ID:R57PirI0氏:資料室は閉まらない

 カチャリと言う音が廊下に響く。ドアを手で動かし施錠された事をしっかりと確認する。
「よしっと」
 罪悪感が無いわけじゃない。だが、大切な人を守るためには必要な事なのだ。
 その女生徒は、もう一度「よしっ」と声に出してうなずくと、パタパタとその場を小走りに離れた。
 ドアの上にあるタグには『資料室』と書かれてあった。


  - 資料室は閉まらない 出題編 -


 とある日の朝、高良みゆきが登校してみるといつもの教室の前で二人の女生徒―泉こなたと柊かがみ―が言い争っていた。
 いや、言い争っているというよりこなたがかがみにたいして言い訳めいた事をまくし立てていて、かがみはそれを軽く流してるだけ、といった風だった。
「だからぁ!何回も言うけど、わたしはちゃんと閉めたんだって!確認だってちゃんとしたんだから!」
「…こっちも何回も言うけど、今朝鍵は開いてたのよ?あんたが閉め忘れてなかったら、なんで開きっぱなしなのよ?」
「それは…あ、あれだよ!誰かが開けたんだよ!わたしが閉めた後に!」
「なんでわざわざそんな事するのよ。理由がわからないわ」
 なんとなく二人には声をかけづらく、みゆきは二人を交互に見ながらオロオロしている、柊つかさに声をかけた。
「あの、つかささんコレはいったい…」
「あ、ゆきちゃん、おはよう…えっと、わたしもよく分からないんだけど、なんだか資料室の鍵を閉めたとか閉めないとかで…」
 資料室という言葉で、みゆきは納得した。
 昨日中にすませておきたかった委員会の仕事を、急用が出来た自分に変わって二人に任せていた。その仕事のために二人は資料室を使用して、最後の施錠の事でもめているのだろう。みゆきは二人に話を聞いてみることにした。
「あの…」
「あ、おはようみゆき、はいこれ」
「あ、おはようみゆきさん、はいこれ」
 声をかけた瞬間に、二人から同時に資料の束を渡される。
「あ、ありがとうございます」
 思わず受け取ってしまった後、みゆきは資料にざっと目を通した・・・かがみの方はともかく、こなたの方は解読に結構な時間が必要な気がした。
「あの、これはこれとして…なにかあったんですか?」
 渡された資料を鞄の中に仕舞いこみながら、みゆきは二人に聞いた。
「昨日家で見直したら、一箇所抜けがあってね・・・今朝早く来て資料室に行ったら、鍵が開いてたのよ」
 そう答えるかがみにこなたがまた食ってかかる。
「わたしは閉めたよ。絶対に」
 みゆきはそんな二人を交互に見ながら、
「と、とりあえずもうすぐHRが始まりますので、教室に入りましょう。詳しい話はお昼休みにでもお聞きしますので・・・」
 そう、その場をまとめた。


「では、昨日のことを話してもらえますか?」
 昼休み。みゆきは改めてこなたとかがみに昨日の事を尋ねた。
「ほのへんふぁら?」
「食いながら喋るな」
「…ごっくん…どの辺から?」
「えっと…資料室に入る辺りから、できるだけ詳しくお願いします」
 みゆきがそう言うと、かがみが驚いて聞き返してきた。
「そんなとこから?こなたが最後閉めたってとこだけでいいんじゃないの?」
「いえ、何がヒントになるか分かりませんから」
「うーん、めんどくさいなぁ」
 こなたは不満そうだったが、身の潔白を証明するためには仕方ないか、などと呟きながら昨日のことを話し始めた。


『あー資料室ってこんなところにあったんだ』
『まあ、あんたは来たことないでしょうね…わたしもクラス委員やってたときに二回くらい来ただけだし』
『…ドアが一箇所しかないんだ。狭い部屋っぽいね』
『まあね…ほら、開いたわよ。わたしは鍵返してくるから先始めといてよ。どうせあんたの方が遅いだろうし』
『へ?返す?なんでわざわざ…部屋に置いといたらいいんじゃないの?』
『あー普段ならね。でもこれマスターキーなのよ。誰かが鍵無くしたらしくて今はこれしかないの。これまで無くしたら大変だからね。合鍵出来るまで、開閉のたびに職員室に返しに行かないと駄目なのよ』
『うわ、めんどっちー』

