こなた「ううう……気持ち、悪いよぉ……」
かがみ「はいはい、すぐに治るからね~」
かがみはこなたの身体を支えながら座り、優しく背中を擦ってあげた。
すると今度は、こなたの瞼が下がってきた。背中を擦られるのが気持ち良いのだろう、こなたはすぅすぅと寝息を立て始めた。
そんなこなたを抱き上げてベッドに寝かせ、
つかさ「4歳のこなちゃん、可愛いね」
かがみ「つかさ、目がイッてるわよ……。まあ、可愛いのはわかるけど」
こなたの寝顔を見ながら、小声で会話をする。
その寝顔は、おそらく今のこなたは絶対にできないであろう純真無垢な笑顔だった。どんな夢を見ているのだろうか。
かがみ「気持ち良く眠ってるし、起こさないように隣の部屋に行ってましょ」
つかさ「うん」
みゆき「そうですね。では泉さん、一旦失礼します」
三人は音を立てないよう、静かに部屋を後にした。
そしてそれから数十分後……
こなた「むにゃ……あるぇ……? みんにゃはぁ……?」
目を擦りながら、こなたは上半身を起こした。催眠はまだ解けていない。
そこにさっきいたはずのかがみ、つかさ、みゆきがいないため、こなたは急に怖くなってしまった。
こなた「か、かがみねぇしゃーん……」
声はしない。
こなた「つかさねぇしゃーん……!」
反応なし。
こなた「みゆきおねーしゃん……!!」
不気味なほどの静寂。
こなた「……ふぇぇ……みんにゃ……どこぉ……?」
淋しさと怖さに耐え切れず、こなたは遂に泣き出してしまった。
溢れだす涙を拭いながら、扉を開けて部屋の外に出る。
ゆたか「え……こなたお姉ちゃん……? どうして……泣いてるの……?」
するとこなたのすぐ目の前に、従妹である小早川ゆたかがいた。
しかし、こなたが4歳の頃、ゆたかはまだ1歳のはず。それ故、
こなた「ひっぐ……おねーしゃん……だぁれ……?」
今のこなたは、ゆたかをゆたかと認識することはできなかった。
ゆたか「・・・・・・・・」
こなた「うぐっ・・・・ひっぐ・・・」
ゆたか「うっ・・・・・・」
ゆたかは一歩下がりそして
ゆたか「うわぁぁぁぁぁん」><
物凄い勢いで部屋を出て行った・・・
大粒の涙を流しながら。
かがみ「!?どうしたの?ゆたかちゃん」
ゆたかは偶然廊下を歩いていたかがみ達に会った。
ゆたか「うぐっ・・・・ひっぐ・・・うぅ・・・」
つかさ「ゆたかちゃん、泣いてちゃ分からないよ。お姉さん達に話してごらん」
ゆたか「・・・ひっぐ・・・初めて・・・」
みゆき「初めて?」
ゆたか「初めて小さな子から『お姉さん』って呼ばれたよぉ」
3人「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
ゆたか「うぐっ・・・・うれしいよぉ・・・」><
かがみ「ど、どういうこと?」
ゆたか「お姉ちゃんが……こなたお姉ちゃんが子供に……」
そこで、ゆたかに説明していないことに気が付いた。
あらかた事情を説明すると、ゆたかはようやく泣き止んだ。
ゆたか「催眠術だったんですか……びっくりしちゃいました……」
みゆき「すみません、先に伝えておけば……」
つかさ「……あれ?そういえば、こなちゃんは?」
ゆたか「さ、さっき部屋で泣いてました……」
かがみ「は!そうか!」
こなたがなぜ泣いているのか、その理由に気が付いたかがみは部屋の中に突入した。
ゆたかにも置いてきぼりを食らったのがとどめだったのだろう、部屋の真ん中でわんわん泣いている。
そしてかがみが帰ってきたことに気付くと、かがみに飛び付いた。
こなた「かがみねぇしゃぁぁあぁああん!!」
かがみ「こなた!ごめんね!」
お互いに相手の身体を抱きしめる。まるで母親と子供のようだった。
/
こなた「きゃっきゃっ♪」
