ID:WXGehJU0氏:WALS-6

「不覚だったわ…まさかすでに新たな賞金稼ぎを配置してたなんて」
 バウンティハンターギルドでもあるマリアベルの宿。その一階の酒場の床に、後ろ手に縛られたヴァージニアが座らされていた。
 薄い紫色を基調とした、厚手のドレスに身を包んだその姿は、ちょっとした中流家庭のお嬢さんのようで、とても渡り鳥には見えない。
「…なんでこの人こんなに余裕あるのよ。捕まってるのに」
「…ってか、微妙に嬉しそうでもあるよね」
 そのヴァージニアを、かがみとこなたが冷や汗を垂らしながら見下ろしていた。
「そもそもここで落ち合おうって言ったの、ヴァージニアさんなのに…」
「大方、悪漢役の自分に酔っとるんだろうの…」
 つかさとマリアベルは、手近なテーブルに座って三人を眺めている。
「わたしを捕まえたことに免じて、一つだけ良い事を教えてあげるわ」
「…なんでそんな偉そうなの」
 かがみの白い目を気にせず、ヴァージニアは言葉を続けた。
「緑の災厄…あれに似たのがこの町にいるわ」
 ヴァージニアの言葉に、マリアベルが片方の眉をピクリと動かした。
「…ヴァー子。その冗談はシャレにならんぞ」
「冗談じゃないわよ…わたしがアレのことをジョークに使うわけ無いじゃない」
 ヴァージニアが不敵な笑みを浮かべる。それを見たマリアベルは気に食わないかのように鼻を鳴らした。
「ま、言いたいことはそれだけ。後はアーデルハイド一の賞金稼ぎさんに任せるわ」
 パサッと音がして、ヴァージニアの手を縛っていた縄が床に落ちた。
「え…縄抜け…?」
「それじゃーね」
 驚くかがみにウィンクをし、ヴァージニアは懐からトランプに似たカードを取り出して、頭上に掲げた。
「スペクトル!」
 ヴァージニアの叫びに応じ、カードが凄まじい閃光を発した。
「うわっ!?」
「まぶしっ!」
 こなたとかがみは目を瞑り、両手で顔を覆ってしまった。
「…な、なんなのよ…」
 閃光が収まりかがみが目を開いてみると、すでにヴァージニアの姿は無く、床に一枚の紙切れが落ちているだけだった。
「派手な逃げ方するねえ…」
 こなたは呆れた風にそう言いながら、ヴァージニアが落としていった紙切れを拾い上げた。



わいるど☆あーむずLS

第六話『緑の災厄』





「アーデルハイド城の地下水道。つかさちゃんよろしくね。かっこはーとかっことじる…」
 こなたはテーブルの上に置いた紙に書かれた文字を読み、同じく紙を覗き込んでいる他の三人の顔を見回した。
「…よりにもよって…のう…」
 不機嫌そのものと言った表情でマリアベルが呟く。
「あの、緑の災厄って…」
 つかさがそう聞くと、マリアベルは忌々しげに眉根を寄せた。
「アークティカを滅ぼした災厄じゃよ」
「え、それがこの町に…?」
「ヴァー子の言う事を、信じるなら…じゃが…うーむ」
 難しい顔をしてうつむくマリアベルを見て、こなた達三人は顔を見合わせた。
「マリアベルさんは、緑の災厄ってのに詳しいんですか?」
 こなたの質問にマリアベルは眉をしかめたが、すぐに頭をかきながら表情を戻した。
「…わしはアークティカに住んでおったからの。アレのことは嫌というほど知っておる」
「…こなた」
 かがみが非難がましい目でこなたを見ると、こなたはばつが悪そうに首をすくめた。
「いや、かまわん。隠すほどのことでは無いしの…アークティカは軍事に力を入れた国での。国土の大半が荒野化してしもうて、他の土地を侵略しようとしておったのじゃ」
 そこまで話したところで、マリアベルはコップの水を飲み息をついた。
「そこに一人の男が、ファルガイア再生計画なるものを携えて現れたんじゃ…名はウェルナー・マックスウェル。ヴァー子の父親じゃよ」
「ヴァージニアさんの…」
 つかさがそう呟くのが聞こえ、かがみはつかさを見た。心配そうなつかさの表情に、かがみは自分がアシュレーに世話になったように、つかさはヴァージニアの世話になったんじゃないだろうかと感じていた。
「再生計画については詳しいことは長い上にややこしいでの、簡略して説明させてもらうが…ようはレイポイントと呼ばれる場所に生命エネルギーを直接流し込み、弱っているファルガイアに活をいれようという感じじゃ」
「大雑把って言うかなんていうか…」
「…簡略しとると言うとろうが」
 思わず突っ込みを入れてしまったかがみを睨むと、マリアベルは目をつぶりため息をついた。
「その再生計画のために、ユグドラシルと呼ばれるARMが作られたのじゃがな…あのアホ国王はそいつを軍事に転用しようとしたのじゃ。それを阻止しようとした銃士隊と一悶着あっての…ユグドラシルの暴走を招いて、アークティカは滅んだというわけじゃ」
「それが緑の災厄?」
 そう聞いてきたつかさに、マリアベルはうなずいて見せた。
「うむ。まあ正確にはユグドラシルの暴走で生まれた化け物のことじゃがな。まあ、どの道ヴァー子にとっては父親が残した負の遺産じゃ。捨て置くことはできまいて…たとえ賞金稼ぎの手を借りようとも、な」
 そう言いながら自分を見てニヤリと笑うマリアベルに、つかさははっきりとうなずいて見せた。