『ただいまっと…あれ、ドア閉めないの?』
『うん、この部屋なんだか暑くって』
『う、確かに…窓とドア全開でこれか』

『うー…思ったより難しい…考え無しに引き受けるんじゃなかった…今日から始まるアニメ見たいのに、間に合うかな…』
『じゃあ、引き受けなかったら良かったのに。みゆきも別に明日になっても構わないって言ってたんだから…なんで引き受けたか知らないけど、やるからにはちゃんと最後までやりなよ?』
『…たまにはみゆきさんの役に立ちたかったんだよぉ…ねえ、かがみ』
『ん、なに?』
『学校のドアって危ないよね』
『なんだ唐突に…』
『いや、この横開きドア見てて思ったんだけどね。二人の人間が中と外から違う方のドア同時に開けたら、二人ともドアに顔ぶつけるか挟まれるかするよね』
『あーまあね…ってかその事故、この教室であったのよね』
『へーそうなんだ』
『片方の生徒が手を挟まれて骨にヒビ入ったって。まあ、今は対策取ってるからそんな事故、この教室じゃ起こらないだろうけど』
『ふーん』
『ってかドアなんか見てないでさっさと進めろ』
『うえーい』

『よし、出来たっと。じゃあこなた、わたし先に帰るから』
『え?手伝ってくれないの?』
『ちょっと用事があるのよ。さっき言ったけど鍵は職員室にあるからね。今日の鍵の管理は黒井先生だからね。ちゃんと戸締りするのよ?』
『かがみの薄情者~その用事はわたしとの友情より大事なのか~』
『うっさい。嘆いてる間に少しでも進めなさい』
『…ぬー…覚えてろー』

『柊、今帰りか。資料の方終わったんか?』
『あ、黒井先生。わたしの方は終わったんですけど、こなたの方がまだでして。鍵はこなたがかけて帰ります』
『そうかぁ。まあ、泉にはきついとは思うとったからなぁ…』

『出来たー!全部出来たー!間に合ったー!褒めてよみゆきさーん!…ってみゆきさん出てきたら怖いよね…って言ってる場合じゃない!時間ギリギリ!猛ダッシュで帰らないと!』

『…よし、この調子なら間に合い………あー!!資料室の鍵!閉め忘れてた!!…ど、どうしよう…今から戻ったら絶対間に合わないな…』

「おいコラちょっとまて、あんたやっぱり戸締り忘れて帰ったんじゃないのよ」
「ま、まってよかがみ。続きがあるんだから…」

『あー!もう!しょうがない戻ろう!急いで鍵かけてきて、せめてBパートには間に合わそう!』

『…く、黒井先生…ぜーぜー…し、資料室の鍵…下さい…』
『なんや泉、そんな息切らして。なんか忘れモンか?』
『へ?…あーまあ忘れ物と言えば忘れ物です…このまま帰るとかがみに無茶苦茶怒られそうなんです』
『あんまり柊の血圧上げたりなや。そのうちプチッといくで…ほい、鍵』
『ありがとうございます、では』

『えーっと早く早く…これでよし…うん、ドアも動かない…後は全速で帰るのみ!唸れわたしの加速装置!』

「と、まあそんな感じで」
「…えーっと…最初に鍵を開けて、ドアを開いたのはかがみさんですね?」
「うん、そうだけど」
「泉さんはドアに触りましたか?」
「え?どうだったかな…最初の閉め忘れのときにドアは閉めたと思う。その後は最後の確認で触ったくらいかな」
「なるほど…と、いうことは…」
 みゆきは少し下を向き、顎に左手の人差し指を当てじっと考え始めた。
 しばらくしてみゆきは顔を上げ、ニッコリと微笑んでこう言った。
「大体の真相が分かりました」
「はやっ!?」
「今のだけで!?…で、結局どういうことだったの?」
「えーっと…まだ確実ではありませんので、放課後にでも確認したい事がありますので、答え合わせはその時にでも」
「いくらみゆきさんとはいえホントかなぁ…ヒントとかないの?」
「そうですね…ヒントというか前提というか…とりあえず、泉さんは嘘をついてはいません。その必要もありませんから」
「うんうん」
「そして、この事件にはもう一人の人物が関わっています」
「え?まさか…つかさ!?」
「もぐもぐもぐ…ふへ?」
 自分は全く関係ないとばかりに普通に弁当を食べていたつかさは、急にこなたに呼ばれて慌てて回りを見回した。
「え?わたし?わたしがなに?」
「…まったく聞いてなかったよこの子は」
「いや、つかさは本気で関係ないだろ。わたし等より先に帰ったし。家帰ったら寝てたし」
「そうですね、つかささんではありません。でも、泉さんに近しい人ではあります」
「わたしの知り合いってこと?…うーん…じゃあ、もしかしてその人がわたしの後に鍵を開けたとか?」
「いえ、その人物が資料室の鍵に関わったのは泉さんの後ではありません…泉さんの前に、です」
 みゆきのその言葉に、こなたもかがみも唖然とした表情を浮かべた。
「いや、まてまて。みゆき、いくらなんでもそれはおかしいぞ」
「どうしてですか?」
「だって、こなたの前に鍵に関わったのなら、その人は一体何をしたの?元々鍵は開いてたんだから、鍵を開けれるわけがない。鍵をかけたんなら…こなたはどうやって鍵をもう一度かけたの?矛盾してるわ」
「そうですね。でも、かがみさん…この事件に矛盾はありません。あるのはただの勘違いだけです」
 そう微笑むみゆきに対し、こなたもかがみもただ頭の上にハテナを浮かべて唸るだけだった。
「では、放課後に答えあわせといきましょうか」
「なんだかゆきちゃん楽しそう…っていうかゆきちゃん」
「なんでしょうか、つかささん?」
「これって事件?」
 みゆきはそれには答えず、自分の弁当の残りを食べ始めた。
「さらっとスルーされた!?」


