ID:kXzSvsjl0氏:「注意!誕生日はフラグ乱立イベントです」

「かがみん、もう少しでかがみんとつかさの誕生日だね」
「うん、そうね。またお誕生パーティ来てくれるでしょ?」
「それなんだけど……」
「何? 用事でもあるの?」
「誕生パーティが終わった後さ、二人で遊ばない? 二人っきりで」
「――え?」
 ところで、これからの百合展開は特に期待しないでね。これはあたしの、ごく個人的な興味本位。
 かがみんとつかさの誕生日が迫るある日、あたしはある計画を企てていた。
 柊邸を目の前に望み、あたしはインターフォンを押した。ピンポーンと間抜けな音が住宅街に響く。
 この呼び出し音は普遍的で不変的だよね。
 扉はすぐにがちゃりと開いて、中からかがみんが顔を出した。後ろにはつかさの顔も見えた。
「おっす、こなた。まあ上がってよ」
「こなちゃんいらっしゃ~い」
 かがみんのはきはきした声と、つかさの控えめな声が重なって、あたしを歓迎してくれた。
 二人の太陽みたいな笑顔に思わず目を細めそうになる。別に眩しくないけど。
「やっほー、今日はお誕生日おめでとう。みゆきさんはまだ来てないの?」
 あたしは誕生パーティの後の計画をしっかり頭の中で反芻しながら、だけど悟られないように挨拶してみせた。
 我ながらの演技力。手提げ鞄に潜ませたアレが静かに意味を持つ。
「アホっ! あんたが一番最後よ」
「ちょっと遅刻だねぇ」
「ありゃ、ごめん。はいこれ、誕生日プレゼント」
 と、あたしは遅刻した一抹の罪悪感を払拭するように、二人にプレゼントを渡した。まあさほその罪悪感は感じてないんだけど。
 かがみんにはコスプレ衣装が入った袋を、つかさにはバルサミコ酢が入った袋をそれぞれ手渡す。
 かがみんは『またコスプレかよっ』と見事に突っ込み、つかさは嬉しそうに中身を覗くと、そのままそっと袋を閉じた。
「あれ、つかさは何貰ったの?」
「う、うん。とっても素敵なプレゼントだよ。あはは……」

 二人について案内された部屋で、既に来ていたみゆきさんがまるで百合の花のようにちょこん、と座布団に正座していた。
「ごっめんみゆきさん。ちょっと遅れちゃったよ~」
「お気になさらないでください」
 美しい言葉使いと一緒に投げられたスマイルに、二つのマスクメロンに向かってダイブしたくなる衝動に駆られたが、抑える。
 部屋の中央に鎮座する低い机には、おいしそうにデコレーションされたケーキが置いてあった。
 よだれがちょっと口の端からでて、気づかれないように何気なく拭いた。だけどみゆきさんとばっちり目があった。
 みゆきさんはくすっとこれまた犯罪的に可愛い笑顔を向けて、羞恥も忘れてよっぽどマスクメロンに飛び込もうかと思ったが唇を噛んで抑える。
「それじゃあ、ちょっと早い気もするけどケーキを食べましょう」かがみんは元気よく机を囲むように座った。早く早くぅ、と賛同。
「私が切り分けるわね」それはつかさに頼もうよ。
「あたしこの後歯医者さんの予約が入ってるんだけど、どうしよっかな。食べちゃおっか」
 皆でそれぞれ切り分けられたケーキをぱくついているところ、お皿のケーキを前にしてつかさが困ったようにいった。
 じゃあそれ食べてあげるよ仕方ないなぁつかさは。
「いいんじゃない、こんな日ぐらい。つかさも食べようよ」
 ケーキに手を伸ばそうとしたところ、そういうかがみんに手を叩かれた。ちょっとフォークが刺さった。
 つかさはそう言われるのを待っていたらしく、うん、そうだねっ! と声を弾ませると嬉々としてケーキにフォークを刺した。
 計算してたのかよこの子はっ。
 少しフォークが刺さった手の甲をさすりながら思った。何で、こんな日に歯医者の予約を入れたんだろう。

