消さないの他愛もない喧嘩……二人とも覚えてる?」
私とこなちゃんは首を横に振った。
かがみ「……やっぱりね、その程度の喧嘩だったのよ、それを私達は真剣に受け止めたのよね、放っておけばよかったのに」
ゲームのデータ。何だろう。確か何かあった。何かあったのは思い出した。
みゆき「私はこれで良かったと思いますよ、雨降って地固まる……です」
お姉ちゃんは食器を置いて真剣な顔になった。
かがみ「みゆきと喧嘩したのはあの時が最初で一回きり、解せない、どうしても納得いかないのよ、でも今まで聞こうとして聞けなかった……今なら聞けそうな気がする」
みゆき「何でしょうか」
ゆきちゃんも真剣な顔になった。
かがみ「私はみゆきを殴った、この罪は消えないのは分ってる……でもね、わざと私を怒らせているように思えたのよ……これは私が罪から逃れようとこじつけた解釈かしら」
わざと怒らせる……。この言葉が心に残った。何か覚えがある。
みゆき「……十数年年間……そんな事を考えていたのですか」
かがみ「良かったら本心を話してくれるか、話したくないのならもうこの話は終わりでいいわ、私も忘れる、もう終わった事に茶茶入れてもしょうがない」
ゆきちゃんは少微笑みながら話しはじめた。
みゆき「かがみさんと泉さん、初めて出会ってから暫くしてすぐに喧嘩をしましたね」
お姉ちゃんとこなちゃんは顔を見合わせた。
かがみ「もう数え切れないほどやったから覚えていないわ」
みゆき「そうですか……お二人は喧嘩しては仲直りを繰り返していきました、その度に絆が深まっていくのを私は目の当たりに見てきたのです……喧嘩……私は喧嘩らしい
     喧嘩はした事がありませんでした、家でも、学校でも……かがみさんと泉さんを内心羨ましく思っていたのです」
かがみ「バカね、喧嘩なんかしないにこしたことないじゃない」
お姉ちゃんがそう言ったけどゆきちゃんはそのまま話を続けた。
みゆき「……あの時……私の制止を振り切ってかがみさんがお二人を追いかけて行った、帰ってきたとき、何もしなかったと言いましたね、おそらく私もお二人の間に
     入って何かをするなんて出来なかったでしょう……そう、出来なかった、ならば何故しなかったと言えばかがみさんは怒るに違いないと……」
かがみ「……わざとだったのね、でもあの時は私も気が動転してて……そんな事まで考える余裕がなかった」
わざと……わざと怒らせた。私もこなちゃんに怒らされたんだ……思い出した。『喧嘩作戦』だ。こなちゃんの喧嘩作戦。こなちゃんと秘密にしてたんだった。
みゆき「人を怒らす術は理屈ではしっています、かがみさんからくる怒りの言葉、その言葉に対して反対の言葉で返せば怒りは増幅する……途中で止めるつもりでした、
     相手を怒らせればそのまま自分に帰ってくる、ミイラ取りがミイラに……私もいつの間にか怒っていたのです……気が付いたら病院のベットでした……」
かがみ「ふふ……そうゆう事だったのか……みゆきそれでどうだった、私との喧嘩……またやってみたい?」
お姉ちゃんは笑ってゆきちゃんに話した。
みゆき「……あの感情の高鳴り、憎しみ、嫌悪感……もうしたくありませんね……」

 二人は笑顔だった。あの時のお姉ちゃんがゆきちゃんを叩いた時の顔からは想像もできない顔……。ふとこなちゃんを見た。さっきからずっと黙っていた。
こなちゃんは何か言いたいみたいだった。そうか、こなちゃんはあの時の事を忘れていない。いや、忘れられなかったんだ。姉ちゃんやゆきちゃんみたいに。
思い出しては悩んでいた。そうだね。そうだよね。もう隠す必要はないよ。お姉ちゃんとゆきちゃんを見れば分る。
つかさ「こなちゃん、こなちゃんも何か言いいたいことあるんじゃないの?」
私は高校時代のあだ名で言った。今度は意識して言った。こなちゃんは黙ったままだった。
つかさ『喧嘩作戦……もう話していいと思う……こなちゃんもそう思ってるんでしょ、悪戯は種明かししないと終わらないよ……終わらせようよ」
かがみ「喧嘩作戦、何よそれは」
みゆき「悪戯、何でしょうか」
二人はこなちゃんの方を向いた。こなちゃんは目を閉じてしまった。
かがみ「こなた、何勿体振ってるのよ、言いなさいよ」
明るく柔らかな口調だった。お姉ちゃんのその言葉に反応してなちゃんは大きく息を吐いた。諦めて観念したため息のようにも、開放されてほっとしたたようにも見えた。
こなた「つかさ、今まで黙っててくれて……ありがとう、もう秘密にする必要はないね、終わらそう……」
黙ってたんじゃなくて本当は忘れていただけ。それも話さなきゃいけないかな。そういえばこの会合を企画したのはこなちゃんだった。もうそのつもりだったんだね。
こなた「話すよ、高校時代最後の悪戯をね……」
こなちゃんが目を開いた時、目から一粒の涙が出たのを私は見た。

 こなちゃんは話し出した。学校の教室、図書室、保健室、校庭、屋上等の風景が脳裏に浮かんでは消えた。そして、あの時の出来事もまるで昨日の事のように思い出された。
この瞬間から『喧嘩作戦』は私の思い出の一ページに加わった。今日は時を忘れて語り合おう。あの日に戻って……

 貸し切った部屋からは私達四人の笑い声が響いていた。


 終

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