「雪山の山荘に閉じ込められた女子高生たちに襲いくる稀代の殺人鬼の罠!次々に減っていく容疑者たち!果たして真犯人は誰だ!回答編を待て!」
「いやいやいや…舞台も内容も全然違うぞ。勝手に話を変えるな」
「こっちのほうが盛り上がるかと…」
「そんな盛り上がり方せんでいい」
「むー…じゃ、つかさ後よろしく」
「ふぇぇぇ!?わたし!?…え、えっと…せ、正解率99%の暇潰しに挑め!」
「えらくぬるいなっ!?」

 

 

 ※ここから解答編

 

 

 - 前回のあらすじ -

「遂に解かれた第五の封印!そこに現れたのはかつて生き別れた実の兄であった!互いの目的のために剣を向け合う兄弟の運命やいかに!?」
「こらまてこなた。なんかファンタジーっぽくなってるぞ」
「この方が盛り上がるかと…」
「そんなベタな設定、盛り上がらんわ」
「ですよねー」
「ほら、そろそろ始まるし、とっとと行くわよ」
「ほーい」
「あ、あれ!?こなちゃん、お姉ちゃん!あらすじは!?」
「あー…出題編読み返しといて」
「そんな適当な!?」


- 資料室は閉まらない 解答編 -


「黒井先生、少しよろしいでしょうか?」
 放課後。HRが終り、教室を出ようとしたななこをみゆきが引き留めた。みゆきの後ろにはこなたとつかさもついてきている。
「おう、なんや三人揃って」
「昨日の資料室の鍵の事でお聞きしたいのですが…泉さんが鍵をお借りする前に、小早川さんが先に鍵を取りに来てましたよね?」
「え!?ゆーちゃん!?」
 自分の従姉妹である小早川ゆたかの名前が出たことに、こなたは思わず声を上げて驚いていた。
「ああ、そーやけど…なんで泉が驚いとるんや?」
「いえ、お気になさらずに。お聞きしたかったのはそれだけですので、わたし達はこれで」
 そのまま、こなたとつかさを急き立てるように教室を出て行くみゆきを、ななこは釈然としない表情で見送った。
「…なんやったんや、一体」


 廊下でかがみと合流した一同は、ゆたかに話を聞きに行くために、一年の教室に向かっていた。
「ねえみゆき、なんでゆたかちゃんだって思ったの?というか、そもそもなんでもう一人当事者がいるって思ったの?」
 その途中で、かがみがみゆきにそう尋ねた。
「それはですね、泉さんが鍵を借りに行った際の、黒井先生の対応が不自然だったからです」
「不自然?」
「はい。黒井先生は泉さんに鍵を渡すときに『忘れ物か?』と仰ってましたね?…おかしいと思いませんか?」
「うーん…言われてみるとなんとなく…」
「もし、泉さんの前に誰も鍵に関わらなかったのなら、黒井先生は『今終わったんか?』『えらいかかっとったなぁ』位のことを仰ったのではないでしょうか」
「なるほどね…それがもう一人いる理由として、じゃあそれがゆたかちゃんだってのは?」
「そうですね…もし、かがみさんがその第三者だった場合はどうでしょう?」
「どうって?」
「泉さんが鍵を掛け忘れて帰ったらしい場面を目撃しまして、黒井先生にどう言って鍵をお借りしますか?」
「それは…普通にそのまま言うわね『こなたが鍵掛け忘れてったみたいなんで、掛けときます』って」
「はい。その場合だと黒井先生は泉さんが来た時に、なんと仰るでしょうか?」
「う、うーん…『泉~お前鍵掛け忘れとったらしいなぁ。柊が代わりに掛けといてくれたで』…かな?」
「はい、わたしもそのような感じだと思います…しかし、今回はそのケースにも当てはまりません」
「そうよね…なんで『忘れ物』だったのかしら?」
「それがもう一つ踏み込んだケース、すなわち『第三者が泉さんをかばって嘘をついた』ということです」
「え、それってつまりゆたかちゃんが?」
「はい。そして、それがわたしが第三者が小早川さんであると思った理由…この学校でもっとも泉さんをかばう可能性が高い…ということです」
「あーなんとなく分かる…」
「そして、もう一つ。小早川さんは泉さんが慌ててる理由をご存知だという可能性もまた、高いのです」
「アニメが見たいっての?…そうよね、同じ家に住んでるんだから、そういう話してても不思議じゃないわね」
「では、わたしの憶測も交えて、昨日の小早川さんの行動をまとめてみますね」