「ホントにいくの?お城の地下なんて、そう簡単に入れる場所じゃないと思うんだけど…」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。お城には何回か忍び込んだことあるから」
 心配そうに聞くかがみに、つかさはにこやかに答えて見せた。
 表向きは宿屋となっている、マリアベルのギルドの二階。そこにある寝室で、三人は夜まで仮眠を取ることになった。
「それに、ヴァージニアさんが助けを必要としてるんだもん。放っておけないよ」
「あれが助けて欲しいって態度なのかしらね…」
 呆れたようにそう言いながら、かがみはこなたの方を見た。こなたはベッドに寝転がり、自分のARMを眺めていた。
「どうしたの、こなた?」
「ん…いやね。マリアベルさんが言ってたじゃない。再生計画にユグドラシルってARM使うって。銃でどうやってそんなことするのかなって思ってさ」
 こなたの言葉を聞いて、かがみは頬をかいた。
「あ、そうか。こなたは知らないのね」
「なにが?」
「ARMってのはAncient Relics Machineの略なのよ。えーっと、古代の遺跡より発掘された機械って感じの意味ね」
「それじゃ、この世界の機械ってのは全部ARMってこと?」
「一応、ARMじゃない機械もあるみたいだけど、面倒なのかみんなまとめてARMって呼んでるみたいね」
「そっか」
 こなたはアガートラームをホルスターに収めると、身体を起こしてつかさの方を見た。
「そういや、つかさのARMってどんなの?なんかショットガンみたいだったけど」
「うん、こんなのだけど…」
 つかさは羽織っていたポンチョを脱いで、たすきがけにしているガンベルトから自分のARMを外してこなたの方に差し出した。
「ポンコツ、これの名前もわかるの?」
 少し銃身の短いポンプアクション式のショットガン。それを手に取り眺めながら、こなたはアガートラームにそう聞いた。
『うん。A-ARMS03アークセプターだね。使用者の魔力を高める能力のある、特殊戦闘型だよ』
「おや、今回はやけにくわしいね」
『みたいだね。どうやらA-ARMSに近づくとメモリーが戻ってくるみたいだ』
「ふーん…魔力を高めるって事は、つかさは魔法みたいなの使えるの?」
 つかさにARMを返しながらこなたがそう聞くと、つかさは控えめにうなずいた。
「うん…ほら、ヴァージニアさんが逃げるときに使ってたでしょ?あれはクレストソーサーって言ってね、特殊なカードに紋章を書き込んで、そこに魔力を加えて色んな魔法を発動させるんだけど…」
 つかさは説明しながらガンベルトからショットガンに使用する弾薬…ショットシェルを取り出して、その底部を指差した。
「ほら、ここに紋章が書いてあるでしょ?これをこのARMで撃ったら、魔法みたいなことができるんだよ。クレストショットってヴァージニアさんが名前つけてくれたんだ」
「へー、そりゃおもしろいね」
 こなたは感心しながら、自分のARMに目を向けた。
「ポンコツもこれくらい面白いことできたらいいのにねえ」
『アクセラレイターだけじゃ不満なのか…』
「っていうかお話できるって方が凄いと思う…わたしのもポンコツ君みたいに喋れないかな」
「かがみと同じようなこと言ってる…こういうところは双子だねえ」
『…ポンコツ君て…』