 その後の誕生日パーティは、あたしがあげたバルサミコ酢を持ち出したつかさが「あはは~バルサミコ酢ぅ☆」とか言いながら何故か何の障害物もないのにあたしに向かって盛大にすっ転んで私の体中に酢をぶちまけたり、
 みゆきさんがその混乱にマスクメロンをぶちまけたり、混乱に乗じたあたしが素早くベットの下を探ると本当に奥から十八禁やおい本(フルメタ)が出てきたりしたけど、
 全く牧歌的に、夕焼けと一緒に終わりを迎えた。
 かあかあと鴉がなく夕焼けの中、みゆきさんは顔を赤らめながら「先刻のことは忘れてくださひぃ……」とか言いながら帰っていった。 誰が忘れるものか。
 そしていつの間にかつかさもいなくなって、部屋にはあたしとかがみんの二人っきりになった。
 部屋は電気をつけず、夕焼けが照明で、少し薄暗い。
「ふたりっきりになったね」
 窓から差し込む夕焼けに染まったかがみんに、何気なく言葉を投げる。かがみんは小さな声でそうだね、と返した。
 さあて、ここから始まるのだよ。あたしのプロジェクトが。

 あたしのプロジェクト、それはずばり、
『かがみんのツンデレ要素徹底解剖!? 誕生日はフラグ乱立☆ だけどごめんねドッキリ大成功♪』である。
 つまり! 日ごろからツンデレと言われるかがみんに、マリ見て宜しく愛の告白をした場合、
どんなツンデレ反応をしてくれるのかっ!? というプロジェクトなのだ。
 最後はもちろん、『ドッキリ大成功』の立て板を提示するぜっ。手提げ鞄の中にばっちり用意してある。
 舞台は整った。後は何気ない雰囲気を維持しつつ、だけど話は禁断の百合畑に徐々にフェードインさせていき、
どーんっと愛を告白する。勘違いしないでほしいのが、これはあくまでどっきりでありつまりは、
『百合要素を多分に含むが百合SSではない』ということを読者諸君に理解してもらったところでドッキリ(プロジェクト)スタートだ♪
 と、その前に、
「かがみん、トイレ貸してくれない? もう体中がお酢臭くってかなわんのだよ……。せめて手だけでも洗わせてぇ」
「……いいわよ」
 あたしは何やら口数少ないかがみんを残して、部屋を出た。
 トイレの前に行ったところで、これから出かけようとするつかさに出くわした。
「こなちゃん、じゃあ私歯医者さん行ってくるね。今日はありがとう」
 うん、あたしもありがとう。お酢を体中に浴びるなんて体験生涯で初めてだったよ。
 ふと、思い出して、魚の小骨が喉に引っかかったときみたいな、ずっと気になっていた疑問を訊いてみた。
「ところでさぁ、何で今日歯医者さんの予約入れちゃったの? せっかくの誕生日なのに」
「えっとね、私もそう思ったんだけど、お姉ちゃんに虫歯は早めに治しておきなさい、って怒られちゃって。確かに、結構長い間ほったらかしにしてたから」
 かがみんが? 何故だろう。かがみんはさっき、つかさにケーキを勧めていたと思うんだけど。
「でも、今日じゃなくてもいいのにね。明日とか」探るみたいに、さらに訊く。
「う~ん、どうしても今日いきなさいって、いうんだよね、お姉ちゃん」
「……ふぅん」
「じゃあ、私行ってくるね。ばいばーい」

 つかさが行ったあと、あたしはトイレで手を洗いながら、考えていた。何だか妙な矛盾があるのだ。
 かがみんはつかさの虫歯を心配していたみたいだけど、それじゃあ何で、ケーキを勧めたんだろう。
 虫歯を心配していたなら、ケーキは食べさせないものじゃないだろうか。
 もしかしてかがみんは、別に虫歯を心配していたわけじゃなくって、何か別のことを考えていたのかな。
 例えば、常に家にいる妹を外出させることによって、より完璧に『ふたりっきり』の舞台を整える、とか……。
「あ、あり?」
 気づく。柊家に、他のご家族の気配がないことに。
「……まさかね」
 思考を中断して、かがみんの待つ部屋に戻った。
「かがみん、他のご家族の皆さんがいらっしゃらないみたいだけど」
 部屋に戻って、扉を後ろでに閉めながら何気なく訊いた。かがみんはやっぱり口数少なく、
「うん、皆用事があって、出かけてる」
 と言った。
 ……ん?
 部屋の雰囲気が、少しおかしかった。かがみんは低い机に頬杖をついて、あたしに顔を背けるように、ぼうっと窓を向いている。
 い、いやいやいや。ないない。もうさっさとドッキリを始めよう。
 あたしは殊更何でもない風を装って、顔を背けるかがみんに話しかけようとした。
 だけど、そうする前に、かがみんから話しかけられた。それでもかがみんは、窓の方を向いたままだった。
「何か、話でもあったんでしょ」
「え? あ、ああ。そうそう。そうなんだよかがみん~」
 向こうからネタを振ってくれるとは思わぬ天恵。この流れのまま、突っ走るぜ。
「実はね、とっても大事な話があって」
「……何」

