ID:svF5vmo0氏:ゲームと仮想と現実

──ゲーム開始。

1.粛清

 大日本オタク帝国連邦、帝都アキバ、アキバ宮殿

「このこなた。にゃもー陛下のお望みをかなえ、かならずやこの地上にオタクの楽園を築き上げてみせましょう」
「うむ。そうか。よいよい」
 帝国宰相泉こなたは、玉座に鎮座するにゃもー陛下に一礼して、その場をあとにした。

 廊下では、帝国軍事大臣兼帝国連邦軍統合参謀本部総長柊かがみが待機していた。
「あれが、陛下ね」
「こんなゲームに天皇家出すわけにはいかないしね。プログラムで作り上げられたNPC(ノンプレイヤーキャラクター)とはいえ、さすがにやりにくいしさ」
 NPCとはいえこんなゲームに天皇家を出せば不敬というものだ。
 だから、現実世界ではありえない想像上の生き物であるにゃもーをNPCとしてその役に据えたのである。
「まあ、確かにそうね」
 二人連れ立って歩く。
「しかし、すごくリアルよねぇ。まるで本物みたいよ」
 靴の裏から伝わる床の感触でさえ、現実のものと全く同じだ。
 その靴も、いや自分で動かしてるこの肉体でさえ、仮想空間の中に築き上げられたデータでしかないはずなのに。
「五感をほぼ再現してるからね。あらゆる感覚がリアルとは大差ないはずだよ」
 そんな仮想世界の中で、プレイヤーとNPCは、見た目では全く区別がつかない。両者の違いは「我思う。ゆえに我あり」という自意識があるかないかでしかない。自分の意思で動く存在なのか、それともゲームマスターのプログラムとコマンドに従って動くだけの存在なのか、ということだ。

 やがて、宰相室にたどりつく。
 中に入ると、帝国情報大臣高良みゆきが待っていた。
「おや、みゆきさん。何かあったのかな?」
「はい。一部プレイヤーの間で反乱の謀議が進んでおります」
「にゃもー陛下の世界征服のご意向に反対する不届き者は、いったい誰だね?」
 みゆきは、一枚の紙を提示した。
「首謀者は、ゆーちゃんか。まあ、予想通りかな」
「えっ、ゆたかちゃんが?」
「ゆーちゃんは、曲がったことは許せないタイプだからね。仮想世界とはいえ、戦争計画に賛成なんかできないはずだよ。それに、ゆーちゃんには求心力があるしね。私なんかより宰相には向いてるよ」
「で、どうするのよ?」
「反乱が成功しちゃったら、ゆーちゃんの勝ちになっちゃうから、見過ごすわけにはいかないね。もちろん、反逆者の処遇は血の粛清しかありえないよ」
「「……」」

 かがみとみゆきが沈黙する中、こなたは机の上の電話を手に取った。
 通話先は、帝国オタク党直属の工作機関(通称、永森機関)のボスである永森やまとであった。
「永森さんや、こなただけど」
『総裁閣下。何か御用でしょうか?』
 永森機関は帝国国家機関には属さないので、やまとはあくまでオタク党の役職名でそう呼ぶ。
「反逆者の始末をお願いしたいんだけど」
『ああ、その件ですか。高良幹事長には悪いですが、情報は情報省から勝手に盗聴済みです』
 みゆきは、帝国オタク党の幹事長でもある。
「話が早くて助かるよ。あとはよろしく」
『かしこまりました』

 受話器をおく。
「それにしても、意外だったね。みゆきさんなら、あっちにつくかと思ったけど」
「私は、臆病者ですから。権力者には逆らわないことにしております」
「みゆきさん。臆病なのと慎重なのは違うよ。みゆきさんは、慎重なだけさ」
 みゆきは、表情を動かすことなく、こなたの発言をスルーした。
「宰相閣下、粛清対象者については情報省から病気療養中と発表することにします。それでは、失礼いたします」
 みゆきは、情報大臣としての演技に徹して、宰相室をあとにした。
「なんか面白くなりそうだね。みゆきさんは一度入れ込むと結構熱中しちゃうタイプだし、永森さんも意外にノリノリだ」


 それから数時間後。
 みゆきは、廊下でやまととすれ違った。
「御命令どおりにいたしました」
「ご苦労様です」
 交わされた言葉は、ただそれだけだった。


 こなたとかがみが今後の戦略について打ち合わせていた宰相室に、やまとが入室した。
 こなたに敬礼をしたうえで、報告する。
「総裁閣下、御命令どおり粛清を完了いたしました」
「ご苦労。仕事が早いね」
「お褒めに預かり光栄です」
 やまとの演技は、完璧だった。

 そこに、乱入してきた人物が一人。
「こなた! これはどういうことなんだ!?」
 宰相補佐官泉そうじろうだった。
「おや、お父さん。どしたの?」
「どうしたもこうしたもない! 病気療養なんて白々しい。粛清なんて、いくらなんでもやりすぎだろ!?」
「みゆきさんは、もう発表したのか。みんな仕事が早いねぇ」
「こなた!」
「お父さん。いくらゲームだからって、父親の説得で娘が改心するなんて、ベタな展開はありえないよ」
「……」
 こなたはここで、メタ発言を放った素の顔から、帝国宰相のペルソナへと切り替えた。
「帝国連邦政府構成員に許された選択肢は二つだけ。私に従うか私に従うか、私に逆らうかだ。後者を選んだお父さんの処遇は一つしかないよ」
 こなたは、拳銃を抜き、そうじろうに向けた。
「こなた……?」
 信じられないという表情で、そうじろうはこなたを見ていた。
 そうじろうのそれも、演じられたペルソナではあった。そして、こなたも演技をやめる気はなかった。
 そうじろうが娘を改心させようとする立派な父親という役回りなら、こなたは目的のためなら手段を選ばない冷酷非情な政治指導者といったところか。
「お母さんに伝えておいて、こなたはとても悪い子に育ちましたとね」