「そういや、気になってたんだけど」
 つかさ達が話してる後でARMの手入れをしていたかがみが、ARMを床に置いてそう言った。
「わたし達のARMって特別なのかしらね」
「特別?」
 こなたが首をかしげながら、ホルスターに収まっているアガートラームを手で軽く叩いた。
「ほら、こなたのは喋るし、それに形式番号なんて普通無いのよ。大半のARMは遺跡から発掘されたのを、個人個人で使えそうなパーツ取って組み合わせて作るから」
「そういや、ロディ君がレアだとかなんとか言ってたっけ…」
「で、そこんとこどうなの?」
 かがみがこなたのホルスターに顔を近づけて、アガートラームにそう聞いた。
『そりゃ特別だよ。僕達は世界に二つと無いARMさ』
「ふーん…具体的には?わたしたちが目を覚ましたときに側にあったっての、なんか意味があると思うんだけど」
『え?…んー』
「あと形式番号のA-ARMSって何の意味?」
『…えーっと…わからないな』
 トーンダウンするアガートラームに、かがみは大きくため息をついた。
「肝心なところがソレだから、あんたはポンコツなのよ」
『…記憶喪失は僕の責任じゃないと思うんだけど…』
 辛らつなかがみの言葉にふてくされるアガートラーム。その様子を、こなたとつかさは苦笑しながら眺めていた。



 夜になり、三人は町の外に出ると城壁沿いに城の裏辺りまでやってきた。
「ここ?何にもなさそうだけど…」
 かがみが辺りを見回しながら、疑わしげにそう呟いた。
「うん…えっと、ここに…っと」
 つかさは城壁に手を触れると、レンガの一つを押し込み中にある鎖を引っ張った。すると近くの地面が開き、下へ降りる階段が出現した。
「こういう仕掛けってRPGじゃ良くあるけど、実際に見るとなんか不思議な感じだね…」
「そうね…」
 こなたとかがみがそう話してる間にもつかさはさっさと階段を降り始め、二人は慌てて後を追った。



