ID:xDM9P7I0氏:姉と妹

 とある日の放課後。委員会の雑事を終えた高良みゆきは、家路に着こうとしていた。
「おーい、みゆきさーん」
 校門をくぐったところで後ろから声をかけられる。振り向いてみると、友人の泉こなたが手を振りながらこっちに向かって走ってきていた。
「いま、帰り?」
「はい」
「じゃ、一緒に帰ろ」
 そう言ってこなたは、みゆきの横に並んで歩き出した。
「泉さん、今日はかがみさんと何処か寄られる予定だったのでは?」
「んー、そうなんだけど…」
 みゆきの問いに、こなたは暗い顔をしてため息を吐いた。
「帰ろうとしたところで黒井先生に捕まっちゃって」
「…最近の遅刻の件でしょうか?」
「うん、そう。それで説教されてて…」
「かがみさんが先に帰られた…と?」
「そーなんだよー」
 オイオイと泣きながら、こなたはみゆきに抱きついた。
「ひどいよねー待っててくれてもいいのにー」
「え、えと…かがみさんにも都合と言うものがありますでしょうし…」
 みゆきは困った顔をして、こなたをなだめる。そして、その最中にふと思いついたことがあった。
「あの、お二人は何処に寄られる予定だったのでしょうか?」
「いつも通り、ゲマズだけど…」
「かがみさんの代わりと言うには、少々物足りないかもしれませんが、わたしがお供してもよろしいですか?」
「え?みゆきさんが?」
「はい。泉さんたちがいつも寄り道されてる場所に、少し興味がありまして…もちろん、泉さんがよろしければですけど」
「いいよ、いいよ。全然オッケー!…そっかーみゆきさんもこういうのに興味あるんだー」
 こなたは晴々とした笑顔になると、少し早足でみゆきの前を歩き出した。
「そうと決まれば早く行こ。みゆきさん」
 その様子を見ていたみゆきはクスッと笑うと、こなたに追いつくように早足で歩き始めた。


- 姉と妹 -



「そういやさ、みなみちゃんは元気?」
 駅までの道を二人で歩いている最中に、こなたが唐突にみゆきにそう聞いた。
「みなみさんですか?そういえば、最近少し落ち込んでるような素振りがありましたが…どうしてまた、急にその様な事を?」
「んーいやね、ゆーちゃんがみなみちゃんともめたらしくて、なんか怒ってたんだよね。それで、みなみちゃんの方はどうなんだろうって思ってね」
「そうでしたか…わたしの方では気付きませんでしたね。すいません」
 丁寧に頭まで下げるみゆき。こなたは慌てて手を振って見せた。
「いやいや、別にみゆきさんのせいって訳じゃ…ってか、そう言う事あまり話さないんだ?」
「そうですね。みなみさんとは、余りプライベートのことは話しませんね…一緒にいる時は大抵二人で本を読んでいて、その本についてお話をしてますね」
「ふむ、二人らしいっちゃ、二人らしいね」
「でも、一体何をもめたのでしょう?あのお二人は、そう言う事には無縁なように思えるのですが…」
 みゆきがそう言うと、こなたは腕を組んで少し考え込む仕草をした。
「その辺は、ゆーちゃんも話してくれなかったけど…まあ、些細なことだと思うよ」
「些細、ですか」
「うん。ああ見えても、ゆーちゃんって結構頑固なところあるからさ、ちょっと意地張っちゃったんじゃないかなって…」
「それで、揉めたと…」
「うん…あー、でもそれだとみなみちゃんの方が折れるか」
 こなたは腕を組んで考え込み始めた。それを見ていたみゆきは、こなたの前方にあるものに気がつき、思わずこなたの制服の袖を引っ張った。
「わわっ、何?みゆきさん…」
 みゆきに引っ張られ、数歩たたらを踏んだ後、こなたはみゆきの方を見た。
「考えている最中とはいえ、ちゃんと前を見ませんと…電柱にぶつかるところでしたよ?」
 こなたが横を見ると、すぐ傍に電柱が見えた。確かに、あのまま歩いていたらぶつかっていただろう。
「あ、ホントだ。ありがとう、みゆきさん…うーん」
 礼を言った後、こなたはなんとも言えない表情をした。
「泉さん、どうかなさいましたか?」
「んー、いや…考え事してて教室のドアにぶつかるみゆきさんに、こういう注意を受けるとは思わなかったなって」
 こなたの言葉に、みゆきの顔が赤くなる。
「あ、あれはたまたまです。そんなに何度もあることでは…」
 そう言いながら恥ずかしそうに俯くみゆきを、こなたはニヤニヤしながら見ていた。
 ふと、みゆきは何かを思いついたように顔を上げた。
「あ、もしかして…」
「ん?どうしたの、みゆきさん?」
 様子の変わったみゆきを気にかけ、こなたがその顔を覗き込む。
「あ、いえ…別にみなみさんの事と言うわけでは…」
「え、みなみちゃん?」
 みゆきの言葉に、こなたが眉をひそめる。自分が何を口走ったかに気がついたみゆきは、目の前で両手をブンブンと振って言い訳を始めた。
「い、いえその、違うんです…もめ方が酷くなった原因がみなみさんが有りそうだとかは思ってないんです」
「いや、そこまで丁寧に説明しなくても…」
 こなたがそう言うと、みゆきは更に余計なことを口走ったことに気がつき、顔を真っ赤にして身を縮ませた。
「んで、原因がみなみちゃんに有りそうって?」
「…あ、あの…わたしがこう言ったことは出来ればご内密に…」
「大丈夫、大丈夫。聞いてどうこうするつもりはないよ。わたしはこう見えても口は堅いんだから」
「その…みなみさんは少し…えっと、ほんの少しですよ?…要領が悪いところがありまして…」
 みゆきが本当に言いにくそうにそう言うと、こなたは少し驚いた表情を見せた。
「そうなの?みなみちゃんって何でも器用にこなすってイメージあったけど…」
「そうですね。みなさんそう仰います…みなみさんも、そうありたいと思っているみたいなのですが…逆境と言うか、想定外のことに弱いようでして…」
「そっかー…それで、ゆーちゃん相手に下手うって怒らせちゃったとか、そんな感じかな?」
「はい、そうだと思います…あくまで、わたしの憶測ですけど」
「まあ、そんなに長引かないとは思うけどね。ゆーちゃんそう言うのはあんまり引き摺らないし」
「だと良いのですが…」
「ところで、みゆきさん」
「はい、何でしょう?」
「前、危ないよ」
「へ?…わみゅっ!?」
 こなたが指摘した直後、みゆきは改札機に腹の辺りをぶつけていた。



