ID:Pfj6XGw0氏:信じる心と優しさを

「お父さんがね、死んじゃうかもしれないんだ」
「はあ?」
 唐突なこなたの言葉に、かがみは間抜けな言葉を発した。
「な、なによそれ…何の冗談?」
「冗談じゃないよ…死亡フラグって知ってるよね?」
「知ってるわよ。おかげさまで、その手の知識は随分豊富になったわ」
「お父さんの行動とか言動とかがね、死亡フラグっぽいんだ…」
 かがみは大きくため息をついた。
「三言で済ませてあげるわ」
「え?」
「ゲームのやりすぎ。漫画の読みすぎ。アニメの観賞しすぎ」
「…う」
「まったく…くだらないこと言ってるんじゃないわよ」
「う、うん」
 頷いたものの、こなたはまだ納得のいかない表情をいていた。
「…で、具体的にはどういう事なの?」
「え?」
「話くらいは聞くわよ」
「あ、うん…ありがとう」
「…で、話聞いてあげるんだから、接待プレイとかしない?」
 二人が格ゲーの対戦をしているモニターの中では、かがみの使用しているキャラがパーフェクト負けで地面に這いつくばっていた。
「勝負の世界は非情なのだよ、かがみん」


- 信じる心と優しさを -




 こなたが最初に気がついた父そうじろうの異変は、家の三階にあるコレクションルームに行く回数が増えていることだった。そして、そうじろうがコレクションルームに入るたびに、中のコレクションの数が微妙に減っているような気がした。
「ねえ、お父さん。最近、三階に行くこと多いけど、どうかしたの?」
 気になったこなたは、そうじろうに直接聞いてみることにした。
「ん?ああ、ちょっとあの部屋も整理しようと思ってな…大分、物も増えてきたしな」
「…ふーん」
 とりあえず、こなたは納得することにした。物が減っているように見えたのは、上手く整理してあるからだろう。自分のちょっとした疑念だけで、これ以上追求することもないと、こなたは判断した。
「………」
 そうじろうの方を見ると、なにやら黙って下を向いている。
「…ねえ、お父さん。なんか顔色悪くない?」
 こなたには、そうじろうが少し苦しそうにしているように見えた。
「そうか?」
「うん。どうかしたの?」
「いや…まあ、少し疲れてるのかもな。今日は早めに休ませてもらうよ」
「う、うん…」
 自室に向かうそうじろうの背中を見送るこなたの胸に、少しばかりの不安が過ぎっていた。


 ある時こなたが居間に入ると、そうじろうがアルバムを広げて見ていた。
「どしたの?アルバムなんか見て」
「いや、ちょっとな…こなたも見るか?」
「…うん」
 こなたはそうじろうの隣に座り、アルバムを覗き込んだ。小学生時代の自分の写真がみっちりと貼られている。
「ものの見事にわたしの写真ばっかだねえ…」
「そりゃ、撮る対象がお前しかいないからな」
 おかしい。こなたはそう思った。たしか父の写真もいくつかあった筈だ。カメラを貸してもらってこなたが撮ったり、他の人に撮ってもらった二人の写真とかあった筈だ。アルバムに納められていたのを見た記憶もある。
「この時の運動会だったかな。お前が徒競走で転んで泣いたのは」
 写真のことを聞こうかどうかこなたが迷っていると、そうじろうが懐かしそうにそう言った。
「そうだっけ?…うわ、写真あるんだ」
 こなたは思い出していた。このとき泣いたのは、転んで痛かったからじゃなく、そのせいで負けて悔しかったからだと。
「…このときから見てないな」
「え?」
「こなたが本気で泣いてるのを」
「…まあ、泣くようなこと無いしね」
「友達は好きか?」
 急にそう聞いて来たそうじろうの真意を測りかねて、こなたが怪訝な顔をした。
「なに?急に…」
「ん、まあなんとなくな」
「…好きだよ。こんなにウマが合う友達って、初めてだと思うよ」
「そうか」
 そうじろうはこなたの答えに満足そうに頷いた。

 その夜、こなたはトイレに行った帰りに、居間から明かりが漏れているのを見つけた。こっそりとこなたが覗いてみると、そうじろうがかなたの写真を前に酒を呑んでいた。
「…かなた、こなたはもう大丈夫だろう…信頼できる友達も出来たし、こなた自身もしっかりしてきている…」
 呟く言葉が不吉なものに思え、こなたの頬に一筋の汗が垂れた。
「俺は…少し疲れたな」
 それ以上聞くことが出来ず、こなたは逃げるように自分の部屋に戻った。




