ID:wUBHMCko氏:青鈍空 アレンジver.

こなた「ねえ、かがみん。これから投下されるSSについての話なんだけどさ」
かがみ「何をもったいぶってんのよ。前フリなんていいから、さっさと投下しちゃいなさいよ」
こなた「いつものSSなら、私もそうするんだけどねー。今回ばかりはそうもいかないんだよ」
かがみ「どういうこと?いつものSSと何か違うの?」

こなた「それが、もう全然違うんだよ!……って言っても、別に作者が友の遺志を継いで書いたとかそういう類の話ではないんだけど」
かがみ「じゃあ、どういう類の話なのよ」
こなた「もしかしたらかがみも知ってる話かもしれないんだけど、少し前にさ、避難所でとある企画がもちあがったんだよね」
かがみ「へえ。知らなかったわ。で、どんな企画なの?」
こなた「えーっとね。簡単に言うと『シンプル偽シリーズ THE☆入れ替え!』ってトコかな」

かがみ「……頼むから私にもわかるように説明してくれないか?」
こなた「作風の違う作者同士でお互いの作品をアレンジして書き直してみる、って企画」
かがみ「ああ、なるほどね。それで、どの作品がアレンジされるの?」
こなた「第十一回コンクールは覚えてる?」
かがみ「ああ、あのピンクワカメ――ゲフン!ゲフン!……「みゆき」がお題だった回のコンクールよね、確か」

こなた「そうそう。で、その時のコンクール投稿作品がアレンジされるんだって」
かがみ「へえ。なんだか難しそうなことするのね」
こなた「なんでも、『青鈍空』と『ダメな子ってなんですか?』の作者がたまたま同じ時期に避難所に居合わせてたみたいでさー」
かがみ「幸か不幸かハードルの高い企画が成立しちゃった、と」
こなた「そーゆーこと。だから、これから投下されるSSはいつもとは違った楽しみ方もできるってワケ」
かがみ「単体としてだけでなく、当時のコンクール作品と併せて味わうこともできるってことか」
こなた「そのとおり!わかってるねぇ、かがみ」

かがみ「ねえ、こなた。それはいいんだけどさ」
こなた「んー?」
かがみ「この前フリ、いくらなんでも長過ぎないか?」
こなた「あー。その意見には同意せざるを得ないねー」

みゆき「という訳でして、今から相当数のレスをいただいて、この企画の作品を投下させていただきたく思います」
こなた「あ、みゆきさんだ。やふー」
かがみ「え。い、いたんだ、みゆき」
みゆき「はい。最初からずっと。ところでかがみさん、大変お手数ではありますが、今から校舎裏の方にご一緒いただきたいと――」
かがみ「い、嫌あああああああっ!!」



こなた「それでは、始まり始まり~」
つかさ(あれ?私の出番は?)





 窓の外に見えるのは、分厚い雲に覆われた鈍い色の空。
 それはまるで、今の私の心を映し出しているかのよう。

 本当は青いはずなのに、いろんな色を混ぜすぎた絵の具のように淀んでいて。
 純粋な黒にもなれず、鼠色の方がまだ少しは綺麗に思えるような、中途半端な重たい色。

 そんな色をした空を、私はたったひとりで、ぼんやりと眺めてるのでした。


 『青鈍空』


 晴天に恵まれた卒業式から数日の後、関東地方は長雨に見舞われていました。
 しかも、春らしい軽い雨ではなく、この時期には珍しい夕立のような豪雨。
 今朝になってようやく雨は止んだものの、未だに太陽はその顔を見せてはくれません。

 こうも不安定な天気が続くと、どうしても陰鬱な気持ちになってしまいがちです。
 連日のように気象台から大雨洪水警報が発令されるような状況では、人は誰しも気分が落ち込んでしまうものだと思います。
 遠足前夜の子供ようにソワソワしながら防災グッズを用意する私の母のような人は、また別なのでしょうけど。