 銃声一発。

 床に胸から血を流した死体が転がった。
 仮想世界であるにもかかわらず、それはあまりにもリアルだった。今回のゲームでは、再現度の高さには徹底的に拘っているのだ。
 ただし、死ぬときの苦痛は再現されないようにはなっている。その前に意識をシャットダウンして現実世界で覚醒させる仕様だ。
 死ぬときの苦痛まで再現すると実際にショック死しかねないので、その辺の安全性には配慮されていた。

「永森さん。そこの生ごみ片付けといて」
「かしこまりました」
 やまとは、無線で部下を呼び寄せ、そうじろうの死体を片付けさせて、退室していった。
 かがみは、あまりのショックに立ち尽くしていた。
「かがみ、しっかりしてよ。ここは仮想世界なんだからさ。現実と仮想の区別はきちんとつけないとね」
 かがみは、無言のままだった。
 そんなかがみに、こなたは語りかける。
「ここでの私の役回りは、世界征服を目指す鉄血宰相といったところかな。私はそれを存分に楽しむつもりだよ。では、かがみは、ここでどんな役者を演じたいのかね?」
「私の役回りは、あんたの突っ込み役。どこであっても、それは変わらないわよ」
 その言葉は、あまりにも自然に出てきた。かがみには、それ以外の役回りなど思いつきもしなかった。
 自分はブルータスにはなれない。それは分かっていたから。
「それでは、かがみ。わが生涯の友よ。ともに地獄の底まで堕ちようではないか」
 こなたの芝居がかったセリフ。
 演じられたペルソナから放たれたセリフにすぎないはずなのに、とても嬉しいのはなぜなのだろう。かがみには、それが理解できなかった。


粛清者リスト
 小早川ゆたか、岩崎みなみ、八坂こう、黒井ななこ、柊つかさ、日下部みさお、峰岸あやの。加えて、NPC多数。以上、永森機関により粛清。
 泉そうじろう。以上、泉こなたにより粛清。
 いずれも、帝国情報省から病気のため長期療養に入ったと発表された。


 プレイヤーが減ったことから、こなたは、政府組織を再編して、改めて組閣を行なった。

大日本オタク帝国連邦内閣
 宰相   泉こなた
 軍事大臣 柊かがみ(連邦軍統合参謀本部総長兼務)
 軍需大臣 柊かがみ(兼務)
 情報大臣 高良みゆき
 外務大臣 パトリシア・マーティン
 内務大臣 田村ひより
 大蔵大臣 田村ひより(兼務)


 内閣はそれから数日かけて方針を練り上げ、帝国政府組織及び永森機関に伝達していった。
 それが終わった段階で、ゲームマスターから通告が入る。

──これよりステージを5年後に移行します。



2.一心不乱の大戦争

──ステージ移行完了。

 こなたは、宰相室の椅子の上に座っていた。
 机上の電話が鳴り響く。
「もしもし、泉ですけどぉ」
「ハーイ、こなた。帝国外務省よりパッピーなお知らせデース」
 相手は、外務大臣のパティだった。
「何かな?」
「ロシアと中国でオタク革命が成功しまシタ。両国とも、帝国連邦に加入デース」

──ロシアが、大日本オタク帝国連邦への編入を希望してます。
──中国が、大日本オタク帝国連邦への編入を希望してます。

──大日本オタク帝国連邦は、ロシアを併合しました。
──大日本オタク帝国連邦は、中国を併合しました。

 それは、永森機関による工作活動の成果であった。
「永森さん、GJだね。これで、戦争にもめどがたってきたよ」
 ロシアと中国の膨大な戦力を連邦軍に編入すれば、欧米に対しても充分に勝算がある。
 ただし、バッドなニュースもあった。

──アメリカ合衆国が、カナダを併合しました。
──アメリカ合衆国が、中米諸国を併合しました。

 これで、合衆国の国力は増強されたことになる。
 こうなると、合衆国相手の長期持久戦は不可能に近い。ならば、短期決戦しかなかった。


 それから数ヶ月間、連邦軍統合参謀本部では作戦計画の最終的なつめの作業が行なわれた。
 必要な軍の展開も密かにかつ順調に進められた。情報省の防諜活動は完璧に遂行され、連邦軍の動きが漏れることはなかった。
 とはいえ、適宜ステージ移行が行なわれたので、その間のプレイヤーの体感時間は1日にも満たなかったが。
 すべての準備が完了した日、こなたの上奏を受けて、にゃもー陛下より開戦の詔勅が下った。


 開戦の日。
 こなたとかがみは、宙空両用機「みさお」に搭乗して、衛星軌道上を周回する連邦軍宇宙戦闘集団軌道基地「かなた」へと乗り込んだ。
 こなたは、司令部の宰相用にあつらえた席にゆったりと座った。
 その下の席にかがみが座る。

 こなたは、インターカムを手に取った。
 これから、帝国連邦軍の全兵士に向けて、演説を行なうのだ。

『大日本オタク帝国連邦軍兵士諸君!

