ID:N5Na > Cqe氏:命の輪の罪

「で、どうなのよ最近は」
 とある日のこと。こなたの家に遊びに来たかがみは、あいさつもそこそこにそう言った。
「どうって、なにが?」
「旦那よ。そろそろ籍入れて半年になるでしょ?なにか変わった話とかないの?」
「変わったって…まあ、毎日ラブラブとしか言いようがありませんな」
 両手を腰に当て、胸を張ってそう言うこなたに、かがみはため息をついた。
「あーそうですか…で、具体的には?」
「具体的…えーっと…手、つないだりとか…髪撫でてもらったりとか…」
「お前には失望した」
「なんでさっ!」
「あんたの事だから、もっと過激なのをちょっと期待してたんだけどね」
「そんなの期待しないでよ…ってか恥ずかしくて言えないよ」
 不機嫌そうにそう言いながらお茶をすすった後、こなたは何か思い出したように手を打った。
「あ、そうだ。そう言えばこの前みなみちゃんが、先週の日曜日に自分の家の近くでダーリンを見かけたって言ってたよ」
「みなみちゃんちの?そんなところ行くのね。何してのかしら」
「うん、なんか知らない女の人と歩いてたって」
「…は?」
 かがみは絶句した。そして、こなたのいつものゆるい笑顔をしばらく眺めた後、恐る恐る声を出した。
「…女の人?」
「うん。ショートカットで美人で凄い巨乳だったってさ。みなみちゃん、まだ胸のこと気にしてるんだね。巨乳のところをやたら強調してたよ」
「い、いやそんな事どうでもいいんだけど…歩いてただけなの?」
「うん。腕を組んで歩いてたってさ。凄く密着してたって」
「………」
 かがみは再び絶句し、天を仰いだ。こなたは未だにゆるい笑顔を見せている。
 そんなはずはない。そんなことありえないと、かがみは自分に言い聞かせているのだが、どうしてもその考えに行き着いてしまう。
 もしかして、ここまで聞いておいて、こなたは気がついていないんじゃないだろうか…と。
「…ねえ、こなた」
「ん、なに?」
「それって浮気じゃないの?」
「…へ?」
 友達付き合いを始めてから数年。かがみは初めて目が点になったこなたを見た。



― 命の輪の罪 ―




「うそだー!嘘だといってよかがみー!」
「落ち着け。落ち着けって…ってーかまとわりつくな」
 かがみは、急に取り乱し抱きついてきたこなたの頭を掴んで自分の身体からひっぺがした。
「まだ浮気と決まったわけじゃないでしょ?」
「だっでーだっでー」
 鼻水まで垂らしながら泣きじゃくるこなた。しかし、その動きがピタリと止まった。
「…いいだしっぺ、かがみじゃん」
「え、いや、それは…みなみちゃんから聞いた時点で普通はそう思うだろうって…」
「…普通はそうなんだ…そうなんだー!」
 再び泣き始めたこなたに、かがみはため息をついた。
「あーもー…あんたの旦那が普通だとは思えないわよ…」
「ダーリンを変人呼ばわりするなー!」
「…うあー…めんどくさいー…」
 かがみは頭を抱え、とりあえずこなたを落ち着かせるために拳を握り締めた。


「…落ち着いた?」
「…はい」
 椅子に座って聞くかがみに、こなたは正座で答えた。
「でも、殴ることは無いと思います…ってかなんで殴られなきゃいけないのですか、かがみ様」
「壊れたモノ直すにはこれが手っ取り早いのよ」
「モノあつかいとか、ヒドスギル…」
 こなたは殴られた頭をさすりながら、正座を解いて胡坐をかいた。
「でも…ホントにどうなんだろ…」
 不安そうに呟くこなたを見て、かがみはため息をついた。
「本人に聞くのが手っ取り早いんだけど…彼はどこ?」
「バイト」
「へー、ふらふらしてるかと思ってたんだけど、働いてるんだ」
「うん。なんか知り合いの紹介だって。大学卒業したら、そこに就職するつもりだから、今のうちに仕事覚えとくんだって」
「一応先の事考えてるのね…なんか、浮気するような人間とは思えなくなってきたわ」
「でしょ?」
 得意気に胸を張るこなた。かがみは椅子の背もたれに体重を預けると、腕を組んだ。
「でも腕組んで歩くなんて、普通ないわよね」
「…うん」
 かがみの言葉に項垂れるこなた。かがみは今度は顎に手を当てて、考え込むしぐさをした。
「ちょっと腑に落ちないわね」
「なにが?」
「みなみちゃんちの辺りって高級住宅街じゃない。そんなところの人と知り合う機会って、あんたの旦那にあるのかしら?」
「そういや…そうだね。デートの場所にしてもおかしいし」
「なんかこう、すんなり噛み合わない話ね…」
 二人して考え込んでいると、玄関の方からインターホンの音が聞こえた。
「あれ、お客さん?…かがみ、ちょっと待っててね」
「うん」