「ここを降りきったところが地下水路だよ。お城の偉い人の避難通路なんだって」
 螺旋状の階段を下りながら、先頭のつかさがそう言った。
「え、避難通路?そう言うのって、普通外から入れるようになってないんじゃない?」
 こなたがそう聞くと、つかさは少し困った顔をした。
「ヴァージニアさんが入れるようにしちゃったんだよ。わたしはお城の人のだし、勝手にいじるのよくないって言ったんだけど…」
「いや、そう言う問題じゃないでしょ…」
 かがみの呟きに、つかさは首をかしげながら振り返った。
「え?どういうこと?」
「お偉いさんの避難通路なんて機密事項なんだから、それ知ってるってだけでもヤバいのに、外から入れるように改造しただなんて普通極刑でしょ」
「だよね…」
 かがみの説明に、こなたがうなずく。つかさは少し考えるような仕草をして、にこりと笑った。
「ばれたらどこか遠くに逃げるから、大丈夫だよ」
 朗らかにそう言うつかさに、こなたとかがみは顔を見合わせた。
「つかさがなんか逞しいよ、かがみさんや…」
「なんか微妙な感じだわ…」
 話しているうちに階段が終わり、奥へと続く通路が現れた。三人はそこへ入り先へと進んだが、しばらく歩いたところでつかさが立ち止まった。
「どうしたの、つかさ?」
 かがみがそう聞きながらつかさの背中越しに前を見ると、そこには鎧を来た城の兵士が立っていた。兵士は三人に気がつくと、小走りで近づいてきた。
「おい、君達はどこから入ってきたんだ?」
 そう詰め寄ってくる兵士に、こなたとかがみは思わず顔を見合わせた。
「極刑…?」
「かもね…」
「もしかして上からか?ああ、だったら…」
 兵士の言葉は銃声で遮られた。こなた達が音のしたほうを見ると、つかさがいつの間にかアークセプターを構えていた。その銃口からは硝煙が立ち上っている。
「ごめんね、話してる時間ないから…さ、行こ。こなちゃん、お姉ちゃん」
 つかさはそう言いながら銃を振って煙を払い、ホルスターに収めた。
「ちょ、ちょっとつかさ…な、なにしたのよ…」
 かがみは唖然としながらも、つかさにそう聞いた。
「今…人を撃ち殺し…」
 こなたがそう言ったところで、つかさは首を横に激しく振った。
「ち、違うよ!わたし殺してなんか無いって!寝てもらっただけだよ!」
「え?寝て…?」
 かがみが倒れている兵士に顔を近づけると、たしかに寝息が聞こえてきた。
「ほら、わたしARM使ってクレストショットが使えるって言ったじゃない。相手を眠らせるスリープってのを使ったんだよ」
 わたわたと手を動かしながらまくし立てるつかさを見て、かがみとこなたは顔を見合わせた。
「わ、わたし賞金稼ぎなんてやってるけど、人を殺したことなんてないよ…ほ、ほんとだよ…」
 ほとんど涙目になりながら訴えるつかさに、二人は今度はクスクスと笑い出した。
「え?な、なんで笑うの…?」
「いや、なんてーか…」
「つかさは、どこ行ってもつかさだなって思ったらつい…」
「ええー…なにそれ…」
 不満そうに頬を膨らませるつかさ。そのつかさの肩を、かがみが軽く叩いた。
「褒めてるのよ。さ、いきましょ」
「そうそう、頼りにしてるからね。つかさ」
 今度はこなたが逆の肩を叩きながらそう言った。つかさは不満そうな表情をしたままうなずいた。
「う、うん…この先は砂獣が出るから、気をつけてね」
 そして、思い出したようにそう言うつかさに、かがみとこなたは大きくうなずいて見せた。





「…えーっと」
「…いや、確かに頼りにしてるとは言ったけど」
 ひんやりとした冷気の漂う、なかなかに広い地下水道。その中で繰り広げられる光景に、こなたもかがみもただ唖然としていた。
 地下水道を少し進んだ辺りで、球根のような砂獣が多数現れたのだが、こなたとかがみが何をするまでも無く、つかさが一人で蹴散らしているのだ。
 炎、氷、雷、風、岩塊。多彩な魔法が砂獣たちを次々と打ち倒していく。
「…ま、まあ楽できていいよね」
「…そう言う見方もあるわね」
 二人が何とも言えない表情で見守る中、つかさは最後の一体を消し炭に変え、二人のところまで戻ってきた。
「えへへ、やったよ。お姉ちゃん、こなちゃん」
「う、うん…すごいわね、つかさ」
 嬉しそうに報告するつかさを、かがみが冷や汗を垂らしながら褒める。
「でも、なんか納得できないんだけど…」
「なにが?」
 不満そうに呟くこなたに、かがみがそう聞いた。
「つかさほどの運動音痴が、一年でここまで動けるようにななるなんておかしいなって」
「…こなちゃんひどいよ…」
「まあ、確かにそうね」
「お姉ちゃんまでっ!?」
『それは多分アクセスのせいだと思う』
 三人の会話に急に口を挟んできたアガートラームを、こなたはホルスターから引き抜いた。
「アクセスの?どういうこと?」
『僕達にアクセスすると、少しだけ身体能力が上がるんだ。何度もこなすと身体がアクセスに慣れてきて、能力の上がり幅が大きくなっていくんだよ』
「なるほど。経験値を積んでレベルアップするみたいなもんなのかな…そりゃ、一年もやってるつかさが強くて当たり前か」
 こなたの言葉に、かがみもうなずきながら自分のARMを見た。
「こいつ使ってるときに、身体が軽く感じるのはそう言うことだったのね」
「かがみもそうなんだ…わたしはアクセラレイター使ってるときくらいしか感じないけど、やっぱレベル不足ってやつなんだろうなー」
 そう言いながらため息をつくこなたの肩に、つかさが手を置いた。
「大丈夫だよ。こなちゃんはわたしが守るから」
 そしてキラキラした目でそう言った。
「…うわー…なにこの敗北感…つかさの癖に…」
 こなたが打ちひしがれてる側で苦笑していたかがみは、ふと先ほどまでつかさが戦っていた場所に目が行った。そして、そこにあるおかしな光景に首をかしげた。
「…砂になってない」
「え、なにが?」
 かがみの呟きを聞いたこなたも、かがみの見ている方に目をやった。
「ほら、さっきの球根。倒してから結構経ってるのに砂にならないのよ」
 かがみが指差す方には、焦げていたり凍っていたり引き裂かれたりはしているものの、どれ一つとして砂になっていない球根達が転がっていた。
「ほんとだ、おかしいね…砂獣じゃなかったの?」
 二人と同じようにそれを見たつかさが呟く。
「…かもね」
 かがみはつかさの呟きにそう答えながら、一番手近にあった球根の中心部にナイトブレイザーで切り口を入れた。そしてその中を探って、眉をひそめた。
「コアが…ライブジェムが無いわ。こいつらはホントに砂獣とは違うみたい。もしかしてこれが緑の災厄?」
 かがみがそう言った直後、三人の背後でドスンッと地響きがした。

