ID:3Fg.4Cc0氏:悪い夢

 夢を見た――



 それは、とても嫌な夢だった。

 夢の中の私は、小さなガラス窓以外何も無い真っ白な部屋の中に居た。
 窓から外の様子を窺うと、そこには通学スタイルの友人達の姿があった。
 友人達は楽しそうにおしゃべりをし、ふざけあい、笑っていた。
 私はその輪に加わりたくて部屋の中から声を掛ける。
 しかし、私の声がみんなに届かないのか、こちらに気が付いてもらえない。
 ふいに誰かの声が聞こえた。

『お前がいなくても、みんなああして笑っていられるんだ。お前はいなくてもいいんだ』

 夢の中の私は、その声のせいで次第に不安になっていく。
 その声が伝えてきたとおりに自分は不要な存在なのではないか、と考え始めてしまったからだ。
 不安を振り払うように窓を叩き、大声でみんなに呼びかける。
 一刻も早く気付いてもらいたい。
 一刻も早く窓の向こうのみんなと話がしたい。
 一刻も早く自分の存在を誰かに認めてもらいたい。
 必死になってみんなの名前を呼ぶのだが、誰もこちらを見ることさえしない。
 誰かの声がまた聞こえた。

『お前がいないからこそ、みんなああして笑っているんだ。お前はむしろいらないんだ』

 私の頬をいくつもの涙がつたい落ちる。
 違う。
 私はいらない子なんかじゃない。
 みんなの隣に私の居場所はちゃんとあるはずなんだ。
 私は拳がボロボロになるまで窓を叩き、喉が痛くなるまで叫んだ。
 しかし、いくら泣き叫んでも誰1人として私に気が付くことは無かった。
 夢の中の私は、疲れ果てて床に座り込んでしまう。

 これだけ叫んで少しも気がつかれないなんておかしい。
 ああ、そうか。
 もしかしたら、みんなは敢えて私に気が付かないフリをしているのかもしれない。
 私がいらない子だから。
 私が居ない方がみんな笑っていられるから。

 ガラス1枚を隔てた空間で、友人達は笑い続け、私は泣き続けた。

 それは、本当に嫌な夢だった。

 何故こんな夢を見るのか、その原因に心当たりは……ある。
 おそらくは、昨日の出来事が原因なのだろう。
 私を含めたいつもの4人組が大恥をかいてしまった昨日のあの出来事。
 あれが精神的に私を追い詰めているのだろう。
 確かに私にも悪いところはあった。
 しかし、私はあの結果を望んでいた訳では無いし……そもそも発端は私では無かった。

 そう、発端はアイツだ。
 本をただせばアイツが悪い。

 そうだ、アイツが悪いんだ!
 私よりアイツの方が悪いんだ!
 なのに何故、私がこんな夢まで見て苦しまなければならないのだろうか。
 本当にいらないのは私ではなくアイツの方だというのに……

 ……みんなは気が付いていないんだろうな。
 アイツがいらないってことに。

 だとしたら、私がみんなに気がつかせてあげなければならない。
 いや、そんな必要はないか。
 わざわざそんな手間をかける必要はない。
 みんなの貴重な時間をアイツの為に割く必要などない。
 もっとシンプルにいこう。

 そう、いらないモノは消しちゃえばいいんだ。
 
 そうだ、消すだけでいいんだ。
 なんて簡単なことなんだろう。
 さっきまでモヤモヤしていた目の前の霧が晴れた。
 難解な方程式が解けた時のように清々しい気分だ。

 なんだか嬉しくなった私は、すぐに行動に移った。
 善はいそげ、というヤツだ。
 そして、全てを淡々とこなした。

 結論から言うと、私の考えたとおりそれはとても簡単なことだった。
 アイツはあっさりと消えた。
 悲鳴をあげることも無く崖から落ちて、消えてなくなった。
 文字通り、海の藻屑と成り果てた。

 あまりに簡単で、あっけなくて、私は思わず笑った。
 自然と笑いがこみ上げてきた。
 目に涙が溜まるまで笑った後、私はアイツが消えた海に向かって最後の挨拶をした。

 さよなら、こなた。
 私の友達だった人。
 どうか恨まないでね。
 悪いのはアンタの方なんだから。
 いらないのはアンタの方だったんだから。

 そして私は何事も無かったかのように日常に戻った。

 まあ、当然と言えば当然なのだけれども。
 私にとって、アイツの事は何でも無い事なのだから。
 何事も無かったと言えるの程度の事なのだから。




 ――というかがみ視点の夢を。

「――という訳で、哀れにも私はそこのツンデレによって命を絶たれてしまったのだよ」
「……かがみさん、いくら昨日あのような目にあったからとはいえ……殺人は……」
「……お姉ちゃん、こなちゃんを崖から突き落としちゃうなんてダメだよ……」
「いやいやいやいや、コイツの夢の中の話だから。突き落としてなんかないから。こなたならあんたらの目の前でにやにやしてるから」
「そ、そうですね。すみません、泉さんの鬼気迫る話しぶりに少しばかり感情移入し過ぎてしまいました」
「えへへ、お姉ちゃんごめんね。早とちりしちゃった」