「こんにちは、かがみさん」
 こなたに連れられて部屋に入ってきたのは、手に紙袋を持った友人のみゆきだった。
「みゆき?どうしたの?」
「はい、泉さんの旦那様に少し用事がありまして…」
 そう言いながらみゆきは部屋を見渡した。
「いらっしゃらないようですね」
「うん、ダーリン今バイト中」
「旦那に用事って、なにかあったの?」
 かがみがそう聞くと、みゆきは手に持った紙袋を少し上げて見せた。
「先日少し頼み事を聞いていただきまして、そのお礼にと」
 かがみは呆れたように両の手のひらを上に向けた。
「律儀ねえ。そんなのメールでも打っとけば…って、そういえばメルアド分からないわね」
「はい、残念ながら…分かっていれば、都合のよい日を聞くことが出来たのですが」
 なんとなく噛み合わない認識にかがみが苦笑していると、横からこなたが顔を突っ込んできた。
「ダーリンのメルアドはわたしだけのものだー」
「なんだその妙な独占欲は…ってか別に知りたくないわよ」
「ダーリンのメルアドは知る価値ないっていうの!?」
「そのめんどくさいキャラやめい!」
 かがみはこなたの額に手刀を落として黙らせると、みゆきの方に向き直った。
「でも、頼み事聞いてもらたって、よく連絡取れたわね」
「えーっと、それはですね。先週の日曜日に、こちらの方に出かけてきたときに偶然会いまして、そのままわたしの家まで来ていただいたのです」
「………」
「………」
「わたしの家は少し遠いですから、本当に無理を言ってしまって申し訳なくて、それでこうしてお礼を…って、あの…どうかなさいましたか?」
 微妙な表情で固まっているこなたとかがみに気がつき、みゆきは不安そうに二人の顔を交互に見た。
「先週の日曜日…」
「みゆきの家の近く…」
 こなたとかがみはそう呟きながら顔を見合わせ、再びみゆきの方を向いた。
「ねえ、みゆき。ちょっと聞きたいんだけど…もしかして腕組んで歩いたりとかしてた?」
「はい、しましたが…あの、なにか駄目だったのでしょうか…?」
 みゆきが不安げにそう呟いた直後、額が引っ付くくらい間近にこなたが接近していた。
「みゆきさんかーっ!!」
「ひぃっ!?」