「…クリメイトッ!」
 つかさが振り向きざまにクレストショットを放つ。
「な、なに?」
 遅れて振り向いたこなたの目の前で、一本の触手が炎に包まれた。その触手の主は、先ほどまで戦っていたものとは段違いに巨大な球根。そして無数に生えている触手の一本に一人の少女が捕らえられていた。
「…ってヴァージニアさん…なにやってんですか」
「あはは…捕まっちゃった。助けてくれるとありがたいんだけど…」
 かがみの言葉にヴァージニアが照れ笑いで答える。かがみはため息を一つつくと、こなたに目配せをした。
「こなた、お願いね」
「オーケー」
 かがみが早撃ちの構えを取ると、こなたはその横で軽く飛び跳ね走る準備をした。
「飛燕!」
「アクセラレイター!」
 かがみが放った衝撃波を、加速したこなたが追いかける。衝撃波はヴァージニアを捉えていた触手をぶった斬る、空中に放り出されたヴァージニアをこなたがキャッチした。
「…いやー、助かったわ。ありがとね」
 地面に下ろされたヴァージニアはこなたの頭を撫でながらそう言うと、巨大な球根に向き直った。
「みんなが雑魚を相手にしている間にこいつをって思ってたんだけど、ちょっと油断しちゃってね」
 ヴァージニアはそう言いながら、ふところからクレストカードを取り出した。
「ARMも落としちゃうし、どうもうまくいかないわね…」
「つよいんですか?この大きいの」
 つかさがそう聞くと、ヴァージニアはうなずいた。
「ほら、あれ見て」
ヴァージニアが球根を指差す。つかさが焼き払った触手と、かがみが斬った触手がすさまじい速度で再生していくのが見えた。
「ああやってダメージを与えてもすぐ回復しちゃうのよ。正直、わたしの火力じゃしとめきれないのよね」
 そう言って、ヴァージニアはため息をついた。
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
 つかさが不安そうにそう聞くと、ヴァージニアはニヤリと不適に笑った。
「あれが緑の災厄の本体なら、中心に再生のためのコアがあるはずよ。それを潰せば仕留められるわ。動きとめるから、あとお願いね」
「…しょうがないわね」
 ヴァージニアに答えながら、かがみはもう一度早撃ちの体勢をとった。
「つかさ、コアは任せたわよ」
「うん、ちゃんときめるよ」
 つかさがうなずきながらARMにショットシェルを装填する。二人の様子を見たヴァージニアは、クレストカードを投げる構えをとってその中に魔力を込めた。
「いくわよ…ディセラレイト!」
 投げつけられたカードが球根に突き刺さると、なにかが軋むような音がして、球根の動きが目に見えて鈍っていった。
 かがみがその隙に球根に走りより、その巨体を駆け上がって宙へと飛び上がった。
「重ね撃ち…」
 空中で鞘の引き金を二回引き、剣に力を蓄える。そして落下しながら三回目の引き金を引き、力を解放した。
「落鳳!」
 地面ごと叩き斬らんとするかがみの残撃は、見事に球根を縦に切り裂き、その中心にある鈍く光るコアをあらわにした。それをみたつかさがアークセプターを両手で構える。
「エクステンション!」
 周りの空間が歪んで見えるほどに、つかさの魔力が高まる。つかさはしっかりとコアに向かって狙いを定めた。
「ハイ・デヴァステイトッ!」
 つかさが引き金を引くと、アークセプターの銃口からエネルギーの塊が放たれた。弾丸状のそれは一直線にコアに吸い込まれ、そして一瞬後にすさまじい爆発を起こした。球根の近くに居たかがみが、爆風に飛ばされてこなたの足元まで転がってきた。
「かがみ…大丈夫?」
「…頭打った」
 後頭部の辺りをさすりながら、かがみが立ち上がった。