 諸君、私は戦争が好きだ
 諸君、私は戦争が好きだ
 諸君、私は戦争が大好きだ

 ザコ戦が好きだ
 ボス戦が好きだ
 異種格闘技戦が好きだ
 敗者復活戦が好きだ
 騎馬戦が好きだ
 紅白歌合戦が好きだ
 猿蟹合戦が好きだ
 編集合戦が好きだ
 雪合戦が好きだ

 二次元で、三次元で、
 異世界で、マンガで、
 ラノベで、スペオペで、
 テレビで、ニコ動で、
 アニメで、ゲームで

 いろんな世界で行われるありとあらゆる戦争行動が大好きだ

 ヤマトの艦首波動砲の一斉発射が轟音と共にガミラス艦隊を吹き飛ばすのが好きだ
 抵抗できない敵艦がばらばらに消し飛ばされた時など心がおどる

 ガンキャノンの操る240mm低反動キャノン砲が敵MSを撃破するのが好きだ
 悲鳴を上げて火花を散らすMSから飛び出してきた敵兵を
 60mmバルカン砲でなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった

 ビームサーベルを構えたガンダムが敵のザクを蹂躙するのが好きだ
 恐慌状態のアムロが既に息絶えた敵ザクを何度も何度も刺突している様など感動すら覚える

 第2使徒リリスを十字架上に吊るし上げていく様などはもうたまらない

 泣き叫ぶシンジがゲンドウの降り下ろした手の平とともに
 エントリープラグに詰め込まれ無理やりエヴァに乗せられるのも最高だ

 哀れなケロロ達が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを
 核ミサイルが都市ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える

 敵使徒を滅茶苦茶にするのが好きだ
 必死に守るはずだった人類が蹂躙されサードインパクトにさらされる様はとてもとても悲しいものだ

 フランドールSの弾幕を圧倒し殲滅するのが好きだ
 弾幕に身を縮こませ害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ

 諸君、私は戦争を、地獄の様な戦争を望んでいる
 諸君、私に付き従う連邦軍兵士諸君
 君達は一体何を望んでいる?

 更なる戦争を望むか?
 情け容赦のない糞の様な戦争を望むか?
 鉄風雷火の限りを尽くし二次元世界の萌えキャラを殺す嵐の様な闘争を望むか?』


 こなたは、ここでいったんインターカムのスイッチを切った。
 司令部のスピーカーから、各地の将兵の声がダイレクトで流れてくる。

「戦争!! 戦争!! 戦争!!」
 その単語だけがひたすら繰り返されていた。

「いいねぇ。この狂気こそがまさに戦争だよ」
 こなたは、ニヤリと笑みを浮かべた。
 そして、再びインターカムのスイッチを入れる。


『よろしい、ならば戦争だ

 我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとするトールハンマーだ
 だが平和ボケ日本の底辺で一世紀もの間堪え続けてきた我々にただの戦争ではもはや足りない!!

 大戦争を!! 一心不乱の大戦争を!!

 我らは総兵力400万を超える軍団である

 しかも諸君は一騎当千のミリオタだと私は信仰している
 ならば我らは諸君と私で総兵力400万と1人の世界最強のミリオタ軍団となる

 我々を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている平和妄想家どもを叩き起こそう

 髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう
 連中に恐怖の味を思い出させてやる
 連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる

 三次元と二次元のはざまには奴らの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる

 400万人のミリオタの軍団で
 世界を燃やし尽くしてやる

 帝国宰相より連邦軍全軍へ

 アキバの曙作戦、状況を開始せよ

 征くぞ、諸君!』


 かがみは、またなんかのネタなのだろうと呆れつつも、インターカムを手にとった。
「帝国連邦軍全軍に下令。アキバの曙作戦を開始せよ」


──大日本オタク帝国連邦は、アメリカ合衆国に宣戦を布告しました。
──大日本オタク帝国連邦は、EU諸国に宣戦を布告しました。
──大日本オタク帝国連邦は、中近東諸国に宣戦を布告しました。


 連邦軍ロシア方面軍(旧ロシア軍)がヨーロッパ方面へ、中華方面軍(旧中国軍)が中近東方面へ侵攻を開始した。
 だが、これらの動きは陽動にすぎない。本当に大事な作戦行動は、海中と宇宙で始まっていた。

 連邦軍潜水戦闘群の「ななこ」級攻撃型潜水艦が、情報省からの情報に基づき開戦前より追尾していた敵国戦略原潜を全隻撃沈。
 敵国は、海中からの核攻撃能力を完全に喪失した。

 ハワイ北方沖では、潜水戦闘群の「あやの」級潜水空母が浮上し、完全無人戦闘攻撃機「ゆきかぜ」5機を放った。
 海面スレスレの低空をハワイに向けて突き進む。
 この5機のうち1機には、核ミサイルが内臓されていた。
 こんな回りくどいことをせずとも潜水艦から核弾頭搭載の巡航ミサイルを放てばよさそうなものだが、問題がひとつだけあった。核兵器の最終運搬手段のステルス化を禁じたベルン条約の存在だった。
 核弾頭搭載の巡航ミサイルは、ステルス化不能なのだ。これはゲームシステム上の制約でもあり、プレイヤーがどんなに頑張ってもどうしようもない。
 ならば、戦闘攻撃機に核ミサイルを内臓して、戦闘攻撃機の方をステルス化すればいい。核兵器の最終運搬手段はミサイルであって、戦闘攻撃機ではないから、それは可能だった。そして、完全無人化すれば、核ミサイルを機内に内臓したまま起爆させても何の問題もない。
 ステルス化しているとはいえ、ハワイ上空まで到達すれば、赤外線探知装置には引っかかる。空中を高速で移動する物体が熱を放たないことなど不可能だからだ。
 合衆国軍ハワイ駐留軍の防空システムが起動し、対空ミサイルを打ち上げてきた。
 5機の「ゆきかぜ」は、上昇しながら赤外線フレアを撒き散らした。いくつかの対空ミサイルがそれに反応して誤爆する。
 なおも迫ってくる対空ミサイルの軌道をコンピューターで解析した4機の「ゆきかぜ」が、自ら盾になって1機を守った。
 最後の1機が所定の高度に到達、内臓していた核ミサイルを起爆させた。
 広島型原爆の1000倍の威力をもつ核融合爆発が、ハワイ諸島を地獄へと変えた。