 私もここ数日は何かと沈みがちというか、少しばかり気持ちが不安定になっていました。
 もっとも、私の場合は天候のせいだけではないのですが。

 楽しかった高校生活の終焉、そしてこれから歩んでいくであろう道に対する不安。

 私が自分のこれからについて考える時、何故だか胸のうちでは希望や期待よりも不安の方が大きく膨らんでしまうのです。
 高校生活があまりに幸せなものだったからなのでしょうか。
 それとも、将来の自分に自信が持てないからなのでしょうか。
 おそらく、そのどちらもなのでしょうけれど。

 敢えて言えば、前者の方がより大きな要因であるように思います。
 泉さん、かがみさん、つかささん……彼女達との高校生活は、私にとって非常に大きなものでした。
 朝の教室で出会い、お昼の時間を一緒に過ごし、放課後にたまに寄り道をしたりして。
 みんなで笑いあって過ごすことが日常であり、それが当然のように思えた、本当に幸せな日々でした。

 しかし、そんな幸せな日々はもう終わってしまったのです。
 そして、この春から私が通うことになっている大学には、彼女達を始めとして高校での友人や知り合いは誰も進学しません。
 私は独りになってしまうのです。
 そして、今、実際に私は独りなのです。

 もちろん、かがみさん達とはこれからも仲良くさせていただくつもりです。
 繋がりは断ち切られていないのですから、厳密に言えば、私は独りではありません。

 ……もっと厳密に言えば、同じ屋根の下に、居間で無意味にテントを張って盛り上がるような母もいますし。
 缶詰まで開けたりして、あれはいったい何が楽しいのでしょうか。
 あの行動には、何か深い意味でもあるのだというのでしょうか。
 そもそも、母が今とっている行為、つまり、日常の中に小さな非日常を積極的に置くという行為は、哲学的な側面からみれば――

 話が少し逸れました。 

 予定に過ぎませんが、大学では新しい交友関係も築くつもりです。
 それこそ、高校時代に負けないような交友関係を。

 ですから、私が本当の意味で独りになってしまうことなんて無いだろうと理解してはいるのです。

 ですが、今の私が求めてしまうのは、彼女達と毎日会うことのできた過去りしあの時間。
 再び戻ってくることの無い、あの輝かしい時間なのです。
 それを失ったせいで、私は独りになってしまったような気がしてしょうがないのです。

 今日の私は、何故こうもネガティブな感情に囚われてしまうのでしょうか。 
 おそらくそれは、この孤独感のせい。
 私が今現在、ここでこうしてたった1人で過ごしているせいなのでしょう。
 彼女達が一緒にいてくれたら、いえ、せめて電話で声を聞くことでもできれば、こんな寂しい想いに囚われることはないはずです。

 私は傍らに置いてあった携帯電話を手にとり、登録されている電話帳を呼び出します。
 そして、つかささんの番号を選んでディスプレイに表示させ、通話ボタンを――

 ――押すことが出来ませんでした。

 何故、押すことが出来ないのか。
 大切な友人をくだらない感情のはけ口として扱うことを、ためらっているのでしょうか。
 しかし、友人であるからこそ、愚痴のような話をすることがあっても構わないのではないか。
 そんなことは分かっているのですが、指は凍りついたように動きません。

 何故、どうして、私は電話をかけることすらできないのか。
 弱い自分を見せたくないから?
 万が一にも嫌われたくないから?

 ああ、私はなんて小さな人間なのでしょう。

 私の思考はどんどん暗闇へと向っていきます。
 底の見えない夜の海で溺れているような感覚。

 ふと、部屋の片隅で眠ったままになっている通学鞄が目に入りました。
 そうだ、と思い立ち、私は藁をもつかむようにその鞄を手にとります。
 私はそれを少しばかり乱暴にひっくり返し、中身を全部取り出します。