「ってか、今のつかさの何よ…」
『たぶん、アークセプターのオーバーアクセスだろうね。一時的に魔力をブーストするみたいだ』
 アガートラームが説明していると、つかさが心配そうな顔でかがみに駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん、大丈夫!?」
「あー、うん…特に怪我は無いわよ」
「ご、ごめんなさい…ちょっと力入れすぎだったよ…」
 かがみに向かって謝るつかさの横で、こなたは何とも複雑な表情をしていた。
「…わたし、なんにもしてないじゃん」
 そのこなたの呟きに気がついたつかさは、先ほどと同じようにキラキラした目でこなたの肩に手を置いた。
「大丈夫だよ、こなちゃんはわたしが守るから!」
「…うおお…なんか屈辱だー…って、あれ?」
 自分の立ち位置に悶絶するこなた。その視界に巨大球根の残骸と、そこでウロウロしている少女の姿が見えた。
「どうしたの、こなちゃん?」
「いやほら、あそこに女の子が…」
 こなたの言葉に全員が球根のほうを見た。
「あ、あの子…」
「知ってるの?ヴァージニアさん」
 つかさがそう聞くと、ヴァージニアは忌々しそうに顔をしかめた。
「あの子が側をうろついてたから、気になって捕まっちゃったのよね。ちょっと文句言ってやらないと…」
 不機嫌な口調でそう言いながら、ヴァージニアはその少女に近づいていった。こなた達もその後に続く。
「ちょっと、アナタそこで何やってるの?」
「…えーっと…ここかな…あ、あった…んー、ミーディアムじゃダメなのかな。全然制御がきかないや」
 ヴァージニアが少女に声をかけたが、聞こえていないのか、少女は地面から何かを拾い上げてそれを眺めていた。
「聞きなさーいっ!」
 その耳元に顔を近づけたヴァージニアが大声を出すと、少女は飛び上がって驚き、ヴァージニアたちと距離をとった。
「え?え?わ、わたしですか?なな、なんですか?びっくりさせないで下さい…」
 口元を手で隠しながら、消え入りそうな口調で抗議する少女。小柄な身体を、被っている帽子から着ている服まで、やたらとモフモフしたもので包んでいる、可愛らしいという表現がぴったりの姿だった。
「ここで何してるのって聞いてるのよ」
 ヴァージニアがそう聞くと、少女は持っていたものを差し出してきた。ヴァージニアが受け取って見てみると、それは手のひらに収まるほどの大きさの、女神をかたどった彫像だった。
「えっと…実験です。このミーディアムをコアにユグドラシルを起動してみたのですが、うまく制御できなくて…」
「ふーん…って、ユグドラシル!?アンタがあれを!?」
「なかなかうまくいかないものですよね。あ、それは差し上げます。わたし達には必要ないもののようですから」
「どこにあるの!?アークティカと一緒に埋もれたはずでしょ!?」
「あ、わたしマリエルと言います」
「んなこと聞いてなーいッ!」
「では、わたしはこれで。またどこかで会えるといいですね」
「話聞けーッ!」
 ヴァージニアの言う事をまったく無視して、少女の姿はその場から掻き消えてしまった。
「…ぜえ、ぜえ…テレポートオーブなんて持ってたのね…」
「ヴァージニアさん。さっきの子は…」
 肩で息をするヴァージニアの後ろから、つかさが心配そうな顔で声をかけた。
「マリエルっていったかしら…どうやら、気に喰わない何かが動いてるみたいね…あ、つかさ。コレあげるわ」
 そう言いながらヴァージニアは、マリエルにもらった彫像をつかさに手渡した。
「あ、ありがとう…えっと…これからどうするの?」
「あの子を追うわよ…まあ、わたしの問題だから、つかさは気にしないで。とりあえず、ここをでましょうか」
 ヴァージニアがそう言うと、少し後ろに居たかがみが天井を見上げた。
「そうね。結構派手な音立てたし、あんまり長居してると厄介なことになりそうよ」
 そのかがみの言葉に、ヴァージニアが首をかしげた。