 何か、空気が重いですよかがみさん? それでも挫けず、続ける。
「いい? まじめに聞いてよ。実はね、あたしずっと前からね」
 ずっと窓の方を向いて、顔を夕焼けに染めていたかがみんは、こっちを向いた。
 その顔があんまりにも真面目で、見据えてくるもんだから、言葉を呑みこんでしまった。夕焼けから顔を背けたっていうのに、かがみんの顔はまだ赤く染まっていた。
「何よ」
 かがみんの短い言葉に、我にかえる。そうだ、やり遂げなきゃ。せっかくここまで舞台が揃ってるんだから、
このままなしになんかできない。物凄くこのまま帰りたい気がしないでもないけど、言うよ、言ってやる。
「あたしずっと前から、かがみんのこと好きだったんだぁ☆」
 殊更ふざけた感じで、言った。肩を女性的に曲げてみせて、唇に人差し指を当てて、後はかがみんのツンデレ反応を待つだけ。
 あたしの予想としては、
『ばっ、な、何言ってんのよ! そ、そりゃ私もこなたのこと好きだけど、そりゃ友達としてで……。べ、別に、そんな感情じゃなくて……。まあ男の子と同士のは好きだけど、女の子同士は駄目だよ……』
 って感じでうろたえるはずだ。
 だけどあたしの予想は、これっぽっちもかすらなかった。それこそ、一ミクロンも。
 あたしのことをじっと見据えていたかがみんは、顔をふいっ、と伏せると、不意に立ち上がった。静かに、音もなく。あたしは妙に緊張していて、微動だにできなかった。
 かがみんはそのまま部屋の扉まで歩いていくと、あたしに背を向けて扉の前に立った。
 そして、かがみんの押し殺した声が、夕焼けだけに染まる薄暗い部屋に響いた。
「本当に……?」
 これか、このタイミングでドッキリ成功の立て板をだすのか。それともまだ早いのか。
 いや、出したほうがいいような気がする何となく。頭の中で静かに混乱していると、かがみんはあたしの言葉を待たずに、ぽつりと、背中を向けたまま、呟いた。
「あたしも、本当はずっと、こなたのことが……」
 あああああああああああああっ!! 出すべきだったああああああああ!
 思考は大混乱。全身が一瞬で汗にじんわりと濡れた。心臓は全力疾走したあとみたいに跳ねていて、これは甘い感情によるものではなく唯の緊張によるものだ。

 あたしの思考とは全く正反対に閑散とした部屋に、金属音が響いた。がちゃりと音をたてて、かがみんは部屋の扉を施錠していた。
「えぇっとかがみん、何で鍵を閉めるのかな」
 口から心臓がでそうになるのを何とか堪えて、勤めて平然とした声をかがみんの背中に発した。
「……そんなこと、言わせないでよ」
 あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!
 かがみんはゆっくりと、振り向いた。顔が真っ赤に見えるのは、夕焼けのせいだけじゃない。
 ああ、ああ、落ちつけ泉こなた。あたしは精一杯普通の様子を装って、この混乱を悟られないようにした。
 そうしているうちに、かがみんはあたしのすぐ隣に、可愛いらしく、ちょこんとこしを落とした。
 あたしは顔が合わせられないで、かがみんのいるところを180°だとしたら、70°の角度に顔を向け続けた。汗がだらだらと、顔を伝っていく。
「ななな何を、すすっ、すっ、するつもりかなななななっ、かがみん」
 冷静を勤めたつもりのあたしの声はひどく震えていた。
「……こっち向いてよ」
 そっと、肩に手を回された。そのまま、頬に手を添えられる。そして優しい力で、顔をかがみんの方に向けられていく。
 あたしは顔を向いたほうに、『逆ドッキリ大成功!』の立て板があるのを、期待しながら、ゆっくりと、顔を向けた。
 夕焼けに焼かれた目は、薄暗い部屋の中であまり機能しない。夕焼けだけが照明というこの部屋は、最高にドラマチックだった。

 んっ。
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