「…大体、そんな感じかな」
 話し終えたこなたは、かがみの顔を見た。
「うーん…」
 かがみは顔をモニターの方に向けたまま、難しい顔で唸っている。
「難しいわね。確かにそう取れる気もするし、こなたにそういう知識があるからそう取ってしまってるとも言えるし…」
「そっか…」
 こなたは未だゲームのコントローラーを握ったままの、自分の手元に視線を落とした。
「不安だったら、直接本人に聞いてみたほうがいいかもね。正直に答えてくれなくても、なにかしら分かるかもしれないし」
「うん…ありがとう。かがみ」
 こなたもう一度かがみの方を見た。かがみはまだモニターの方を見ている。それを見て、こなたは首を傾げた。なにかおかしい、と。
「とかなんとか言ってる間に、わたしの勝ち」
「んなーっ!?」
 いきなりのかがみの勝利宣言に、こなたは慌ててモニターを見た。モニターの中では、こなたの使用しているキャラがパーフェクト負けで地面にのびていた。
「え、えええ?ちょっ!なっ!ええええっ!?」
「やったわ!初めて格ゲーでこなたに勝ったわよ!」
「いやいやいや!なんか違うでしょ!?おかしいでしょ!?人が相談してる時にこんなのナシでしょ!?」
「勝負の世界は非情なのよ、こなたん」
「非情じゃなくて卑怯だよこれ!納得いかないよ!もう一回!もう一回やるよ!」
「残念ながら、時間遅いしそろそろ帰らなきゃ」
「勝ち逃げーっ!?」
「それじゃ、また明日ねー」
「かがみんのあほーっ!!」



 その日の夜。
「…ごめん、こなた。少し残すよ」
「あ、うん…まだ調子悪いの?」
 晩御飯を半分くらい残して席を立ったそうじろうにこなたがそう聞くと、そうじろうは曖昧な笑顔で頷いた。
「まあ、たいしたことじゃないとは思うんだけどな」
「ちゃんと休んでよ?」
「分かってるよ」
 そう言ってそうじろうは、自室へと戻っていった。
「ホントに大丈夫なのかな…」
 そうじろうの食べ残しを片付けながら、こなたはそう呟いた。

「お父さん、入るよ」
 こなたはそう言いながら、そうじろうの自室のドアをノックした。かがみに言われた通り、直接聞いてみようと思ったのだ。
「…あれ?」
 しかし、返事はなかった。寝てしまったのかと思い、こなたはドアを開け中に入った。部屋の中は明かりがつきっぱなしで、そうじろうは仕事に使うテーブルに突っ伏していた。愛用のノートパソコンも、電源が付きっぱなしだ。
「お父さん、仕事してたのか…調子が悪いって言ってたのに」
 こなたはベッドから毛布を引っ張ってきて、そうじろうにかけてあげようとその後ろに回りこんだ。そして、その動きが止まる。ふと、目に入ったパソコンのモニター。そこに書かれてあった文の一行。

『やはり、こなたを残していくのは心配だ』


 こなたは自分の部屋に戻ると、後ろ手にドアを閉めた。その手が震えているのが分かる。
「…あ…あ」
 怖い。こなたはそう感じていた。震えはどんどん大きくなっていく。
「あ、ああ…」
 さっき見たモニターの中の言葉が頭から離れず、恐怖から来る震えは全身へと広がっていった。こなたは震えを収めようと自分の身体を抱きかかえたが、収まるどころか大きくなるばかりだった。
「ああああああああああ」
 こなたは耐え切れずに、その場に座り込んでしまった。




「え、こなた結局来なかったの?」
 翌日のお昼休みの教室。かがみは何時ものように、こなた達のクラスにお弁当を食べにきたのだが、そこにこなたの姿は無かった。
「うん…朝に会えなかったから、遅刻かなって思ったんだけど、まだ来なくて…」
 つかさが項垂れたままそう答えた。
「な、なんかあったの?」
 様子のおかしい妹に、かがみがそう聞いた。
「それが、無断欠席らしいのです」
 つかさの隣に座っていたみゆきが、つかさの代わりにそう答えた。
「無断?」
「はい、それで黒井先生が、泉さんのご自宅に電話をされたそうなのですが…」