 鞄の中には愛用の筆記用具といくつかの冊子、そして卒業アルバムが入っていました。

 卒業アルバム。
 たくさんのクラスメイトと、そして何より彼女達と、3年間を共に過ごしたことの証。
 写真という、形を持つ物で確かに刻まれている彼女達との絆。

 それを手にとるだけで、不思議と心が落ち着きました。
 卒業式の後に4人で笑いながらパラパラと捲ったそれを、今度は丹念に1ページずつ眺めます。 

 写真撮影日をすっかり忘れていて寝不足の顔で写ったという泉さんの個人写真。
 少し緊張した面持ちのつかささんが写っている集合写真。
 体育祭でパン食い競争に挑む前の凛々しい顔をしたかがみさんの写真。

 それぞれの写真から蘇ってくる彼女達との数々の想い出が、私の心を癒してくれるのがわかります。
 楽しかったあの頃に再び戻ることができたかのような心地よい錯覚。
 先程までの陰鬱な気持ちはいつの間にか消え去り、私の心の中は懐かしさとそれに伴う温かな感情が溢れていました。


 ☆


 厚めの裏表紙を閉じると、パタン、と小気味の良い音がします。
 見終わったばかりのアルバムをそっと胸に抱きしめ、深呼吸をひとつ。 
 この小さな過去への時間旅行は、私に元気を与えてくれました。

 気持ちも落ち着いたので、紅茶でも飲みながら買ったばかりの医学書でも読むことにします。
 とりあえず散らばった鞄の中身を集め、きれいに片付ることから始めなければなりません。
 先程までの自分の取り乱しようを恥じつつ、まずは散乱した筆記用具を回収します。
 そして、アルバムは本棚のお気に入りの本の並ぶ段に。
 卒業の際に学園からいただいた記念の品は机の引き出しに。

 この簡単な片付けは当然のように順調でしたが、最後に小さな冊子を手にしたところで動きが止まってしまいました。
 その冊子の名は『卒業歌集』。
 そういえば、私はこの冊子をまだ開いたことがありません。
 卒業後に4人でアルバムを見た際、これも見ようという話になったのですが、恥ずかしいから嫌だとかがみさんが全力で拒否したのです。
 そして、それからはずっと鞄の中で眠ったまま。
 あれこれと大学の準備をする中で、私はこの冊子のことを完全に忘れてしまっていたのでした。

 そんな訳で、私はもう少しだけ旅の続きを楽しむことにしました。

 歌集を開き、A組の1番の人のものから順に全ての歌を読んでいきます。
 ただし、最後の楽しみとするためにB組のものだけはとばして。

 気になっていたかがみさんの歌は、とても素直に卒業に対する感情を表したすばらしい歌で、私は少し涙してしまいました。
 また、日下部さんの歌にはクスリと笑わされ、峰岸さんの歌には思わず声を出して感心してしまいました。

 素直な気持ちをストレートに詠んだもの。
 技巧に凝ろうとしすぎて意味を消失しているもの。
 笑いを取ることを目的に詠まれたもの。

 そこには、いい意味でも悪い意味でも、高校生らしさに溢れる素敵な歌が並んでいました。
 私はそれらの歌を眺めながら、再び彼女達との思い出の世界に心を浸すのでした。


 ☆


 さて、ついに待ちに待ったB組のページです。
 泉さんやつかささんの歌を楽しみにしながら、私は自分のクラスの歌を順に読み始めました。

 顔と名前と、少しばかり知っている各人の性格や雰囲気を思い出しながら、先程までより時間をかけて楽しみます。
 そして、男子の歌が終盤にさしかかった時のことです。
 私はあるひとつの歌を目にして、とても驚き、これまでに味わった事のないようなショックを受けてしまいました。

 その歌は、恋心を詠んだ歌でした。
 詠み手はクラスの副委員長をしていた、私と近しい関係にあった彼。
 そして、その恋の相手は――


 放課後の 囲った机 いつも同じ 席つく君の 隣に座る


 ――歌に描かれている情景から察するに、おそらくは私。

 放課後の委員会で、私はいつも同じ席に着いていました。
 委員会での席順は自由なのですが、なんとなく最初の会の時と同じ席に座っていたのです。

 そして、副委員長の彼はいつも、本当にいつも、そんな私の隣に座っていました。
 同じクラスでかたまっていた方がやりやすいと思うから、などと言いながら。
 私は彼のその言葉を、裏を読んだり疑ったりすることなど全くせず、文字通りにしか受け止めませんでした。
 言葉の裏に私への好意があるなどとは、考え及びもしなかったのです。

