1.幼馴染な二人
とある街中。
「しかし、兄貴も薄情だよなぁ。クリスマスなのに、かわいい奥さんほっといて、仕事なんてさ」
「大事なお仕事なのよ」
二人は、飽きることなく会話しながら、ぶらぶらと歩いている。
幼馴染の二人は昔からそんな感じで、それは一方に彼氏ができても変わることはなかった。
「でもさぁ」
「今のお仕事がうまく行けば出世できるし、そうなれば収入も安定して……」
彼女はやや顔を赤らめながら、こう続けた。
「赤ちゃんもできるし」
「兄貴に似なきゃ、絶対かわいいよなぁ。兄貴に似ないように柊の神社でお祈りしてくか?」
「もう。そんなこと言わないの」
「ごめん、ごめん。そんな怒らないでくれよぉ」
相方の怒りゲージがわずかに上がったのを感じ取って、謝りモードに切り替える。
その辺の呼吸も、幼馴染だからこそ。
2.双子な二人
とあるビルの一階。
「お姉ちゃん。お待たせ」
夜の営業が始まる前のレストラン。
そのテーブルに、料理が並べられた。
「見た目も綺麗ね」
姉がそういい、
「今度の新メニューの目玉だから」
シェフ姿がすっかり板に付いた妹が向かいの席につく。
「いただきます」
姉が料理に手をつける。
「ん、すっごいおいしい。絶対人気メニューになるわよ、これ」
「そうなるといいなぁ」
「絶対なるわよ。もう、これでレストランの経営もますます右肩あがりじゃない?」
妹はとあるビルの一階に居を構えるレストランのオーナーシェフ。姉は同じピルの二階に居を構える敏腕弁護士。
大学進学とともに一度は離れた双子は、下積みを経て独立するときに、ごく自然にこの近さに戻ってきた。
生まれる前から一緒だった姉妹にとって、この近さは当たり前の近さ。
「うん、もうすぐお父さんに借りたお金を返せそうだよ。お姉ちゃんは?」
「私も何とかなりそうね」
姉の方も、法律事務所の経営は順調で、収入はあがっている。むしろ、その金を使う暇がないぐらいに忙しいことの方が問題だった。
二人とも、独立して開業する際の資金を実家から借りていた。それを律儀に返済し続けて、まもなく完済できる見込みということだった。
「そうなんだぁ」
「それはいいけど、お金の管理には気をつけなさいよ」
危うく詐欺にひっかかりそうになった妹を助けた経験のある姉として、その辺が心配だった。
「お姉ちゃんがいれば大丈夫だよ」
妹はすっかり姉に頼りきり。
とはいえ、姉の方も、一日三食のほとんどをこの妹に頼りきりなのだから、お互い様だ。
持ちつ持たれつ。そんな関係は、将来も不変だろう。
3.大親友な二人
とある街中。
「ごめん、待った?」
「ううん。今来たとこだよ」
そんなセリフを聞くと、まるで恋人同士の会話のようだった。
実際、二人の共通の友人は、二人をしてそのような妄想の主人公とすることが多かった。
もちろん、それは妄想にすぎず、二人の関係は友人だ。
連れ添って歩く二人の間に会話は少ない。
一方はもともと口数が少ない方だし、二人の間では言葉などなくても以心伝心だから。
それでも会話が続いて、そして、
「それでね、プロポーズされちゃったんだ」
「返事はした?」
「うん」
わざわざ待ち合わせしてまで会いにきた目的はこれだった。
誰よりもまず親友にこの事実を報告したかったのだ。
「おめでとう」
「ありがとう」
「実は私も……この前……」
その言葉に少し驚く。
それは、偶然なのか、必然なのか。二人はそれぞれほとんど同じ時期にプロポーズをされていたということだった。
「お返事はしたの?」
「まだ……。私なんかでいいのかと考えてしまって……」
いかにも謙虚な彼女らしい悩みだけど、
「大丈夫だよ。とってもお似合いだもん。待たせるのはよくないと思うよ」
お互いに背中を押したり押されたり。そんな関係ももう長いこと続いている。
それは、それぞれが結婚したとしても変わりはしないだろう。
4.熟成な二人
とある高校の保健室。
「今なんて言った?」
その問いの答えとして、もう一度同じセリフを繰り返す。
「今度の週末は、養護教諭の会合で出張です」
「そうか。じゃあ、メシはコンビニ弁当ですませるか」
「コンビニ弁当ばかりでは健康に悪いですよ」
「一人で鍋というのもむなしいからな」
「鍋料理以外にも挑戦してみてはどうですか?」
「めんどくさい」
「たいした手間ではないですよ」
「おまえにとってはそうなんだろうけどな」
自分がいなくなってしまったら、この人はどうなってしまうのか?