『もしもし、担任の黒井いいますけど…』
『お父さん!?お父さんなんでしょ!何処!?何処にいるの!?』
『は?ちょ、泉か?なんや急に…』
『…違う』
『はあ?違うてなんや?おい、泉!泉ー!…切りよった』

「その後、いくらかけ直しても泉さんは出られなかったそうで…」
「わたしとゆきちゃんも電話したり、メール送ったりしたけど、全然反応が無いんだよ」
「…お父さん…ね…」
 かがみは昨日のこなたの相談事を思い出していた。
「かがみさんは何か心当たりが?」
「うん、昨日ね…」
 かがみはこなたに持ちかけられた相談を、みゆきとつかさに話した。
「死亡フラグ…ですか」
「うん。わたし、こなたが大袈裟に言ってるだけだと思って、あまり真剣に聞いてあげなかったんだけど…事は思ったより深刻なのかも…」
「学校が終わったら、様子を見に行ってほしいって黒井先生に言われてるんだけど、お姉ちゃんも…」
「行くわよ。もちろん」




「…でないわね」
「…ですね」
 泉家の門前に来た三人は、とりあえずインターホンを鳴らしてみたが、何の反応も無かった。
「玄関の鍵、開いてるみたいだよ」
 いつの間にか門を抜けていたつかさが、玄関のドアを開けながらそう言った。
「ちょ、ちょっとつかさ。そんな勝手に…」
「いえ、行きましょう。かがみさん」
「みゆきまでなに言ってるのよ」
「緊急事態…かも知れませんから」
 かがみに頭に『死亡フラグ』という言葉が過ぎる。
「…そうね」
 三人は異様な静けさの泉家へと入っていった。


「とりあえず、こなたの部屋を覗いてみましょう」
 かがみの提案に、つかさとみゆきが頷く。
「こなた…いる?」
 一応、ノックしてからかがみはこなたの部屋のドアを開けた。覗き込んでみると、こなたが床に座り込み、ベッドに顔を伏せているのが見えた。
「こなた。大丈夫?」
 かがみが声をかけると、こなたはゆっくりと顔を上げ、かがみ達の方を向いた。
「かがみ…つかさとみゆきさんも…」
 こなたが立ち上がり、よろよろと頼りない足取りでかがみ達の方へと歩いてきた。そして、倒れ込むようにかがみに身体を預けた。
「ちょっとこなた、大丈夫?」
「…お父さんが」
「おじさん?どうかしたの?」
「いなくなったの…」
「い、いなくなったって…いつ?」
「朝起きたら、もういなかった…家中探したんだけど、何処にもいなくて…」
 かがみは助けを求めるように、みゆきの方を見た。
「泉さん、おじさまが何処か良く出かける場所などはありますか?」
 顎に指を当てて、少し考えたみゆきはこなたにそう聞いた。
「…そういうの、わからない」
 こなたはみゆきに首を振って見せた。
「朝からいないのなら、コンビニとかにちょっと出かけてるって訳でもないわよね…」
 そう呟くかがみの服を、こなたが軽く引っ張った。
「なに、こなた?」
「…来て」
 かがみから離れ、頼りない足取りで部屋を出て行くこなた。三人はその後についていった。




 こなたが入ったのはそうじろうの私室だった。そして、テーブルの上で起動したままのノートパソコンを指差した。
「…見て」
 言われるままに、かがみ達はパソコンのモニターを覗き込んだ。

 皮肉なものだ。かなたと同じ病とはな。
 だいぶ無理が効かなくなってきている。こなたも薄々感づいているみたいだ。
 こなたに弱っている姿を見られたくはない。体が動くうちに、家を出よう。
 コレクションをいくつか売り払って、備蓄を増やしておいた。身辺の整理も済ませておいた。
 何かあっても、ゆいちゃんやゆきがよくしてくれだろうし、なによりこなたには信頼のおける友達がいる。
 もう、俺がいなくてもこなたは大丈夫だろう。
 そう思うのだが、それでもやはり、こなたを残していくのは心配だ。