 同様の攻撃は、グァムの合衆国軍基地に対しても行なわれた。
 この二箇所の攻撃は、連邦軍の制宙権の確保を待たずに、太平洋上の敵戦略爆撃機基地を叩きつぶして、敵空軍の核攻撃能力を奪うことが目的だった。

 一方、衛星軌道でも戦闘が勃発していた。
 連邦軍の宙空両用機「みさお」が次々と衛星軌道に到達し、敵国の攻撃衛星や偵察衛星をレーザー砲で片っ端から撃墜していく。
 それは、冷戦期の合衆国におけるスターウォーズ計画のお株を奪うものだった。帝国連邦は、この5年間、その工業力と技術力と経済力のほぼすべてを宇宙戦力の整備に注ぎ込んでいたのだ。
 2時間ほどの戦闘で、連邦軍宇宙戦闘集団は、衛星軌道上の制宙権を完全に掌握した。
 偵察衛星群を失った敵国は、ミサイル防衛システムのかなめを奪われ、ミサイル防衛能力のほとんどを喪失した。
 大陸間弾道ミサイルに対しては上昇段階における早期発見早期撃墜がベストだ。大気圏再突入後は撃墜が難しくなるし、その難しい撃墜を成功させるためには、やはり偵察衛星による早期発見が欠かせない。
 宇宙戦闘集団の攻撃衛星は、敵国の残りの戦略爆撃機基地に核攻撃を行ない、そのすべてを壊滅させた。ミサイル防衛能力を喪失した敵はこれを防ぐことができなかった。
 続いて、海上に出ている敵艦隊に核攻撃を実施、これも壊滅させた。
 これで、宇宙戦闘集団が保有する核兵器は残り20発だけとなったが、連邦軍統合戦略軍にはまだ、旧ロシア軍と旧中国軍から編入した大量の大陸間弾道ミサイルがある。
 次の攻撃目標は、当然、敵国の大陸間弾道ミサイル基地となるはずだった。


──EU諸国は、降伏を申し出ました。
──中近東諸国は、降伏を申し出ました。


「うーん、もう降伏か。EUと中近東の好戦度の設定はちょっと低すぎるね。まあ、それはともかく、これは受け入れてもいいかな」
 こなたは、降伏を受け入れることとした。

──大日本オタク帝国連邦は、EU諸国を併合しました。
──大日本オタク帝国連邦は、中近東諸国を併合しました。

 それを受けて、かがみが命ずる。
「ロシア方面軍と中華方面軍に停戦命令。自衛目的以外の戦闘行動を停止し、降伏国に進駐せよ」
 そして、こなたを見上げる。
「アメリカはどうするの?」
「米帝様が簡単に降伏するはずがないよ。その証拠に、ほら来たっ」
 司令部正面の情報スクリーンに、情報が提示された。

『宇宙戦闘集団提供。アメリカ合衆国本土より大陸間弾道ミサイル多数発射を確認』

「ミサイル防衛システム起動」
 かがみはとっさにそう命じた。
 連邦軍の所定の兵器が、統合戦略軍ミサイル防衛システム「オモイカネ」の指揮下に収められる。主になるのは、宇宙戦闘集団、地上の対空兵器群、そして海上機動戦闘集団のイージス艦だ。

 情報スクリーンに、合衆国の大陸間弾頭ミサイルの総保有数が表示され、その横に既に打ち上げられたミサイルの累計数がカウントされていた。そのさらに横には、撃墜数も。
 この勢いからして、いちかばちかで全ミサイルを投入する気であることは確実だった。

「ちょうどよかったかな。ミサイル基地を破壊する手間が省けたしね。これをすべて撃墜すれば、米帝様はご破算だ」
「そんなにうまく行くとは限らないわよ。アメリカの弾道ミサイル全部がいっぺんに来たら、ミサイル防衛システムの対応能力を超えるわ」
「まあ、戦争だからね。都市のひとつやふたつの犠牲はやむをえないよ」
 こなたは、そういいながら、チョココロネを食べていた。
「かがみも、チョコでも食べなよ。今日はずっと何も食べてないじゃん」
「そんな気分になれないわよ」
 五感が再現されるだけに、空腹感も再現されるのは確かなのだが、かがみは今日に限っては全く空腹を感じていなかった。
「このチョココロネの味の再現度は素晴らしいね、うん」
 いくら仮想空間だとはいえ、核戦争のさなかにそんなことをのたまうことができるこなたは、やはり大物というべきか。

 宇宙戦闘集団は、宙空両用機「みさお」と「ひかる」型攻撃衛星、そして「かなた」のレーザー砲まで注ぎこんで、弾道ミサイルを次々と撃墜している。
 情報スクリーンに新たな情報が映し出された。

『宇宙戦闘集団提供。アメリカ合衆国本土より、エアフォースワンの離陸を確認』
『情報省提供。エアフォースワンの搭乗者は、副大統領、国務長官、空軍参謀総長の模様』

「大統領閣下は、ホワイトハウスの核シェルターにこもったかな? どちらにしてもガチで核戦争をやる気なのは確実だね」
「どうするのよ?」
「今はミサイル防衛が最優先だよ。でも、可能な限りエアフォースワンの位置は把握しておいて」
「了解」

