ID:Y1ZcYrM0氏:命の輪の縁

「先輩、おっそいなー」
 ひよりはぼやきながらコップに入ったアイスティーをストローでかき回した。
 稜桜学園の最寄の駅に近い喫茶店。高校時代、放課後にみんなでよく寄っていたこの店は、社会人になってからも待ち合わせ等でよく利用していた。
 今日はこなたと仕事の打ち合わせの予定だったが、肝心のこなたが時間を過ぎても一向に現れず、ひよりはアイスティー一杯で粘る羽目になっていた。もっとも、こうしたことはしょっちゅうであり、すっかり顔なじみになった店員も、ひよりの事は気にも留めていなかった。
「…先輩、今日は一段と遅いな…相変わらず携帯に出ないし…」
 再びぼやきながら、ひよりは店の入り口の方を見た。すると、丁度一組の男女が店に入ってくるところだった。
 なんだ、カップルか…と、未だに彼氏の一人も出来ない自分の身を恨みながら、ひよりは視線をアイスティーに戻そうとし、そして勢いよくカップルに顔を向けた。
 カップルの女性の方。それはひよりの良く知る人物だった。
「パティ!」
 思わず、大声でその名を呼ぶ。
「ハイ?…って…ヒヨリ!?もしかしてヒヨリデスカ!?」
 パティもひよりの姿を確認すると、大声で名前を呼びながら早足でひよりの方へと向かった。そして、椅子から立ち上がったひよりに思い切り抱きつく。
「あははっ!やっぱりパティだ!なっつかしーなー!」
「イエスッ!まさかここでアえるとはオモいませんデシタ!」
 パティとひよりが最後に会ったのは、高校を卒業しパティの留学期間が終わって、母国へと帰る際の空港だった。手紙や電話などで連絡は取り合っていたものの、直接会うのは本当に久しぶりの事だった。
「髪、伸ばしたんだね。パッと見でわかんなかったよ」
 ひよりが身体を離しながらそう言った。高校時代はショートカットだったパティの髪は、肩を少し越えるくらいまで伸びていた。
「…それに」
 と、高校時代の時の抱擁とは、少し違う感覚を覚え、ひよりは眉間にしわを寄せた。
「もしかして、胸少し大きくなった?」
「ハイ、すこしですケド…」
 胸の辺りを凝視するひよりの視線に、パティは照れくさそうに頭をかいた。そして、パティは何か考えるように顎に手を当て、ひよりを上から下まで眺め、やはり胸の辺りで視線を止めた。
「ヒヨリはあんまりかわってまセンネ…イロイロと…」
「ほっといてよ…」