 静かな部屋の中に、時計の秒針の音だけが響いていた。
 部屋の中央には、正座をさせられているみゆきとその正面で正座をしているこなた、そして椅子に座って背もたれに顎を乗せているかがみの姿があった。
「さて、みゆきさん」
「はい…」
「どうしてダーリンを誘惑したのか、聞かせていただきましょうか」
「いえ、その…誘惑とかそんなのでは…」
「っていうかさ」
 二人の会話に、背もたれに顎を乗せたままかがみが口を挟んできた。
「ホントにみゆきなの?みなみちゃんは知らない人って言ってたんでしょ?みゆきならみゆきって言いそうなんだけど」
「みなみさんが…えっと、それは…多分ウィッグを付けて眼鏡を外していましたから、わたしだと気づかなかったのではないかと…」
「なるほど、ショートヘアってのはそれか…」
「変装までしてなんて、完全に黒だね。こればかりは、みゆきさんだからって容赦しないよ」
「ま、ままま待ってください泉さん!は、話を聞いてください!」
 立ち上がり拳を鳴らすこなたに、みゆきは慌てて両手を振って見せた。それを見たこなたは、再び正座の姿勢に戻った。
「聞きましょう」
「えっとですね…実はあの人とデートをすることになりまして…」
「あの人って…あの人?」
 かがみがそう聞くと、みゆきは黙って頷いた。
 少し前に行われた陵桜学園三年B組の同窓会。そこでみゆきはクラスの副委員長をしていた男性に告白され、そのまま付き合うことになったという。
 みゆきのいうあの人とはその人のことなのだろうと、かがみは納得した。
「それでですね、着ていく服を選んでたのですが、デートというのは初めてでしたから、どういう服が良いのか迷っていたところで泉さんの旦那様にお会いしまして…」
 みゆきはそこでこなたの方をチラッと見た。こなたは憮然とした表情をしていたが、とりあえず攻撃してくる意思は無いと感じられ、みゆきは話を続けた。
「男性の方の意見も聞いてみたいと思いまして、わたしの家にご足労願って色々アドバイスをいただいていたんです」
「ふーん…まあ、女性遍歴がこなたしかないあの男に、どういうアドバイスが出来るのかってところは置いといて…腕組んでたのはどうしてなの?」
 憮然としたまま何も言わないこなたに代わって、かがみがみゆきにそう聞いた。
「えーっと…その時に、髪形を変えたり眼鏡を外したりしたらどうかという話になりまして…」
「ああ、それでウィッグ付けたりとかやってたんだ」
「はい。それで、お恥ずかしい話なのですが、わたし高校のときより視力が落ちたらしくて、眼鏡を外すと足元がおぼつかなくなるんです。それで、旦那様に支えてもらっていたんです」
「ああ、そういうこと」
 かがみはそう言いながらこなたの方を見た。こなたは未だ唇を尖らせているものの、表情はだいぶ和らいでいる。かがみは少し安心してみゆきの方に向き直った。
「腕を組もうって言われたときには、少しドキドキしてしまいましたが…」
 余計なことを。かがみは頭を抱えたい衝動に駆られた。
「…そ、それ…旦那の方から言ったの…?」
「はい、そうです…が…」
 聞くかがみも、答えるみゆきも、それを感じていた。こなたの方から漂ってくる冷たい空気。冷や汗が頬を垂れるのが分かった。
 二人が恐る恐るこなたの方を見ると、冷気の根源は実に爽やかな笑顔を浮かべていた。
「ありがとう、みゆきさん。よく分かったよ。疑っちゃったりしてごめんね」
 声も実に爽やかだが、その奥に潜むモノに、かがみもみゆきも恐怖を押さえることができないでいた。
「あ、あの…や、優しい方ですよね…無理を言ったのはこちらなのに、お気遣いいただいたりして…い、泉さんが添い遂げたいと思ったのも頷けると…」
 みゆきはフォローをしようとしているのだろうが、その言葉はこなたには届かないだろうとかがみは思った。その優しさに下心が隠れているのは明白だからだ。
「うんうん、分かってるよみゆきさん。でも、そろそろダーリン帰ってくるし、今日は帰ってもらえるかな?二人でじーっくり話し合いたいからさ」
「あ、あの、泉さん…できれば穏便に…」
 自分が巻き込んだせいだと思っているのか、なんとかこなたをなだめようとするみゆきを横目に、かがみはこっそりと部屋を抜け出した。



 かがみが泉家を出てしばらく歩いたところで、前方から見知った顔の男性が歩いてくるのが見えた。
 バイト先の制服なのだろうか。薄汚れたつなぎの作業服を着た、こなたの旦那だ。
「あれ、かがみさん。家に来てたのかい?」
「…ええ、まあね」
 先に声をかけてきた旦那ののん気そうな表情に、かがみはため息をついた。
「あんたは今帰り?…まあ、自業自得なんだけど、気をつけなさいよ」
「気をつける?何に?」
 かがみはもう一度ため息をつくと、さっきの出来事を旦那に話した。
「あー、あれがばれたのか…そりゃ大変だ」
 全然大変そうに聞こえない口調に、かがみは心底呆れ果てていた。
「で、どうするの?」
「どうするって、そりゃ帰るよ」
「大丈夫なの?あのこなた、わたしでも怖かったわよ」
「さっきかがみさんも言ったけど、自業自得だからね。罪に対する罰は受けるよ」
 本当になんでもない事のように言う旦那に、かがみは一際深いため息をついた。
「っていうか、最初は冗談のつもりだったんだけど、おもしろいうくらいみゆきさんが本気にするもんだから、つい調子に乗ってね…」
「そう言うのは自重しなさいっての…特にみゆきは、親しい人間相手には疑うって事忘れちゃう娘だから」
「うーん…まあ、次があったら気をつけるよ」
「次があったらね…ま、生きてたらまた会いましょ」
「まだ、死ぬ気はないよ」
 手を振りながら、家に向かって歩き出す旦那。その背中に小さく祈りの言葉を呟き、かがみもまた家に向かって歩き出した。



― おしまい ―


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コメント:
  • ランランルー -- 名無しさん (2011-01-29 02:02:39)
  • 旦那オワタ\(^。^)/wwww -- 名無しさん (2009-12-24 11:56:16)
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