「え、なんで?」
「だって、ここってお城のお偉いさんの避難通路なんでしょ?みつかったらやばいじゃない」
「ああ、そのこと…大丈夫よ、こっちはダミーの通路だから。本物はわたしも知らないわ。それに、今日のことはお城の許可もとってあるしね」
「え、許可?」
 思わず聞いたこなたに、ヴァージニアはウィンクをして見せた。
「そ、許可。つかさのことも話しておいたから、入り口に居た兵士もすんなり通してくれたでしょ?」
 ヴァージニアがそう言うと、こなた達三人は顔を引きつらせて、お互い顔を見合わせた。
「え、なに…その微妙な顔は…」
「えっと…その…」
 つかさがおずおずと手を上げる。
「わたし、その兵士さん撃っちゃった…止められると思って…」
「いちぬけた」
 つかさの言葉を聞くや否や、ヴァージニアは砂煙を上げて走っていった。
「逃げ足早っ!?」
「わ、わたし達も逃げないと…あーもー、つかさのせいだーっ!」
「ご、ごめんなさーいっ!」
 三人も慌ててヴァージニアを追って駆け出した。




「…稼ぎ頭がおらんようになるのは痛いが、まあやむを得ないかの」
 翌日、つかさはこの町を出て行くことをマリアベルに告げた。アガートラームが次のA-ARMSの場所を感知したからだ。
「ごめんなさい…」
「謝る必要はないじゃろ。曲がりなりにもおぬしは渡り鳥なんじゃからの」
 そういいながら、マリアベルは手にした雑誌に視線を落とした。
「あまり名残を惜しむでないぞ。こういうのは思い切りじゃ」
「…はい…ありがとうございました」
 つかさはマリアベルに深く頭を下げ、宿屋を出て行った。
「…追い風が、ぬしと共にある事を祈っておるぞ」
 つかさの姿が完全に見えなくなってから、マリアベルはそう呟いた。



「それで、次はどこに?」
 宿屋から出てきたつかさと合流し、三人は次の目的地を確認しながら城門へと向かった。
「んー、ここなんだけど」
 こなたが地図を広げ、アーデルハイドの北の方を指差した。
「町の人に聞いたら、ここがアークティカらしいんだよね」
 こなたの言葉にかがみが眉をひそめる。
「滅んだ国に?…なんでそんなところに」
「そこに、ゆきちゃんが?」
「これまでのパターンからすると、その可能性は高いね…あとなんか忠告っぽいのも聞いたよ」
「忠告?」
「マルドゥークに気をつけろ…だってさ。遺物狙いの渡り鳥が襲われてるらしいよ」
 こなたは地図を丸めて鞄にしまうと、辺りを見回した。
「そういや、ヴァージニアさんは?」
「昨日の夜のうちには、もう出て行ったんだって」
 寂しそうに答えるつかさに、こなたは頬をかいた。
「そっか。まあ、なんかあの人は、どっかでまたひょっこり出てきそうだけどね」
「…うん、そうだね」
 こなたの言葉に、つかさわ少し嬉しそうにうなずいた。




― つづく ―




次回予告

みゆきです。
滅びの国アークティカへと足を踏み入れたこなたさん達。
そこで何を見て何を知るのでしょうか?

次回わいるど☆あーむずLS第七話『滅びの国と天の魔星』

知ることで始り、理解することで進み、生きている限りその道は続く…です。


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