 委員会前後の彼とのやりとり、教室での彼の立ち振る舞い。
 よくよく考えてみれば、彼の言動の節々には私への好意が散りばめられていた様に思えます。
 もしかしたら、その中には彼にとっては告白同然の言動もあったのかもしれません。
 しかし、その全てを私は流してしまっていたのです。
 卒業してから何日も経って、歌集を偶然に手にとるまで、私は彼の気持ちにカケラも気付いていなかったのですから。

 何故、どうして、私は少しも気づくことが出来なかったのか。
 我ながらここまで鈍感だと、それだけで罪のような気がします。 
 私自身が恋愛の機会を逸したことなどはどうでもよくて、ただ、彼の想いに向き合ってあげられなかったことが悔しい。

 しかし、もうどうしようもありません。
 私は彼の住所も電話番号も知らないのです。
 委員会の資料のどれかには、彼の連絡先が載ったものもあったかもしれませんが、それももう処分してしまいました。
 つい先週、部屋の整理をした時に要らないと判断して処分してしまったのです。

 なんとかして彼と連絡をとる方法はないのでしょうか。

 もしかしたら、学校に行けば彼が待っているかもしれない。
 とにかく外にでていれば、街のどこかで会えるかもしれない。
 或いは、待っていれば彼の方から連絡してくるかもしれない。

 どの方法も確実ではないどころか、現実的ですらありません。
 八方ふさがり。
 私の心は、再び暗闇の方へと向っていってしまうのでした。


 ☆


 そうだ、こんな時こそ誰かを、友人達を頼るべきなのではないか。
 私は改めて携帯電話を手にします。

 真っ先に頭の中に浮かんできたのは、かがみさんの顔でした。 
 困った時に一番頼りになるのは、間違いなくかがみさんでしょう。
 泉さんにツンデレなどと揶揄されている彼女は、確かに冷たいそぶりを見せることは多々ありますが、友人を思いやる気持ちは人一倍なのです

 しかし、相談内容が恋愛のこととなるとどうなのでしょう。
 3人の中で、かがみさんが一番頼りになると言えるのでしょうか。
 実際に相談する前に、少しシミュレーションをしてみましょう。

『ええっ?みゆきのことを好きな人!?しかも卒業歌集で告白!?』
『は、はい。確証は得られないのですが……ですが、それだからこそお会いしてお話をするべきと考えまして』
『ふーん、そうなんだ……はぁ~。いいわよね~、みゆきは。そういう風に向こうから告白してくれるんだから』
『そ、そんなことは』
『あるわよ。それに比べて私なんてさ、あいつらのせいで「凶暴」みたいなイメージがついちゃってるからさ、そういうの望めないのよね』
『は、はあ』

『そうそう、この間もこんなことがあったのよ。ちょっと聞いてくれる?こなたとつかさったら、約束の時間にどっちも遅れてきてさ――』
『あ、あの。かがみさん』
『それで、私ひとりだけ怒ってるみたいな感じになっちゃったのよ。結構ひどいと思わない?そういえば、この間だってこんなことが――』
『ええっと、その、すみません。私の悩みのことなんですが』
『ああ、ごめん、ごめん。話が逸れたわね。でもまあ、そんな訳でさ、私は人一倍恋愛の機会に恵まれにくかったんじゃないかと思うのよ』
『そ、そうですか』