 かがみはやれやれといった感じで2人に微笑むと、私の方を軽く睨む。

「それにしても人を壊れた思考の殺人犯にするなんて、夢まで失礼なヤツだな。あと、ツンデレはやめろ」
「いやー。私なりに昨日の一件を引きずってるというか、昨日の騒動の元凶として反省しているからこんな夢を見た訳でして……」
「昨日の事なら本当に気にしてないわよ。その……私も悪かったんだし。だいたい、あんたが騒動の元凶なのはいつもの事だしね」
「ひどっ!?悪夢を見るくらい気に病んで反省したというのに、そんな扱いで終了ですかッ!?」
「はいはい。あんたが心底反省したってのはよくわかったから、ほら、めんどくさいこと言ってないでさっさと帰るわよ」
「『めんどくさい』デストッ!?ちょ、待ってよかがみ、話はまだ終わってないヨ!?」

 少し呆れたように笑いながら、かがみは鞄を掴んで立ち上がる。
 颯爽と教室から出て行くかがみを私は慌てて追いかける。 
 そして、ワンテンポ遅れてつかさとみゆきさんが私達を追いかけるように教室を出る。
 いつもの放課後。
 いつもの私たち。

 本当によかった。
 みんなが、かがみが私の事を許してくれて。

 正直、私は昨日の一件のせいで友達の縁を切られることも覚悟していた。
 残りの高校生活を1人で過ごす覚悟までしていた。
 でも、みんなは今朝もいつものように挨拶してくれた。
 かがみは『昨日あれだけ謝ってくれたんだから、もう気にしなくていい。私も悪かったし』と言って許してくれた。
 自分が一番の被害者だったというのに、簡単に許してくれた。
 昼休みもいつものように一緒に過ごしたし、放課後もこうしてクラスまで来てくれた。
 そして、私が見た少々失礼な悪夢も笑い話として消化してくれた。

 本当にかがみと、みんなと友達でよかった。
 思わず笑みがこぼれる。

「――でさ、みゆきさんが地道な捜査で真相を掴む探偵役でさ、最後は崖の上でかがみと対峙するって展開になると思うんだ」
「火サスかよ!っつーか、私が犯人役っていうキャスティングは何とかならんのか」
「まあまあ。落ち着きたまへ、かがみんや。それを言ったら私なんか被害者役だよ?自分の夢なのにさー」
「知らねーよ」
「そんでさ、つかさは間違った推理で捜査を進めていく警察官役とかがハマリ役だと思うんだけど、どうかな?」
「どんだけー」
「うふふ。泉さん、お恥ずかしながら私もこの4人のキャスティングを考えてみたのですが――」

 だらだらとくだらない話をしながらのいつもの帰り道。
 後半、母親の影響でサスペンスドラマを目にする事が多いというみゆきさんが珍しく積極的に会話に参加してきた。
 そして今は、意に反して再び犯人役を指名されてしまったかがみと熱く議論を戦わせている。
 めったにない光景だ。
 見ているだけで楽しい。

「だからなんで私が犯人役なのよ?だいたい犯人ってのは――」
「いえ、そういうのは古いパターンでして、最近の犯人は――」

 つかさとならんで歩きながら2人の様子を観察する。
 ふと、今日はやけに口数の少なかったつかさが声を掛けてきた。

「ねえ、こなちゃん。私、警察官以外にやりたい役があるんだ」
「おー、つかさもノってきたね。で、何の役がやりたいの?」
「えっとね、真犯人の役」
「ええっ!?真犯人!?」
「わっ!?……こ、こなちゃん、急に大声ださないでよ~」
「ご、ごめん。予想外な答えだったからびっくりしちゃって……でも、なんでその役を?確かに意外性ならあるけどさ」
「えっとね、私は真犯人の役が自分に一番ふさわしいと思うんだ」
「んー、そうかなぁ?みゆきさんも言ってたけど、どこか憎めない感じの警察官の役回りってつかさにぴったりじゃん」

 つかさは突然足を止める。

「お姉ちゃんに犯人役は似合わないというか……犯人役をしてほしくないの。お姉ちゃんには汚れてほしくないから……」
「ああ~、なるほど。つまりそれは、汚れ役を自分が代わりに引き受けるという、よくある麗しき姉妹愛ってパターンですナ?」

 茶化すようにそう言いながら振り返ると、つかさは今までに見たことの無い表情で笑っていた。

「えっとね、私には、崖から落とされたけど助かっちゃうような被害者役にトドメをさす役が似合ってるの」
「つ、つかさ?」

 屈託の無い、それでいてとても冷たい笑顔。

「ねえ、こなちゃん。お姉ちゃんは昨日のことを許したみたいだけどさ……」
「う、うん」

 私は笑うしかなかった。
 笑って、これがすべて冗談だという雰囲気にしたかったのかもしれない。

「私は許さない……私のお姉ちゃんに恥をかかせたこと、私のお姉ちゃんの心を傷つけたこと……私は絶対に許さないよ?」
「あ、あはは。へ、変な冗談はやめてよね、つかさ」

 つかさの目に宿った光は、冗談を言う時のソレではない。
 そこには、どんな希望も可能性も見出せない。
 どうやら、私の悪夢は始まったばかりのようだ。

「本気だよ?……絶対に許さないから……えへへ……」
「は、あはは……冗談だって言ってよ……あはは……」

 私とつかさは少しも笑っていない目と目を合わせたまま、しばらく笑い続けた。










 ま、結局これは昨日の仕返しとかで、かがみの仕込んだ心臓に悪い冗談だったんだけど(笑)
 てか、つかさ演技上手すぎwwww半分以上台本に無いとかwwwwwwアドリブ自重wwwwwwwwwwwwww


 ……あるぇ?
 ……半分以上台本に無い?アドリブ?
 ……あのつかさが?


 ねえ、つかさ。
 本当にさっきのって、全部演技なんだよね?
 そんな風に笑ってないで、ちゃんと答えてよ。
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。