ゆたか「りんらん、らんらもじぴったん♪」
つかさ「あはは、バルサミコ酢~♪」
つかさとゆたかとこなたが遊んでる横で、かがみとみゆきがなにやら話していた。
みゆき「おかしいです……催眠に掛かっている時間が長すぎます……」
かがみ「それってまさか、こなたが催眠術に掛かってるフリをしてるってこと?」
みゆき「いえ……。こう言ってはなんですが、泉さんがあの遊びで満足すると思います?」
二人はこなたの方を見た。
三人で飯事をしてるのだが……確かに、あれはこなたにとっては苦痛だろう。嘘をついてまでやるようなことじゃない。
みゆき「こなたさん」
こなた「あ、みゆきおねーしゃんもはいるー?」
『パァン!!』
みゆきはこなたの目の前で手を鳴らした。いわゆる猫騙しである。
つかさ「ちょ、ゆきちゃん!?」
みゆき「これで催眠が解けるはずですが……」
こなたはしばらく、ぼーぜんとしていた。が、次の瞬間、
こなた「うええぇぇぇぇえええん!!」
かがみ「へ?」
みゆき「……解けて……ない……!?」
「催眠のレベルが強すぎたのね」
どこからか声が聞こえた。穏やかで優しい声。それは、まるで全てを包み込んでしまうかのように神々しくて。
かがみ「ああっ!!」
みゆき「あなたは、まさか―」
そこに現れたのは、この世にいるはずのない人であった。
かなた「はじめまして、こなたの母です。娘がいつもお世話になっております」
かがみ「あ、は、はい…でもなんでかなたさんが…?」
かなた「かがみちゃん…だっけ?実はね、あの催眠術をかけたのは私なの」
かがみ・つかさ・みゆき・ゆたか「「「「な、なんだって――――!!!!!」」」」
つかさ「そ、それはどういうことなんだキバヤシ!?」
かなた「キバヤシじゃなくて泉かなたです。実はそこにいるみゆきちゃんが読んでた催眠術のがどうもうまくいかなくて困ってたようだから、こっそり手助けしてあげたんだけど…どうもやりすぎちゃったみたいで…」
かがみ「やりすぎた…って…」
かなた「ちょっと待っててね、今元に戻すから」
かなたはみゆきに、こなたを呼び寄せるように頼んだ。
みゆきがこなたを呼び寄せると、かなたはこなたの目の前で催眠術をかけた。
これでこなたは元に戻る筈…
こなた「…あれ?私何やってたの…?」
かがみ「こなた!元に戻ったのね!?」
ゆたか「お姉ちゃん…」
こなた「…それにしても暑いなぁ…はふぅ…」
と、こなたが呟いた時、みんなの視線がいっせいに凍りついた。
かがみ「なっ…仕草がセクシーになってる…」
つかさ「う、美しい…」
鼻血を出して興奮するつかさ。メモを取り始めるみゆき。そして興奮に耐え切れず倒れてしまったゆたか。
かがみ「……」
かなた「間違えました…orz」
かなた「……よし、今度こそ大丈夫。こなたが起きないうちに私は帰るわね」
そう言うと、かなたさんは光の中に消えていった。
こなた「……あれ?私、何を……」
かがみ「ふう、やっと戻ったみたいね」
こなた「あ、そっか。みゆきさんに催眠術を掛けられて……それで今まで……」
こなたが意識を取り戻した。記憶は残っていないが、今の状況をすぐに把握。
催眠術を掛けられた時には来ていなかったかがみとつかさも、自分が子供に戻っている時に来たのだろう。
つかさ「お帰り、こなちゃん」
ゆたか「お帰りなさい」
こなた「うん、ただいま」
なぜか目尻に溜まっていた涙を拭って二人に挨拶。
そしてこなたの中で、ある感情が沸き上がってきた。
こなた「……みゆきさん、私にも催眠術を教えて」
みゆき「え?はい、構いませんが……」
説明と言っても、内容は普通に糸で縛った五円玉を目の前で揺らすだけ。すぐに終了した。
みゆき「――…これで大丈夫です」
こなた「ありがと、みゆきさん。かがみー」