『そうよ。だいたい、こなたなんて見た目が子供だし、趣味も偏ってて性格がアレだし、一緒にいて楽しいけどさ、一緒にいると恋愛から遠くなる存在じゃない?』
『そ、そんなことは』
『あるのよ!私なんて、あいつのせいでクラスメイトからオタクだと思われちゃってたんだし!そりゃ、恋愛の「れ」の字もでてこないっつーの。ねえ?』
『は、はあ』
『なんか、いろいろ思い出したら腹が立ってきたわ。みゆき、今からこなたの家に行くわよ!いい機会だから、あんたもいろいろ言ってやりなさい!』
『ええっ!?』
『大丈夫よ。3年もの間セクハラされつづけたんだし、一言ぐらい言ってもバチはあたらないって!何だったら、2人で袋叩きにするっていう手段も――』

 何故でしょう。
 何度かシミュレーションしてみても、私がかがみさんの愚痴を聞くことになったり、逆に相談をされたりで上手く話が進みません。
 これでは一歩も前進しないどころか、他のトラブルを抱えて後退してしまうおそれすらあります。

 とはいえ、現実のかがみさんがこのような受け答えをすると決まった訳ではありません。
 これは、あくまで私の頭の中のかがみさんの話です。

 ……なんだか、とてつもなく失礼なことをしているような気になってきました。

 いったい私は、かがみさんのことをどのような目で見ていたというのでしょうか。
 シミュレーションとはいえ、このようなストーリーしか描けない私は最低の人間なのではないかとすら思えます。
 現実のかがみさんなら、自分の身の上話などせず、親身に相談にのってくれるはずです。
 たぶん。おそらくは。きっと。


 とりあえず、かがみさんに相談する件については保留にします。
 いえ、決してかがみさんが空気を読めないかもしれないとかそんな話ではなく、やはりここは同じクラスの友人を先に頼るべきであると思ったからです。
 嘘ではありません。本当にそう思ったんです。本当です。



 そうだ、泉さんなら。
 私には無い奇抜な発想やひらめきをお持ちの泉さんなら、何か解決策を見出してくれるかもしれません。
 念のため、先程と同様に少しシミュレーションをしてみます。

『へー。副委員長がみゆきさんのことをねぇ』
『は、はい。確証は得られないのですが……ですが、それだからこそお会いしてお話をするべきと考えまして』
『でも、連絡手段が何も無い、ってことなんだよね?』
『はい。そうなんです』
『そんなのさ、黒井先生に頼めば簡単に教えてくれるんじゃない?かわいい生徒の頼みなんだし』
『教えてくれそうだからこそ、余計に頼めないんです。私の個人的な都合のために、個人情報を不適切に扱っていただいては困りますから』
『お固いねぇ、みゆきさんは』
『す、すみません』
『いやいや、謝んなくていいって。そういうところも、みゆきさんの萌え要素のひとつだからネ!』
『そ、そうなんですか?』

『まあでも、他にいくらでも手段はあるから大丈夫だよ。この私にまかせてくれたまへ、みゆきさん』
『本当ですか!?ありがとうございます!』
『うむうむ。それでは、こなたのドキドキ恋愛大作戦、第一弾!「登校中、出会い頭のアクシデントで胸がキュンキュンの巻」!!』
『あ、あの。泉さん』
『作戦内容はすごく簡単!遅刻ギリギリの時間にトーストをくわえた状態で家を出て、学校へダッシュ!これであなたにも運命の出会いが!』
『ええっと、その、すみません。その作戦はちょっと』
『えー。確かに古典的だけど、その分確実性は高いよ?』
『いえ、その、確実性についてはそうなのかもしれませんが……そもそも、この春から私と彼は同じ場所へは登校しないのですが』
『あー……』
『それに、私の場合は通学時に電車やバスなどを長時間利用しますので、トーストの管理が極めて困難だと思うのですが』
『あー……』

『すみません。せっかく考えていただいたのに否定してばかりで』
『だいじょぶ!まだまだ、作戦はいくらでもあるからネ!満を持しての第二弾!「運命のいたずら!?事故で記憶喪失の彼に急接近の巻」!!まずは手頃な車を用意して――』
『ええっと。泉さん、いくらなんでもそれは――』

