ID:R6xsCDs0氏 :優しき月光

月には古今東西様々な逸話も存在する。西洋なら狼男等があり、日本なら竹取物語等が存在する。
そんな月に人類がたどり着いたのは、今から40年以上も遡る昔の話だ。


優しき月光


五月上旬。ゆたか達が三年に進級して、約一ヶ月が過ぎた。
見た目は年齢にクエスチョンマークが付きそうな程の小柄なのだが、これでも陵桜高校の生徒会長を勤めているのだ。
「ふぅ…」
ゆたかは、目の前に有るプリントを見て大きな溜め息を吐いた。
「…ゆたか、どうかしたの?」
今一つ覇気の無い表情を見て、みなみは声をかけた。
「あ、みなみちゃん…」
ゆたかはみなみに視線を移した。
「…悩んでるの?」
ゆたかを見て、みなみは心配そうにそう言った。
「…うん。これなんだけどね」
ゆたかはそう言って、机に開いている希望進路のプリントを見た。紙には、まだ名前しか書いていない。
「進路、どうしようかなぁ…」
ゆたかはそう言って、机に頬杖を付いた。
「…ゆたかは、何かやりたい事はあるの?」
「うん。有るには、有るんだけど…。
所で、みなみちゃんは決まってるの?」
みなみはコクリと頷いた。
「私は進学に決めてる」
「…そっか。私も早く決めないといけないなぁ」
ゆたかはそう言って、再び深い溜め息を吐いた。
「ゆたかちゃん、どうしたんスか?」
「今日のユタカ、元気ないデスネー。解りまシタ、恋の悩みデスネ!!」
後ろから声をかけてきたのは、アニ研部長のひよりと留学生のパティ。アニ研名物コンビだ。
「パティちゃん、そう言うのじゃないよー」
ゆたかは、やれやれと言いたげにそう返事をした。
「…ひよりもパティも、進路は決まったの?」
みなみは、二人に聞いた。「私は芸術系の短大に志望したっス」
ひよりは得意気に、小振りな胸を張る。
「ワタシはバイト先のメイドカフェに、就職しようと思ってマース」
パティは流暢な日本語で、そう答えた。
「ゆたかちゃんは、まだ決めてなかったんスか?」
ひよりの問い掛けに、ゆたかはバツが悪そうな顔をした。
「…うん。やりたいことは有るけど、どうしても絞れなくって」
「…まだ、時間はある。だから、焦らず決めるといい」
「そうッスよ。みなみちゃんの言うとおりッス」
「ユタカのやりたい事を、やるべきデース」
三人の意見を聞いて内心はほっとするが、ゆたかはまた盛大に溜め息を吐くのだった。


金曜日。学校の授業終了後、パティの提案により四人で遊びに行く事になった。
「三人とも、注目するのデース!!」
パティが自慢気に、鞄から四枚のチケットを取り出した。
「パティちゃん、それなんのチケット?」
ゆたかは、首を傾げながら聞いた。
「フフン、コレは駅前に有るカラオケの割引券なのデース!!
バイト先のマネージャーから貰いまシタ」
パティは手に持ったチケットを、ヒラヒラと揺らした。
「見せて見せて。
…これ、半額でフリードリンク付きだよ」
ひよりはチケットを見て、かなりオイシイ内容だと確認した。
「カラオケかぁ。暫く行ってなかったから、行きたいなぁ」
ゆたかは目を輝かせながら、行きたいと言う意思を見せた。
「私も全然行ってなかったからね」
ひよりも、ゆたかの意見に同意した。
「…私も、行きたい」
みなみも、二人と同じ意見だった。
「デワ、決まりデスネ」
パティは、三人に向けてパチッとウインクしてみせた。