「どうして、もっと早く言ってくれなかったんですか…」
 少し混みあった電車の中。みゆきは少しむくれた顔をして、つり革につかまっていた。
「いやー。まさかそのまま突っ込むとは思わなくて…」
 その隣にいるこなたは、申し訳なさそうに頭をかいていた。顔は、反省の色が全く見えないくらいにやけていたが。
「そういやさっきさ、わたしがみなみちゃんは器用なイメージあるって言ったら、みなみちゃんもそうありたいと思ってるって、みゆきさん言ってたよね」
「はい、言いましたが…」
「それってさ、みなみちゃんはみゆきさんを目標にしてるんじゃないかなって気がするよ」
「わ、わたしですか…?」
 みゆきは、自分を指差して何度か瞬きをした。こなたが大きく頷く。
「うん、みゆきさん達は小さい頃から一緒だったでしょ?」
「はい、家がお隣でしたから」
「側でずーっと見ててさ、こうありたいって思ってたんじゃないかな?みゆきさん、勉強もスポーツも出来るし、それに…」
 こなたはそこで言葉を止め、にやりと笑った。みゆきはその意図が分からず首を傾げる。
「おっぱい大きいしね」
 にやけながらのこなたの言葉に、みゆきの顔が一気に赤くなった。
「そ、それは関係ないでは…」
「いやいや、関係あるよー。みゆきさん知らなかった?みなみちゃん、胸が無いの凄く気にしてるんだよ」
「初めて聞きました…」
「こうなりたいんだけど、目標には一歩たりとも近づけないって事で、結構コンプレックスになってるんじゃないかなー」
「そうだったんですか…アレはアレで可愛いと思うのですが…」
「…今、なんて?」
 みゆきが思わず呟いた言葉に、こなたがジト目で突っ込む。
「え?あ、いや!何も言ってません!なんでもありません!ありませんってば!わ、忘れてください!」
「う、うん、まあ聞かなかった事にしとくよ…」
 みゆきがあまりに勢いよく否定ので、こなたは思わずそう言っていた。みゆきは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「…あ、あの、泉さん」
 みゆきは俯いたまま、こなたに向かって呟いた。
「ん、何?」
「車内ですし、そう言う話は止めませんか…?」
「わたしは気にしないけど」
「…わたしが気にするんです」
 流石にこれ以上はみゆきには酷だと判断したこなたは、みゆきに向かって頷いて見せた。それを見たみゆきが、ほっと安堵のため息をついた。
「…小早川さんはどうなのでしょう?」
 少し気が落ち着いたところで、みゆきがこなたにそう聞いた。
「ゆーちゃん?」
「はい、小早川さんも泉さんを目標としてるようなところがあるのではないかと思いまして」
「わたしかー、どうだろうねー」
 こなたはつり革を掴んでいる手を離し、腕を組んで考え込み始めた。みゆきは少し危ないのではないかと思ったが、こなたは電車の揺れにあわせて器用に体勢を維持していた。
「わたしはゆーちゃんとお隣さんって訳じゃないしねー。ゆーちゃんはどっちかっていうと、ゆいねーさんの方が目標になってるかも」
「成美さんですか?」
「うん、一番身近な人だしね。ゆーちゃんに無いものを色々持ってる人だから」
「そうですね…でも、今の小早川さんの目標は泉さんではないですか?」
「え、それはどうだろう…?」
 再びつり革を掴んだこなたが、頬をポリポリとかく。顔には少し照れたような表情が浮かんでいた。
「泉さんと小早川さんは、小さな頃から交流はあったんですよね?」
「うん、まあ。ゆいねーさんに連れられて、ちょこちょこ遊びに来てたけど…」
「それが一緒に住むようになって、憧れが目標に変わったとか…」
「あ、憧れって前提はどうかな…?みゆきさんやかがみならともかく、わたしじゃそんな…」
「そうですか?泉さんは、憧れるに十分な魅力を持っていますよ」
 みゆきは満面の笑顔でそう言い切った。
「う…そう真正面から言われると…その…」
 こなたがしどろもどろにそう答える。先ほどのみゆきに負けないくらい、顔が真っ赤になっていた。
「あ、あのさ…なんか恥ずかしいから、話変えない?」
 こなたがそう言うと、みゆきはクスリと笑った。
「わたしは恥ずかしくありませんよ?」
「うぐ…み、みゆきさん。もしかしてさっきのお返し?」
「さて、それはどうでしょう?」
「うぅ…あ、ほら、もうすぐ降りる駅だよ!ドアの方いっとかないと、降りそびれるよ!」
 そう言ってこなたは、人の間を掻き分けてドアの方に向かった。それを追いながら、みゆきはおかしくてたまらないといった風に、クスクスと笑っていた。