  •  命の輪の縁 -



「ところで気になってたんだけど、その人は?」
 ひよりは、自分の向かい側に座ったパティ達を眺めながらそう聞いた。パティと一緒にいた男性は、髪と眼がパティと同じ色をし、190cmはあろうかという高身長で、体格もがっしりしていて、並んでいるとパティが小柄に見えるくらいだ。
「ワタシのハズバンドですヨ」
「ハズ?…ああ、夫…って、夫ぉぉっ!?いつ結婚したの!?」
「ついセンジツです」
「…うああ…パティにさき越されるとは…」
 うなだれるひよりに、パティの夫が手を差し出してきた。
「どうも、初めましてひよりさん。高校時代の、一番仲の良い親友だったと、妻からよく話は聞いてますよ」
「あ、はい…初めまして…」
 ひよりはグローブのような大きな手を恐る恐る握り返した。
「…に、日本語、お上手ですね…ってか、パティよりはるかに流暢だ」
「はははっ。実は仕事で初めて日本に来たときに、日本語が話せなくて大変な目にあいましたから、猛勉強しましたよ」
「スゴいデショ?」
 夫の隣でなぜかパティが胸を張る。
「うん、まあ確かにすごいっちゃすごいよね…」
 脱力してしまい、アメリカンな夫婦を交互に眺めてしまうひより。顔を見比べてみると、なんとなく気になることがあった。
「ってか、パティと旦那さんって歳離れてる?…なんか、旦那さんすごい年上に見えるけど」
「ハイ。10イジョウはハナれてますヨ。ワタシがジュニアハイスクールのコロには、もうシャカイにでてましかカラ」
「マジで…パティって、年上趣味だったんだ」
「イエイエ、アイにトシはカンケイありませんヨ。ヒヨリ」
「さいですか…」
「ヒヨリはケッコンとかヨテイないんですカ?」
「…手紙とかで、あえてそういった話題に触れなかったことで察して…彼氏すらいないわ…」
「そ、そですカ…」
 ひよりから立ち上る妙なオーラに、パティは思わず身を引いてしまった。
「そういえばそういうハナシ、ゼンゼンきいてないですネ…ホカのヒトはどんなカンじなんでスカ?」
「あー…泉先輩とつかさ先輩は結婚してて、泉先輩の方には子供もいるなあ。かがみ先輩と高良先輩は付き合ってる人がいるとか聞いたけど…」
「ユタカとミナミはどうですカ?」
「ゆーちゃんはなんか最近彼氏が出来たようなこと言ってたなあ。でも、みなみちゃんの方はそう言う話まったく聞かないんだよね」
「ナルホド」
「あ、泉先輩で思い出した…」
 ひよりは時計を見ながら顔をしかめた。
「ドウカしましたカ?」
「今日、泉先輩と仕事の打ち合わせだったんだけど…まだ来ないんだよね」
「コナタ、ジカンにルーズなのは、アイカわらずですカ…コナタのシゴト、ショウセツですよネ?オクられてきたデビューサクよみましタ」
「うん。最近、挿絵頼まれるようになってね」
「デモ、あのテのハナシだと、ヒヨリとサクフウがまったくチガいませんカ?」
「まあねえ…泉先輩のお父さんの本見させてもらって、それの挿絵参考にしてなんとかってところだけど…ぶっちゃけ、後輩だから使いやすいって理由が大きい気がするよ…」
「ごめん、ひよりん!遅くなった!」
 ひよりがそこまで話したところで、喫茶店のドアを勢いよくあけてこなたが入ってきた。そして、真っ直ぐにひよりの方へとやってきて、向かいに座っているパティ達に気がついた。
「あれ?誰…ってパティ!?」
「ハイナ!おヒサシぶり」
「君はあの時のカラテガール!」
「…はい?」
 パティの言葉を遮って、旦那の方が大声を上げながら立ち上がった。
「ははははっ!まさか、こんなところで会えるなんて思いませんでした!奇遇ですね!」
 上機嫌でこなた背中を叩くパティの旦那。結構強く叩かれているのか、こなたは痛そうに顔をしかめていた。
「…え、えっと…どちら様でしたっけ…?」
「覚えてませんか?あなたに追い払われた、悪党です」
「え?…あ…あー!あんときの!」
「…パティ、どゆこと?」
「…サア、ワタシにもさっぱりデス」



