ID:GFlf.5M0:ーまつりのプレゼントー

「素敵な所ね」
目の前に広がる湖を見て、みきはうっとり目を細めた。
「ああ。来た甲斐、あったな」
みきの肩に手を乗せるただよ。
いのり以下柊家の四姉妹は、ここにはいない。
いのりは仕事中だし、まつりは休講なのをいい事にどこかをほっつき歩いている。
そしてかがみとつかさは家でお笑い番組を見ながら笑い転げている。
ここはさる地方の湖畔。周囲の草木は紅や黄色に染まり、訪れる人々の目を楽しませる。
今、ここにいるのはみきとただおの2人だけ。
2人の背後には一軒家が佇んでいた。
2人はこの機会をプレゼントしてくれた友人に感謝しつつ、
幻想的な光景にいつまでも目を奪われていた。

時は過ぎ、夕刻。柊家の台所ではまつりが夕食の準備に勤しんでいた。
「まつり、何?にやにやして。気色悪いわね」
仕事から帰ってきたのいのりがそこにやってきた。
ぴっしりとスーツを着こなしたその姿は、絵に描いたような美人OLの様。
いのりは鍋から漂う芳香に鼻をならし、今日の夕食は何かと考える。
「いや、ははは、ちょっと、ね」
いのりとは真逆の井出達で鍋の具合を見るまつり。その姿は極めてラフなものだった。
ストライプのトーレーナーに、下はチノパン。そしてその上にエプロンを着けている
「また変な事考えてるんじゃないでしょうね?あんた、ろくな事考えないんだから」
まつりは今、遠い所にいる両親の事を考えていた。
ただおの友人から2泊3日の予定で別荘を借り受けたただおとみき。
今頃、その2人はどうしているのだろう。
紅葉が綺麗だと言うから、湖の周辺を散歩しているのだろうか?
それとも街へ出てデートでも楽しんでいるのだろうか?
いや、自分達と同じく夕飯の準備をしているのかもしれない。
そしてその後は……
想像するだけでまつりの頬は緩み、おぞましさが顔全面に広がっていく。
喉から漏れる「くっくっく」と言う笑い声が不気味さを一層倍増させていた。
「あんたねぇ……」
未だ悪戯癖の治らない妹に呆れつつ、いのりは息を漏らし自室に戻っていった。



その頃、みきとただおの2人は色鮮やかな森の中を歩いていた。
ただおの腰に巻かれたポーチには、暫く前に購入したデジカメが納められている。
これまで幾度となく思い出を写してきたそれは、ただおの戦友ともいえる代物だった。
そしてただおはジッパーを引き、片手をポーチに差し入れた。
「どれみき、1枚取ってあげよう」
カメラを構えるただよ。「ええ」と、みきも快く応じる。
ただおはモニターに映える妻の姿に何か妖精じみた不思議な魅力を感じつつ、夢中でシャッターを切っていく。
シチュエーションもあってか、一段とみきの姿に見惚れるただおであった

そんな2人を、近場の木の陰からぼうっと見つめる1人の女性があった。
赤い髪を後ろで結上げ、眼鏡をかけた理知的を印象を醸し出している、20代と思しき女性。
「あの、私達に何か?」
彼女に気付き、みきが彼女の元へとやってきた。
「え、あ、いえ、すいません。あの、失礼ですが、どこかでお会いしませんでした?私は」
「おーい」
自己紹介でもしようとしたのか、女性は胸に手を当てて言葉を紡ごうとしたが、
その声を遠くからの少年時じみた声が遮った。
森の奥から1人の少年がこちらに向って走って来ているのが見えた。
少年の口からみずほと出た気がしたが、それがこの女性の名前だろうか?と、みきは思った。
「ごめんなさい。人違いですよね?失礼しました」
女性は頭を下げ、「けいく~ん!」と叫びながら彼の方に走って行ってしまった。
みきの元に置去りにされていたただおがやってきた。
「知り合いかい?」
「さぁ……」
でも、何となく声が似ていた、そんな気がする。という言葉をみきは飲み込んだ。
きっと気のせいだから。

周囲はすっかり暮れこみ、界隈を照らすのはこの別荘から漏れる照明だけであった。
夕食を終え、みきは、酒を持っていくと言ったただおを居間に残し、1人に寝室へやってきていた。
ベッドに腰を下ろすみき。彼女の視線の先には手提げ袋があった。
それは家を出る前に、まつりから手渡された物だった。
『2人だけの時に開けてみてよ。きっとお父さんも喜ぶから』
そう言ってソレを差し出したまつり。
何を渡したのか、まつりは『着いてからのお楽しみ』と答えるだけでそれ以上は教えてくれなかった。
まつりは他の姉妹以上にトリッキーな物の受け渡しをする子だ。
それは心を込めてありがとうと言える代物からヲイヲイと突っ込みを入れたくなる様な、ウケ狙い的なものまで、
あらゆる物をそういった方法で渡してくる。今回まつりが渡してきた物は、その手提げ袋だった。
みきは手提げ袋を手にとって見る。口のびっしり閉じられた謎の袋。
押した感触は柔らかく、ふんわりした何かが入っている様。
変な物だったら……みきの脳裏に嫌な予感が走る。
でも、折角の夫婦水入らずの旅。
わざわざそんな無粋なマネを……と考えたところで思考が切り替わる。
まつりならありえるかも知れない。
みきは思い切って袋の封を解いた。
そこへビールとグラスを持ったただおが入ってきた。




