ID:ofN70Rc0氏:眠れぬ夜は君のせい

「おっしゃー抜けたッ!」


もう深夜、と言っても差し支えのないだろう午前一時。
だが太陽と月の入れ替わりなど、今パソコンの画面の前で叫んでいる少女の前では全く影響をもたらさなかった。

むしろ夜になると、活発になるのだこの少女。
昼間に居眠りをしていてゲンコツを食らうこと数知れず。担任の先生曰く、「泉の手にかかるとどんな授業も睡眠学習に早変わりや!」だそうだ。
・・・そこで誇らしげに腕を組んで笑い飛ばしているのは一教師としていささか問題ではありませんか。


パソコンの画面全体にばら撒かれている花びら。
それが突然、幕引きのスイッチでも押したかのように終了する。
同時に、女キャラのカットインと画面の右隅に映し出されている文字。

咒詛「魔彩光の上海人形」。

「嫌い~キライ~らーびぃい~んぐ♪だーれーが~ダーレーガ~キャンビーあ~りぃいぶあぅ・・・ふあああぁ」

キライとは口先ばかりで、音楽にあわせて気分良く鼻歌を歌いだす。
が、それこそまさに口先だけで、鼻歌は大あくびにより急遽中止と相成った。良く目じりのあたりを見ると、そこにはうっすらとクマが出来ている。

シューティングゲームが趣味の親友・柊かがみと同じ趣味を共用しようと、先日二人で購入した某同人弾幕シューティングゲーム。
自分では「他人の趣味に付き合う程度の能力」とさほど期待してなかったのだが、これが意外と面白かった。

このゲームの醍醐味は、少し時間が余っている時に暇つぶし感覚で出来る手軽さと、それでいてスリルとドキドキ感を味わえる二点。
普段よくやるネトゲやRPGとはまた違った感覚がそこにはあった。

だが新しくゲームを買ってきて、それにのめりこんだ時の宿命なのか‥‥前日は睡眠・仮眠ゼロの徹夜での作業となった。
何回も何回も繰り返し練習して、敵の打ってくる弾のパターンを覚えて、蜘蛛の糸をくぐるようにして難解な弾幕を避けて進んでいく。
そうして少しずつステージをクリアしていく様は一種のRPG性を孕んでいて、とてもやりがいを感じたのだ。
そして「いつでも電源をオフにできる状態」というのは、言い換えれば「止めどころがわからなくなる」ということでもあった。


その翌日。つまり今日の昼間。
こちらに熱を入れすぎたせいか、現実の「授業」という名のステージではまさに被弾しまくりだった。

居眠りをかまし、当てられても答えられず、英語の授業で現代文の教科書を出しノートに日本語の写し書きをする、現代文の朗読では歴史の教科書の中から偉人の言葉をつらつらと並べ、わざわざ全て言い終わるまで待たれて、そこからボソリと先生に注意される始末。

もはや被弾しまくりの残機ゼロ、ついでに気力もゼロの状態で本日の授業を終えたのだ。



というわけで、さすがに眠い。
繰り出す呑気な鼻歌ももはや眠気覚ましの一環に過ぎなかった。

「へぇ~、キレーなゲームだね、お姉ちゃん」

ピチューン

「ぶはっ」

敵の弾に撃たれたことを知らせる被弾音と、遅れて溜め込んでいた息を思いっきり吐き出すガス欠の音。その燃料の名は集中力。

俺の背後に立つな、とは誰が吐いた言葉だっただろうか。
集中を画面一点に注ぎ込んでいる最中、いつの間にか同居している従姉妹が後ろにいて、プレイしているゲームの感想を堂々と述べていた。
集中力とは、考えようによっては蜘蛛の糸より脆いものなのかもしれない。ちょっとした不意打ちで一気に雲散霧消してしまうものなのだから。

「うああ゛あ゛ぁ~!!ゆーちゃああああん!!!」

阿修羅の形相で、SSサイズの自分よりさらにミニマムな従姉妹に獲物を狩る鷹(たか)のポーズで飛びかかる。

「えっ、なにっ、どうしたのお姉ちゃん?!何か嫌なことでもあったの?」
「もう嫌だよぉ~!!ただでさえキンチョーすると楽勝なはずのところでミスするし、順調に来てると思ったら不意打ち喰らうしぃ~!!」