 緊迫した雰囲気が司令部を支配していた。
 かがみには、1分が1時間にも感じられるほどだった。

 突然、アラートが鳴り響いた。
『オモイカネより警告! 日本本土防衛の対応能力が限界に達しつつあります』
 アメリカも心得たもので、核ミサイルの80%を日本本土への攻撃に集中していた。その結果がこれだ。

 対応策は、かがみではなく、こなたが直接命じた。
「システムリソースの80%を日本本土防衛に集中。日本本土防衛プログラムをアキバ集中防御モードに切り替えよ」
 それでは、他の地方の防御が薄くなる。
 かがみがこなたの方を見た。
「忘れたのかい? かがみん。連邦政府側のプレイヤーにとっては、にゃもー陛下の玉体が消し飛んだら、それでゲームオーバーなんだよ」
「……」
 かがみは、沈黙するしかなかった。
「それに、地上で留守を守ってるみゆきさんやひよりん、パティに永森さんも守らないといけないしね」
「分かったわよ」
 かがみは、帝国宮内庁に、宰相の名で、にゃもー陛下と閣僚をアキバ宮殿地下の核シェルターに避難させるよう命じた。

『宇宙戦闘集団提供。
 日本本土、札幌にて、核爆発発生。
 日本本土、大阪にて、核爆発発生。
 ロシア方面、ウラジオストックにて、核爆発発生。
 ロシア方面、サンクトペテルブルクにて、核爆発発生。
 中華方面、北京にて、核爆発発生。
 中華方面、香港にて、核爆発発生。
  ・
  ・
  ・



──諸都市壊滅により、大日本オタク帝国連邦の経済力は、50000減少しました。
──諸都市壊滅により、大日本オタク帝国連邦の工業力は、50000減少しました。
──諸都市壊滅により、大日本オタク帝国連邦の技術力は、2000減少しました。
──諸都市壊滅により、大日本オタク帝国連邦国民の不満度は、40%上昇しました。
──諸都市壊滅により、大日本オタク帝国連邦国民の好戦度は、50%上昇しました。


「結構やられたね。さすがは腐っても米帝様だ」
「何呑気なこと言ってるのよ。このままじゃ、やられちゃうわよ」
「大丈夫だよ。もうすぐ、打ち止めだから」

 弾道ミサイルの打ち上げ数のカウントが、総保有数に一致した瞬間。
 弾道ミサイルの打ち上げが止まった。
 そしてまもなく、そのほとんどが打ち落とされた。
 最後に炸裂した核ミサイルは、誘導装置が狂って太平洋のど真ん中に着弾したものだった。

 それを確認したうえで、こなたは命じた。
「神々の黄昏作戦2号を発動せよ」
 それは、アメリカ合衆国本土全域に対する全面核攻撃作戦だった。
「ちょっと、こなた。アメリカにはもう反撃能力がないんだから、降伏を勧告すれば……」
「駄目だよ、かがみん。国民の不満度と好戦度が急上昇してる。この状況で、降伏を受け入れれば、それが無条件降伏であったとしても、連邦全土で大暴動が起きるよ。軍を投入しても鎮圧は不可能だろうね。軍の兵士も、暴動側に加担するだろうから」
「そんな……」
「連邦国民の声はこうだよ。アメリカの不遜な核攻撃に対して報復を。それを無視すれば、私がつるし上げられちゃうよ」
 それは、このゲームの残酷なシステムだった。

 統合戦略軍戦略攻撃システム「アトム」からの指令に従って、ロシア方面と中華方面から次々と大陸間弾道ミサイルが打ち上げられた。

 それと平行して、宇宙戦闘集団の「ふゆき」型偵察衛星がアメリカのエアフォースワンをレーザーレーダーでロックオンした。
 こなたは、攻撃衛星からの投下核ミサイルを10発に指定。
 その途端にシステムから警告が発せられた。
『アトムより警告! 攻撃目標に対して投入戦力が過剰です』
「続行」
 空中に退避していたエアフォースワンは、レーザーレーダーによる精密誘導で周囲100メートルに集中した10発の核ミサイルの一斉爆発によって、跡形もなく消滅した。

 その後、アメリカ合衆国本土全域が核爆発にさらされた。
 連邦軍の核攻撃は、アメリカの地表からありとあらゆる人工物と自然物を消滅させ、すべてを更地に変えんばかりの勢いだった。

『宇宙戦闘集団提供。ワシントンDCの都市部壊滅を確認。周辺を含む対空兵器は全滅したものと認められる』

 情報スクリーンでそれを確認すると、こなたは命じた。
「ホワイトハウス跡地に核ミサイル10発を着弾炸裂モードで投下せよ」
 都市に対する通常の核攻撃では、地表から一定の高度(数十から数百メートル)をもって起爆させる。しかし、それでは地下の頑丈な核シェルターが無事で残る可能性も少なくない。
 しかし、地表に着弾してから(可能ならば地面にめり込ませてから)起爆させるようにすれば、地面をまるごとえぐることができ、地下の核シェルターへもダメージを与えられる。
 このような核攻撃を10発も食らってもつ人工物など、まず存在しないはずだった。それを実現するには、ヒマラヤ山脈の地下深くに核シェルターを作るぐらいでないと駄目だ。
 10発の核ミサイルは、攻撃衛星から時間をおいて次々と投下された。レーザーレーダーによる精密誘導によって、全弾命中。合衆国政府は完全に消滅した。

 その間も、合衆国全土に対する核攻撃は続いていた。
 偵察衛星のカメラが捉えた地上の映像が情報スクリーンに映し出される。
 核爆発によって、吹き飛ばされる建物、人。

