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とある神社の午前10時


 柊家の神社境内。大晦日の午前中。
 元旦に向けて様々な準備が進められている。


「はぁ……」
 そんな中、まつりは、境内の枯葉を集める箒の手を休めて、ため息をついた。
 ここ最近の出来事を思い出す。
 個人的に一番の事件といえば、夫と離婚したことだ。
 妹の弁護士かがみに弁護を頼み込んで、離婚調停で何とか一人娘の親権をもぎとったものの、養育費については両親に頼ることになってしまった。かがみへの弁護報酬も結局、親が出してくれた。
 そして、自分自身も実家に世話になっている始末。なんとも情けない有様だった。
 ただの居候でいるわけにもいかないので、こうして巫女として実家の家業を手伝っている。この神社は、巫女の処女性にはこだわらない方針なので、バツイチ子持ちでも巫女として働くことは可能だった。
 何もかもがずっしりと心にのしかかってくる。
 夫と離れ離れになってしまったことが、一番つらかった。なんだかんだいっても、やっぱり愛してはいたのだ。


「なに辛気臭い顔してるのよ」
 振り返ると、そこには姉のいのりがいた。
 巫女服ではなく、神職の装束をまとっている。元旦に向けて、母みきと一緒に、お守りその他のもろもろのものを作る儀式を行なっていたのだろう。
 婿を神主として立ててはいるが、柊家は基本的に代々女系。もろもろの儀式も、直系に一子相伝が基本だ。代々女子しか生まれないという状況が神社創設以来ずっと続いているため、そうならざるをえないというのが実態だった。
 そういうわけで、母みきも姉いのりも、ちゃんと神職の資格はもっている。
「はぁ……」
「そうやって、悪い縁に縛られてると、運気が逃げるわよ」
「悪い縁?」
「良縁もあれば、悪い縁もあるってこと。どちらにしても、それが呪縛であることには変わりはないけど」
「呪縛……」
「その呪縛に縛られない一番の方法は、きれいさっぱり切り捨てること。過去のことを引きずらないこと。まつりならできるでしょ?」
「それって、私がお気楽な性格だっていいたいわけ?」
「それがまつりでしょ。そのあんたがここ最近そんな調子だから、あの子も心配してるわよ」
「……」
 なんということだ。何よりも守りたい一人娘に心配をかけたうえに、それに気づいてもいなかったとは。


 ふとあがった歓声。
 見れば、いのりの娘とまつりの娘が、巫女服を着てはしゃぎまわっている。
 まつりは、娘のもとに走っていき、一緒になってはしゃぎまわった。
 そうしていると、何もかも思い煩うことすら馬鹿馬鹿しくなってきた。
 そうだ。姉のいうとおり、自分は自分らしくお気楽に構えていればいいのだ。


「枯葉の掃除ぐらいちゃんとしなさいよね、まったく」
 いのりはそうぼやいてから、何かを小声で唱えた。
 すると、つむじ風が起こり、枯葉を巻き込むように集めて、境内の端っこに寄せていった。
 いのりは、それを見届けてから、神社に向かって歩いていった。元旦に向けて、もう一仕事あるのだ。
 背後から聞こえる歓声は収まる気配はない。
 午後には、つかさも双子の娘とともにくることになっている。そうなれば、ますますにぎやかになるだろう。


終わり




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  • みこみこみこみこみこみこみこみこみこみこみこみこみこみこ -- みこみこ (2011-01-30 23:59:39)
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