ID:0f.xJm60氏:つくつくつくつくつかっクマ

それは・・・高校生としての最高学年になり、まだ一月近くしか経っていない頃のお話。


「んじゃ、ほーぃおつかれー」
「おつかれぇ~」
「お疲れっ」
「お疲れ様です、皆さん」


かちかちかちん。

小さくガラスの鳴る音。
だがそれは店内の喧騒の中では店員が鼻水をかんでいることよりも些細なことだった。
それより鼻水をかんだ手でお客様に届けるフォークを持たないの。しかもそっちは根っこじゃなくて思いっきり刺す方でしょーが。店長も見て見ぬ振りしないの。

「はぁ~、このメロンソーダおいしぃねぇ」
「いやいや、私のコーラも中々・・・」
「このコーヒーも味わい深いですよ」
「全部ドリンクバーのボタンの上にコカ○ーラって書いてあったけどね」
「モノは言いようなのだよ、かがみ。せっかくリアルセレブまで合わせてくれたのに・・・しかもかがみんのそれ、アイスミルクって・・・空気の読めない子だねぇ」
「私が何飲もうが勝手でしょ、ほっとけっ」
「いえ・・・私はそんな、セレブなんて・・・」
「ゆきちゃんシマウマなんだ、すごーい!」
「それを言うならゼブラ。似てるけど違うの。つかさはボールペンでも食べてれば?」
「ふええぇ、お姉ちゃんのイジワルぅ」

ともあれ、今日は金曜日。
学校は明日から休みで、いつもの4人は駅の近くにある学生御用達のファミレスへと一時の逃避行に繰り出していた。

そして女子高生におけるファミレスの定番といえば、もちろんこのドリンクバー。

「はぁ~、でも高校3年生にもなるとさすがに授業の内容が違うねぇ。色々と」
「だよねぇ~、同じ時間なのに2倍くらいの授業を受けてる気がするよ~」
「つかささんの言ってることは当たらずも遠からずだと思いますよ。実際、授業の濃度は2年生の時の倍近くになってると思いますから」
「さらっと言うねぇ~‥‥2倍だよ??かがみんのお腹のお肉じゃないんだからさ~」
「店員さーん!注文いいですかー!えーっと‥‥この牛ヒレ肉のステーキと、エビチリゾットと、きのこたっぷりてんこ盛りパスタと、ビーフドライス‥‥
 あ、あと和風ハンバーグのスペシャルセット、マーボーカレーと、デリデリデリシャスピッツア、最後にプリンセスクレープをください!よし、帰るわよ。つかさ、みゆき」
「おーい、おーーい、おぉーーーぉい、しかも私のカバンまで持って帰るなぁーっ!ってゆーかみゆきさん、それ私のサイフなんですけどぉー!」

アドリブとは思えないチームワークでこなたを残し、さっさと店を出ようとするかがみ他2名。
背後からは、店員たちの襲いかからんとするような声。

『ヒレステ一丁、チリゾ一丁、きてパス一丁、ビライス一丁、和ハンSセット一丁、マーカレー一丁、デリッツア一丁、プリンクレープ一丁、以上でぇーす!!』

『『『あーーりがとぅございゃあしたぁー!!!』』』

板前料理店のようなファミレスだった。
これが近頃の高校生にウケるのだから、やはり腐っても日本人といったところだろうか。




「ってゆーか当たり前でしょ。私たちは受験を控えた3年生よ?」
「頭ではわかってるんよ、かがみんや。でも身体の方がついていってくれなくてねぇ・・・」
「わたしもぉ~・・・もう毎日眠くて眠くて・・・」
「アンタそれ小学生の頃から言ってるでしょーがっ」

箸で器用にコップの中の氷をつかむと、眠気覚ましとばかりに、隣に座る妹の頬にぴたりと当てる。
「ひゃっ」という冬の風のような悲鳴と、同時に頬に垂れるのは氷にひっついていたアイスミルクのしずく。
はい、今変なことを考えた人、手を上げなさい。先生怒らないから。

ちなみに先ほどの注文はこなたの哀願によって全て取り消されている。その顔の悲壮さと言ったら店員も引いてしまうほどだった。

「あははは・・・私も外では普通そうにしてるつもりなのですが、家ではうたた寝してしまいそうになるまで勉強してるんです・・・」
「みゆきさん‥‥ちなみに何時くらいまで?」
「はい、大体日付が変わるくらいまででしょうか」
「うう、リアルセレブと一般人の壁はこんなところにまで立ちはだかるものなのか・・・」
「だからアンタの基準を当てはめるなって。みゆきはこれでもクラス委員やら何やらでアンタより時間潰れてるんだから。朝は早起きなんだし、実際そのくらい寝ないとやっていけないわよ」

かしかしかし、とケータイを弄くりながら話す。
えぇー?と反論の声が聞こえるが、その目は変わらずどこかうつろなままだった。

つまるところの、無表情。
ケータイを弄りながらも、それは精神的な疲労の表れに他ならない。
うつむいたままで周りに悟られぬよう奥歯に力を入れてあくびを噛み殺す。今のかがみに出来る、精一杯の強がりだった。