襲い掛かるのかと思えば、その胸に飛び込んでえんえんと泣きじゃくる泉こな鷹。

「うんうん。でも練習すれば少しずつでも自信がつくし、ちょっとのことじゃ動じなくなると思うよ。頑張って、お姉ちゃん!何の話か分からないけど・・・大丈夫だよ、私がついてるから!」

ピチューン

「帰れー!今すぐ空気の読めない星に帰れー!!元はと言えばお前のせいなんだー!!!」
「ちょっ、痛いよお姉ちゃん!帰る!帰るから止めてってばあっ!!」

ポカポカと腕を振り回してせっかくの来訪者を追い出す。
その頃、操作を全く放棄されたゲームのスピーカーからは、被弾した後の僅かな無敵時間を終えて3度目の被弾音が聞こえた。

「はぁっ、はぁっ・・・」


そこで気がつく。
なんでこんなことで息を荒くしないといけないんだろう。アホらし。と。
一度深く息を吸い込むと、はぁ~。と長いため息をついた。

「・・・うん。もう寝よ。ゆーちゃんには明日謝るとして。うん」

ピチューン

‥‥四度目の被弾音。
落ち着いたはずなのに、まだ起動中のゲームが、いつもとは逆にプレイする側の人間のスイッチを押した。
その無機質な被弾音が酷く耳障りだった。あとはやっぱり寝不足で、言葉を選べるほどの理性が残ってなかったのも原因かもしれない。

「お前もピチュピチュうるさーいっ!!」
「お、お姉ちゃん、さっきはごめんね。でも私もうすぐテストで、どうしても分からないところがあったから───」
「ピチュピチュ言うのは男の[さすがに自主規制]が飛び出す効果音だけで十分なんだよーっっ!!!」



画面に指差して吠える姉。
教科書を抱えて部屋のドアを開ける妹。

たったの数メートルの距離。それが一瞬で何万光年もの長さに伸びてしまった。気がする。


やがて音もなく閉じられてしまったドア。
ぶるあああぁ、と己のエロゲ脳を激しく後悔、むしろ従姉妹に公開してしまった自分を苛む少女の姿だけが残されていた。
その後悔は、マジで爆睡5秒前な少女の眠気をキレイさっぱりなくし、代償にものすごい気だるさだけを残すのには十分すぎて。





「・・・・・ねぇひよりん」
「・・・何っすか、先輩」
「いつもひよりん言ってるじゃん?こう・・・オタクと一般人の壁がどうとか。やっぱり同人誌とか書いてると直にそういうのを感じるんだよねぇ」
「はぁ・・・まぁ、それもあるかもしんないですけど・・・どうしたんですか?」
「ゆーちゃんがね、口、きいてくれないんだ」
「は、はぁ・・・」
「私と目が合うと、まるで見なかったことにするみたいにそらすし、私と鉢合わせでもしようものならさ、全力で逃げ出すんだ。
 あのちんまいゆーちゃんがだよ?あの身体の弱いゆーちゃんが、肉食動物に見つかった小動物みたいにさ、なりふり構わず逃げ出すんだ・・・あはははは・・・」
「はぁ・・・。小早川さんの本領発揮!って感じっすかねぇ・・・」
「たまんないよ?ほんとにさ。もう切ないっていうか、何というか・・・」
「OH!コナタ!それはイワユルヒトツの萌えヨウソ、ですNE☆ナリフリ構わず逃げ出すユタカ・・・たまんないデスNE☆」
「はぁあ・・・確かにたまらないっすねぇ~‥‥あのちんまい小早川さんが必死に走って逃げてる姿・・・くおおぉ・・・嗜虐心があおられるッス!たまんないッス!!!次の同人はこれでイけそうッス!!!」
「もうホント、たまんないよねぇ・・・これだから近頃の眼鏡キャラと外人キャラはさ・・・あはははは・・・」





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