 小早川さんは恐らく、偶然資料室の前を通りかかったときに、慌てて部屋から出てきて走り去っていく泉さんをみかけたのでしょう。遅い時間ですし、資料室を使う生徒はごく限られている。泉さんが最後の利用者だと思った小早川さんは、施錠の有無を確認し、鍵が掛かっていない事に気がつきました。そして、泉さんが楽しみにしてたアニメが今日だと思い出した小早川さんは、泉さんが施錠に戻ってくる事は無いと判断したのです。
 代わりに鍵を掛けておこうとした小早川さんは、職員室で鍵の管理が黒井先生と知り、普通に鍵を借りれば掛け忘れた泉さんが怒られると思いました。泉さんが怒られないように、かつ怪しまれないように鍵を借りる。そのため小早川さんは黒井先生にこう言ったのでしょう。
『すいません、資料室の鍵を借りたいんですけど…』
『ん、小早川?泉はどうしたんや?』
『あ、それが…資料室に少し用事があって、最初はお姉ちゃんと一緒にいたんですけど、お姉ちゃんの方が先に用事が終わりまして、戸締りをまかされたんです』
 こうして小早川さんは資料室の鍵を掛け、そのしばらく後に泉さんが鍵を借りに来た訳です。

「…このような感じだと思います」
「なるほどね…黒井先生はゆたかちゃんの嘘で、こなたが資料室が既に閉められているのを知っていると思い込んでいた。だから鍵を借りる理由を戸締りのためと思わずに、もう一度資料室に入るため…一番ありえそうな忘れ物だと思った…ってところかしら」
「はい。だから先ほども、小早川さんの名前に泉さんが驚いていた事を疑問に思われていたんです」
「…つかさ、ちょうちょが飛んでるよ」
「ホントだ。この季節に珍しいね、こなちゃん」
「こら、当事者とその他一名。ちょうちょなんか飛んでないから、戻って来い」
「そ、そろそろ小早川さんの教室に着きますよ?」