 それを見て、こなたが哄笑しながら、のたまわった。
「見ろ!! 人がゴミのようだ!!」
 かがみが、呆れた顔をする。
「あんたって、こんなときでもネタを欠かさないのね」
「それに律儀に突っ込むかがみも同類だよ」
「……分かってるわよ、そんなことは」
 かがみは、まさに地獄の底にまで堕ちたような気分だった。
 これが仮想世界の出来事だと分かってはいても……。

 核攻撃が終了したあと、こなたは、連邦軍海上機動戦闘集団に北アメリカ大陸の完全封鎖を命じた。
 核シェルターなどに生き残っている人間がいるかもしれないが、帝国連邦には人道的支援をする余裕などない。生き残っている人間も、餓死するにまかせるつもりだった。


──インドが、大日本オタク帝国連邦への編入を希望してます。
──オーストラリアが、大日本オタク帝国連邦への編入を希望してます。
──東南アジア諸国が、大日本オタク帝国連邦への編入を希望してます。
──南米諸国が、大日本オタク帝国連邦への編入を希望してます。
──太平洋諸国が、大日本オタク帝国連邦への編入を希望してます。
   ・
   ・
   ・
   ・


 制宙権を掌握し充分すぎる核攻撃能力を保持している帝国連邦にかなう国家はもはや地球上には存在せず、残りの独立国もいっせいに帝国連邦への編入を希望した。
 帝国連邦のそのすべてを受け入れた。
 こうして、アフリカ大陸と北アメリカ大陸を除く世界全域が帝国連邦の支配下に入った。



3.魔弾の射手

 大日本帝国連邦、帝都アキバ、アキバ宮殿

 戦争終結の翌日。
 宮殿前広場には、連邦軍兵士が整列していた。
 これから、帝国連邦の世界統一記念式典が行なわれるのであった。

 閣僚たちが宮殿のテラスに出てきた。
「結局、私は今回は出番なかったッスね」
 ひよりがつぶやく。
「いやいや。ひよりんが内政をまとめてくれたから、安心して戦争ができたというものだよ。陰の功労者だね」
「そんなもんスか」
「世界征服が完了しちゃったら、外務大臣は失業デス」
「どうせ、すぐにエンディングでしょ」
 かがみが突っ込む。

 式典が終われば、ゲームも終わる。
 この場にいるプレイヤーの多くがそう思っていた。
 しかし、こなたは入念に警戒していた。永森機関に命じて、今日の警備体制については厳重にチェックさせている。抜けはないはずだ。
 ここにこうしてみゆきも伴っている。めったことはできないはずだった。

 みゆきは、テラスに出ると、空を見上げた。
 真っ青な快晴だった。
(英雄が非業の最期を遂げるには、ふさわしい天気ですよ、泉さん)
 そんなことを思う。
(かがみさんには到底及ばないでしょうが、私もお供いたします、地獄の底まで)

 テラスにずらりと閣僚が並ぶ。
 こなたが前に出て、宮殿前広場に整列する兵士たちに見下ろし、演説を始めた。


 アキバ宮殿北方尖塔最上階。
 やまとは、そこから宮殿を見下ろしていた。
 手には、ライフル銃が握られている。
「ボスが自ら仕事に手をつける必要はないのでは?」
 二人の部下のうちの一人がそう発言した。
 二人とも、ライフル銃を手にしている。
「高良幹事長の最重要命令ですからね。ここはやはりボスがしっかり決めるべきでしょう」
「そんなもんですか」
 この部下たちは、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)──仮想世界に作り上げられたデータにすぎない。
 それでも、会話は自然に成立していた。
 やまとは、なんとなく、昔読んだSF小説の一節を思い出した。

『進歩した科学は魔法と区別がつかない』

 まさに、ここはそんな世界だ。

 やまとは、仕事にかかる前に最終確認を行なった。
「機関員の帝都から退避は?」
「完了しております。残っているのは我々三人だけです」
「特別監禁対象の釈放は?」
「手配済みです。我々の仕事が終わり次第、釈放されるでしょう」
「私たちの逃走経路は?」
「足がつかない経路を確保してます」
「では、手早く仕事をすませましょう」
 三人は、窓からライフル銃をかまえた。
 現実世界では、素人がこの手の小火器を扱うと肩を脱臼しかねないのだが、この仮想世界ではそのようなことがないように設定されている。
 命中精度についても心配はない。この仮想世界では、プレイヤーは誰でもゴルゴ13なみの精度で狙撃できるようにチート設定されていた。
 誰でも、魔弾の射手になれる。ここは、そういう世界だった。

 この日の警備体制は、永森機関が事前チェックしており、完璧であるはずだった。
 問題は、泥棒が泥棒を見張っているも同然な状態だったことだ。
 こなたは、みゆきとやまとが内通している可能性を全く考慮していなかった。なぜなら、永森機関と帝国情報省は互いに牽制しあう関係であるはずだったから。
 標的には、この命令を下したみゆきも入っている。みゆきからの命令を受ける際に、やまとが出した条件がそれだった。
 みゆきが生き残ったら、みゆき率いる情報省とやまと率いる永森機関との間で抗争が起きるのは確実だった。やまとには、それに勝てる自信がなかったのだ。

 銃声3発。
 こなた、かがみ、そしてみゆきの眉間に銃弾が貫通し、三人をこの仮想世界から現実世界へと昇天させた。

「さぁ、逃げるわよ」
 やまとは、もちろん、華麗に勝ち逃げを決めるつもりだった。


 アキバ宮殿のテラスは、恐慌状態にあった。
 ひよりとパティはただおろおろするばかり。
 混乱のさなかにあるそこに、新たな人影が現れた。
 小早川ゆたか、岩崎みなみ、八坂こう、黒井ななこ、柊つかさ、日下部みさお、峰岸あやの。
 全員、目の前の惨状に唖然としていた。
 そして、ひよりとパティは、この世界からいなくなったはずの人たちの姿を見て、ぽかーんとしていた。
 沈黙状態からいち早く回復したのは、ななこだった。このメンバーの中では、この手のゲームには一番慣れていたから。
「とりあえず、そこの死体を誰かに片付けさせぇや。つもる話は落ち着いてから、会議室でやればええやろ」
 その言葉に、みんななんとかうなずいた。