「かなたって…こなたのお母さんの名前よね…だったらこれ、死亡フラグなんか通り越して…」
「かがみさん!」
 思わず洩れたかがみの呟きを、みゆきが制止する。かがみは自分の言い出しかけたことに気付き、慌てて口を塞いだ。そして、恐る恐るこなたの方を見る。こなたは俯いたままかがみの方へと歩き、その胸に身体を預けた。
「そうだよ…お母さんと同じ病気だったら、お父さん長くないかもしれないんだよ…でも、なんで?」
 こなたがかがみの服を掴む。
「なんで…それでお父さんがいなくなるの?わたしに見せたくないってどういうこと?わたしは…わたしは…」
 こなたの手に力がこもる。
「わたしはお父さんに信用されてないの?お父さんはわたしを信じてくれないの?…最後に一緒にいるのが、わたしじゃ駄目だって…そうなの?…かがみ、答えてよ…かがみ…」
 かがみは何も答えることが出来ずに、ただ唇を噛み締め、拳を強く握り締めた。
「し、親戚の人とかに連絡をしたほうがいいんじゃないかな…すごく大事なんだし…」
 泣きそうな顔でそう言うつかさに、みゆきが頷いて見せた。
「そうですね。それに、本当に行方が分からないのなら、警察に捜索願も…」
「いや、その必要はないよ」
 部屋の入り口から聞こえたその声に、四人が一斉に振り向いた。
「お、お父さん…」
 そこに立っていたのは、いなくなっていたはずのそうじろうだった。

「おじさん、なんで…」
 かがみはモニターとそうじろうの顔を交互に見た。
「あの、おじさま…これは一体…」
 みゆきが、パソコンのモニターを指差してそう聞いた。
「それは、もういいんだ…もう十分だ」
「もういい…十分って…まさか!?」
 かがみはこなたを自分から引き剥がすと、そうじろうの方に詰め寄った。
「おじさん!こなたが言ってた死亡フラグだの、この文章だの、まさか全部…!」
「ああ、そのまさか…」
「お父さん!」
 そうじろうの言葉を遮って、こなたが二人の間に割って入った。
「こなた、俺は…」
「病院に…すぐ病院に行かなきゃ!」
 こなたはそうじろうの腕を掴んで、部屋から連れ出そうとした。
「ちょ、ちょっと待って、こなた!」
 かがみがそのこなたの前に、両手を広げて立ちはだかった。
「どいてよ、かがみ!お父さん病気なんだよ!?」
「こなた、それは…」
「お母さんと同じ病気だからって、どうにもならないことなんて無い!もしかしたら、治るかもしれないんだよ!」
 空いたほうの手で、かがみを押し退けようとするこなた。かがみはその手を押さえつけた。
「だから、それは…少し落ち着いてよ…」
「落ち着いてなんかいられないよ!お父さんが死んじゃうかもしれないのに!」
「こなた、少し話を…」
「落ち着きなさいっ!!」
 その一喝に、部屋の中が静まり返る。その声の主…みゆきに、全員の視線が集まる。
「落ち着いてください、泉さん…」
 みゆきはこなたに、今度は静かにそう言った。こなたは、親に怒られた子供のように項垂れた。
「おじさまの事はすべて嘘…そうですよね?」
 みゆきはそうじろうの方を向いてそう言った。今度はそうじろうが項垂れる。
「そうだ、全部嘘なんだよ…ここに書いてる事全部な」
「お父さん…」
「おじさん、どうしてそんな事を?」
 今度は、かがみがそうじろうにそう聞いた。
「不安になったんだよ。こなたが俺のことをどう思ってるか…こんな父親だ。本当はこなたは俺の事を嫌ってるんじゃないかって…そう思い始めたら、どうにも止まらなくなってな…」
「…それで、こんな方法で試したっていうの?」
「ああ…」
 かがみは、おもむろにそうじろうの胸倉を掴んだ。
「バカかあんたは!あんたがこなたを信じられなくてどうするのよ!?」
「…すまない」
「すむないで済むか!こなたがどれだけ心配したと思ってるの!?それが嘘だなんて…これで本気で嫌われると思わなかったの!?」
「…すまない」
「…こなた!あんたもなんか言ってやりなさいよ!」
 かがみはそうじろうから手を離して、こなたの方を向いてそう言った。このままだと殴りつけてしまいそうだったからだ。
「…お父さん」
 こなたはゆっくりと顔を上げた。その顔は、笑顔だった。
「よかった…よかったよ…」
「ちょ、よかったってなによ?こんな性質の悪い嘘つかれたのよ?ちっともよくないじゃない」
 こなたはかがみに向かって、微笑んで見せた。その目から涙が零れ落ちる。
「嘘だからよかったんだよ…だって、嘘だったらお父さん死なないじゃない…どこにも、行かないじゃない…」
「こなた…」
「よかった…本当に…本当によかった…お父さん…」
 こなたはそのまま泣きじゃくり始めた。そうじろうがその身体を強く抱きしめた。
「こなた…こなたっ!…すまない!本当にすまなかった!」
「お父さん…お父さん…」
 抱き合いながら泣き続ける二人を残して、かがみ達は黙って部屋を出て行った。