相手にしてもらえず、ぶーぶー言いながら軽くストローを噛んで、折り曲がった先にはつかさの顔。
そこに先ほどかがみの氷から漏れたアイスミルクのしずくを見つけると、ストローを押し当てて・・・・

「‥‥えっと、泉さん?」
「何がしたいのよ?フツーにキモいわよ?」

気がつくと、ストローを押し当てようとしたそこは頬ではなく唇の方だった。
正確に言うとミルクは鼻の下に垂れてきていて、そこにあてがおうとしたのがズレただけなのだが。

「いいよ、こなちゃん。別に」
「色々危ない発言ありがと、つかさ。今私が拭いてあげるからね」


五月病など程遠い、クマの冬眠のようなつかさの寝ぼけ眼はいつになったら覚めるのだろうか。


「授業もだけどさ、みんな・・・」
「何よ?」
「はい?」
「むにゃむにゃ・・・アウストラロピテクス、っと。お姉ちゃん、これ何ていう星だっけ?ぐぅ」

変わったよね。

つかさは近頃晩ごはんを毎日みたいに作ってて、かがみは生真面目さに拍車がかかって、みゆきさんも毎日慌しそうにしてて。
何故だろう。一緒に進級した仲間なのに、自分だけ置いてけぼりにされたような感じがする。
そこに何でか一抹の寂しさを感じてる自分もわかんない。



とは言えなかった。
つかさ・かがみ・みゆきとくわえたままのストローで順番に指して、「やっぱなんでもない」とこぼす。

「すぅ‥‥つくつくぼーし♪つくつくぼーし♪」
「ぶほぁっ!!!」

一瞬。
みゆきの方にストローを向けたまま、何とか「やっぱなんでもない」の言葉を搾り出せた‥‥まではよかった。

声も震えてない。自分でも意味のわかんない動揺も表には出ていない。はず。
そんな安堵の一瞬のスキをついたのは、もはや日本語の文章として成立していないつかっクマの寝言。

思いっきり吹き出した息とツバは、当然ストローの狭い通り道を駆け抜けて、その先・・・みゆきの顔面へとぶちまかれていた。

「だからアンタは何が言いたいのよぉっっっ!!!」
「ち、ちがっ!!そうじゃなくて、だって、聞いたでしょっ??!うぷっ、つく、つくつくぼーしって!ぶひゃっ!ひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!!ひーっ!!つかさ最高ー!オーモロー!!あはははははっっ!!」
「ああぁ、眼鏡が汚れてしまいました・・・ティッシュ、ティッシュ・・・」

三者三様、己の赴くままに。

ぶち込まんとばかりにつっこみを入れるかがみ。
ツボに入って笑い転げるこなた。
ティッシュで眼鏡を拭きながら、悲しげな表情をするみゆき。

そして蚊帳の外になっているのは、心地よさ気に居眠りをするつかさ。
もはや喜怒哀楽揃い踏みの4人組となっていた。

「一体なんなのよ!?っていうか何を言いかけてたワケ?!言わないと怒るわよ!みゆきが!!」
「い、いえ、私は別に・・・眼鏡は拭けばキレイになりますから」
「うーん、や、みんなさぁ、変わったなぁ~ってね?少し思っただけだよ~うんうん」


ストローをくわえたままで器用に話す。
だがその様子は落ち着きがなく、ストローをくわえているのも苦し紛れのおちゃらけなのかもしれない。

「かがみは、勉強。みゆきさんは、相変わらずバタバタしててさ。つかさだって学校が終わると、毎日家の献立を考えて、食材探しに走ってる。
 私は・・・なんか私だけ相変わらずでさ。正直ぃ・・・一緒の世界に住んでるんだよ?でも一緒に住んでる気がしないっていうかさ・・・。
 まぁ、甘えてるのかね、私も。アハハっ」


しぃ~~~ん、と。
水を打ったような静けさが広がる。
やばい、テキトーに茶化して言ったつもりだったのに、ごまかし切れなかった。
額に一筋の冷や汗が光る。

つかさは相変わらず夢の中で、みゆきは反応に困ってオロオロしているのがまる分かりだった。かがみはこなたの顔を見ていたが、しばらくしてからケータイ電話を取り出し、そちらの方に意識を集中させてしまった。
こうなると一番困るのは他でもないこなただ。言いだしっぺとは、何をするにしても大概めんどくさい思いをするもので。

「え、えっとさぁ、みんな、あの───」
「私もまぁ‥‥同じようなものかもしれませんね」

眼鏡を拭いて、何とか平静を取り戻したみゆきだった。

「毎日何かしらやることがあって、それに追われるように生活してるなぁ・・・って。自分でも最近思うんです。
 気がついたら朝が来て、次に気がつくとベッドの中で、「あぁ、また朝が来る」って備えてて・・・いつの間にかそれの繰り返しになって、毎日の日々に自分が置いてけぼりにされてると言いますか・・・」
「・・・私も同じく。正直『やること』はいっぱいあっても、『やりたいこと』って言われると・・・最近思いつかないのよね。だから・・・」
「・・・ふぐっ!」