 1時間後、アキバ宮殿、会議室。
 ゆたかたち側の事情は、こうが説明した。
「隠れ家でクーデター計画を練ってたところに、やまとが乗り込んできてな。こりゃやられたぜと思ったんだけど、やまとが『殺しはしないわ。でも、牢屋に入ってもらうわよ』ってな。高良幹事長の命令だって言ってたな」
「高良先輩の指示だったんスか?」
 ひよりの質問は、ななこが受けた。
「そうみたいやで。高良は高良で何か考えがあったんだろうな。それはともかく、監禁された日から今日まで一気にステージ移行されたと思ったら、牢屋の電子錠が自動的に開いて、出てこられたんや。そういうわけで、うちらは浦島太郎みたいなもんやで。今まで何があったか説明してくれや」
 これまでの経過は、ひよりとパティが説明した。

 その説明が終わったちょうどそのとき、情報省の人間が入室してきた。
「失礼いたします」
「なんや?」
「高良情報大臣の死体を調べていたところ、このようなものが見つかりまして」
 ななこは、差し出された封書を受け取った。
 表には次のように書かれていた。
『みなさんへ、高良みゆきより』
 ななこは、封を切り便箋を取り出して広げた。
 みんな頭を付け合せるように寄り添い、中身を読み始めた。


『親愛なるみなさんへ。

 みなさんがこの手紙を読んでいるとき、私はもうこの世界にはいないことでしょう。
 計画がうまく運べば、泉さんやかがみさんとともに消えているはずです。
 お二人を排除するには、このタイミングとこの方法しかないと判断してのことです。永森さんに指示して、実行していただきました。
 永森さんは、たぶん、うまく逃げおおせていることでしょう。
 私も一緒に逝くことにしたのは、なんというべきでしょうか、そういう気分だったからとしかいいようがないですね。こんな負け逃げみたいなやり方は、少々卑怯という気もしますが、ご容赦いただければ幸いです。
 この後のことですが、小早川さんに組閣の大命が下るように手配してあります。エンディングまでは時間的な余裕はそれほどないでしょうが、お好きなようにしてみてください。
 このゲームでの勝利をなおも望むのであれば、永森さんを逮捕することが条件となるでしょう。もし捕まえたとしても、寛大なる処遇をお願いします。永森さんは私の指示に従っただけですから。
 それでは、残りの時間を有意義にお過ごしください。

高良みゆき』


 読み終わった瞬間、こうは情報省の人間にこう命じた。
「誰でもいいから永森機関の人間をすぐに探し出して捕まえろ! やまとの逃亡先の情報をつかむんだ!」
「かしこまりました」
 情報省の人間はそういうと一礼して去っていった。
「八坂は、情報大臣決定やな」
 ななこがそう突っ込む。

 情報省の人間と入れ替わりに、宮内庁長官が入室してきた。
「小早川閣下に組閣の大命が下りました。すみやかに、にゃもー陛下のもとに参内願います」
「私でいいの?」
「泉への反乱計画の首謀者が何いうとるねん。この流れからして、リーダーは小早川しかおらへんやろ」
「まあ、そうだよなぁ」
 みさおが賛意を示す。
「私もそう思うよ」
 つかさが続く。
 あやのは黙ってうなずいた。
 ひよりやパティも異存はないようだった。
「ゆたか。私も手伝うから、大丈夫」
 みなみがそういうと、ゆたかはうなずいた。


大日本オタク帝国連邦内閣
 宰相   小早川ゆたか
 官房長官 岩崎みなみ
 大蔵大臣 岩崎みなみ(兼務)
 情報大臣 八坂こう
 外務大臣 パトリシア・マーティン(飢餓戦災復興援助担当宰相補佐官兼務)
 軍事大臣 日下部みさお(連邦軍統合参謀本部総長兼務)
 警察大臣 黒井ななこ
 産業大臣 柊つかさ
 文部大臣 田村ひより
 厚生大臣 峰岸あやの


 内閣の基本方針を固めた段階で、ゲームマスターから通告があった。

──ステージを1年後に移行します。



4.エンディング

──ステージ移行完了。

 あやのは、厚生大臣室で書類の決裁をしていた。
 一枚の書類に手を止める。それは、放射線障害治療技術の研究の進展状況を示す報告書だった。
 こなた宰相時代は技術力のほとんどを軍事に回していたため、この方面の研究はおろそかにされていたが、今は潤沢な予算も確保され、研究は精力的に進められていた。
 旧合衆国本土から何とか救出された生き残りのうち少なからぬ人々が、放射線障害で苦しんでいた。日本本土を含む帝国連邦も、核攻撃を受けた都市は多数あり、放射線障害で苦しむ人々が多く存在していた。
 その人々を何とかして救いたいというのが、ゆたか宰相の意向であった。
 たとえNPC──仮想世界の人工人格が相手であっても、ゆたかには見捨てることなどできなかったのだ。

 みさおは、軍事大臣室で忙しく働いていた。
 世界征服が成れば軍隊なんて暇になりそうなものだったが、そうはならなかった。
 アフリカ大陸に進駐して軍政をしいている関係で仕事は山ほどあった。大飢饉と社会情勢の悪化で大陸全域が無政府状態となっているアフリカ大陸は、軍政をしく以外に秩序を回復する方法がなかったのだ。
「予算足んねぇ。みなみちゃんに頼むしかねぇな」