 泉家から駅までの道で、かがみは何度目かのため息をついた。
「どうしたの、お姉ちゃん?ため息ばっかり…」
 つかさが、かがみの顔を覗き込みながらそう聞いた。
「ん、いや、ちょっとね…あのおじさんでも子どもに嫌われてるとか、不安になることあるんだなって…」
「そうだね…」
「わたしも、ちょっとは親孝行とかしてみようかな」
「でも、急にそんな事思ってもできないよね」
「そうね…」
「でしたら、まずは元気でいることですね」
 かがみを挟んで、つかさの反対側にいるみゆきが、右手の人差し指を立ててそう言った。
「長生きにまさる親孝行は無し…と言いますから」
「そんなものかしら」
「ええ、だからかがみさんはまず、寿命を縮めかねない無理なダイエットを慎むことから始めましょう」
「…待て。なんでそっちに話が行くんだ?」
「それはわたしも賛成。この前もお姉ちゃん、無理して倒れかけてたし」
 かがみは黙って、左右にいるつかさとみゆきの頬を同時に掴んだ。
「いひゃい!かがみひゃん、なひふるんでふか!?」
「おねえひゃん、はなひてー」
「うるさい。なんかむかついたから、このまま駅まで行くわよ」
「ひょんなー」
「ふえーん、ごめんなひゃいー」




 次の日の朝、かがみ達三人はいつも通りに登校していた。
「こなちゃん、来るかな…」
 つかさがそう呟く。
「うーん…やっぱり少しは引き摺る…」
「おっはよー!かがみ、つかさ、あーんどみゆきさん!」
 後ろから聞こえたこなたの元気な声に、三人は唖然とした表情のまま振り返った。
「あれ?どったの?三人とも変な顔して」
「い、いや…昨日今日でなんでそんな元気になってんだ…?」
 そう聞くかがみに、こなたは頬をぽりぽりとかきながら答えた。
「いやー、まああんまり引き摺るのもアレだから…昨日あれからしっかりと親子の絆というものを、再確認したわけですよ」
「いや…なんで、そこを頬を赤らめるんだ…」
 何故か頬を赤らめつつ、くねくねと身をよじるこなたを、かがみは呆れながら見ていた。
「あ、そうだ。今日からしばらく寄り道とか出来ないから」
 急にくねくねを止めて、こなたがそう言った。
「それは、またなんで?」
「お父さん、体調悪いのだけは本当だったんだよ」
「…え?」
「なんか、少しスランプ気味だったみたい…それでちょっと不安定になって、わたしを疑ったりとかしたみたいなんだ」
「そう…」
「だからね、しばらくは家事全部わたしがやって、お父さんをしっかり休ませてあげようと思ってね」
 かがみは、少し違和感を覚えた。言ってる事は真面目なのだが、こなたの顔が何故か緩んでいたのだ。
「まずは食事だよね。栄養のあるもの食べて、しっかり精をつけてもらわないとねー」
「こなちゃん…なんか嬉しそうだね…」
「そうですね…」
 つかさとみゆきも、こなたの様子がおかしいことに気がつき始めていた。
「えへへ…お父さん、喜んでくれるかなー?」
 またしても、くねくねと身をよじるこなた。かがみ達三人は、複雑な顔でそれを眺めていた。
「ねえ、これってなんだか…」
「ええ、泉さんの様子から見ると…」
「うん、なんていうか…」
「おーい、急がないとそろそろ予鈴なるよー」
 いつの間にかくねくねを止めていたこなたが、遠くから三人を呼んでいた。慌ててつかさとみゆきが走り出し、かがみはその後に続いた。
「…なんか、別のやばいフラグが立ってないか?」
 かがみのその呟きは、予鈴の音に掻き消された。


- 終 -
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