つかさとゆたかと一緒に4歳こなたの話で盛り上がっていたかがみを呼ぶ。
途中で会話を中断されたことが気に食わなかったのか、ちょっと不機嫌な顔で近付いてきた。
かがみ「何よ」
こなた「じゃん」
かがみ「!」
かがみと向かい合った瞬間、こなたは例の五円玉をかがみの前で揺らしはじめた。
こなた「あなたは4歳の自分に戻る……あなたは4歳の自分に戻る……」
呪文のように呟いていくと、立っていたかがみが床に吸い込まれるように倒れていった。
つかさ「こなちゃん!?」
こなた「私だけ見られるのも癪だから、かがみにも4歳の頃に戻ってもらうよ」
みゆき「そういうことですか……」
うまくいっていれば、目を覚ました時には4歳に戻っているはず。
しかし、こなたは知らないが、さっきみゆきがこなたに掛けた催眠術は失敗しているのだ。
これはもしかしたら、かがみの演技かもしれない。そう誰もが思っていたが。
かなた“うふふ……。今度はちゃんと30分で戻るようにしたから、大丈夫ね。催眠術も間違えてないし”
こなたとかがみ以外のみんなが、かなたさんの言葉を聞いた。
「ん~・・・あれえ?あたし・・・」
目をこすりながらゆっくり起き上がるかがみ。
「やあ、かがみん♪」
にこっと笑うこなたを見て、一瞬ビクンとして、辺りを見回す。
年上のお姉さんたちに囲まれているためかかなり警戒しているご様子。
「にゃ、にゃによっあんたたち!」
「あ、お姉ちゃん心配しないで私たち・・・はうっ!?」
かがみに触れようとしていたつかさの顔面におもいっきりパンチを食らわせた。
もちろん幼いために加減などしていない。
「いたたたた~っ・・な、何すんのぉ?」
「うおっ、この頃から凶暴とな!?」
「お、落ち着いてください、かがみさん」
「あたしを捕まえようとしてたのね!そーはいかないんだからっ」
みゆきの声を無視してかがみは部屋からパッと飛び出ていく。
「あっかがみ!」
「追いかけましょう!」
こなたとみゆきがかがみを追って部屋を飛び出す。
「かがみ、待ってってばー!私たち悪い人じゃないからっ怖くないよぉ~」
「やだああっついてこないでよぉっ」
タタタとかわいい仕草で階段を下りていく。
「あれ?かがみちゃん、どうしたんだい?」
下にはちょうどそうじろうがいた。
「おじしゃん、あたし、さっき悪い人に捕まってたの!たすけて!」
「え?」
そうじろうはいつものかがみと違う様子にポカーン。
「かがみー!あっ、お父さん、かがみ捕まえて!」
「つ、捕まえ・・!?何言ってるんだこなた・・・そんなこと・・・」
ポッと頬を赤らめるそうじろう。
「あーもう、役に立たないなあっ。ほら、かがみ、もう逃げられないよ、おとなしくこっちに・・・」
こなたとみゆきがリビングにかがみを追い詰めた。
後ろは壁。かがみからしてみれば「ぜったいぜつめい」だ。
かがみ「わっ、わかったわよ!でも、つかしゃだけには手をだしゃないで!」
こんなに(精神が)小さくても、妹の心配をする辺りちゃんとしたお姉さんなのだ。
涙ながらに訴えるかがみに、こなたはゆっくりと近付いていく。
こなた「やれやれ。まさか催眠術からこんなふうになっちゃうとはネ……。えいっ」
パチンと、かがみの目の前で猫騙し。するとかがみの目の色が変わった。
かがみ「……あら?何時の間にリビングに……」
みゆき「よかった、ちゃんと戻ったんですね」
かがみ「あ、そうだ。こなた、あんたねー、催眠術掛けるならちゃんと断りをいれなさいよねっ!」
こなた「おぉう!昔も今もやっぱり凶暴!?」
次の瞬間、かがみのげんこつがこなたの脳天に打ち下ろされた。
つかさとみゆき、ゆたかはただオロオロするばかり、そうじろうは事情が飲み込めずに立ち尽くしていた。
終わり