一同これと言った用事もなく、店には比較的早めに到着した。
久しぶりのカラオケで、四人ともテンションは上昇気味だった。時間も忘れて、二つのマイクはクルクルとローテーションされる。
特にゆたかは、積極的に歌いまくっていた。生徒会長を勤める忙しさや、進路の悩みでストレスが合ったのは容易に想像出来た。
そこそこ時間がたった頃にみなみが歌ったある一曲が、パティの中で強い印象が残った。

―僕らが生まれてくるずっとずっと前にはもう、アポロ11号は月に行ったって言うのに―

(アポロ…か)
何処か、感傷に浸っているような表情のパティ。その瞬間をみなみは見逃していなかった。
「…パティ。どうかしたの?」
みなみにかけられた一言に、パティは短くこう言った。
「…少しgrandfatherの事を思い出しただけデース」
「…そうなんだ」
みなみは、それ以上は問い詰めなかった。普段の様子からは見えない、少し寂しげなパティの表情は気になったのだが。


カラオケ店を出た後は、ファーストフード店で談笑しつつ食事を取る。時刻は八時を過ぎていた。
楽しい時間はすぐに過ぎてしまうもの。日は沈み、空は暗くなっていた。雲一つない闇色の空に、一際輝く満月が見えた。
このまま解散する予定だったのだが。
「少し歩きまセンか?」
パティはそう言い出した。
その意見には、特に反対は無かった。特に会話もなく、四人は近くの公園に着いた。
「アレ、見えマスか?」
パティは空を見上げる。
「今日は、見事な満月ッスね」
ひよりも釣られて、空を見上げた。
「お月様には、色んなお話があるよね。かぐや姫とかさ」
ゆたかも空を見ていた。
「…でも、どうして月を見たの。パティ?」
みなみは見ていた月から、パティに視線を移した。
「…人が月に行ったのは、40年前の話になりマス。
ワタシのgrandfatherが、その時の事を話てくれた事がありマス」
パティは、ゆっくりと語りだした。

「ワタシのgrandfatherは、昔NASAに勤めていたと聞きマシタ。
その事を聞くと、アポロ計画の話をしてくれまシタ」
パティの言葉を、三人は無言で聞く。


人類が宇宙に行く。それは壮大な夢であるが、無茶な挑戦でもあった。
コストや技術の問題は、山のようにあった。一つの問題を解決すれば、また一つ問題が出る。
数えきれないほど失敗もしたし、命を犠牲にする事も珍しくない。内部でのいざこざも沢山出た。
だけど、最後まで決して挑戦する事を諦めなかった。
だからこそ、アポロは宇宙に飛び立つ事が出来た。やがて、月に降り立つと言う偉業も達成できたのだ。
『この一歩は小さな一歩だが、人類には大きな一歩だ』
アームストロング船長の残した言葉だ。
それが達成できたのは、間違いなく最後まで挑戦する気持ちと諦めない気持ちを持ち続けたからだと。





―challenge and don'tgiveup―

「grandfatherの言葉が無ければ、ワタシは日本に来ることは無かったでショウ。
最初は、不安や寂しさもありました。デスが…今なら素直に言えマスよ。
日本に来て良かった…と。だって、ヒヨリ、ミナミ、ユタカと言う、最高の“トモダチ”と出会うことが出来たのですから」
パティは表情は、穏やかな微笑みを見せていた。
「パティちゃんは、凄いね…」
ゆたかは、パティの手をギュっと握った。パティの話を聞いて、自分の悩みが少しだけ楽になったような気がした。
「…一人で海外に来るなんて、私には出来ない」
みなみも、柔らかに微笑んでパティを見ていた。
「パティとは、ずっと生涯最高の友人ッスよ」
ひよりは、親指を立てた手を出してニッコリと笑って見せた。
そして、パティは再び空を見上げた。その空からは、五年前に他界した祖父が微笑んでいる気がした。

(…grandfather。ワタシは、異国の地にいマス。
デスが、何時も貴方が見てくれていると信じていマスよ)

それは、満月の光と共に…。


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