「…つまり、つかさ先輩がこの人に道を聞かれてたのを、襲われてると勘違いした先輩が襲い掛かかっちゃったと」
 こなたとパティの旦那の話を聞いたひよりは、なんともいえない溜息をついた。
「いやまあ…その節はとんだご迷惑を…」
「はははっ。問題ないですよ。あの時のことがあったから、日本語を学ぼうと思い立ったわけですし、その関係でパティとも出会えましたから、むしろ礼を言いたいくらいですよ」
「そ、そですか…」
 襲った本人を目の前にしては、さすがのこなたもバツが悪いのか、ひたすらに恐縮していた。
「それにしても…なんというか、逞しいですね」
 こなたがそう言うと、パティの旦那はニカッと白い歯を光らせた。
「学生の頃に、アメリカンフットボールのラインマンをしていましたから。今でも、なまらないようにジムで鍛えてますよ」
 言いながら旦那は力こぶを作ってみせる。丸太のようなその腕は、こなた程度なら五人くらいはぶら下がれそうだ。
「…先輩…よくこんなの追い払えましたね…」
「…う、うん…あの時のことは夢中だったから、あんまり覚えてないけど…普通無理だよね…」
「いやいや、なかなかガッツの入ったパンチとキックでしたよ。さすがに反撃するわけにもいきませんでしたから、逃げさせて貰いましたけどね」
「…よかったですね、先輩…」
「…うん…反撃されてたら、死んでたね…」
 そういったやりとりを笑いながら聞いていたパティが、時計を見て驚きの声を上げた。
「ダーリン。ツもるハナシもありますケド、そろそろジカンですヨ」
「おっと、もうそんな時間ですか。それじゃ、行くとしましょうか」
「これから、どっかいくの?」
「ハイ。キョウはアキバホウメンをセめてみたいとオモいまス」
「ここは私が奢りますので、お二人はゆっくりして行ってください」
 そう言いながら、パティの旦那がレシートを取り上げる。それを見たこなたが、慌てて席を立った。
「い、いやいいですよ。なんか悪いですよ…」
「私の人生の転機となった女性とまた会えた。その記念だと思ってください」
 そう言ってまたニカッと歯を光らせると、旦那はレシートを持ったままレジへと向かった。
「…なんつーか…日本人っぽい考え方する人だね…」
「…そっすね…そういや、パティ。なんでまた日本に来たの?」
「ハネムーンですヨ」
 ちょっと近所に、といった感じで答えるパティに、こなたとひよりの眉間にしわが寄った。
「ハネムーンで秋葉か…」
「…先輩は人のこと言えない気がするッスけど…」
「そういうワケで、イッシュウカンほどこっちにいますカラ、ミンナでノみにでもイきまショウ!」
「…いや…ハネムーンで飲み会とか…」
「ダイジョウブです!ダーリンもにぎやかなのはダイスきですカラ!」
「うん、まあいいけどね…」
「いいって…先輩飲めないんじゃ…」
「そうなのデスカ?」
 パティが意外そうに言いながら、こなたを見た。
「うん、まあ。子供生む時に色々あってね…身体に悪いことは、極力控えるようにしてるんだ」
「そうだったのデスカ」
「でも、まあ。よっぱらい見るのは好きだから、参加はするけどね」
「オーケー!さすがコナタでス!」
 パティが親指を立てながらそう言うのを見て、こなたはなんとなく懐かしい気分になった。
「パティ、そろそろ行きますよ」
 旦那が入り口の方かそう呼びかけてきた。パティは自分が長話をしてるのに気付き、慌ててそっちに向かう。
「ソーリー…ついハナしこんでしまいマシタ…っと」
 その途中で、パティはこなた達の方へと振り返る。
「コナタ!ヒヨリ!またアいまショウ!」
 目一杯手を振りながらそう言うパティに、こなたとひよりは笑顔で手を振り返した。



「あの人、人生の転機になったって言ってたよね」
 二人になり、仕事の打ち合わせに必要な資料を広げながら、こなたはそう呟いた。
「あの出来事はさ、わたしのとっても転機だったんだよね」
「そうなんスか?」
「うん。あの事があったから、つかさと友達になれて、その縁でかがみやみゆきさんとも友達になれたからね」
「なるほど…」
 こなたは手を止め、すこし懐かしそうに天井を見上げた。
「その人がパティの旦那さんとはね…」
「人の縁って、どこでどう繋がってるか分からないものッスね」
「だねえ…でも」
 こなたは顔をひよりの方へ向けた。
「面白いよね。こういうのって」
 そう言ってこなたは、心底楽しそうに微笑んだ。


  •  おわり -



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コメント:
  • ひよりんファイト! -- 名無しさん (2011-01-29 01:43:40)
  • 世間って狭いなw -- 名無しさん (2010-12-28 16:42:55)
  • パティは俺の嫁なのにー。
    …お幸せに。 -- 名無しさん (2010-02-17 22:06:46)
  • なんだと・・・・!?
    -- 名無しさん (2009-12-24 11:39:01)
  • 面白かったです。GJ -- CHESS D7  (2009-09-03 17:37:24)
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