 開店休業中なのは、パティ外相だった。国外といえば、北アメリカ大陸とアフリカ大陸だけだが、どちらも国家の体をなしてない。
 その代わり、飢餓戦災復興援助担当宰相補佐官としての仕事は大忙しだった。
「アフリカ支援の予算が足りませんネ。みなみんにお願いするしかアリマセン」
 アフリカ支援の仕事をこなしつつ、旧合衆国の復興計画にも取りかかっていた。
 仮想世界だとしても、自分の祖国である。復興への思いは誰よりも強かった。おそらく、ゲーム終了までに見込みを立てることすらできないだろうが、それでもパティは計画立案作業をやめることはなかった。

 つかさは、産業大臣室で書類の決裁をしていた。
 産業省は農業も管轄しており、アフリカへの食糧支援物資の確保も産業省の仕事になっていた。
 アフリカ大陸は援助物資を飲み込むブラックホールのような存在で、いくら物資を注ぎ込んでも足りない状態だった。
 とにかく、予算が足りない。つかさにさえそれが容易に理解できるほどだった。
「みなみちゃんに予算を頼まないと」

 ななこも、警察大臣として忙しく働いていた。
 アフリカや旧合衆国などへの支援の予算確保のために増税につぐ増税を繰り返しているせいで、国民の不満度はじわじわと上昇している。そのせいで、連邦内には犯罪が多発しており、連邦警察はその取締りで年中大忙しだった。

 ひより文部大臣もまた忙しく働いていた。
 国民の不満度の上昇を少しでも抑えるために、アニメやマンガ、同人誌やフィギュアを大量に供給しなければならず、大臣自ら同人誌の原稿を書かねばならないありさまだった。
 まあ、ひよりの場合は、それが本業みたいなところはあるが。

 ゆたかとみなみは、視察という名目で北アメリカ大陸にいた。
 1年もたてば放射能汚染度はだいぶ低くなっていたが、二人とも念のため放射能防護服に身を包んでいる。
 この視察は、ゆたかのたっての希望だった。現実の世界では絶対に見ることがないであろう(そして、あってはならない)光景、核戦争の惨禍を目に焼き付けておきたいというのがその理由だった。
 一面に広がる赤茶けた大地。それ以外には何もなかった。
 本当に、ただそれだけの光景がそこには広がっていた。
「これは、こなたお姉ちゃんがやったことなんだよね。現実の世界と仮想世界は別物だってことは分かってるけど。私だってテレビゲームだったら、きっとゲームだと割り切って何とも思わないだろうなぁって……」
「……」
「こなたお姉ちゃんだって、現実の世界じゃ、こんなことは絶対にしないよ。お父さんや友達を殺したりはしないし、戦争をしたりもしない。でも、仮想世界だったら全部あっさりやっちゃうんだ。だとしたら、私のこの気持ちも偽善なのかなぁとか……」
「現実の世界と仮想世界は別物。現実の世界でやってはいけないことは、ゆたかも泉先輩もやらない。それで充分だと思う」
「うん……ありがとう、みなみちゃん。たぶん、もうすぐこのゲームは終わりだろうけど、八坂先輩は最後まで粘るつもりかな?」
「おそらく」

 こう情報大臣は、最後の最後まで粘っていた。
 永森機関とやまとを捕まえるべく、情報省の総力を注ぎ込んでいた。
 この1年の間にも、反帝国の策謀の首謀者が不可解な死を遂げる事件が少なからず起きており、そこには永森機関の影がちらりとのぞくことがあった。だが、永森機関の連中は決して尻尾をつかまれることなく、見事に逃げおおせていた。
 もちろん、やまとの行方はいまだ分からず。
「くっそー! やまとのやつ、どこに行きやがったんだよぉ!」


 日本本土、某都市。
 やまとは、そこで一般人と変わらぬ普通の生活を送っていた。
 逃げ隠れるなら人里離れたところをイメージするのが普通だろうが、そういうところでは人間の存在自体が目立つ。
 木を隠すには森。人を隠すには人が多く住んでいるところが望ましい。
 やまとはこの仮想空間では裏世界の住人であり、その顔を知っている者は少ない。怪しまれるような行動をとらずに普通に暮らしていれば、まずバレることはなかった。まあ、戸籍と住民票の偽造だけはやってあるが。
 永森機関への指示は極秘の通信手段を用いており、帝国情報省に尻尾をつかまれるようなヘマはしていない。
 こうが情報大臣に就任して、自分を血眼になって探していることも、知ってはいた。
「ねぇ、こう。私を必死に探してるのは、私が友達だから? それとも、私に負けるのが嫌だから?」
 そんなことをつぶやいてみる。
 もちろん、後者だという確信はあるが。


──まもなく、ゲームを終了します。
──10、9、8、7、

 パティは、外務大臣室の窓、北アメリカ大陸の方向を向いている窓から外を眺めていた。
 みさおは、机のうえに突っ伏してダレていた。
 ななこは、慣れたもので、静かに目をつぶった。
 つかさは、どうしたらよいか分からずおろおろしていた。
 あやのは、自分で作ったクッキーの味、仮想世界のそれの再現度に感心していた。
 ひよりは、ひたすら原稿を書いていた。
 ゆたかとみなみは、赤茶けた大地を目に焼き付けてから目をつぶった。
 やまとは、ソファに腰をかけ、ゆっくりと目をつぶった。
 こうの叫び声が、帝都アキバに響き渡る。

──6、5、4、3、2、1……

──ゲーム終了。
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。