ガタン、と少し大きな音を立てて痙攣したのは、机に突っ伏したまま起きないつかさだった。

「すぴぃ~・・・なくしたものをとりもどすことはできないけど・・・ 忘れてたものなら思い出せますよね・・・監督・・・むにゃ」


今までの寝言の中でも、ひときわハッキリと聞こえた言葉。
それは3人の耳に寸分も違うことなく届けられていた。

「・・・ま、そういうことよ。つかさのはわざととしか思えないタイミングだけどね」
「うおぁっ?」
「あら?」

こなたのポケットからは、「み・み・みらくる♪みっくるんるん♪」という軽快なスイートボイス。
みゆきのポケットからは、無機質なバイブの駆動音。
つかさのポケットからも何やらクラシックのような音楽が流れていた。

取り出しましたは、現代の英知の結晶・・・携帯電話。

「これが、今の私の『やりたいこと』・・・なんちゃって。何となくサプライズしたくて、いつ言おうか迷ってたんだけど・・・こなたの顔見てるともう今日しかない!って思ったわよ」
「・・・え?もしかして・・・モロバレだった??」
「むしろアレでわかんない方がおかしいと思うけど?」


3人に一斉送信された新着メールの内容を理解すると、思わずその差し出し主の顔を確認せずにはいられなかった。





タイトル:
かがみです

本文:
5月の第3週目の土日なんだけど、4人で旅行にでもいかない?
ほら、春なのにまだまだ寒いじゃない?
だから沖縄なんてどうかな・・・って思ったんだけどさ。どうかな?

というわけで、よろしく!
出来るだけ全員参加でお願いします!





「ま、勝手に予約取ったのは私だし、キャンセル料くらい払う覚悟はしてたんだけど。それに・・・もうすぐアンタの誕生日だし、ね」
「かがみ・・・」

ようやく口からストローを開放する。
しばらくは呆けていたがこなただったが、やがて一つ大きな深呼吸をすると、

「かがみん、ありがと!
 よぉーし・・・すみませーん!!このジャンボチョコチップパフェと、らんらんモンブランと、スイートストロベリーショートケーキと、トロピカルフルーツポタージュ、あとはビッグマウンテンボスパフェくださぁーい!
 さっ、今度こそ本当に私のおごりだよ♪気にせず食べたまへ♪♪」
「何の嫌がらせだぁあああぁっ!!!しかも甘いもんばっかし食わせる気かああぁ!!!」
「まぁまぁ、私も手伝うからさ。かがみんのお腹の子が良く育ってくれますよーに、ってね」
「いねーよ!!!!!」
「で、では私は用事がありますので、これで・・・」

がし。
これから繰り広げられるであろうフードファイトをいち早く察し、そそくさと退散しようとした眼鏡の下げカバンにしがみつく。
気の強そうなツリ目が一転、凶悪なほどの三白眼に変化していて思わず「ひぃっ」と悲鳴をあげずにはいられなかった。

「落ち着きなさい、みゆきぃ。とりあえずビッグマウンテンボスはアンタの担当なんだからねぇ・・・うふふふふ・・・」
「そ、そうなんですかぁ・・・?うふ、うふふふふ・・・」

やり場のない怒りの矛先を、全く関係のないリアルセレブへと向けた。


もはや逃げられないことを知り、諦めて席に着く。
その反対側では冬眠中のクマをムリヤリ覚醒させてしまおう、という無謀な行為が行われている。

「いっくよぉ~‥‥‥ふぅう~~~~~っ!!」
「っひゃあああぁあぁ!!??」

先ほどくわえていたストローの標準をつかっクマの右耳に合わせると、気合一閃。
もてる肺活量の全てを使ったハイパーブレスがそのまま春の息吹となって、つかっクマを見事、深い冬の眠りから解き放ったのだ。

「びびびびび、びっくりしたよぉ~!!こなちゃんのバぁカぁ~!!」
「ごごごごご、ごめんってばつかさぁ~!!お詫びにらんらんモンブランをおごるから食べてネ☆」
「本当?やったぁ、ありがとうこなちゃん♪」
「こいつ・・・上手く懐柔しやがって・・・」

半ば強引に春の知らせを受けて懐柔されたクマに、もはや猛獣としての威厳はなく、元からそんなものはなかったような気もする。
そこはかとなく漂ってくる甘い匂い。こなたが注文したデザートの数々が作られはじめたのだろう。

希望に満ちた春と、この年代しか持ち得ないスイートな香り。
そう、何せ花の女子高生なのだ。
やらないといけないことや、悩むこともいっぱいあって、流されたり忘れそうになることもあるけれど‥‥それでも、皆と一緒に騒いでいるのが一番なのだ。

「私のやりたいこと、それは久々にみんなで揃って遊ぶこと。それと───」





「───久々に、4人で思いっきり笑いましょ!!」





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