 何故でしょう。
 愚にもつかないアイディアを自信満々に語る泉さんの姿しか思いつきません。
 これでは、役に立たないにも程があるというものです。

 とはいえ、現実の泉さんはこのような悪ノリをするような方では……なかったはずですよね。
 そうです。これは、あくまで私の頭の中の泉さんの話です。
 現実の泉さんであれば、きっと普段からは想像がつかないくらいに真剣に相談にのってくれるはずです。
 たぶん。おそらくは。そうであればいいな、というこの思いが届けば。

 ……やはり私は、最低の人間なのではないでしょうか。


 そうでした。こういう時に頼りになるのは、つかささんでした。
 他人の話をとにかく一生懸命に聞くことの出来る彼女であれば、相談役には最適なはずです。

『へえ~。あの人、ゆきちゃんのことを好きだったんだね』
『は、はい。確証は得られないのですが……ですが、それだからこそお会いしてお話をするべきと考えまして』
『うんうん。そうだよね、会ってみないといけないよね』
『はい。ですが、先程も言いましたように、私には彼との連絡手段が無いんです』
『う~ん。私も連絡先は知らないしなぁ……困っちゃったね』
『はい。何かいい方法でもあればいいのですが、どうでしょうか?』

『ゆきちゃんが何も思いつかないのに、私が何かいい方法を思いつくはずないよ~』
『そ、そんなことは』
『あると思うよ~?だって、私に相談する前にゆきちゃんもいろいろと考えてみたんでしょ?』
『はい。それはそうなんですが、やはり人それぞれに違った視点というものもありますから』
『あっ、そうか。そうだよね。そういう考え方もあるよね。でも、私で役に立てるかなぁ?』
『はい。恐れ入りますが、つかささんの力をお貸し願えればと』
『えっ?私の力を?』
『はい。つかささんのお力を。是非に』

『私の力……わかったよ、ゆきちゃん!後は、この私にまかせて!私がなんとかしてあげるから!』
『ほ、本当ですか、つかささん!?』
『うん。ゆきちゃんにそこまでお願いされちゃったんだし、私、頑張るよ!』
『それで、つかささん、いったいどんな方法をとるおつもりなのですか!?』
『え?方法?』
『はい。方法です』
『そんなのないよ?』
『え?』
『でも、大丈夫だよ!私、とにかく頑張るから!ゆきちゃんのために全力で頑張るから!』
『あ、あの、つかささん?』
『ゆきちゃんは待っててくれたらいいから!私、たとえ何年かかろうと頑張ってみせるからっ!!』
『あっ、つかささん!ちょっと待ってください!つかささーんっ!!』

 間違いなく私は最低の人間です。
 現実のつかささんはこのような暴走をする人間では……あるかもしれませんが、いくらなんでもここまで酷くはないでしょう。
 たぶん。おそらくは。全体的にそんな風な空気だったと他のみなさんも思っていたであろう感じから察するに。

 私は何をしているのでしょうか。
 友人に相談すると決めたのなら、下手な考えなど張り巡らせず、素直に相談の電話をかけてしまえば済むことなのに。
 結局のところ、シミュレーションなどと銘打って、ただ単に頭の中で友人達を愚弄しただけのような気がします。
 陰鬱な気持ちに加え、友人に対する罪悪感のようなものまでが私につきまといます。

 とはいえ、何故かさっきまでのような閉塞感はありません。
 陰鬱な気持ちや罪悪感が心の中で渦巻いているというのに、さほど苦しい感じはしなくなりました。
 何故なのでしょうか。

 おそらく、私が独りではないことをしっかりと思い出すことが出来たからでしょう。
 たとえ今は離れていても、私達は繋がっている。
 頭の中に描いた3人は本当に生き生きとしていて、今にも私を呼ぶ声が聞こえてきそうで。
 実際に会ったわけではないのに、ただのイメージに過ぎないのに、私に元気を与えてくれて。
 シミュレーションの結果は別として……私には頼もしい友人が3人もいるのです。