「みゆきさんはさ、もしかして妹萌え?」
 電車を降りて、目当ての店に向かう最中に唐突にこなたがみゆきにそう聞いた。
「萌え、ですか?」
 みゆきは良く分からないといった風に、こなたに聞き返した。
「うん、なんとなくそう思った。みなみちゃんの話してるときのみゆきさんって、なんかお姉さん目線だなって」
「…そうですね、小さな頃から一緒でしたから、妹のように思ってるところはあると思います。それが、萌えかどうかは分かりかねますが…」
「みゆきさん、一人っ子だしねー」
「そうですね。でも、それを言うなら泉さんも…」
 みゆきがそう言うと、こなたはニコリと笑った。
「まーねー…でも、ゆーちゃんは妹属性だけじゃないし、わたしは萌えに関しては守備範囲広いしね」
 何故か得意気に胸を張るこなた。
 やっぱり良く分からない。みゆきは心の中で首を傾げた。知識があっても…いや、知識で図ろうとすればするほど、こなたの感性には届かないような気がしていた。
「さーって、今日は何買おうかなー」
「目的があって、お店に行くのではないのですか?」
「んー、目的はあるよ。でも、目的以外の掘り出し物ってのも、こういった買い物の醍醐味なんだよみゆきさん」
 それでも、目の前で自分の好きなことに心躍らせてるこなたを見てると、妹萌えと言うのもありなのかなと、みゆきは思っていた。
「では、何かオススメのものがありましたら、教えていただけますか?」
「お、やる気だねみゆきさん」
 二人並んで歩く姿は、仲の良い姉妹に見えた。


- おしまい -
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