 こなた達は教室から出ようとしていたゆたかを見つけると、廊下の隅の方に連れて行き話を聞くことにした。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「あー、ちょっとゆーちゃんに昨日の資料室のことで話があって…」
「えっ!?もしかしてばれちゃったの!?」
 その反応で、みゆきの言っている事がほぼ事実だという事は分かったが、みゆきは念の為ゆたかに自分の推理を話して聞かせた。
「…はい、その通りです…その、嘘をつくのは悪いと思ったんですけど、黒井先生のゲンコツは凄く痛いってこなたお姉ちゃんが言ってたものですから、怒られないで済むなら良いかなと…ごめんなさい」
 申し訳なさそうに謝るゆたかに、みゆきが声をかけた。
「理由があっての嘘ですから、謝られる事はないと思いますよ。ただ、その後に小早川さんが想定していなかった事態が起こりました」
「へ?」
「泉さんが、鍵を掛けに学校に戻ってきたんです」
「えぇ!?じゃあ、見たいって言ってたアニメは!?」
 ゆたかが驚いてこなたの方を見た。こなたは何故か明後日の方向を見ていた。
「いやー物の見事に見逃したよ…家に着いた時には次回予告やってたねー」
「それで、鍵が掛かってたから変に思われて、ばれちゃったのかな…」
「いやゆーちゃん、それがちょっとおかしな事に…わたしもその時に鍵を掛けたんだよね」
「…ふえ?…え、だって鍵はわたしが掛けたんだよ…その後お姉ちゃんがもう一回鍵を?…え?えぇ?」
「あー…まあ、分けわかんないよね…みゆきさん、お願い」
「はい、ではご説明しますね」
 みゆきは自分に注目している一同の顔をゆっくりと見回した後、ゆたかの方を向いた。
「小早川さんは資料室の鍵を掛ける祭に、どちらに回して掛けましたか?」
「え?どっち…えーっと…」
 ゆたかはしばらく鍵を掛ける動作のジェスチャーしていたが、困った顔になって頬をポリポリとかいた。
「わ、忘れました…適当に回してカチャッて手ごたえのある方にって感じでしたね…」
「はい分かりました。では、泉さんはどうでしょう?」
「うぇ!?わたし!?」
 こなたもゆたかと同じように鍵を掛ける動作をしばらく繰り返して、やはり同じように困った顔になった。
「わ、わたしもゆーちゃんと同じかな…適当に回したような気が…」
 同じような反応の二人を見て、みゆきはニコリと微笑んだ。
「わたしもなんです。家の鍵を掛けるときなど、回す方向を意識しないものですから、いつも最初に手ごたえのない方に回してしまって…平時ならそれは問題ないことだと思いますが、今回はそれが問題になります。小早川さんと泉さんでは前提がまるで違いますから」
「前提?」
「はい、まず泉さんが一度鍵を掛け忘れたために、小早川さんが来たときには鍵は開いていた。それを小早川さんが閉めました。そして泉さんが戻ってきたのです…この時鍵は閉まった状態なのですが、小早川さんが閉めたことを知らない泉さんは、鍵は開いたままだと思い込んでいた…」
「え、まってみゆきさん。じゃあもしかしてわたしは…」
「はい、鍵の手ごたえだけで開閉を判断した泉さんは、小早川さんが閉めた鍵を開けてしまったのです」
「そ、そんな…ってちょっと待って。じゃあ、ドアが動かなかったのはどうしてなの?」
「それは…かがみさんが資料室での泉さんとの会話で『資料室ドアで事故があったから、その対策がとられた』と、仰ってましたね?」
 みゆきのその言葉を聞いて、かがみは「あっ」っと声を上げた。
「こなた!あんた動かないほうのドアで確かめたんじゃない!?」
「う、動かない…?」
「資料室のドアは、片方が常時動かないように固定されてるのよ。それだと、中と外から別のドアを同時に開けることは出来なくなるから」
「えぇ~…そんなの知らないよ~」
「うん、まあほとんどの生徒は知らないかもね…知らないで動かないほうのドアから入ろうとして、頭ぶつけたって話も聞いたことあるし…」
「…えっと…じゃあ、結局悪いのは…わたし?」
 こなたが心底弱りきった顔で一同を見渡した。

「こ、こなたお姉ちゃん…ごめんなさい、なんだかわたし余計な事したみたい…」
 ゆたかがそう言うと、こなたはひらひらと手を振った。
「いやー最初に鍵掛け忘れたのはわたしだし…結果的にゆーちゃんのやった事、無駄にしたわけだし…」
 そして、二人揃って恐る恐るかがみの方を向いた。
「まて、どうしてそこで二人してわたしの方を見るか」
「い、いや…その…なんていうかこの辺りで…」
「か、かがみ先輩の雷が落ちるんじゃないかな…って…」
「…わたしって、ゆたかちゃんにまでそういうキャラだって思われてるわけね…あー、もう…怒る気なんかもう全然無いし、黒井先生に言うとかそういうことも最初からする気無かったわよ」
「ほ、ほんとに?」
「その気があったんだったら、朝の時点で黒井先生に報告してたわよ」
 かがみのその言葉に、こなたとゆたかは顔を輝かせ、
「うおー!かがみーん!」
「かがみせんぱーい!」
 二人同時にかがみに抱きついていた。
「うわぁ!?ちょっと、急に抱きつかないでよ!ってかゆたかちゃんまで何して…こなた!変なところに顔擦り付けるなぁ!!」
 じゃれあう三人を見ながら、みゆきは心底嬉しそうに微笑んだ。
「一件落着…ですね」
「あのね、ゆきちゃん…」
 そのみゆきに、つかさがおずおずと声をかけた。
「なんでしょう、つかささん?」
「落着もなにも事件になってないよね?…っていうか、こんな大袈裟に解説する必要ってなかったよね?」
 みゆきはその質問には答えず、つかさの両方のほっぺを掴み、思い切り左右に引っ張った。
「いふぁい!いふぁい!ゆひひゃんなにふるのー!?やめへー!はなひへー!」
 つかさの懇願を無視し、みゆきはほっぺを引っ張り続けた。ニコニコと、笑顔のままで。


- おしまい 

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