ID:nkjNdEQ0氏:大災害

 早朝。自分のクラスに着いたあやのは、浮かない顔でひとり席に座っているかがみを見つけた。
 いつもなら、始業ギリギリまで隣のクラスにいるはずの彼女が、何故こんな早い時間からここにいるのか。
 あの仲良しメンバーの誰かと顔をあわせ辛い出来事でもあったのだろうか。
 中学校以来の友人であるかがみの異常が心配になり、あやのは鞄も置かずにかがみの席へと向かう。

「おはよう、柊ちゃん。今日はいつもより早いんだね」
「ん?……ああ、峰岸か。おはよ」
「どうしたの?元気がなさそうに見えるけど……悩み事?」
「いや、悩みってほどの事じゃ無いんだけど、ちょっとね」
「妹ちゃんとケンカでもしちゃったとか?」
「相変わらず鋭いな。まあ、ケンカっていうか、私が一方的に怒ってるだけなんだけどね」
「私でよかったらだけど、話、聞いてあげるよ?気持ちに整理がつくかもしれないし」
「そうね……それじゃあ、たまには峰岸の好意に甘えさせてもらおうかしら」

 ~大災害~

「――って訳でさ、ノートを水浸しにされたのよ。1日に2回もよ、信じられる?」
「うふふ。妹ちゃんらしい失敗よね」
「笑い事じゃないわよ。おかげで私は同じ宿題を3回もやる事になったんだから!」
「ごめん、ごめん。でも、柊ちゃんはもう怒ってないんでしょ?」
「はあ?何でそうなるのよ?」

「話してる時の表情や雰囲気でわかるよ。妹ちゃんの事、もう許してるって」
「わ、私はまだ、つかさの事を許してなんか」
「許してないんだ?」
「そ、そうよ。許してなんか……ない……と思う……たぶん……」
「相変わらず素直じゃないよね、柊ちゃんって」

 笑顔でそう言うあやのを見て、かがみは思わずため息をつく。
 峰岸に隠し事は出来ないなぁ、なんて思いながら。

「わかったわよ。正直に言うわ……とっくに許してる。ただ、昨日の晩あれだけ怒ったからすぐには許しにくいのよ」
「だと思った」
「本当に鋭いわね、あんたは。私の心が読めるんじゃないかと疑いたくなるわ」
「中学からの友達を甘く見ちゃダメよ?」
「これは、これは。おみそれいたしました」
「もう、柊ちゃんったら」

 気のしれた相手との軽妙なやり取りに、あやのもかがみも笑顔になる。
 しかし、かがみの表情にはまだいつもの元気が無かった。

「柊ちゃん?」
「ん?んー……つかさが気に病んでなきゃいいけどな、なんて思っちゃって」
「大丈夫よ。妹ちゃんって、けっこう芯がしっかりしてそうだから」
「そうかしら」
「それに、同じクラスに泉ちゃんも高良ちゃんもいるんだし」
「そうね。こなたはともかくとして、みゆきがいるなら心配ないわよね」

 と、会話が収束に向かおうとしていたこの瞬間、新たな人物が疾風の如く現れた。

「おっはよー!ひいらぎー!あやのー!」

 2人の共通の友人、日下部みさおだ。
 大会前で朝練をこなしているためか、朝からやけにテンションが高い。

「おー、なんだなんだー?なんか元気のねぇ顔してんなー、ひぃらぎー?」
「おはよう、みさちゃん。今朝も元気ね」
「いやー、またタイムが縮まってさー。何か今、絶好調ってカンジなんだよな!」

「ところで、ひいらぎ。何か悩んでんだったらあたしが相談にのるぜ?何があったんだ?」
「大丈夫よ。別に何も悩んでなんか――」
「なんだよ、つれねぇなー。別に遠慮なんかしなくていいんだぜ?あたしとひいらぎの仲だろー?」
「いや、別に遠慮してるわけじゃ――」
「わかった。あれだろ?またダイエットに失敗しちまったとか、そんな話だろ?」
「違うわよ!あんた、少しは人の話を――」
「なんだよ、違うのか?他にひいらぎが悩みそうな事といったら……ま、まさか、恋の悩みかぁ!?」
「だから!少しは人の話を――」
「そうか、恋の悩みかぁー。何だかんだ言って、ひいらぎも女の子なんだよな。良かったじゃんか!」
「あのな、いい加減にしないと――」
「そんで、相手は誰だ?ほれほれ、恥ずかしがらずに言ってみなー。どんな男なんだー?」
「……」
「お、おい!まさかとは思うけど、相手はちびっ子とか言わねーだろーな!?どうなんだよ、ひぃらぎぃ!」
「……」
「黙ってちゃわかんないんだってヴぁ!はっきり答えろよ、ひぃら――!?」

 かがみは突然、みさおの顔をガッシと鷲掴みにした。
 やや俯き加減のため、その表情は読み取れないが、よく訓練された兵士でも逃げるんじゃないかと思われる程のオーラが出ている。

「ひ、ひいらぎ?」
「ふ、うふ、うふふふふ、日下部、あんたは私を本気で怒らせたみたいね」
「ちょっと、柊ちゃん!」
「峰岸、今回ばかりは手を出さないでいてくれるかしら?あんたまで巻き込みたくはないの」
「わわ、わかったわ。柊ちゃん」
「や、ひいらぎ、とりあえず落ち着けよ。ほら、落ち着いて話せば、わかるからさ」
「日下部、あんたには地獄すら生ぬるいわ……」
「あ、あや、あやの、はやく、たす、たすけて」
「ごめんね、みさちゃん。私に出来るのは祈る事だけみたい」

 柊かがみ、大・噴・火!!!!(被災者1名:日下部みさお)





「いててて。ひいらぎもあんなに怒ることねーのになー。なぁ、あやの?」
「う~ん……今回はみさちゃんの自業自得だと思うけどな」
「でもさ、あそこまで怒るのは反則だろ。冗談抜きで死ぬかと思ったぜ?」
「タイミングが悪かったとはいえ、災難だったね」
「だいたいさー、ひいらぎが飲みもんをこぼされたくらいで怒るからいけねえんだよ」
「……『飲み物をこぼされたぐらい』?」
「そうそう。そんなしょうもねー事で怒る方がどうかしてんだよ。くだらねぇよなー」

「ねえ、みさちゃん」
「ん?どーした、あやの?」
「この前、家に遊びに来たときだったかな。私のりらっタヌにコーヒーこぼしたわよね」
「お、おう」
「みさちゃんにとっては、あれも『しょうもない事』だったのかしら」
「え?い、いや、そんなことは」
「あの時、みさちゃんは心の底から謝ってくれたんだと信じてたんだけどな……そんな風に考えてただなんて、とっても残念だわ……」
「いや、さっきのは、ほら、言葉のあやというか、なあ、わかるだろ?」
「本当に残念だわ、みさちゃん……」
「やや、やめ、だ、だれか、たす、たすけ」

 峰岸あやの、大・寒・波!!(被災者1名:日下部みさお)





「日下部ー。おい、日下部ー……む?珍しいな。日下部は休みなのか?」
「災害がどうとかで、保健室に行きました」
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