ID:3319C4Ao氏:失敗の味

「また、失敗かぁ……」
「失敗って言っても十分おいしいんだけどね」
「うん……」
 つかさは六度目の失敗を迎えていた。
 それは、彼女の最も得意とする、お菓子作りでのこと。
 失敗と言っても、砂糖と塩を間違えたり、焦がしてしまったり、という訳ではない。
 これまで作ったものは十分おいしく、人に食べさせるにも申し分ない出来だった。
「でも、やっぱりあの店のと違うよね」
「確かに、もっと甘かったけど」
 つかさとかがみが話しているのは、陵桜学園近くにある洋菓子店、『らきティーク』のことである。
 その店で食べたケーキの味に惚れ、どうしてもそれに近い味を出したいと、挑戦を始めたのだ。

 しかしながら、人気商品でもあるその味を簡単に出せるはずもなく、失敗を繰り返している。
 作ったケーキの処理は家族で行われるが、いくら美味しいといっても、ホールサイズのケーキを何日も食べていれば限界が来るものだ。
 上の姉二人は早々にリタイアし、母、みきも思うところがあったのかリタイアしている。残っているのは、かがみと父のただおのみ。
 もともと、ただおは参加していなかったが、どこからかの圧力により今は強制的に食べさせられている。
 甘いものが大好物のかがみにとって、食べることは苦にならない。しかし、みきと同様に思うところはある。
「ごめんね、お姉ちゃん」
「まぁ、早くできるに越したことはないけど、最後まで付き合うわよ」
「うん。ありがとう!」


 ――翌日。
「と、まぁ昨日もだめだったのよね」
「つかさも結構頑固なところあるからね~」
「そこで、よ。あんた、何かアイデアない?」
「つかさにやめさせる方法?」
「違うわよ! あの味を出す方法」
「うぅ~ん。体重を気にしつつも妹のがんばりに付き合うかがみ萌え♪」
 何かが軋む音が聞こえたが、特に何かが起きるわけではなかった。
「ええ。そうなの。だから何かないかしら? こなたさん」
「か、顔怖いって」
 満面の笑みを見せるかがみに、危険だと悟ったこなたは即座に考えをめぐらせる。

「えーと……砂糖変えるとか、それぐらいしか思いつかないね」
「そう……」
「その反応、てことはやっぱり、もうそれはやったんだ?」
「らしいわよ。黒砂糖とか三温糖とか、わ、わー……」
「和三盆」
「そうそれ! とか色々試したらしいんだけどね」
「……ていうかネットで調べればいいんじゃない?」
「そう思ったんだけどね。味の表現なんて曖昧だし、何よりつかさが自分でやりたいって」
 そっか。と、いうとこなたは再び考え始める。
 そこでふと違和感を覚え、かがみに問いかけた。
「それって私に聞くのもだめって事なんじゃないの?」
「まぁ、たぶんね。でも、ちょっとぐらい助けになりたいしさ……それぐらいならアリかなってね」
「うふぉ、妹思いのかがみ~ん」
「う、うるさい」

「何のお話ですか?」
 そう言って、話に入ってきたのはみゆきだった。
「おお、みゆきさん。丁度よかった! ね、かがみ」
「そうね。実は――」
 事のあらましを話し終えると、みゆきは少し考え、何かに気付いたように言う。
「確か、あのケーキはヘルシーというのも、うたい文句でしたよね?」
「そういえばそうね」
「……はちみつ……ではないでしょうか」
「はちみつ、ってあの蜂蜜?」
「あ、そうか! そうだよ!」
 机に手をつき、こなたはおもむろに立ち上がった。
「そ、そんなに変わるもんなの?」
「変わるよぉ、そりゃー変わるよぉ。けっ、これだからお菓子作りしたことない人ぁ、やだやだ」
「あ、あんたにチョコ作ってあげたでしょ!」
「まぁまぁ、お二人とも」
 こなたの話によれば、おそらく蜂蜜で間違いないということだった。
 問題は、それをどうやってつかさに伝えるか。
 そのまま伝えたところで、素直に聞くとは限らない。下手をすればやる気をなくす可能性もある。
「せめて蜂蜜、って単語を伝えられれば……」
「ふふふ……ここは……カレーだね!」
「……は?」
「カレー、ですか?」
 後にこなたは語る。『あのときの私には孔明が憑いてたね!』と。『むしろ、呂布だろ』、とかがみに言われるのは別のお話。

「いや、でもさ」
「えー、私は入れないほうが好きだね」
「私はその時々によりますね」
「? みんなどしたの~?」
「つかさ。今カレーに蜂蜜入れるかって話してたのよ」
「はちみつ?」
「蜂蜜なんか入れたら甘くなっちゃうじゃん! カレーは辛いからカレーなんだよ!」
「そうかぁ?」
「こなちゃん、隠し味程度にならそんな甘くならないし、おいしいから今度入れてみたら……」
「ん? どしたー?」
「え? ううん! なんでもないよお姉ちゃん……」
 三人は顔を見合わせ、つかさに見えないように、ウインクをした。


 私も? と、まつりは言う。
 いいじゃない、ここ何日かは食べてなかったんだし。と、いのりが言った。
「大丈夫よ。今日で終わるはずだし。今までで一番おいしいから」
「なんで、かがみにそんなことわかんの?」
「さあね♪」
 変なの。と呟いたまつりの元に、一つの報せが届いた。
 鼻腔をくすぐる甘いにおい。それは一つの作品が出来上がったと言う合図。

「おまたせ~」
 少しの後、つかさはケーキを運んできた。
「もう! 遅いよ~」
 そう言ったまつりを見て、乗り気じゃなかったくせに、現金よね。とかがみは思った。
「ごめんね~。はいどうぞ」
 出されたケーキを、各々が口へ運んでいく。
 一口、二口、出てくる言葉はない。
「えっと、どう……かな?」
「……しい。おいしいよこれ!」
「ホントね! すごく甘いのにくどくないし」
 パッ、とつかさの顔が明るくなる。目を合わせたかがみは頷き、
「うん……すごくおいしいわ」
 と、言った。
「あの、かがみお姉ちゃん。食べたくなったらいつでも言ってね!」
「え? 私?」
「うん。このケーキカロリーとか少ないらしいから、ダイエット中でも食べれるかな~って……」
「つかさ……それじゃこれ私のために……?」
「えへへ……」
「ありがとう。つかさ……」
 ほのかに目を潤ませ、感動しているかがみ。しかし、このまま終わらないのが柊家である。
「でも、これ作るまでにいっぱい食べたから意味ないんじゃない?」
 こんなおいしいものを作ってもらえる腹いせか、それとも素か、どちらにしても、
「まつり姉さん……もうちょっと空気読もうよ……」


End
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