そんなことが心配になってくるが、当人はそんなことは思い浮かびもしないのだろう。
養護教諭としてもちろん健康を保持して長生きするつもりではあるが、先に死なないという保証はないというのに。
それでも、
「作り置きしておきますね」
そんな言葉が自然と口から出てくる。
「あんがとさん」
そういって、彼女は退室していった。
つくづく甘いと思うが、仕方がない。
二人の間柄はずっと昔からそうで、今さら変えようもないのだから。
5.母娘な二人
とある高級住宅街の一宅。
「お母さん、お母さん。起きてください」
「んぁ? あら、お帰りなさい」
「夕飯は作っておきましたよ」
「ごめんなさい。お昼寝してたら、すっかり寝すぎちゃったわ」
窓から見える景色はすっかり夜。昼寝というレベルではない。
勤務先から帰ってくれば、この母はすっかり熟睡していた。仕方ないから、自分で夕飯を作ってから母を起こしたのであった。
そのことについては、何もいわない。幼いころからこのようなことは当たり前であったし、そんなことにいちいち突っ込んでいては、この母と親子関係を継続していくことは難しい。
夕食をとりながら、母娘でまったりと会話を続けていく。
「そうそう。みなみちゃんにお婿さんが決まったのよ」
それは今日、本人からも聞いていたが、
「それはおめでたいことですね」
母に話をあわせる。
「うちにもお婿さんほしいわよね」
「すみません。なかなか縁がありませんでして」
「この前、お父さんが紹介したい人がいるって言ってたわよ」
父は、海外に単身赴任している。
休暇が取れて、一週間後に日本に帰ってくるはずだった。
「そうですか。正式にお話があれば、お会いしてみますね」
この母を一人で家においとくのは何かと不安だ。面倒を見れる人間は多いにこしたことはない。
父が紹介してくれる人が、この母とうまくやっていける人だといいのだが。
父の紹介であるから、その辺はぬかりはないだろうけど。
6.夫婦な二人
とある古都。
二人は、趣味の旅行で、ゆったりと歩いていた。
二人とも、職業が神職で、日本史の教養があるとなれば、めぐり歩く場所もおのずと決まってくる。どの場所もたいがいは過去に何度か来たことがあるのだが、来るたびに何か新しい発見があって面白い。
連れ添って歩く姿は、どこからどう見ても、完全無欠のおしどり夫婦。
「家の方は大丈夫かな?」
夫がふとそんなことをつぶやく。
「大丈夫よ。もう子供じゃないんだから。お婿さんは家事もできる人だし」
ちゃっかり者の長女が引っ張ってきた婿さんは、そんな人だった。もちろん、神職としてもしっかりした人。二人が長期の旅行で留守にしてても、家庭も神社も心配はいらない。
次女以下の三人の娘も、それぞれ独立して、あるいはお嫁にいって、特に大事もなく順調だった。
親としては、喜ぶべきことだ。父としては、もう少し手間がかかる娘でもよかったかもと思うことはあったが。
そういうわけで、二人は以前よりも夫婦としてすごす時間が多くなっていた。
その仲睦まじさは、年の離れた弟妹が増えるのではないかと娘たちが本気で心配するぐらいだった。
7.父娘な二人
とある家庭の居間。
テレビ画面の中で、二人のキャラが激しい格闘を繰り返していた。
「よっしゃー! 十連勝!」
「うぬぬ、腕をあげたな」
「お父さんもそろそろ老いを自覚すべき歳なんじゃないの?」
「まだまだ若いもんには負けんぞ」
「そういう言い方がもう年寄りだから」
「もう一勝負!」
画面の中で再び対戦が始まる。
ゲームに飽きたころには、ちょうど深夜アニメが始まる時間だった。
テレビのチャンネルを合わせる。
「うーん。ヤンデレとツンデレのハイブリットか。これは新しいな」
「混ぜるな危険、って感じだけどね」
視聴しながら、萌えについて語り合う二人。
仲のよい父娘だとはよく言われる。
でも、昔からそれが当たり前で、ことさらに意識するようなものではなかった。
これからもそうだろう。父はやがてこの世から退場していくだろうが、少なくてもそのときまでは。
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最終更新:2010年04月06日 19:35