 私は携帯電話を持ったまま、ベッドに仰向けになるようにぽふんと倒れこみます。
 電話帳の画面を閉じ、幾度かボタンを押すと、卒業式の時に撮ったみんなの写真が表示されました。
 とりあえず、先程はすみませんでした、と心の中で謝ります。

 そのまま写真をじっと見つめていると、みんなが私の心に呼びかけてくるような気がしました。

「そうですよね。試合はまだ、始まったばかりなんですよね」

 私は写真の中の3人に、笑顔で応えました。 


 ☆


 ポツン。 

 横になっている私の耳に雨音が届きます。
 雨音は次第に大きくなり、数分もしないうちに昨日までと同じような豪雨へと変わりました。

 ああ、空が泣いている。

 私は携帯電話を閉じると、ベッドから起き上がり、再び卒業歌集のあのページを開きました。
 そして雨音を聞きながら、彼の歌のすぐ隣に、寄り添わせるようにひとつの歌を書き加えます。

 この雨は、私の弱い心が呼んだ雨なのでしょうか、それとも――


 青鈍空 君の嘆きを 聞きにしか 降らせし雨の 長く強きは


 ――彼の想いが降らせた涙なのでしょうか。

 卒業歌集を膝の上で開いたまま、私は再び窓の外を眺めるのでした。



 雨の向こうに見えるのは、暗い雲に覆われた鈍色の空。
 それはおそらく、誰かの心を映し出しているのでしょう。

 本当は青いはずなのに、いろんな想いを混ぜすぎたせいで淀んでいて。
 純粋な黒になれず、綺麗な灰色でもなく、どこまでも中途半端な重たい色。

 そんな青鈍空を、私は今も眺めているのです。
 ここにはいない誰かと一緒になって。





 今朝までと同じように空を眺めながら、私は次の一手を考えていました。

 そう。私は、この物語をこのまま終わらせるつもりはありません。
 彼と共に澄んだ青空を詠う日が、いつか必ず訪れると私は確信しています。
 たとえ連絡手段が一切なかろうと、どんなに絶望的な状況だろうと、私は諦めません。

 だって、私には、私を支えてくれる友人がいますから。
 私は独りではありませんから。
 彼女達と一緒なら、私はなんだってできるはずです。

 よし、頑張るぞ、と心の中で声を上げ、自分自身に喝をいれます。

 そして私は、卒業歌集を閉じ、再び携帯電話を手にするのでした。

 青鈍空の向こう側にいる彼女達と会うために。


 ☆


 数日後。
 みゆきは自分の行った友人達に関するシミュレーションの結果が、概ね間違っていなかったという衝撃の事実を思い知るのだが……

 それは、また別の話。





こなた「さあ、バトンタッチざますよ」
みゆき「いくでガンス」
つかさ「ふんがー……って、あれ?ゆきちゃん、お姉ちゃんはどうしたの?」

みゆき「禁則事項です☆」

こなた「……来年の桜は綺麗に咲きそうだねー」
つかさ「埋められ系っ!?」


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  • すごい……。
    全く印象が違うな。 -- 名無しさん (2010-07-28 01:19:36)
  • 元の作品の感じにギャグも織りまぜていてよかったです。 -- CHESS D7 (2009-08-17 20:07:01)
  • 初めての試みだったからか、最初の方は単なる元作品の書き換えみたいになってるけど、
    だんだん要領を得てきて自分の作風が出せるようになったって感じだな。
    元作品がカタすぎるからギャグを織り交ぜるのは難しかったろうに、よくやってくれたと思う。
    GJ。 -- 青鈍空作者 (2009-08-16 21:50:02)
  • 二つの作品で
    最後の印象が違うところがいいですね
    元作品はひたすら思い出にひたっている。
    アレンジは新たに思い出を作ろうとする前向きさ
    が出ている。
    同じようで別の作品ですね。
    アレンジの方法のヒントをくれたようです。GJ -- 名無しさん (2009-08-16 17:20:24)
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