 「なんだい?それは」
ただおが目にした物は、今し方、みきによってベッドに広げられた、一着の黒いワンピース。
それと白のエプロン。更にフリルの着いたカチューシャだった。
「エプロンドレス……かしら?」
みきは困ったように頬に掌をあてている。
「ほぉ。そんな物まで持っていたのか。みき。初めて見たよ」
「っち、違うの。家を出る前にまつりに渡されて……もぉ、まつりったら、何を考えているのかしら。
 私、こんなの着れる歳じゃないわ?帰ったらキツク言っておかなくちゃ」
「ははは、まぁまぁ。まつりも気を使ってくれたんだろ?ふむ。TVで見たことあるよ。
 そういう服を着た女の子。確か、メイド喫茶とか言ったかな?
 メイドと言えば海外の家政婦というか、そんな印象だったけど、この国ではウェイトレスさんが着ているらしいね。
 いい機会だ。みき、着てみたらどうかな?きっと良く似合うよ」
「もぉ。着・ま・せ・ん」
ぷいっとそっぽを向くみき。
みきはちらと目を細めてただおをみる。ただおはそれ以上は言ってはこない。
ただおは嫌だというもの無理やりやらせようとはしない性分だった。
ただ「残念だな」等と言う限りで、そこでその問題は終わってしまう。
でも、言葉がないと言うだけで、それは無言の圧力と言うものに他ならなかった。
言葉はかけないかわりに、どうするべきかは自分で考えろ、と言うのがただおのスタンスであった。
これをスルーしたからと言って何かが変わるわけではない。
夫婦の絆に罅が入るわけでもないし、これからみきへの態度が変わるという事もない。
普段と変わらない、理想の夫婦と言わんばかりの2人でいられる。
今までがそうであったように。みきはそう確信していた。
でも、ただおは亭主で愛する旦那様だった。みきはそんな人の笑顔をずっと見ていたいと思っていた。
だから、みきは決意した。みきはそのセットを持って部屋を出て行ってしまった。
数分後、しずしずとその部屋に入ってくるみきの姿があった。見事メイド服を着こなしたみきが、そこにいた。
はにかんだ笑顔を見せるみきは、照れたように
「どうかしら?」
と、声を掛ける。自称4……17歳の美熟女メイドを目に、ただおは驚きを隠せないでいた。
若者にはない、まさに大人の色気を放つみき。
使用人でもウェイトレスでもない、なのにそんな不条理な格好をしているみき。
4人も子供を産んだというのに可憐さや美しさをまるで失わない愛しい妻、みき。
そんなみきが恥らいながらこの様な姿を晒している。
膝上20cm程度しかないミニスカートの裾を恥ずかしそうに押さえるみきの姿に、ただおは萌えていた。
「何だか新鮮な気持ちになるな。……みき、私の事を『ご主人様』って呼んでみてくれないか」
「あなたったら……」
ただおの細い目から注がれる熱い眼差し。
みきは半分呆れ気味にビールの乗ったお盆を持つと、ただおの眼を見た。
「ご主人様?ビールをお持ちしました」
首を傾げるみき。気恥ずかしさのせいでぎこちなかったかも知れない。自分は望む通りに出来ただろうか?
でも……楽しいかもしれない。そんな想いが込み上げてくるみきと、
そしてただおの中のナニカがぶち切れた瞬間でもあった。




 柊家の居間では4人の姉妹が揃っていた。
「ふぁぁぁ……眠い。まつりお姉ちゃん、今朝、お母さんに何渡してたの?」
「ん~?ああ、あれね。あれはね……浪漫よ」
「浪漫?」
何だろうと少しだけ考えたつかさだったが、押し寄せる眠気には抗えず、
「ふ~ん」
と言ったっきり居間から出て行ってしまった。
「つかさ、明日の境内の掃除、忘れないでよ」
そうつかさに声を掛けたいのり。でも返事は返ってこなかった。
「姉さんの事だから敢えて聞かないわ。どうせろくでもないことでしょ」
「失礼だな、かがみは。これは2人の仲を更に深める為の」
「はいはい。まつりも休みだからって遊んでるんじゃないわよ?不景気だからどこも渋んでるんだから」
一応まつりの進路を心配し、一声かけたいのりもそくさと部屋を後にした。
「はは、そん時は私がこの家継ぐから」
バラエティ番組に夢中のまつりは姉の苦言を軽く受け流す。
「んじゃ、私も部屋で勉強するから」
それだけ言ってかがみも自室に戻っていく。
1人になった居間で、まつりは1人悶えていた。


「あなた」
照明の落とされた薄暗い寝室。
1人のメイドが、横に座る彼女の亭主に淫靡な声を投げかけていた。
そんな斬新な妻の声色、艶姿に身も心もどうにかなってしまいかけたただおが、そこにいた。
「みき……」
生唾を1つ飲み込みただおは、みきの肩を優しく掴み、そしてベッドに押し倒した。
濃密な2人の時間が、始まろうとしていた。

~おわり~


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